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33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

福島県のがん死亡の年次推移 福島県におけるがん死亡数は 女とも増加傾向にある ( 表 12) 一方 は 女とも減少傾向にあり 全国とほとんど同じ傾向にある 2012 年の全のを全国と比較すると 性では高く 女性では低くなっている 別にみると 性では膵臓 女性では大腸 膵臓 子宮でわずかな増加がみられ

口腔がん登録 Q&A Ver /11/21 用語 定義に関する Q&A Q1.本調査に関する各用語の定義を教えてください 下記の図表を参照してください 各用語の定義等について 口腔内 口唇 口腔 顎骨中心性 UICCの Lip & Oral cavity 顎骨中心性) 舌 可動部 上顎

が 6 例 頸部後発転移を認めたものが 1 例であった (Table 2) 60 分値の DUR 値から同様に治療後の経過をみると 腫瘍消失と判定した症例の再発 転移ともに認めないものの DUR 値は 2.86 原発巣再発を認めたものは 3.00 頸部後発転移を認めたものは 3.48 であった 腫瘍

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IARC/IACRにおける多重がんの判定規則改訂版のお知らせ

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1981 年 男 全部位 C00-C , , , , ,086.5 口腔 咽頭 C00-C

頭頚部がん1部[ ].indd

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

Microsoft PowerPoint 病期分類概論 ppt[読み取り専用]

8 整形外科 骨肉腫 9 脳神経外科 8 0 皮膚科 皮膚腫瘍 初発中枢神経系原発悪性リンパ腫 神経膠腫 脳腫瘍 膠芽腫 頭蓋内原発胚細胞腫 膠芽腫 小児神経膠腫 /4 別紙 5( 臨床試験 治験 )

9章 その他のまれな腫瘍

がん登録実務について

表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

明海大学歯学雑誌 40‐2☆/1.前川

1)表紙14年v0

7. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : グループ指定により対応しているがん : 診療を実施していないがん 別紙 に入力したが反映されています 治療の実施 ( : 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 集学的治療 標準的治療の提供体制 : : グループ指定により対応 ( 地域がん診療病

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平成29年度沖縄県がん登録事業報告 背表紙印字

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北海道医療大学歯学部シラバス

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

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1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

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00467TNM悪性腫瘍の分類日本語版第7版

プログラム テーマ 中咽頭 (13 : : 45) 1 13 : : 35 : CQ1 : HPV CQ2 : : : 40 : CQ3 : CQ4 : : : 45 : CQ5 :

A 2010 年山梨県がん罹患数 ( 全体 )( 件 ) ( 上皮内がんを除く ) 罹患数 ( 全部位 ) 5,6 6 男性 :3,339 女性 :2,327 * 祖父江班モニタリング集計表から作成 * 集計による主ながんを表示

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性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房

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小児がん中央機関からの報告 1 情報提供 ( 院内がん登録 ) 国立がん研究センターがん対策情報センター センター長若尾文彦 1

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スライド タイトルなし

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

院内がん登録について 院内がん登録とは がん ( 悪性腫瘍 ) の診断 治療 予後に関する情報を収集 整理 蓄積し 集計 解析をすることです 登録により収集された情報は 以下の目的に使用されます 診療支援 研修のための資料 がんに関する統計資料 予後調査 生存率の計測このほかにも 島根県地域がん登録

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実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

院内がん登録について 院内がん登録とは がん ( 悪性腫瘍 ) の診断 治療 予後に関する情報を収集 整理 蓄積し 集計 解析をすることです 登録により収集された情報は 以下の目的に使用されます 診療支援 研修のための資料 がんに関する統計資料 予後調査 生存率の計測このほかにも 島根県地域がん登録

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1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

< 高知県立幡多けんみん病院 年院内がん登録 ( 詳細 )> 性 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 9~ 総計件数比率 口腔 咽頭食道胃結腸直腸肝臓胆嚢 胆管膵臓喉頭肺骨 軟部皮膚乳房子宮頸部子宮体部卵巣前立腺膀胱腎 他の尿路 女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房 全体

