税金のないときのビール市場の均衡 余剰分析の例 間接税の非効率性 * A B A B 消費者余剰生産者余剰 * これから固定費を引くと利潤になります 税金のないときのビール市場の均衡 間接税 ( 酒税 ) の下でのビール市場の均衡 * A B 消費者が払う価格 t 税率 生産者が受取る価格 A B 消費者余剰生産者余剰 * A + B = 総余剰 ビール市場の取引によって 国民全体がこれだけ得をしている 0 間接税の二つの形 間接税 ( 酒税 ) の下でのビール市場の均衡 消費者が払う価格 ( 消費者価格 ) 生産者が受取る価格 ( 生産者価格 ) 税率 = + t 従量税 = (1 + t) 従価税 例ビール1 缶 (350ml) あたり t = 77.7 7 円課税 売上の t = 5% が消費税 消費者が払う価格 t 税率 生産者が受取る価格 消費者余剰税収生産者余剰 0 1
余白 死加重が起こる理由をよく理解しましょう 消費者が払う価格 t 税率 生産者が受取る価格 総余剰 高いお金を払ってもよいという人がいて 間接税が取引税収を妨害している 安く作ってあげられる人がいるのに 0 間接税に伴う社会的損失 死加重 eadweight Loss 社会的損失 ( 死加重 ) を被ることなく同じ税収を上げる方法はないか? つぎに 間接税よりも効率的な課税方法があることを説明します 消費者が払う価格 t 税率 生産者が受取る価格 税収 この分 (T 1 ) を消費者から一括徴収し 0 この分 (T 2 ) を生産者から一括徴収して 同じ税収を一括固定税で確保しつつ 間接税を廃止すると 一括固定税の下でのビール市場の均衡 細かい注意 : 消費者への一括固定税 消費者から税金 T 1 を取ると 所得が減るのでが減る ( 曲線が左下に移動する ) のでは? 余剰分析をするときは 効用が準線型 u() + m であることを仮 * T 1 T 2 定しているので 所得効果はゼロです 余剰分析をするときは 所得の変化による曲線の移動は考えません 生産者への一括固定税 0 * 効用が準線型でない場合は 一般均衡分析を使う必要があります ( 次回 ) そこでも 余剰分析のときと同じ結論が得られます ( 一括固定税が効率性をもたらす ) 2
一括固定税の下でのビール市場の均衡 一括固定税の下でのビール市場の均衡 消費者余剰 消費者の得 税収 * T 1 T 2 税収 ( 前と同じ ) * T 1 T 2 生産者余剰 0 * 一括固定税の下では 税金のないときと同じ 最大の総余剰が達成出来る! 0 * 生産者の得 間接税を廃止して一括固定税を導入すると 政府の税収は変えずに消費者と生産者の利益を上げることが出来る! 誰の満足も下げることなく 誰かの満足を上げる パレート改善 注意 1: つまり 間接税よりも一括固定税のほうが効率的な課税方法なのです 一括固定税 (Lump sum tax) とは 経済活動の如何にかかわりなく一定の額を徴収するもの所得税 法人税は一括固定税ではない 人頭税 がこれに近い 理論的には余剰の損失を被らないもっとも効率的な課税方法であるが 現実にはあまり使われない 各人 各企業が経済活動の如何にかかわらず支払える額を調べるのは難しい 各人 各企業の 公平な負担額 を決めるのは ( 政治的に?) 困難 注意 2: 余白 間接税より一括固定税の方が望ましいという結論は 余剰分析を使わずに より一般的に正しいことが証明できる ( 一般均衡分析 ) 余剰分析ができるためには効用関数が特殊な形をしていなければならいが そこから得られる結論は 一般のケースでも成り立つことが多い 3
(d) 部分均衡分析の応用 : T と米の自由化 T とは? 環太平洋戦略的経済連携協定 Trans-acific artnership 交渉参加国 シンガポールニュージーランドブルネイチリアメリカオーストラリアベトナムマレーシア日本カナダメキシコフィリピンパプア ニューギニア 参加国の間で関税を撤廃し自由貿易圏をつくるための協定 米の曲線と現在の消費 価格弾力性 0.13 T によって米の関税が撤廃され 輸入が 自由化されたらどうなるかを検討しましょう 国内価格と国内生産量は鈴木宣弘氏によった 弾力性の数値 :KAKO, T, M GEMMA, and ITO. (1997) Implications of the Minimum Access Rice Import on upply and emand of Rice in Japan, Agricultural Economics, 16, 193-204. 現状の均衡 減反 ( げんたん ) 高価格維持のための生産調整 ( 約 3 割 ) 米の輸入には778% という高率の関税がかけられています このため米は ( 国内価格が高すぎて ) 輸入されていません * 曲線は実測値ではありません 4
