今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

生物時計の安定性の秘密を解明

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する


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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

免疫リンパ球療法とは はじめに あなたは免疫細胞 ( 以下免疫と言います ) の役割を知っていますか 免疫という言葉はよく耳にしますね では 身体で免疫は何をしているのでしょう? 免疫の大きな役割は 外から身体に侵入してくる病原菌や異物からあなたの身体を守る ことです あなたの身体には自分を守る 病

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年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

Microsoft PowerPoint - プレゼンテーション1

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

報道関係者各位

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

平成24年7月x日

目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

記 者 発 表(予 定)

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

細胞内で ITPKC の発現とインターロイキン 2 の発現量 過剰だとインターロイキン 2 の発現が低下し (a) 低下させると逆に増加する (b)

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

第6号-2/8)最前線(大矢)


< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

論文の内容の要旨

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

平成24年7月x日

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

核内受容体遺伝子の分子生物学

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

博士学位論文審査報告書

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

スライド 1

タンパク質の合成と 構造 機能 7 章 +24 頁 転写と翻訳リボソーム遺伝子の調節タンパク質の構造弱い結合とタンパク質の機能

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

研究の背景 B 型肝炎ウイルスの持続感染者は日本国内で 万人と推定されています また, B 型肝炎ウイルスの持続感染は, 肝硬変, 肝がんへと進行していくことが懸念されます このウイルスは細胞へ感染後,cccDNA と呼ばれる環状二本鎖 DNA( 5) を作ります 感染細胞ではこの

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

記 者 発 表(予 定)

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

読んで見てわかる免疫腫瘍

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PRESS RELEASE(2015/11/05) 九州大学広報室 819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 MAIL:koho@jimu.kyushu-u.ac.jp URL:http://www.kyushu-u.ac.jp 免疫細胞が自分自身を攻撃しないために必要な新たな仕組みを発見 - 自己免疫疾患の発症機構の解明に期待 - 概要九州大学生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授 同大学院生の柳原豊史らの研究グループは T 細胞 ( 1) と呼ばれる白血球が 自分の身体を攻撃しない 免疫寛容 という機能を獲得するために必要な新たな仕組みを発見しました 免疫反応が本来攻撃しないはずの自己組織に向けられると 自己免疫疾患 ( 2) が発症します この自己組織への攻撃をしないように T 細胞を教育する場所が胸腺と呼ばれる組織ですが どのような仕組みでこの教育が行われているのか 解明されていませんでした 研究グループは 胸腺を形作り T 細胞を教育する役割を持つ 胸腺上皮細胞に発現している Jmjd6 というタンパク質に注目し その役割を解析しました その結果 Jmjd6 がないと Aire( 3) という 免疫寛容を誘導する役割を持つタンパク質の発現が著しく抑制されることを見出しました 更に詳細な解析の結果 Jmjd6 が従来知られている制御方法とは異なり イントロン残存 ( 4) という転写後の調節を介して Aire タンパク質の発現レベルをコントロールしていることを突き止めました この知見により 自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進することが期待されます 本研究成果は 2015 年 11 月 4 日 ( 水 ) 午前 10 時 ( 英国時間 ) に英国科学雑誌 Nature Communications オンライン版に掲載されました 背景免疫反応は病原体や異物の侵入 あるいはがん細胞から自分の身体を守るために必要な仕組みです 例えばハシカに一度かかると二度とかからないのも 免疫が働いているおかげです しかし 免疫反応が過剰な反応をしたり 守るはずの自己組織を攻撃したりすると アレルギーあるいは自己免疫疾患の原因となります 自己組織を攻撃しないように T 細胞を教育する場所が胸腺と呼ばれる組織ですが どのような仕組みで行われているのか 解明されていませんでした Jmjd6 は広義の酸化還元反応を司るタンパク質です 近年 Jmjd6 はタンパク質のリジン残基を水酸化する酵素として働くことが報告されています しかしながら Jmjd6 欠損マウスは生後直後に死んでしまうので 生体における機能は長らく不明でした 内容研究グループは 胸腺を形作り T 細胞を教育する役割を持つ胸腺上皮細胞に Jmjd6 が発現していることを見出しました そこで 胸腺上皮細胞における機能を調べるために Jmjd6 を発現しないように遺伝子操作したマウス (Jmjd6 ノックアウトマウス ) の胎児から胸腺を取り出し 胸腺のないヌードマウスに移植して解析しました Jmjd6 を欠損した胸腺を移植したヌードマウス ( ヌード Jmjd6 欠損型と呼ぶ ) では 野生型の胸腺を移植したヌードマウス ( ヌード野生型と呼ぶ ) と同様に 身体のリンパ組織には分化した T 細胞が出現していました ( 図 1) しかしながら興味深いことに ヌード Jmjd6 欠損型は胃や唾液腺 膵臓といった多臓器に炎症細胞が浸潤していました ( 図 2A) 更にはヌード Jmjd6 欠損型の血液中には 自己の組織に反応する自己抗体が存在しており ( 図 2B) 自己免疫疾患を発症していました さらに詳しく解析したところ Jmjd6 欠損した胸腺では 胸腺上皮細胞の成熟は野生型と変わらないものの 免疫寛容誘導に重要な Aire タンパク質の発現が著しく低下していることを見出しました ( 図 3) そこで そのメカニズムを探索したところ Jmjd6 がないと Aire のイントロン 2 が残存する傾向にある事が分かりました ( 図 4) このイントロン残存により終止コドン ( タンパク質合成を終了させる働きを持つ塩基配列 ) が途中で出現するため 成熟した Aire タンパク質が出来ないのです

