図 1 運転者 ( 原付以上 ) の法令違反別事故件数 (2015 年 ) 出典 : 警察庁 平成 27 年度における交通事故発生状況 表 1 自動運転のレベル出典 : 自動走行ビジネス検討会資料を基に JAEF 作成 加速 ( アクセル ) の自動化 =クルーズコントロール ( アクセルペダルを踏

Similar documents
03 【資料1】自動走行をめぐる最近の動向と今後の調査検討事項

平成 30 年度 自動車局税制改正要望の概要 平成 29 年 8 月 国土交通省自動車局

特集 自動運転の現状と課題 自動運転 という言葉がよく聞かれるようになりました 言葉だけを聞くと ハンドルやアクセル ブレーキなど すべての操作が自動で行われ 人は何もすることなく目的地へと移動できるという印象を受けます また それがいますぐにでも実現しそうな期待も大きく膨らんでいます しかし この

<4D F736F F F696E74202D20895E935D8E D BB8C7689E68A C4816A72332E >

( おさらい ) 自動運転とは レベルレベル1 レベル2 レベル3 レベル4 定義 加速 操舵 制動のいずれかの操作をシステムが行う 加速 操舵 制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う ( 自動運転中であっても 運転責任はドライバーにある ) 加速 操舵 制動をすべてシステムが行い システムが要

1 日本再興戦略 2016 改革 2020 隊列走行の実現 隊列走行活用事業モデルの明確化ニーズの明確化 ( 実施場所 事業性等 ) 技術開発 実証 制度 事業環境検討プロジェクト工程表技高齢者等の移動手段の確保 ( ラストワンマイル自動走行 ) 事業モデルの明確化 ( 実施主体 場所 事業性等 )

本章では 衝突被害軽減ブレーキ 車線逸脱警報 装置 等の自動車に備えられている運転支援装置の特性 Ⅻ. 運転支援装置を 備えるトラックの 適切な運転方法 と使い方を理解した運転の重要性について整理しています 指導においては 装置を過信し 事故に至るケースがあることを理解させましょう また 運転支援装

【生産性革命プロジェクト】 産業界における気象情報利活用

「自動運転車」に関する意識調査(アンケート調査)~「自動運転技術」に対する認知度はドイツの消費者の方が高いことが判明~_損保ジャパン日本興亜

1 趣旨このガイドラインは 日本国内の公道 ( 道路交通法 ( 昭和 35 年法律第 105 号 ) 第 2 条第 1 項第 1 号に規定する 道路 をいう 以下同じ ) において 自動走行システム ( 加速 操舵 制動のうち複数の操作を一度に行い 又はその全てを行うシステムをいう 以下同じ ) を

速度規制の目的と現状 警察庁交通局 1

【資料1】高齢運転者に係る交通事故分析

1-1 交通死亡事故全体の推移 10 年前と比較し の死者は 40.7% 65 歳以上の死者は 24.0% それぞれ減少 死者に占める 65 歳以上の割合は 24 年以降増加 27 年中死者の半数以上 (54.6%) を 65 歳以上が占める 10 年前と比較し 人口当たり死者数は 65 歳以上のい

Microsoft Word - 資料4(修正).docx

Microsoft PowerPoint - day1-l05.pptx

見出しタイトル

自動運転への対応状況 自動運転の分類 運転支援型自動運転 : 緊急時は運転者が操作 ( 運転者がいることを前提とした自動運転 ) 完全自動運転 : 緊急時もシステムが操作 ( 運転者が不要な自動運転 ) 自動車メーカーの開発状況 運転支援の高度化を目指す 当面目標とはしておらず 試験走行の予定もない

<4D F736F F D E817A899E977095D22D979A97F082C882B >

1. 調査の背景 目的 (1) 本調査の背景 1 自動運転システムに関する技術開発が日進月歩で進化する中 自動運転システムの機能や性能限界等に関する消費者の認識状況 自動運転システムの普及に必要な社会的受容性への正しい理解等 解消すべき不安 ( リスク ) についての事前調査および議論がまだ広範かつ

