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ている果粒と健全な果粒を選別し, 各 10 果粒の果皮表面や果皮断面を観察した. 発生部位については, 亀裂の長さや果皮色を調査した. また, 果皮をカミソリで切断し, 発生部 位の果皮断面を観察し, 亀裂の長さや果皮色を調査した. 調査には, 細胞レベルで対象の色や形を鮮 明に写し, 観察できるデ

1 著者が長い間研究してきた核果類(モモ スモモ オウトウ)のうち スモモとオウトウは結実が不安定で いかに安定して結実させるかが大きな課題になっている これに対し モモの結実確保は比較的容易だが 食味のばらつき を指摘されることが多い 品質の揃った果実を安定してとる モモではこれが課題であり 実現

目 1 導入にあたって 1 2 品種特性 2 3 苗木の植え付け 1. 植え付け方法 4 2. 植え付け後の管理 4 3. 栽植距離 4 4 若木の管理 1.H 型短梢せん定樹の管理 7 2.WH 型短梢せん定樹の管理 9 5 整枝せん定 1. 短梢せん定 短梢せん定での強樹勢対策 12

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H25 農作物技術情報第5号 果樹(H )

Microsoft Word - 001_20【藤原孝】

ジベレリン協和液剤 ( 第 6006 号 ) 2/ 年 6 月 13 日付け 25 不知火 はるみ 3 回以内 水腐れ軽減 0.5 ~1ppm 500L/10a 着色終期但し 収穫 7 日前まで 果実 ぽんかん 水腐れ軽減 0.5ppm 500L/10a 着色始期 ~4 分

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◆12-1ぶどう生産目標

緒言 カンキツ類では着果過多を防ぎ, 適度な着果とするため摘果は必須の作業である. その目的は隔年結果の防止, 品質向上などさまざまであるが, 最も大きなねらいは目標とする大きさの果実を生産することにある. 目標とする果実の大きさはカンキツの種類によって異なっており, それは市場で


果樹の生育概況

H23 農作物技術情報 第5号 果樹(H )

ブドウ新品種 涼香 の育成 37 福岡 15 号 博多ホワイト 第 1 図 涼香 の系統図 イタリア ロザキ 宝満 リザマート 2 育成地 ( 福岡県筑紫野市 ) における生育および果実特性 2012~2013 年に 涼香 と 巨峰 ( いずれも 2012 年時 4 年生, 台木 : テ

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茨城県農業総合センター園芸研究所研究報告第 13 号 半促成メロンの 4 月穫り栽培における品種選定および保温方法 金子賢一 小河原孝司 薄史暁 佐久間文雄 SelectionofUsefulCultivarsandaMethodofHeatInsulationinSe

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メラレウカ苗生産技術の検討 供試品種は レッドジェム, レボリューションゴールド を用い, 挿し木を行う前日に枝を採取し, 直ちに水につけ持ち帰り, 挿し穂の基部径を 0.8~1.2mm,1.8~2.2mm,2.8~3.3mm で切り分けた後, 長さ約 8cm, 基部から 3cm の葉を除いた状態に

果樹研報 Bull. Natl. Inst. Fruit Tree Sci. 7 : 21 ~ 38, 2008 原著論文 ブドウ新品種 シャインマスカット 1 山田昌彦 山根弘康 2 佐藤明彦 3 平川信之 4 岩波宏 5 吉永勝一 2 小澤俊治 2 三谷宣仁 白石美樹夫 6 吉岡美加乃 2 中島

新梢では窒素や燐酸より吸収割合が約 2 分の1にまで低下している カルシウム : 窒素, 燐酸, カリとは異なり葉が52% で最も多く, ついで果実の22% で, 他の部位は著しく少ない マグネシウム : カルシウムと同様に葉が最も多く, ついで果実, 根の順で, 他の成分に比べて根の吸収割合が高い

機械化作業に適したカキ軽労化栽培技術 機械化作業に適したカキ軽労化栽培技術 三輪直邦 * **, 坂川和也 The Improvement of the Mechanized Cultivation Technology for Labor-Saving on Japanese Persimmon

1 作物名     2 作付圃場 3 実施年度   4 担当

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コシヒカリの上手な施肥


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合併後の交付税について

( ) ( ) 87 ( ) 3 ( 150mg/l) cm cm 50cm a 2.0kg 2.0kg

果樹の生育概況

梢の発生が期待できるよう9月には必ず仕上げ摘果を徹底し 適正葉果比に仕上げましょう 着果量が中庸以上の樹では早生温州では9月中 普通温州では10 月上旬までに行いましょう(表2) ⑴着果過多樹着果量が多く肥大が悪い樹は 商品性の低い小玉果や傷果 病害虫被害果を中心に早急に

