1 レーザーによる球状物体の 直径測定方法とその測定装置 茨城大学工学部 メディア通信工学科 教授 辻龍介
2 研究背景 研究テーマ : 将来のレーザー核融合実現のための基礎技術の開発 1) レーザ による干渉現象を利用して飛行球体の位置測定 2) レーザ による干渉現象を利用して球体の直径測定 レーザー核融合の原理 : 直径約 5mm の燃料球に MJ の大出力レーザー光を照射する 大出力レーザー光照射 プラズマ噴出とその反作用での爆縮 燃料 燃料 高温 高密度 核融合反応
3 研究背景 材質プラスチック 直径数 mm プラスチック この中に重水素ガスを詰めて 冷やしておく 高い真球度が要求される 重水素ガス エンジンのように 1 秒間に多数回燃焼させる 10Hz 運転だと一日に 80 万回以上 燃料球 つまり一日に燃料球を 80 万個以上製造し検査する必要がある
4 研究背景 冷却システム 燃料球供給システム 飛行経路 大出力レーザー光 磁石 He ガス圧力室 磁石 磁気レンズシステム 将来のレーザー核融合炉システム レーザー核融合炉 (1)100~400m/s で飛行中の燃料球の位置を計測 ( 誤差 2μm 以内 ) し 核融合炉の中心で大出力レーザ 光の焦点と燃料球の中心を合わせる ( 誤差 20μm 以内 ) => 位置測定 (2) 直径 5mm の燃料球を毎日 80 万個以上製造するので 全数の直径検査 => 直径測定 ( 誤差 2μm 以内 ) を行う これらの技術を産業界に応用できないか?
5 直径測定の KeyPoint1! アラゴスポットとは アラゴスポット 影 レーザー光 球の影 アラゴスポット アラゴスポット拡大図 球にレーザー光を照射すると影の中心に輝点を生じる これをアラゴスポット ( ポアソンスポット ) という 球が光によって照射されると 球の外縁のすべての点が新たな点光源 ( 波源 ) として振る舞う ( ホイヘンスの原理 ) 外縁のそれぞれの点から影の中心部分までは同じ距離なので すべての波は強め合うように干渉する => 輝点を生じる
直径測定の KeyPoint2! アラゴスポットの性質 アラゴスポットの大きさ A A=1.52 Lλ/D L: 球とスクリーン ( 実際は CCD 撮像素子 ) までの距離 λ: レーザーの波長 D: 球の直径 アラゴスポット拡大図 アラゴスポットの大きさAの数値例 A=20μm(@0.1m), A=200μm(@1m), L:0.1m と1m λ:632.8nm(he-ne) D=5mm 同心円状の干渉縞の間隔 B B=Lλ/D L: 球とスクリーンまでの距離 λ: レーザーの波長 D: 球の直径 6
直径測定の KeyPoint3! アラゴスポットの測定 150 100 50 0 アラゴスポット拡大図 I th アラゴススポットの中心位置の決定例重みづけ平均法 X Y C C I 1 I 1 T T X, Y S X, Y S I( X, Y) X I( X, Y) Y T X, Y S I( X, Y) (1) 平均操作を行う事で CCD の画素の大きさ以下の精度が得られる (2) 発散光照射配置により さらに直径測定の精度が向上する (=> 後述 ) I X A X C X B 0 500 1000 1500 2000 2500 アラゴスポットの光強度分布 7
8 新技術の基となる研究成果 技術 1 関連論文 ( 平行レーザー +アラゴスポットによる球の位置測定 ) 別刷りあり (1) K. Saruta and R. Tsuji: Jpn. J. Appl. Phys. Vol.46, No.9A, 2007, pp6000-6006 Accuracy of Position Measurement Method Using Arago Spot for Inertial Fusion Energy Target Tracking System アラゴスポットを利用して球の位置を 0.2μm の誤差で測定した 関連論文 ( 発散レーザ 光 +アラゴスポットによる球の位置測定 ) 別刷りあり (2) K. Saruta and R. Tsuji: Jpn. J. Appl. Phys. Vol.47, No.3, 2008, pp1742-1744 Position Mesurement Method Using a Divergent Laser Beam and Argo Spot for Tracking of an Inertial Fusion Energy Target 発散ビームのレーザによるアラゴスポットを利用して球の位置を 0.2μm の誤差で測定した 遠距離からの測定が可能
9 新技術の基となる研究成果 技術 2 平行レーザー光 dh L Arago Spot の移動量 dx=dh 問題点 ( 論文 1): 平行光だと距離が大きくなるつれて (1) アラゴスポットも大きくなり誤差が増える (2) 回折光 ( 光の回り込み ) がアラゴスポットにかぶさる ( 影が消える ) のでスクリーンまでの距離は 0.1 ~1m が限界 発散レーザー光 s dh s+l Arago Spot の移動量 dx=((l+s)/s)dh 発散光 ( 論文 2) にすると影も大きくなり 移動量も大きくなり 遠距離 (10m) からでも精度よく (1μ) 測れる
10 新技術の基となる研究成果 技術 3 関連論文 ( 発散レーザ 光 +アラゴによる球の位置測定 + 光学的画像圧縮 ) 無料閲覧可 (3) H. Sakauchi and R. Tsuji: Plasma and Fusion Research 4 2009, Special, S1012 Compression of Arago Spot Images for Rapid Position Measurement of Inertial Fusion Energy Targets 発散ビームのレーザによるアラゴスポット像を 1 次元に圧縮して球の位置を 0.2μm の誤差で計測した 遠距離からの測定が可能 画像データ量は約 1/1000 に減少 => 高速処理可能 減光フィルター ガラス板 F 対物レンズ 1700 1600 1500 experimental value theoretical value 鋼球 pixel 1400 He-Ne レーザー 空間フィルター 円柱レンズ カメラ 1300 1200 1100 0 5 10 15 20 25 30 μm
