ピングの溶接ビードが形成されやすく, 良好な溶接部を得る条件が狭くなることがわかってきている. 高輝度 高出力ファイバーレーザの特性を活かせる長焦点深度の加工光学系については, 溶接部の溶込み深さの増加, 溶接欠陥の低減による高品質化など, 大幅な溶接特性の改善が期待できるが, その効果に関する研究

Similar documents
「世界初、高出力半導体レーザーを8分の1の狭スペクトル幅で発振に成功」

DUVレーザによる微細加工技術開発,三菱重工技報 Vol.53 No.4(2016)

1.1 テーラードブランクによる性能と歩留りの改善 最適な位置に最適な部材を配置 図 に示すブランク形状の設計において 製品の各 4 面への要求仕様が異なる場合でも 最大公約数的な考えで 1 つの材料からの加工を想定するのが一般的です その結果 ブランク形状の各 4 面の中には板厚や材質

<4D F736F F D2089E482AA8ED082CC905690BB B5A8F705F4B4F494B45>

経済産業省 次世代型産業用 3D プリンタ技術開発 ( 平成 26 年度 ~ 平成 30 年度 ) プロジェクトにおける平成 28 年度までの研究成果概要 この内容は 技術研究組合次世代 3D 積層造形技術総合開発機構 ひらめきを形に! 設計が変わる新しいモノづくり シンポジウム講演集からの抜粋です

<834A835E838D834F2E786C7378>

解 説 レーザ溶接技術の最近の発展 片山聖二 1 Recent Progress in Laser Welding Technology Seiji KATAYAMA 1 1 Joining and Welding Research Institute (JWRI), Osaka Universit

レーザ計測器を裏で支える熱センサー技術 (F.Ferretti, D.Scorticati - LaserPoint srl 株式会社アストロン大竹祐吉 ) 1. はじめにレーザパワー計測器は レーザ光を熱に変換するアブソーバー ( 吸収体 ) 熱を電気信号に変換するトランスデューサー ( 変換器

Mirror Grand Laser Prism Half Wave Plate Femtosecond Laser 150 fs, λ=775 nm Mirror Mechanical Shutter Apperture Focusing Lens Substances Linear Stage

Microsystem Integration & Packaging Laboratory

untitled

Pick-up プロダクツ プリズム分光方式ラインセンサカメラ用専用レンズとその応用 株式会社ブルービジョン 当社は プリズムを使用した 3CMOS/3CCD/4CMOS/4CCD ラインセンサカメラ用に最適設計した FA 用レンズを設計 製造する専門メーカである 当社のレンズシリーズはプリズムにて

Application Note 光束の評価方法に関して Light Emitting Diode 目次 1. 概要 2. 評価方法 3. 注意事項 4. まとめ This document contains tentative information; the contents may chang

2008 年度下期未踏 IT 人材発掘 育成事業採択案件評価書 1. 担当 PM 田中二郎 PM ( 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授 ) 2. 採択者氏名チーフクリエータ : 矢口裕明 ( 東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻博士課程三年次学生 ) コクリエータ : なし 3.

H1-H4_cs5.indd

<4D F736F F D DC58F498D A C A838A815B83585F C8B8FBB8C758CF591CC2E646F6378>

Microsoft PowerPoint 表紙laser

3. 試験体および実験条件 試験体は丸孔千鳥配置 (6 配置 ) のステンレス製パンチングメタルであり, 寸法は 70mm 70mm である 実験条件は, 孔径および板厚をパラメータとし ( 開口率は一定 ), および実験風速を変化させて計測する ( 表 -1, 図 -4, 図 -) パンチングメタ

<4D F736F F D2082ED82AA8ED082CC905690BB B5A8F7082CC8FD089EE814093FA8E5F D A8260>

(Microsoft Word - \221\346\202R\225\322\221\346\202Q\217\315.docx)

粒子画像流速測定法を用いた室内流速測定法に関する研究

王子計測機器株式会社 LCD における PET フィルムの虹ムラに関する実験結果 はじめに最近 PETフィルムはLCD 関連の部材として バックライトユニットの構成部材 保護シート タッチセンサーの基材等に数多く使用されています 特に 液晶セルの外側にPET フィルムが設けられる状態