日産婦誌61巻4号研修コーナー

43048腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約第1版 追加資料

目 次 統計の説明 部位( 中分類 ) 別男女別腫瘍数 1 部位別腫瘍数 < 総数グラフ> 2 部位別腫瘍数 < 男性グラフ> 3 部位別腫瘍数 < 女性グラフ> 4 部位( 中分類 ) 別年齢階層別腫瘍数 5 部位( 中分類 ) 別来院経路別腫瘍数 6 来院経路別腫瘍数 <グラフ> 7 部位( 中

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ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

目 次 統計の説明 部位( 中分類 ) 別男女別腫瘍数 1 部位別腫瘍数 < 総数グラフ> 2 部位別腫瘍数 < 男性グラフ> 3 部位別腫瘍数 < 女性グラフ> 4 部位( 中分類 ) 別年齢階層別腫瘍数 5 部位( 中分類 ) 別来院経路別腫瘍数 6 来院経路別腫瘍数 <グラフ> 7 部位( 中

各医療機関が専門とするがんに対する診療機能 1. 肺がん 治療の実施 (: 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 当該疾患を専門としている 開胸 胸腔鏡下 定位 小線源治療 1 呼吸器内科 8 2 呼吸器外科 3 3 腫瘍内科 放射線治療科 1 グループ指定を受ける施設との連携 昨年

第58回日本臨床細胞学会 Self Assessment Slide

院内がん登録集計報告

小児 AYA 世代のがん罹患 国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計 総合解析研究部 1

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H27栃木県のがんH27.indd

D. 感染症 E. 溶血性貧血 F. ( 骨 ) 髄外造血 G. 膠原 ( 血管 ) 病 H. 脾損傷 I. その他 1. サルコイドーシス約 60% に脾腫 造影により 2~3cm 大の多発性結節性病変 石灰化を伴う壊死巣 2. 血液透析充実性脾病変 A. 悪性腫瘍 1. リンパ腫 ( ホジキン病

Squamous papilloma

参考文献 1. Hampe, J.F. and Misdorp, W. (1974) Tumours and dysplasias of the mammary gland. Bull WHO 50: Moulton, JE, (1990) Tumors of the Mamma

を優先する場合もあります レントゲン検査や細胞診は 麻酔をかけずに実施でき 検査結果も当日わかりますので 初診時に実施しますが 組織生検は麻酔が必要なことと 検査結果が出るまで数日を要すること 骨腫瘍の場合には正確性に欠けることなどから 治療方針の決定に必要がない場合には省略されることも多い検査です

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インプラント周囲炎を惹起してから 1 ヶ月毎に 4 ヶ月間 放射線学的周囲骨レベル probing depth clinical attachment level modified gingival index を測定した 実験 2: インプラント周囲炎の進行状況の評価結紮線によってインプラント周囲

スライド 1


インスリン局所注射部の 表在超音波検査について

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

180204がん撲滅VER2資料用

2. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : 診療を実施していないがん ( 診療科ま 医師数 専門として 1 整形外科 2 2 状 績 なし例 : 脊髄腫瘍脊髄腫瘍 治療の実施状況 (: 実施可 /: 実施不可 ) / 昨年の実績 ( あり / なし ) 化学療法体外定位照射 IMRT 小線源治療 あり

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

悪性黒色腫・メラノーマなら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

小児神経芽腫の一例

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

口腔がん はじめに 口腔がんとは 口の中とくちびるにできる がん のことです 口腔がんには舌や歯肉や頬のように口の中の表面を覆っている粘膜に発生するものと口の中に唾液を分泌している唾液腺 ( 耳下腺を除く ) に発生するものが含まれます いずれの場合でも口の中に できもの や しばらく治らない傷や荒

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大腸ESD/EMRガイドライン 第56巻04号1598頁

採択結果

部位別 施設名 総数 がん診療連携拠点病院院内がん登録 2014 年集計 口腔咽頭 食道胃結腸直腸大腸肝臓 胆嚢胆管 膵臓喉頭肺 埼玉県立がんセンター 3, さいたま赤十字病院 1,456-2

268 皮膚癌 手術では大きな欠損を生じる腫瘤径の大きな悪性黒子型黒色腫に対して放射線治療が行われることがある 1) リンパ節に対する予防照射や術後照射は適応に関して議論のあるところであるが,MDACCでは病期 Ⅱ,Ⅲ に対して施行している 2) 骨転移や脳転移に対しては姑息的照射が一般的に行われて

