九州新幹線鹿児島ルート全線開通の影響 ~ 交通機関を選択する旅客特性について ~ 港湾空港部空港整備課 鳥居雅孝 空港整備課 志水康祐 1, はじめに九州新幹線鹿児島ルートは平成 23 年 3 月 12 日に博多 ~ 新八代間が開通し 平成 16 年より開業している新八代 ~ 鹿児島中央間と合わせて 全線が開業した北九州空港 ( 図 -1) 全線開通及び新大阪までの直通運転に伴博多福岡空港大分空港い 鹿児島 ~ 福岡間の所要時間は2 時間 12 分から1 有明佐賀空港時間 19 分に 鹿児島中央 ~ 新大阪間の所要時間が5 長崎空港時間 2 分から3 時間 45 分に短縮され ( 表 -1) 九州熊本熊本空港新八代地域内や関西をはじめとする九州以外の地域との交流も活性化している このような新幹線開通の影響は 九州地域を発着地宮崎空港鹿児島空港とする旅客数やその発生地域に加え 旅客者が選択す鹿児島中央る移動手段にさまざまな変化を与えており 各交通機関においては新たな交通機関相互の結節や競合が発生している 図 -1 九州新幹線鹿児島ルート概略図国土交通省には 競合状態にある幹線交通機関においても 将来的に双方の長所 短所を補完することで 幹線交通機関相互の良好な連携を築き 総合交通体系の最適化を図るための効率的な施設整備や制度設計を行う重要な使命がある 本稿ではその一助となることを目的とし 九州新幹線鹿児島ルート開通のインパクトが九州新幹線及び福岡 熊本 鹿児島空港の利用状況に与える影響を把握し 幹線交通機関が競合状態にある時の交通機関選択要因を調査 分析した事項について報告する 表 -1 九州新幹線鹿児島ルート全線開通後の所要時間 運賃の変化 熊本 ~ 大阪 鹿児島 ~ 大阪 福岡 ~ 鹿児島 所要時間 3 時間 57 分 2 時間 59 分 5 時間 2 分 3 時間 45 分 2 時間 12 分 1 時間 19 分 1 運賃 16,540 円 18,020 円 21,000 円 21,300 円 9,420 円 10,170 円 ( 黒字 : 開業前 赤字 : 開業後 ) 1 運賃は大人片道分 ( 指定席 ) 2, 九州新幹線の利用状況九州新幹線の旅客数を図 -2に示す 全線開通以降の旅客数は 東日本大震災の影響を受け3 月の増加率はやや低いものの それ以降は前年同月の旅客数と比較して3 倍以上に増加している 次に JR 西日本 新幹線の博多 ~ 小倉間の旅客数を図 -3に示す 九州新幹線全線開通以降 博多 ~ 小倉間の旅客数も前年の 1.2 倍程度に増加しており 中国地方以東からの 平成 23 年 3 月 12 日全線開通 平成 16 年 3 月 13 日部分開通
図 -2 九州新幹線旅客数の推移 行き来の増加も認められる 図 -3 JR 西日本 新幹線 ( 博多 ~ 小倉間 ) 旅客数の推移 3, 福岡 熊本 鹿児島空港の利用状況 3.1, 福岡空港福岡空港の東京 ( 羽田 ) 中部( 中部 名古屋 ) 関西( 大阪 関西 ) 鹿児島の各路線の旅客数を図 -4に示す 福岡 - 東京 中部 関西 鹿児島の各路線においても 全線開通直後の平成 23 年 3 月 4 月頃に旅客数や前年同月比に減少傾向が確認できる しかしながら 東京 中部 関西については減少傾向にあるものの 6 7 月頃に3 月以前の水準まで回復しているため これらの旅客数の減少は全線開通よるものではなく 東日本大震災による一時的な影響と推察される 一方 福岡 - 鹿児島間の旅客数は平成 23 年 4 月以降 半数以下となっており 回復傾向 (a) 福岡 - 東京 ( 羽田 ) (b) 福岡 - 中部 ( 中部 名古屋 ) (c) 福岡 - 関西 ( 大阪 関西 ) (d) 福岡 - 鹿児島図 -4 福岡空港各路線旅客数の推移
も見られないことから 全線開通の影響を受け旅客数が減少していると考えられる 3.2, 熊本空港熊本空港の東京 ( 羽田 ) 中部( 中部 名古屋 ) 関西( 大阪 神戸 ) の各路線の旅客数を図 -5に示す 熊本 - 東京 中部 関西間の各路線においても 福岡空港と同様に東日本大震災の影響と考えられる一時的な旅客数の減少が確認できるが 九州新幹線全線開通の影響による旅客数の変化は明確ではない 3.3, 鹿児島空港鹿児島空港の東京 ( 羽田 ) 中部( 中部 名古屋 ) 関西( 大阪 神戸 ) の各路線の旅客数を図 -6に示す 鹿児島 - 東京 中部 関西間の各路線においても 福岡 熊本空港と同様に東日本大震災の影響と考えられる一時的な旅客数の減少が確認できるが 九州新幹線全線開通の影響による旅客数の変化は明確ではない (a) 熊本 - 東京 ( 羽田 ) (a) 鹿児島 - 東京 ( 羽田 ) (b) 熊本 - 中部 ( 中部 名古屋 ) (b) 鹿児島 - 中部 ( 中部 名古屋 ) (c) 熊本 - 関西 ( 大阪 神戸 ) 図 -5 熊本空港各路線旅客数の推移 (c) 鹿児島 - 関西 ( 大阪 神戸 ) 図 -6 鹿児島空港各路線旅客数の推移
