症例報告 217;24:47-11. 小児心臓手術後の呼吸器離脱中に肺血管抵抗を下げる工夫 : high flow nasal cannula-nitric oxide 併用療法 小渡亮介鈴木保之大徳和之福田幾夫 要約 : 小児心臓手術後の呼吸管理において, 一酸化窒素 () や high flow nasal cannula () を用いた管理の有用性が報告されている は肺高血圧や Fontan 循環管理に, は抜管後の呼吸補助に有用とされる 一般的に は気管挿管下に使用されるため, 使用のために挿管管理を継続するか否か, 判断に難渋することがある 今回, と を併用することで, 抜管時期と関係なく を継続し, 術後の肺高血圧残存症例や, Fontan 型手術後症例で循環動態を安定化し, 安全な呼吸管理が可能となると考え,3 例に対して - 併用療法を行った 術前等圧の肺高血圧状態である総肺静脈還流異常症 2 例と, 漏斗胸合併手術を施行した Fontan 型手術後症例 1 例で - 併用療法を行い, 臨床経過およびカテーテル検査や超音波検査による右心経機能評価で良好な結果を得た 症例の蓄積は必要だが,- 療法は抜管後の呼吸管理に有用であると考えられた Key words: 1 high flow nasal cannula, 2 nitric oxide, 3 congenital heart disease はじめに小児心臓手術後の肺高血圧管理や, 良好なFontan 循環を得る手段として, 一酸化窒素 () の有用性が報告されている は通常気管挿管下で使用され, 抜管後中止となる 特にFontan 循環では早期人工呼吸管理離脱が循環安定に有効とされるため, 中止の判断に苦慮することがある 抜管後の補助手段としてhigh flow nasal cannula () の有用性が報告されている 療法と を併用し, 抜管後も 投与を継続することで, 術後の肺高血圧残存症例や,Fontan 型手術後症例で循環動態を安定化し, 安全な呼吸管理が可能となると考え, 今回 3 例で使用したので報告する 方法 投与装置のアイノベント ( イカリア ジャパン ) を,Optiflow (Fisher & Paykel Healthcare) に組み込み,- 併用療法を行った 加温加湿器の手前でが酸素と合流するように接続し, サンプリン グチューブはOptiflow 用のカニューレ手前に接続した (Fig. 1) 抜管時の呼吸器設定はのFIO2が.6, 流量は8 l/minで開始し, 必要時に増量する予定にした は抜管前に5 ppmまでweaningし, 抜管直後は安全域をとり1 ppmに増量した 血圧低下や徐脈, 経皮的酸素飽和度の低下がないことを確認して 1 日 2 回程度,のweaningを行い,FIO2 や流量の weaningは 終了後に行った 症例 症例 1 8か月, 男児 診断は総肺静脈還流異常症 Ⅱ 型で, 哺乳不良で当院を受診した 酸素飽和度は 6% 台で,CT で肺うっ血のため全肺野に浸潤影を認め, 心エコー上の推定右室圧は7 mmhg 程度で, 左室と等圧だった 来院 5 日目で総肺静脈還流異常修復術を行ったが, 心拡大が強く, 循環状態不安定のため, 胸骨開放状態で帰室した 使用下で, 大動脈圧 11/65 mmhg, 肺動脈圧 39/25(mean 31)mmHgと肺高血圧が残存し, 術当日は血圧低下, 徐脈などが見られ循環動態は不安定だった 肺高血圧ショック 弘前大学医学部胸部心臓血管外科 受付日 216 年 4 月 11 日 ( 36-8562 青森県弘前市在府町 5) 採択日 216 年 11 月 18 日 -47-
日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 24 No. 4 Sampling tube of Sampling tube of Joint of - Fig. 1 High flow nasal cannula-nitric oxide combination device, high flow nasal cannula;, nitric oxide. (pulmonary hypertensive crisis, PH crisis) 予防と, 右心負荷軽減のためにを継続し, シルデナフィル 3 mgの内服を開始した 循環状態の改善を認め, 術後 3 日目に閉胸を行い, 術後 5 日目に抜管した その後 - 療法を行い, 術後 6 日目でを終了し ICUを退室した 術後 2 日目の心臓カテーテル検査で, 肺動脈圧は 33/11(mean 18)mmHg と改善を認め, 術後 3 日で退院した 症例 2 6か月, 男児 診断は総肺静脈還流異常症 Ⅰ 型で, 日齢 22に総肺静脈還流異常修復を行ったが, 術後吻合部狭窄が進行した 術後 3か月の心臓カテーテル検査で大動脈圧 83/51 mmhg, 肺動脈圧 78/33 (mean 48)mmHgと肺高血圧を認めたため, 吻合部狭窄解除術を施行した 胸骨開放で手術を終了し, 術中測定値は, 1 ppm 使用下で大動脈圧 12/63 mmhg, 肺動脈圧は 73/6(mean 39)mmHg だった 術後 3 日目に閉胸し, シルデナフィル 2 mg の内服を開始した 術後 4 日目に抜管し, その後 + 療法を行い, 術後 5 日目にを終了してICUを退室した 術後 21 日目の心臓カテーテル検査で, 肺動脈圧 4/15(mean 23)mmHg と改善を認め, 術後 3 日で退院した 症例 3 5 歳, 男児 診断は単心室症で,Fontan 型手術待機症例だったが, 高度漏斗胸によるFontan pathwayの圧迫が危惧されていた 術前 CVPは1 mmhgで, その他の条件も良好だった 漏斗胸を整復してFontan pathwayを大きく確保することで, 良好なFontan 循環を長期に維持できると考えられた ただし, 漏斗胸手術を先行すると金属バーの抜去まで数年間かかるだけでなく,Fontan 型手術後の漏斗胸再発のリスクが残る 逆に心臓手術を先行すると, 術後のFontan pathwayの圧迫の懸念があることと, 