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウスに移植すると野生型同様に T 細胞が分化する Jmjd6 欠損した胸腺を移植したヌードマウスは 野生型の胸腺を移植したヌードマウスと同様に 末梢に分化した T 細胞が出現する 図 2 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウスに移植すると自己免疫疾患を発症する A:Jmjd6 欠損した胸腺を移植したヌードマウスは 胃や唾液腺 膵臓といった多臓器に炎症細胞が浸潤している 矢印は浸潤している炎症細胞を示す B:Jmjd6 欠損した胸腺を移植したヌードマウスの血液中には 自己の組織に反応する自己抗体が存在している 胸腺を移植したヌードマウスの血清を 別のヌードマウスの組織に反応させ 洗い流した後に 組織に結合している自己抗体を検出した

図 3 Jmjd6 欠損した胸腺では Aire の発現が著しく低下する 胎生 15 日の胸腺では Aire はまだ発現していない そこに Aire を誘導する因子やタンパク質 (RANKL CD40L) 抗体 ( 抗 LtβR 抗体 ) の刺激を加えると 野生型では Aire の発現が誘導される しかし Jmjd6 欠損型の胸腺では いかなる刺激下でも Aire の発現が著しく低下している UEA-1: 胸腺髄質上皮細胞のマーカー 図 4 Jmjd6 欠損すると Aire のイントロン 2 が残存する A: Jmjd6 を欠損した胸腺上皮細胞では Aire のイントロン 2 が残存している RNA シークエンスで得られたデータを解析し Aire の遺伝子情報に照らし合わせて遺伝子マップ上に可視化した B: Jmjd6 を欠損した胸腺上皮細胞では イントロン 2 が残存することにより 成熟した Aire mrna の割合が 41.6% から 18.6% に減少する RANKL で刺激した胸腺上皮細胞から得られたサンプルを用いて Aire の転写産物を 野生型と Jmjd6 欠損型間で比較した

図 5 Jmjd6 による自己免疫寛容を誘導する分子メカニズム 胸腺における Jmjd6 の機能を模式的に示す 胸腺髄質上皮細胞に RANKL などの刺激が加わることで Aire の mrna 前駆体が生成される Jmjd6 の存在下では Aire のイントロン 2 もスプライシングされ 成熟 Aire タンパク質が発現する この結果 種々の組織特異抗原が発現し それに強く反応する自己反応性 T 細胞が除去される Jmjd6 がないと Aire のイントロン 2 は残存し 成熟 Aire タンパク質が発現しない そのため 組織特異抗原も発現せず 自己反応性 T 細胞が除去されずに胸腺から脱出し 多臓器における自己免疫疾患を引き起こす < 用語解説 > ( 1)T 細胞 : 白血球の一種で 免疫応答の司令塔としての役割を持つ 胸腺 (thymus) で分化 選択されるため 頭文字を取って T 細胞と名付けられた 異物を見つけた T 細胞は活性化し 他の専門的な白血球の細胞に司令を出したり 直接異物を排除したりする ( 2) 自己免疫疾患 : 異物を認識し排除するための免疫系が 自己の細胞や組織に対して過剰に反応し攻撃してしまうことで症状を起こす疾患の総称 関節リウマチや全身性エリテマトーデス (SLE) などの膠原病や 潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患も含まれる ( 3)Aire (Autoimmune regulator): 胸腺髄質上皮細胞に発現している 核内転写因子 身体の様々な細胞 組織で発現している組織特異抗原の発現を胸腺髄質上皮細胞で誘導し それに強く反応する自己反応性 T 細胞を細胞死に導くことで除去する役割を持つ ( 4) イントロン :DNA から転写されるが 最終的に機能する転写産物から除去される塩基配列で タンパク質に翻訳されない 一方 転写された後に除去されず 最終的にタンパク質に翻訳される部位をエクソンと呼ぶ また DNA からの転写過程において 部位 組み合わせが異なった転写産物を作ることを選択的スプライシングと呼び イントロン残存 は選択的スプライシングの種類の 1 つで 最も頻度の低い形態

論文名 Intronic regulation of Aire expression by Jmjd6 for self-tolerance induction in the thymus (Jmjd6 は胸腺において イントロンによる Aire の発現制御を介して自己免疫寛容を誘導する ) 雑誌名 :Nature Communications doi: 10.1038/NCOMMS9820 お問い合わせ 九州大学生体防御医学研究所免疫遺伝学分野主幹教授福井宣規 ( ふくいよしのり ) 電話 :092-642-6827 FAX:092-642-6829 Mail:fukui@bioreg. kyushu-u.ac.jp