問題 2-1 ボルト締結体の設計 (1-1) 摩擦係数の推定図 1-1 に示すボルト締結体にて, 六角穴付きボルト (M12) の締付けトルクとボルト軸力を測定した ボルトを含め材質はすべて SUS304 かそれをベースとしたオーステナイト系ステンレス鋼である 測定時, ナットと下締結体は固着させた

実験題吊  「加速度センサーを作ってみよう《

Microsoft PowerPoint - hetero_koen_abe.ppt

Microsoft Word - AnnualReport_M1sawada rev.docx

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

<4D F736F F D204A534D4582B182EA82DC82C582CC92B28DB88FF38BB54E524195F18D E90DA8B4B8A69816A5F F E646F63>

Microsoft PowerPoint - Š’Š¬“H−w†i…„…C…m…‰…Y’fl†j.ppt

フロントエンド IC 付光センサ S CR S CR 各種光量の検出に適した小型 APD Si APD とプリアンプを一体化した小型光デバイスです 外乱光の影響を低減するための DC フィードバック回路を内蔵していま す また 優れたノイズ特性 周波数特性を実現しています

品 名 ホロコーンパターンノズル ホロコーンノズル 単孔式 KSC 多孔式 KSC ー, ホロコーンアトマイジングノズル QC ノズル 単孔式 多孔式 型 KSN 式 KSWC ー QC ー T, KSWC ー QC KSFC ー, KSWC ー QC ー EE C. C.5 C.7 ホロコーンパタ

4.0 はじめに ビーム溶接の特長を説明する - レーザビーム溶接 (LBW) - 電子ビーム溶接 (EBW) 自動車用アルミ材料の溶接事例も合わせて説明する これらの加工技術は両方とも 溶接の他にアルミニウム材料の切断と表面処理の目的にも使用される 電子ビーム溶接は深くて狭い溶込みを高速で作ること

<4D F736F F D2089FC92E82D D4B CF591AA92E882C CA82C982C282A282C42E727466>

LEDの光度調整について

空間光変調器を用いた擬似振幅変調ホログラムによる光の空間モード変換 1. 研究目的 宮本研究室北谷拓磨 本研究は 中心に近づく程回折効率が小さくなるホログラムを作製し 空間光変調器 (spatial light modulator SLM) を用いて 1 次のラゲールガウスビーム (LG ビーム )

<8D8291AC B837B B835E82CC8A4A94AD>

粒子画像流速測定法を用いた室内流速測定法に関する研究

(Microsoft Word - \224M\203R\203\223\203\214\203|\201[\203g\212\256\220\254.doc)

indd

Yb 添加セラミックレーザー発振器の開発 Development of an Yb-doped sesquioxide ceramic oscillator 石川智啓 (M1) Tomohiro Ishikawa Abstract Yb-doped sesquioxide ceramics are

Light Sources レーザ保護メガネガイド Laser Protect Goggles Guide レーザ保護メガネの使用 アプリケーションシステム 光学素子 厚生労働省通達 レーザ光線による障害の防止対策について では 400~700nm の波長以外のレーザ光線を放出するクラス 3R の

フルコーンパターンノズル 品 名 型 式 フルコーンノズル.1 セパレート式 KSF, KSFG 一体式 KSFS, KSFHS, KSFH, KSFI フランジ式 KSF F 楕円吹ノズル.6 フルコーンパターンノズル セパレート式 一体式 角吹ノズル KSE, KSE S, KSE H KSE


<834A835E838D834F2E786C7378>

Microsoft Word - 木材の塩素濃度報告110510_2.docx

FANUC i Series CNC/SERVO

Presentation Title Arial 28pt Bold Agilent Blue

Japanese nuclear policy and its effect on EAGLE project

ここまで進化した! 外観検査システムの今 表 2 2 焦点ラインスキャンカメラ製品仕様 項目 仕 様 ラインセンサ 4K ラインセンサ 2 光学系 ビームスプリッター (F2.8) ピクセルサイズ 7μm 7μm, 4096 pixels 波長帯域 400nm ~ 900nm 感度 可視光 : 量子

