はじめに 慢性期脳卒中への試み下肢編 ~ 運動療法と治療的電気刺激の併用効果 ~ 佐藤病院リハビリテーション科理学療法士土岐哲也 H26.5.26( 月 ) 臨床において 運動療法と併用に物理療法を用いることが多くある その中でも電気療法は中枢神経疾患の方に多く用いられている 急性期 回復期脳卒中患者に対して電気との併用効果は報告されているが 慢性期脳卒中患者への下肢への報告は少ない 先行研究 ( 電気刺激の効果 ) 歩行中の前脛骨筋への経皮的電気刺激は 3 分後に生じるヒラメ筋の活動量増加を抑制する効果があることが示唆された ( 上原 :21) 足関節筋群への電気刺激に伴う各筋の収縮により足圧中心が前後方向に変位する可能性が示唆された ( 大戸 :213) 先行研究 ( 電気刺激と運動療法 ) ペダリング運動と治療的電気刺激の併用は, 回復期脳卒中片麻痺患者の歩行能力を向上させる可能性が示された ( 松永 :213) 慢性期脳卒中患者に電気刺激とストレッチングの併用はストレッチング単独よりも即時的な信証抑制効果が高い可能性が示された ( 中村 :21) 慢性期脳卒中患者に 即時効果として足関節可動域と電気刺激の併用により 歩行速度 足関節可動域 足関節背屈速度が有意に改善したが FRT に有意な差は認められなかった ( 田中 :212) 先行研究 ( 電気刺激と運動療法 )2 神経 筋電気刺激療法と促通反復療法を併用することにより, 運動前野と感覚野間の神経ネットワークの再構築が促され, 脳損傷後 1 ヵ月以上経過している症例においても運動機能の改善が得られる可能性が示唆された ( 南濱 :211) 神経電気刺激による皮質脊髄路の興奮性変化を安静状態と比較して, より早期に検出でき,2 分間の刺激においても皮質脊髄路の興奮性が増大することが示された ( 齋藤 :213) 電気刺激と頭部挙上運動の併用は 舌骨上方移動距離を延長させる傾向があったが, 嚥下機能については頭部挙上運動単独と同等であった ( 北浦 :212) 目的 川平法と電気刺激の併用や他の運動療法との併用が上肢に与える影響など 上肢に関しての報告はされているが下肢への電気刺激と運動療法の併用は即時的な効果のみで長期間の報告は少ない 本研究の目的として 電気刺激療法と運動療法の併用により 下肢機能に与える影響を簡単に明らかにすることである また治療効果の検証を行うこと 1
方法 評価として FRT 1m 歩行を行い 運動療法を 1 カ月施行 その後 再評価し 次の 1 カ月運動療法と電気刺激を併用する 電気刺激はトリオ 3( 伊東超短波 ) を使用し モードとしては TENS( 治療的電気刺激 ) を使用する 1Hz 5μ s にて施行 2 分間施行 対象 脳卒中発症から 6 か月以上の中枢神経疾患 2 名 リハビリテーションは週 2 回で介入 症例 1:BRS-T 手指 Ⅲ 上肢 Ⅲ 下肢 Ⅲ ( 測定期間 2 月 ~4 月まで ) 症例 2:BRS-T 手指 Ⅱ 上肢 Ⅱ 下肢 Ⅱ ( 測定期間 3 月 ~5 月まで ) 症例 1 紹介 65 歳男性 < 診断名 > 脳出血 ( 左視床 ) 高血圧 運動性失語 右不全麻痺 < 現病歴 > 211 年 12 月 4 日朝 9 時 4 分頃発症 横浜市立大学附属市民総合医療センターへ救急搬送 212 年 1 月 6 日当院転院 212 年 1 月 9 日よりリハビリ介入 212 年 1 月 11 日回復期病棟転棟 212 年 4 月 26 日自宅退院 212 年 5 月から訪問リハビリ開始となった 213 年 9 月から通所リハビリが開始となった 画像所見 (CT) 前交連レベルモンロー孔レベルハの字レベル 症例 1( 姿勢と歩行 ) 前額面矢状面前額面歩行 初期評価 時間 : 26.7 sec 歩数 : 27steps 速度 : 22.4 m/min cadence : 6.6 steps/min FRT: 前方リーチ 5cm 2
