なくて 脳以外の場所で起きている感染が 例えばサイトカインやケモカイン 酸化ストレスなどによって間接的に脳の障害を起こすもの これにはインフルエンザ脳症やH HV-6による脳症などが含まれます 三つ目には 例えば感染の後 自己免疫によって起きてくる 感染後の自己免疫性の脳症 脳炎がありますが これは

Similar documents
2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

第 12 回こども急性疾患学公開講座 よくわかる突発性発疹症 その症状と対応 ~ 発熱受診患者解析結果を交えて ~ 神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野 長坂美和子

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

2009年8月17日

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

Microsoft Word - 届出基準

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

48小児感染_一般演題リスト160909


なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

pdf0_1ページ目

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

日産婦誌58巻9号研修コーナー

<34398FAC8E998AB490F55F DCC91F092CA926D E786C7378>


今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

学会名 : 日本免疫不全症研究会 アンケート 1 1. アンケート 2 に回答する疾患名 (1) X 連鎖無 γ グロブリン血症 (2) 慢性肉芽腫症 2. 移行期医療に取り組むしくみあり :1 年に1 回の幹事会で 毎年 discussion している また 地区ごとの地方会で 内科の先生方にいか

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

第 1 章 急性脳症の 概念と疫学

虎ノ門医学セミナー


染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

02別添:日本脳炎ワクチン接種に関するQ&A[H28.3月版]

診療所ごとの診療状況 一方 診療所では 外来診療を実施 と回答した診療所は 73 か所 (36.3%) 入院診療を実施 と回答した病院は 2 か所 (1.0%) となっており いずれも実施していない との回答が 124 か所 (61.7%) であった 診療所のてんかん診療実施状況 ( 有効回答数 =

pdf0_1ページ目


,

3 病型別 初発再発別登録状況病型別の登録状況では 脳梗塞の診断が最も多く 2,524 件 (65.3%) 次いで脳内出血 868 件 (22.5%) くも膜下出血 275 件 (7.1%) であった 初発再発別の登録状況では 初発の診断が 2,476 件 (64.0%) 再発が 854 件 (22

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

1. ウイルス性肝炎とは ウイルス性肝炎とは 肝炎ウイルスに感染して 肝臓の細胞が壊れていく病気です ウイルスの中で特に肝臓に感染して肝臓の病気を起こすウイルスを肝炎ウイルスとよび 主な肝炎ウイルスには A 型 B 型 C 型 D 型 E 型の 5 種類があります これらのウイルスに感染すると肝細胞

岸和田徳洲会病院 当院では以下の研究に協力し情報を提供しております この研究は 国が定めた指針に基づき 対象となる患者さまのお一人ずつから直接同意を得るかわりに 研究の目的を含む研究の実施についての情報を公開しています 研究結果は学会等で発表されることがありますが その際も個人を特定する情報は公表し

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

2

2017年度患者さん満足度調査結果(入院)

医療連携ガイドライン改

Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

Microsoft Word - 予防接種2011

pdf0_1ページ目

pdf0_1ページ目

PowerPoint プレゼンテーション

1508目次.indd

サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

saisyuu2-1


Microsoft Word - ③中牟田誠先生.docx

情報提供の例

pdf0_1ページ目

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

pdf0_1ページ目

Microsoft Word _脂質異常症リリースドラフトv11_SHv2 final.docx

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

2 位 混みに かない 感染 が強いので感染しないようにするのが 番 毎年ワクチン打ったのにかかったという がたくさんいる (30 代 般内科 ) 感染の機会が多ければ多いほど感染の可能性が上がるので 出歩かないのが 番だと思います (40 代 整形外科 スポーツ医学 ) 通勤電 や職場 込みなどで

untitled

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

くろすはーと30 tei

Microsoft PowerPoint - 市民講座 小内 ホームページ用.pptx

というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義して

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

免疫学的検査 >> 5A. 免疫グロブリン >> 5A150. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 フ プレイン 髄液 2 ml G 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( オレンジ ) 血液 4 ml 検体ラベル

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白

Microsoft PowerPoint - 冨岡先生HP用スライド.pptx

豚繁殖 呼吸障害症候群生ワクチン ( シード ) 平成 24 年 3 月 13 日 ( 告示第 675 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した弱毒豚繁殖 呼吸障害症候群ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を凍結乾燥したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株

消化器病市民向け


( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

症化することからハイリスクとされています VZV は細胞親和性が強く cell-to-cell にウイルスが感染するため ウイルス増殖の抑制には液性免疫よりも細胞性免疫が重要であります このため 特に細胞性免疫機能の低下した宿主においては極めて重篤となり 致死的な経過をたどることが少なくありません

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

95_財団ニュース.indd

< F2D817988C482C682EA94C5817A895E97708E77906A2E6A7464>

汎発性膿庖性乾癬の解明

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

AC 療法について ( アドリアシン + エンドキサン ) おと治療のスケジュール ( 副作用の状況を考慮して 抗がん剤の影響が強く残っていると考えられる場合は 次回の治療開始を延期することがあります ) 作用めやすの時間 イメンドカプセル アロキシ注 1 日目は 抗がん剤の投与開始 60~90 分