偏光板 波長板 円偏光板総合カタログ 偏光板 シリーズ 波長板 シリーズ 自社製高機能フィルムをガラスで挟み接着した光学フィルター

Microsoft Word  AS25-1改正案.doc


1-16

‰à„^›œŁt.ai

<4D F736F F D C82532D E8B5A95F18CB48D655F5F8E878A4F90FC C2E646F63>

<4D F736F F F696E74202D2091E63489F15F436F6D C982E682E992B48D8291AC92B489B F090CD2888F38DFC E B8CDD8

ACモーター入門編 サンプルテキスト

画像類似度測定の初歩的な手法の検証

レーザ・アークハイブリッド溶接の一般商船への適用

ファイバーレーザの構成を模式的に示すと以下の様になります Splice to multi-mode diode pumps (M 2 >20) Active Gain Fiber Laser output (M 2 =1) 4 5 n Tapered fiber bundle (n:1

Micro Fans & Blowers Innovation in Motion マイクロファン & ブロワー 有限会社シーエス技研 PTB 事業部東京オフィス 千葉県市原市辰巳台西

温水洗浄便座性能試験項目および試験方法

Microsoft Word - 01.doc

Microsoft PowerPoint - 口頭発表_折り畳み自転車

ベースライトのスタンダード 色を自然に引き立てる Ra95 スタンダードタイプも光束維持率を向上 HIDタイプは約 6 万時間のロングライフ 1

パイプの溶接(その2)

A: 中心光度の 98% の光度となるレンズ 部分 B: 直接光が図面上入射するレンズ部分 照明部の大きさとは 別に定めるもののほか 自動車の前方又は後方に向けて照射又は表示する灯火器又は指示装置にあっては車両中心面に直角な鉛直面への投影面積とし 自動車の側方に向けて照射又は表示する灯火又は指示装置

Microsoft PowerPoint 発表資料(PC) ppt [互換モード]

<4D F736F F F696E74202D20824F DA AE89E682CC89E696CA8DED8F9C816A2E >

特長 01 裏面入射型 S12362/S12363 シリーズは 裏面入射型構造を採用したフォトダイオードアレイです 構造上デリケートなボンディングワイヤを使用せず フォトダイオードアレイの出力端子と基板電極をバンプボンディングによって直接接続しています これによって 基板の配線は基板内部に納められて

Nov 11

Microsoft Word - NJJ-105の平均波処理について_改_OK.doc

Microsoft Word -

レーザ走査方向を 30 度方向 積層ピッチを 0.1mm とした ガラスビーズを複合したナイロン 11 材料の造形条件を探索するため 造形条件のうち レーザ出力 輪郭描画出力 オフセット Fill オフセット Out 走査幅 ベースを表 1 に示す条件に設定し L18 直行表に割り付けて造形を行った

PowerPoint プレゼンテーション

京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

第 2 章 構造解析 8

Microsoft Word - プレリリース参考資料_ver8青柳(最終版)

SureSense HSE18L-N1G5BA, オンラインデータシート

03マイクロ波による光速の測定

α α α α α α

【NanotechJapan Bulletin】10-9 INNOVATIONの最先端<第4回>

平成20年度実績報告

人間の視野と同等の広視野画像を取得・提示する簡易な装置

Vol. 21, No. 3 (2014) 191 CW Hablanian plot 1,2 Hablanian plot Vd/K, P/θtk V m/s d m K m 2 /s P W θ K t m k W/mK Hablanian plot Vd/K V K/d P/θtk P θtk

フォト IC ダイオード S SB S CT 視感度に近い分光感度特性 視感度特性に近い分光感度特性をもったフォトICダイオードです チップ上には2つの受光部があり 1つは信号検出用受光部 もう1つは近赤外域にのみ感度をもつ補正用受光部になっています 電流アンプ回路中で2

1 Visible spectroscopy for student Spectrometer and optical spectrum phys/ishikawa/class/index.html

untitled

一般揚水用立形多段うず巻インラインポンプ設備編 陸上ポンプ一般社団法人公共建築協会殿の 立形遠心ポンプ 評価品です TCR 型ポンプ 要部標準仕様 特殊仕様 ポンプ ラン 立 上記以外の特殊仕様につきましては最寄りの営業店迄お問い合わせください 特別付属品 JIS20K 相フランジ ( ボルト パッ

光カプラー [ 受注生産品 ] ラックマウント型 光波長 1310nm 光波長 1550nm HCOP-128DB は 128 光分岐出力の他に光出力端子 (1 ヶ ) を搭載しておりますので HCOP-128DA と組 み合わせることで 256 分岐することが可能です 128 分岐カプラー 32