全身調整 立ち上がり 両膝立ち 足関節背 底屈 立位 歩行 運動療法の内容 運動療法のみ施行後 1 カ月 ( 姿勢 ) 3 月 12 日前額面矢状面 2 月 12 日前額面矢状面 運動療法のみ施行後 1 カ月 ( 歩行 ) 3 月 12 日前額面歩行 2 月 12 日前額面歩行 評価 (1 か月後運動療法のみ ) 時間 : 23.7 sec 歩数 : 26steps 速度 : 25.3 m/min cadence : 65.8 steps/min FRT: 前方リーチ11cm 3 結果 ( グラフ ) FRT 1m 歩行 電気刺激 ( 貼り付け部位 ) 前脛骨筋と腓骨筋筋 ( モーターポイント ) 2 1 2 月 12 日 3 月 12 日 2 月 12 日 3 月 12 日 3
姿勢 ( 運動療法 + 電気刺激併用 ) 4 月 14 日 3 月 12 日前額面矢状面前額面矢状面 歩行 ( 運動療法 + 電気刺激併用 ) 4 月 14 日前額面歩行 3 月 12 日前額面歩行 評価 (2 か月後運動療法と電気刺激併用 ) 時間 歩数 速度 cadence : 2.5sec : 25steps : 29.26m/min : 73.17steps/min FRT: 前方リーチ 18 cm 3 2 1 結果 ( グラフ ) FRT 1m 歩行 3 月 12 日 4 月 9 日 3 月 12 日 4 月 9 日 症例 2 紹介 画像所見 (CT) 男性 65 歳 診断名 : 脳出血 ( 右被殻出血 ) 既往歴 : 狭心症 高血圧 現病歴 : 平成 25 年 3 月 11 日 仕事中に脳出血を発症し公立昭和病院脳神経外科へ搬送され 右片麻痺と意識障害を認めた 同年 4 月 22 日にリハビリテーション目的で脳血管医療センターへ転院 同年 8 月 9 日にリハビリテーションの継続を希望し鶴巻温泉病院へ転院 平成 26 年 1 月 21 日に退院となる 同年 1 月 24 日から当院の訪問リハビリ 同年 2 月 3 日から当院の通所リハビリが開始となった 4
症例 2( 姿勢と歩行 ) 矢状面前額面前額面 初期評価 時間 : 72. sec 歩数 : 4steps 速度 : 8.8 m/min Cadence : 33.3 steps/min FRT: 前方リーチ 4cm 全身調整 立ち上がり 足関節背 底屈 立位 歩行 運動療法の内容 運動療法のみ施行後 1 カ月 ( 姿勢 ) 矢状面 前額面矢状面前額面 運動療法のみ施行後 1カ月 ( 歩行 ) 前額面 4 月 7 日前額面 3 月 7 日 評価 ( 運動療法のみ ) 時間 : 5.65 sec 歩数 : 36steps 速度 : 12.m/min Cadence : 43.2 steps/min FRT: 前方リーチ 1cm 5
結果 ( グラフ ) 電気刺激 ( 貼り付け部位 ) 8 6 4 2 FRT 1m 歩行 3 月 4 日 4 月 7 日 3 月 4 日 4 月 7 日 前脛骨筋と腓骨筋 ( モーターポイント ) 姿勢 ( 運動療法 + 電気刺激併用 ) 矢状面前額面 矢状面 前額面 歩行 ( 運動療法 + 電気刺激併用 ) 前額面 4 月 7 日前額面 5 月 2 日 評価 ( 運動療法と電気刺激 ) 時間 : 48.5sec 歩数 : 3steps 速度 : 12.5m/min Cadence : 37.5steps/min FRT: 前方リーチ12cm 6 4 2 結果 ( グラフ ) FRT 1m 歩行 4 月 7 日 5 月 2 日 4 月 7 日 5 月 2 日 6
