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論文 RC 造集合住宅の耐久性に対する外断熱の温度応力抑制効果に関する研究 山形秀之 *1 堺孝司 *2 藤田裕二 *3 *3 真鍋忠晴 要旨 : 近年, 建築関連分野において地球環境問題に対する関心が増大している 建築構造物の環境負荷問題は, 運用時のエネルギー消費の削減と資源の効率的な利用としての長寿命化であり, このような観点から外断熱が注目されている 本研究では,RC 造集合住宅を対象とした温度測定や温度応力解析を行い, 躯体の耐久性に対する外断熱の温度応力抑制効果について検討した その結果, 内断熱では躯体にひび割れを発生させる厳しい条件が存在するのに対して, 外断熱ではひび割れの発生を著しく軽減できることが明らかになり, 外断熱は躯体の耐久性を向上させる可能性が高いことを確認できた キーワード : 外断熱, 温度応力, 耐久性, 温度測定, 集合住宅 1. はじめに近年, 資源の枯渇や地球温暖化等の環境問題が人類の生存を左右する大きな問題として認識され, あらゆる分野で環境負荷低減の努力が行われ始めている 建築関連分野は, 膨大な資源やエネルギーを消費しており, 結果として日本全体の CO 2 排出量の 1/3 を占めると推計されている 1) 建築構造物の環境負荷は, 大きく各種材料の利用と運用時のエネルギー利用に分けることができる 躯体や仕上げ材の耐久性は構造物の寿命を支配し, 資源効率に直結する また, 躯体の熱伝播特性は運用時のエネルギーに影響する 省エネルギーの方策として, 躯体を断熱することが行われてきたが, これまでは構造物内部に断熱材を設置する内断熱が多く用いられてきた しかし, 最近, 構造物の外部に断熱材を設置する外断熱が注目されるようになってきた それは,RC 構造に外断熱を施すことによって, 屋外の厳しい環境から躯体コンクリートを保護する効果が期待できると考えられている 2),3) ことによるが, 外断熱の効果についての具体的な検討は 極めて少ない このような背景に基づき, 本研究では, 外断熱の効果について包括的に検討するために, 内断熱と外断熱を施した RC 造集合住宅について実際に温度測定を行うと共に, 温度応力解析を実施した また, ひび割れの発生が躯体の耐久性に及ぼす影響についても言及した 2. 実構造物における温度測定 2.1 測定概要 (1) 測定対象建物外断熱建物の温度測定は, 高松市内所在の RC 造集合住宅で温熱環境の厳しい西側住戸を対象に行った 内断熱については, 高知市内所在の RC 造集合住宅で既に測定している温度データを利用することとした 建物概要を表 -1 に示す (2) 測定方法測定位置は, 図 -1, 図 -2 に示す柱, 梁, 外壁で, 外断熱は 9 階 ( 最上階 ), 内断熱は 6 階で測定した 測定期間は, 外断熱で 2003.04.01~ 現在 ( 継続中 ), 内断熱で 1999.04.01~2003.31 の1 年間とし,1 時間間隔の測定を行った *1 香川大学大学院工学研究科安全システム建設工学専攻 ( 正会員 ) *2 香川大学工学部安全システム建設工学科教授工博 ( 正会員 ) *3 ( 株 ) 穴吹工務店研究開発部

表 -1 建物概要外断熱内断熱建設地香川県高松市高知県高知市地下 0 階地下 0 階階数地上 9 階地上 9 階 ( 一部 8 階 ) 延床面積 5,185m 2 7,594m 2 高さ 26.59m 26.82m スパン数 7スパン 6+6 スパン (EXP.J) コンクリート強度 24N/mm 2 (9 階 ) 24N/mm 2 (6 階 ) 西面壁厚 18cm 18cm 南面壁厚 10cm 10cm 柱断面 90 85cm 90 90cm 梁断面 45 85cm 30 75cm 西面外壁の断面構成と測定用温度センサーの設置位置を図 -3, 図 -4 に示す 断面構成については, 断熱材や外装材の種類等に関してはメーカーによる違いがあるものの,RC 造集合住宅の壁構成として一般的なものである コンクリート内部温度 ( o T m, T m ) については, コンクリート打設前に熱電対を断面の図芯位置に設置しておき, 打設, 硬化を経て竣工の後, 入居者の生活が開始してからデーターロガーにより測定を行った コンクリート表面温度 ( o T o, o T, T o, T ) 及び外装材表面温度 ( o T t, T t ) については, 部材表面に熱電対を貼り付け, コンクリート内部温度の測定と同様に行った 外気温度は, 外断熱では, 屋根スラブ上 50cm の高さに気象観測用温湿度計を設置し, データーロガーにより測定を行った 内断熱では, 外気温度を測定していなかったため, 高知市における気象庁観測データを用いることとした 2.2 測定結果 (1) 測定環境の比較外気温度履歴を図 -5 に示す 高松市 ( 外断熱 ) と高知市 ( 内断熱 ) の月平均気温の推移は, ほぼ一致していた また, 年最高気温は, 高知市では 34.2, 高松市ではそれよりも若干高く 37.6 であった 年最低気温は, 高知市では-3.1 で, 高松市については現在測定中であるため, 気象庁観測データを参考にしたところ, 過去 5 年間の平均は-2.4 であった なお, 以後, 外断 B 10,200 10,000 B B B o < 建物平面図 > 3,700 A 4,400 A 7,450 < 測定住戸平面図 > 900 7,450 <A-A 断面 > 10,200 <B-B 断面 > 印は, 測定位置を示す 図 -1 測定位置 ( 外断熱 ) < 建物平面図 > 5,700 5,000 A A T 2,600 8,600 < 測定住戸平面図 > t 900 8,600 <A-A 断面 > 10,000 <B-B 断面 > 印は, 測定位置を示す 図 -2 測定位置 ( 内断熱 ) 外装用モザイクタイル+モルタル (7+3mm) 押出成形セメント板 (25mm) 硬質ウレタンフォーム (25mm) コンクリート (180mm) ビニルクロス To o T m o T o 図 -3 西面外壁の断面構成 ( 外断熱 ) T t 外装用モザイクタイル+モルタル (7+3mm) コンクリート (180mm) 吹付硬質ウレタンフォーム (20mm) 空気層 (20.5mm) 石膏ボード (9.5mm) ビニルクロス To T m T 図 -4 西面外壁の断面構成 ( 内断熱 )

熱のデータに関しては,4 月から 12 月までを便宜上 年間 と表記する 西面及び南面外壁の外装材表面温度 ( o T t, T t ) の履歴を図 -6, 図 -7 に示す 外断熱と内断熱の外装材表面温度の推移は, ほぼ一致していた 以上より, この実測データは測定環境に違いはあるものの, コンクリートの温度応力の検討に利用できると判断される (2) コンクリート温度の比較西面外壁, 南面外壁, 南西柱, 西面梁のコンクリート内部温度 ( o T m, T m ) の履歴を図 -8~ 図 -11 に示す 西面外壁では, 年間を通して内断熱の温度振幅は外断熱より大きく, 日間の最大温度差は, 内断熱 10.7, 外断熱 2.4, 年間の最大温度差は, 内断熱 37.6, 外断熱 20.8 であった 南面外壁では, 太陽高度の低い 10 月から 2 月における内断熱の温度振幅が大きく, 日間の最大温度差は, 内断熱 25.8, 外断熱 4.0 であった 南西柱においても, 外断熱は内断熱よりも安定した温度履歴であった また, 西面梁では, 庇の日射遮蔽効果により, どちらも安定した温度履歴であった このように, 外断熱と内断熱のコンクリート 外気温度 ( ) 表面温度 ( ) 