Microsoft PowerPoint - 21.齋修正.pptx

Microsoft PowerPoint - 14.菅谷修正.pptx

光変調型フォト IC S , S6809, S6846, S6986, S7136/-10, S10053 外乱光下でも誤動作の少ない検出が可能なフォト IC 外乱光下の光同期検出用に開発されたフォトICです フォトICチップ内にフォトダイオード プリアンプ コンパレータ 発振回路 LE

マイクロメータヘッド サイズ比率で見るマイクロメータヘッド一覧 1マス 10mmをイメージ 測定範囲 0 5.0mm 測定範囲 0 13mm 測定範囲 0 15mm MICROMETER HEAD P215 MH-130KD P P

1 サイズ選定 2 板厚選定 50~00mm 3 4 隅取付穴指定 コーナー R 指定 納 期 50~00mm 50~00 00~ 記号 金額 5 記号 板厚 N 記号 サイズ 金額


表 4 LP 施工条件の一覧 番号 Ep [mj] D [mm] Np [1 / mm 2 ] G [GW / cm 2 ] Cv [%] LP LP LP LP LP LP 図

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

Transcription:

高輝度 高出力ファイバーレーザ溶接における長焦点深度加工光学系の開発とその溶込み特性への影響評価 大阪大学接合科学研究所 教授片山聖二 ( 平成 20 年度一般研究開発助成 AF-2008218) キーワード : 高輝度, ファイバーレーザ, レーザ溶接, 溶込み深さ, 集光光学系 1. 研究の目標と背景従来のレーザ溶接に使用される主なレーザ熱源としては, 炭酸ガスレーザおよび YAG (Yttrium Aluminum Garnet) レーザが挙げられる. 炭酸ガスレーザは, 波長が 9.4 μm または 10.6 μm で, ビーム品質 BPP( Beam Parameter Product) が 3 mm*mrad から 15 mm*mrad と優れている. 波長 9.4μm の場合, 低パワーのパルス照射で,100 μm 程度のスポット径に集光でき, 穴あけに利用されている. 一方, 波長 10.6 μm の場合, 高パワーの連続照射では約 0.6 mm 径程度に集光され, 高パワー密度が実現できる. また, 大出力化も進み,45 kw の大出力レーザ発振器が製造された. しかしながら, 波長が 10 μm 帯であるため, ファイバー材料である石英では吸収が存在し, ファイバー伝送できない. そのため, 装置のサイズやレーザ光の取り回しなど, 生産現場での自由度 柔軟性に制限がある. さらに, 大出力レーザ溶接でシールドガスとして Ar を使用すると, Ar プラズマが発生し, 逆制動放射過程により入射レーザ光が減衰し, 浅い溶込みしか得られなくなるなどの課題がある 1). このようなことからレーザ溶接用の大出力レーザ装置の開発と 45 kw レーザ装置の製造は停止している. 一方,YAG レーザでは, 波長が 1.064 μm であり, ファイバー伝送が可能で, 自動化やロボット化に対応しやすく生産技術的に優れたレーザ熱源である. しかしながら, ビーム品質 BPP が 25 mm*mrad から 100 mm*mrad と集光性があまり良くなく, 高出力で使用する際は 0.6 mm 前後のスポット径に集光されることが多い. また, 発振効率は, 炭酸ガスレーザが 10 % 以下であり,YAG レーザはさらに悪く 2 % 程度と低いという欠点がある 2). そこで, 新しいレーザ光源として高効率の半 導体レーザが登場した. 波長は 0.8 μm から 1.03 μm の近赤外域であり, ファイバー伝送可能で, 発振効率が 20 % から 35 % と高いので, 電源装置や冷却装置が小型化でき, 加工システム自身も小型化が容易である. また, 大出力化により, 最大 10 kw のものまで市販されている 3). しかしながら, ビーム品質は, スロー角とファスト角の異方性をもち,BPP が 300 mm*mrad と悪く, 薄板の溶接やブレージングに用いられている 4). また, 最近では, ファイバー伝送タイプも市販化され,kW 級の出力で 0.2 mm のファイバーで伝送可能となり, ビーム品質も大幅に改善され,20 mm*mrad が登場しており, 注目すべきレーザ光源のひとつである. 特に, 最近, 最も注目されているレーザは, ファイバーレーザおよびディスクレーザの高輝度 高出力 高品質レーザである. 波長は YAG レーザに近い 1.070μm および 1.030μm であり, 光ファイバー伝送が可能である. ファイバーレーザのビーム品質は,2 mm*mrad から 12 mm*mrad と炭酸ガスレーザと同等以上に優れ, ディスクレーザもまた 8 mm*mrad から 12 mm*mrad と高ビーム品質となっている. 最近では, ファイバーレーザは 100 kw( 市販装置の最大パワー :50 kw) の大出力化を達成しており, また, ディスクレーザは 16 kw まで市販されており, レーザ光を集光したスポットでは超高パワー密度を実現できる. また, 発振効率もファイバーレーザ, ディスクレーザとも 10 kw で 20% 以上と高く, レーザ溶接用熱源として適している 4-6). これまでの高出力ファイバーレーザ溶接に関する研究では, 標準的な光学系での溶込み特性やスポットサイズの影響に関して研究がなされてきた. その結果,10 kw の高パワーになるとポロシティやアンダーフィルまたはハン - 240 -