STAMP/STPA を用いた 自動運転システムのリスク分析 - 高速道路での合流 - 堀雅年 * 伊藤信行 梶克彦 * 内藤克浩 * 水野忠則 * 中條直也 * * 愛知工業大学 三菱電機エンジニアリング 1

トヨタ 日産 ホンダ 装置名称 歩行者検知機能付 プリクラッシュセーフティシステム ( 衝突回避支援型 ) プリクラッシュセーフティシステム ( 歩行者検知機能付衝突回避支援型 ) エマージンシーブレーキシステム エマージンシーブレーキシステム エマージンシーブレーキシステム シティブレーキアクティ

1. 調査の背景 目的 (1) 本調査の背景 1 自動走行システムに関する技術開発が活発化する中 自動走行システムの機能や性能限界等に関する消費者の認識状況 自動走行システムの普及に必要な社会的受容性への正しい理解など 解消すべき不安 ( リスク ) についての事前調査および議論が広範かつ十分に深ま

ICT を活用した ITS の概要 1 ITS は内閣府 警察庁 総務省 経済産業省 国土交通省が連携して推進 道路交通情報 VICS (1996 年 ~) FM 多重放送 電波ビーコン 光ビーコンで情報配信 ( 約 5,100 万台 :2016 年 6 月末 ) プローブ情報 携帯電話ネットワーク

資料 -2 国道 24 号烏丸通 歩行者 自転車通行安全協議会 国道 24 号烏丸通の概要 平成 30 年 3 月 国土交通省近畿地方整備局京都国道事務所

ニュースレター「SEI WORLD」2016年6月号

【資料8】車両安全対策の事後効果評価rev4

1 基本的な整備内容 道路標識 専用通行帯 (327 の 4) の設置 ( 架空標識の場合の例 ) 自 転 車 ピクトグラム ( 自転車マーク等 ) の設置 始点部および中間部 道路標示 専用通行帯 (109 の 6) の設置 ( 過度な表示は行わない ) 専 用 道路標示 車両通行帯 (109)

<4D F736F F D E817A8AEE916295D22D979A97F082C882B >

<4D F736F F F696E74202D CC8ED48ED48AD492CA904D82CC8EE D918CF08FC88E9197BF816A2E B8CDD8AB B8

目 次 1 交通事故の発生状況 1 2 死傷者の状況 (1) 齢層別の状況 3 (2) 状態別の状況 5 (3) 齢層別 状態別の状況 7 (4) 損傷部位別の状況 12 (5) 昼夜別の状況 14 3 交通事故の状況 (1) 齢層別の状況 17 (2) 法令違反別の状況 19 (3) 飲酒別の状況

1 見出し1

Microsoft Word 交通渋滞(有明アーバン)_181017

自動運転の法的課題について 2016 年 6 月 一般社団法人日本損害保険協会 ニューリスク PT

見開き.indd


⑴ ⑵ ⑶

沖縄でのバス自動運転実証実験の実施について

自動運転に関する世界の動向 2012 年頃より 各国で活発に議論が開始されている ITS WC Vienna ITS WC Tokyo ITS WC Detroit ITS EU Dublin TRA Paris ITS EU Helsinki WS#1 WG#1 WS

Microsoft Word - 資料6(修正).docx

1 見出し1

1 見出し1

Microsoft Word - H180119コンパクトシティ説明用_仙台市_.doc

<4D F736F F F696E74202D E F EF816A8E9197BF A082E895FB82C982C282A282C4>


ひっかけ問題 ( 緊急対策ゼミ ) ステップ A B C D 39.4% 学科試験パーフェクト分析から ひっかけ問題 に重点をおいた特別ゼミ! 2 段階 出題頻度 39.4% D ゼミ / 内容 *(2 段階 24.07%+ 安知 15.28%=39.4

