付着割裂破壊の検討の概要と取り扱いの注意点

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付着割裂破壊の検討の概要と取り扱いの注意点 2014 年 2 月 株式会社構造ソフト 保有水平耐力計算における付着割裂破壊の検討について お客様や審査機関から様々な質問が寄せられています ここでは その付着割裂破壊の検討の概要や取り扱いの注意点について説明します 1. 付着割裂破壊の検討の必要性はじめに なぜ 保有水平耐力計算において付着割裂破壊の検討が必要かを説明します RC 造の柱 梁の種別区分に関しては FA~FC の種別となる条件として 以下の規定があります せん断破壊 付着割裂破壊及び圧縮破壊その他の構造上支障のある急激な耐力の低下のおそれのある破壊を生じないこと 付着割裂破壊は 塑性変形能力に影響を与える脆性破壊ですので このような規定が設けられていると考えられます そのため 種別を FA~FC にするためには 付着割裂破壊が生じないこと という設計条件を満足する必要があります 保有水平耐力計算における Ds 算定時の応力で設計条件を満足するためには 弊社の一貫構造計算プログラム BUILD. 一貫 Ⅳ+ では後述する方法で 付着割裂破壊が生じないことを確認する必要があります (1) 柱に関する付着割裂破壊の検討の必要性付着割裂破壊の検討については 様々な手法が示されており ICBA( 1) では次のようなコメントがあります ICBA 質疑 No.88 ( 1) 標準的な配筋であれば,Pt の制限値を目安に付着割裂の検討が可能ですが その制限値を超えた場合や 特殊な配筋の場合は, 別途付着割裂に関する検討を行って部材種別を判定することになります 1:( 財 ) 建築行政情報センターの 構造関係基準に関する Q&A HP より 1/11

Pt( 引張鉄筋比 ) による部材種別の判定は 付着割裂破壊の防止を目的としたもので 柱の部材種別表では Pt が 1% を超えた場合は FA や FB にはなれないことが示されています それでは FC か FD 扱いとなるわけですが どちらにするか等はさらに精度の良い付着割裂破壊の検討をする必要があります つまり Pt では FA か FB までを判断出来ても それ以下 (FC, FD) の判定は他の複数の検定方法に委ねることになります 付着割裂破壊の検討方法は Pt による確認も含めて一般的に 5 種類あり その詳細は次章 2. 付着割裂破壊の検討方法 にて説明します なお BUILD. 一貫 Ⅳ+ では この 5 種類の検討ができるようになっています (2) 梁に関する付着割裂破壊の検討有無 2007 年版建築物の構造関係技術基準解説書 ( 以下 技術基準解説書と呼ぶ ) の P367 から梁の付着割裂破壊の検討が必要な場合と 梁については一般的に検討が不要である理由が列記されています 補足して説明します 梁の検討が不要な理由 1 過去において梁の付着割裂破壊の被害事例が少ない 2 梁に作用する軸方向力は小さく 脆性破壊としてはせん断破壊が中心で 付着割裂破壊はあまりない 3 上端引張りに対して スラブコンクリートの効果が有り 下端引張りに関しては一般に鉄筋比が少ない 以上により 梁は一般に付着割裂破壊が起こらないとして 梁については Pt の検討を不要としています ただし 特別な次のケースの場合は検討を要するとしています 梁の検討が必要な場合 1 逆対称応力を受けるせん断スパン ( シアスパン ) があまり大きくなく 引張主筋を一列に多数配筋する場合 せん断スパン ( シアスパン ) があまり大きくなく という目安は せん断スパン比が 2.5 程度以下のものと考えられます 参考文献 : コンクリート工学年次論文報告集 9-2 1987 [2053] 2 太径又は降伏点の高い鉄筋を使用している場合太径や降伏点の高い鉄筋の定義は文献によってまちまちですが 日本建築学会 建築工事標準仕様書 同解説 JASS5 の鉄筋コンクリート工事 の 鉄筋の径による呼び方 では D29 以上を太径としていて ( 社 ) 日本溶接協会 コンクリート強度と主筋の降伏強度に関する実施例 では SD390 以上が高強度異形鉄筋と分類されていますので D29 以上や SD390 以上が一つの目安になるでしょう 2/11