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6 三重県農業研究所報告 :33 号 (211) 試験 1: 開花時期の調査 24 年に ピンクス マンモス 8 年生 3 樹および同樹齢の ヒラリー ホワイト 1 樹を供試し, 両品種の開花時期を調査した. 開花が始まった5 月 26 日から, ほぼ終了した7 月 7 日の期間中に週 2 日程度の

果樹の生育概況

2. 摘花の実施早期の摘花 摘果は 良好な果実肥大や翌年の花芽確保のために また 適正樹勢の維持のために重要な作業となる 仕上げ摘果を満開 30 日後までに終了することを目標に作業計画を立てる そのために摘花を積極的に行い 落花後の摘果作業の時間短縮を図る 腋芽花の他 生育不良の花そう 枝の直上直下

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「諸雑公文書」整理の中間報告

スプレーストック採花時期 採花物調査の結果を表 2 に示した スプレーストックは主軸だけでなく 主軸の下部から発生する側枝も採花できるため 主軸と側枝を分けて調査を行った 主軸と側枝では 側枝の方が先に採花が始まった 側枝について 1 区は春彼岸前に採花が終了した 3 区 4 区は春彼岸の期間中に採

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H26 中予地方局産業振興課普及だより 新技術情報 -1 いちご新品種 紅い雫 ( あかいしずく ) 1. 紅い雫 の来歴県農林水産研究所が育成したいちご新品種 紅い雫 は あまおとめ ( 母親 ) 紅ほっぺ ( 父親 ) の交配により誕生し 平成 26 年 6 月 25 日に品種登録出願されました

隔年結果

日本作物学会紀事 第77巻 第1号

2 カンキツの摘果 夏秋梢伸長抑制剤 1. 使用薬剤 ターム水溶剤 ( 1-ナフタレン酢酸ナトリウム 22%) 2. 対象品種 カンキツ 3. 対象樹 樹勢の安定した樹 ( 健全樹 ) 対象品種 使用時期 使用目的 使用方法 一次生理落果発生期 立木全面散布 摘果 温州ミカン ( 満開 10~ 20

別紙 8. 2 使用上の注意 (1) ぶどう 1 ぶどうに関する作物名中の品種による区分は ジベレリンに対するぶどうの反応性の違い を考慮した区分なので ぶどうの品種がどの区分 ( 品種群 ) に該当するか 病害虫防除所等関係機関に確認してから使用すること 2 下記 3の ぶどうの品種による区分 に

Ⅱ 生産情報 1 生育概況五戸 ( りんご研究所県南果樹部 ) では おうとうの 佐藤錦 ももの あかつき が平年より4 日早く開花日となった 黒石 ( りんご研究所 ) では おうとうの 佐藤錦 が平年より6 日早く開花日となった 生育ステージ (5 月 2 日現在 りんご研究所県南果樹部 ) 樹

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スライド 1

本日のお話 つなぐことの意味 技術の効果 ( 第一期実用技術開発事業 ) 現地実証と産地への実用化 適用樹種拡大研究への発展 更なる共同研究 実用化に向けて

復興庁 農林水産省食料生産地域再生のための先端技術展開事業 被災地の早期復興に資する果樹生産 利用技術の実証研究 クリ ぽろたん のジョイント栽培マニュアル早期成園化 低コストの樹形管理と防除技術 宮城県農業 園芸総合研究所神奈川県農業技術センター国立研究開発法人農研機構果樹茶業研究部門

今後の管理のポイント [懸案事項] ①早期作型における2番花 房の花芽分化遅延 ②炭そ病とハダニ類の発生 拡大 [対策] ①寒冷紗を被覆して 花芽分化を誘導する 2番花房 の花芽分化を確認して被覆を除去する 被覆期間の目安 9月25 10月20日 ②定期的に薬剤による防除を行う 特に葉かぎ後の 葉か

カキ「富有」の超低樹高一文字整枝が作業性, 収量性, 果実品質に及ぼす影響

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はやみ [ 成果情報名 ]9 月下旬から出荷でき 食味が優れる極早生温州ミカン 早味かん [ 要約 ] 早味かん は ゆら早生 の珠心胚実生から育成し ゆら早生 より着色 成熟が早く 9 月下旬から出荷できる極早生温州である 日南 1 号 より減酸が早く 糖酸比は高く良食味で じょうのう膜が薄くて食

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回答者のうち 68% がこの一年間にクラウドソーシングを利用したと回答しており クラウドソーシングがかなり普及していることがわかる ( 表 2) また 利用したと回答した人(34 人 ) のうち 59%(20 人 ) が前年に比べて発注件数を増やすとともに 利用したことのない人 (11 人 ) のう

