( 股関節後方にある ) 殿部外側溝を圧迫する 骨盤帯による体幹 骨盤の安定と促通効果 : スポーツ分野への利用の可能性について 広島大学医学部脳神経外科学研究員 ( 信愛会日比野病院 ) 濱聖司 ( 株 ) 大坪義肢製作所 ( 故 ) 大坪政文
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研究背景 ( 麻痺患者への使用 1) 脳卒中や各種神経筋疾患の患者 下肢 + 体幹 骨盤の筋力が低下 立つ時に 膝が折れ 腰が引けてしまい バランスが保てない 足と膝が固定されても 骨盤周囲が不安定だと立てない 立てなければ 歩けない 歩く為には 骨盤周囲を安定させる必要がある
研究背景 ( 麻痺患者への使用 2) 下肢 体幹の筋力が低下した人が立つ為には 弱った筋力によって不安定になった関節 ( 足 膝 股関節など ) を機 械的に固定するとよい? ( 従来行われていた手法 ) 長下肢装具で足 膝関節を固定 + 骨盤帯で股関節 ~ 骨盤を固定 これで スムーズな歩行が獲得できる? ( 私達が膝と足関節を固定し 股関節の動きを制限されたら 歩くこ とがとてもしんどい )
ヒトの正常歩行について ( 骨盤 膝の動きの大切さ ) ヒトは 膝関節 股関節の屈曲ー伸展運動や骨盤 の回旋などの動きを行うことによって 歩行時の安 定と運動効率を高めている
歩行とコンパス理論 骨盤 膝は固定 歩行の効率が悪い 骨盤の回旋と傾きがみられる 歩行の効率が良い 骨盤 膝 足関節が連動
床反力ベクトルからみた正常歩行 荷重応答期 立脚中期前半後半 立脚終期 床反力ベクトル
床反力ベクトルからみた脳卒中後の歩行 健常者 脳卒中 股関節伸展 股関節屈曲 腰が後方に崩れる 膝関節過伸展 足関節底屈
研究背景 ( 麻痺患者への使用 3) 下肢 体幹の筋力が低下した人の歩行訓練 弱った筋力によって不安定になった関節 ( 足 膝 股関節など ) の動 きを制限するが固定はしない 歩行訓練に利用できる程度の動きは許すように関節の動きを制限 1. 従来使用されていた装具 ( 長下肢装具 骨盤帯など ) で関節の 制動力を微調整することは困難 2. 筋電刺激やロボット式装置の利用は高価で汎用性に欠け 実際 の臨床場面で広く使われにくい 安くてみんなに使ってもらえるものが必要!
新技術の基になる手法 理学療法 ( ボバース法など ) には 立位 歩行時の骨盤 ~ 股関節の安定を図る為に 殿部を後方からサポートする手法がある 股関節の後方の殿部は厚い筋群に覆われて 凸状 装具によって 凸状の皮膚の上から力を押しこんで 力を皮下の股関節に加えようとすることは困難 凹凸面のカーブを利用して 装具の凸部分を皮膚の凹状の部分に当てると 装具を固定しやすく 力を皮下に伝えやすい
Post trochanteric trochanteric Groove(PTG) 殿筋群 殿部を後方から見た図 殿筋群の外側で 大腿骨大転子後方に位置する皮膚上の溝が PTGにあたる ちょうど頬部にあるくぼみ ( エクボ ) に似ていることから 我々の間では えくぼ とも呼んでいる Post-trochanteric groove (PTG) 大腿骨大転子
新技術の基になる原理 ( 図 ) 股関節 大腿骨 凹 殿筋群 凸 不安定固定が困難 安定固定が可能
前方からみた図側方からみた図後方からみた図 固定用バンド 骨盤後方支持部 1 4 3 股関節外側サポート 4 3 PTG サポート 2 恥骨支持部 バックル 股関節の外側を覆うバンド ( 股関節外側バンド 4) と PTG バンド (3) には弾性帯を組み込み その弾性力を変えることによって 固定力や PTG に加わる力の大きさを調節できる また PTG バンドの半球体を皮膚にフィットさせることにもなる
前方からみた図 骨盤帯を装着した図 右方からみた図 後方からみた図 左方からみた図
重度麻痺患者に対して骨盤帯を使用した際の静的立位バランス改善効果の検討 Table 1. 