ピングの溶接ビードが形成されやすく, 良好な溶接部を得る条件が狭くなることがわかってきている. 高輝度 高出力ファイバーレーザの特性を活かせる長焦点深度の加工光学系については, 溶接部の溶込み深さの増加, 溶接欠陥の低減による高品質化など, 大幅な溶接特性の改善が期待できるが, その効果に関する研究は行われていない. 本研究では, 最大出力 10 kw ファイバーレーザおよびディスクレーザを用い, オーステナイト系ステンレス鋼に対してビード オン プレート溶接を行い, 得られた溶込み, レーザ吸収および溶融効率について, 電気 光変換効率という観点から比較検討を行った. また, 長焦点深度光学系を用いてレーザ溶接を行い, 高集束型光学系と比べて, 溶込み深さの改善やポロシティ等の溶接欠陥の防止などにより, エネルギー効率の高い高品質な溶接プロセスを開発するための知見を得るために実験的な検討を行った. 2. 実験方法 2 1 高輝度レーザとその電気 光変換効率および溶融効率評価のための実験方法本研究で用いたレーザ発振器は, 最大出力 10 kw のファイバーレーザおよび最大出力 10 kw ディスクレーザである. 焦点位置でのスポット径は, ファイバーレーザは φ200μm で, ディスクレーザは φ300μm である. まず 高輝度レーザの特性を明確にするため レーザ出力毎に電力計でブレーカーから供給される電力を計測し, レーザの電気 光変換効率を調べた. 次に, レーザの材料への吸収率および溶融効率について検討した. 供試材は, 板厚 20 mm の SUS304 ステンレス鋼である. 実験方法は, 内部に水を流せるようになっているプラスチック製の治具に SUS304 板を固定し, 試料表面が焦点位置の状態で, レーザパワーを 2 kw から 10 kw まで変化させ, 溶接速度 3 m/min で, ビード オン プレート溶接を行った. なお, ファイバーレーザ溶接では反射損傷防止のため, 加工ヘッドを前進角に 10 度傾けて使用した. シールドガスは溶接方向前方から 60 度の角度で設置された口径 φ8 mm のサイドノズルから Ar ガスを流速 40 L/min で供給した. レーザ溶接時には, カロリメトリー法を用いて吸収率を算出した. また, 溶込み形状から溶融効 率も算出した. さらに, 供給された電力を測定し, 最終的には, 材料に熱として吸収された電力変換効率および溶融に使われた電力変換効率を求め, 各レーザ発振器の環境性 ( 省エネルギー ) を評価した. 図 1 レーザ吸収率測定実験概略図 2 2 長焦点深度光学系利用による溶接性評価実験方法長焦点深度光学系を使用した際のレーザ溶接特性を評価する実験を行った. 実験装置と溶接状況の概略図を図 2 に示す. 供試材は板厚 12mm の HT780 高張力鋼である. 本実験で使用したレーザ発振器は最大出力 10kW のファイバーレーザで, 波長 λ が 1070nm で,BPP が 4.5mm*mrad と小さく, コア径 φ100μm のファイバーレーザにより加工ヘッドへ伝送され, 焦点距離 270mm の長焦点集光レンズにて集光される. 焦点位置でのスポット径は φ300μm 程度である. 実験は加工ヘッドを前進角に 10 傾けた状態でレーザパワーを 10kW, 溶接速度を 1.5m/min から 10m/min まで変化させてビード オン プレート溶接を行った. シールドガスは溶接方向後方から 45 の角度で設置された口径 φ8mm のサイドノズルから Ar を流速 40 L/min で供給している. 溶接時のレーザ誘起プルームおよび溶融池の状態を観察するため, 高速度ビデオカメラを用い,10,000 f/s で高速度観察した. また, 溶融池観察においては照明用光源として半導体レーザ ( 最大出力 Pmax:30 W, 波長 λ: 973 nm) を用いた. さらに, 溶接時の溶融池内部におけるキーホール挙動および気泡の発生状況やポロシティの生成機構を解明するため, マイクロフォーカス X 線透視撮影装置 ( 島津製,MTT-225) を用いて,250f/s で観察を行 - 241 -