作物名

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〈論文〉中部圏構想の断章と高速自動車道の建設

ニホンナシの盛土式根圏制御栽培法 この盛土式根域制限栽培法 ( 以下 根圏制御栽培 ) は 遮根シートにより地面と隔離した培土量 150 Lの盛土に苗を植付け 樹齢 生育時期別に測定した吸水量に基づき 樹の成長に合わせて設定した灌水を行うことができる 培地を盛土にすることで滞水による湿害の発生がなく

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1 課題 目標 山陽小野田市のうち 山陽地区においては 5 つの集落営農法人が設立されている 小麦については新たに栽培開始する法人と作付面積を拡大させる法人があり これらの経営体質強化や収量向上等のため 既存資源の活用のシステム化を図る 山陽地区 水稲 大豆 小麦 野菜 農業生産法人 A 新規 農業


リンゴ黒星病、うどんこ病防除にサルバトーレME、フルーツセイバーが有効である


2 作物名 温州みかん ( 苗木 ) 及び 温州みかん の使用目的 花芽抑制による樹勢の維持 使用濃度 シ ヘ レリン 2.5ppm の使用方法 立木全面散布又は枝別散布( マシン油乳剤 60~80 倍液に加用 ) を以下のとおり 立木全面散布又は枝別散布 ( マシン油乳剤 60~80 倍液又は展着

Microsoft Word - 002_13【藤原孝】

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福岡県 福岡県果樹農業振興計画 目標年度平成 37 年度 計画期間平成 28~32 年度 平成 29 年 3 月 福岡県

Fig. 1 Sampling positions from the ingot. Table 2 Chemical compositions of base metal (%) Fig. 2 (unit: mm) Shape and size of fatigue test specimen. T

溶液栽培システムを利用した熱帯果樹栽培

Ⅰ 収穫量及び作柄概況 - 7 -

日本消化器外科学会雑誌第31巻第7号

強い乾燥をうけるとこはん症の発生原因となりますので例年こはん症が発生する園では土壌改良をします ⑴土壌pHの改良土壌の最適pHは5.5~6.5です 苦土石灰施用後数年経過すると酸性になりますので何年も施用していない園では本年は施用しましょう 葉の縁がチョコレート色の斑点が発

18 福島県農業総合センター研究報告第 5 号 1 緒言 表 1 試験区の構成 福島県会津地域の観光ブルーベリー園では 北部ハイブッシュ系品種が多く導入されており 6 月下旬から 8 月上旬頃までが主な収穫期となっている 一方 観光ブルーベリー園における来園者の需要は 5 月下旬頃から 9 月中旬頃

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から1月下旬から2月上旬です 収穫が遅くなると陽光面が回青して淡黄色くなることから遅れないようにします 収穫後は4%程度の予措をした後 中晩柑の貯蔵管理をします 3 土壌管理1月から2月は土壌改良を実施する時期です 土壌条件が悪く夏季に強い乾燥をうけると虎班症の発生原因とな


果樹経営において収益を向上させるためには 収益性の低い品目 品種や生産性の低くなった老木から 消費者ニーズに対応した収益性の高い優良品種へ改植することが重要です ただし 果樹は を植えつけてから一定の収量が確保できるまでに数年の期間を要することから 計画的な改植が必要です 1 果樹の改植にあたって

I

Ⅱ. 研究目的 Ⅲ. 研究方法 1. 対象者 J.. 2. 用具.... Ledraplastic GYMNIC cm 3. 大型ボールを用いたトレーニング内容 DVD DVD



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(1) 購入苗 品種 サイズ 苗数 購入日 ( 植付日 ) くろがね 大玉 2 本 4 月 24 日 マイボーイ 中玉 3 本 4 月 24 日 愛娘 小玉 3 本 5 月 2 日 黒姫 小玉 3 本 5 月 2 日 縞王 大玉 1 本 5 月 16 日 合計 11 本 平成 26 年スイカ作り 2

714 植 物 防 疫 第 63 巻 第 11 号 2009 年 岡山県で発生した Rhizobium radiobacter Ti による ブドウ根頭がんしゅ病 岡山県農業総合センター農業試験場 は じ め かわ ぐち あきら 川 口 章 12 月のサンプルから AT06 1 AT06 8 株 を

4. 方法今回の実験にはトウモロコシを用い 糖度と見た目の腐敗度合いの 2 つを鮮度とした 糖度は 減少の幅が小さいほど鮮度が大きいとする 見た目の腐敗の度合いは カビの生え方 痛み方などから判断した 保存中のトウモロコシの粒を採取し その搾出液の糖度を測定する 1 回目の実験 まず トウモロコシを