鹿児島 - 広島西 岡山 高松間の中国 四国地方の路線においては 平成 22 年 10 月より日本航空の会社更生過程に伴い運休している これら各路線においては 平成 22 年度の搭乗率が 40% 代と低迷しており 全線開通によりさらに競争力が落ちることが懸念されたことから運休していると考えられる 同様に 鹿児島 - 長崎間の路線も新幹線開通後の搭乗率が 20% 代と低迷し 平成 24 年 3 月より運休している 4, 交通手段の選択の要因分析九州新幹線開通に伴い 新幹線と航空機に競合関係が生じ 航空旅客数の減少や航路の運休など影響を及ぼしていると明確に確認できる地域は 九州地方内や中国 四国地方に限られ 東京 中部 関西については東日本大震災の影響もあり定かではない しかしながら 九州新幹線及びJR 西日本新幹線旅客数の増加は明らかであることから 総旅客数が増加し 結果として交通機関分担率には変化が生じているものと考えられる 既往の知見によれば 新幹線と航空機の交通機関分担率は 鉄道の所要時間で3 時間程度 距離で 700~900 km程度で同程度になるとされている そのような範囲に該当する熊本 - 大阪間 ( 所要時間 2 時間 59 分 ) と鹿児島 - 大阪間 ( 距離 890 km ) は 航空機が有利な九州 - 東京間 ( 距離 1,000km 以上 ) と比較すると 震災による航空旅客の減少の回復傾向が若干遅いことが確認でき 九州 - 関西間では航空機と新幹線の間で競合関係が生じている可能性が窺える そこで ここでは九州 - 関西間の旅客の交通機関選択の状況やその選択要因について アンケート調査の結果や 交通機関選択モデルの推計などより把握 分析する 4.1, アンケート調査アンケート調査は福岡県 熊本県 鹿児島県在住者に対しては関西 2 府 4 県へ 関西 2 府 4 県在住者に対しては福岡県 熊本県 鹿児島県へ 出張や旅行等で訪問した際に利用した交通機関や新幹線駅 空港までのアクセス条件等をインターネットモニターよりリサーチした 福岡県 熊本県 鹿児島県より関西への移動手段のアンケート調査結果を平成 21 年度旅客地域流動調査の結果と併せて図 -7に示す 上述のとおり 新幹線旅客数の増加による総旅客数の増加により 熊本 鹿児島から関西への新幹線旅客のシェアは全線開通後 20% 程度上昇している よって 九州地域と関西地域の移動において 新幹線と航空機が競合状態にあることがわかる アンケート調査では 交通機関の選択に作用している要因を明らかにするために 選択した交通機関について 速達性 価格の安さ 定時性の高さ 運行時間帯の良さ 運 新幹線航空機その他 新幹線航空機その他 新幹線航空機その他 開通前 75% 16% 9% 開通前 30% 62% 8% 開通前 9% 79% 11% 開通後 67% 17% 16% 開通後 49% 40% 12% 開通後 32% 57% 11% 福岡 関西熊本 関西鹿児島 関西図 -7 九州 - 関西間の移動における交通機関選択状況
運行本数予定変更運行本数予定変更廉価性定時性時間帯快適性廉価性定時性時間帯快適性アクセス性アクセス性運行運行会員会員新幹線差ービス航空機 新幹線差ービス航空機 運行本数予定変更運行本数予定変更廉価性定時性時間帯快適性廉価性定時性時間帯快適性アクセス性アクセス性運行運行会員会員新幹線差ービス航空機 新幹線差ービス航空機 行本数の多さ 予定変更のしやすさ 最寄りの空港 駅へのアクセスの利便性 機内 車内の快適性 会員サービスの有無 の 9 つの事項について関心の高さも調べた 調査方法は 9 項目について 3 点から -3 点までの 7 段階で点数付けをし 関心が高いものには点数が大きくなるような問いとした 9 項目の関心度の調査結果を出張等の業務目的と旅行等の非業務目的に分けて図 -8 に示す 全体的な傾向として 航空機を選択する人は 速達性 に 新幹線を選択する人は 運行本数の多さ や 予定変更のしやすさ に関心が高いことが確認できる また 業務目的で新幹線を利用する人は 定時性の良さ に関心が高く 非業務目的で新幹線を利用する人は 機内 車内の快適性 に関心が高いこと 居住地の違いでは 九州居住者で新幹線を利用する人は 最寄りの空港 駅へのアクセスの利便性 