2 症例への考察 2 症例への考察 2 電気刺激により拮抗筋の抑制 歩行時の前後の重心移動増大 足関節可動域の拡大 相反抑制効果 Ib 抑制による痙性抑制効果 皮質脊髄路の興奮により随意運動の再構築 可塑的変化によりネットワークの再構築 筋骨格系からの体性感覚情報処理には, 体性感覚領野の他に, 一次運動野を含んだ運動領野も関与することが判明しており, 運動実行と運動感覚フィードバック情報処理が同じ領野で行われることが示唆されている 運動を的確に制御し, 新しい運動を獲得するためには, 筋骨格系からの運動に関する求心性感覚情報も重要であると考えられる. 本研究の問題点 運動療法のどの治療効果があったかわからない 経験年数により技術の差がある 今後はこれらを考慮して行っていく まとめ 治療的電気刺激により 皮質脊髄路の経路の強化が起こった 痙性抑制により下腿三頭筋の筋緊張が低下 高周波により感覚レベルが向上した 足関節可動域 重心移動の向上により FRT が増加した 歩行能力向上により歩行スピードが向上 今後の展望 各運動療法との効果の検証 運動療法と電気刺激の併用効果を細かく分析する ( 筋電図 重心動揺計など ) 慢性期脳卒中の上肢機能への運動療法と電気刺激の併用効果の検証 変性疾患への応用 整形疾患での併用 7
症例 3 紹介 女性 71 歳 診断名 : 腰部脊柱管狭窄症術後 (L1.L2 3PFL2/3.4PLIF 術中硬膜損傷 既往歴 : 骨粗鬆症 辷り症 L3 圧迫骨折 合併症 : 右下肢骨折 ( 術後 ) 左足骨折 糖尿病 現病歴 : 平成 2 年頃から腰痛あり 他院にてリハビリをしていた 平成 24 年頃からブロック注射するも改善が認められず 平成 25 年頃から疼痛が増悪し歩行困難が出現 改善が認められないため手術目的で入院となる 平成 25 年 8 月 23 日当院へ転院 11 月 1 日に退院 11 月 5 日より外来リハビリ開始 H26 年 1 月より通所リハビリ開始となった 姿勢 前額面前面前額面後面矢状面 骨盤帯 : 右回旋, 右後傾, 体幹 : 左回旋, 左ショートニング左前傾挙上肩甲帯 : 右外転 下方回旋左挙上後退 評価 時間 : 24.4 sec 歩数 : 36 steps 速度 : 24.6 m/min cadence : 88.5 steps/min FRT: 前方リーチ 17.5cm 運動療法 頸部 肩甲帯 上部体幹リラクセーション 腹部 下肢筋力増強 ex.(okc CKC) Kneeling,half kneeling 段差昇降 自転車エルゴメーター 立位バランスex. 階段 応用歩行段差昇降以下は高周波との併用似て実施 電気刺激 ( 貼り付け部位 ) 矢状面 歩行 前額面 中臀筋と内側広筋 ( モーターポイント ) 8
姿勢 ( 運動療法 + 電気療法併用 ) 12 月 1 日 2 月 14 日 12 月 1 日 2 月 14 日 歩行 ( 電気刺激と運動療法の併用 ) 12 月 1 日 2 月 14 日 歩行 ( 運動療法と電気刺激の併用 ) 12 月 1 日 2 月 14 日 評価 時間 : 18.4 sec 歩数 : 32 steps 速度 : 32.6 m/min cadence : 14.3 steps/min FRT: 前方リーチ 2cm 結果 終わりに 3 2 1 FRT 1m 歩行 12 月 1 日 2 月 14 日 12 月 1 日 2 月 14 日 ご清聴ありがとうございました 9