静的立位時における立位バランス測定結果 : 骨盤帯のサポートの有無での比較 Stroke 動揺の向き サポート無 外側サポートのみ PTG サポートのみ PTG & 外側サポート Kruskal- Wallis 前後 880±1 8.80±1.13 13 686±0 6.86±0.74* 499±0 4.99±0.53* 504±0 5.04±0.49* 49* 0.001001 左右 7.14±2.53 4.72±1.45 3.72±0.74* 3.16±0.65* 0.008 3D 12.13±2.58 13±2 882±1 8.82±1.54* 671±0 6.71±0.75* 75* 638±0 6.38±0.59* 0.002002 前後 12.75±2.55 10.74±1.84 10.86±2.63 8.41±1.05* 0.033 GBS 左右 922±1 9.22±1.59 761±0 7.61±0.59 783±1 7.83±1.1919 715±0 7.15±0.39* 0.073073 3D 16.99±2.44 14.14±1.52 14.34±2.78 12.09±1.06* 0.034 Turkey HSDによる検定結果 *p<0.05サポート無と比較して有意差あり; p<0.05 外側サポートのみと比較して有意差あり ; p<0.05ptgサポートのみと比較して有意差あり
健常者 6 名に対して骨盤帯を使用した場合の股関節角度の変化 骨盤帯装着時 股関節は伸展される 骨盤帯を外した後も 股関節は伸展する傾向にある = 骨盤帯による促通効果
スポーツ分野への応用の可能性 今回の骨盤帯は 股関節の伸展を促して 安定させる作用がある 骨盤の回旋運動を補助する可能性あり スポーツで必要な股関節周囲筋群への促通効果を有する 装具装着時 ならびに装具を外した後にも効果を有する スポーツを行う際の筋力の補助ツを行う際の筋力の補助 ならびに訓練効果を上げる作用
野球の投球への影響に関する検討 骨盤帯を使用することによる投球速度の変化を計測 3 名に対して施行 ( 高校時代に野球部 草野球選手 ) 投球速度は微増あるいは増加を示した 被検者の感想 1. 骨盤帯を使用した時は動きにくいものの 腰が回る感じがした 2. 骨盤帯を外した後は 身体が軽くなって 腰も良く回る感じがした など
脳卒中領域 従来技術とその問題点 1 長下肢装具と骨盤帯を併用して両下肢 骨盤を固定骨盤を固定 2 電動モーターを用いたロボット装置 3 筋電刺激による麻痺した筋肉刺激 1 筋の促通効果が弱い 2 3 高価で汎用性に欠ける 等の問題があり 広く利用されるまでには至っていない スポーツ領域様々なサポート類があるがト類があるが 今以上の効果を得る為には 新しい視点から開発する必要がある
新技術の特徴 従来技術との比較 脳卒中関連では 従来技術の問題点であった 過度な関節の固定を行うことなく ある程度の関節の動きを許しながら 立位の安定性を確保し 促通効果を得ることに成功した スポーツ領域では 競技中の骨盤の動きを補助し 増強する 筋促通効果を利用して 下半身の動きを効果的に引き出し 学習させる可能性がある
想定される用途 脳卒中関連では 骨盤 ~ 下半身の支持性を向上させて 麻痺のある患者の歩行能力の向上や転倒防止につなげる また 高齢者の歩行能力の維持 向上や転倒防止にもつながる可能性がある スポーツ分野では PTG サポートという国内外に全く無い新しい概念のもとで ウエア等を開発し トレーニングを行うことで 国外に対して 今まで太刀打ちすることも困難だった競技でも 好成績を目指すことができる可能性がある
実用化に向けた課題 脳卒中患者や高齢者に使用する場合 装具がおおがかりで脱着が煩雑な点が未解決である スポーツ関連では 競技に合わせた 細やかな調整によって 下半身や骨盤の促通を進める必要がある 想定される業界 脳卒中患者に対する使用は 各種義肢装具業界 ( 現在は大坪義肢製作所と開発中 ) 高齢者等に使用する介護分野 ( パールスターと開発中 ) スポーツ分野は 現時点で共同開発を行っていないが 数名の野球経験者で有る程度の効果が期待できることから 下半身や骨盤の動きが必要な競技に関わる業界 ( 野球 ゴルフ 陸上競技など ) を想定中
企業への期待 未解決の装置の簡素化については 様々な弾性力を有する素材の加工技術により克服できると考えている サポーターや下着 ガードルの作成 開発技術を持つ 企業との共同研究を希望 また スポーツ選手の着衣 サポーターを開発中の企業 リハビリ分野への展開を考えている企業には 本技術の導入が有効と思われる 装具の簡素化が行えれば 今以上の多くのリハビリを必要とする患者様に還元することができ リハビリ分野へのフィードバックも大いに期待できる
本技術に関する知的財産権 発明の名称 出願番号 出願人 発明者 : 骨盤帯 :PCT/JP2009/002049 : 広島大学 : 濱聖司 大坪政文
お問い合わせ先 広島大学産学 地域連携センター 国際 産学連携部門 TEL : 082-421-3631 FAX : 082-421-3639 e-mail : techrd@hiroshima-uacjp u.ac.jp