3. 研究の概要等 1 章では 第 1 節で相続税法の歴史的経緯について 特に贈与の位置づけの変遷を中心に概観し 明治 38 年に創設された相続税法での贈与に対する扱いはどうであったのか また 昭和 22 年のシャベル勧告により贈与税が導入され 昭和 25 年のシャウプ勧告で廃止 その後 昭和 28

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相続税の節税対策としての生前贈与 相続税 贈与税はともに相手に渡る財産の金額に対して累進的な税率により税金がかかりま す そこで 相続税の税率よりも低い税率で贈与をすれば 相続税の節税になります 下の 図で相続税と贈与税税率を確認して下さい 贈与税は 相続税に比べ 基礎控除額が低く さらに税率が高く

税制改正を踏まえた生前贈与方法の検討<訂正版>

テキスト編 第 1 章相続税 贈与税とはなにか 目次 1 相続税が課税される理由 1 2 どれくらいの遺産がある場合 相続税は課税されるか 2 3 贈与税が課税される理由 3 4 相続税と贈与税の関係 4 第 2 章相続人と相続分 1 相続人と相続順位 5 2 相続の承認と放棄 14 3 相続人の相

野村資本市場研究所|顕著に現れた相続税制改正の影響-課税対象者は8割増、課税割合は過去最高の8%へ-(PDF)

[2] 税率構造の見直し 相続税の税率構造が現行の6 段階から8 段階に変更されるとともに 最高税率が 50% から 55% に引き上げられることとなりました ただし 各法定相続人の取得金額が2 億円以下の場合の税率は と変わりありません この改正は 平成 27 年 1 月 1 日以後に相続または遺

日本の富裕層は 122 万世帯、純金融資産総額は272 兆円

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

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資産課税についてのアンケート調査結果について 平成 23 年 1 月 31 日財団法人関西社会経済研究所問合先 ( 鈴木 ) 平成 23 年度税制改正において 資産課税 に関する改正が行われ 高額の遺産相続に対する課税が強化されました そこで関西社会経済研究所では 今回の税制

2015 年 1 月いよいよ施行! 相続税増税の影響と対策 Part 1 相続税はどう変わる? 影響は? Part 2 相続税の負担を軽減するには?

税法入門コース 相続税 学習スケジュール 回数学習テーマ内容 第 1 回 第 2 回 第 3 回 第 4 回 第 4 回 第 1 章 第 2 章 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 4 章 第 5 章 テーマ 1 相続税 贈与税とは? テーマ 2 用語の説明 テーマ 1 相続人となれる人は? テ

公益法人の寄附金税制について

相続人の居住用または事業用の宅地については2 割または5 割評価にするという小規模宅地等の評価減の特例があるが 平成 22 年度税制改正により 原則として申告期限まで居住または事業を継続していなければ適用が認められなくなっている 今回 基礎控除額が引き下げられることと合わせ 都市部の独居老人が亡くな

平成 22 年 11 月 25 日 資料 ( 資産課税 )

Microsoft Word - 第53号 相続税、贈与税に関する税制改正大綱の内容

相続税・贈与税の基礎と近年の改正点

2011年度税制改正大綱(相続・贈与税)

目 次 最近における相続税の課税割合 負担割合及び税収の推移 1 地価公示価格指数と基礎控除(58 年 =100) の推移 2 最近における相続税の税率構造の推移 3 小規模宅地等の課税の特例の推移 4 相続税負担の推移( 東京都区部のケース ) 5 ( 補足資料 ) 相続税の概要 6 相続税の仕組

(1) 相続税の納税猶予制度の概要 項目 納税猶予対象資産 ( 特定事業用資産 ) 納税猶予額 被相続人の要件 内容 被相続人の事業 ( 不動産貸付事業等を除く ) の用に供されていた次の資産 1 土地 ( 面積 400 m2までの部分に限る ) 2 建物 ( 床面積 800 m2までの部分に限る

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平成 22 年 12 月 7 日 資料 ( 資産課税 )