次回手術にさらに癒着が強くなり, 臓器損傷のリスクが高くなると考えられた そのため,Fontan 型手術 ( 心外導管 16 mm) と漏斗胸手術 (Nuss 法 ) を同時施行した 当日抜管したが, 胸腔内に留置した金属バーにより胸郭運動が制限され, 疼痛も非常に強く, 有効な陰圧換気が得られなかった 抜管前にを使用し,CVP が 2 16 mmhgと低下したため, 肺血管抵抗を低下させる目的で, 抜管後 + 管理を行った 環境汚染を抑えるため, の開始時の流量は通常推奨量より低く開始したが, 今回は増量を要さなかった 術後 2 日目で疼痛コントロールが可能となり, を終了して術後 3 日目にICUを退室し, 術後 11 日で退院した 3 例とも抜管後のPH crisisや再挿管はなく, 抜管前後での動脈血ガスデータで,P/F 比は減少傾向だったが, 臨床的な悪化は見られず,PaCO 2, 乳酸値,CVP, MAPの悪化も見られなかった 症例 1,3 の臨床経過をFig. 2, 3に示す 患者の吸入 2 濃度は.2-48-
小児心臓術後の抜管後一酸化窒素吸入療法 (mmhg) 45 (mmhg, mmol/l) 1 P/F, PaCO 2, MAP 4 35 3 25 2 15 1 5 PaCO 2 P/F MAP CVP Lactate 9 8 7 6 5 4 3 2 1 CVP, Lactate POD POD 3 POD 5 POD 6 Sternal closure Extubation - (ppm) Ventilator 2 15 7 1 5 1 5 3 2 1 Fig. 2 Clinical course of case 1, high flow nasal cannula;, nitric oxide. (mmhg) 35 P/F, PaCO 2, MAP 3 25 2 15 1 5 PaCO 2 P/F MAP CVP Lactate (mmhg, mmol/l) 2 18 16 14 12 1 8 6 4 2 CVP, Lactate POD POD 1 POD 2 POD 3 Extubation - Ventilator (ppm) 5 1 5 2 1.5 Fig. 3 Clinical course of case 3, high flow nasal cannula;, nitric oxide. ppmだった 周囲の有毒ガス曝露の可能性を考え, 濃度をガスアラートエクストリーム( ジコー ) で患児の口元で測定したところ, 全例 ppmであり, 2 濃度は 濃度以下と考えられ, 環境汚染は見られなかった 考察小児心臓術後の呼吸管理では, 早期人工呼吸管理離脱による合併症回避が有効との報告 1) があり, これを補助するためnasal continuous positive airway pressure(ncpap) や 2),3) が用いられ, 良好な成 -49-
日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 24 No. 4 績が報告されている ncpap に比べカニューレのセッティングや施行中の管理が簡便で, 呼吸補助効果が同等であることから の普及が広まりつつある 一方, 小児心臓手術後における 療法は選択的に肺動脈圧を低下させPH crisisの予防効果があるという報告や 4),5),Fontan 型手術後症例の肺血管抵抗と酸素化改善効果が報告されている 6),7) ただし, 療法は通常人工呼吸管理下に行われ, 抜管後は 療法を中止しなくてはならず, 症例によっては抜管を遅らせることが必要となる 自験例のように と 療法を組み合わせると, 抜管後も 療法の継続が可能となる は高流量酸素投与が定常流で行えるため, との併用がしやすいシステムである 経口肺高血圧治療薬が必要な症例では, 薬剤血中濃度が安定してから抜管する必要があったが,- 併用療法では薬剤血中濃度の安定を待たずに抜管することが可能となる アイノベントを用いることで, 吸入酸素,, 2 濃度が実測でき, 安定した 投与が可能だった また, 周囲への2 曝露も認めず, 安全な管理が行えた 当院の ICU は 1 床で を使用するオープンスペースは 58 m 3 であるため 1 時間に 3 回の換気がされる 流量は8 l/min, 患者の吸入最大 2 濃度は.2 ppm であり,ICU 内の平均 2 濃度は計算上.24 ppmと, 環境省で定める安全基準の.4.6 ppmを大きく下回る より高流量の酸素や, 高濃度 が必要な場合に加え, 換気効率の悪い個室や一般病棟での使用の場合は, 今回のように実測での環境汚染チェックが重要と考える 今回の - 併用療法を行った 3 例は術後肺高血圧残存のハイリスク症例と Fontan 型手術後症例で, いずれにおいても安全に施行できた また, その評価としてカテーテル検査や超音波検査での右心系機能評価は有用だった 症例 1,2 は抜管前後のPH crisis 予防のために - 併用療法を行った 術前後での肺動脈圧低下を確認し, 療法開始後のデータ改善を認めたが,2 例とも肺高血圧が残存し, 経口肺血管拡張薬の継続が必要だった 症例 3は肺血管抵抗を低下させ, より良いFontan 循環を得るため- 療法を行った 術後にを使用し,CVP 低下, 循環状態改善を認めたため, 早期抜管をするが, は継続する必要があると判断した 投与継続のために, 挿管期間やICU 在室期間を延長している症例は存在すると考えられる そのような症例に対し,- 併用療法は, 小児心臓術後の呼吸器ウィーニング法として有用と考えられる 今後, 症例数を重ね有用性を検討し, 右心系機能などの治療前後での評価を詳細に行い, どのような症例でより治療効果が得られるか検討が必要である 結 PH crisisのハイリスク症例,fontan 型手術後症例において- 併用療法を行い, 早期抜管管理を安全に行えた 呼吸器離脱中に肺血管抵抗を下げることが可能な- 併用療法は, 安全な小児心臓術後呼吸管理を行うために有用な治療法と考えられた 本論文の要旨は第 43 回日本集中治療医学会学術集会 (216 年, 神戸 ) において発表した 語 本稿の全ての著者には規定された COI はない 文献 1) Harris KC, Holowachuk S, Pitfield S, et al. Should early extubation be the goal for children after congenital cardiac surgery?. J Thorac Cardiovasc Surg 214;148: 2642-8. 