平成20年度第1回高知医療センター 地域がん診療連携拠点病院 公開講座 食道がんの放射線 化学療法について 高知医療センター 腫瘍内科 辻 晃仁 がん薬物療法専門医 がん治療認定医 2008.7.19. 高知市 ウエルサンピア高知 レインボーホール
食道の構造
食道がんの進行 食道の内面の粘膜から発生したがんは 大きくなると粘膜下層に広がり さらにその下の筋層に入り込みます もっと大きくなると食道の壁を貫いて食道の外まで広がっていきます 食道のまわりには気管や肺 大動脈 心臓など重要な臓器が近接しているので さらに大きくなるとこれら周囲臓器へ広がります
食道がんの転移 食道の壁とその周囲にはリンパ管や血管が豊富です がんはリンパ液や血液の流れに 食道とは別のところに流れ着いてそこで増えはじめます これを転移といいます リンパの流れで転移したがんは リンパ節にたどり着いてかたまりをつくります 食道のまわりだけではなく 腹部や首のリンパ節に転移することもあります 血液の流れに入り込んだがんは 肝臓 肺 骨などに転移します
進行度 ( ステ - ジ ) 食道がんの治療法を決める場合 病気の進行の程度をあらわす進行度分類を使用します 各検査や手術時の所見でのがんの深さ リンパ節や他の臓器への転移の程度にしたがって病期を決定します
0 期 がんが粘膜にとどまっており リンパ節 他の臓器 胸膜 腹膜 ( 体腔の内面をおおう膜 ) にがんが認められないもの いわゆる早期がん 初期がん と呼ばれているがん
I 期 がんが粘膜にとどまっているが 近くのリンパ節に転移があるもの もしくは 粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器さらに胸膜 腹膜にがんが認められないもの
II 期 がんが筋層を越えて食道の壁の外にわずかにがんが出ている あるいは がんが筋層を越えず食道のがん病巣のごく近傍に位置するリンパ節のみにがんがある かつ臓器や胸膜 腹膜にがんの広がりが認められない場合
III 期 がんが食道の外に明らかに出ている 食道壁にそっているリンパ節か あるいは食道のがんから 少し離れたリンパ節にがんがある 他の臓器や胸膜 腹膜にがんが 認められない
IV 期 がんが食道周囲の臓器におよんでいる あるいは 遠く離れたリンパ節にがんがある あるいは 他の臓器や胸 腹膜にがんが認められる
食道がんの治療 がんの進展度と全身状態から治療法を決めます 食道がんの治療は大きく分けて 内視鏡治療 手術 放射線治療 化学療法の4つの治療法があります その他に温熱療法や免疫療法などを行っている施設もあります ある程度進行したがんでは 外科療法 放射線療法 化学療法を組み合わせた治療も行われます
食道がんの内視鏡的治療 公開講座 1 食道がんの内視鏡的治療について 森田雅範先生
食道がんの手術 特別講演会 縦隔鏡による食道がんの切除について 丹黒章教授
食道がんの放射線 化学療法について 放射線療法 化学療法 化学放射線療法 他の治療との併用
放射線療法 放射線療法は手術と同様に限られた範囲のみを治療できる局所治療ですが 機能や形態を温存することをめざした治療です 放射線療法は治療目的で 2 つに分けられます がんを治す努力する治療 ( 根治治療 ) と がんによる痛み 出血などの症状を抑さえる治療 ( 姑息治療 対症治療 ) です
放射線治療の流れ 放射線科医による診察放射線治療計画 ( シミュレーション ) 放射治療 治療による痛みはありません 治療は一部位につき約 5 分で程度
食道癌
根治治療 根治治療の対象は がんが放射線を当てられる範囲にとどまっている場合です 根治治療は 1 日 1 回もしくは 1 日 2 回の放射線を週 5 日 6~7 週おこないます
化学療法 がん細胞を殺す薬を注射します 抗がん剤は血液の流れに乗り 手術できないところや 放射線を当てられないところなど全身にとどきます 他の臓器にがんが転移している時に行われる治療ですが 放射線療法や外科療法との併用で行われる場合もあります
化学療法の方法 食道がんには 数種類の抗がん剤を組み合わせて使います 5- フルオロウラシルとシスプラチンの併用療法が最も有効とされています 最近はこれにドセタキセルと言う薬剤を追加する併用療法も期待されています (DCF 療法 ) 抗がん剤は 4~5 日間続けて注射します これを 3 週間ほどの休みをおいてもう 1 回行い 効果があればさらに繰り返します 最近は治療を外来通院で行うこともできます