(2) 父母 ( 祖父母 ) から子 ( 孫 ) への住宅取得等資金の贈不 父母 ( 祖父母 ) など直系尊属から その子 ( 孫 ) へ居住用の家屋の新築 取得または増改築のための金銭 ( 住宅取得等資金 ) を贈不した場合 表の通りの金額について贈不税が非課税となります また 贈不税の基礎控除

住宅取得等資金贈与の非課税特例 教育資金一括贈与の非課税特例 結婚 子育て資金贈与の非課税特例 相続時精算課税制度 贈与者 贈与年の 1 月 1 日現在で 60 歳以上の父母または祖父母 受贈者 贈与者の直系卑属 ( 子 孫 ひ孫等 ) で贈与の年の 1 月 1 日現在 20 歳以上 受贈年の合計所

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

設 拡充又は延長を必要とする理由 関係条文 租税特別措置法第 70 条の 2 第 70 条の 3 同法施行令第 40 条の 4 の 2 第 40 条の 5 同法施行規則第 23 条の 5 の 2 第 23 条の 6 平年度の減収見込額 百万円 ( 制度自体の減収額 ) ( - 百万円 ) 東日本大震

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13. 平成 29 年 4 月に中古住宅とその敷地を取得した場合 当該敷地の取得に係る不動産取得税の税額から 1/2 に相当する額が減額される 14. 家屋の改築により家屋の取得とみなされた場合 当該改築により増加した価格を課税標準として不動産 取得税が課税される 15. 不動産取得税は 相続 贈与

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2011年税制改正のポイント

平成 25 年度税制改正解説相続税 ~ 基礎控除の引き下げ 税率構造の見直し等 法定相続人の数と基礎控除法定相続人の数と基礎控除 法定相続人の数 1 人 2 人 3 人 4 人 5 人 60,000 千円 70,000 千円 80,000 千円 90,000 千円 100,000 千円 36,000

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

の範囲は 築 20 年以内の非耐火建築物及び築 25 年以内の耐火建築物 ((2) については築 25 年以内の既存住宅 ) のほか 建築基準法施行令 ( 昭和二十五年政令第三百三十八号 ) 第三章及び第五章の四の規定又は地震に対する安全上耐震関係規定に準ずるものとして定める基準に適合する一定の既存

住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税制度の改正

事業承継税制の概要 事業承継税制は である受贈者 相続人等が 円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において その非上場株式等に係る贈与税 相続税について 一定の要件のもと その納税を猶予し の死亡等により 納税が猶予されている贈与税 相続税の納付が免除される

未成年者控除 障害者控除の見直し 未成年者控除 障害者控除 6 万円 20 歳に達するまでの年数 6 万円 ( 特別障害者 :12 万円 ) 85 歳に達するまでの年数 10 万円 20 歳に達するまでの年数 10 万円 ( 特別障害者 :20 万円 ) 85 歳に達するまでの年数 小規模宅地等につ

障財源化分とする経過措置を講ずる (4) その他所要の措置を講ずる 2 消費税率の引上げ時期の変更に伴う措置 ( 国税 ) (1) 消費税の軽減税率制度の導入時期を平成 31 年 10 月 1 日とする (2) 適格請求書等保存方式が導入されるまでの間の措置について 次の措置を講ずる 1 売上げを税

資料9

5 適用手続 ⑴ 相続時精算課税の適用を受けようとする受贈者は 贈与を受けた財産に係る贈与税の申告期間内に 相続時精算課税選択届出書 ( 贈与者ごとに作成が必要 ) を贈与税の申告書に添付して 納税地の所轄税務署長に提出する ( 相法 21の92) なお 提出された当該届出書は撤回することができない

このうち 申告納税額がある方 ( 納税人員 ) は640 万 8 千人で は41 兆 4,298 億円 申告納税額は3 兆 2,037 億円となっており 平成 28 年分と比較すると 人数 (+0.6%) (+ 3.4%) 及び申告納税額 (+4.6%) はいずれも増加しました 所得者区分別の状況イ

スライド 1

問題 1 1 問題 1 1 納税義務者 相続税の納税義務者及び課税財産の範囲 課税価格 1 納税義務者 ⑴ 次に掲げる者は 相続税を納める義務がある 1 居住無制限納税義務者 ( 法 1 の 3 1 一 ) 相続又は遺贈により財産を取得した個人でその財産を取得した時において法施行地に住所を有するもの

