平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

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平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

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資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

平成16年年金制度改正における年金財政のフレームワーク

参考資料

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150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

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( 参考 ) 平成 29 年度予算編成にあたっての財務大臣 厚生労働大臣の合意事項 ( 平成 29 年 12 月 19 日大臣折衝事項の別紙 ) < 医療制度改革 > 別紙 (1) 高額療養費制度の見直し 1 現役並み所得者 - 外来上限特例の上限額を 44,400 円から 57,600 円に引き上

Microsoft PowerPoint - (参考資料1)介護保険サービスに関する消費税の取扱い等について

労災年金のスライド

厚生年金上限引上げ、法人税率引下げを一部相殺

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第 50 号 2016 年 10 月 4 日 企業年金業務室 短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大及び厚生年金の標準報酬月額の下限拡大に伴う厚生年金基金への影響について 平成 28 年 9 月 30 日付で厚生労働省年金局から発出された通知 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能

被用者年金一元化パンフ.indd

被用者年金一元化法による追加費用削減について 昨年 8 月に社会保障 税一体改革関連法の一つとして被用者年金一元化法が成立 一元化法では 追加費用財源の恩給期間にかかる給付について 以下の配慮措置を設けた上で 負担に見合った水準まで一律に 27% 減額することとし 本年 8 月まで ( 公布から 1

公的年金制度について 制度の持続可能性を高め 将来の世代の給付水準の確保等を図るため 持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく社会経済情勢の変化に対応した保障機能の強化 より安全で効率的な年金積立金の管理及び運用のための年金積立金管理運用独立行政法人の組織等の見直し等の

第 9 回社会保障審議会年金部会平成 2 0 年 6 月 1 9 日 資料 1-4 現行制度の仕組み 趣旨 国民年金保険料の免除制度について 現行制度においては 保険料を納付することが経済的に困難な被保険者のために 被保険者からの申請に基づいて 社会保険庁長官が承認したときに保険料の納付義務を免除す

任意継続被保険者制度について

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年金部会ワーキングチームの進め方について

被用者保険の被保険者の配偶者の位置付け 被用者保険の被保険者の配偶者が社会保険制度上どのような位置付けになるかは 1 まず 通常の労働者のおおむね 4 分の 3 以上就労している場合は 自ら被用者保険の被保険者となり 2 1 に該当しない年収 130 万円未満の者で 1 に扶養される配偶者が被用者保

政策課題分析シリーズ16(付注)

退職後の健康保険の任意継続ってなに?

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

記 1 標準報酬月額の決定に係る制度の概要 (1) 定時決定保険者等 ( 被保険者が 全国健康保険協会が管掌する健康保険の被保険者である場合は厚生労働大臣 健康保険組合が管掌する健康保険の被保険者である場合は当該健康保険組合をいう 以下同じ ) は 健康保険法 ( 大正 11 年法律第 70 号 )

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金のみの場合は年収 28 万円以上 1 年金収入以外の所得がある場合は合計所得金額 2 16 万円以上が対象となる ただし 合計所得金額が16 万円以上であっても 同一世帯の介護保険の第 1 号被保険者 (65 歳以上 ) の年金収入やその他の合計所得が単身世帯で28 万円 2 人以上世帯で346

34(30) 等級の 報酬月額 欄は 厚生年金保険の場合 605,000 円以上 と読み替えて下さい 4. 平成 27 年度における協会けんぽの任意継続被保険者の標準報酬月額の上限は 280,000 円です 5. 健康保険組合に加入する方の健康保険料額については 加入する健康保険組合へお問い合わせ下

平成25年4月から9月までの年金額は

別紙 1 健康保険料 介護保険料 厚生年金保険料 子ども 子育て拠出金 1. 複数資金間での負担配分について (1) 複数の外部資金間での負担配分当該外部資金管理者間の調整により任意に負担割合等を決定する (2) 外部資金と経常費間での負担配分 A. 外部資金による常勤の雇用者に経常費による手当支給

