( 症状および検査所見 ) 3~7 日の潜伏期間の後に 発熱 発疹 頭痛 骨関節痛 嘔気 嘔吐などの症状がおこる 日本国内で診断されたデング熱患者の症状や検査所見の出現頻度を表 1 に示す 3) 発熱は発病者のほぼ全例にみられ 時に二峰性となる 通常 発病後 2~7 日で解熱し そのまま治癒する 約

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( 症 状 および 検 査 所 見 ) 3~7 日 の 潜 伏 期 間 の 後 に 発 熱 発 疹 頭 痛 骨 関 節 痛 嘔 気 嘔 吐 などの 症 状 がおこる 日 本 国 内 で 診 断 されたデング 熱 患 者 の 症 状 や 検 査 所 見 の 出 現 頻 度 を 表 1 に 示 す 3)

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

エボラ出血熱の感染症法上の対応について

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

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デング熱の

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

目次 1 はじめに 1 2 定義 1 3 デング熱 (1) デング熱とは 2 (2) 臨床的特徴 2 (3) デング熱の届出基準 2 (4) 検査方法 2 (5) 情報提供の要件 2 4 チクングニア熱 (1) チクングニア熱とは 3 (2) 臨床的特徴 3 (3) チクングニア熱の届出基準 3 (

いずれも海外で感染症にかかった者が帰国又は入国する例 ( 以下 輸入感染症例 という ) を起点として国内で感染が拡大する可能性が常に存在する このため 厚生労働省は 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 ( 以下 感染症法 という ) 第 11 条の規定に基づき 総合的に予防のため

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蚊媒介感染症の対策・対応手順

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蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第2版)

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

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2009年8月17日

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

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平成28年3月11日【ジカ熱】(自治体宛事務連絡) (3) - コピー (2)

【事務連絡】蚊媒介感染症の診療ガイドラインについて

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【事務連絡】蚊媒介感染症の診療ガイドラインについて

2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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デング熱の国内感染症例について(第一報)

減量・コース投与期間短縮の基準

蚊媒介感染症の診療ガイドライン ( 第 45 版 ) 2015 年 5 月 22 日第 1 版 * 作成 2016 年 3 月 11 日第 2 版作成 2016 年 7 月 14 日第 3 版作成 2016 年 12 月 14 日第 4 版作成 2019 年 2 月 7 日第 5 版作成国立感染症研

266 ウイルス分離は 発症後 5-6 日以内の血清試料とデングウイルスに感受性の高いヒトスジシマカ培養細胞株 C6/36 細胞を用いて行う ウイルス分離を行うには病原体の取り扱いが可能なバイオセーフティレベル (BSL)2 施設で行う必要がある また 細胞培養技術が必要となる ウイルス分離に用いる

事務連絡 平成 28 年 9 月 23 日 都道府県 各保健所設置市衛生主管部 ( 局 ) 御中 特別区 厚生労働省健康局結核感染症課 ジカウイルス感染症に関する情報提供について 標記については 平成 28 年 8 月 10 日付け事務連絡でお知らせしたところです 今般 ジカウイルス感染症に関して

日産婦誌58巻9号研修コーナー

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

東京大会と感染症サーベイランス ~ 普段とどこがちがうのか ~ 疾患疫学が変化する可能性 多数の訪日外国人の流入 多くのマスギャザリングイベント 事前のリスク評価に基づいたサーベイランスと対応の強化の必要性を検討する 体制構築の観点から 行政と大会組織委員会の責任範囲と協力体制の構築が必要 国内移動

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

検査項目情報 水痘. 帯状ヘルペスウイルス抗体 IgG [EIA] [ 髄液 ] varicella-zoster virus, viral antibody IgG 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F

2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

針刺し切創発生時の対応

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

2 4 診断推論講座 各論 腹痛 1 腹痛の主な原因 表 1 症例 70 2 numeric rating scale NRS mmHg X 2 重篤な血管性疾患 表

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

( 参考文献 3 より引用 ) レプトスピラ症はインフルエンザ様の急性熱性疾患として発症する 38~40 の発熱 全身倦怠 悪寒 頭痛 腹痛 嘔気 嘔吐 発疹などの非特異的な症状と 比較的特異度の高い眼脂のない結膜充血や筋痛が主な症状である 5~14(2~30) 日の潜伏期を経て敗血症期になり上記症

第 4 章感染患者への対策マニュアル ウイルス性肝炎の定義と届け出基準 1) 定義ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎 (B 型肝炎,C 型肝炎, その他のウイルス性肝炎 ) である. 慢性肝疾患, 無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない. したがって, 透析室では HBs

麻しん 2

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

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サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