Effects of running ability and baton pass factor on race time in mr Daisuke Yamamoto, Youhei Miyake Keywords track and field sprint baton pass g

H8.6 P

表紙1-4.eps

ハウス栽培におけるマンゴーの結実習性 松田 昇 平良武康 ( 沖縄県立農業大学校 沖縄県農林水産部園芸振興課 ) NoboruMATsuDAandTakeyasuTAIRA:Researchesontheaspectof fruitsetofmangointheplastichouse 1はじめに沖

24 Depth scaling of binocular stereopsis by observer s own movements

本文、発送文

perature was about 2.5 Ž higher than that of the control irrespective of wind speed. With increasing wind speeds of more than 1m/s, the leaf temperatu

Transcription:

摘心の処理節位および処理時期がブドウ シャインマスカット の果粒肥大に す 宇土幸伸 小林和司 里吉友貴 キーワード : ブドウ, シャインマスカット, 摘心, 果粒肥大, 開花始め期 緒言 ブドウ シャインマスカット は, マスカット香を有する食味が優れた黄緑色品種であり, 皮ごと食することができる 1) ことから, 消費者の人気が高い. また, 裂果が少なく, 比較的耐病性が高いなど栽培性にも優れるため, 生産者の生産意欲も高い. 黄緑色品種であるため, 近年, 問題となることが多い着色不良の心配もなく, 西南暖地を含め, 全国的に栽培面積が急増している. しかし, 本品種は欧州系ブドウの血を強く引く品種であり, その他の欧州系品種と同様に, 若木における果粒肥大が不足する傾向がある. 今後, 産地間競争の激化が予想される中, 果粒肥大が優れた食味のよい果実を市場に供給することが重要となる. 山梨県においても糖度 18 Brix 以上, 果粒重 15 g を出荷目標とし 2), 高品質安定生産に向けた検討が行われている. 大粒系品種の無核栽培において, 十分に果粒を肥大させるためには, やや強めの樹勢を維持し, 新梢を摘心などでしっかりと止める管理を行うことが必須となっている. 特に, 開花始め期の摘心処理は, 一時的に新梢の伸長を抑え, 花穂への養分転流を促すことで, 着粒安定や果粒肥大促進のために重要な作業となっている 3). 現在, 山梨県における開花期前後の摘心作業は, 未展葉部のみを切除する方法が基本となっているが, この時期は, 花穂整形や摘房などの作業が集中するため, 摘心処理が十分にできない状況もみられる. そこで, 山梨県果樹試験場では, シャインマスカット における摘心作業の重要性を確認し, 果粒肥大促進に効果の高い処理時期, 処理方法を明らかにしたのでここに報告する. 材料および方法 山梨県果樹試験場植栽の シャインマスカット 3 樹を供試し,2011 年から 2012 年に試験を行った. 栽培管理は, 開花始め期に 1 新梢あたり 1 花穂に調整し, 花穂最下部 4 cm を残し, それより上部の支梗は切除した. ジベレリン処理は, 満開時に, ホルクロルフェニュロン 5 ppm 加用ジベレリン 25 ppm を, 満開 10~15 日後にジベレリン 25 ppm を花 ( 果 ) 房浸漬し, 無核栽培を行った. 第 2 回目ジベレリン処理前に, 軸長を6 cmに調整した. 摘粒作業前に, 3000 房 /10 a になるように摘房を行った後, 着粒密度が 4~5 粒 /cm になるように摘粒を行い, 白色袋をかけた. ベレゾーン期に除袋し, 乳白色ポリエチレン製カサにかけ替え, 収穫時まで管理した. 亜主枝単位で試験区を設置し, 各区から平均的な 10 果房を抽出し, 成熟期の果実品質を調査した. 1. 開花始め期における摘心節位の違いが果実品質に及ぼす影響 2012 年に 9 年生 シャインマスカット ( 短梢剪定樹 H 型,5BB 台,A ゾーン : 標高 450m および B ゾーン : 標高 460m 植栽 )2 樹を供試した. 摘心を行わない無摘心区を対照に, 処理節位を変えて摘心処理を行った. すなわち, 新梢先端を軽く摘み取る未展葉部摘心区, 新梢先端 3 節を切除する先端 3 節摘心区および果房先 3 節で切除する房先 3 節摘心区の 3 処理区を設けた.A ゾーン植栽 33

