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このため 法人税法の取扱いでは 収益の計上時期について各法人の任意の取扱いに委ねるのではなく 課税の公平の観点からこれを統一的に取扱うこととしている すなわち 法人が商品等を販売した場合には それによる収益は商品等の 引渡しがあった日 に収益に計上することとしている つまり 商品等の買主への引渡しと

3. 改正の内容 法人税における収益認識等について 収益認識時の価額及び収益の認識時期について法令上明確化される 返品調整引当金制度及び延払基準 ( 長期割賦販売等 ) が廃止となる 内容改正前改正後 収益認識時の価額をそれぞれ以下とする ( 資産の販売若しくは譲渡時の価額 ) 原則として資産の引渡

【問】適格現物分配に係る会計処理と税務処理の相違

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

第28期貸借対照表

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平成23年度税制改正の主要項目

平成30年公認会計士試験

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「経済政策論(後期)」運営方法と予定表(1997、三井)

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IFRS基礎講座 IAS第12号 法人所得税

N 譲渡所得は 売却した土地や借地権 建物などの所有期間によって 長期譲渡所得 と 短期譲渡所得 に分けられ それぞれに定められた税率を乗じて税額を計算します この長期と短期の区分は 土地や借地権 建物などの場合は 売却した資産が 譲渡した年の1 月 1 日における所有期間が5 年以下のとき 短期譲

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1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

第6期決算公告

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スポンサー企業 増減資により 再生会社をスポンサー企業の子会社としたうえで 継続事業を新設分割により切り分ける 100% 新株発行 承継会社 ( 新設会社 ) 整理予定の事業 (A 事業 ) 継続事業 会社分割 移転事業 以下 分社型分割により事業再生を行う場合の具体的な仕組みを解説する の株主 整

科目印収納科目一覧

2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

CONTENTS 第 1 章法人税における純資産の部の取扱い Q1-1 法人税における純資産の部の区分... 2 Q1-2 純資産の部の区分 ( 法人税と会計の違い )... 4 Q1-3 別表調整... 7 Q1-4 資本金等の額についての政令の規定 Q1-5 利益積立金額についての政

精算表 精算表とは 決算日に 総勘定元帳から各勘定の残高を集計した上で それらに修正すべき処理 ( 決算整理仕訳 ) の内 容を記入し 確定した各勘定の金額を貸借対照表と損益計算書の欄に移していく一覧表です 期末商品棚卸高 20 円 現金 繰越商品 資本金 2

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

リリース

に相当する金額を反映して分割対価が低くなっているはずですが 分割法人において移転する資産及び負債の譲渡損益は計上されませんので 分割法人において この退職給付債務に相当する金額を損金の額とする余地はないこととなります (2) 分割承継法人適格分割によって退職給付債務を移転する場合には 分割法人の負債

日本基準基礎講座 有形固定資産

平成 29 年度連結計算書類 計算書類 ( 平成 29 年 4 月 1 日から平成 30 年 3 月 31 日まで ) 連結計算書類 連結財政状態計算書 53 連結損益計算書 54 連結包括利益計算書 ( ご参考 ) 55 連結持分変動計算書 56 計算書類 貸借対照表 57 損益計算書 58 株主

投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

第4期電子公告(東京)

平成 26 年 5 月に 顧客との契約から生じる収益 (IASB においては IFRS 第 15 号 ( 平成 30 年 1 月 1 日 以後開始事業年度から適用 ) FASB においては Topic606( 平成 29 年 12 月 15 日後開始事業年度から適 用 )) を公表しました これらの

国家公務員共済組合連合会 民間企業仮定貸借対照表 旧令長期経理 平成 26 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 円 ) 科目 金額 ( 資産の部 ) Ⅰ 流動資産 現金 預金 311,585,825 未収金 8,790,209 貸倒引当金 7,091,757 1,698,452 流動資産合計 3