【事務連絡】「高額療養費制度の見直しに関するQ&A」の送付について

無年金・低年金の状況等について

標準例6

< 現行 > 対象者医療区分 Ⅰ(Ⅱ Ⅲ 以外の者 ) 1 * 医療の必要性の低い者医療区分 Ⅱ Ⅲ 1 2 * 医療の必要性の高い者 ( 指定難病患者を除く ) 3 指定難病患者 2 生活療養標準負担額のうちにかかる部分 1 日につき32 1 日につき 1 日につき < 見直し後 > 対象者医療区

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

被用者年金一元化法

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

厚生年金 健康保険の強制適用となる者の推計 粗い推計 民間給与実態統計調査 ( 平成 22 年 ) 国税庁 5,479 万人 ( 年間平均 ) 厚生年金 健康保険の強制被保険者の可能性が高い者の総数は 5,479 万人 - 約 681 万人 - 約 120 万人 = 約 4,678 万人 従業員五人

2. 改正の趣旨 背景給与所得控除額の変遷 1 昭和 49 年産業構造が転換し会社員が急速に増加 ( 働き方が変化 ) する中 (1) 実際の勤務関連経費が給与所得控除を上回っても 当時は特定支出控除 ( 昭和 63 年導入 ) がなく 会社員は実際の勤務関連経費がいくら高くても実額控除できなかった

任意継続被保険者制度について

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別紙2

労働法令のポイント に賞与が分割して支払われた場合は 分割した分をまとめて 1 回としてカウントし また 臨時的に当該年に限り 4 回以上支払われたことが明らかな賞与については 支払い回数にカウントしない ( 賞与 として取り扱われ に該当しない ) ものとされている 本来 賞与 として取り扱われる

<本調査研究の要旨>

2 事務取扱の ( 様式 2) の裏面の 2 ( 変更前 ) 2 短時間就労者 ( パート アルバイト等 ) の場合は 本年 4 月 ~6 月の合計額 平均額 には 支払基礎日数が 17 日以上あればその月の報酬の合計額 平均額を記入してください 17 日以上の月がなければ 15 日以上の月の報酬の

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第3回税制調査会 総3-2

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大金問発第   号

2 事務取扱の ( 様式 2) の裏面の 2 ( 変更前 ) 2 短時間就労者 ( パート アルバイト等 ) の場合は 本年 4 月 ~6 月の合計額 平均額 には 支払基礎日数が17 日以上あればその月の報酬の合計額 平均額を記入してください 17 日以上の月がなければ 15 日以上の月の報酬の合

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260401【厚生局宛て】施行通知

厚生年金の適用拡大を進めよ|第一生命経済研究所|星野卓也

参考資料

2. 年金改定率の推移 2005 年度以降の年金改定率の推移をみると 2015 年度を除き 改定率はゼロかマイナスである ( 図表 2) 2015 年度の年金改定率がプラスとなったのは 2014 年 4 月の消費税率 8% への引き上げにより年金改定率の基準となる2014 年の物価上昇率が大きかった

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財政再計算に向けて.indd

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

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Microsoft Word ①概要(整備令)

固定資産税の課税のしくみ < 評価額と課税標準額と税額の推移 > ( 土地編 ) 課税標準額 評価額 税 額 なぜ, 地価が下落しているのに, 土地の固定資産税が上昇するの!? 2 なぜ, 平成 6 年評価額が急激に上昇したの!? 3 < 公的土地評価相互の均衡と適正化 > < 地価公示価格の一定割

女性が働きやすい制度等への見直しについて

一元化後における退職共済年金および老齢厚生年金の在職支給停止 65 歳未満の場合の年金の支給停止計算方法 ( 低在老 ) 試算表 1 年金と賃金の合算額が 28 万を超えた場合に 年金額の支給停止 ( これを 低在老 といいます ) が行われます 年金と賃金の合算額 (c) が 28 万以下の場合は

あっせん文(国民健康保険における限度額適用・標準負担額減額認定証 の申請に係る被保険者の負担軽減)