表面温度 ( ) - 6 5 - 外断熱 ( 月最高 ) 内断熱 ( 月最高 ) 外断熱 ( 月最低 ) 内断熱 ( 月最低 ) 外断熱 ( 月平均 ) 内断熱 ( 月平均 ) 図 -5 外気温度履歴 外断熱 ( 月最高 ) 内断熱 ( 月最高 ) 外断熱 ( 月最低 ) 内断熱 ( 月最低 ) 外断熱 ( 月平均 ) 内断熱 ( 月平均 ) 図 -6 西面外壁の外装材表面温度履歴 6 5 - 外断熱 ( 月最高 ) 内断熱 ( 月最高 ) 外断熱 ( 月最低 ) 内断熱 ( 月最低 ) 外断熱 ( 月平均 ) 内断熱 ( 月平均 ) 図 -7 南面外壁の外装材表面温度履歴 5 内断熱外断熱 5 内断熱 外断熱 図 -8 西面外壁コンクリート内部温度履歴図 -9 南面外壁コンクリート内部温度履歴 5 内断熱 外断熱 5 内断熱 外断熱 図 -10 南西柱コンクリート内部温度履歴図 -11 西面梁コンクリート内部温度履歴

温度履歴には, 西面及び南面の直達日射を受ける外壁の温度振幅に大きな違いが生じた したがって, 本研究の温度応力解析では, コンクリート温度の違いが大きく, 部材断面が小さいことにより, 最も影響を受けると思われる外壁について検討することとした 3. 有限要素法による温度応力解析 3.1 解析概要 (1) 解析モデル図 -12 に示す外壁について 3 次元有限要素法による非定常熱伝導 - 応力連成解析を行った 本解析では, 外壁部分のみをモデル化し, 柱, 梁, スラブ等の周辺部材はモデル化せず, 境界の拘束条件で考慮することとした また, 外壁部分についてもコンクリートのみをモデル化し, タイル等の仕上げ材, 断熱材, 鉄筋等はモデル化していない なお, 解析には汎用の有限要素法プログラムを使用し, 用いた要素は 3 次元ソリッド要素 (8 節点 ) である 非定常熱伝導解析における支配方程式は, 式 (1) により表わされる [ ] () t T C + = t [ K ]{ T () t } { Q( t) } ここに,[ C ]: 熱容量マトリックス,[ ] 導マトリックス,{ () t } { Q () t } (1) K : 熱伝 T : 節点温度ベクトル, : 熱流束ベクトル,t : 時間とする 応力解析は, コンクリートを線形等方弾性体としてモデル化しているため, 挙動を支配する材料定数は, 弾性係数とポアソン比のみである 熱伝導解析と応力解析は, 線膨張係数により連成されている (2) 材料定数解析に用いたコンクリートの材料定数を表 - 2 に示す 材料定数は, 概ね 日本建築学会鉄筋コンクリート構造計算規準 同解説 1999 4) に準じた (3) 初期条件温度応力解析は, ある基準となる温度からの 開口 梁 2,000 梁 三辺固定のとき X =0 Y =0 Z =0 年間または日間の温度変化について検討することになるため, 基準温度の設定により解析結果に大きな違いが生じる 既往の調査や文献によると, 建設地の年平均気温を基準温度に採用して検討する例が多いようである 5),6) そこで, 本解析においても, 年平均気温を基準温度としての初期条件に設定することとした (4) 境界条件西面外壁のような開口のある妻側外壁では, 小さい開口率で耐震壁とする場合と, 大きい開口率で外壁と周辺部材との間に完全縁切り型のスリットを設けて非構造壁とする場合が想定される そこで, 前者については三辺固定一辺自由, 後者については一辺固定三辺自由を境界条件として設定することとした (5) 入力温度熱伝導解析における壁面への入力温度は, 西面外壁及び南面外壁で実測した1 時間毎のコン 180 柱 三辺固定のとき X =0 Y =0 Z =0 X X =0 Y =0 Z =0 Y 図 -12 解析モデル Z 屋外 表 -2 コンクリートの材料定数 単位 材料定数 単位容積重量 kn/m 3 23 熱伝導率 W/m K 1.637 容積比熱 kj/m 3 K 2,013 弾性係数 N/mm 2 22,669 ポアソン比 0.2 線膨張係数 1/K 1.0e-05 コンクリート設計基準強度 24N/mm 2 として算出 室内