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13. 平成 29 年 4 月に中古住宅とその敷地を取得した場合 当該敷地の取得に係る不動産取得税の税額から 1/2 に相当する額が減額される 14. 家屋の改築により家屋の取得とみなされた場合 当該改築により増加した価格を課税標準として不動産 取得税が課税される 15. 不動産取得税は 相続 贈与

下では特別償却と対比するため 特別控除については 特に断らない限り特定の機械や設備等の資産を取得した場合を前提として説明することとします 特別控除 内容 個別の制度例 特定の機械や設備等の資産を取得して事業の用に供したときや 特定の費用を支出したときなどに 取得価額や支出した費用の額等 一定割合 の

新規文書1

連結貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 ( 平成 29 年 3 月 31 日 ) 資産の部 流動資産 現金及び預金 7,156 受取手形及び売掛金 11,478 商品及び製品 49,208 仕掛品 590 原材料及び貯蔵品 1,329 繰延税金資産 4,270 その他 8,476

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「経済政策論(後期)《運営方法と予定表(1997、三井)

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第4期 決算報告書

土地建物等の譲渡損失は 同じ年の他の土地建物等の譲渡益から差し引くことができます 差し引き後に残った譲渡益については 下記の < 計算式 2> の計算を行います なお 譲渡益から引ききれずに残ってしまった譲渡損失は 原則として 土地建物等の譲渡所得以外のその年の所得から差し引くこと ( 損益通算 )

Z-64-A 簿記論〔第一問〕-解 答-

計算書類等

営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

A. 受贈者に一定の債務を負担させることを条件に 財産を贈与することを 負担付贈与 といいます 本ケースでは 夫は1 妻の住宅ローン債務を引き受ける代わりに 2 妻の自宅の所有権持分を取得する ( 持分の贈与を受ける 以下持分と記載 ) ことになります したがって 夫は1と2を合わせ 妻から負担付贈

貸借対照表 ( 平成 25 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目金額科目金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 14,146,891 流動負債 10,030,277 現金及び預金 2,491,769 買 掛 金 7,290,606 売 掛 金 9,256,869 リ

2018 年度 (2019 年 3 月 31 日現在 ) 貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 科 目 金額 科 目 金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 現金及び預貯金 1,197,998 保険契約準備金 908,017 預貯金 1,197,998 支払備金 2,473 有価証券 447,49

[2] 財務上の影響 自己株式を 取得 した場合には 通常の有価証券の Ⅰ. 株主資本 ように資産に計上することはせず 株主との間の資本取 1. 資本金 引と考え その取得原価をもって純資産の部の株主資本 2. 資本剰余金 (1) 資本準備金 から控除します そのため 貸借対照表上の表示は金額 (2

その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の

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計 算 書 類

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日商簿記2級 第1問 仕訳問題類題 解答セット

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損金経理と積立金経理の違い ( 圧縮超過額がない場合の基本構造 ) 例 A 社は 50の国庫補助金を得て 100で機械を取得した なお A 社の経常利益は 100 である * 仕訳の違い ( 単位 : 百万円 ) 損金経理積立金経理 補助金受贈と機械取得時の仕訳 ( 両者とも同じ ) 現金預金 50

Microsoft Word - 決箊喬å‚−表紎_18年度(第26æœ�ï¼›

自己株式の消却の会計 税務処理 1. 会社法上の取り扱い取得した自己株式を消却するには 取締役会設置会社の場合は取締役会決議が必要となります ( 会 178) 取締役会決議では 消却する自己株式数を 種類株式発行会社では自己株式の種類及び種類ごとの数を決定する必要があります 自己株式を消却しても 会

目 次 問 1 法人税法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 1 問 2 租税特別措置法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 3 問 3 法人税法における当初申告要件 ( 所得税額控除の例 ) 5 問 4 法人税法における適用額の制限 ( 所得税額控除の例 ) 6

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6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

財剎諸表 (1).xlsx

税額控除限度額の計算この制度による税額控除限度額は 次の算式により計算します ( 措法 42 の 112) 税額控除限度額 = 特定機械装置等の取得価額 税額控除割合 ( 当期の法人税額の 20% 相当額を限度 ) 上記算式の税額控除割合は 次に掲げる区分に応じ それぞれ次の割合となります 特定機械