12 ページ, 図表 ,930 円 保険料納付済月数 + 全額免除月数 1/2+4 分の 3 免除月数 5/8+ 半額免除月数 3/4+4 分の 1 免除月数 7/8 ( 出所 ) 厚生労働省 老齢年金ガイド平成 2730 年度版 より筆者作成 40 年 ( 加入可能年数

付加退職金の概要 退職金の額は あらかじめ額の確定している 基本退職金 と 実際の運用収入等に応じて支給される 付加退職金 の合計額として算定 付加退職金は 運用収入等の状況に応じて基本退職金に上乗せされるものであり 金利の変動に弾力的に対応することを目的として 平成 3 年度に導入 基本退職金 付

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

2.5% % 1 88,000 ~ 93,000 13, , ,000 93,000 ~ 101,000 15, , , ,000 ~ 107,000 16, , ,00

第2回税制調査会 総2-2

301121答申件数表

Microsoft PowerPoint - 老後の年金格差(前半)HP用

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Microsoft Word - "ç´ıå¿œçfl¨ docx

時効特例給付制度の概要 制度の概要 厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律 ( 平成 19 年 7 月 6 日施行 ) に基づき 年金記録の訂正がなされた上で年金が裁定された場合には 5 年で時効消滅する部分について 時効特例給付として給付を行うこととされた 法施行前

消費税 5% 引上げによる社会保障制度の安定財源確保 消費税率 ( 国 地方 ) を 2014 年 4 月より 8% へ 2017 年 4 月より 10% へ段階的に引上げ 消費税収の使い途は 国分については これまで高齢者 3 経費 ( 基礎年金 老人医療 介護 ) となっていたが 今回 社会保障

Microsoft PowerPoint 徴収一元化

費用負担のあり方 1. 介護保険制度における費用負担 介護保険制度は 制度創設時において 介護サービスの財源を安定的に確保していくためには 給付と負担の関係が明確で 負担について国民の理解を得やすい社会保険方式とすることとし 介護サービスの地域性や地方分権の流れ等も踏まえ 国民に最も身近な行政単位で

健保連共同システム 法改正・機能拡張対応について

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4月20日(水)衆・厚労委 古屋範子議員の議事録(抜粋)

⑵ 外来年間合算の支給額計算の基礎となる合算対象額は 基準日において 同一保険者の同一世帯に属しているか否かにより判断されます ( 例 ) 下記の事例の場合 基準日において 甲と乙が同一世帯であれば 3 と 4 は合算できるが 甲と乙が別世帯であれば 3 と 4 は合算できない 基準日保険者である

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

☆表紙・目次 (国会議員説明会用:案なし)

や 給付の重点化 効率化等に関する改革項目が挙げられている 今後 社会保障 税一体改革の関連法案が国会へ提出される予定である 2011 年度の社会保障給付費は107.8 兆円となる見込みである 内訳は 年金 53.6 兆円 ( 社会保障給付費全体の49.7%) 医療 33.6 兆円 ( 同 31.2

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持続可能な公的年金制度における

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重点検討施策の現状と課題(社会保障)

自分にあった健康保険を見つけよう! それぞれの健康保険の特徴を踏まえ 自分にあった健康保険を選ぶようにしましょう! 今までの収入 扶養家族の有無によって どの健康保険に加入するとメリットがあるか 参考にしてください 健康保険の被保険者資格を喪失 再就職しない 再就職する 就職先の健康保険に加入できな

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Transcription:

第 5 回社会保障審議会年金部会平成 23 年 10 月 31 日資料 2 標準報酬上限の引上げについて

1. 標準報酬月額上限の経緯について (1) 標準報酬月額について 標準報酬月額とは 健康保険や厚生年金保険などの社会保険の保険料と年金給付額等を算出する基礎として 事務処理の正確化と簡略化を図るために 実際の報酬月額を当てはめる切りの良い額のこと 具体的には 健康保険は 58,000 円 ~1,210,000 円の 47 等級 厚生年金は 98,000 円 ~620,000 円の 30 等級に分かれており 該当する標準報酬月額に保険料率を掛け合わせることで支払うべき保険料額を算定するとともに 標準報酬月額の記録をもとに年金給付額や傷病手当金額等を算定する ( 例 ) 実際の月収 ( 諸手当を含む ) が 35 万円 ~37 万円である人 36 万円の標準報酬月額に該当 ( 厚生年金 : 第 21 級 健康保険 : 第 25 級 ) 自身の給料から月々天引きされる保険料は 厚生年金の場合 36 万円 16.412%( 厚生年金保険料率 ) 1/2( 労使折半による )= 約 3 万円となる また 老齢厚生年金の給付額は 36 万円の標準報酬月額に 40 年間該当し続けた場合 約 10 万円となる いずれも平成 23 年 9 月時点の水準 厚生年金の標準報酬月額の上限 (620,000 円 ) 下限 (98,000 円 ) は 高所得であった人に対する年金額があまり高くならないようにする観点 及び 低所得であった人に対しても一定以上の給付を確保する観点から 健康保険の標準報酬月額の上限 (1,210,000 円 ) 下限 (58,000 円 ) より狭い範囲に設定されている 1 ( 例 ) 厚生年金の制度では 実際の報酬月額が 100 万円である人は 62 万円の標準報酬月額 ( 上限 ) に該当する 実際の報酬月額が 8 万円である人は 9.8 万円の標準報酬月額 ( 下限 ) に該当する

( 参考 ) 年金と健康保険の標準報酬月額の上限 下限 等級数の変遷 ( 昭和 48 年以降 ) 年金 健康保険 上限 下限 等級数 上限 下限 等級数 昭和 48 年 200,000 20,000 35 200,000 20,000 35 昭和 51 年 320,000 30,000 36 320,000 30,000 36 昭和 53 年 380,000 30,000 39 昭和 55 年 410,000 45,000 35 昭和 56 年 470,000 30,000 42 昭和 59 年 710,000 68,000 39 昭和 60 年 470,000 68,000 31 平成元年 530,000 80,000 30 平成 4 年 980,000 80,000 42 平成 6 年 590,000 92,000 30 980,000 92,000 40 平成 12 年 620,000 98,000 30 平成 13 年 980,000 98,000 39 平成 19 年 1,210,000 58,000 47 2

(2) 現行制度の標準報酬月額の上限改定の考え方について 標準報酬月額の上限が設けられている理由について 標準報酬に上限が設けられているのは 高額所得者および事業主の保険料負担に対する配慮および保険料給付額の上での格差があまりに大きくならないようにするためである ( 有泉亨 中野徹雄編 全訂社会保障関係法 1 厚生年金保険法 ( 昭和 57 年 ) より抜粋 ) 現行制度の標準報酬月額上限改定の考え方について ( 平成 16 年改正後 ) 厚生年金保険法第 20 条第 2 項において 年度末における全厚生年金被保険者の標準報酬月額の平均額の 2 倍に相当する額が標準報酬月額等級の最高等級の標準報酬月額を上回り その状態が継続すると認められる場合には 政令で 最高等級の上に等級を追加することができることとされている ( 参考 ) 厚生年金保険法 ( 昭和 29 年法律第 105 号 )( 抄 ) 第 20 条 2 毎年 3 月 31 日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額の 100 分の 200 に相当する額が標準報酬月額等級の最高等級の標準報酬月額を超える場合において その状態が継続すると認められるときは その年の 9 月 1 日から 健康保険法 ( 大正 11 年法律第 70 号 ) 第 40 条第 1 項に規定する標準報酬月額の等級区分を参酌して 政令で 当該最高等級の上に更に等級を加える標準報酬月額の等級区分の改定を行うことができる 3