植田 TIA 植田 TIA 植田 1 % 植田 %


70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

した つまり 従来から研究されてきた IgE/Fc RI を介した活性化経路は 肥満細胞活性化の一面に過ぎず むしろ生体防御の見地からすると 感染に対する防御こそ肥満細胞の機能の中心的な役割である可能性も出てきたのです この一連の研究は 肥満細胞は何もアレルギーを起こすために存在しているのではなく

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

頭頚部がん1部[ ].indd

aeeg 入門 この項は以下のウェブサイトより翻訳 作成しています by Denis Azzopardi aeeg モニターについて Olympic CFM

Transcription:

2012 年 10 月 3 放送 脳炎と脳症 岡山大学大学院 小児医科学教授 森島 恒雄 急性脳炎 脳症とは 急性脳炎 脳症とはどんな病気で しょうか まず その説明をしたい と思います 急性脳炎に関してはこのように考 えるとわかりやすいと思います 一つは ウイルスが脳の中で直接 増殖することによって 中枢神経の 障害が起きる場合です これには 単純ヘルペス脳炎や日本脳炎などが あります 次に 脳症と呼ばれるもの それは ウイルス感染はしているが それは脳の中では

なくて 脳以外の場所で起きている感染が 例えばサイトカインやケモカイン 酸化ストレスなどによって間接的に脳の障害を起こすもの これにはインフルエンザ脳症やH HV-6による脳症などが含まれます 三つ目には 例えば感染の後 自己免疫によって起きてくる 感染後の自己免疫性の脳症 脳炎がありますが これは本日の主題からは外します まず 脳炎の場合には ウイルスをたたくのが一番大事で 基本的には抗ウイルス薬をできるだけ早く投与することが大事です 2 番目の脳症に関しては 実際に抗ウイルスだけではなく 抗炎症あるいは抗サイトカインの考え方が重要になってきます 単純ヘルペス脳炎では 脳の中でウイルスが増殖して 非常に大きな障害を起こしてきます ウイルスの抗原やDNAあるいはRNAが見つかることがわかっております 実際に脳の中でウイルスがふえるということになるわけです したがって この治療は できるだけ早く できるだけたくさんの量の抗ウイルス薬を 例えばヘルペス脳炎の場合にはアシクロビルをできるだけ早期に できるだけ早く できるだけ長期間使うことが治療の原則になってきます 小児における急性脳炎 脳症の状況それでは この急性脳炎 脳症について小児の場合はどんなような状況にあるのでしょうか 私たちが前にやった研究からは 毎年約 1000 例の小児の急性脳炎 脳症が起きていることがわかっています 一番多いのはインフルエンザで 全体の 25% がこれに含まれます 続いて主にHHV-6によって起きてくる脳症 これが全体の 11% そして意外であったのは 下痢を起こすロタウイルスによる脳症が全体の4% それからムンプス脳炎 マイコプラズマの脳炎 脳症と続きます ただ 原因不明のものが これには夏場のエンテロウイルスなどによるものも結構多いと思いますが かなりの部分を占めているということがわかります

では インフルエンザ脳症やそれ以外の脳症の年齢分布はどうかと言いますと 例えばインフルエンザ脳症は1-5 歳 特に 1-2 歳に多い病気です 一方 HHV 6 脳症というのは 突発性発疹に伴って起きるので 0-1 歳に集中しています ロタウイルスの下痢に伴って起きてくる脳症も同じで 1-3 歳になりますが 特に1 歳が多いです 一方 マイコプラズマ これは肺炎を起こす年齢と一致しますので 6 歳以降になってくることがわかっています 予後から言いますと どれも非常に重いのですが インフルエンザでは 大体致命率が7% で 25% に重い神経後遺症が残ります HHV-6の場合には約半数に死亡ないしは後遺症が残ります ロタウイルスも同じです マイコプラズマの場合はほとんど後遺症が残らない 比較的予後のよいものです 一方 一番重いものとしては アデノ脳炎が入ってくると思います 致命率は 11% に上ります それぞれの脳炎 脳症によって少しずつ症状が異なっていることがわかります 例えば O-157 O-111 に伴うHUS(hemolytic uremic syndrome) に伴う脳症においては けいれんはほとんど 100% 必発と考えられます HHV6 脳症でも 95% ぐらいにけいれんが重なってきます ロタウイルスによる脳症 インフルエンザ脳症でもそれが約 8 割あります 一方で マイコプラズマによる脳炎 脳症では約 40% 先ほど申しました単純ヘルペス脳炎では 50 数 % で それぞれの脳炎 脳症によってけいれんの頻度も異なってきます これをまとめてみますと 病因によって少しずつ病像が異なることが判ります 例えばロタウイルスの脳症は頻度が高く 予後が悪く そしてけいれんが難治性であ

