ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

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2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco

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背景 ~ 抗菌薬使用の現状 ~ 近年 抗微生物薬の薬剤耐性菌に伴う感染症の増加が国際的にも大きな課題の一つに挙げられている 欧州及び日本における抗菌薬使用量の国際比較 我が国においては 他国と比較し 広範囲の細菌に効く経口のセファロスポリン系薬 キノロン系薬 マクロライド系薬が第一選択薬として広く使

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づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

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2012 年 7 月 18 日放送 嫌気性菌感染症 愛知医科大学大学院感染制御学教授 三鴨廣繁 嫌気性菌とは嫌気性菌とは 酸素分子のない環境で生活をしている細菌です 偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌があります 偏性嫌気性菌とは 酸素分子 20% を含む環境 すなわち大気中では全く発育しない細菌のことで 通

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通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

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15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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中医協総会の資料にも上記の 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス から一部が抜粋されていることからも ガイダンスの発表は時機を得たものであり 関連した8 学会が共同でまとめたという点も行政から高評価されたものと考えられます 抗菌薬の適正使用は 院内 と 外来 のいずれの抗菌薬処方におい

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

topics vol.82 犬膿皮症に対する抗菌剤治療 鳥取大学農学部共同獣医学科獣医内科学教室准教授原田和記 抗菌薬が必要となるのは 当然ながら細菌感染症の治療時である 伴侶動物における皮膚の細菌感染症には様々なものが知られているが 国内では犬膿皮症が圧倒的に多い 本疾患は 表面性膿皮症 表在性膿

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薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

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プランの策定の支援などが議論されました こうした状況を踏まえ 我が国においても薬剤耐性 (AMR) 対策アクションプランを取りまとめるべく G7 ドイツ ベルリン保健大臣会合後の昨年 2015 年 11 月 厚生労働省に薬剤耐性 (AMR) タスクフォースを設置し 有識者ヒアリング等による検討を重ね

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1 MRSA が増加する原因としては皮膚 科 小児科 耳鼻科などでの抗生剤の乱用 があげられます 特にセフェム系抗生剤の 使用頻度が高くなると MRSA の発生率が 高くなります 最近ではこれらの科では抗 生剤の乱用が減少してきており MRSA の発生率が低下することが期待できます アトピー性皮膚炎

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2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

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それでは具体的なカテーテル感染予防対策について説明します CVC 挿入時の感染対策 (1)CVC 挿入経路まずはどこからカテーテルを挿入すべきか です 感染率を考慮した場合 鎖骨下穿刺法が推奨されています 内頚静脈穿刺や大腿静脈穿刺に比べて カテーテル感染の発生頻度が低いことが証明されています ただ

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2012 年 12 月 5 日放送 尿路感染症 産業医科大学泌尿器科学教授松本哲朗はじめに感染症の分野では 抗菌薬に対する耐性菌の話題が大きな問題点であり 耐性菌を増やさないための感染制御と適正な抗菌薬の使用が必要です 抗菌薬は 使用すれば必ず耐性菌が出現し 増加していきます 新規抗菌薬の開発と耐性菌の増加は 永遠に続く いたちごっこ でしょう しかし 近年 抗菌薬の開発は世界的に鈍化していますので 現在ある抗菌薬を上手に使用することが重要な観点となります 一方 尿路感染症に対する抗菌薬の使用法に関するエビデンスは 意外に少なく ガイドラインの作成に困難を来しています このような観点から 尿路感染症の研究者は 自らがエビデンスの構築に関わるべきであると考えています 我々は 全国的な組織として UTI 共同研究会を作って 多施設共同研究を積極的に行い エビデンスの構築に寄与しようと考えております このような成果の中から 最近の話題をいくつか紹介させて頂きます 尿路感染症起炎菌の薬剤感受性まず 尿路病原菌の抗菌薬耐性の問題です 尿路病原菌においても 耐性菌は増加傾向にあり 特に キノロン耐性大腸菌には強い関心が集まっています そこで 我々は全国組織で 尿路感染症起炎菌の薬剤感受性調査を行いました UTI 共同研究会を中心に 全国調査として 急性単純性膀胱炎と複雑性膀胱炎の起炎菌における 経口抗菌薬 特に ニューキノロン系薬と第 3 世代経口セフェム系薬に対する感受性調査を行いました その理由としては 我が国では 尿路感染症の治療薬としては そのほとんどが ニューキノロン系か経口セフェム薬であるという事実から これらの薬剤について検討した訳です その結果 急性単純性膀胱炎の起炎菌における大腸菌では 約 8% がレボフロキサシ

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフェム系薬が感受性がないことは 重要なことと思われます 急性単純性膀胱炎から分離された全菌種になると LVFX 耐性は約 8% STFX 耐性は 1% 以下 セフェム耐性は 19~21% と高いことから ニューキノロン系薬の優位性が示されております 一方 複雑性膀胱炎からの分離大腸菌では 約 30% の LVFX 耐性であり 約 5% が STFX 耐性でした セフェム系薬には 約 10% の耐性であり 複雑性膀胱炎由来の大腸菌のみに限れば セフェム系薬の感受性が優れていると考えられます しかし 緑膿菌と腸球菌においては 圧倒的にニューキノロン系薬が優れています 従って 複雑性膀胱炎から得られた全菌種で見ますと 23% が LVFX 耐性で 5% が STFX 耐性ですが 約 40% がセフェム系薬耐性と考えられます 従って 起炎菌が判明する前の初期治療には キ