(3) 標準報酬月額の上限改定の考え方の経緯 制度発足以来 上限改定に関する明確な基準は設けられていなかったが 昭和 44 年改正以降は 被保険者の約 95% が上下限を除いた標準報酬月額に該当するよう改定することとした その後 昭和 60 年改正において 過剰給付を抑制する観点から 男子被保険者の平均標準報酬月額の概ね 2 倍となるように設定する考え方に改められ 平成元年改正以後は 女子も含めた被保険者全体の平均標準報酬月額の概ね 2 倍となるように設定する考え方に改められた さらに 平成 16 年改正においては 5 年ごとの財政再計算に伴う法律改正が予定されなくなったことから この考え方を法律に規定し 政令で上限を追加することを可能とした ( 参考 ) 標準報酬月額の上限設定の考え方 改正年月標準報酬月額の上限考え方 4 昭和 29 年 5 月 1.8 万円 (12 級 ) 35 年 5 月 3.6 万円 (20 級 ) 40 年 5 月 6 万円 (23 級 ) 44 年 11 月 10 万円 (28 級 ) 46 年 11 月 13.4 万円 (33 級 ) 48 年 11 月 20 万円 (35 級 ) 51 年 8 月 32 万円 (36 級 ) 55 年 10 月 41 万円 (35 級 ) 賃金の水準 被保険者の報酬の分布状況等を勘案して決定 最高等級に包括される被保険者が全体の 5% 前後 また 平均賃金の 2 倍を上限とする諸外国の例等を勘案 前回改正以後の賃金上昇を勘案して 被保険者の約 95% が上限と下限を除いた標準報酬に該当するように改定 60 年 10 月 47 万円 (31 級 ) 男子被保険者の平均標準報酬月額の概ね2 倍となるよう設定 平成元年 12 月 53 万円 (30 級 ) 6 年 11 月 59 万円 (30 級 ) 女子も含めた現役被保険者全体の平均標準報酬月額の概ね2 倍となるように設定 12 年 10 月 62 万円 (30 級 ) 16 年 10 月 62 万円 (30 級 ) 上記改定ルール ( 現役被保険者の平均標準報酬月額の概ね2 倍に当たる額を基準に改定 ) を法定化

標準報酬月額別被保険者数 ( 平成 21 年度末現在 ) 標準報酬月額ごとの被保険者数分布をみると 厚生年金の被保険者約 3400 万人中 約 210 万人 ( 約 6.2%) が上限の 62 万円に該当し その下の等級と比べて多くの被保険者が該当している 標準報酬月額 被保険者数 割合 標準報酬月額 被保険者数 割合 ( 万円 ) ( 人 ) (%) ( 万円 ) ( 人 ) (%) 9.8 463,362 1.35 26.0 2,297,230 6.71 10.4 105,645 0.31 28.0 1,981,299 5.79 11.0 198,771 0.58 30.0 1,937,233 5.66 11.8 357,699 1.04 32.0 1,576,514 4.60 12.6 424,768 1.24 34.0 1,381,142 4.03 13.4 559,279 1.63 36.0 1,311,207 3.83 14.2 632,013 1.85 38.0 1,335,776 3.90 15.0 925,688 2.70 41.0 1,436,166 4.19 16.0 969,962 2.83 44.0 1,114,629 3.25 17.0 1,027,369 3.00 47.0 874,195 2.55 18.0 1,130,465 3.30 50.0 813,285 2.37 19.0 1,100,436 3.21 53.0 573,125 1.67 20.0 1,983,254 5.79 56.0 467,011 1.36 22.0 2,406,044 7.03 59.0 420,675 1.23 24.0 2,317,823 6.77 62.0 2,125,501 6.21 計 34,247,566 100.00 5 平成 21 年度厚生年金保険 国民年金事業年報