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平成16年版 真島のわかる社労士

4. 平成 27 年度税制改正の概要 (1) 住宅の取得に関わる税制 登録免許税 不動産取得税 改正項目ヘ ーシ 改正内容 所有権保存登記 所有権移転登記 所有権の信託 抵当権設定の登記の軽減措置 税率の軽減措置 宅地評価土地の課税標準の軽減措置 軽減税率の適用期限を平成 27 年 3

第25回税制調査会 総25-1

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平成 31 年度住宅関連税制改正の概要 ( 一社 ) 住宅生産団体連合会 平成 31 年 3 月 (1) 住宅ローン減税の拡充 ( 所得税 個人住民税 ) 消費税率 10% が適用される住宅取得等をして 2019 年 10 月 1 日から 2020 年 12 月 31 日までの間にその者の居住の用に

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110 万円を加えると 1610 万円まで非課税となります < 住宅取得資金に対する贈与税の非課税枠 > 2012 年 2013 年 2014 年 一般住宅 1000 万円 700 万円 500 万円 省エネ 耐震住宅 1500 万円 1200 万円 1000 万円 < 贈与税の計算例 1> 201

事業承継税制の全体像は ( 図表 1) の通りである ( 図表 1) 事業承継税制の全体像 経営者 1 代目 経営者 2 代目 一括贈与 大臣認定 贈与税の課税 贈与税の納税猶予の適用 相続税の納税猶予制度と同様 雇用確保を含む 5 年間の事業継続を行い その後も株式を継続保有 生前贈与により株式の

(0830時点)PR版

東京太郎様 Inheritance Report 相続診断書 弁護士法人 税理士法人リーガル東京 平成 30 年 8 月 20 日作成

表 1) また 従属人口指数 は 生産年齢 (15~64 歳 ) 人口 100 人で 年少者 (0~14 歳 ) と高齢者 (65 歳以上 ) を何名支えているのかを示す指数である 一般的に 従属人口指数 が低下する局面は 全人口に占める生産年齢人口の割合が高まり 人口構造が経済にプラスに作用すると

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相続税計算 例 不動産等の評価財産の課税評価額が 4 億 8 千万円 生命保険金の受取額が 2 千万円 現金 預金等が 4 千万円 ローン等の債務及び葬式費用等が 3 千万円である場合の相続税を計算します 相続人は妻と 2 人の子供の 3 人です ( 評価額を計算するには専門知識を要します 必ず概算

平成29年 住宅リフォーム税制の手引き 本編_概要

平成20年度税制改正(地方税)要望事項

2. 制度の概要 この制度は 非上場株式等の相続税 贈与税の納税猶予制度 とは異なり 自社株式に相当する出資持分の承継の取り扱いではなく 医療法人の出資者等が出資持分を放棄した場合に係る税負担を最終的に免除することにより 持分なし医療法人 に移行を促進する制度です 具体的には 持分なし医療法人 への

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土地建物等の譲渡損失は 同じ年の他の土地建物等の譲渡益から差し引くことができます 差し引き後に残った譲渡益については 下記の < 計算式 2> の計算を行います なお 譲渡益から引ききれずに残ってしまった譲渡損失は 原則として 土地建物等の譲渡所得以外のその年の所得から差し引くこと ( 損益通算 )

(2) みなし相続財産ものか13 第1 章12 2 課税される 相続財産 の範囲 海外にある財産も課税対象となる 贈与税の暦年課税適用財産も 3 年以内は課税対象となる 葬式費用 墓地や墓碑 仏壇 仏具等は非課税 相続税の課税対象となる相続財産は (1) 被相続人が亡くなったときに所有していた財産

資産運用として考える アパート・マンション経営

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1.修正申告書を作成する場合の共通の手順編

3. 住宅税制 消費税率の引上げに伴う一時の税負担の増加による影響を平準化し 及び緩和する観 点から 住宅税利について以下のとおり所要の措置を講じます 住宅ローン減税を平成 26 年 1 月 1 日から平成 29 年末まで 4 年間延長し その期間のうち平成 26 年 4 月 1 日から平成 29