1. 部位別登録数年次推移 表は 部位別に登録数の推移を示しました 2015 年の登録数は 1294 件であり 2014 年と比較して 96 件増加しました 部位別の登録数は 多い順に大腸 前立腺 胃 膀胱 肺となりました また 増加件数が多い順に 皮膚で 24 件の増加 次いで膀胱 23 件の増加

子宮頸がん 1. 子宮頸がんについて 子宮頸がんは子宮頸部に発生するがんです ( 図 1) 約 80% は扁平上皮がんであり 残りは腺がんですが 腺がんは扁平上皮がんよりも予後が悪いといわれています 図 1 子宮頸がんの発生部位 ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染は子宮頸がんのリスク因子です

医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

監修 作成作成ご協力者 氏名 佐々木朗 所属 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腫瘍制御学講座口腔顎顔面外科学分野教授

          

Transcription:

歯学科 4 年生講義歯科放射線学口腔の悪性腫瘍担当 : 林孝文 1. 口腔領域の悪性腫瘍 (1) 疫学口腔領域に発生する悪性腫瘍の約 90% 以上は 病理組織学的には扁平上皮癌である そのほかには 小唾液腺に由来する粘表皮癌や腺様嚢胞癌などの腺系癌 肉腫 悪性リンパ腫 悪性黒色腫 転移性癌などがある 口腔扁平上皮癌は口腔粘膜を母地として 舌 ( 前方 2/3) 頬粘膜 上下顎歯肉 硬口蓋 口底に発生したものであるが 口唇と中咽頭 ( 口峡咽頭 ) を含める場合もある さらに 上下咽頭 上顎洞 鼻腔 喉頭 唾液腺などを含めた場合には 頭頸部扁平上皮癌と表現される 中咽頭には 舌根 ( 舌後方 1/3) 軟口蓋 扁桃 口蓋弓が含まれる 口腔扁平上皮癌の罹患患者数は全癌の 1% 程度を占めるとされ 最も多いのが舌癌で 60% 程度 次に下顎歯肉癌 口底 頬粘膜でいずれも 10% 前後 さらに上顎歯肉 硬口蓋が続く (2) 病期分類悪性腫瘍は その臨床所見から病期分類が行われる その目的は 1 情報共有のため施設間での統一性をはかる 2 治療方針決定の材料とする 3 予後予測を行う 4 治療成績の比較を行う ことにある 一般的には UICC(Union Internationale Contre le Cancer[ 英語では International Union Against Cancer]: 国際対がん連合 ) の TNM 分類に従って表現する 腫瘍の部位ごとに設定され 原発腫瘍の大きさ (T) 所属リンパ節転移(N) 遠隔転移(M) の三要素で病期を決定するものである 判定にあたり 視診 触診に加えて画像診断の利用も記載されている UICC による口腔癌の分類 (TNM Classification of Malignant Tumors 8th Ed. 2017) [Errata---25 th of May 2018] T: 原発腫瘍 TX 原発腫瘍の評価が不可能 T0 原発腫瘍を認めない Tis 上皮内癌 T1 最大径が 2cm 以下かつ深達度 (depth of invasion*; DOI) が 5mm 以下の腫瘍 T2 最大径が 2cm 以下かつ深達度が 5mm をこえる腫瘍, または最大径が 2cm をこえるが 4cm 以下でかつ深達度が 10mm 以下の腫瘍 T3 最大径が 2cm をこえるが 4cm 以下でかつ深達度が 10mm をこえる腫瘍, または最大径が 4cm をこえ, かつ深達度が 10mm 以下の腫瘍 T4a 最大径が 4cm をこえ, かつ深達度が 10mm をこえる腫瘍, または下顎もしくは上顎の骨皮質を貫通するか上顎洞に浸潤する腫瘍, または顔面皮膚に浸潤する腫瘍 ** T4b 咀嚼筋隙 翼状突起, 頭蓋底に浸潤する腫瘍 または内頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍 * 腫瘍周囲の正常粘膜により定義される平面からの浸潤の深さであり 腫瘍の厚みとは区別されるべきとされる (AJCC Cancer Staging Manual 8th Edition, 2017) ** 歯肉を原発巣とし, 骨及び歯槽のみに表在性びらんが認められる症例は T4a と評価しない 1