化学放射線療法 放射線療法単独よりも化学療法と併用 するほうが効果が高くなります 放射線照射を28 回 ~30 回行い 5-フルオロウラシルやシスプラチンといった抗癌剤を同時に投与する方法が一般的に行われています
根治的化学放射線療法 化学放射線により完治を目指します 手術可能な症例も含まれます ( 手術を望まない人 合併症などで手術のリスクの高い人など ) 癌が気管や大動脈などに浸潤していて手術できない場合にも適応となります 臓器機能が低下している場合や患者さんの状態が悪い場合には 放射線療法のみを行います
緩和的化学放射線療法 全身にがんが広がっており根治的治療はできないが がんで食事が通過しないなど 局所的な効果により患者さんに利益があると予測される場合に症状緩和を目的に行います この場合も患者さんの状態が 悪ければ 放射線療法のみ を行うことがすすめられます
食道がんの病期 ( ステージ ) 別治療 治療は主に病期により決定されます 同じ病期でも 病気の進行ぐあい 全身状態 心臓 肺機能などによって治療が異なる場合があります ガイドラインで標準的な治療が示されています
0 期食道がんの治療 内視鏡的粘膜切除術外科療法化学放射線療法 ( 放射線療法と抗がん剤の併用療法 ) 粘膜にとどまるがんでは 食道を温存できる内視鏡的粘膜切除術が可能です がんの範囲が広いために内視鏡的に切除できない場合には 手術で切除します
内視鏡治療 (EMR) の成績
手術療法の治療成績
0 期の治療成績 内視鏡治療と手術療法は同等の成績 体に対する負担 術後の状況など の点では内視鏡が有利
I 期 食道がんの治療 外科療法 ( 標準治療 ) 化学放射線療法 ( 放射線療法と抗がん剤の併用療法 ) 化学放射線療法により 手術をせずに臓器を温存しつつ手術と同等の治癒率が得られるという報告も出てきました 化学放射線療法と外科療法の効果を比較検討する研究も始まっています
手術療法の治療成績
手術と放射線化学療法 (I 期 )
Ⅰ 期の治療成績 手術療法では Ⅰ 期も良好な成績 化学放射線療法の良い成績も示されてきた
II 期 III 期 食道がんの治療 手術に耐えうると判断された場合 外科療法 ( 標準治療 ) 外科療法と化学 ( 放射線 ) 療法の併用療法 化学放射線療法 ( 放射線療法と化学療法の併用療法 ) 手術前 ( あるいは手術後 ) に化学 ( 放射線 ) 療法を行うほうが手術療法単独より優れているという報告もあります 化学放射線療法の進歩により 臓器を温存しつつ 手術と同等の治療成績が得られるという報告もあります
II 期 III 期 食道がんの治療 手術に耐えられないと判断された場合 化学放射線療法 放射線療法 以前は放射線療法が選択されていました その後 化学放射線療法のほうが放射線療法単独より治療効果が高いことが証明されました
手術療法の治療成績
手術と放射線化学療法 (II 期 III 期 )
Ⅱ Ⅲ 期の治療成績 手術療法が化学放射線療法を凌駕する 化学放射線療法の成績も比較的良好で 状況次第で良い適応になる症例もある
IV 期 食道がんの治療 化学療法 化学放射線療法 放射線療法 痛みや他の苦痛に対する症状緩和を目的とした治療 通常 IV 期では手術ではなく 化学療法が行われます 副作用があるため 全身状態が不良な場合には化学療法ができないことがあります また がんにより食物の通過障害があるときなど 放射線療法も行われることがあります 症状緩和の治療技術は非常に進歩してきています
放射線 化学療法の成績
Ⅳ 期の治療成績 放射線 化学療法により 長期生存が期待される
ガイドラインによる食道がん治療の流れ
Ⅱ Ⅲ 期食道がん化学療法 術前 vs. 術後 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 生存期間 JCOG9907 術前化学療法 5 年生存 =60.1% 術後化学療法 5 年生存 =38.4% 0 1 2 3 4 5 6 7 Years after randomization
Ⅱ 期 Ⅲ 期食道がんの治療成績 手術療法に加えて術前化学療法を行うこと で更なる治療成績の向上が期待される
まとめ 食道がんは内視鏡 手術 放射線 抗がん剤の組み合わせで! Ⅱ Ⅲ 期には 術前化学療法と手術療法の組み合わせがよさそうだ! Ⅳ 期は化学 ( 放射線 ) 療法を! ( 外来治療も普及 新しい抗がん剤なども出てきました ) 困ったときは 専門医にご相談ください!
地域がん診療連携拠点病院 a-tsuji@r4.dion.ne.jp Website: http//www.khsc.or.jp/