土地の譲渡に対する課税 農地に限らず 土地を売却し 譲渡益が発生すると その譲渡益に対して所得税又は法人税などが課税される 個人 ( 所得税 ) 税額 = 譲渡所得金額 15%( ) 譲渡所得金額 = 譲渡収入金額 - ( 取得費 + 譲渡費用 ) 取得後 5 年以内に土地を売却した場合の税率は30

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

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注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

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2.配偶者控除の特例の適用を受ける場合(暦年課税)編

1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

Ⅰ ワンルームマンション経営と節税 税務署 確定申告 税金還付 20 万 ~30 万円 ワンルーム家賃収入ローン元利返済サラリーマンマンション A 氏 1 戸所有月 70,000 円月 60,000 円 銀行 年 30,000 円 月 8,000 円 固定資産税 管理会社 1 ワンルームマンション投

配偶者の税額軽減特例の有利な受け方 配偶者がいる場合の 相続税の具体的な計算例は以下の通りです 1. 設例 自宅 預貯金等の相続財産の遺産額 =2 億円 法定相続人 = 配偶者 + 子 2 人の合計 3 人 実際の遺産分割は 法定相続分の通りとする 未成年者控除 外国税額控除 生命保険金の非課税枠金

平成19年度税制改正.xls

5 配偶者控除等 配偶者控除 配偶者特別控除 扶養控除及び勤労学生控除の合計所得金額の要件 について 一律 10 万円ずつ引き上げられます 6 青色申告特別控除正規の簿記の原則により記帳している者に係る控除額が 55 万円に引き下げられ 正規の簿記の原則により記帳し かつ e5tax 等により確定申

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

2.配偶者控除の特例の適用を受ける場合(暦年課税)編

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女性が働きやすい制度等への見直しについて

相続税 贈与税の基本がよくわかる! 誰が相続人になるの? 税額はどのようにして求めるの? 土地 建物の評価はどうするの? 住宅取得資金の贈与は最大 3,000 万円が非課税に? 教育資金や結婚 子育て資金の贈与は非課税に? 新しくできる配偶者居住権ってどんなもの? etc.

コピー又は web からダウンロードしてご使用ください 答案用紙 Chapter1 問題 1 個人とみなされる納税義務者 Ⅰ 相続人及び受遺者の相続税の課税価格の計算 1 遺贈財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 取得者財産の種類計算過程金額 2 生前贈与加算される贈与財産の額の計算 ( 単位 :

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積立 NISA の創設 1. 改正のポイント (1) 趣旨 背景 1 家計の安定的な資産形成を支援する観点から 少額の積立 分散投資を促進するための 積立 NISA が創設される (2) 内容 1 積立 NISA は 20 歳以上の居住者等が金融機関に開設した非課税口座内に 積立 NISA 専用の累

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課税遺産総額 = 各人の課税価格 ( ア ) の合計額 - 遺産に係る基礎控除額ウ相続税の総額の計算 1 課税遺産総額を法定相続人が法定相続分に応じて取得したものと仮定し 各人ごとの取得金額を計算する 2 1に税率をかけ 各人の税額を合計する (= 相続税の総額 ) エ各人の相続税額の計算相続税の総

図表 1 消費税率引上げに伴う住宅着工の影響 ( 平成 9 年 ) 1995( 平成 7) 年度 1996( 平成 8) 年度 1997( 平成 9) 年度 (4 月 1 日に消費税 (5%) 導入 ) 1998( 平成 10) 年度 住宅着工戸数 前年からの増減 1,485 万戸 - 1,630

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相続の基礎 ~ 「相続」を学ぼう!! ~ 生前贈与①有価証券

2009年9月●日

平成23年度税制改正の主要項目

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

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平成19年度分から

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

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タイトル

Transcription:

1. 本論文の目的 贈与税は 主として 資産の再配分を図ることを主な目的としている相続税の補完税として位置づけられ 相続税の税負担を回避または減少させる目的で生前に親族等に財産を贈与することに対処するものとして 相続税よりも高い税率となっている そのために生前の贈与は抑制的な状況にあると言える このような ( 生前贈与の抑制的な ) 環境は 高齢化社会の進展が従来よりも相続の発生を長期に繰り延べさせている状況も作用して 高齢者層へ資産が偏った結果 経済活動の停滞を生み出している要因の一つとなっている 平成 25 年度税制改正法附則第 108 条 ( 検討 ) 第 4 号に 贈与税について 高齢者が保有する資産の若年世代への早期移転を促し 消費の拡大を通じた経済活性化を図る観点 格差の固定化の防止等の観点から 結婚 出産又は教育に関する費用等の非課税財産の範囲の明確化も含め 検討すること が定められ 経済政策上 今後の贈与税の役割や方向性が示された このことは 生前贈与の円滑化を図るという観点からのものであり 相続時精算課税制度の導入の頃から現れていると言える しかし このような政策的な生前贈与を促進した場合において 経済政策上の効果に着目した先行研究は極めて少ないのが現状ある よって 本論文では 相続時精算課税制度の導入や住宅取得等資金贈与の非課税の特例による非課税枠の拡大により 高齢者層に滞留しがちな個人金融資産を若年者層へと移転し 住宅取得などを通じての資産の有効活用を図ることの重要性について検証していく そのうえで 今後更なる少子高齢社会に直面するにあたり 非課税枠の拡大を利用した世代間の資産移転を促進させる贈与税制が有効であるかを検討した 2. 本論文の構成 本論文は次の 4 章で構成されている 第 1 章第 2 章第 3 章第 4 章 相続税法における贈与の意義住宅取得資金の贈与と贈与税制贈与税制と住宅建設少子高齢時代に相応しい贈与税制のあり方 2

3. 研究の概要等 1 章では 第 1 節で相続税法の歴史的経緯について 特に贈与の位置づけの変遷を中心に概観し 明治 38 年に創設された相続税法での贈与に対する扱いはどうであったのか また 昭和 22 年のシャベル勧告により贈与税が導入され 昭和 25 年のシャウプ勧告で廃止 その後 昭和 28 年に別の形で復活し 平成 15 年度には新制度である相続時精算課税が導入されるなど めまぐるしく仕組みを変えた贈与税制について言及した 第 2 節では 様々な歴史的変遷をたどってきた贈与税について 現行の制度内容を踏まえた課税要件や計算方法について説明した 第 3 節では 第 1 節 2 節で見てきたとおり 様々な歴史的経緯をたどり現在の贈与税制に至ることとなったその過程を検証することにより 少子高齢化を迎える我が国の贈与税のあり方 位置づけについての方向性を検討した 2 章では 第 1 節で 個人が保有する金融資産の実態について 総務省 家計調査年報 ( 貯蓄 負債編 ) ( 平成 24 年 ) を用いて検討を行った 主に年齢階層別の金融資産の分布を分析することにより 60 歳以上の高齢者層が他の年齢者層と比べて多くの金融資産を保有している状況が確認された また第 2 節では 国税庁の税務統計資料を用いて 贈与の件数 金額 1 件当り金額の推移を示し これらが住宅資金贈与を中心とする贈与税制上の変更を通じてどのような影響を受けたのか このような贈与税制上の変更に促され 高齢者層が多く保有する金融資産が若年齢者層へのスムーズな資産移転を可能としたのかを検証した 検証の結果 相続時精算課税制度が導入された平成 15(2003) 年から平成 17(2005) 年の 3 年間 ( 暦年課税での 5 分 5 乗方式と相続時精算課税 1,000 万円の特例の両方の措置が認められた時期 ) は 全体での贈与件数が以前と比べ 2 割程度の増加を示し また 平成 22(2010) 年 平成 23(2011) 年の住宅取得資金等の贈与税の非課税措置 ( 租特 70 条の 2) による非課税枠が大きく拡大されたことにより 7 万件を超える贈与件数となったことが明らかとなった ( 図 1 2 参照 ) このことから 住宅取得資金として活用し得る世代への資産移転を促進する上では 贈与税制における非課税措置が極めて有効に作用しうると考えられる つまり 住宅取得のための頭金と考えられる金額以上の非課税枠の設定が 早期の世代間の資産移転を促し 経済活動の活性化に役立つとの見通しを得た 3