り 多臓器不全 特に肺水腫に注意する必要があります HHV-6 脳症ではインフルエンザ脳症に次いで頻度が高く 前述のとおりけいれんの合併頻度が高い それから脳の血流障害が起こりやすいということが特徴です マイコプラズマ脳症では 精神神経症状を示しやすいことがわかっています わりと頻度が高いのですが 呼吸器症状の極期から遅れることが多いので 病因として見逃しやすいことも特徴の一つです HUSの脳症 ( 例えばO-157 あるいはO-111 が有名なものですが ) では けいれんは必発です そして呼吸障害の頻度が非常に高く 肺水腫には要注意です 初診時のMRIは異常を示す頻度が非常に高いと思います そして予後は後遺症が残ります ただし 一般的には致命率は低いと言われています インフルエンザ脳症それでは インフルエンザ脳症はどんな症状なのでしょうか まず 初めて出てくる神経症状として主なものが三つあります それはけいれん 意識障害 異常行動 言動です これはガイドラインに示されたものですが けいれんの頻度は約 80% 意識障害は 100% 異常行動 言動は約 20-30% に見られます これらの症状が非常に長引いたり あるいは悪化したり そして意識障害を伴ってきたりします 異常言動 行動にしても それだけではなくて意識障害が伴ってきたり けいれんも一緒に起きてくる こういう状態では インフルエンザ脳症を強く疑うということになり 高次の医療機関への紹介が必要ということになってまいります

そして 入院後 確定診断としては意識障害が 例えば Japan Coma Scale で 10 以上が 24 時間続く場合とか あるいはどんどん障害が進んでいく場合 脳症の確定ということになりますし 頭部 CTに関しては やはり非常に重い障害が出てくるということで 脳症の確定診断に必須です 例えばCT MRIの所見としては 非常に脳浮腫が強い場合 あるいは両側の視床のところが黒くなってくる急性壊死性脳症の場合 あるいは脳出血を起こす場合などといったものが非常によく知られています けいれん重積型という非常にけいれんが長引くタイプのものに関しては 逆に急性期に異常が軽微であっても 後になって脳の委縮が目立つということもあります 重要な検査としてはこのほか 脳波が非常に重要であるということは言うまでもありません また MRIに関しては非常に初期の診断に重要であることがわかっています それ以外に血小板の減少 あるいはAST ALT の上昇 CKの上昇 低血糖または高血糖 高アンモニア血症 尿の血尿 たんぱく尿の異常 これらが脳症の予後のリスクが高いと考えられています インフルエンザ脳症の発症機序では どういう仕組みでこれが起きるかということですが まず感染を受けて 局所で炎症性のサイトカインが産生されてくる そしてそのサイトカイン ケモカインによって血管内皮の障害が起きて 脳浮腫が起きてくるというメカニズムがわかっています サイトカインによってアポトーシスが全身に起きて 例えば血球貪食症候群などが起きることもあり ひいては多臓器不全に至るということの仕組みが大体わかってきています

脳の病理で言いますと 一つはウイルスの抗原が全く認められません これは脳症の タイプであるということです それから 血管から漏れ出た血漿成分が 水滴のように 見えますが 血管外に出るということがわかっています インフルエンザ脳症の治療法 治療に関しては ガイドラインが 2005 年に制定され 抗インフルエンザ 薬に加えてステロイドパルス療法 大 量γ グロブリン療法といったもの が基本になってきます 重症例に関し て 脳の低温療法 シクロスポリン療 法 あるいはATⅢの大量療法や血液 浄化などが行われることもあります こうしたガイドラインの導入により 約 10 数年前では致命率が 30 後遺 症が 25 であったのが 今は致命率が 7-8 後遺症率が 20 程度までに 改善してまいりました その後 2009 年 9 月にガイドラインが 改正されましたが そのときにちょう ど起きた新型を含むインフルエンザ脳 症に関して 岡山大学小児科ではいろ いろな治療法を重ねています 例えばステロイドパルス療法 γ グロブリン大量療法 に加えて脳の低温療法 34-35 度 を行っております それからエダラボン 低分子ヘ

パリン 静注用の抗ウイルス薬であるペラミビル こういったものを人工呼吸管理として一緒に行っています 脳圧モニターも重要と考えます こうした治療法の改訂などもあり 新型インフルエンザ脳症の予後を比較的良好に保つことができました 致命率こそ7% ですが 後遺症率が非常に低下しました では 今後急性脳症全体の治療法をどうしていくかということになります 病原体に対する抗ウイルス薬あるいは抗生物質 これらに加えて 抗サイトカイン 抗アポトーシスの治療が必須です 最近 酸化ストレスによる障害が非常に高いということがわかってきましたので REDOXの制御が大事であるということになってきました これらの治療戦略は 脳症以外の重症のウイルス感染症 ( 例えば H5N1 高病原性鳥インフルエンザによるヒト感染 ) にも応用が可能になるのではないかと考えております また 最初の段階での全身状態の管理 あるいはそこに至るまでの救急搬送といった診療体制の整備も重要な課題と考えております