免疫学的検査 >> 5F. ウイルス感染症検査 >> 5F560. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 検体ラベル ( 単項目オーダー時

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

新技術説明会 様式例

というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義して

「             」  説明および同意書

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

インフルエンザ定点以外の医療機関用 ( 別記様式 1) インフルエンザに伴う異常な行動に関する調査のお願い インフルエンザ定点以外の医療機関用 インフルエンザ様疾患罹患時及び抗インフルエンザ薬使用時に見られた異常な行動が 医学的にも社会的にも問題になっており 2007 年より調査をお願いしております

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

02別添:日本脳炎ワクチン接種に関するQ&A[H28.3月版]

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

世界保健機関 (WHO) による緊急事態宣言 WHOは 2016 年 2 月 1 日に開催された ジカウイルス感染症に関する国際保健規則 (IHR) 緊急委員会 ( 第 1 回 ) 会合の勧告を踏まえ 最近のブラジルにおける小頭症やその他神経障害の急増について 国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

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ミニカ共和国 エクアドル エルサルバドル グアテマラ ガイアナ ハイチ ホンジュラス ジャマイカ メキシコ ニカラグア パナマ パラグアイ サモア スリナム トンガ ベネズエラ フランス領 ( グアドループ サン マルタン ギアナ マルティニーク ) オランダ領 ( アルバ キュラソー島及びボネール

検査項目情報 EBウイルスVCA 抗体 IgM [EIA] Epstein-Barr virus. viral capsid antigen, viral antibody IgM 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLA

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( 別添 ) インフルエンザに伴う異常な行動に関する報告基準 ( 報告基準 ) ( 重度調査 ) インフルエンザ様疾患と診断され かつ 重度の異常な行動を示した患者につき ご報告ください ( 軽度調査 ) インフルエンザ様疾患と診断され かつ 軽度の異常な行動を示した患者につき ご報告ください イン

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

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標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

Transcription:

デング熱診療マニュアル ( 第 1 版 ) 2014 年 9 月 3 日 デング熱はアジア 中東 アフリカ 中南米 オセアニアで流行しており 年間 1 億人近くの患者が発生していると推定される 1) とくに近年では東南アジアや中南米で患者の増加が顕著となっている こうした流行地域で 日本からの渡航者がデング熱に感染するケースも多い 2,3) また 2013 年 8 月 日本に滞在したドイツ人旅行者が帰国後にデング熱を発症しており 日本国内での感染が強く疑われていた 4) また 2014 年 8 月には 海外渡航歴のないデング熱症例が国内において複数確認されている このため 今後は海外の流行地域からの帰国者だけでなく 海外渡航歴がない者についても デング熱を疑う必要性が生じている そこで本マニュアルでは プライマリーケアを行う医師がデング熱の疑われる患者の診療を行う際に参考となる事項について述べる なお 日本においてデング熱の媒介蚊となるヒトスジシマカの活動は主に 5 月中旬 ~ 10 月下旬に見られ ( 南西諸島の活動期間はこれよりも長い ) 冬季に成虫は存在しない 2013 年時点で ヒトスジシマカは本州 ( 青森県以南 ) から四国 九州 沖縄まで広く分布していることが確認されている デング熱を疑う際には 臨床所見に加えて 地域のヒトスジシマカの活動状況やデング熱患者の発生状況が参考になる デング熱の概要デング熱はフラビウイルス科フラビウイルス属のデングウイルスによって起こる熱性疾患で ウイルスには 4 つの血清型がある 感染源となる蚊 ( ネッタイシマやヒトスジシマカ ) はデングウイルスを保有している者の血液を吸血することでウイルスを保有し この蚊が非感染者を吸血する際に感染が生じる ヒトがデングウイルスに感染しても不顕性となる頻度は 報告者により異なるが 50~70% とされている 症状を呈する場合の病態としては 比較的軽症のデング熱と顕著な血小板減少と血管透過性亢進 ( 血漿漏出 ) を伴うデング出血熱に大別される 5) また デング出血熱はショック症状を伴わない病態とショック症状を伴うデングショック症候群に分類される デング熱を発症すると通常は 1 週間前後の経過で回復するが 一部の患者は経過中に デング出血熱の病態を呈する このうち デングショック症候群の病態になった患者を重症型デングと呼ぶ 1)6) 重症型デングを放置すれば致命率は 10~20% に達するが 治療を適切に行うことで致命率を 1% 未満に減少させることができるとされる 1) なお 2006 年 ~2010 年に日本国内で診断された患者で死亡者はいなかった 3) デング熱患者が重症化する要因については 血清型の異なるウイルスによる二度目の感染に起因するという説がある 1) 一方 ウイルス自体の病原性の強さによるとの説もある

