に効果のあった医療機関及び薬局での事例 ( 学会ガイドライン STOPP クラ イテリア プレアボイド等 ) の収集と分析を行う必要がある 2. 高齢者の多剤服用 ( ポリファーマシー ) 対策のためのガイドライン等 高齢者の薬物動態等を踏まえた投与量の調整 ( 止めどき 減らしどき ) や薬物相互

Similar documents

別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン

保険薬局におけるハイリスク薬取り扱い時の注意点

Microsoft PowerPoint - 【厚労省】説明資料_ pptx

301226更新 (薬局)平成29 年度に実施した個別指導指摘事項(溶け込み)

<4D F736F F D DB782B58AB782A6817A5F32342E342E31365F96F28DDC8E7482CC F8BC696B182CC906982DF95FB5F E312E305F2E646F63>

<4D F736F F F696E74202D202888F38DFC AB38ED28FEE95F182CC8BA4974C82C98AD682B782E B D B2E >

在宅医療の現状と課題

2 保険者協議会からの意見 ( 医療法第 30 条の 4 第 14 項の規定に基づく意見聴取 ) (1) 照会日平成 28 年 3 月 3 日 ( 同日開催の保険者協議会において説明も実施 ) (2) 期限平成 28 年 3 月 30 日 (3) 意見数 25 件 ( 総論 3 件 各論 22 件

スライド 1

認知症医療従事者等向け研修事業要領

Microsoft Word - M 平成30年度診療報酬改定の基本方針

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

骨粗しょう症調査

多剤投薬の患者に対する病院薬剤師の業務実態調査 以下につきまして 2016 年 4 月 1 日もしくは 1 ヶ月 (2016 年 4 月 ) の状況でご記入ください お答えいただく欄は最初 ピンク で網掛けされています 入力後 ピンク が消えるように設定されていますので すべて入力後 ピンク のない

<4D F736F F F696E74202D208E7396F22096F296F298418C6782C982C282A282C448502E B8CDD8AB B83685D>

こうすればうまくいく! 薬剤師による処方提案

助成研究演題 - 平成 27 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 改良型 STOPP を用いた戦略的ポリファーマシー解消法 木村丈司神戸大学医学部附属病院薬剤部主任 スライド 1 スライド 2 スライド1, 2 ポリファーマシーは 言葉の意味だけを捉えると 薬の数が多いというところで注目されがちで

新しい薬学をめざして 46, (2017). 新薬学者集団 2017 度講演会報告 平井みどり神戸大学名誉教授の講演 薬剤師の基本的素養としてのポリファーマシー対応 から 谷口美保子 新薬学者集団の 2017 年度講演会は, ポリファーマシーを考える をテーマに開かれました 当日は,

Microsoft Word - 平成28年度診療報酬改定における主要改定項目.docx

愛媛県病院薬剤師会 プレアボイド講演会(安永)

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

総会名簿 代表区分 氏 名 現 役 職 名 1. 健康保険 船 員保険及び国民 幸 野 庄 司 健康保険組合連合会理事 健康保険の保険 平 川 則 男 日本労働組合総連合会総合政策局長 者並びに被保険 間 宮 清 日本労働組合総連合会 患者本位の医療を確立する連絡会 委員 者 事業主及び 宮 近 清


④資料2ー2

資料2-1

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

議題 2: 入退院サポートセンターにおける当院の取り組みについて 議題 3: 自動車運転禁止 注意に該当する薬剤の指導について 議題 4: 患者情報共有化のための連絡文書 ( 案 ) について 第 6 回全体会議日時 : 平成 27 年 12 月 25 日 ( 木 )17:15~19:15 場所 :

地域医療構想の概要 1 地域医療構想の位置づけ 平成 25 年 3 月に 医療法に基づき 本県の疾病対策及び医療提供体制の基本方針である第 6 期岐阜県保健医療計画を策定した 平成 27 年 4 月に施行された改正医療法に基づき 保健医療計画の一部として 将来 (2025 年 ) あるべき医療提供体

02 入職 (1 年目 ) 2 写真 ( 脇さん ) No.1 就活している学生の皆さんへ! 私の場合は 条件がかなり限定的だったため 決めやすかったのですが 病院の特徴と薬剤科がどのような仕事内容なのかをしっかり説明して頂ける病院にしました それは 入職後に望んだ条件ではないのが分かったとしても