2. 付着割裂破壊の検討方法現在のところ 代表的な検討方法 確認手段 判定基準としては 以下の1234 5の検討があり BUILD. 一貫 Ⅳ+ の計算書にて確認することができます( 詳細は次章にて説明します ) 1 技術基準解説書 P630 の ( 付 1.3-20) 式の方法による付着割裂破壊の検討この方法は 柱と梁に適用できます 1 段筋だけに適用でき 2 段筋や梁のカットオフ筋については適用外となっています 2 段筋がある場合やカットオフ筋がある場合は 以下の23の方法で検討してください 2ICBA 質疑 No.65 に記述されている 1999 年 RC 規準の付着検討における σt( 鉄筋の存在応力度 ) を σy( 鉄筋の降伏強度 ) に置き換えて検討する方法この方法は 柱と梁に適用できます 1 段筋や2 段筋 及び梁のカットオフ筋にも対応できます ただし 短スパン梁の場合は NG になりやすいです なお 1999 年版 RC 規準の付着検討式のσt をσy に置き換えた式を変換すると 2010 年版 RC 規準 16 条の大地震動に対する安全性確保のための検討と同じ式になります 3 鉄筋コンクリート造建築物の靭性保証型耐震設計指針 同解説 ( 以下 靭性指針と呼ぶ ) による付着割裂破壊の検討この方法は 柱と梁に適用できます 1 段筋や2 段筋 及び梁のカットオフ筋にも対応できます 4ICBA 質疑 No.29 に記述されている荒川式によるせん断破壊の有無による検討この方法は 梁への適用が一般的です ただし ICBA 質疑 No.29 において カットオフ筋については適用できないことが明記されているので 適用できるのは通し筋のみとなります また 荒川式は古い実験式ですので 高強度コンクリート (FC60 を超えるもの ) や太径, 高強度鉄筋は適用外と考えられます 5 柱について 付着割裂破壊の検討が必要かどうかの判定基準として pt のランク規定値を超えているかどうかで判断する ICBA 質疑 No.88 による方法この方法は 柱のみに適用できます 3/11

3. BUILD. 一貫 Ⅳ+ で検討できる付着割裂破壊の検討方法 BUILD. 一貫 Ⅳ+ では 付着割裂破壊の検討に特化した内容としては 前章 2. の123の検討の結果を出力することができます 付着割裂破壊の検討に特化した内容に関しては デフォルトでは 1の方法で検討しています 保有水平耐力計算データの [ULA4] の 16 項目の設定により 2や3 の検討方法を採用することも可能です 4については Ds 算定時ヒンジ発生図 で大梁がせん断破壊していないかどうかで付着割裂破壊の有無が確認できます 5については RC 造柱種別 という出力における pt による種別 で pt による種別が FA または FB であれば付着割裂破壊が生じないとの確認ができます RC 造柱種別 の出力例 : 付着割裂破壊の検討に特化した出力 1 技術基準解説書 P630 の ( 付 1.3-20) 式による検討 の出力例 : NG になった場合ですが この検討をもって最終判断とするのであれば 部材種別を FD として扱ってください 他の方法での検討を最終判断とする場合や 前章 1. の 梁の検討が不要な理由 に該当する場合は (2) 梁に関する付着割裂破壊の検討有無 を参考に見解を記述してください 検討式の適用条件に関しては 後述の 検討の制限事項 をご参照ください 4/11

2 1999 年 RC 規準の付着検討における σt を σy に置き換える方法 の出力例 : 注釈文の N は 検討断面における 当該鉄筋列の想定される付着割裂面における鉄筋本数 です 従って カットオフ筋の場合は カットオフ筋の本数ではなく 検討断面の主筋本数となります また 必要付着長さ (LD) を出力していますので 設計の参考にしてください 通し筋については RC 規準により付着長さの算定方法が規定されているので付着長さの直接入力はできませんが カットオフ筋の長さについては 建物データの [GM D2] や [GMD5] の 13 項目で 直接入力が可能です σy は鉄筋降伏点強度をそのまま使い 1.1 倍はしておりませんので 1.1 倍の余裕を見込みたい場合は 検定比が 1.1 倍以上になることで確認してください 5/11

3 靭性指針による付着割裂破壊の検討方法 の出力例 : 靭性指針による方法の場合 付着信頼強度 の検討と 付着破壊の影響を考慮したせん断信頼強度 の検討の二つの検討結果を出力します 付着信頼強度 の検討では 必要付着長さ(LD) を出力していますので 設計の参考にしてください 最終判定は 付着信頼強度 の検討と 付着破壊の影響を考慮したせん断信頼強度 の検討のどちらかを満足していればよいとしており 付着破壊の影響を考慮したせん断信頼強度 の出力の 総合判定 欄で確認できます 6/11

