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の補助にもなるといえよう 翌年 Sistoらは CFS 患者に対して運動負荷をおこない その前後における活動量の変化を検討している その結果 運動負荷 1 ~ 4 日までは明らかな変化はないものの5 ~ 7 日まで活動量が減少することを示した 4) CFS 患者においては運動によって筋肉中のATPが健常人よりも急速に減少することが知られている 5) が 疲労病態から運動による急性期の影響だけではなく中 ~ 長期にわたる影響もあることが示されたという点でこの研究は興味深い 2000 年には van der WerfらによりCFS 患者では全体的に行動量が少ないことを再確認している 6) さらに CFS 患者の中でも活動量がピークを維持する時間が短く その後に続く休息状態の時間が長い群がみられることを報告しており そのような活動量の違いによって治療的な介入を検討すべきであると述べている 2002 年のOhashiらによる報告では トレッドミルによる運動負荷の前後でどのような活動量の変化が見られるかが示された 7) この報告では 自己相関係数から得られたサーカディアンリズムについて論じているが CFS 患者では運動負荷後のサーカディアンリズムが24 時間より延長しており生体リズムの異常を引き起こしていることが確認されている その結果から CFSの特徴的な症状である 軽度の負荷でも24 時間以上遷延する疲労感 と生体リズム異常の間に関係があるのかもしれないと結論づけている 2004 年 Tryonらも先行研究と同様 日中の活動量の低下と活動 休息リズムの規則性が低下していることを示した 8) 2005 年にはKopらにより 行動量の低下は先行する痛みや疲労感の増悪と関連があるが 行動量の低下に続く症状の変化とは関連がないことが示された 9) すなわち 主観的な疲労感が行動量の低下を惹起しているという一貫性が示されていると考えられる 覚醒時平均活動量の低下と居眠り回数増加については 2002 年 KorszunらがCFSの類縁疾患である線維筋痛症患者のうち うつを伴わない群と健常者とでは覚醒時の活動量に有意な差はないと報告したのに対して 10) 我々のデータでCFS 患者のうち抑うつなどの精神科的問題を伴わないサブグループであるCFS1 群のみと健常人の比較を行うと覚醒時平均活動量の低下と居眠り回数増加に関する有意差が見られたことを報告し た 2) この点はCFSの類縁疾患といわれる線維筋痛症患者において報告されていた結果と異なり 痛みを主とした疾患と疲労を主とした疾患の違いを示しているのかもしれない これらの研究にみられるような 活動量 睡眠時間 サーカディアンリズムの検討から 慢性疲労病態がどのような行動の変化をもたらすかが明らかにされてきた 近年 なぜそのような違いが出てくるのか その背景にあるダイナミクスの推定を活動量データそのものから行う試みも始まっている 2004 年 Ohashiらは健常人とCFS 患者の活動量変化におけるフラクタル性の比較をし 特に日中 CFS 患者の活動量が示すフラクタル性の低下があると報告してい る 11) 活動量のような時系列データにおけるフラクタル性とは ごく短い時間スケールでみても全体的に俯瞰しても同じような変化の特徴を示すことである これは さまざまなイベントに対して適切な行動を選択して対応しているという柔軟性の中にも 生体としてもつ決定論的な行動戦略が一貫していることを示している このような適応性の高さと背景の一貫性は 多種多様な環境の変化に対応しなければならない生体にとって必要不可欠なシステムであるが 病的慢性疲労状態によってその柔軟性が失われていることが行動という側面からも示されていることは大変重要な意味を持っていると考えている 我々もDetrended Fluctuation Analysis (DFA) による検討の結果 覚醒時間後 3 時間の活動量変化に注目すると健常人に比べて慢性疲労症候群患者はフラクタル性が低くなっていることを報告した 12) このようにCF 病態に伴う客観的指標としての有用性は示されているが 診断における感度 特異度等の検討はほとんどなされていなかった そこで 本研究では身体活動量から得られる指標を用いてCF 病態診断を行う場合の感度と特異度を検討することを目的とする B. 研究方法対象 : 本研究を分担する各医療機関でCFSと診断された患者 129 名と 年齢性別をマッチングさせた健常人 120 名を対象とした 健常人は医師の面談の結果 生活リズムが整っており 現在病的疲労感がなく日常生活に支障がない上に 疲 15