1989 年 1990 年 1991 年 1992 年 1993 年 1994 年 1995 年 1996 年 1997 年 1998 年 1999 年 2000 年 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 1989 年 1990 年 1991 年 1992 年 1993 年 1994 年 1995 年 1996 年 1997 年 1998 年 1999 年 2000 年 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 ( 図 1) 住宅取得等資金の贈与件数の推移 贈与件数 ( 件 ) 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 暦年課税 相続時精算課税 ( 出所 ) 国税庁 統計年表 より作成 ( 図 2) 住宅取得等資金の贈与件数と非課税額の推移 ( 暦年課税 ) 贈与件数 ( 件 ) 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 非課税額 ( 千円 ) 暦年課税 ( 住宅取得等資金 ) 住宅取得等資金非課税額 ( 出所 ) 国税庁 統計年表 より作成 3 章では 2 章で得た見通しの妥当性を検証するため すなわち 非課税枠拡大による経済活動への活性化効果について明らかにするため 贈与税制上の優遇措置が住宅取得 ( 新設着工戸数 ) に与えた影響を定量的に分析した 第 1 節では 国土交通省 建築着工統計調査報告 等を用いて 1990 年代以降の新設住宅着工戸数の推移と現状を示し これらに重要な影響を与えたとされる要因について検討した 具体的には 1 贈与税制要因 ( 暦年課税および相続時精算課税における住宅取得資金の贈与件数 )2 金利要因 ( 住宅取得支援機構基準金利 長期プライムレートの最大値 )3 人口要因 (30 から 40 歳代人口構造変化 4

ダミー )4 建築基準法改正の影響 ( 建築基準法改正ダミー ) について言及した 第 2 節で は 第 1 節で検討を行った要因を説明変数とする回帰分析に基づいた統計的分析を行い 近年の贈与税制の変化と住宅建設の動向との関連性について検証を行った [ 住宅着工戸数 ] = 定数項 + a 暦年課税の贈与件数 + b 精算課税の贈与 件数 + c 30-49 歳代人口 + d 金利 + e 構造変 化ダミー + f 建築基準法改正ダミー ( 表 1) 住宅着工戸数における回帰分析の推計結果 係数 定数項 -3154117.31-3.312 暦年課税の贈与件数 : a 5.189 4.449 精算課税の贈与件数 : b 18.275 6.896 30-49 歳代人口 : c 107.353 3.504 金利 : d -2314.335-0.052 構造変化ダミー : e -457591.954-9.392 建築基準法改正ダミー : f -217503.86-3.723 自由度修正済決定係数 :R² 推計期間 : 平成 7 年 ~ 平成 23 年 0.88102 ( 出所 ) 筆者作成 ( 注 1) は 1% 水準で有意 ( 帰無仮説が棄却 ) であることを示す t 値 上記の推計結果をみると 推計式全体の説明力を示す決定係数は R 2 =0.88102 とかなり高く 1の贈与税制要因である 住宅資金に係る暦年課税および精算課税の贈与件数 に係る説明変数の係数は正を示し有意水準 1% また 3の人口要因である 30-49 歳代人口 および 構造変化ダミー に係る説明変数の係数は正および負を示し有意水準 1% 4の建築基準法改正の影響である 建築基準法改正ダミー に係る説明変数の係数は負を示し有意水準 1% の有意な推計結果が得られており理論的予想と合致した結果となった ただ 2の金利要因については 係数は負と符号条件は満たすものの この説明変数の係数推定値は有意ではなく 理論的予想に反する結果となった この理由としては 今日の経済状況の低迷の影響を受け低い金利水準が続いており また 著しい各種住宅取得支援策の改正の影響が住宅購入を後押ししているため 住宅取得者側では 購入決定要素としての優先順位が低くなっているのではないかと推測した 5