検討の制限事項 検討方法 1の制限事項検討方法 1は 検討式が1 段筋の検討を仮定したものであり 2 段筋 3 段筋に関しての適用については扱いが明確になっていませんので BUILD. 一貫 Ⅳ+ での検討範囲は1 段筋のみとしています ( 一般に1 段筋と2 段筋は付着強度が異なるとされていますが 技術基準解説書の式は1 段筋に対する付着強度を仮定して検討式が組み立てられていると考えられるので 1 段筋のみを対象としています ) 判定欄で OK! と出力されている場合は 1 段筋は OK 判定だが 2 段筋, 3 段筋については検討していない ( 式の適用範囲を超えている ) ことを意味しています 副主筋がある場合や かぶり厚が幅方向とせい方向で異なる場合は 以下の理由により 完全に検討範囲外となります 異なる鉄筋強度や鉄筋径が混在する場合の式は提示されていません 技術基準解説書において コーナースプリット破壊における割裂線長 Yの式に上面 ( 下面 ) と側面のかぶりが異なるケースが考慮されていませんので 計算の適用範囲外と認識しています ( 単純な幾何学的関係で割裂線長を求めたときに検討式が使用できるか明らかでありません ) また 検討式は異形鉄筋で矩形断面の柱梁で検証されているものですので 主筋が丸鋼の柱や梁 円形断面の柱 耐震壁に付帯する柱 梁部材については この式の適用範囲外となり 検討していません ( 検討方法 23の場合も同様の理由で検討式の適用範囲外となります ) 検討方法 2 と 3 の制限事項 3 段筋がある場合は検討式の適用範囲外です 検討方法 1は制限事項が多い上 かなり厳しい検討式になっているので 検討方法 2あるいは3で検討する方が実用的です 7/11

4. カットオフ筋を有する梁の検討に関して ICBA 質疑 No.29 において 一般に荒川式によるせん断の検討は, 柱や梁部材の付着割裂破壊に対する検討も同時に行っていると考えることができます ただし 梁におけるカットオフ筋定着部の割裂破壊に対する検討は兼ねませんので カットオフ筋の定着の検討を行う場合は RC 規準 (2010) などにより適切に行う必要があります と記述されています 従って 検討方法 4( 荒川式による検討 ) は カットオフ筋には適用できず通し筋のみに適用できます 検討方法 1もカットオフ筋を有する梁の検討はできません カットオフ筋のある大梁の付着割裂破壊の検討として使える方法は 検討方法 2もしくは3となります 検討方法 表 1. カットオフ筋に関する適用の可否 検討概要 カットオフ筋を有する梁への適用可否 1 技術基準解説書 P630 の ( 付録 1.3-20) 式による検討 2 1999 年 RC 規準の付着検討における σt を σy に置き換える方法 3 靭性指針による方法 4 荒川式によるせん断破壊の有無による検討 検討方法 2 は 2010 年版 RC 規準 16 条の大地震動に対する安全性確保のための検討と同じ式です 8/11

5. せん断耐力式に付着割裂破壊の影響を考慮した耐力高強度せん断補強筋を使った場合で 靭性指針による方法でせん断耐力を計算している場合は 耐力式に付着割裂破壊の影響を考慮していますので その部材がせん断破壊をしていなければ付着割裂破壊も生じていないことになります BUILD. 一貫 Ⅳ+ で靭性指針による方法でせん断耐力を計算できるのは スーパーフープ と ハイデック です いずれも靭性指針をベースにした耐力式を採用しておりますので せん断破壊をしていなければ付着割裂破壊は生じないとして取り扱うことができます では スーパーフープ ハイデック 以外の高強度せん断補強筋の場合はどうかというと これらは塑性理論式でせん断耐力を計算しており 塑性理論式も付着割裂の影響を考慮した耐力式となっているため 主筋が1 段筋で かつ 通し筋の場合にせん断破壊をしていなければ付着割裂破壊は生じないと考えられます ただし 2 段筋とカットオフ筋が対象になっておりません 表 2. 高強度せん断補強筋のせん断耐力式の選択による適用の可否 検討結果 スーパーフープを使用した場合に靭性指針式でせん断耐力を計算した場合にせん断破壊が無ければ 付着割裂破壊もないスーパーフープを使用した場合に技術基準式でせん断耐力を計算した場合にせん断破壊が無ければ 付着割裂破壊もないハイデックを使用した場合にせん断破壊が無ければ 付着割裂破壊もないスーパーフープとハイデック以外の高強度せん断補強筋を使用した場合に塑性理論式でせん断耐力を計算した場合にせん断破壊が無ければ 付着割裂破壊もないスーパーフープとハイデック以外の高強度せん断補強筋を使用した場合に技術基準式でせん断耐力を計算した場合にせん断破壊が無ければ 付着割裂破壊もない 通し筋のみ 1 段筋のみ 2 段筋あり カットオフ筋を有する梁への適用可否 注 注 : 検討可能 : 検討には不適注 : BUILD. 一貫 Ⅳ+ で検討できる必要付着長さを満足させること 9/11