平成 22 年 4 月 1 日現在の法令等に準拠 UP!Consulting Up Newsletter 無対価での会社分割 バックナンバーは 当事務所のホームページで参照できます 1

法人による完全支配関係下の寄附金 1.100% グループ内の法人間の寄附 ( 法法 372) 現行税制上では 寄附金は支出法人では損金計上限度額を超える部分が損金不算入 受領法人では益金算入です 平成 22 年度税制改正により 100% グループ内での支出法人では寄附金全額を損金不算入とし 受領法人

. 減価償却の仕組みを理解する 60 定率法 定額法など減価償却の方法を理解しましょう. 有価証券の整理をする 68 有価証券一覧表に 購入売却のつど その取引内容を記載していくと 決算業務の際に便利です. 受取配当金を集計する 78 有価証券の整理後 受取配当金と源泉所得税を集計し 申告書作成の準

貸借対照表 ( 平成 20 年 3 月 31 日 ) ( 厚生年金勘定 ) ( 単位 : 円 ) 科 目 金 額 資産の部 Ⅰ 流動資産 現金及び預金 11,313,520,485 有価証券 13,390,000,000 販売用不動産 93,938,423,482 未収金 389,813,000 未

決算書(全社) xls

貸借対照表 (2019 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目 金額 科目 金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 3,784,729 流動負債 244,841 現金及び預金 3,621,845 リース債務 94,106 前払費用 156,652 未払金 18,745

日本基準基礎講座 資本会計

( 資産の部 ) ( 負債の部 ) Ⅰ 特定資産の部 1. 流動負債 366,211,036 1 年内返済予定 1. 流動資産 580,621,275 特定社債 302,000,000 信託預金 580,621,275 事業未払金 2,363, 固定資産 6,029,788,716 未払

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貸 借 対 照 表 ( 平成 28 年 3 月 31 日現在 ) 科 目 金額 科 目 金 額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 4,007 流動負債 4,646 現金及び預金 2,258 買掛金 358 売掛金 990 リース債務 2,842 有価証券 700 未払金 284 貯蔵品

「資産除去債務に関する会計基準(案)」及び

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役員の債務保証料 1. 概要オーナー社長の場合は 自社の銀行借入金に代表者個人が連帯債務保証をしている場合があります このような場合は 法人からオーナー個人に債務保証料 ( 信用保証料 ) を支払うことが出来ます 当然 会社では法人税の計算上で損金計上することが出来ます 2. 注意点 (1) 債務保

平成18年度注記事項

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日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

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財務諸表に対する注記

第150回日商簿記2級 第1問 仕訳問題類題 解答・解説

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営 業 報 告 書


第21期(2019年3月期) 決算公告

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第8期(平成26年度)貸借対照表および損益計算書(改版)

実務特集1. 寄附修正 Ⅰ はじめに グループ法人税制 100% グループ内の法人間での譲渡損益の繰り延べ 100% グループ内の法人間の寄附 ( 以上 2010 年 11 月号 ) 100% グループ内の法人間の寄附 ( 寄附修正 ) 支配関係 完全支配関係の判定 100% グループ内の法人のステ

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報酬給与額 Q&A Q1 通勤手当や在外手当は 報酬給与額に含まれるか A 通勤手当や国外勤務者の在勤手当 ( 在外手当 ) のうち所得税において非課税とされる額に相当する金額については 実費弁償的性格を有するものであることから 報酬給与額に含めない 所得税において非課税とされる額を超える部分に相当

貸借対照表 平成 28 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 千円 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 資産の部 負債の部 流動資産 (63,628,517) 流動負債 (72,772,267) 現金及び預金 33,016,731 買掛金 379,893 売掛金 426,495 未払金 38,59

