Microsoft Word web掲載用キヤノンアネルバ:ニュースリリース_CIGS_

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ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

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世界トップクラス 先端の自動生産 ライン採用 信頼されるものづくりへ 鹿児島出水市から羽ばたく エネルギーギャップのこだわり 私たちエネルギーギャップは N 型太陽電池モジュールの数少ない国内メーカーとして JAPAN QUALITY また蓄電池その他の太陽光発電事業向け機器のサプライヤーとして 高

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

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03 カルコパイライト系材料を適用した低電圧増倍型光電変換膜の開発 菊地健司為村成亨宮川和典大竹浩久保田節 Development on Low-voltage Carrier Multiplication Film using Chalcopyrite Based Materials Kenji

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背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

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2 磁性薄膜を用いたデバイスを動作させるには ( 磁気記録装置 (HDD) を例に ) コイルに電流を流すことで発生する磁界を用いて 薄膜の磁化方向を制御している

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解 説 カルコパイライト系薄膜太陽電池の開発の現状と将来展望 石塚尚吾 1 小牧弘典 1 吉山孝志 1 水越一路 1 山田昭政 1 仁木栄 1 Recent Developments in Chalcopyrite Solar Cell and Module Technologies Shogo I

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1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

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詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

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平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

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平成 24 年度維持管理記録 ( 更新日平成 25 年 4 月 26 日 ) 1. ごみ焼却処理施設 (1) 可燃ごみ焼却量項目単位年度合計 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 A B 炉合計焼却量 t 33, ,972

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図 1 太陽電池の種類と特徴 当社は1959 年に太陽電池の開発に着手し 1963 年に結晶シリコン太陽電池の生産を開始した 当初は無人灯台や人工衛星など電力線の届かない しかも過酷な条件下での特殊用途へ設置を行い 現在までにそれぞれ約 1900 箇所以上 約 160 機以上に搭載しており 当社製パ

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平成 28 年 12 月 27 日 科学技術振興機構 ( J S T ) 有機 EL ディスプレイの電子注入層と輸送層用の新物質を開発 ~ 有機 EL ディスプレイの製造への活用に期待 ~ ポイント 金属リチウムと同じくらい電子を放出しやすく安定な物質と 従来の有機輸送層よりも 3 桁以上電子が動き

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2013 年 3 月 21 日 キヤノンアネルバ株式会社独立行政法人産業技術総合研究所 スパッタリングによるバッファ層で高効率 CIGS 太陽電池を実現 - オールドライプロセスによる CIGS 太陽電池の量産化に道 - キヤノンアネルバ株式会社 ( 社長 : 酒井純朗本社 : 神奈川県川崎市麻生区栗木 2-5-1) と独立行政法人産業技術総合研究所 ( 理事長 : 野間口有本部 : 東京都千代田区霞が関 1-3-1) は共同で ドライプロセスだけで形成したカドミウム (Cd) を含まない CIGS 太陽電池において 従来の手法である部分的にウェットプロセス ( 溶液成長法 ) を用いた場合に近い光電変換効率を実現する技術を開発しました 本技術のポイント CIGS 太陽電池から有害物質であるカドミウム (Cd) の排除が可能 CIGS 太陽電池の成膜工程のオールドライプロセス化が可能 CIGS 太陽電池の作製工程の簡略化が可能 この技術の特徴は バッファ層の成膜方法にドライプロセスであるスパッタリングを用いることと バッファ層材料が ZnMgO( 酸化亜鉛にマグネシウムを混合した物質 ) であることです この技術を用いた CIGS 小面積セル (0.5 cm 2 ) において 光電変換効率 16.2%( 反射防止膜あり ) を達成しました ( 図.1) この技術を用いることにより CIGS 太陽電池から有害物質であるカドミウム (Cd) を排除できるばかりではなく オールドライプロセスでの高効率 CIGS 太陽電池製造の実現が期待されます なお この技術については 2013 年 3 月 27~30 日に神奈川工科大学 ( 神奈川県厚木市 ) で開催される第 60 回応用物理学会春季学術講演会で発表する予定です は 用語の説明 参照 40 CIGS 小面積セル ( アクティブ領域 0.5 cm 2 ) 電流密度 (ma/cm2) 30 20 10 0 Eff.:16.2% 光電変換効率 :16.2% Voc:0.65V Voc:0.65 V Jsc:35.4mA/cm Jsc:35.4 ma/cm2 2 FF:0.71 :0.71 反射防止膜あり反射防止膜あり 0 0.2 0.4 0.6 0.8 電圧 (V) 図.1 ドライプロセスであるスパッタリングによりバッファ層を形成した CIGS 小面積セル ( 左 ) と太陽電池特性 1