スライド 1

<8D8297EE8ED282CC837A815B B E A2E786C7378>

<4D F736F F F696E74202D208F E7382C982A882AF82E98CF68BA48CF092CA90AD8DF482CC8EE C982C282A282C42E B8CDD8AB7838

平成 28 年度第 2 回車両安全対策検討会平成 28 年 12 月 9 日 安全 - 資料 9 自動運転に係る国際基準の検討状況

PowerPoint Presentation

Microsoft Word - 文書 1

自動運転に係る国際基準の動向

資料 1 逆走事案のデータ分析結果 1. 逆走事案の発生状況 2. 逆走事案の詳細分析

スマートICの事業費の基準について

物流業界が期待するテレマティクス_損保ジャパン日本興亜

<4D F736F F F696E74202D E838B93B E907D8BA689EF82CC8EE E B8CDD8AB B83685D>

PowerPoint プレゼンテーション

自動車事故に関する現行の法律の整理 交通事故時の法的責任およびその根拠法責任を負う個人 / 法人製品等責任責任根拠 自動車運転死傷行為処罰法刑事責任刑法運転者 - 道路交通法行政処分道路交通法 民法 事業者 運行供用者 - 運行供用者責任自動車損害賠償保障法 使用者 - 使用者責任民法 損害保険会社

資料 2 ダブル連結トラック実験方針 ( 案 ) Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism

大型建設機械の輸送に係る規制について

初任運転者に対する指導内容 ( 座学 ) 菰野東部交通株式会社 指導教育の内容 事業用自動車の安全な運転に関する基本的事項 道路運送法その他の法令に基づき運転者が遵守すべき事項及び交通ルール等を理解させるとともに 事業用自動車を安全に運転するための基本的な心構えをしゅうとくさせる ( 事業用自動車に

<4D F736F F F696E74202D CA48B8694AD955C89EF81698EA993AE895E935D816A90E79774>

untitled

Microsoft Word - 1_石川.docx

8. ピンポイント渋滞対策について 資料 8

6 テストドライバーに関連する自動走行システムの要件 実験車両 7 公道実証実験中の実験車両に係る各種データ等の記録 保存 8 交通事故の場合の措置 事故対応 9 賠償能力の確保 10 関係機関に対する事前連絡 外部連携 出典 : 自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン をもとに弊

2019 年 1 月 18 日 インド共和国アーメダバード市における 日本で規格化され世界標準規格でもある UHF 帯 V2X 通信技術を応用した緊急車両優先システムの実証実験 の実施について 株式会社ゼロ サム 株式会社トヨタ IT 開発センター 0. サマリー 〇株式会社ゼロ サムと株式会社トヨ


目次


平成29年度 地域指定型 実験箇所(今回選定)

自動車取得税の 税率の特例 ( 法附則第 12 条の 2 の 2 第 12 条の 2 の 3 第 12 条の 2 の 5) 電気自動車 ( 燃料電池自動車を含む ) 天然ガス自動車 対象車両新車中古車 平成 30 年排出ガス規制適合又は平成 21 年排出ガス規制 NOx10% 以上低減 プラグインハ

<4D F736F F D F4390B388C4816A81798AEE8F808BC7817A838A838A815B EA993AE8ED4895E935D8ED282F08E B782E98E968BC68FEA82C991CE82B782E995BD90AC E82CC8AC493C28E7793B C9F939982CC8FF38BB582F08CF69

1 はじめに

スライド 1

21m 車両の検証項目 ダブル連結トラック実験 高速道路 3 交通流への影響 4 道路構造への影響 合流部 : 本線 合流部 : ランプ 追越時 車線変更部 検証項目 分析視点 データ等 1 省人化 同一量輸送時のドライバー数 乗務記録表 環境負荷 同一量輸送時のCO2 排出量 2 走行 カーブ (