った.X 線透視観察時の試料は, 板幅が 3 mm, 板厚が 12 mm である. CW Fiber laser Peak power 10 kw λ:1,070 nm 得られた結果を基に, レーザ吸収率および溶融効率を, レーザ出力からではなく, ブレーカーからレーザ供給される電力量から, 省エネルギーの観点で評価した. その結果を図 4 に示す. Laser diode (for Illumination) λ: 980 nm P: 30 W High speed camera (10,000 F/s) α Gas nozzle (8 mm) Shielding gas (Ar) Welding direction 図 2 長焦点光学系の溶接特性実験概略図 3. 実験結果 3 1 高輝度レーザの溶接性レーザ出力を 2 ~10 kw と変化させて高出力ファイバーレーザ溶接を行った. 得られた溶接ビード部の断面形状および溶込み深さを, レーザ発振に必要な電力量, 溶融効率, カロリメトリー法で算出されるレーザ吸収率とともに図 3 に示す. 断面形状は, ビード幅が狭いくさび状の深溶込みが形成され, 従来レーザ溶接時のワインカップ状とは異なっていることがわかる. 溶込みは, レーザ出力が 2 kw から 10 kw に増加するに従って深くなり,10 kw で 11.5 mm に達した. また, レーザ吸収率は,2 kw の 63% から, レーザ出力の増加とともに増加し,10 kw で 84% の高い値を示した. 一方, 溶融効率は, レーザ出力によらず, ほぼ 30 % 程度の値であった. 図 3 レーザ溶接部の断面形状と溶込み深さなら びにレーザ吸収率, 溶融効率 図 4 電力量とレーザ吸収率および溶融効率の関係 レーザ出力が増加すると, 材料に熱として吸収される電力変換効率および溶融に使われる電力変換効率はともに増加した. 一番効率が良い条件は,10 kw 出力で, ブレーカーから投入された電気エネルギーの 33% が熱として材料に吸収され,13 % が溶融に使われた計算となる. 現在, 製造工程で稼動している従来のランプ励起の YAG レーザの電気 光変換効率の 2 % 程度に比べると,10 kw 高出力ファイバーレーザ溶接は,10% 以上あり, 格段に省エネルギープロセスになっていることが判明した. 3 2 長焦点深度光学系の溶接性 3 2 1 長焦点深度光学系のビーム特性本研究で開発した長焦点深度光学系の品質を検証するため, ビームプロファイルを測定した. また, 以降の実験で特性を比較するために使用する通常の光学系についても同様に計測した. それらの測定結果を図 5 に示す ( 以下, 通常の高集束光学系を Optics P, 開発した長焦点深度光学系を Optics M と記す ). 測定の結果, 開発した Optics M を使用することで, 焦点深度は従来使用される Optics P の倍程度に相当する 4 mm が得られることがわかった. また, スポットサイズは Optics P が φ200μm,optics M が φ270μm であった. - 242 -