開発の社会的背景 CIGS 太陽電池は 光電変換効率が高い 経年劣化が少なく長期信頼性に優れるといった特徴を持つ高性能な薄膜太陽電池のひとつであり 近年多くのメーカーによって量産化が進められています 太陽電池にはバッファ層と呼ばれる層があります このバッファ層は太陽電池の性能を決める pn 接合の形成を担っており CIGS 太陽電池の高効率化のキーポイントの一つです 現在量産されている CIGS 太陽電池では 光吸収層の CIGS はドライプロセスである多元蒸着法やスパッタリング+セレン化法といった方法で形成されているのに対して バッファ層はウエットプロセスである溶液成長法 (CBD 法 ) により形成された硫化カドミウム (CdS) が多く用いられています しかし CdS は有害物質であるカドミウムを含んでおり 環境負荷低減のためにバッファ層の Cdフリー化が求められています また ドライプロセスによるバッファ層形成の研究開発も進められており CIGS 太陽電池の量産工程に検討が行われてきましたが 大規模な量産化に成功した例はこれまでにありません 研究の経緯 CIGS 太陽電池におけるバッファ層のCdフリー化については 多くの研究開発が進められています 溶液成長法を用いたものでは 硫化酸化亜鉛 (ZnO,S) 硫化インジウム(InS 3 ) をバッファ層として CdS に近い光電変換効率が報告されています Cd を含まないバッファ層で高い光電変換効率を達成した例はいくつか報告されていますが CIGS 上にバッファ層をドライプロセスであるスパッタリングで形成したものでは高い光電変換効率は達成されていません 量産に適したスパッタリングによってバッファ層を形成することができれば オールドライプロセスによるCIGS 太陽電池の製造が可能となり 工程簡略化によるコスト削減が期待されます そこで キヤノンアネルバと産業技術総合研究所は共同で CIGS 太陽電池のバッファ層に Cd を含まず スパッタリングのみによって形成する技術の確立を目指しました 研究の内容今回 キヤノンアネルバの持つ高度なスパッタリング成膜技術 および産業技術総合研究所太陽光発電工学研究センター ( 近藤道雄研究センター長 研究担当者仁木栄副研究センター長 産業プロセス 高効率化チーム柴田肇研究チーム長 ) の持つ高度な CIGS 太陽電池作製技術を組み合わせて 研究開発を進めました 図.2 に示すとおり 多元蒸着三段階法により形成した CIGS を用いて 従来技術である溶液成長法により形成した CdSをバッファ層とした小面積 CIGS セルを作製しました このセルを比較対象として バッファ層のみをスパッタリングにより形成した ZnMgO に置き換え その組成と成膜条件の最適化を進めました その結果 図.3 に示すとおり スパッタリングのみでバッファ層を形成した太陽電池において 光電変換効率 16.2% を達成しました この結果は 従来技術を用いてバッファ層を形成した太陽電池の光電変換効率 17.5% に近づく値です このように Cd フリーのオールドライプロセスによっても高い光電変換効率を持つ CIGS 太陽電池を実現できることがわかりました 2

CBD-CdS Al : 取出し電極 : 透明導電膜 AZO i-zno : 高抵抗バッファ層 ZnO スパッタリング ZnMgO : バッファ層 CIGS Mo SLG 基板 : 光吸収層 : 裏面電極 図.2 評価を行った CIGS 太陽電池のセル構成 40 電流密度 (ma/cm2) 30 20 10 CBD-CdSバッファ層光電変換効率 :17.5 % スパッタリング ZnMgOバッファ層光電変換効率 :16.2 % 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 電圧 (V) 図.3 ドライプロセスであるスパッタリングにより形成した ZnMgO バッファ層の CIGS 太陽電池特性 ( 反射防止膜あり ) 今後の予定 今後はオールドライプロセスでのさらなる光電変換効率の向上を目指すとともに 大面積 基板への適用や 装置の事業化に向けた開発を進めていきます < キヤノンアネルバについて > キヤノンアネルバはキヤノン株式会社の 100% 子会社であり 真空技術を基幹技術とした真空薄膜形成装置や真空部品の開発 製造 販売を行なっています 真空薄膜形成装置の中でもスパッタリング方式の装置を多くラインナップし ハードディスクの磁気ヘッドおよび磁気ディスク製造用スパッタリング装置では世界トップシェアを有しています そして 関連技術において 内閣総理大臣賞 ( 産学官連携功労者表彰 ) 井上春成賞 市村産業賞 貢献賞 などの受賞歴があります また 最近ではスマートデバイス市場向けの各種高性能デバイス製造ラインに多数の製造装置を提供し スマートデバイスの普及 モバイルシーンの拡大に寄与しています 2011 年度売上高は 364 億円 < 産業技術総合研究所について > 産業技術総合研究所は日本の産業を支える環境 エネルギー ライフサイエンス 情報通信 3