<4D F736F F D E817A899E977095D22D979A97F082C882B >

平成 26 年度海外市場探求奨学金報告書 機械創造工学課程 4 年高桑勇太 探求テーマ スペインにおける自動車市場の探求 実務訓練期間 2014 年 9 月 1 日 2015 年 2 月 7 日 実務訓練先 スペイン ( バルセロナ ): カタルーニャ工科大学 概要近年, 日本の自動車企業の海外進出

ITS とは 1 ITS の役割 ITS (Intelligent Transport Systemsys) 高度道路交通システム 人と道路と自動車の間で情報の受発信を行い 道路交通が抱える事故や渋滞 環境対策など 様々な課題を解決するためのシステムとして考えられました 常に最先端の情報通信や制御技

平成 28 年度警察庁委託事業 自動運転の段階的実現に向けた調査研究 報告書 ( 概要 ) 平成 29 年 3 月

(4) トラムトレインの衝突安全対策 1) 自動運転技術のトラムトレイン等への応用自動運転技術について トラムトレイン LRT 及びBRTへの応用について検討を行った 現在 2020 年までの自動運転の実用化を目指して 日本 米国及び欧州において技術開発が進められている 自動運転は人間に代わり認知

スライド 1

(Microsoft Word \217\254\215\373\216q \203G\203R\203h\203\211\203C\203u\202b.doc)

Microsoft PowerPoint - ○ITARDA H29年1~12月( )

SIP 自動運転 _ 研究開発計画説明会 SIP 自動運転 ( システムとサービスの拡張 ) 研究開発計画について 平成 30 年 8 月 3 日 ( 金 ) 内閣府プログラムディレクター 葛巻清吾 1

< 軽量車 ( 車両総重量.5t 以下のバス トラック )> 天然ガス自動車 30 規制適合又はポスト新長期規制からOx0% 低減 ガガソソリリンンハ自イ動ブ車リッド自動車 平成 30 年排出ガス基準 50% 低減達成車又は平成 7 年排出ガス基準 75% 低減達成車 ( ) かつ 平成 7 年度燃

⑵ ⑶ ⑷ ⑸ ⑴ ⑵

< F2D95BD90AC E82C982A882AF82E98CF092CA8E968CCC82CC94AD90B68FF38BB52E6A746463>

<4D F736F F D208D8291AC93B BF8BE08E7B8DF482CC89658BBF92B28DB E92B A2E646F63>

Microsoft PowerPoint - 2_「ゾーン30」の推進状況について

道路を賢く使う取組 IT を活用した 賢い物流管理 について ETC2.0 で物流効率化 WIM で過積載の取締強化 深刻なドライバー不足が進行 30~39 歳 22% 30 歳未満 9% 40~49 歳 32% 50 歳以上 37% 物流効率化 トラックドライバーの 約 4 割が 50 歳以上 一

1 踏切事故 とは国土交通省鉄道局の資料( 鉄軌道輸送の安全にかかわる情報 の 用語の説明 ) によれば 踏切障害に伴う列車衝突事故 列車脱線事故及び列車火災事故並びに踏切障害事故 をいいます 2 3 出典 : 国土交通省鉄道局 鉄軌道輸送の安全にかかわる情報

g-contents world Geomedia Summit 東京のタクシー IoT 化 サービス向上からデータ活用まで タクシー新配車システムの変遷 ~ 日本でのアプリ配車における これまでの流れと今後の可能性 ~

2-2 需要予測モデルの全体構造交通需要予測の方法としては,1950 年代より四段階推定法が開発され, 広く実務的に適用されてきた 四段階推定法とは, 以下の4つの手順によって交通需要を予測する方法である 四段階推定法将来人口を出発点に, 1 発生集中交通量 ( 交通が, どこで発生し, どこへ集中

2

untitled


平成 29 年度自動車取得税の軽減措置について 平成 29 年度の自動車取得税の軽減措置について 次のとおり変更がありました 平成 29 年 4 月岐阜県 エコカー減税 及び 中古車の取得に係る課税標準の特例措置 の対象範囲を平成 32 年度燃費基準の下で見直し 政策インセンティブ機能を強化した上で