住宅取得資金贈与に係る非課税枠拡大が 住宅取得 ( 住宅建設 ) に与えた影響を検討する上で最も注目すべきは 住宅資金に係る暦年課税および精算課税の贈与件数 の係数推定値である 表 1 の推計結果によれば この係数推定値は 暦年課税で 5.189 であり 精算課税で 18.275 であった この推計結果を用いて 平成 23(2011) 年の贈与税制 ( 非課税枠 1,000 万円 暦年贈与件数 73,522 件 ) に当てはめてみたところ 住宅着工戸数 38 万戸増加させる効果があることを示唆する このような効果は 平成 23 年度の住宅着工戸数 54 万戸の 70% に相当することから 住宅取得資金贈与に係る非課税枠拡大が住宅取得 ( 住宅建設 ) に与えた影響はかなり大きいことが明らかとなった また 住宅着工戸数の長期的推移に示される 2003 年以降 2006 年度および 2009 年以降 2012 年度の 2 つの期間における着工戸数の増加要因は 少なからず 住宅取得資金贈与の非課税枠拡大措置 ( 暦年課税および精算課税 ) が作用していると推測でき これらの措置は贈与件数や移転財産額を押し上げるといった効果を及ぼしただけでなく 住宅着工戸数の増加においても大きく正の相関作用を示したと言え その効果は期待通りであった 最後に 4 章では 第 1 章から第 3 章までの検証を踏まえた上で 少子高齢化を迎える我が国の贈与税制が担う役割を明らかにするため どのような方向性が必要か検討した 4. 本論文の結論相続時精算課税制度の導入や住宅取得資金の非課税枠拡大といった政策的な生前贈与の促進は 経済政策上の一定の効果 いわゆる金融資産の保有割合の高い高齢者層からその下の世代への資産移転を促すことによる経済活動の活性化効果を示したのではないかと考える また 平成 25 年度税制改正法附則第 108 条 ( 検討 ) 第 4 号に 贈与税について 高齢者が保有する資産の若年世代への早期移転を促し 消費の拡大を通じた経済活性化を図る観点 格差の固定化の防止等の観点から 結婚 出産又は教育に関する費用等の非課税財産の範囲の明確化も含め 検討すること が定められ 今後の贈与税の役割や方向性が示されたことからも 本稿の第 1 章から第 3 章までの考察は意味を持つものと考えられ 生前贈与の位置づけとして 贈与税制上の優遇措置である住宅資金贈与の非課税枠拡大 は 今後の贈与税制のあり方として重要な方向性を示したと言える しかし一方で 本稿での考察の結果に対し 非課税枠拡大 ( 暦年課税 ) を利用する贈与のケースでは 贈与者の保有する資産が相続税の基礎控除を上回る場合に限り 生前贈与を行うことで相続税を減額できるため 非課税枠拡大によって資産格差の固定化が助 6

長されうるといった副作用を生み出す可能性が指摘されており このよう理由から相続税 贈与税制を景気対策や経済活性化のために利用することに対する懸念があるのも事実である このような従来の非課税枠以上の贈与を行える高額資産保有者を優遇するとの批判を受ける現在の 非課税枠拡大 について 井上 (2010) によれば 配偶者とその子 2 人の単純な家庭モデルを想定すると 平成 22(2010) 年の非課税枠 1,500 万円により相続税の実効税率 ( 平成 22 年度の国税庁税務統計データをもとに筆者が試算したところ 実効税率は 25.66%) を最大 2% 強程度低下させるに過ぎないとの試算をしていることや 国税庁の税務統計資料による相続税課税の割合は 4.1% であり 相続税の課税を受けるのはごく限られた 1 部の富裕者層であると言われていることを鑑みると 住宅に限った贈与資金が原因で資産格差の固定化が助長されるかは疑問であると考える また 富裕な高齢者は 財産評価基本通達 による評価を行って自分の保有している住宅等実物資産を相続対象として念頭に置くはずであり 彼らが将来的に住宅を相続しようと考えているのに それとは別に子供たちへの住宅支援を通じて贈与を進めるというのは疑問である このため 住宅取得等資金の贈与に限った贈与税制の特例が 資産格差の世代間承継および富の集中 ( 富める一族はますます富むこととなる ) を促し 贈与税の意義とされる 相続税の補完税 としての機能を失わせたとは考えられず むしろ 平成 25 年度税制改正でも示された 高齢者が保有する資産の若年世代への早期移転を促し 消費の拡大を通じた経済活性化を図る目的 を実行していく上で 今後の贈与税の役割や方向性を示す重要な意味合いを持つものであると考える 7