社会動向レポート 従業員満足度調査の活用 シニアコンサルタント 情報通信研究部 鈴木宜之 組織の活力は企業が発展する原動力であり 従業員の活力向上はどの企業にとっても重要な経営課題である 取り組み手法のひとつとして 従業員の会社に対する満足度を把握するための 従業員満足度調査 が注目されている 本稿では 従業員満足度調査の概要と当社が2006 年より日本経営システム ( 株 ) (1) と共同で行ってきた従業員満足度調査サービスの調査結果の全般傾向について紹介する はじめに昨今 成果主義の導入や企業間競争の激化などにより 多くの社員にストレスがかかり 上司が部下の面倒を見る余裕がない 職場がギスギスしてしまったなどという実態が増えている こうした職場の変化は 若年層の離職率の高さ 正社員の残業時間の多さ メンタルヘルスに問題を抱える社員の増加といった問題現象として顕在化している 従業員の会社に対する満足度を高めることは 企業の発展にもつなげることが可能であり 従業員の会社に対する満足度を把握するための 従業員満足度調査 が注目されている 本稿では 従業員満足度調査の概要と 日本経営システム ( 株 ) と共同で2006 年より行ってきた従業員満足度調査サービスの調査結果の全般傾向について述べる 1. 従業員満足度調査とは組織の活力は企業が発展する原動力であり 従業員の活力向上はどの企業にとっても重要な経営課題である 人事制度改革 職場環境の改 善等を検討する際の一助として 従業員満足度調査 が注目されており 近年では国内の4 割弱の会社が実施している ( 労務行政研究所 2013 年調査 従業員数 1,000 人以上の会社 ) 一般に 従業員満足度調査 を実施する目的としては主に以下の項目が挙げられる 経営者として従業員の気持ちや考えを正しく知りたい 従業員のやる気を高められるように人事制度を見直したい 人材確保が容易でない時代となり 優秀な人材をなんとしても定着させたい 経営戦略を実行するために社内の一体感 連帯意識 協調性を高めたい 風通しのよい 活力あふれる社風 企業文化を形成したい従業員の活力を左右する要因 ( 活力要素 ) には多くの種類があるが 当社がこれまで実施してきた調査では コアとなる 仕事自体と評価 及びそれを支える 働く条件と環境 と 会社へのロイヤリティ の 大きく3つのカテゴリーに分けている これら3 要素それぞれが高い満足度になるこ 1
従業員満足度調査の活用 とが重要であり 従業員は 会社への信頼を基盤に 快適な環境と魅力ある仲間と共に 仕事に夢中になる とき 最高のパフォーマンスを発揮すると仮定される 3つのカテゴリーはそれぞれ5つの 活力要素 ( 従業員の満足度や士気を左右する要因 ) で構成される これら15の活力要素と定義は図表 1に示す通りであるが 当社が提供している従業員満足度調査サービスでは この活力要素毎に従業員に対してWeb 上で質問を実施し 従業員の声を通して 組織の強み 弱み等を把握するこ とが可能となっている 当社サービスでは 15の活力要素毎に5 設問を設定し 標準の75 設問について 大いにそう思う ある程度そう思う あまりそう思わない 全くそう思わない の4 段階で回答する形式となっている また 標準の75 設問に加えて 各調査企業独自の設問 10 問及びフリーコメントの収集ができる フリーコメントを参照することにより 従業員の生の声を把握でき 従業員の関心のある活力要素 具体的な不満内容等を把握することが可能である また これまでに 図表 1 15 の活力要素と定義 ( 資料 ) 日本経営システム ( 株 ): 経営シリーズ No.441 特集 : 社員満足度調査の活用 ~ ES 経営を目指して 2