樹については,6 月 12 日に摘心処理を行い,9 月 13 日に調査を行った.B ゾーン植栽樹については, 6 月 7 日に摘心処理を行い,8 月 30 日に調査を行った. 2. 摘心処理時期の違いが果実品質に及ぼす影響 1) 開花前処理 2012 年に 7 年生 シャインマスカット ( 短梢剪定樹 一文字型,5BB 台 ) および 9 年生 シャインマスカット ( 短梢剪定樹 H 型,5BB 台 ) を供試した. 7 年生樹については, 摘心を行わない無摘心区を対照に, 展葉 7~8 枚時の未展葉部を切除した区を設けた.5 月 28 日に摘心処理を行い,9 月 13 日に調査を行った. 9 年生樹については, 摘心を行わない無摘心区を対照に, 展葉 7~8 枚時の未展葉部を切除した区および開花始め期の未展葉部を切除する区を設けた. 展葉 7~8 枚時の未展葉部を切除した区は 5 月 28 日に, 開花始め期の未展葉部を切除する区は 6 月 7 日に摘心処理を行い,9 月 16 日に調査を行った. 2) 開花後処理 2011 年に 8 年生 シャインマスカット ( 短梢剪定樹 H 型,5BB 台 ) を供試し, 摘心を行わない無摘心区を対照に, 満開期の房先 6 節および 9 節摘心区, 摘粒後の房先 6 節および 9 節摘心区, 開花始め期の先端 3 節 ( 房先 6 節に相当 ) 摘心区を設けた. 開花始め期の試験区は 6 月 13 日に, 満開期の試験区は 6 月 20 日に, 摘粒後の試験区は 7 月 4 日にそれぞれ摘心処理を行い,9 月 16 日に調査を行った. 結果 1. 開花始め期における摘心節位の違いが果実品質に及ぼす影響開花始め期の展葉枚数は,12~13 枚になっており, 摘心後に残る本葉枚数は, 未展葉部摘心区で 12~13 枚, 先端 3 節摘心区で 10~11 枚, 房先 3 節摘心区で 7~8 枚となった. 試験結果を第 1 表に示した. A ゾーン植栽樹においては, いずれの摘心処理区においても, 無摘心区と比較して有意に果粒重が大きくなった. また, 有意な差にはならなかったが, 摘心節位を着房位置に近づける, すなわち強い摘心を行うほど, 果粒肥大が促進される傾向があった. 果房重は, 果粒肥大が促進された区で大きかった. 糖度は, 果粒肥大が促進された区ほど低い傾向があったが, いずれの区も目標糖度である 18 Brix には到達した. 酸含量については, 差は認められなかった. 第 1 表開花始め期における摘心節位の違いが シャインマスカット の果実品質に及ぼす影響 試験樹 A ソ ーン植栽樹 B ソ ーン植栽樹 ( 枚 / 新梢 ) 未展葉部 12~13 473 bc x 33.2 a 14.1 a 22.0 ab 0.26 a 先端 3 節 10~11 542 a 36.4 a 14.8 a 21.6 b 0.28 a w 房先 3 節 7~8 526 ab 34.0 a 15.1 a 21.5 b 0.27 a 無摘心 464 c 35.8 a 12.3 b 22.7 a 0.26 a 未展葉部 12~13 478 a 36.4 a 13.5 b 19.0 ab 0.38 a 先端 3 節 10~11 466 a 33.2 a 13.9 ab 19.0 ab 0.40 a w 房先 3 節 x : 異符号間に 5% 水準で有意差あり (Tuke 法 ) w : 先端 6 節に相当する 摘心節位 7~8 497 a 33.1 a 15.3 a 18.6 b 0.38 a 無摘心 456 a 37.0 a 12.5 b 19.3 a 0.37 a z :A ソ ーン植栽樹処理日 ;6 月 12 日 ( 開花始め期, 展葉 12~13 枚 ), 調査日 ;9 月 13 日,9 年生 H 型樹 B ソ ーン植栽樹処理日 ;6 月 7 日 ( 開花始め期, 展葉 12~13 枚 ), 調査日 ;8 月 30 日,9 年生 H 型樹 : 摘心後に残る (2012) z 果房重着粒数果粒重糖度酸含量 (g) ( 粒 / 房 ) (g) ( Brix) (g/100ml) 34