エレクトロニクス ナノテクノロジー 材料 製造 計測 計量標準 地質という多様な 6 分野の研究を行う我が国最大級の公的研究機関です 本部を東京およびつくばに置き つくばセンターを除く全国 8 ヶ所にそれぞれ特徴ある研究を重点的に行う地域センターを配しています 総職員数は約 3,000 名 その内 2,000 名以上の研究者が 組織 人材 制度を集積する オープンイノベーションハブ 構想の基に 産業界 大学 行政との有機的連携を行い 研究開発からイノベーションへと展開しています 用語の説明 バッファ層 CIGS 太陽電池において 光吸収層である CIGS 層と 透明導電膜の層の間に挿入される薄膜の層 厚さは 50 nm くらいであるが CIGS 太陽電池の性能に大きな影響を及ぼす 材料は従来から CdS が主流であるが 最近では Zn の化合物や In の化合物も開発されている ドライプロセス ウェットプロセスドライプロセスは 半導体デバイスプロセス技術の 1 種であり 液体を利用しないプロセス技術を指す 通常は 真空中で行われるプロセス技術のことを指す それに対してウェットプロセスは 半導体デバイスプロセス技術の 1 種であり 液体を利用するプロセス技術を指す 溶液成長法は 典型的なウェットプロセス技術である スパッタリング法真空チャンバー内に 薄膜としてつけたい材料をターゲットとして設置し 直流電界もしくは高周波電界によってイオン化させた希ガス元素 ( 普通はアルゴンを用いる ) をターゲットに衝突させ そこから飛び出した材料を基板材料に堆積させて薄膜を作製する方法 CIGS 太陽電池 CIGS とは銅 (Cu) インジウム (In) ガリウム (Ga) セレン (Se) からなる多元系化合物半導体 Cu(In,Ga)Se2 の略称であり CIGS 太陽電池とは CIGS を光吸収層に使った太陽電池である In や Ga などの構成元素の比率や硫黄などの混合によって禁制帯幅 ( バンドギャップ ) などの物性を制御できるのが特徴 CIGS 太陽電池は薄膜系太陽電池の中で最も高い光電変換効率が得られ 以前から次世代型の太陽電池として注目されていた 現在では量産販売も開始され 欧州を中心に市場導入が進んでいる pn 接合 p 型半導体と n 型半導体を接触させた界面に形成される領域 半導体デバイスのさまざまな機能をもたらす源となる 多元蒸着法 CIGS 太陽電池の光吸収層である CIGS の薄膜を作製する方法の 1 つ 真空容器の中に 薄膜を堆積させる基板材料と 銅 (Cu) インジウム (In) ガリウム (Ga) セレン (Se) のるつぼを置き るつぼを加熱すると 充填された材料の蒸気が真空中に放出される その蒸気を基板材料に堆積させて薄膜を作製する方法 セレン化法 CIGS 太陽電池の光吸収層である CIGS の薄膜を作製する方法の 1 つ まずスパッタリング法によって基板材料の上に必要な金属元素の薄膜を作製し 得られた薄膜をセレン化水素の雰囲気の中で加熱処理することによって 金属元素をセレン化させて CIGS の薄膜を得る方法 4

溶液成長法 (CBD 法 ) 薄膜を形成する技術の 1 種である 薄膜の原料を溶解させた溶液を用意して その中に基板材料を浸漬させ 薄膜の原料が基板材料の表面に析出する現象を利用して 基板上に薄膜を形成する方法 CIGS 太陽電池のバッファ層を形成するための技術として 頻繁に用いられている 多元蒸着三段階法真空蒸着において 多種類の蒸発源を同時に供給する成膜方法 本研究では 特に多元蒸着を三段階に分けて成膜する三段階法 ( 米国再生可能エネルギー研究所が考案 ) と呼ばれる方法を用いている 5