N: 所属リンパ節 ( 頸部リンパ節 ) NX 領域リンパ節転移の評価が不可能 N0 領域リンパ節転移なし N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が 3cm 以下かつ節外浸潤なし N2a 同側の単発性リンパ節転移で最大径が 3cm をこえるが 6cm 以下かつ節外浸潤なし N2b 同側の多発性リンパ節転移で最大径が 6cm 以下かつ節外浸潤なし N2c 両側または対側のリンパ節転移で最大径が 6cm 以下かつ節外浸潤なし N3a 最大径が 6cm をこえるリンパ節転移で節外浸潤なし N3b 単発性または多発性リンパ節転移で臨床的節外浸潤 * あり * 皮膚浸潤 深部にある筋肉や隣接構造物に及ぶ深部固着を伴う軟組織浸潤 神経浸潤の臨床症状が存 在する場合に臨床的節外進展と分類する ( 正中は同側とする ) M: 遠隔転移 MX 遠隔転移の評価が不可能 M0 遠隔転移なし M1 遠隔転移あり 病期 (Stage) 分類 Stage 0 Tis N0 M0 Stage I T1 N0 M0 Stage II T2 N0 M0 Stage III T3 N0 M0 T1, T2, T3 N1 M0 Stage IVA T4a N0, N1 M0 T1, T2, T3, T4a N2 M0 Stage IVB すべての T N3 M0 T4b すべての N M0 Stage IVC すべての T すべての N M1 2. 上皮性悪性腫瘍 (1) 扁平上皮癌 (squamous cell carcinoma) 1) 原発巣の診断口腔扁平上皮癌は視診と触診で検出されやすく 生検も容易なため 早期に病理診断が得られる しかし 初期の舌癌や口底癌であっても 正確な治療のための進展範囲の評価や予後の推定において MRI や CT 超音波診断(US) などの画像診断は有用であり 腫瘍進展が隣接組織に及んだ場合には 画像診断は必須となる 上下顎歯肉癌や硬口蓋癌では 初期から顎骨に浸潤する傾向があり 骨の高精細な三次元的評価法が必要となる 特に下顎歯肉癌における骨吸収型の評価は 病期決定や手術法の選択に関係し 虫食い型の骨吸収は予後が悪いとされている 上顎歯肉癌や硬口蓋癌では 鼻腔や上顎洞 眼窩 側頭下窩や頭蓋底への進展の評価が必須である また まれに顎骨中心性に扁平上皮癌が生じるこ 2