2

Microsoft Word - guideline02

Transcription:

自動運転の現状と課題 公益財団法人日本自動車教育振興財団理事長田利彦 今, 自動車業界で話題になっている自動運転について, 公益財団法人日本自動車教育振興財団が年 3 回 (3 月,6 月,10 月 ) 発行している Traffi- Cation 2016 No.42 に特集として発表された内容を紹介する 1. 関心の高まりを見せる自動運転 ⑴ 自動運転機能の一部はすでに実運用されている自動運転というと, 乗車した人は何もせず, クルマがすべての操作を自動的に行う無人運転のことを指していると思っている人も多い 自動運転は一般的には衝突被害軽減ブレーキに代表される 安全運転支援 ( レベル 1,2) から, 人による操作が基本的に不要な 完全自動運転 ( レベル 3,4) までの 4 段階に分かれる (p.8 の表 1) レベル 1,2 に関しては, すでに一部の市販車へは導入が進んでおり, 身近な存在になっている とくに, 衝突被害軽減ブレーキはメーカー各社が積極的な CM 展開を行い, モーターショーなどの場でも PR していることから, 一般ユー ザーの高い関心を集めている 日本政府も成長戦略の一環として自動運転実現に向けた取組や推進を行っている 2015 年 2 月には, 経済産業省と国土交通省が共同で設置した 自動走行ビジネス検討会 で, 自動走行の実現に向けた今後の取組の方針等を公表した そこには,2020 年代前半にレベル 3 を実用化, そして 2020 年代後半以降にレベル 4 の試用開始と記されている また, 安倍晋三首相も, 政府と産業界が意見交換する 官民対話 (2015 年 10 月 ) の場で, 2020 年の東京オリンピック パラリンピックにおいて自動運転による移動サービスを可能にするため,2017 年までに必要なインフラを整備することを正式に表明している まさに現在, レベル 3,4 の自動運転実現に向けて, 官民が一体となって動き出している では, 自動運転にはどのようなメリット, デメリットがあると考えられるか, 以下に見ていくことにする 7

図 1 運転者 ( 原付以上 ) の法令違反別事故件数 (2015 年 ) 出典 : 警察庁 平成 27 年度における交通事故発生状況 表 1 自動運転のレベル出典 : 自動走行ビジネス検討会資料を基に JAEF 作成 加速 ( アクセル ) の自動化 =クルーズコントロール ( アクセルペダルを踏むことなく速度を一定に維持する機能 ) や, 渋滞の原因とされる道路の下り坂から上り坂に切り替わるサグ部での自動加速による渋滞回避システムなど 操舵 ( ハンドル ) の自動化 =レーンチェンジアシスト ( 車線変更支援システム ) やレーンキープアシスト ( 車線維持システム ), またインテリジェントパーキングアシスト ( 車庫や目標のスペースに駐車する機能 ) など 制動 ( ブレーキ ) の自動化 = 衝突被害軽減ブレーキ ( 前車や歩行者を検知して衝突回避を行う ), 信号見落とし防止システムなど 運転操作不適 安全不確認 などが上位を占めている ( 図 1) つまり, 衝突回避機能など自動運転関連の技術が普及すれば, 交通事故の多くが未然に防止できたり, 交通事故の被害が軽減されるのである 実際に, 安全運転支援システム アイサイト の導入を進めてきたスバル ( 富士重工業 ) の調査によると, アイサイト (ver 2) の搭載車は非搭載車に対し, 交通事故の発生頻度が約 6 割少ないという結果になっている ( 図 2) 2. 自動運転が求められる背景 ( メリット ) ⑴ 交通事故の削減による安心安全社会の構築 2015 年の交通事故件数は 536,899 件で, うち死亡事故件数は 4,028 件 ( 死者数は 4,117 人 ) であった 死亡事故のうち, 運転者の違反による件数は 3,585 件と実に 9 割にのぼり, その違反の内容を見ると, 漫然運転 わき見運転 図 2 アイサイト (Ver 2) 搭載車と非搭載車の事故件数結果 (1 万台当たり件数 2010 2014 年度 ) 8