図 1. アクティグラフ 労に関わる疾患の既往歴および現病歴がないことを確認し 特にCFS 診断基準におけるパフォーマンスステータスが0ないし1のものに限定した 倫理面への配慮 : 対象者から本研究を分担する各医療機関の倫理委員会で承認された研究計画に基づき インフォームドコンセントを得た 方法 : 身体活動量は腕時計型加速度計 MicroMini ( 米国 AMI 社 図 1) を非利き手に72 時間装着した 2 3Hzの加速度変化を閾値 0.01Gで検知し 0をまたぐ回数を数え (Zero crossing method) 毎分の加速度変化回数を記録した 睡眠判定には Cole 式を用いた Coleらの判定式は睡眠ポリグラフと比較して90% 前後の精度があり 非侵襲的な簡易検査としては十分な精度と実績がある 解析 : 解析ソフトウェアAW2( 米国 AMI 社 ) を用いて 覚醒時平均活動量 (DA) 居眠り回数 (Naps) 睡眠時間 (TST) 睡眠時平均活動量 (NA) 中途覚醒 (Aw) 入眠潜時 (SL) 睡眠効率 (SE) の七つの指標を得た これら指標から 三つの異なる線形 / 非線形の判別分析を行い それぞれのCF 病態診断に関する感度 特異度を求めた 線形の方法論としては線形判別分析 非線形の方法論としてはサポートベクターマシン (SVM) とRandom Forest(RF) を用いた C. 研究結果結果 : 図 2に七つの指標のデータ分布を箱ひげ図で示す 図 2. 覚醒時平均活動量 (DA) 居眠り回数 (Naps) 睡眠時間 (TST) 睡眠時平均活動量 (NA) 中途覚醒 (Aw) 入眠潜時 (SL) 睡眠効率 (SE) のデータ分布 ( 箱ひげ図 ) 次に 七つの指標の線形結合が健常人か患者かを判別すると仮定し 線形判別分析を行った 変数の選択はブートストラップ法により変数を選択し TSTとDA NAのみが採用された 以下に判別式を示す 16

Diag = 0.00449 TST + 0.0191 DA 0.0605 NA 0.885 (Diag 0;healthy controls, Diag<0;patients with CFS) 縦軸にDA 横軸にTSTをとりデータ分布を示したものが図 3である 図 4. ツリー数による予測エラーの推移 ( 赤線が健常者の判定エラー 緑線がCFS 患者の判定エラー 黒線がOOB) 図 3. 線形判別分析に基づくデータ分布 ( 青丸が 健常人 赤丸がCFS 患者 ) この判別式による判別結果を集計したものが 表 1である 表 1. 線形判別分析 臨床診断 結果 モデル 健常者 80 46 判定 CFS 患者 40 83 表 1より 線形判別分析から得られる感度は 66.7% 特異度は64.3% である SVMによる判別結果を集計したものが表 2であ る 全てのデータを教師データとして用い 得 られたモデルを原データに適応して得られたも のを示している 表 2.SVM 分析結果 臨床診断 モデル 健常者 98 41 判定 CFS 患者 22 88 表 2より SVMから得られる感度は81.6% 特 異度は68.2% である 交差検定による予測精度 64.6% であった RFによる判別結果を集計したものが表 3であ る ツリー数を20,000として検討を行った場合の 予測精度の推移を図 4に示す 表 3.RF 分析結果 臨床診断 モデル 健常者 87 40 判定 CFS 患者 33 89 表 3より RFから得られる感度は72.3% 特異 度は69.0% である 予測精度は70.7% であった モデルに対する因子の寄与度を示す2 指標を表 4に それらをプロットしたものを図 5に示す 表 4. 平均予測精度減少平均 Gini 指標減少 TST 9.44 24.28 DA 9.34 24.33 Naps 5.91 16.19 Aw 4.92 15.51 SE 3.20 13.97 NA 3.13 14.57 SL 2.72 14.88 いずれの指標も大きいほどモデルに対する寄 与が大きいことを示す この結果から 7つの指 標のうちTST DAのモデルへの寄与が大きいこ とが示された 図 5. 因子毎の平均予測精度 平均 Gini 指標減少 D. 考察 線形 非線形の三手法を用いて身体活動量か 17