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

Point

より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

Microsoft PowerPoint - 総-1-2  薬剤師の病棟業務.pptx

高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

政策課題分析シリーズ14(本文2)

スライド 1

<4D F736F F D C98EFB82DF82E9816A819C F28BC78BA68B6389EF CE936381A88B7B90EC81A890568

特定健康診査等実施計画 ( 第二期 ) 三重交通健康保険組合 平成 25 年 7 月

Microsoft PowerPoint  税-1(平成28年度補てん状況把握)

2 院内処方 ( 入院外 投薬 ) 及び院外処方 ( 薬局調剤 ) における薬剤点数薬剤点数階級別件数の構成割合を入院外の投薬 ( 以下 院内処方 という ) 薬局調剤( 以下 院外処方 という ) 別にみると ともに 500 点未満 が最も多く それぞれ 67.0% 59.4% となっている また

資料1:在宅医療推進会議作業部会.pdf

001

<4D F736F F D208D B B835896F2938A975E82CC8D6C82A695FB2E646F63>

入院時生活療養費の見直し内容について(厚生労働省保険局保険課:H29.4.7)

政策課題分析シリーズ14(本文4)

後発医薬品への変更調剤について

保険QA_ _第1章.indd

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

高齢者の適正な医薬品使用に向けた在宅医療の現状と課題 1. 在宅医療の役割 2. 在宅医療における薬剤治療 3. 高齢者の薬剤治療に関する在宅医療のエビデンス 東京大学医学部在宅医療学拠点山中崇 1 1. 在宅医療の役割 1 生活を支える医療 & 緩和ケア Home-Based Primary Ca

Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 ④ 3 理学的および生化学的検査 身長 体重 体温 脈拍 血圧などの測定とともに 心電図およ び血液生化学的検査を施行し生体の病的状態の有無を評価してお く 脳波 CT MRI SPECT PET NIRS 等も必要に応じて施行 する 2 薬物療法の実際 ① 適切な薬剤

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

スライド 1

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

医科診療報酬点数表関係 別添 1 在宅患者支援療養病床初期加算 在宅患者支援病床初期加算 問 1 療養病棟入院基本料の注 6の在宅患者支援療養病床初期加算及び地域包括ケア病棟入院料の注 5の在宅患者支援病床初期加算の算定要件に 人生の最終段階における医療 ケアの決定プロセスに関するガイドライン 等の

認定看護師教育基準カリキュラム

更に検討が必要な事項等 ( 抜粋 ) 平成 30 年 9 月 28 日第 6 回医薬品医療機器制度部会資料 2( 抜粋 ) テーマ 3 薬局 薬剤師のあり方 医薬品の安全な入手 (1) 医薬分業とかかりつけ薬剤師 薬局について 処方箋受取率が 70% を超えて医薬分業が進展し 医療保険では調剤医療費

PowerPoint プレゼンテーション

スライド 1

京都府がん対策推進条例をここに公布する 平成 23 年 3 月 18 日 京都府知事山田啓二 京都府条例第 7 号 京都府がん対策推進条例 目次 第 1 章 総則 ( 第 1 条 - 第 6 条 ) 第 2 章 がん対策に関する施策 ( 第 7 条 - 第 15 条 ) 第 3 章 がん対策の推進

抗精神病薬の併用数 単剤化率 主として統合失調症の治療薬である抗精神病薬について 1 処方中の併用数を見たものです 当院の定義 計算方法調査期間内の全ての入院患者さんが服用した抗精神病薬処方について 各処方中における抗精神病薬の併用数を調査しました 調査期間内にある患者さんの処方が複数あった場合 そ

<FEFF7B2C DE5B A E BC10D7C3C40EA >

PowerPoint プレゼンテーション

Q2 なぜ上記の疾患について服薬指導が大変だと思いますか インフル エンザ その場で吸入をしてもらったほうがいいけれど 時間がかかるのと 熱でぼーっ 一般内科門前薬局 としていると 理解が薄い 患者さんの状態が良くないことが多い上に 吸入薬を中心に 指導が煩雑である から 小児科門前薬局 吸入薬の手

wslist01

アレルギー疾患対策基本法 ( 平成二十六年六月二十七日法律第九十八号 ) 最終改正 : 平成二六年六月一三日法律第六七号 第一章総則 ( 第一条 第十条 ) 第二章アレルギー疾患対策基本指針等 ( 第十一条 第十三条 ) 第三章基本的施策第一節アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減 ( 第十四条