クリート表面温度 ( o T o, o T, T o, T ) を壁面に対して一次元的に用いることとした なお, 解析の対象とした期間は, 冬期については西面外壁のコンクリート内部温度 ( o T m, T m ) が年最低温度を記録した日, 夏期については年最高温度, 春秋期については年間の平均的な温度を記録した日の各々 24 時間とした 南面外壁の温度データについては, コンクリート内部温度 ( o T m, T m ) の日間温度差が最大となる日の 24 時間を対象とした また, 熱伝導解析における初期温度の影響を排除するため, 対象期間の 24 時間前から計算を行うこととした 解析対象期間の入力温度を図 -13, 図 -14 示す 3.2 解析結果冬期における年最低温度記録時の応力分布を図 -15, 図 -16 に示す 基準温度からの温度降下による収縮ひずみが拘束され, 内断熱では三辺固定で 6.8N/mm 2, 一辺固定で 2.9N/mm 2 の引張応力が生じた 一方, 外断熱の引張応力は, 三辺固定で 1.9N/mm 2, 一辺固定で 0.8N/mm 2 であった また, コンクリートは熱容量が大きく, 内断熱のコンクリート表面温度 ( T o, T ) の履歴には位相差が生じており, この温度勾配による曲げひずみの拘束が引張応力を増大させている 西面外壁での温度勾配の年間最大値は, 内断熱で 0.75 /cm, 外断熱で 8 /cm であった 夏期については, コンクリート温度が基準温度より高く, 膨張ひずみが拘束され, 内断熱, 外断熱共に圧縮応力が支配的であったが, 図 - 17 に示す一辺固定の梁との境界近傍には鉛直方向に引張応力が生じており, 最大引張応力は内断熱 2.2N/mm 2, 外断熱 1.4N/mm 2 であった 春秋期については, 冬期と夏期の中間的な温度応力分布を示し, 内断熱でコンクリート温度が基準温度を下回る時間帯では, 三辺固定で 1.2N/mm 2, 一辺固定で 1.0N/mm 2 程度の引張応力が生じた コンクリート温度が基準温度を上回る時間帯の一辺固定では, 内断熱で 1.1N/mm 2, 外断熱で 0.6N/mm 2 程度の引張応力が生じた コンクリート表面温度 ( ) 年最高 8/4 ( 西 oto) 年最高 8/4 ( 西 ot) 年最低 12/21( 西 oto) 年最低 12/21( 西 ot) 年平均 4/30( 西 oto) 年平均 4/30( 西 ot) 日最大差 12/21( 南 oto) 日最大差 12/21( 南 ot) 基準温度 (16.8 ) 5 0:00 6:00 12:00 18:00 0:00 図 -13 解析対象期間の入力温度 ( 外断熱 ) コンクリート表面温度 ( ) 年最高 8/29( 西 To) 年最高 8/29( 西 T) 年最低 12/21( 西 To) 年最低 12/21( 西 T) 年平均 4/30( 西 To) 年平均 4/30( 西 T) 日最大差 12/23( 南 To) 日最大差 12/23( 南 T) 基準温度 (17.0 ) 5 0:00 6:00 12:00 18:00 0:00 図 -14 解析対象期間の入力温度 ( 内断熱 ) 6.8 N/mm 2 1.9 N/mm 2 内断熱 (12/21 7:00) 外断熱 (12/21 8:00) 図 -15 三辺固定の温度応力分布 ( 冬期 ) 2.9 N/mm 2 0.8 N/mm 2 内断熱 (12/21 7:00) 外断熱 (12/21 8:00) 図 -16 一辺固定の温度応力分布 ( 冬期 ) 2.2 N/mm 2 1.4 N/mm 2 内断熱 (8/29 19:00) 外断熱 (8/4 21:00) 図 -17 一辺固定の温度応力分布 ( 夏期 )