宇土ら, 摘心の処理節位および処理時期がブドウ シャインマスカット の果粒肥大に及ぼす影響 B ゾーン植栽樹においても, 果粒重については, A ゾーン植栽樹と同様の傾向であり, 摘心処理区で無摘心区に対して果粒肥大が促進された. また, 強い摘心を行うほど果粒肥大が促進される傾向も同様にあり, 未展葉部摘心区と比較して房先 3 節摘心区において有意に果粒重が大きかった. 果房重も果粒肥大が促進された区で大きい傾向であり, 糖度, 酸含量についても,A ゾーン植栽樹と同様の結果となった. 2. 摘心処理時期の違いが果実品質に及ぼす影響 1) 開花前処理展葉 7~8 枚時の未展葉部摘心が果実品質に及 ぼす影響を調査した. 7 年生一文字型樹における結果を第 2 表に示した. 摘心処理により有意に果粒重が大きくなり, それに伴い果房重も大きくなった. しかし 糖度および酸含量については 摘心区と無摘心区間に有意な差はなかった. 9 年生 H 型樹における結果を第 3 表に示した.7 年生一文字樹と同様に, 展葉 7~8 枚時の未展葉部摘心により果粒肥大が促進された. また, その効果は開花始め期の未展葉部摘心区とほぼ同等であった. 糖度は, 展葉 7~8 枚時の未展葉部摘心区で若干低かったが, 目標糖度である 18 Brix には到達した. 第 2 表 摘心部位 果房重着粒数果粒重糖度酸含量 ( 枚 / 新梢 ) (g) ( 粒 / 房 ) (g) ( Brix) (g/100ml) 未展葉部 7~8 537 36.4 14.0 21.7 0.25 無摘心 475 37.8 12.5 22.1 0.26 x t 検定 * n.s. ** n.s. n.s. z : 処理日 ;5 月 28 日 ( 新梢誘引直前 展葉 7~8 枚 ), 調査日 ;9 月 13 日,7 年生一文字型樹 : 摘心後に残る 開花前の摘心処理が シャインマスカット の果実品質に及ぼす影響 (2012) z x :t 検定により,** は 1%,* は 5% 水準で有意差あり,n.s. は有意差なし 第 3 表摘心時期の違いが シャインマスカット の果実品質に及ぼす影響 (2012) z 摘心時期 摘心部位 x ( 枚 / 新梢 ) (g/100ml) 展葉 7~8 枚時未展葉部 7~8 449 a w 33.0 a 13.7 a 18.2 b 0.39 a 開花始め期未展葉部 12~13 478 a 36.4 a 13.5 a 19.0 a 0.38 a 無摘心 460 a 36.5 a 12.5 a 19.3 a 0.37 a z : 調査日 ;8 月 30 日,9 年生 H 型樹 : 展葉 7~8 枚時 ;5 月 28 日, 開花始め期 ;6 月 7 日 x : 摘心後に残る w : 異符号間に5% 水準で有意差あり (Tuke 法 ) 果房重着粒数果粒重糖度酸含量 (g) ( 粒 / 房 ) (g) ( Brix) 2) 開花後処理満開期および摘粒作業後における房先 6 節摘心, 房先 9 節摘心処理が果実品質に及ぼす影響を調査した. 本品種は, 基本的に新梢基部から 4 節位および 5 節位に花穂が着生するので, 房先 6 節摘心 を行うと, 摘心後に残る本は 10~11 枚, 房先 9 節摘心では,13~14 枚となった. 開花始め期の先端 3 節摘心区 ( 房先 6 節摘心に相当 ) および無摘心区と比較した結果を第 4 表に示した. 房先 6 節摘心では, いずれの処理時期に 35