そこで, これら 2 つの光学系を用い, 実際に溶接したときに得られる溶接ビードの溶込み深さの差異, 溶接欠陥の発生状況の差異などを調査した. 図 7 Optics M( 長焦点深度光学系 ) による溶接部の表面 断面 X 線透過写真 図 5 通常の光学系 (Optics P) と長焦点深度光学系 (Optics M) のビームプロファイルと集光状況 3 2 2 溶込み特性に及ぼす長焦点深度光学系の影響長焦点深度光学系の溶込み特性について検討した.Optics P および Optics M の光学系で, 溶接速度 1.5~10 m/min で得られた溶接ビードの表面外観写真,X 線透過試験による深さ方向の透過写真, 横断面写真をそれぞれ図 6 および図 7 に示す. Optics P の場合, 溶接速度 1.5m/min において貫通溶接部が得られたが, アンダーフィルが発生した. そして, 溶接速度 3m/min 以上では部分溶込みとなった. また,X 線透過試験写真 から,1.5~10 m/min のすべての条件において多数のポロシティが発生したことが確認された. 一方,Optics M の場合, 溶接速度 3m/min で貫通溶接が可能であり, アンダーフィルは発生していなかった. 溶接速度 4.5 m/min 以上では部分溶込みとなった.Optics P と同様に多数のポロシティが確認されたが, 溶接速度 1.5 m/min の貫通溶接部ではポロシティの発生は確認されず, 良好な溶接ビードを得ることができた. 次に, 各溶接速度で得られたレーザ溶接部の溶込み深さに及ぼす集光光学系の影響を図 8 に示す.Optics M は溶接速度 3 m/min で貫通溶接が可能であり, 従来の Optics P に比べて溶込みが増加していることがわかる. しかし, 溶接速度 4.5 m/min~6 m/min においては両者の溶込みはほぼ同等となり, 溶接速度 8 m/min ~10 m/min では Optics M の溶込みが浅くな Penetration depth [mm] 14 12 10 8 6 4 2 Optics P Optics M 0 0 5 10 15 Welding speed [m/min] 図 6 Optics P( 通常の光学系 ) による溶接部の表面 断面 X 線透過写真 図 8 レーザ溶接部の溶込み深さに及ぼす集光光学系の影響 - 243 -

った. これは, 図 9 に示すように, 深さ方向のパワー密度の違いが現れたものである. 焦点位置近傍では,Optics P のパワー密度が高いために高速度では溶込み深さの増加に有効に作用したと考えられる. 一方,10 mm 程度の深い溶込み位置においては Optics M のパワー密度が 50 kw/mm 2 で,Optics P の 32 kw/mm 2 より高いために深い溶込みを得られたと判断される. Peak power density [kw/mm 2 ] 400 300 200 100 Optics P 0-20 -10 0 10 20 Depth [mm] Peak power density [kw/mm 2 ] 400 300 200 100 Optics M 0-20 -10 0 10 20 Depth [mm] 不規則な形状の溶接ビードが形成され, アンダーフィルが発生する様子が観察された. 一方, Optics M による溶接の場合, 溶融池は安定しており, 良好な溶接ビードが形成されている様子が観察された. 3 2 3 X 線透視リアルタイム観察結果溶接速度 1.5m/min でレーザ溶接を行った場合,Optics P では多数のポロシティが確認されたが,Optics M ではポロシティは確認できなかった. そこで, 溶融池内部のキーホール挙動およびポロシティの形成状況を調査するため, 図 11 に示すマイクロフォーカス X 線透視リアルタイム撮影装置を用いて観察を行った. 図 9 各集光光学系におけるピークパワー密度の比較 以上の結果より,Optics M は, 深さ 10mm 以上の深溶込みが必要とされる条件においては従来の高集光光学系と比べて優位性があるということがわかった. すなわち, 高速度で深い溶込みは, 高集光光学系が有効であり, 低速度で安定な溶接を行うためには, 適度な集束性のある長焦点深度集光光学系が有効であることが確認された. また, 図 10 にレーザパワー 10 kw, 溶接速度 1.5 m/min で溶接中の溶融池の挙動を高速度カメラで撮影した結果を溶接ビードの表面と断面写真とともに示す. なお, 高速度カメラの撮影速度は 10,000 fps である. 撮影の結果, Optics P による溶接時の溶融池は激しく変動し, キーホール後方の溶融池が盛り上がり, 図 11 X 線透視撮影装置を用いたリアルタイム観察システム概略図 レーザパワー 10 kw, 溶接速度 1.5 m/min での両者の X 線透視撮影の結果を図 12 に示す. 撮影の結果,Optics P による溶接では, キーホールが板材を貫通しているものの, キーホールの変動が激しく, キーホールの中間深さ部近傍から多数の気泡が発生し, 後方の凝固部にトラップされる様子が観察された. 一方 Optics M による溶接ではキーホールは細く, その変動は小さく, 気泡は発生しなかった.Optics M の 図 10 高速度カメラによる溶融池観察 図 12 通常の光学系と長焦点深度光学系のX 透過画像 - 244 -