3 4 11 Arago spot 1 2
12 直径測定の新技術の紹介 透明板 レーザー光 L F 平面 測定システム図 レーザー光をレンズ L でいったん焦点 F に集束させると 発散レーザー光が得られる これを平面と透明板の 2 点で係止されている球に照射すると スクリーン上 ( 実際は CCD などの撮像素子上 ) ではアラゴスポットが観測される ( 焦点 F- 中心 C- アラゴスポット P は一直線上にある ) B P スクリーン C: 球の中心
13 新技術による直径測定の原理 透明板 P2 平面 F C2: 球の中心 P1 スクリーン C1: 球の中心 直径が小さい球 ( 実線 ) の代わりに 直径が大きい球 ( 破線 ) を置くと F と C1 を結んだ延長線上のアラゴスポット P1 は F と C2 を結んだ延長線上 P2 に移動する アラゴスポットの位置測定から球の直径測定が行える
14 直径測定の実験結果 実験 1 鋼球 ( 直径 3, 4, 5, 6, 8, 10mm) を基準として ルビーボールレンズ ( 直径 3.175, 4.762, 5.556, 6.350, 9.525mm) の直径を計測した 結果直径測定の最大誤差 2.4μm 平均誤差 1.2μm ( 注 : ルビーボールレンズの直径公差 ±2.54μm) 実験 2 直径 6.350mm でゲージの異なる鋼球 (+2.2μm と +4.4μm ) の直径の差を計測した 結果ゲージ差 2.2μm に対し実験値平均は 1.4μm 平均誤差 0.8μm ( 注 : 鋼球 (G28) の直径の誤差 0.7μm ) ミクロンの精度での直径測定が出来た
15 従来技術とその問題点 移動 接触 接触 回転 回転 不合格 ( 直径小 ) 合格 不合格 ( 直径大 ) 平面 (a) (b)
16 従来技術とその問題点 (a) は回転している 2 本の平行からややずれた棒上に球を回転させながらゆっくり移動させ ある範囲で落下した球を合格とする直径計測法であるが棒の加工精度や回転軸の精度 棒の摩耗の問題がある (b) は測定端子を球に接触させて直径計測を行う方法であるが計測に時間がかかる機械的な接触による 摩耗 消耗 故障等が生じる (c) 球影や球縁を撮影し画像処理で直径を計算する方法は 影 縁の境界がぼやけてミクロンの精度が出ない などの問題点がある
17 新技術の特徴 システムの構成が簡単である ( 主要構成要素はレーザ 平板 透明板 被測定球体 撮像素子 画像処理用パソコン その他 連続送り機構 ) 測定原理が簡単である ( 影中のアラゴスポットを観測すればよい ) 高精度 ( ミクロン以下 ) の測定 高速処理が可能
18 従来技術との比較 アラゴスポット測定部と球体は機械的接触がないので ガタつき 摩耗 加工精度 故障 更正など機械的接触に起因する問題をさける事ができる 従来技術では直径測定には時間がかかるので 大量生産品の場合サンプル検査しかできなかったが 新技術は原理的にアラゴスポットを画像処理するだけで直径測定ができ検査時間が短縮できたため 全数検査を行う事が可能となる 従来の画像処理による技術と比べると アラゴスポットを画像処理する方法は 球影の一部のみを拡大観察すればいいので高精度の直径測定が可能
19 想定される用途 基本的に球であれば 素材を選ばない ( 鋼球 ボールレンズで実績あり ) ので 球 ( 状の部品 ) を製造して直径測定をするときには 本技術が適用できる 本技術の適用により 大量生産品の全数検査が容易に行えるため 従来のように不合格の製造ロットを全部廃棄する事なく 不合格品のみ廃棄すればよく 品質の向上 製造コスト 検査コストの削減が期待される
20 利用者 対象 想定される業界 ボールベアリング製造メーカー球状部品 製品 ( ボールレンズ等 ) 製造メーカー 市場規模工場数 : 一般機械器具製造業 6 万 金属製品製造業 6 万 非鉄金属製造業 5 千 精密機械製造業 7 千 プラスチック製品製造業 2 万 ( 平成 17 年工業統計調査より ) 導入費用 :1 台 100 万 ~200 万円 ( 部品代のみ ) と想定 国内で ~1000 億円 ( 以下 ) の市場規模?
21 実用化に向けた課題 現在 球状物体 ( 鋼球 ルビー球 ) の直径測定について測定誤差 1μm 以内が可能なところまで開発済み しかし 大量連続測定の課題 ( 連続送り機構 連続計測機構 ) が未解決である ( がそんなに困難とは思わない ) 今後 球からずれた物体や表面が粗い球について実験データを蓄積し これらの場合に対し新技術による直径計測が適用可能な範囲を明らかにする さらに直径計測の精度を 0.1μm まで向上できるよう技術を確立したい
22 企業への期待 未解決の自動連続測定については 画像処理とメカトロニクスの技術により克服できると考えている 上記技術を持つ 企業との共同研究を希望 また 球状部品を製造している企業 使用している企業が その製品や納入部品の検査には 本技術の導入が有効と思われる => 使ってみて下さい
23 本技術に関する知的財産権 発明の名称 : 球体の球径寸法測定方法 及びその測定装置 出願番号 : 特願 2011-50094 出願人 発明者 : 国立大学法人茨城大学 : 辻龍介
24 お問い合わせ先 茨城大学 産学官連携イノベーション創成機構 知的財産部門 TEL:0294-38-7281 FAX:0294-38-5240 e-mail:chizai@mx.ibaraki.ac.jp