おいても無摘心区と比較して果粒重は大きくなった. 開花始め期および満開期の処理はほぼ同等の果粒重となったが, 摘粒後の処理では若干, 果粒肥大促進効果が小さくなった. 果房重は, 果粒肥 大が促進された区で大きい傾向があり, 無摘心区が最も小さくなった. 房先 9 節摘心では, 満開期, 摘粒後とも無摘心区に対する果粒肥大促進効果はなかった. 第 4 表摘心時期および摘心節位の違いが シャインマスカット の果実品質に及ぼす影響 (2011) z 摘心時期 摘心部位 開花始め期 w 先端 3 節 x ( 枚 / 新梢 ) 果房重着粒数果粒重糖度 酸含量 (g) ( 粒 / 房 ) (g) ( Brix) (g/100ml) 10~11 427 a v 34.4 b 12.2 ab 16.0 b 0.44 a 満開期 摘粒後 房先 6 節 10~11 435 a 33.5 b 12.7 a 17.3 a 0.45 a 房先 9 節 13~14 407 ab 39.1 a 10.2 de 15.9 b 0.46 a 房先 6 節 10~11 409 ab 34.6 b 11.3 bcd 16.4 ab 0.46 a 房先 9 節 13~14 393 ab 36.5 ab 10.8 cde 16.3 ab 0.46 a 無摘心 365 b 36.1 ab 9.8 e 16.9 ab 0.46 a z : 調査日 ;9 月 16 日,8 年生 H 型樹 : 開花始め期 ;6 月 13 日, 満開期 ;6 月 20 日, 摘粒後 ;7 月 4 日 x : 摘心後に残る w : 房先 6 節に相当する v : 異符号間に5% 水準で有意差あり (Tuke 法 ) 考察 シャインマスカット は樹勢が強い品種であり, 極端に強い樹勢では, 新梢が過繁茂となり, 葉で生産された同化養分が, 十分に花穂に分配されず, 果粒肥大不足や着粒の不安定につながることが観察される. とくに, 若木では樹勢が旺盛になりやすく, 樹冠拡大中であるため摘心作業も不十分になりやすい. よって, 果粒肥大の優れる良果房を得るためには, 強く伸長する新梢をしっかりと止める管理が必要となり, 摘心の重要性がより高い品種であると考えられる. そこで本課題では, 摘心処理の時期と強度の違いが果実品質に及ぼす影響を明らかにすることを目的に試験を行った. 1. 開花始め期の摘心節位の違いが果実品質に及ぼす影響無摘心区と比較して, 開花始め期の摘心処理により, 果粒重は大幅に増加した. これは, 新梢伸長を一時的に抑えることにより, 花穂への養分転 流が促進されたことが一因と考えられる. 開花前に, 強風や新梢管理のミスなどで強く折れてしまった新梢に, 無核果が多く着生する 4) 果房や, 極端に果粒肥大が促進された果房が着生することが観察される. そこで, 摘心の強度により果粒肥大に及ぼす影響に差があると想定し, 試験区を設定した. その結果, 摘心節位を着房位置に近づける, すなわち強い摘心を行うほど, 果粒重が増加する傾向が認められた. これは新梢を強く切り戻すことにより発生した刺激による内生ホルモンのバランスの変化が関与した可能性が示唆されるが, 現状は不明のため今後検討を要する. 果粒肥大が促進された区において, 果房重が大きくなる傾向が認められたが, これは, 各試験区で着粒密度, 単位面積当たりの着房数を揃えるよう設定したことに起因する. また, 果粒肥大が促進され着果量が相対的に増加したことから若干糖度が低下する傾向が見られた. 房先 3 節摘心区では摘心後の葉面積の減少による果実品質への影響が懸念されたが, 副梢の発生 36

により十分な葉面積が確保できたと考えられ, 問題はなかった. ただし, 天候不順年などでは糖度が十分に上昇しにくいことも予想されるので, 果粒肥大促進による着果過多には注意が必要である. 実際に,2011 年は成熟期に曇雨天日が多く, 日照時間が平年と比較して大幅に少ない年次であり, いずれの試験区においても目標糖度の 18 Brix には到達しない結果となった. 開花始め期の房先 3 節摘心では, 摘心後に残る葉枚数が 7~8 枚となり, 長梢剪定栽培では結果母枝としての芽数が不足するので, この処理は短梢剪定栽培での適用となる. 2. 開花前の摘心処理が果実品質に及ぼす影響開花始め期は, 花穂整形や摘房などの作業が集中する. そこで, 管理作業の分散を目的に, 比較的作業が少ない時期での摘心の効果について検討した. 展葉 7~8 枚時の未展葉部摘心について無摘心区と比較したところ, 果粒肥大は促進され, 開花始め期の未展葉部摘心とほぼ同等の効果であった. 寺門ら 5) は, 開花前の摘心処理について, 果粒肥大促進の効果を認めており, 本試験の結果と一致した. なお, この処理についても摘心後に残る葉枚数が 7~8 枚となり, 長梢剪定栽培では結果母枝としての芽数が不足するので, 短梢剪定栽培での適用となる. 3. 開花後の摘心処理が果実品質に及ぼす影響管理作業の集中や遅れにより, 開花始め期に摘心処理が行えなかったことを想定し試験を行った. 房先 6 節摘心を行うと満開期の処理でも, 開花始め期と同等の果粒肥大促進効果が認められた. また, やや効果は低下するものの, 摘粒後の処理でも一定の効果は認められた. 一方, 房先 9 節摘心では, 満開期, 摘粒後ともに明確な果粒肥大効果は認められなかった. これらのことから, 果粒肥大促進のためには, 開花始めまでに摘心処理が行えなかった場合でも, なるべく早い段階で房先 6 節摘心を行うことが必要と考える. 4. 摘心後に発生する副梢の管理について摘心後の副梢の管理については, 摘心部から発生する副梢はそのまま元の新梢の伸長方向に誘引し,1.5~2 m で適宜未展葉部摘心を行う. その他の副梢については, 伸長し続ける強勢なものにつ いては, 慣行管理に従い, 葉を 2~3 枚残して摘心するが, 立てておける状態のものはそのままにしておく. とくに着房位置周辺の副梢は, 果房への直射光も遮るので, 日焼け等を考慮して多めに残し, 葉面積の確保につなげるとよいと考えられる. 寺門ら 5) も, 着房位置より基の節から発生する副梢の重要度が高く,5 葉を残して摘心をするとよいとしている. 以上, 本試験の結果から シャインマスカット の果粒肥大促進には, 次のような摘心方法を行うとよいと考える. 長梢剪定栽培の場合は, 開花始め期の先端 3 節摘心を基本とする. 短梢剪定栽培の場合も開花始め期の先端 3 節摘心を基本とするが, さらなる果粒肥大促進を期待する場合は, 房先 3 節摘心を行う. また, 作業の集中を避けたい場合は, 展葉 7~8 枚時に未展葉部摘心を行ってもよい. 長梢剪定, 短梢剪定にかかわらず, 開花始め期までの摘心処理が行えなかった場合は, 摘粒後までは一定の果粒肥大促進効果が認められるので, なるべく早い段階で房先 6 節摘心を行う. なお, 樹勢の弱い新梢で, 強い摘心を行うと, 副梢の発生が少なく葉面積の不足につながるので十分注意する必要がある. 寺門ら 5) は, 樹勢にあわせた処理時期について言及しており, 樹勢の弱い新梢については摘心時期を遅らせ, 樹勢の強い新梢については, 時期を早め着房位置に近づけるのが良いとしている. 今回の試験結果から, 果粒肥大促進に効果の高い摘心時期および摘心程度が明らかになったので, シャインマスカット の高品質安定生産に寄与できるものと考えられる. 摘要 ブドウ シャインマスカット の無核栽培において, 摘心の処理節位, 処理時期が果粒肥大に及ぼす影響を調査した. 1. 開花始め期に摘心処理を行うと, 無摘心区と比較して大幅に果粒肥大が促進される. 2. 開花始め期では, 摘心節位を着房位置に近づける程, 果粒肥大促進効果は高まる.