2 事業活動収支計算書 ( 旧消費収支計算書 ) 関係 (1) 従前の 消費収支計算書 の名称が 事業活動収支計算書 に変更され 収支を経常的収支及び臨時的収支に区分して それぞれの収支状況を把握できるようになりました 第 15 条関係 別添資料 p2 9 41~46 82 参照 消費収入 消費支出

Transcription:

税務会計論 第 3 回 課税所得の計算構造 板橋雄大 1

今日のポイント (1) 課税所得計算の基本的な規定 (2) 課税所得計算の個別規定 (3) 課税所得計算の基本構造 (4) 課税所得計算の実践構造 2

Ⅰ 課税所得計算の基本的規定 課税標準 (tax base) とは 税額計算の基礎となるべきもので 税額を算出する直接の対象となる金額や 数量 品質等をいう これに具体的な控除や 税率などが適用され 納付すべき税額が計算されるわけである たとえば 所得税の場合であれば 居住者の毎年の総所得金額 退職所得金額及び山林所得金額等が課税標準である 3

法人税であれば 日本国内に本店又は主な事務所を保有している法人である 内国法人 に対する課税標準は 各事業年度の所得の金額である この所得の金額をどのように計算するのか? 法人税法第 22 条には 5 項からなる基本的規定が設けられている 最も重要なのは 第 1 項 内国法人の各事業年度の所得の金額は 当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする という部分である 4

つまり 各事業年度の所得 ( 課税所得 ) の金額 = その事業年度の益金の額 ということである そして 第 2 項では この 益金の額 に算入すべき金額が規定されている 第 3 項で 損金の額に算入すべき金額が規定されている また 第 4 項では 益金 損金に算入される収益の額や, 原価 費用 損失の額については 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準 ( 公正処理基準 と略称されている ) に従って 計算される旨が規定される - その事業年度の損金の額 5

第 5 項では 益金の額および損金の額の計算から除外される 資本等取り引き の範囲が規定されている 6

2. 益金の額の計算 各事業年度の所得の金額の計算上 その事業年度の益金の額に算入すべき金額は 別段の定め があるものを除き 次のようなものである 1 資産の販売に係る収益 2 有償での資産の譲渡に係る収益 3 有償での役務の提供役務とは 一般的に サービス業の企業活動によって提供されるもの 商工業における商品や製品に相当 例えば 美容院 税理士又は弁護士等の労力 技術の提供などがこれにあたる サービスと言い換えても良い 7

4 無償による資産の譲渡に係る収益の額 5 無償による役務の提供に係る収益の額 6 無償による資産の譲り受けに係る収益の額 7 その他の取引で資本等取引以外のものに係る収益の額 資本等取引というのは 法人の資本金などの金額に変動をもたらす取引 法人が行う利益又は剰余金の分配をいう こうした取引によって生ずる収益または費用は 税法上では 益金の額又は損金の額には含まれない 8

(1) 資産の販売に係る収益これは 商品 製品などの販売によって生じる収益であり 売上高のことである (2) 資産の有償譲渡に係る収益固定資産 棚卸資産 有価証券 金銭債権などを 対価を受け取って譲渡した場合に生じる収益である ただし この場合の譲渡には 交換 収用 現物出資 代物弁済等が含まれる 収用とは 公共の利益となる事業のために 所有者の意思を問わずに 強制的に財産権を取得することをいう 収用にも 買取 換地処分 ( 別の土地との交換 ) 権利変換 ( 以前のビルの床の及び敷地と 新しいビルの権利との交換等 ) などがある 9

(3) 役務の有償提供に係る収益 現金や現金等価物など対価の受け取りを伴うサービスの提供によって生じる収益である 金融 保険 不動産賃貸 運輸 通信 娯楽等の事業を営む企業の営業収益に該当するものと 物品の製造 販売等の事業を営む企業の営業外収益に該当するもの ( 受取利息 受取家賃等 ) も含まれる 10