現状の均衡 関税撤廃 自由化による均衡の変化 関税 778% 国内価格 自由化前 国内生産 輸入 自由化後 米のについては鈴木宣弘氏によった 米のについては鈴木宣弘氏によった * 曲線は実測値ではありません * 曲線は実測値ではありません 自由化の良し悪しを判断するために. 農業は国の基本なので しっかり守る必要がある 勝ち組 のアメリカから日本を守れ! などの個人を超越した価値判断ではなく 自由化によって誰がどれだけ利益と損害を受けるのかを明らかにし 国民一人ひとりの利害に基づいた民主的な判断をしてみましょう ミクロ経済学の特色 自由化前の総余剰 消費者余剰 生産者余剰米のについては鈴木宣弘氏によった * 曲線は実測値ではありません 自由化前 自由化後の総余剰 自由化による総余剰の増加 消費者余剰 自由化前 生産者余剰 自由化後 自由化後 米のについては鈴木宣弘氏によった 米のについては鈴木宣弘氏によった * 曲線は実測値ではありません * 曲線は実測値ではありません 5
農業人口 自由化によって米の価格が下落すると そのままでは米の生産者は大きな損害を被ります 米の生産者がどのような人たちなのかを知っておきましょう 万人 総人口の5.5% 農家人口 700 万人 農業就業人口 290 万人 就業人口のうち 60 歳未満 80 万人 年間平均所得 (2002 年度 ) サラリーマン世帯 主業農家 (23%) 兼業農家 (77%) 646 万円 664 万円 792 万円 次に 自由化によって恩恵を受けるのはどのような人たちなのかを知っておきましょう 兼業農家は主として米の生産に従事している 兼業農家の米生産額シェアは62% 八田 髙田 日本の農林水産業 日本経済新聞出版社 2010. より 食料費の割合は 貧困層ほど高い 国民の 6 割は平均所得 (547 万円 ) 以下 エンゲル係数 = 消費支出 / 全支出 平成 21 年度東京都 平成 21 年度の所得分布 年収 300 万円以下の割合は 33.2% です 貧困 裕福 都民のくらしむき 東京都生計分析調査報告 ( 月報 ) 平成 22 年 11 月分 厚生労働省平成 21 年度国民生活基礎調査の概況 6
自由化により損害を被る米作農家に 自由化から利益を得る消費者は どれだけ補償すればよいでしょうか 自由化で最も恩恵を受けるのは 国民の多く (3-6 6 割 ) を占める 裕福でないひとたちです 一見すると 必要な補償額は消費者の効用や生産コストなど 市場で観察できない要因がわからないと計算できないような気がしますが. 米作農家も消費者も ともに自由化で利益を得られるような補償額が 部分均衡分析の図からわかります! 全員をハッピーにする補償額とは 全員をハッピーにする補償額とは 自由化による価格の下落 自由化前の数量 国内価格 国内価格 1.65 兆円 自由化による消費者余剰の増加 鈴木宣弘氏による試算 鈴木宣弘氏による試算 全員をハッピーにする補償額とは 消費者は補償金を支払ってもなお 自由化からこれだけ利益が得られます 自由化前の農家の利益 自由化後の農家の利益 国内価格 消費者が米作農家に支払う補償額 補償によって米作農家は自由化前よりもさらに多い利益を得られます 鈴木宣弘氏による試算 7
自由化の利益を全員が享受するには. 各消費者から自由化前の各人の消費量 自由化による米価の下落を徴収し 各米作農家に自由化前の各人の生産量 自由化による米価の下落を支払えば 国民一人ひとりの満足をすべて上げることができます ( これを パレート改善といいます ) 注意 : 生産量に比例した補助金民主党が行おうとしている農家戸別所得補償とは これとは全く異なる 大きな非効率性を 伴うものです ( 演習 6 でその問題点を考察します ) * 実際にはこのようなきめ細かな徴税と補償はできないでしょう 余剰分析が示す理想的な補償は完全にはできないでしょう では 自由化の是非は??? みなさんひとりひとりが考えてみてください参考 : 自由化賛成の立場から八田 髙田 日本の農林水産業 日本経済新聞出版社 2010. 自由化反対の立場から 鈴木宣弘 ( 東大農学生命科学教授 ) http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/10/tpp_tpp.html 8