3. 開花前 ( 展葉 7~8 枚時 ) に未展葉部を切除する摘心を行うと, 開花始め期の未展葉部摘心と同程度の果粒肥大促進効果が認められる. 4. 満開期の房先 6 節摘心は, 十分な果粒肥大促進効果が認められるが, 摘粒後の房先 6 節摘心ではやや果粒肥大促進効果が劣る. 5. 満開期, 摘粒後の房先 9 節摘心は, 果粒肥大促進効果は低い. 引用文献 1) 山田昌彦 山根弘康 佐藤明彦 平川信之 岩波宏 吉永勝一 小澤俊治 三谷宣仁 白石美樹夫 吉岡美加乃 中島育子 中野正明 中畝良二 (2008). ブドウ新品種 シャインマスカット. 果樹研報 7:21-38 2) 山梨県果樹技術普及センター JA 全農やまなし (2012). 平成 24 年度シャインマスカットの栽培管理のポイント. 3) 本田量一 (2000). 摘心と副梢整理.p.215-219. 果樹園芸大百科 3 ブドウ. 農文協. 東京 4) 岡本五郎 (2000). 年間の生育過程.p.39-64. 果樹園芸大百科 3 ブドウ. 農文協. 東京 5) 寺門巌 江橋賢治 (2005). 欧州系ブドウに対する根域制限と新梢に対する摘心が生育および果実品質に及ぼす影響. 茨城農総セ園研報 13: 1-10 38

宇土ら, 摘心の処理節位および処理時期がブドウ シャインマスカット の果粒肥大に及ぼす影響 Effects of Pinching Node Positions and Pinching Time on Berr Enlargement of Shine Muscat Grape Yukinobu UDO, Kazushi KOBAYASHI and Yuki SATOYOSHI Yamanashi Fruit Tree Experiment Station, 1204 Ezohara, Yamanashi-shi, 405-0043, Japan Summar 1. Berr enlargement that was pinched at flowering beginning period has much larger advancement than the control (no pinching). 2. Pinching nodes that are close to the bunch during the beginning of the flowering period resulted in higher advancement of berr enlargement. 3. Pinching at tip of the shoot before flowering (7 to 8 leafing stage) has the same effect on advancement in berr enlargement as it does at the beginning of the flowering period. 4. Although pinching at the sixth node from the bunch to the base during full bloom stage has sufficient effect on advancement of berr enlargement, it is inferior in effect to that after berr thinning. 5. At the full bloom stage, pinching ninth node from the bunch to the base after berr thinning is less effective in advancement of berr enlargement. 39