(4) 資産の無償譲渡に係る収益 法人が無償で資産を譲渡した場合には 企業会計では現実には金銭等の授受がないので これを収益とはしない 一方 税務上では 譲渡代金を特定の者に無償で譲渡したに等しいとみなし 収益発生取引として取り扱うという違いがある 収益額は 無償譲渡した資産の時価相当額となる 時価よりも低い相場で譲渡する低廉譲渡は 有償と無償の混合形態として取り扱われる 11

なぜ税務会計においては無償譲渡から収益が発生すると考えるのか? 収益とは 外部からの経済的価値の流入であり 無償取引では 経済的価値の流入がそもそも存在しない しかし 正常な対価で取引を行った者には税負担が発生し 無償で取引を行うと税負担が発生しないというのでは 負担の公平性が維持できない たとえば A 社と B 社が資産を移転させるときにはその代価が益金となり 税負担を発生させる 一方で親会社と関係会社との合意に基づいて資産を無償で移転させるときには 益金とならず税負担を発生させないのであれば そういった特殊な関係性を持った企業に有利な税制となってしまう 12

また 結果として 法人間の競争条件にも影響してしまう可能性があるため 無償取引からも収益が生じることを 擬制 ( 異なる事実を法的には同一のものとして取り扱うこと ) したわけである こうした結果 無償による資産の譲渡をなした場合には その移転した資産の時価をもって資産価値が測定され 帳簿価額と時価との差額は 資産の移転による収益 ( 譲渡差損益 ) として表現される 13

< 事例 >-1 企業が 退職役員 A に対して 退職慰労金として 会社所有の土地 300 坪 ( 取得原価 100 万円 適正時価 2,000 万円 帳簿価額 100 万円 ) を与えた場合の収益の計算をおこないなさい 14

A の受け取った退職給与金は 2,000 万円とみなされる 従って 企業が提供した退職金額は 資産の時価の 2,000 万円である 帳簿価額と適正時価との差額 1,900 万円は 土地の譲渡差損益として表現される 仕訳は 退職給与 20,000,000 土地譲渡収益 20,000,000 土地譲渡原価 1,000,000 / 土地 1,000,000 15

資産の贈与をおこなった場合には 贈与の対象となった資産の時価で譲渡がなされると同時に その現金の寄付がなされたものと擬制される < 設例 >-2 乙会社が寄付額として 1,000 万円を支出するとともに 同社所有の土地 100 坪 ( 取得原価 200 万円 適正時価 1,000 万円 帳簿価額 200 万円 ) をあてたものとする 16

解答 > 会社が拠出した寄付金額は その土地の帳簿価額である 200 万円ではなく その時価に相当する 1,000 万円である 会社は寄付としてその土地を提供したわけだが その土地が適正時価により 譲渡がなされた場合と同様に扱われ 土地の時価を持って その譲渡収益がとらえられ 帳簿価額と時価の差額 800 万円は 土地の移転による差益として表現されることとなる 仕訳 寄付金 10,000,000 土地譲渡収益 10,000,000 土地譲渡原価 2,000,000/ 土地 2,000,000 17

(5) 役務の無償提供に係る収益 サービスの無料提供 金銭の無利息貸付金がある 役務の無償提供も収益の発生取引であると考えることについては 資産の無償譲渡の場合と同様の説明がなされる 課税所得の算定上は 収益が一旦実現し そこにさらに贈与等の事実が発生したと考えるのである 従って 資産の譲渡の場合と同様に 役務の適正時価を導入して 収益 を計上すべきである 18

役務の無償適用については 広告宣伝費 見本品費 交際費 接待費 福利厚生費とされるべきものもあるので 寄附金なのかの判定は難しい いずれにせよ それのいずれもに該当すべきではないと判定された場合には その役務の無償提供によって失われた真実の経済価値 ( 時価 ) については 寄附金 として把えることとなる 税務における寄附金というのは 直接の対価を求めない資産の無償提供であり 法的には 贈与の一種である 名称の違い ( 寄附金 拠出金 見舞金 その他 ) に関わらない 寄附というと NPO 団体への寄附などが思い浮かぶかもしれないが 総所得金額から 控除 ( その寄附金の額 -1 万円 ) 出来る ( 寄付金控除 ) のは 国 地方公共団体への寄附などの特定寄附金と呼ばれるものである 19