標準報酬月額の上限に該当する被保険者の割合 標準報酬月額の上限に該当する被保険者 ( 男女計 ) の割合については 昭和 60 年改正以後は 6~ 7% で推移している 標準報酬月額上限 標準報酬月額の上限の変遷と上限に該当する被保険者の割合 全被保険者に対する上限該当者の割合 標準報酬月額の平均額 昭和 51 年度末 32 万円 3.98% 142,944 円昭和 51 年改正 ( 同年 8 月施行 ) により上限 20 万円から 32 万円に引上げ 昭和 55 年度末 41 万円 4.82% 188,534 円昭和 55 年改正 ( 同年 10 月施行 ) により上限 32 万円から 41 万円に引上げ 昭和 60 年度末 47 万円 6.43% 231,161 円昭和 60 年改正 ( 同年 10 月施行 ) により上限 41 万円から 47 万円に引上げ 平成元年度末 53 万円 6.51% 261,839 円平成元年改正 ( 同年 12 月施行 ) により上限 47 万円から 53 万円に引上げ 平成 6 年度末 59 万円 7.53% 303,611 円平成 6 年改正 ( 同年 11 月施行 ) により上限 53 万円から 59 万円に引上げ 平成 12 年度末 62 万円 6.94% 318,688 円平成 12 年改正 ( 同年 10 月施行 ) により上限 59 万円から 62 万円に引上げ 平成 16 年度末 62 万円 6.73% 313,679 円 平成 17 年度末 62 万円 6.75% 313,204 円 平成 18 年度末 62 万円 6.79% 312,703 円 平成 19 年度末 62 万円 6.79% 312,258 円 平成 20 年度末 62 万円 6.81% 312,813 円 平成 21 年度末 62 万円 6.21% 304,173 円 備考 平成 16 年改正 ( 同年 10 月施行 ) により標準報酬月額の上限の引上げルールが法定化 6 平成 21 年度厚生年金保険 国民年金事業年報

( 参考 ) 健康保険制度における標準報酬月額の上限 健康保険制度における標準報酬月額の上限は 121 万円 ( 上限 121 万円 下限 5.8 万円の全 47 等級 ) 上限の改定ルールについては 最高等級に該当する被保険者の全被保険者に占める割合が 1.5% を超え その状態が継続すると認められる場合には 改定後の最高等級に該当する被保険者の全被保険者に占める割合が 1% を下回らない範囲において 政令で等級を追加できることとなっている 健康保険法改正による見直し ( 平成 19 年 4 月施行 ) 改正前において 標準報酬月額の等級の分布に大きなばらつきがあり 最高等級及び最低等級については その上下の等級と比べて多くの被保険者が該当していたことを踏まえ 上限を 98 万円から 121 万円に引き上げるとともに 下限を 9.8 万円から 5.8 万円に引き下げた 政令による上限の改定ルールについても 改定を行うのは 最高等級に該当する被保険者の全被保険者に占める割合が 3% を超えた場合とされていたが 1.5% に見直した 7 ( 参考 ) 健康保険法 ( 大正 11 年法律第 70 号 )( 抄 ) 第 40 条 2 毎年 3 月 31 日における標準報酬月額等級の最高等級に該当する被保険者数の被保険者総数に占める割合が 100 分の 1.5 を超える場合において その状態が継続すると認められるときは その年の 9 月 1 日から 政令で 当該最高等級の上に更に等級を加える標準報酬月額の等級区分の改定を行うことができる ただし その年の 3 月 31 日において 改定後の標準報酬月額等級の最高等級に該当する被保険者数の同日における被保険者総数に占める割合が 100 分の 1 を下回ってはならない