( 症状および検査所見 ) 3~7 日の潜伏期間の後に 発熱 発疹 頭痛 骨関節痛 嘔気 嘔吐などの症状がおこる 日本国内で診断されたデング熱患者の症状や検査所見の出現頻度を表 1 に示す 3) 発熱は発病者のほぼ全例にみられ 時に二峰性となる 通常 発病後 2~7 日で解熱し そのまま治癒する 約半数に皮疹が認められ 病初期にみられる皮膚紅潮 解熱時期に出現する点状出血 ( 図 1) 島状に白く抜ける麻疹様紅斑( 図 2) など多彩である 検査所見では血小板減少や白血球減少が半数近くの患者に出現する また CRP は陽性化しても高値にならないのが特徴である 7) 血管透過性亢進を伴う重症型デングは解熱傾向に入った時期に突然発症する 患者は不安 興奮状態となり 発汗や四肢の冷感 血圧低下がみられしばしば出血傾向 ( 鼻出血 消化管出血など ) を伴う なお 重症型デングをおこした患者は重篤な状態が 2~3 日続き この時期を乗り切ると 2~4 日の回復期を経て治癒する 7) ( 診断 ) デング熱は感染症法で 4 類感染症全数届出疾患に分類されるため 診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある デング熱患者の確定診断には 血液からのウイルス分離や PCR 法によるウイルス遺伝子の検出 血清中のウイルス非構造タンパク抗原 (NS1 抗原 ) や特異的 IgM 抗体の検出 ペア血清による抗体陽転又は抗体価の有意の上昇 が用いられる これらの検査法は 発病からの日数によって陽性となる時期が異なる 8) 感染症法に基づく医師の届け出については 以下のウェブを参照されたい (http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-19.html) なお 類似の疾患 ( インフルエンザ 麻疹 風疹など ) との鑑別に留意する ( 治療 ) デングウイルスに有効な抗ウイルス薬はなく 対症的に治療を行う すなわち 水分補給や解熱剤 ( アセトアミノフェンなど ) の投与等である アスピリンは出血傾向やアシドーシスを助長するため使用すべきでない 重症型デングをおこした患者については 循環血液量を改善させるための輸液を適切に行う 生食や乳酸リンゲル液など通常の輸液に加え 循環血液量の低下が顕著な場合は血漿増量薬 (6% ハイドロキシエチルスターチ ) などを用いる 6 )10) 回復期には輸液過剰による肺水腫 腹水 低ナトリウム血症などの危険があることから 厳重な輸液管理を行うことが重要である 血小板減少に対して 血小板輸血は必ずしも必要ではない 大量出血を疑う場合は 直ちに輸血を考慮する 重症型デングの患者でも適切な治療により 20% 以上の致命率を 1% 未満に減少させることができるとされる 1)

( 予防 ) デング熱には現時点でワクチンがないため 予防には蚊に刺されないような対策をとる 10) 海外では デング熱を媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカは 都市やリゾート地にも生息しており とくに雨季にはその数が多くなる また これらの蚊は特に昼間吸血する習性があり 蚊の対策は昼間に重点的に行う必要がある 国内では ヒトスジシマカが主要な媒介蚊であり 昼間に活発に活動する 医療機関においては デング熱患者が入室している病室への蚊の侵入を防ぐ対策も重要である また デング熱は患者から直接感染することはないが 針刺し事故等の血液曝露で感染する可能性があるため充分に注意する 有熱時にはウイルス血症を伴うため 蚊に刺されないように患者に指導することが重要である デング熱患者の診療指針この診療指針は国内でデング熱患者が発生した際の臨床対応を示すものであり WHO 及び CDC のデング熱診療ガイドラインを参考に作成したものである 1)5)6)10)11) 海外のデング熱流行地域から帰国後 あるいは海外渡航歴がなくてもヒトスジシマカの活動時期に国内在住者が表 2 のデング熱を疑う目安に該当する症状を認めた場合は デング熱の対応ができる専門医療機関に紹介する 専門医療機関においては 臨床的な評価を行い 可能な場合は確定診断に必要となる前述のデングウイルス特異検査を実施する 陽性になった場合は 診断した医師が最寄りの保健所に届け出る 確定患者に海外渡航歴がない場合は 地域の保健所に相談の上 国立感染症研究所ないしは地方の衛生研究所で高次的な検査 (PCR 検査 ウイルス分離検査 抗体検査等 ) を実施することが望ましい 国内のデング熱患者の発生状況及び症例の臨床所見を踏まえ デング熱が強く疑われるが医療機関においてデングウイルス特異検査が実施できない場合は 地域の保健所に相談する デング熱の診断が確定した患者については 血管透過性亢進の指標となるベースラインのヘマトクリット値からの上昇率 (%Ht) を監視することが重要である なお この血管透過性の亢進は 解熱傾向に入った時期に起こることが多い また 重症化のリスク因子として 妊婦 乳幼児 高齢者 糖尿病 腎不全などが指摘されている 6) 治療としては経口による十分な水分補給を促し 経口摂取が難しい場合は輸液治療を行う 急性期から回復期にかけて 表 3 に示す重症化を示唆する症状及び所見の有無に留意し 慎重に輸液管理をしつつ経過観察を行う 病態安定を確認するための観察期間は解熱後 2 3 日を目安とする 経過観察中に表 4 に示す病態が出現し 重症型デングと診断した場合は 速やかにショックや出血症状などへの対症的治療を行う