日間最大温度差記録日の内断熱の一辺固定では, 梁との境界近傍において朝方の温度降下による水平方向の引張応力 (2.2N/mm 2 ) と夕方の温度上昇による鉛直方向の引張応力 (1.8N/mm 2 ) が生じた 本解析における三辺または一辺の完全固定とした境界条件は, 外壁の温度応力に対して最も厳しい拘束条件であり, 柱や梁等の周辺部材の温度変化を考慮した場合, 実際の構造物の外壁に生じる温度応力は, 本解析結果よりも小さくなることが考えられる また, 設定した基準温度が建設地の年平均気温より高い場合には本解析結果よりも厳しい温度応力が生じることが推測され, 逆に年平均気温より低い場合には圧縮応力がより支配的になるものの, 一辺固定の梁との境界近傍の鉛直方向には, 本解析結果よりも厳しい温度応力が生じることが推測される 4. 断熱方法と躯体の耐久性温度応力の解析結果から, 内断熱では躯体にひび割れを発生させる厳しい条件が存在するのに対して, 外断熱ではひび割れ発生を著しく軽減できることが明らかになった 躯体のひび割れ発生は, 仕上げ材のひび割れを惹起し, 水分や CO 2 ガス等がコンクリート中へ浸入し, 躯体の耐久性を低下させる 柳 大野 7) は, コンクリート表面から数 mm の深さまでしか中性化していなくても, ひび割れがあることにより鉄筋が腐食する場合があることを報告しており, ひび割れの発生は躯体の耐久性に大きく影響することが考えられる これまで, 外断熱は断熱効率や結露防止等の観点からその有用性が議論されてきたが, 本研究により躯体の温度応力抑制によるひび割れ発生の低減, 換言すれば耐久性の向上に繋がる可能性があることが明らかになった 今後, 周辺部材のモデル化や鉄筋を考慮したひび割れ解析, 乾燥収縮との相乗作用を考慮する等, より詳細な検討を行う必要があり, 耐久性との関連での広範な研究が強く望まれる 5. まとめ本研究で得られた結果をまとめると, 以下の通りである (1) 内断熱は, 外断熱に比べて, 直達日射を受ける外壁の日間及び年間の温度振幅が著しく大きなものとなる (2) 基準温度からの温度降下による収縮ひずみの拘束で内断熱には大きな引張応力が発生するが, 外断熱はそれらを大幅に抑制できる (3) 内断熱では温度勾配による曲げひずみの拘束が引張応力を増大させるが, 外断熱では温度勾配による引張応力は殆ど発生しない (4) 内断熱では躯体にひび割れを発生させる厳しい条件が存在するのに対して, 外断熱ではひび割れ発生を著しく軽減できることから, 外断熱は躯体の耐久性を向上させる可能性が高い (5) 耐久性に対する外断熱の効果をより詳細に検討するためには, 周辺部材のモデル化や鉄筋を考慮したひび割れ解析, 乾燥収縮との相乗作用等についても考慮する必要がある 参考文献 1) 日本建築学会 : 建物の LCA 指針,pp.1-6,2003.2 2) 吉野利幸 : 外断熱工法ハンドブック-2003 年版 -, 北海道外断熱建築協議会,pp.17-20,2003.1 3) 岡田克也, 岩清水隆 : 特集コンクリートのひび割れと防止のポイントひび割れの基本対策, 建築技術,pp.135-147,1999.5 4) 日本建築学会 : 鉄筋コンクリート構造計算規準 同解説,1999.11 5) 河原弘明, 林幸雄ほか : 建築物の温度荷重に関するアンケート集計結果の報告 ( その 3), 日本建築学会大会梗概集 B,pp.85-86,1995.8 6) 土木学会 :2002 年制定コンクリート標準示方書構造性能照査編,2002.3 7) 柳濟峻, 大野義照 : 中性化したコンクリート中の鉄筋腐食に及ぼすひび割れと水セメント比の影響, 日本建築学会構造系論文集,No.559, pp.15-21,2002.9