場合, 広範囲の深さ位置にキーホールを維持するために必要なレーザパワーが供給されているため, キーホールが安定し, 良好な溶接が行えたものと考えられる. 4. 結論本研究では, 高輝度レーザの電力変換効率を検証し, 溶融特性等に及ぼす溶接速度の影響について検討した. また, 本研究で開発した長焦点光学系の溶接性能および溶接の安定性について溶込み深さとレーザ溶接現象の観察結果から評価した. 得られた結論は以下の通りである. (1)10 kw 出力で, ブレーカーから投入された電気エネルギーの 33% が熱として材料に吸収され,13 % が溶融に使われることなどについて解明した. 従来のランプ励起の YAG レーザの電気 光変換効率の 2 % 程度に比べると, 高出力ファイバーレーザ溶接は, 格段に省エネルギープロセスであると判定された. (2) 開発した長焦点深度光学系 (Optics M) のビームプロファイルを測定した結果, 通常の高集束集光光学系 (Optics P) の 2 倍の焦点深度に相当する 4 mm の焦点深度が得られた. また, スポット径は 270μm であった. (3) 開発した長焦点深度光学系 (Optics M) は, 溶接速度 3m/min で板厚 12mm の高張力鋼板 HT780 を貫通溶接することが可能であった. 通常の高集束集光光学系 (Optics P) を用いた場合, 貫通溶接するには 1.5 m/min まで速度を遅くする必要があるため, 従来の 1/2 程度の投入エネルギー低減が見込まれることになる. また, 溶接速度 1.5 m/min の貫通溶接条件で溶接を行うと, 従来の高集束集光光学系を使用すると, アンダーフィルやポロシティといった溶接欠陥が抑制されることが明らかとなった. (4) X 線透視撮影の結果, 通常の高集束集光光学系 (Optics P) による溶接では, キーホールが板材を貫通しているものの, キーホールの変動が激しく, 多数の気泡がキーホールの中間深さ位置近傍から発生し, 後方の凝固部にトラップされていく様子が観察された. 一方, 開発した長焦点深度光学系 (Optics M) による溶接 では, キーホールを押し広げるために十分なパワー密度を持ったレーザが長焦点になった分, 広範囲に存在するため, キーホールの変動は小さく, 気泡は発生しなかった. 謝辞本研究は財団法人天田金属加工機械技術振興財団の平成 20 年度研究開発助成 (AF-2008218) として採択されたものであり, 同財団に心より感謝しています. また, 本研究遂行にあたり, ご協力を頂いた大阪大学接合科学研究所川人洋介准教授, 水谷正海技官, 大阪大学大学院工学研究科博士前期 ( 修士 ) 課程機械工学専攻松本直幸君および阿部洋平君に厚く感謝申し上げます. 参考文献 1) 宮本勇 : レーザ溶接の基礎, 第 26 回レーザ熱加工研究会論文集 (1991), pp. 1-17. 2) 片山聖二 : レーザプロセスの基礎とその知能化, 平成 12 年度溶接工学夏季大学教材 (2000),pp.115-144. 3) 江嶋亮 : 高出力半導体レーザ装置の現状とその応用,LMP シンポジウム 2008 最新の高出力レーザの現状とその応用 (2008), pp.59-66. 4) 辻正和 : IPG ファイバーレーザーの性能とそのアプリケーションの紹介, 溶接学会全国大会講演概要第 83 集 (2008), pp.f38-f42. 5) 門屋輝慶 : 高出力ディスクレーザ, レーザ加工学会誌,Vol.14, No.2 (2007), pp.14-19. 6) 川人洋介, 阿部洋平, 大西輝政, 水谷正海, 片山聖二 : 高輝度 高効率レーザによるステンレス鋼の溶接特性, 溶接学会全国大会講演概要第 85 集 (2009),pp.126-127. - 245 -