らみたCF 病態診断の感度と特異度を検討したが いずれも60 80% であった 線形判別分析とRFの結果から 判別に大きく寄与する因子は DA TSTであることが示された 三つの判別手法のうち注目したいものはRFである RFは弁別器としては優れた特性を持つと言われているが 今回の結果も非常にリーズナブルであった 感度 > 特異度であったが 健常者には健康状態こそ良好ではあっても睡眠状態が不良な者もおり データだけではCFS 患者と区別がつかないことがあるので 今回の結果はそういった特性も抽出しているものと考えられ 良好なモデルであると考えられた 今後はSVMのカーネル関数の最適化を検討すること ベイズ推定に基づく判別法などさらに精度が高く安定的な判別モデルの開発を行う必要がある E. 結論まとめ : 身体活動量からのCF 病態診断感度 特異度は60 80% であると推定される F. 研究発表 1. 論文発表 ( 巻末にまとめて記載 ) 2. 学会発表 疲労病態における睡眠リズム解析 : 田島世貴第 6 回日本疲労学会総会 学術集会 大阪市 2010 年 6 月引用文献 1) 倉恒弘彦 : 慢性疲労症候群 (CFS) の全体像の解明 文部科学省科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究 疲労及び疲労感の分子神経メカニズムとその防御に関する研究 報告書. 2) 田島世貴 他 : 特集慢性疲労症候群アクティグラフ アクティブトレーサーを用いた方法 日本臨牀第 65 巻第 6 号 :1057-1064 2007. 3) Vercoulen JH, et al.: Physical activity in chronic fatigue syndrome: assessment and its role in fatigue. J Psychiatric Res 31(6): 661-673, 1997. 4) Sisto SA, et al.: Physical activity before and after exercise in women with chronic fatigue syndrome. QJM 91(7): 465-473, 1998. 5) Wong R, et al.: Skeletal muscle metabolism in the chronic fatigue syndrome. In vivo assessment by 31P nuclear magnetic resonance spectroscopy. Chest 102(6): 1716-1722, 1992. 6) van der Werf SP, et al.: Identifying physical activity patterns in chronic fatigue syndrome using actigraphic assessment. J Psychosom Res 49(5): 373-379, 2000. 7) Ohashi K, Yamamoto Y, Natelson BH.: Activity rhythm degrades after strenuous exercise in chronic fatigue syndrome. Physiol Behav 77(1): 39-44, 2002. 8) Tryon WW, et al.: Chronic fatigue syndrome impairs circadian rhythm of activity level. Physiol Behav 82(5): 849-859, 2004. 9) Kop WJ, et al.: Ambulatory monitoring of physical activity and symptoms in fibromyalgia and chronic fatigue syndrome. Arthritis Rheum 52(1): 296-303, 2005. 10)Korszun A, et al.: Use of actigraphy for monitoring sleep and activity levels in patient with fibromyalgia and depression. J Psychosom Res 52(6): 439-443, 2002. 11)Ohashi K, et al.: Decreased fractal correlation in diurnal physical activity in chronic fatigue syndrome. Methods of information in medicine 43(1): 26-29, 2004. 12) 田島世貴 : 疲労の生理学的計測行動量評価 医学のあゆみ第 228 巻 6 号 :640-645 2009. 18