このように, クルマに搭載した安全運転支援システムが人間の操作ミスをカバーすることで, 交通事故の少ない安心安全社会を構築することが可能となるのである ⑵ 少子高齢化社会への対応近年, 地方都市で大きな問題となっているものの一つに公共交通がある 少子化に加え, 地方都市における若者の流出による人口減の影響を受け, 地方の公共交通利用者は減少し, 経営が圧迫されて, 路線の減便, 廃止が進んでいる こうした地方都市ではクルマが移動手段として, ますます必要となってくる しかし高齢者の場合, 運転操作ミス ( ブレーキとアクセルの踏み間違え等 ) や高速道路の逆走などによる事故が報じられている 自動運転による安全運転支援システム ( レベル 1,2) があれば, 高齢者も不安なくクルマを運転することができる また, レベル 3,4 が実用化されれば, 運転免許を返納した高齢者でもクルマによる移動が可能となり, 買物や病院などへの移動が容易になることであろう このように自動運転により, 地方都市における生活の質の維持 向上が期待できるのである そこで注目されているのが, 自動運転を利用した公共交通バス, タクシーの導入である レベル 3 か 4 での導入が実現すれば, 地方都市の移動手段として活用することができると期待されており, ヨーロッパではすでに自動運転バスの実証実験が進められている また, これら 3 つの業界は人件費率が極めて高く ( 図 3), 企業経営を圧迫している 長距離バス, トラックであれば, 高速道路を自動運転とし, 一般道はドライバーが運転するだけでもドライバーの交代要員が不要になり, 費用の低減やドライバーの負担軽減につながる ネット通販の拡大により, 貨物輸送ニーズは ⑶ ドライバー不足の解消と地方活性化への寄与現在, バス, タクシー, 貨物の業界では, 少子高齢化の影響もあり, ドライバー不足が叫ばれている 特に地方都市でのドライバー不足が深刻である 図 3 運輸 3 業界の人件費率 ( 出典 : 国土交通省 ) 9

今後ますます増加すると考えられる ドローンを使った貨物輸送が検討されているが, 自動運転車による貨物輸送の可能性も生まれる このように自動運転が実現すれば, 人件費削減によるサービス価格の低下に加え, 新しい市場の創出にもつながると考えられる 3. 自動運転への懸念, 課題 ( デメリット ) ⑴ システムに対する不安自動運転に対する不安の声 ( デメリット ) で, 最も大きいものが自動運転のシステムに対する不安である ヒューマンエラーに比ベシステムエラーが発生する確率は低いとはいえ, 決してゼロではない ハードの機械と異なり自動運転技術は目に見えないシステムであることも余計に不安が募る面も否定できない また自動運転車は自車のシステムだけでなく, 他車や信号機など周辺の情報を収集し判断しなければならないが, どこまで対応できるのか, 利用者自身がしっかり把握しておかなければ安心してクルマの運転を任せることはできない ⑵ さまざまな障害物や予期できない事象への対応予想外の障害や予測できない事象が発生して事故に結びつく場合がある 不測の事態が起きた場合, 人間は経験値によってある程度とっさの行動をとることができる しかし, システムの場合, 事前にプログラムした対応しかできない アメリカ ( カリフォルニア州 ) で 2016 年 2 月に公道での走行実験中のグーグルの自動運転車両が後方から来たバスと衝突事故を起こした これはグーグルの自動運転車両が前方にある砂袋を認識して停止, それを回避するため車線変更をして発進したところ, 後ろから来たバ スに衝突したという事故だった バスのほうが道を譲ると考えて事故に発展したようだ この事故を受け, グーグル社は後方車両の動向も検知して判断できるようにプログラムの修正を行うと発表した また, 路上駐車車両の陰からの急な飛び出しや歩道から車道に飛び出してくる自転車など, 見えないところから突然現れるものへの対応をどこまでやるのかが大きな課題である 特に日本では欧米に比べて不測の事態が発生しやすい環境にある 欧米では, 駐車禁止区間での違法な路上駐車はほとんど見ることがない また自転車の走行空間も整備されており, クルマ 自転車 歩行者の空間が明確に分離されているため, 歩道から車道に飛び出してくる自転車を気にかける心配はほとんど不要である このことは, 事故を未然に防ぐためには自動運転技術の開発もさることながら, 道路インフラなどの周辺環境など, さまざまな対策も講じる必要があることを示している ⑶ 法律上の課題自動運転実現に向けて最大の懸案事項と言えるのが, 道路交通法のあり方と事故が起きたときの刑事 民事上の責任である 世界的な道路交通に関する条約として 1949 年に締結された ジュネーブ道路交通条約 があり, 日本も批准している この条約では, 走行しているクルマには, 運転者がいなければならず, 運転者は適切かつ慎重な方法で運転しなければならないと規定されている 日本の 道路交通法 でも, 運転者は車両装置を確実に操作して, 他人に危害を及ぼさないように運転しなければならないと定められている つまり, クルマを走行させるためには運転者が必要であり, 運転者を必要としない無人自動運転のレベル 4 は国際法, 国内法ともに認めら 10