社会保障審議会年金部会における議論の中間的な整理 - 年金制度の将来的な見直しに向けて -( 抄 ) 平成 20 年 11 月 27 日社会保障審議会年金部会 9. 標準報酬月額の上限の見直し 今回の見直しにより 新たに保険料財源が必要となるものについては 保険料負担が上がるか所得代替率が低下することとなり 現行の平成 16 年改正の年金財政フレームを逸脱することになるので別途の財源対策が必要となる また 現行制度においては 著しく所得の高い者であっても 標準報酬の最高等級に対応する保険料負担しか求められておらず 拠出能力に応じた負担という厚生年金保険料の応能原則が必ずしも貫徹されていない こうしたことから 標準報酬の上限を超える高所得者に 実際の報酬に見合った保険料の負担をしてもらうため 現行の標準報酬の上限を超えた分についても特別に保険料負担を求めることを検討すべきである この場合 現行の標準報酬の最高等級はその下の等級と比べて多くの被保険者が該当している現状や健康保険制度においては平成 19 年 4 月から上限が 98 万円から 121 万円に引き上げられたことに留意しつつ どの程度の保険料負担を求めるべきか考えることが必要である ただし 新たに負担を求めることとした保険料について 現行の算定式の下で給付に反映させた場合には 現役時代の所得格差を年金支給にそのまま持ち込むこととなり 過剰給付との指摘を招くおそれがあるため 米国の公的年金のように給付への反映の仕方に一定の工夫が必要であると考えられる 8 なお 現状でも高所得者は負担した保険料に対して低い水準の年金しか受け取ることができないことから 標準報酬月額の上限の見直しを行うことについては 慎重に検討すべきとの意見があった

2. 社会保障 税一体改革成案における議論等 現行制度の改善事項として 高所得者について 負担能力に応じてより適切な負担を求めていく観点に立ち 厚生年金の標準報酬の上限について 健康保険制度を参考に見直すことを検討すること また 標準報酬上限を引き上げた際の給付への反映の在り方についても検討することを 社会保障改革に関する集中検討会議に厚生労働省案として提出 これを踏まえて 社会保障 税一体改革成案において 標準報酬上限の引上げ が盛り込まれ 工程については 2012 年以降速やかに法案提出 することとされた 9

3. 標準報酬月額上限引上げの論点 標準報酬月額上限を引き上げることにより 負担能力のある被保険者に対して 現在より多くの負担を求めることについてどう考えるか 標準報酬月額上限を引き上げた際に 給付への反映方法はどのように考えるか 標準報酬月額上限を引き上げることによる年金財政への影響及び事業主負担への影響をどう考えるか 10

標準報酬月額上限を引き上げることにより 負担能力のある被保険者に対して 現在より多くの負担を求めることについてどう考えるか 標準報酬月額の上限を引き上げることで 負担能力に応じた保険料負担を求めるという応能負担の考え方を強めることについて どう考えるか 厚生年金における標準報酬月額の上限が健康保険より低いのは 厚生年金の場合は 納付された保険料に応じて将来給付が決まることから 現役時代の所得格差を年金支給にそのまま持ち込まないようにするとともに 公的年金として過剰な給付水準にならないようにするという目的もあることを どう考えるか 標準報酬月額上限を引き上げた際に 給付への反映方法はどのように考えるか 後世代の負担が可能な 公的年金としての適正な給付水準とすることを一つの目的として標準報酬月額に一定の上限を設けているが 標準報酬月額の上限を引き上げる際に 米国の年金制度のように 高所得に対応する部分 ( 引き上げ対象部分 ) について 給付への反映を小さいものとすることについてどう考えるか ( 注 ) 標準報酬月額上限を仮に健康保険に合わせることにすると 上限は 121 万円となるが この上限に該当する者を年収に換算すると約 1900 万円となる この上限に 40 年間該当した場合の年金給付額は 単身 月額で約 40.4 万円と見込まれる ( 標準報酬月額 62 万円の場合には 約 23.9 万円 ) また この際の保険料負担 ( 労使折半 ) は年間約 296 万円である ( 標準報酬月額 62 万円の場合には 約 152 万円 ) 11

標準報酬月額上限を引き上げることによる年金財政への影響及び事業主負担への影響をどう考えるか 標準報酬月額上限を引き上げることにより 次のような影響があることに考慮して検討すべきではないか 1 年金財政に対して 当面は保険料収入が増加し そして 将来的には給付が発生することにより増収効果が薄れることとなる ( ただし増収とはなる ) 2 標準報酬月額の上限を引き上げる際に 全額は給付に反映しない方法をとる場合には 年金財政にとって増収効果が大きくなる 3 標準報酬月額上限を引き上げることにより 所得の高い者を多く雇用する事業主の負担が増える 12