に関心が高いことがわかる 価格の安さ に関してはどの条件においても 関心が高い傾向にあるが 近年は航空規制の緩和等により航空運賃が低廉化し 新幹線運賃と大きな差はなくなっていることから 九州 - 関西間を移動では 航空機の速達性の利点と新幹線の運行本数の多さや予定変更のしやすさの柔軟性の利点を比較して 交通手段を選択していることが推察される 2.5 - - - 速達性サ2.5 - - - 速達性サ業務九州 関西 非業務九州 関西 2.5 - - - 速達性サ2.5 - - - 速達性サ業務関西 九州 図 -8 交通機関選択の関心度 4.2, 非集計ロジットモデルによる九州 ~ 関西間の交通機関選択アンケート調査結果等より入手した各人の居住地や空港 新幹線駅へのアクセス条件 実際に利用した交通機関等の非集計データをもとに 九州 ~ 関西間の新幹線と航空機の交通機関選択モデルを以下のロジットモデルを用いて推計した 非集計行動モデルは 個人が選択可能なものの中から最大の効用を与えるものを選ぶという合理的選択行動を仮定したものである Ui = -a Ti - b Ci - c ATi ( i = 航空機, 新幹線 a,b,c > 0) ( 式 1) Exp( U ) 航空機 P航空機 = ( 式 2) Exp U + Exp U ( ) ( ) 航空機 新幹線 非業務関西 九州
ここで U: 効用 T: 幹線交通に係る所要時間 C: 幹線交通に係る費用 AT: 空港または新幹線駅までの所要時間 P i : 交通機関 i の選択確率とする 推計は業務目的と非業務目的に分けて行った パラメータの推定結果及び時間評価値を表 -2 図-9にそれぞれ示す 業務目的における時間評価値は 幹線交通による所要時間の評価値が約 2,500 円 アクセス時間の評価値が約 3,800 円であり 幹線交通による所要時間の短縮よりもアクセス時間を短縮することの方が 倍程度重要であると考えていることがわかった 非業務目的の移動においては 幹線交通による所要時間の評価値は業務目的と大きな変化はなく約 2,400 円であるが アクセス時間の評価値は業務に比べ 2,000 円程度低くなり約 1,800 円であった 上記の結果及び図 -9 10 に示す新幹線駅 空港までのアクセス手段の状況を踏まえると 熊本県 鹿児島県では新幹線駅へのアクセスに利便性の高い軌道系を用いる人が少なく 空港へのアクセスの利便性と大きな差がないことが 九州の航空旅客を固定化させており 九州新幹線全線開通に伴いシェアは減少するものの 航空旅客数に変化が生じなかった要因の一つであると考えられる 表 -2 パラメータ推定結果幹線交通所要時間評価値アクセス時間評価値 a: 所要時間 ( 単位 :1/ 時間 ) b: 費用 ( 単位 :1/ 千円 ) c: アクセス時間 ( 単位 :1/ 時間 ) 判別的中率 業務 88 0.232 0.881 69% 非業務 27 0.217 0.389 69% 福岡熊本鹿児島関西 24.8 23.1 軌道系 自動車系 その他 66.3 68 65.5 89.3 31.1 2.7 7.3 11.4 8.3 2.4 福岡熊本 5.8 鹿児島 関西 業務 非業務 1,798 2,533 2,433 軌道系自動車系その他 58.3 41 92.7 98.1 47.8 48.8 3,792 0 1,000 2,000 3,000 4,000 ( 円 / 時間 ) 図 -8 交通機関選択の関心度 0.7 3.4 図 -9 新幹線駅までのアクセス手段状況 図 -10 空港までのアクセス手段状況 6, まとめ九州新幹線鹿児島ルートの全線開通後の新幹線及び福岡 熊本 鹿児島空港の利用状況を調査し アンケート調査等より交通機関を選択する要因を分析した その結果 九州地方内や中国 四国地方においては 航空機と新幹線の競合が生じ 航空旅客の大幅な減少や路線の運休などが確認された また 関西地域に関しては新幹線開通の影響による航空旅客の明確な減少は確認できなかったが 新幹線旅客の増加によりシェアが減少し 競合状態となっていることがわかった 九州 - 関西間の業務目的の移動では 最寄りの駅 空港までのアクセス条件が交通機関を選択する要因として大きく アクセス時間評価値は約 3,800 円であった 一方で 非業務目的の移動では アクセス時間評価値は約 1,800 円となり 移動目的により時間評価値が半分となることが確認できた 九州新幹線全線開通の他にも LCCの就航等が旅客の交通機関選択に大きな影響を与えていると考えられ 総合交通体系の最適化を図る国土交通政策に貢献するため 今後より詳細な調査を行っていきたい