表 2 メリット 交通事故の削減による安心 安全社会の構築 少子高齢化社会への対応 ドライバー不足の解消と地方活性化への寄与 自動運転のメリット, デメリット れていない レベル 4 を実現させるためには, これら規定を見直すことが必要である さらに, 自動運転中に事故が発生した場合の責任問題も大きな課題である 現行の自動車損害賠償保障法では, 直接の加害者となる運転者, 運行供用者 ( 加害車両の所有者 ) の責任が規定されている では, システムがすべての操作を行うレベル 3 で運転席に座っていた人の責任は問えるのだろうか レベル 4 の場合は誰の責任になるのだろうか クルマメーカー, システムを組んだメーカー, 道路上のセンサー類のメーカー, クルマを整備したディーラーなど, 責任の所在について議論がスタートしたばかりである これまで見てきた自動運転のメリット, デメリットを整理すると上の表 2 のようになる 4. 自動運転実現に向けて これまで見てきたように, クルマの負の側面である交通事故撲滅に向けて安全運転支援システム ( レベル 2) の早期実現は必要と言える また, 公共交通の不便な地域においては, 新たな交通手段として, 自動運転 ( レベル 3,4) のニーズは高いと考えられる 一部の操作だけであれば高齢者でも大きな負担なくクルマでの移 デメリット 課題 システムに対する不安 さまざまな障害物や予期できない事象への対応 法律上の課題 動が可能である そのためには地域限定であっても実情に応じた規制緩和が必要ではないだろうか さらに, イギリスなど欧州の一部の国 ( ジュネーブ条約非批准国 ) ではレベル 4 の実証実験を進めようとしており, これらの国が世界標準を決めていく可能性がある 日本が自動運転の波から取り残されないためにも, 国際分野における日本のリーダシップが求められる また, 自動運転をきっかけに, 日本の道路インフラや道路 交通行政の後進性を改めるチャンスでもある 5. 議論のために新たに販売される自動車に対して自動ブレーキシステムを義務化させてはどうかという検討が現在行われている 自動ブレーキシステムのメリット デメリットを考え, この政策に対する賛否を生徒の皆さんと議論してみてはいかがだろう 6. おわりに先日ある新聞記事に, 政府は 2020 年の東京五輪で無人で走行するタクシーなどのサービスを提供できるよう,2017 年までに遠隔制御での実験ができる環境の整備を求めている, とでていた 日本の政府も, 世界的に加速している自動運転車の開発に自動車メーカと連携し, 積極的に取り組み, 自動運転レベル 4 が実現されることを期待している 11