ともあり 画像診断で偶然発見される場合がある 近年 PET/CT が悪性腫瘍の診断に多用されるようになった F-18 fluorodeoxyglucose(18f-fdg) が核種として使われることが多く 腫瘍の亢進した糖代謝を反映して高集積となる 原発巣の治療効果判定や再発診断に加えて 遠隔転移検索や重複癌検出などに有用である 2) リンパ節転移の診断ここでは頻度の高い扁平上皮癌の頸部所属リンパ節転移について述べる リンパ行性転移の場合 癌細胞は原発巣からリンパ流を介して 輸入リンパ管からリンパ節に流入する 初期段階では リンパ節の被膜下や辺縁洞で腫瘍が増殖して徐々に大きくなり 最終的にはリンパ節全体が腫瘍で占拠され 転移リンパ節の形態は楕円体から球体に近づく 画像分解能に満たない微小転移巣も考慮すると 画像診断ですべての転移リンパ節を検出することは不可能である CT MRI US ともに リンパ節内部に中心壊死が認められる場合には 大きさに関わらず転移をほぼ確定しうる 造影 CT や造影 MRI では リンパ節辺縁部が線状に強く造影され 内部の壊死領域が低濃度もしくは低信号として描出されるため rim-enhancement などと表現される また造影されない壊死領域等は focal defect と呼ばれる US では リンパ節内部が不均一となり 不定形の無エコー域や高エコー域 あるいはこれらの混在が認められる場合がある 超音波ドプラではリンパ節内部の血管走行の異常や血流信号の欠損 リンパ節辺縁部の血流信号の出現が認められる また リンパ門の変形 消失が転移の判定に役立つ場合もある 超音波ドプラではリンパ門に血流信号が検出されるため このような微細な変化がとらえやすい 一方 リンパ節内部にこのような所見が明瞭には認められない場合 リンパ節の短径について CT や MRI では 10 mm 以上 US では 6~8 mm 以上の場合に転移とする基準が多く受け入れられている しかし炎症性腫大を考慮すると この基準ではかなりの偽陽性が避けられない この基準を越えていても 全体の形態が細長く リンパ門が明瞭に認められる場合には 転移とは判定できない また 転移巣の増大に伴ってリンパ節は球体に近づくことから 長径と短径の比率が 1 に近いほど転移リンパ節である確率が高いこととなり 診断の参考となる PET/CT も高い診断精度を示すが 短径 10 mm 未満のリンパ節に課題を残している 原発巣の治療後にリンパ節転移が顕在化することを後発リンパ節転移と呼ぶ 画像で検出不能な微小転移巣が潜在的に存在していたものであり 舌癌では原発巣の外科的切除術後 2~4 割程度の症例に出現するため 予防的郭清術を行わない場合には 術後の定期的な経過観察が重要となる 一般的に経過観察に適する画像診断法は 非侵襲的で検査費用の安価な US とされ 原発巣治療後 1 年程度までの間は少なくとも 1 か月に 1 回程度の頻度の経過観察が提唱されている ただし US では評価困難な部位にリンパ節転移が生じる場合もあるため CT や MRI も適宜施行する必要がある 腫瘍からのリンパ流を最初に受けるリンパ節をセンチネルリンパ節 (sentinel node) とよび 腫瘍がリンパ行性に転移する場合には まずこのリンパ節から転移が生じるという概念が存在する これによれば センチネルリンパ節に転移のない症例はリンパ節転移を生じていないと判断され 不要な郭清術を避けることが可能となる 今後は画像診断法の進歩に伴い さまざまなセンチネルリンパ節の検出法が展開されることが期待される (2) 腺系の癌 [ 粘表皮癌 (mucoepidermoid carcinoma) 腺様嚢胞癌(adenoid cystic carcinoma)] 小唾液腺に発生した粘表皮癌は 口腔扁平上皮癌と類似の画像所見を呈することが多いが 顎骨中心性に発育する場合もあり 初期には嚢胞と誤診されることもある 腺様嚢胞癌は比較的緩慢な発育を示すものの 周囲組織への浸潤性が強い腫瘍とされ 神経に沿った浸潤を生じやすく 三叉神経な 3