6. BUILD. 一貫 Ⅳ+ における付着割裂破壊の検討のまとめ 付着割裂破壊の検討については 法令告示で規定されていないものも含め検討方法は数種類あるなかで ( 新しい技術基準解説書が出そうで出ないこともあり ) 先行して審査機関が付着割裂破壊に関するチェックを始めているのが現況です また 前章 2. の1の検討方法については 技術基準解説書 P630 に記述があるように かなり安全側の判定式となっていますので この検討を満足しないことが 即 付着割裂破壊が生じることを意味するわけではありません それゆえ BUILD. 一貫 Ⅳ+ では付着割裂破壊の検討が NG であっても 直ちに注意すべき重大な結果としてのエラーメッセージの出力としていません BUILD. 一貫 Ⅳ+ における付着割裂破壊の検討の位置付けは 種別(FD にするかどうか ) を判断することを目的とした参考的な出力となっています また 付着割裂破壊が生じないことが確認できている場合や別途検討される場合は 保有水平耐力計算データの [ULA4] の 16 項目で 付着割裂破壊を 検討しない 設定とすることも可能です 今までのまとめとして 付着割裂破壊の各検討方法の概要と 適用できるものと適用できないものの一覧を表 3. で示します 検討方法 柱 1 段筋のみ 2 段筋あり 表 3. 付着割裂破壊の適用の可否のまとめ 通し筋のみ 梁 1 段筋のみ 2 段筋あり 3 段筋あり カットオフ筋あり 1 2 3 4 4a 注 4b 5 - - - - : 検討可能 : 検討には不適 -: 検討不要あるいは関係しない 注 : BUILD. 一貫 Ⅳ+ で検討できる必要付着長さを満足させること 検討方法 検討概要 付着割裂破壊 1 2 技術基準解説書 P630 の ( 付録 1.3-20) 式による検討 1999 年 RC 規準の付着検討における σt を σy に置き換える方法 の検討 3 靭性指針による方法 せん断耐力式 4 4a 荒川式によるせん断破壊の有無による検討 靭性指針式によるせん断破壊の有無による検討 の選択 4b 塑性理論式によるせん断破壊の有無による検討 - 5 Pt のランクでの判断 10/11

検討方法 2は 2010 年版 RC 規準 16 条の大地震動に対する安全性確保のための検討と同じ式です 検討方法 1~3は 保有水平耐力計算データの [ULA4] の 16 項目での選択になります 検討方法 4a, 4b は 保有水平耐力計算データの [ULA4] の 9 項目での選択になります ただし 高強度せん断補強筋の種類によっては固定の式になりますので 詳しくはマニュアルの [ULA4] の 9 項目の説明をご参照ください 検討結果を総合的に判断して 設計者として 付着割裂破壊が生じるかどうかの判断をして頂くことになりますが 現状では検討方法が技術基準解説書にて規定されているわけではありませんので 適用できる検討方法のいずれかの検討で満足すれば 付着割裂破壊は生じないと判断してよいと考えられます このとき BUILD. 一貫 Ⅳ+ の付着割裂破壊の検討の結果が NG になっても プログラムでは自動で部材種別を FD とはしていませんので もし 付着割裂破壊が生じることを許容する場合は 部材種別を直接入力で FD として 保有水平耐力の確認をすることになります ( 大梁であれば保有水平耐力計算データの [RST1] の 10 項目 柱であれば [RST2] の 22 項目で 部材種別の直接入力が可能です ) 検討の流れですが 柱の場合はまず 検討方法 5 における pt のランクが FA,FB であれば付着割裂破壊しないものと判断し FC の場合は付着割裂破壊するかどうかが判断できないので 表 3. の検討方法 123のいずれかで確認していただくことになります また 梁の場合 カットオフ筋への対応まで考えると 表 3 の検討方法 23 のいずれかで確認していただくことになります ( 高強度せん断補強筋を使って せん断破壊していない場合でも カットオフ筋がある場合は 検討方法 23のいずれかで必要付着長さを満足しているかどうかの確認が必要です ) 特に 検討方法 3に関しては ICBA 質疑 No.111 において 付着割裂破壊の検討を靭性指針の式で検討してよいことが記述されていることもあり 審査機関でも靭性指針による検討で OK とするところが増えているようですので 現状では検討方法 3 が最も有用な検討方法と考えられます この検討結果にて付着割裂破壊の有無を判定し NG の場合には その部材を FD として種別を入力指定して 再実行することで最終結果が得られます ( 株式会社構造ソフト ) 11/11