事例 >-3 D 社 ( 会計期間 1 年 ) は 当期の初めにおいて 主に同社の製品を販売している子会社である E 社に対して 支店増設を援助する目的で 手持ち資金 1,000 万円を期間 2 年 無利息という条件で貸し付けた E 社は 比較的順調に業績を伸ばしており また D 社がこの無利息の金銭貸付に関連して E 社から何らかの反対給付を受けたという事実は認められないものとする なお 利息に関する資料は 次のとおりである 商事法定利率 : 年 6% 当期における銀行などの定期預金 (2 年もの ) の利率 : 年 1% 当期における銀行等の平均貸付利率 : 年 5% 20

給付 (benefit) とは 例えば 売買契約が成立して 売り主が目的のものを引き渡す場合には 債権 ( 請求権 )( 商品を渡してくださいという権利 ) というのは 債務者 ( ここでは売り主 ) の行為を介して実現 ( ここでは引き渡されること ) される この債務者の行為を給付という この場合において 相手方の給付 ( ここでは買主の代金支払い ) を反対給付という 商事法定利率というのは 商法第五百十四条に定められた利率のこと 商行為によって生じた債務に関しては 法定利率は 年六分とする 21

この事例では D 社は E 社に対して金銭を無利息で貸し付けるという形で サービスを無償提供したわけである 法人税法上では この場合は いわゆる みなし受取利息 とでもいうべき収益を認識することが求められる 無償の役務提供については それは租税を回避するために行われているのか 経済的に合理的な理由があるのか あるいは やむを得ない事情があるのかといったことは関係なく それ自体として収益の発生の原因となっている 22

さて この事例においては年 5% の利率を採用したとすれば 利息に相当する額は 50 万円 (1, 000 万円 0.05) と計算される これを仕訳にすれば 次のように 50 万円の受取利息と 寄附金が発生していることとなる 寄附金 500,000 受取利息 500,000 23

本事例で問題となるのは どの利率を使用するのが合理的かというその理由である 無利息貸付に係る利息相当額は 無償で提供した資金利用役務 ( 自分の資金を利用させるサービス ) のその貸付期間における実際の経済価値額であるとの基本的な考え方からすれば その貸付期間における当該法人にとっての実効金利によって算定すべきであろう 実効金利の決定にあたっては 通常の貸付利率である 銀行等の平均貸付利率が参考となる場合が多い ただし 経済状態によって変動も発生するので あまりにも変動が大きいのであれば 参考にならないかもしれない 親子会社を別個の会社とみる現行法人税制においても そうした特別な関係を考慮しないわけにはいかないのだから 定期預金の利率程度の低減した利率を適用することも認めることが適当な場合もあるかもしれない 24

さらに 法的な視点から見た明確な基準を参考にするべきであると考えるのであれば 商事法定利率によるべきであるとする主張も認められるだろう (6) 資産の無償譲受に係る収益 何の対価も与えずに資産を譲り受けることによって生じる収益であり 要するに 受贈益 といわれるものである 財務会計とは異なり 税務上では すべての受贈益は収益として扱われる 25

(7) その他の収益 債務免除 債務消滅 損害賠償 資産の評価換え等による諸々の収益が含まれることとなる 26

3. 損金の額の計算 法人税法 22 条 3には 次のように各事業年度の損金額の算定方法が記されている 所得の金額の計算上損金の額に算入すべき金額は 別段の定めがあるものを除き 次に掲げる額とする 一収益に係る売上原価 完成工事原価その他これらに準ずる原価の額二販売費 一般管理費その他の費用 ( 償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く ) の額三損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの 27

(1) 原価 販売収益や請負収益等と 個別的 直接的な関係をもつ売上原価や完成工事原価などを意味する (2) 費用 販売収益などと期間的 間接的な対応関係をもつ販売費 一般管理費の他 支払い利息 割引料などの営業外費用も含まれる ここで 当期の損金額に算入することが認められる費用は 償却は別として 期末までに 債務の確定 したものに限定される 28