どを介した頭蓋内進展を来たすことがある そのため 画像診断では注意深い観察が必要となる 特に MRI は 神経走行領域の異常や咀嚼筋の変化に敏感であり 有用性が高い (3) 遠隔転移の診断口腔癌で最も高頻度にみられる遠隔転移は肺転移であり 胸部エックス線画像が最も頻繁に利用され 追加検査として CT が用いられる 近年では PET/CT の高い有用性が認められ 検査が一般的に行われるようになった 3. 非上皮性悪性腫瘍非上皮性 ( 間葉系 ) 組織由来の悪性腫瘍を肉腫 (sarcoma) という 一般に癌腫と比較して発生年齢が低く 予後が悪い傾向にある (1) 未分化多形肉腫 (undifferentiated pleomorphic sarcoma) [ 悪性線維性組織球腫 (malignant fibrous histiocytoma, MFH)] 頭頸部では 肉腫の中では発生頻度が高く 鼻腔 副鼻腔や顎骨内のほか 耳下腺 頬部 口底 頸部に発生する 放射線照射後の部位にも発生する 顎骨に発生した場合は特徴的な所見は見られず 他の悪性腫瘍と同様の骨破壊性のエックス線所見を示す (2) 骨肉腫 (osteosarcoma) 顎骨の非上皮性悪性腫瘍の中では頻度は高い 上顎骨にも下顎骨にも発生し 病変と周囲骨との境界は不明瞭である 骨破壊性 ( 溶骨性 ) から造骨性までエックス線透過性は多様であり 骨破壊による透過像と骨新生による不透過像の混在を呈する場合が多い 典型的には 放射状に広がって形成される多数の針状新生骨により旭日像 (sunray appearance) が認められる また スピクラ (spicula) Codman 三角などの所見を呈することがある しかし 顎骨ではそうした典型像を欠く場合も少なくない (3) 軟骨肉腫 (chondrosarcoma) 顎骨の非上皮性悪性腫瘍の中では骨肉腫とならんで頻度が高い 骨中心性に発生するもの ( 中心性 ) と骨表面から発生するもの ( 周辺性 ) とがある 顎骨内に発生すると 透過性と不透過性の混在像を呈し 皮質骨を破壊して周囲軟組織に進展する (4) 横紋筋肉腫 (rhabdomyosarcoma) 頻度は低いものの頭頸部は好発部位である 眼窩 鼻咽頭 耳 副鼻腔 顔面 頸部 頬部 軟口蓋などに発生する 骨が近接した部位では 骨を圧迫吸収し 膨隆性の軟組織腫瘤を形成する (5) 多発性骨髄腫 (multiple myeloma) ほとんどは骨髄内に多発し 頭蓋骨などの皮質骨を類円形に破壊するのが特徴で 複数の境界比較的明瞭な類円形の透過像は打ち抜き像 (punched out lesion) と呼ばれる (6) 悪性黒色腫 (malignant melanoma) 軟組織の腫瘍であるため原則的にはエックス線所見としては検出されないが 病変が顎骨に浸潤した場合には 境界不明瞭で辺縁不規則なエックス線透過像を呈する 磁性体であるメラニン色素を多く含むタイプでは T1 強調 MRI で高信号 T2 強調 MRI で低信号を呈し 通常の悪性腫瘍とは逆の信号強度の組み合わせになるのが特徴的である (7) 悪性リンパ腫 (malignant lymphoma) ホジキンリンパ腫 (Hodgkin lymphoma) と非ホジキンリンパ腫 (non-hodgkin lymphoma) に大別され 頭頸部領域は好発部位である リンパ節に発生する節性リンパ腫 (nodal lymphoma) とリン 4

パ節外に発生する節外性リンパ腫 (extranodal lymphoma) とがある 節性リンパ腫は孤在性の場合もあれば 多発性の場合もあり 一般に短径 2.5cm 以上のリンパ節腫大は悪性リンパ腫の可能性を考慮する 節外性リンパ腫は口腔粘膜下の軟組織や顎骨内にも発生し 顎骨に初発した場合には 境界不明瞭で辺縁不規則なエックス線透過像を呈する 骨梁は消失し下顎管は不明瞭となり 歯槽硬線が消失し不自然な歯根膜腔の拡大像を呈する場合がある 骨吸収は多発性で顎骨全域に散在性にみられることもある 4. 転移性腫瘍 (metastatic tumor) 口腔領域では癌腫の転移が多く 血行性に顎骨骨髄内に転移を形成する傾向にある 下顎骨に多く 原発巣は肺 消化管 腎 子宮 乳房 前立腺 甲状腺などがある 顎骨の転移性腫瘍は顎骨中心性の原発腫瘍と類似の画像所見を呈し 海綿骨や皮質骨を破壊し周囲に進展することがある 内部に石灰化を伴うことも多い ( 参考 )[WHO 分類 (4th 2017 年改訂 )] 悪性顎顔面骨ならびに軟骨腫瘍 Malignant maxillofacial bone and cartilage tumors 軟骨肉腫 Chondrosarcoma 軟骨肉腫, グレード 1Chondrosarcoma, grade 1 軟骨肉腫, グレード 2/3Chondrosarcoma, grade 2/3 間葉性軟骨肉腫 Mesenchymal chondrosarcoma 骨肉腫,NOS Osteosarcoma, NOS 低悪性中心性骨肉腫 L ow-grade central osteosarcoma 軟骨芽細胞型骨肉腫 Chondroblastic osteosarcoma 傍骨性骨肉腫 Parosteal osteosarcoma 骨膜性骨肉腫 Periosteal osteosarcoma 2018.11.30 版 5