ノロン系薬の方が優れていると思われ 中でも STFX の耐性率の低さが有用と思われました また ニューキノロン系薬やセフェム系以外の薬剤に関する感受性調査の結果をみてみますと ファロペネム フォスフォマイシン ST 合剤 ニトロフラントインなどの薬剤においては 急性単純性膀胱炎由来の大腸菌に対して耐性率が低いことが判明しています 従って 我が国で主に用いられているニューキノロン系や経口セフェム系薬以外の薬剤も治療に用いることにより ニューキノロン系やセフェム系薬の耐性菌増加を防止することが必要と思われます ファロペネムの有効性そこで 我々は ファロペネムの急性単純性膀胱炎に対する有効性と適正な投与期間を検討するため 他施設共同の比較試験を行いました ファロペネムは ベータラクタム系薬に属しますので 急性単純性膀胱炎に対する投与期間は 7 日間が適当と思われますが 急性単純性膀胱炎由来の大腸菌に対する抗菌力が優れているところから 3 日間の投与期間でも 治療可能ではないかとの仮説を立て 3 日間と 7 日間の投与期間で検討しました ファロペネムの投与量は 1 回 200 mgです その結果 細菌学的にも 臨床的にも

優位差をもって 7 日間投与が 3 日間投与に比して有効であることが確認され ファロ ペネムは急性単純性膀胱炎治療に優れているが その投与期間は 7 日間であるべきこと が確認されました フォスフォマイシンの効果さらに 急性単純性膀胱炎由来の大腸菌に耐性菌の頻度が低いフォスフォマイシンについても検討しました 欧米では 急性単純性膀胱炎の治療に フォスフォマイシン トロメタモールの単回投与が推奨されています しかしながら 我が国では フォスフォマイシン トロメタモールは発売されておらず 使用することができません わが国で発売されているものは フォスフォマイシン Ca であり フォスフォマイシン トロメタモールに比較すると 血中半減期が短く 単回投与では治療不可能と思われます そこで フォスフォマイシン トロメタモール 1 回 3g 単回投与の血中 尿中濃度と同程度の濃度を得るための投与法として 1 回 1g 1 日 3 回 2 日間投与法を検討することとしました 血中 尿中濃度をシミュレーションしてみますと 1 回 1g 1 日 3 回 2 日間投与は フォスフォマイシン トロメタモールの 3g 単回投与の濃度を凌駕することが判明しました そこで フォスフォマイシン Ca の 2 日間投与法の急性単純性膀胱炎に対する治療効果を検討しました その結果 細菌学的にも 臨床効果においても 極めて高い有効率が得られました 従って フォスフォマイシン Ca の 1 回 1g 1 日 3 回 2 日間投与法も急性単純性膀胱炎の治療に用いることができることが確認されました 急性単純性膀胱炎に対する適正な治療法 以上のような結果から 急性単純性膀胱炎に対する適正な治療法としては LVFX の 1 回 500 mg 1 日 1 回 3 日間投与 第 2~ 第 3 世代経口セフェム系薬の 1 回 100~300 mg

1 日 3 回 7 日間投与 フォスフォマイシン Ca の 1 回 1g 1 日 3 回 2 日間投与 ファロペネムの 1 回 200 mg 1 日 3 回 7 日間投与などが考えられます これらの薬剤の他にも ST 合剤やニトロフラントインなどの薬剤も適正な投与法を検討してみる必要があると思われます このような治療法のバラエティーを増やすことにより 耐性菌の増加防止を考える必要があると思われます 尿路感染症の再発予防一方 尿路感染症は 繰り返すことが多い感染症であることも知られております このような 繰り返す尿路感染症の再発予防に対して 種々の検討が行われてきました 閉経期以後の女性に対するエストロゲンの局所使用 乳酸菌などのプロバイオティクスの局所使用 飲むワクチンの使用などが行われ その有効性も示されております また 欧米で よく用いられているクランベリーの使用も有効であるとの報告があります そこで 我々は クランベリー果汁飲料の再発性尿路感染症に対する予防効果を検討することとしました クランベリー果汁を同じ味と色のプラセボと比較する臨床試験を実施しました 対象は 尿路感染症の複数回の既往を有し 抗菌薬の治療を完了した外来患者です クランベリー果汁とプラセボは 1 回 1 本 1 日 1 回 24 週間飲用し その間の尿路感染症発症の有無を検討しました その結果 全体としては 有意差を示すことはできませんでし

たが 50 歳以上の女性に対しては 有意に再発予防効果があることが判明しました また この再発予防効果は 8 週間以上飲用した人に顕著であることが分かりました このことから 尿路感染症を繰り返す 50 歳以上の女性には クランベリー果汁の引用は 尿路感染症の予防に有用であると思われました クランベリーの作用機序として プロアントシアニンの細菌に対する凝集効果とキト酸の尿酸性化によることが基礎的に判明しており この作用を増強するための工夫も行われており さらなる効果が期待されています 以上のように 尿路感染症治療には 適正な薬剤選択と投与量 投与期間の設定が必要であり 治療薬選択の幅を広げる努力が必要であり 幅を広げることにより 薬剤耐性菌の増加に歯止めをかけることが大事であることを述べました また 繰り返しやすい尿路感染症に対しては 抗菌薬以外のものを使用する予防法も検討する必要があることを述べさせて頂きました