実施した他社の平均との比較資料についても提供している 集計結果の一例として 活力要素分析 ( 全体 ) を図表 2に示す 本集計結果により 組織において 強み / 弱み となっている活力要素を把握することが可能となる 2. 調査結果の全般傾向当社が実施した従業員満足度調査サービスのうち 従業員数が300 人以上で直近に実施した 15 機関を対象に活力要素別の満足指数と 活力要素間の満足指数の関連性について分析を行った 活力要素別の満足指数を図表 3に示す 満足指数は 全社の平均値と最小 最大値について 記載している 5. 評価と処遇 の満足指数が最も低くなっている 一般的に低くなる傾向があるが 成果主義導入の拡大等に伴い 公平で納得性の高い評価 処遇の実現が要求されていることが影響していると思われる 6. 給与 についても同様のことが言える 1. 適職感 2. 自分力発揮 3. 達成感 等 仕事自体に関連する活力要素については 概ね高い指数となっている また 会社へのロイヤリティ のカテゴリーについては会社間のばらつきがあるが 満足指数の平均を見ると 低めの指数となっている この結果から 職務内容については満足しているが それに見合った評価と処遇及び給与を受けていないと感じている従業員が多いと推察される また 会社へのロイヤリティ のカ 図表 2 活力要素分析 ( 全体 ) 3
従業員満足度調査の活用 図表 3 活力要素別の満足指数一覧 ( 資料 ) 当社が実施した従業員満足度調査サービスの調査結果をもとに筆者作成 テゴリの満足度が全般的に低いことから 経営者 管理者とのコミュニケーション及び会社の経営方針 知名度 将来性について満足していない従業員が多いと推察される また15の活力要素の関連性を見るために 活力要素間の相関係数を算出した結果を図表 4に示す 相関係数とは 2つのデータの関連性を数値で表したものであり 一般的に0.7 以上の場合は関連性が強く 0.2 以上 0.4 以下の場合は 関連性が弱く 0.2 以下の場合は関連性がないことを示す 活力要素間の関連性については それぞれの企業独自の要因があるが 一般的な観点から把握できる範囲で 関連性について分析した結果を以下に示す 仕事自体に関連する 1 適職感 2 自分力発揮 3 達成感 の3つの活力要素については関連性が強い また 4 能力向上 5 評価と処遇 の関連性が強く 仕事でのスキルアッ 図表 4 活力要素間の相関係数 ( 資料 ) 当社が実施した従業員満足度調査サービスの調査結果をもとに筆者作成 4
プや人間としての成長の実感が 評価と処遇への満足指数に影響していることがわかる 5 評価と処遇 については 6 給与 12 理念共有 との関連性も高い また 9 チームワーク と 10 管理職能力 の相関が強く 管理職のリーダーシップ マネージメント能力 部下を動かすコミュニケーション能力がチームワークに影響を与えているように推察される また 14 情報公開 が 10 管理職能力 12 理念共有 13 戦略シナリオ との関連性が高くなっている また 7 残業と休暇 15 知名度 将来性 については 他の14の活力要素との関連性が弱く 改善するためには 独自の施策等が必要であることがわかる また従業員満足度調査実施後は 結果のフィードバックと何らかの改善策の実施が従業員から期待されている 当社の集計結果におい 図表 5 満足指数が 50 以下の活力要素の一般的な改善策例 ( 資料 ) 活力要素別改善のヒント ( 日本経営システム ( 株 )) より作成 5
従業員満足度調査の活用 て 満足指数の平均が50 以下の活力要素について 一般的な改善策例を図表 5に記す ただし図表 3を見てわかるように 最小 最大値の隔たりが大きく 会社間にばらつきがあるため どの会社にも一概に図表 5に示す活力要素への改善策が当てはまるとは限らない 社員満足度調査を実施し 会社の 強み / 弱み を把握することが大切であると考えられる おわりに本稿では 従業員満足度調査の概要と 日本経営システム ( 株 ) と共同で2006 年より行ってきた従業員満足度調査サービスの調査結果の全般傾向について述べさせていただいた 従業員の活力向上がどの企業にとっても重要な経営課題であることをご理解いただけたかと思う 満足指数の絶対的な数値については それぞれの企業の業務内容 人事制度 労働環境等により 他社平均との単純な数値比較を行うことはできないが 他社と比べての 強み / 弱み を把握することができる また従業員満足度調査を継続的に行うことにより 制度改革等の実施した対策の効果を見たり 良い方向に進んでいるかを確認することが可能となる 人事制度改革 職場環境の改善等を検討する際の一助として 従業員満足度調査の実施は有効であろう 注 (1) 1970 年に旧日本興業銀行 ( 現みずほ銀行 ) の経営研究部を母体にして設立された経営コンサルティングの専業会社 http://www.jmsinc.co.jp/ 6