債務の確定とは 次の 1~3 までのすべてが成立している状態をいう 1 債務の成立 : 期末までにその費用に関わる債務が成立していること 2 給付原因事実の発生 : 期末までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること 3 金額の合理的算定 : 期末までにその金額を合理的に算定することができるもの 29

従って 法人が自分勝手に費用を見積もりし 計上したとしても その損金算入は認められないということになる ただし 貸倒引当金と返品調整引当金については 債務確定主義の例外として 費用の見積もり計上が認められている つまり 修繕引当金 賞与引当金 退職給付引当金 売上割戻引当金などは 税法上は費用として認められず 損金不算入となる もちろん 税法上の引当金には 一定の繰入限度額 ( 損金算入限度額 ) が設けられているため これを越えるものは 損金算入が認められない 結果として 一般的には 税法が 会計を規定してしまう逆基準性の結果として 繰入限度額の範囲内で引当金の設定が行われている 30

(3) 損失 当期の販売収益などとは対応関係をもたない 火災 震災 風水害等の災害 盗難 争議 ( ストライキ サボタージュ等 ) 等の偶発的な事故 損害賠償などによる損失が含まれる なお 係争中の損害賠償に関わる賠償金については その金額が確定していない時であっても 相手方に申し出た金額の未払い金計上が認められる これも 債務の確定 に対する取り扱いの緩和である 31

4. 公正処理基準の尊重 (1) 公正処理基準の尊重についての定め 法人税 22-4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準 に従って計算されるものとする 32

本規定は 課税所得計算における 公正妥当な財務会計基準への依存性について確認的に表明したものである 1967 年に加わった規定ではあるが そもそも法人税法においては 課税所得の計算にあたって 従来から健全な会計慣行の存在は前提とされていた 従って 税法側からは必要最小限の規制を加えるにとどめるべきであるという考えがなされてきた この結果 税法側においても 自己完結的 網羅的な法規定を用意することはせず 会計側に依存出来る部分はするという思考であった 33

そこで 法令に 別段の定め すなわち会計基準とは異なる取り扱いについて定めたもの以外は 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準 ( これを 公正処理基準 という ) によって 収益 原価 費用 損失の認識 測定を行うこととされている (3) 公正処理基準とは何か? ただし 公正処理基準が何を意味するのかということについては いくつかの見解が提起されている 34

(ⅰ) 客観的な規範性を持つ公正かつ妥当と認めあれる会計処理の基準という意味であり 特に明文規定があることを予定しているわけではないとする見解 明確には決まっていないという説 (ⅱ) あくまでも税法の目的理念に即して 基準の取捨選択を行ったうえでその範囲を確定すべきとする見解 税法側が決めるものという説 (ⅲ) 企業会計審議会の 企業会計原則 そのものを意味するものではないが これを中心として構成されるべきという見解 企業会計原則に依拠する説 (ⅳ) 公正なる会計慣行 一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行そのものではないが これを中心として事実たる慣習として現実に継続して適用され会計処理として妥当視されながら法的規範性を帯びたものとする見解 慣習 慣行に依拠する説 35

(4) 公正処理基準の尊重規定の現実的機能この規定があることで 税法に明確に規定されている事項はべつとして 基本的には一般的に公正妥当な会計処理の基準によれば どのようになるかを税法上も考慮する必要が生じる 課税所得について解釈をする場合 きわめて大きな効用を持つ 一方で 企業会計原則や 企業会計基準 準則の形成実態と 現実の企業の会計慣行の健全性の程度によって この規定の意味は変わってくることとなる もちろん 逆に税務会計の独自の考え方の論理的体系である税務会計原則の形成と進展やその成熟の度合いにも関わってこの規定の意味は変化する 36

いずれにせよ 課税所得の算定における企業利益の計算精度への依存性は 絶対的な関係なのではなく 相対的な関係なのである 37