本マニュアルは平成 26 年度新興再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 国内侵入 流行が危惧される昆虫媒介性ウイルス感染症に対する総合的対策の確立に関する研究 ( 研究代表者 : 国立感染症研究所ウイルス第一部高崎智彦室長 ) によって作成された 文献 1) World Health Organization: Dengue and severe dengue. WHO Fact sheet No117 (Updated September 2014) http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs117/en/ 2) Takasaki T.: Imported dengue fever/dengue hemorrhagic fever cases in Japan. Tropical Medicine and Health. 39: 13-15, 2011 3) 国立感染症研究所 : デング熱 2006~2010 年 IDWR. 13: 13-21, 2011 4) 厚生労働省結核感染症課 : デング熱の国内感染疑いの症例について健感発 0110 第 1 号. 2014 年 1 月 10 日 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000034381.html 5) World Health Organization: Dengue haemorrhagic fever: diagnosis,treatment, prevention and control, 2nd ed. Geneva: World Health Organization, 1997 6) Dengue Guidelines for treatment, prevention and control. Geneva. World Health Organization, 2009 7) Kutsuna S, et al.: The usefulness of serum C-reactive protein and total bilirubin level for distinguishing between dengue fever and malaria in returned travelers. Am. J. Trop. Med. Hyg.90: 444-448, 2014 8) CDC Dengue Homepage :Laboratory guidance and diagnostic testing http://www.cdc.gov/dengue/clinicallab/laboratory.html 9) Wills BA, et al.: Comparison of three fluid solutions for resuscitation in dengue shock syndrome. N Eng J Med 353: 877-889, 2005. 10) 濱田篤郎 山口佳子 : デング熱の予防対策. バムサジャーナル, 26:26-30 2014 11) CDC Dengue Homepage :Clinical guidance http://www.cdc.gov/dengue/clinicallab/clinical.html

表 1. デング熱患者にみられる症状や検査所見症状 検査所見発生頻度 * 発熱 99.1% 血小板減少 66.4% 頭痛 57.6% 白血球減少 55.4% 発疹 52.7% 骨関節痛 31.1% 筋肉痛 29.1% *2006 年 ~2010 年に日本国内で診断されたデング熱患者 556 例における各症状や検査所見の発生頻度を示す 詳細は文献 3を参照 表 2. デング熱を疑う目安 A の2つの所見に加えて B の2つ以上の所見を認める場合にデング熱を疑う (A) 必須所見 1. 突然の発熱 (38 以上 ) 2. 急激な血小板減少 (B) 随伴所見 1. 発疹 2. 悪心 嘔吐 3. 骨関節痛 筋肉痛 4. 頭痛 5. 白血球減少 6. 点状出血 ( あるいはターニケットテスト陽性 ) 表 3. 重症化を示唆する症状及び所見 ( 文献 8) デング熱患者で以下の症状や検査所見を1つでも認めた場合は 重症化のサイン有りと診断する 1. 腹痛 腹部圧痛 2. 持続的な嘔吐 3. 腹水 胸水 4. 粘膜出血 5. 無気力 不穏 6. 肝腫大 (2cm 以上 ) 7. ヘマトクリット値の増加 (20% 以上 ) 表 4. 重症型デングの診断基準 ( 文献 8) デング熱患者で以下の病態を1つでも認めた場合 重症型デングと診断する 1. 重症の血漿漏出症状 ( ショック 呼吸不全など ) 2. 重症の出血症状 ( 消化管出血 性器出血など ) 3. 重症の臓器障害 ( 肝臓 中枢神経系 心臓など )

脚注 図 1. デング熱患者の皮疹 : 患者の解熱時期にみられた点状出血 図 2. デング熱患者の皮疹 : 患者の解熱時期にみられた島状に白く抜ける麻疹様紅斑 図 1. 図 2.