2) Metge P, Grimaldi C, Hassid S, et al. Comparison of a high-flow humidified nasal cannula to nasal continuous positive airway pressure in children with acute bronchiolitis: experience in a pediatric intensive care unit. Eur J Pediatr 214;173:953-8. 3) Testa G, Iodice F, Ricci Z, et al. Comparative evaluation of high-flow nasal cannula and conventional oxygen therapy in paediatric cardiac surgical patients: a randomized controlled trial. Interact Cardiovasc Thorac Surg 214;19:456-61. 4) Curran RD, Mavroudis C, Backer CL, et al. Inhaled nitric oxide for children with congenital heart disease and pulmonary hypertension. Ann Thorac Surg 1995;6: 1765-71. 5) Miller OI, Tang SF, Keech A, et al. Inhaled nitric oxide and prevention of pulmonary hypertension after congenital heart surgery: a randomised double-blind study. Lancet 2;356:1464-9. 6) Mendoza A, Albert L, Belda S, et al. Pulmonary vasodilator therapy and early postoperative outcome after modified Fontan operation. Cardiol Young 215;25: 1136-4. 7) Yoshimura N, Yamaguchi M, Oka S, et al. Inhaled nitric oxide therapy after Fontan-type operations. Surg Today 25;35:31-5. -41-
小児心臓術後の抜管後一酸化窒素吸入療法 Abstract A novel method during ventilator weaning; decreasing pulmonary vascular resistance of the children performed cardiac surgery: high flow nasal cannula-nitric oxide combination therapy Ryosuke Kowatari, Yasuyuki Suzuki, Kazuyuki Daitoku, Ikuo Fukuda Department of Thoracic and Cardiovascular Surgery, Hirosaki University 5 Zaifu-cho, Hirosaki, Aomori 36-8562, Japan Inhaled nitric oxide (I) and the high flow nasal cannula () are useful for post-operative management after pediatric cardiac surgery. I therapy is effective in patients with pulmonary hypertension and after the Fontan procedure. therapy is effective as pulmonary support after extubation. I is generally used in patients on ventilators. Hence, it is sometimes difficult to decide whether or not ventilator management should be continued solely for I therapy. Combining and I therapy allows continuation of administration. We successfully treated 3 patients (2 total anomalous pulmonary venous return patients, and 1 post-fontan procedure patient) with - therapy. - therapy can stabilize circulation, improve respiratory function, and is effective in patients with severe residual pulmonary hypertension and after the Fontan procedure. Key words: 1 high flow nasal cannula, 2 nitric oxide, 3 congenital heart disease J Jpn Soc Intensive Care Med 217;24:47-11. -411-