7 届出意思を欠く無効な婚姻の追認 最高裁昭和 47 年 7 月 25 日第三小法廷判決 ( 昭和 45 年 ( オ ) 第 238 号婚姻無効確認請求事件 ) 民集 26 巻 6 号 1263 頁 判時 677 号 53 頁 2010 年 4 月 21 日報告分 婚姻の無効 = 成り立つと婚姻の成立要件 1 当事者間に婚姻をする意思がないとき 742 条 1 号 婚姻は当事者の自由な意思の合致によって成立するので 当事者間に婚姻をする意思が ないときは 無効となる 2 当事者が届出をしないときも 婚姻は無効だとしている 742 条 2 号婚姻は届け出ることによって成立するから 届出をしないときは 無効 ( 不成立無効 ) である ただし その届出が民法 739 条 2 号に掲げる条件を欠くだけであるときは 無効にはならない すなわち 成年の証人の署名を欠く婚姻届書や他人が代筆した婚姻届は受理されれば有効となる 事例 X 女は X 男と婚姻し 3 人の子を設けたが 夫の母親と性格が合わず それが原因で協議離婚をした ところが その二ヶ月後に X 男の母親が急死し 子供たちの教育もあって Y 女は X 男のもとにもどった その後 Y 女は X 男に無断で婚姻の届出をだした X 男は二年後にその事実を知ったが そのまま共同生活を続けていた Y 女が届出をだしてから 8 年後 X 男に愛人ができ Y 女と別居した X 男は Y 女に離婚を申し入れたが Y 女が拒否 そこで X 男は 八年前に Y 女が出した離婚届は民法 742 条に該当し 無効だと裁判を起こした 最高裁は 次のように判示してこの離婚を有効とした ( 最判昭和 47 年 25 日民集 26 巻 6 号 1263 項 ) 争点 届出意思を書く無効な婚姻の追認することができるか 事実上の夫婦である妻が夫に無断で出した婚姻届を本人が追認した場合はどうなるか 1
判旨 事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成し提出した場合においても 当時右両名に夫婦としての実際的生活関係が存在しており 後に右他方の配偶者が右届出の事実を知ってこれを追認したときは 右婚姻は追認によりその届出の当初にさかのぼって有効となると解するのを相当とする ところで 民法 119 条は 無効な行為は追認によっても効力を生じないと規定しているが 判決は 無効な養子縁組につき追認によって届出の当初に遡り有効とした判例 ( 最判昭和 27 年 10 月 3 日民集 6 巻 9 号 753 項 ) を引用し 民法 116 条 ( 無権代理行為の追認 ) を類推適応できるとした 判決の結果には賛成はできるが 理論的には身分行為に代理の規定を類推適用してよいかなど検討すべき点もある 判例では 無効な婚姻について追認により法的効果を認めることが可能か ということが争われた 身分行為に対して 財産行為についての規定である追認を認めることは妥当か というテーマがある つまり 財産行為についての規定とされる民法総則を 性質の異なる身分行為に適用してよいか 適用するなら どのような理論構成で適用するのか ということが問題となっている 身分行為と財産行為の違いや 身分行為に追認を認めることついて考える 身分行為 婚姻 離婚 縁組 離縁 認知など人の家族関係に関する法律行為 725 条 ~ 1044 条の規定 ( 親族法 相続法 ) 財産行為 財産の支配及び取引に関する行為 1 条 ~724 条の規定 ( 総則 物権法 債権 法 ) が財産法とされている 身分行為論家族法は親族法と相続法に分かれる 相続法は 身分法と財産法の両者にまたがるが 一般に身分法の一部として取り扱われている 1 身分法と財産法ではその 意思 の性質が違う 財産法における意思は 合理的な打算的な選択的な意思 であるのに対し 身分法における意思は 非合理的な性情的な決定的な意思 である 身分法においては個人の意思が非常に重視される そのため財産法の意思に関する規定と違った取り扱いがなされるべきものがある 行為能力 身分行為能力としては 本人がその行為の意味内容を理解し得る意思能力を有すれば足りることになる 2
意思表示 いわゆる意思主義が採用され 本人の意思 ( 真意 ) に基づかないような行為は無 効であるとされる すなわち 財産的法律行為におけるような外形尊重の要請は働かないから 心裡留保 虚偽表示 錯誤に基づく身分行為はすべて無効である 2 身分行為には事実の先行性と要式性という特殊な性質がある 身分行為では 具体的な事実がまず存在し その後法律がこれを確認 宣言するにとどまる 例えば 認知は非嫡の父子関係の存在を前提とし 婚姻ですら 事実上の婚姻関係が法律上のそれを宣言されるにすぎない さらに 身分行為には 届出や家庭裁判所の許可を得て成立し あるいは効果を生ずるなど 法定の形式を履践しなければならない場合が少なくない これは 身分関係が当事者に重大な影響を及ぼすのみならず 社会秩序にも関係があり 第三者にも影響を及ぼすことから 当事者に慎重に考慮させ 第三者に公示させるためである 追認民法でいう追認は いろいろな意味で用いられるが 大きく以下の3つに分類できる 1 効行為の追認 119 条 ( 無効な行為の追認 ) 無効な行為は 追認によっても その効力を生じない ただし 当事者がその行為の無効であることを知って追認したときは 新たな法律行為をしたものとみなす 無効 な法律行為の効果はだれの意思によっても動かされないのが原則である しかし 当事者が無効であることを知った上で追認したときは そのときに新たな行為をしたものとみなされる したがって ここでいう追認とは 当事者が無効であることを知っている当該法律行為と同じ内容の法律行為をすることを意味する この場合の追認は新たな法律行為をしたものとみなされるため もともとの行為時に効果が遡るわけではないということである 無効な行為 追認 ( 法律行為の効果 ) 2 無権代理行為の追認 116 条 ( 無権代理行為の追認 ) 追認は 別段の意思表示がないときは 契約の時にさかのぼってその効力を生ずる ただし 第三者の権利を害することはできない この理論では 矛盾が生まれる場合がある ( 第三者が届出を出しても良いのか ) 総則の規定を全て排除してしまうのは極端だ など 無権代理 による法律行為は本人に効果が帰属しない しかし 本人がその法律行為を自己に帰属させてもよいと認めるなら 有効な代理行為があったものとし その法律効果を本人に帰属させるというもの 本来の追認は119 条のように遡及効をもたないものである 3
が 無権代理行為の追認においては 相手方保護との均衡 本人の意思を無視してまで無 効にする実益がない という点から遡及効が認められる 無効な行為 追認 ( 無効な行為時 法律行為の効果 ) 3 取り消すことができる行為の追認 122 条 ( 取り消すことができる行為の追認 ) 取り消すことができる行為は 第 120 条に規定する者が追認したときは 以後取り消すことができない ただし 追認によって第三者の権利を害することはできない 取り消すことのできる効果を確定的に有効なものとする一方的な意思表示で取消権の放棄を意味する 無効な身分行為については 裁判例では116 条の類推適用が認められることが多かったが 学説においては119 条を ( 類推 ) 適用すべきではないか という主張もある 116 条では遡及効が認められ 119 条では認められないという差異がある 婚姻であれば 日常家事債務の連帯がいつから認められるかが異なったりするので 遡及効果の有無は重要な問題となる 民法 120 条 1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は 制限行為能力者又はその代理人 承継人もしくは同意をすることができる者に限り 取り消すことができる 2 瑕疵又は強迫によって取り消すことができる行為は 瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り 取り消すことができる 裁判例裁判所は無効な身分行為の追認についてどのような立場をとってきたのだろうか? 大審院においては 無効な身分行為の追認は認められていなかった しかし 最高裁においてはこれまで 代諾養子縁組と協議離婚につき116 条による追認を認めてきた 結論 事実上の夫婦が一方の意思に基づかないで婚姻の届出をした場合 届出の当時に夫婦としての実質的生活関係が存在し 後に他方の配偶者が届出の事実を知って追認したときは 婚姻は届出の当初に遡って有効となる 届出時に実質的夫婦関係の存在し 届出を知ってなおその関係を続けていたことから 婚姻の追認があったものとされた 無効な身分行為に116 条の追認を適用することは 当初は認められなかったが 無効な養子縁組 無効な協議離婚 無効な婚姻 と徐々に適用の範囲を広げ 今回の判決に至った 4
参考文献判例家族法久々湊晴夫落合福司編親族法 相続法柳澤秀吉緒方直人編やさしい家族法久々湊晴夫落合福司編親族法 相続法久々湊晴夫落合福司編 5