000-はじめに.indd

<4D F736F F F696E74202D C E9197BF A90EA96E58AC58CEC8E E88AC58CEC8E F0977B90AC82B782E98AF991B682CC89DB92F682C682CC8AD68C5782C982C282A282C42E >

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

表紙@C

厚生労働省における医療 ICT 化の取り組み 日本の医療が抱える課題 医療需要 財政負担の増加高齢化の進行 疾病構造の変化医療改革の方向性 健康の維持増進 疾病の予防及び早期発見の促進 医療機能の分化 連携の推進 地域包括ケアシステムの構築 解決ツールとしての医療 ICT 化 健康づくり ビッグデー

スライド 1

中医協総会の資料にも上記の 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス から一部が抜粋されていることからも ガイダンスの発表は時機を得たものであり 関連した8 学会が共同でまとめたという点も行政から高評価されたものと考えられます 抗菌薬の適正使用は 院内 と 外来 のいずれの抗菌薬処方におい

2 成分が同一の剤形変更 例 タケプロンOD 錠 15mg タケプロンカプセル 15mg ユリーフOD 錠 4mg ユリーフ錠 4mg コカールドライシロップ 40% カロナール細粒 20% ( 粉砕 ) レボフロキサシン錠 500mg レボフロキサシン細粒 10% 患者に説明 ( 価格 服用方法等

1 分析の主旨 ビタミン剤 うがい薬 湿布薬 保湿剤に関しては 医療費適正化の観点か ら 診療報酬改定で様々な対応を行ってきている 本分析は 2012 年度から2016 年度 ( 平成 24 年度から平成 28 年度 ) の調剤レセプトのデータを用いて これらの医薬品の薬剤料 数量等の推移を示したも

下の図は 平成 25 年 8 月 28 日の社会保障審議会介護保険部会資料であるが 平成 27 年度以降 在宅医療連携拠点事業は 介護保険法の中での恒久的な制度として位置づけられる計画である 在宅医療 介護の連携推進についてのイメージでは 介護の中心的機関である地域包括支援センターと医療サイドから医

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

2 成分が同一の剤形変更 例 タケプロンOD 錠 15mg タケプロンカプセル 15mg ユリーフOD 錠 4mg ユリーフ錠 4mg コカールドライシロップ 40% カロナール細粒 20% ( 粉砕 ) レボフロキサシン錠 500mg レボフロキサシン細粒 10% 患者に説明 ( 価格 服用方法等

により算定する ただし 処方せんの受付回 数が 1 月に 600 回以下の保険薬局を除く により算定する 注の削除 注 4 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合 ( 削除 ) しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険薬局において調剤した場合には 基準調剤加算として所定点数に32 点を加算する

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

2. 平成 9 年遠隔診療通知の 別表 に掲げられている遠隔診療の対象及び内 容は 平成 9 年遠隔診療通知の 2 留意事項 (3) イ に示しているとお り 例示であること 3. 平成 9 年遠隔診療通知の 1 基本的考え方 において 診療は 医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本

< 糖尿病療養指導体制の整備状況 > 療養指導士のいる医療機関の割合は増加しつつある 図 1 療養指導士のいる医療機関の割合の変化 平成 20 年度 8.9% 平成 28 年度 11.1% 本糖尿病療養指導士を配置しているところは 33 医療機関 (11.1%) で 平成 20 年に実施した同調査

医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律の概要 ( 次世代医療基盤法 平成 29 年 5 月 12 日公布 ) 法律の目的 医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関し 匿名加工医療情報作成事業を行う者の認定 医療情報及び匿名加工医療情報等の取扱いに関する規制等を定める

PowerPoint プレゼンテーション

中間とりまとめ素案(公的賃貸住宅のあり方について)

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - (最新版)0311付.pptx

正誤表 正誤箇所 誤 正 医科 - 基本診療料 -35/47 注 3 診療に係る費用 ( 注 2 及び注 4に規定する加算 注 3 診療に係る費用 ( 注 2 及び注 4に規定する加算 注の見直し 当該患者に対して行った第 2 章第 1 部医学管理等の 当該患者に対して行った第 2 章第 1 部医学

医療連携ガイドライン改

精神医学研究 教育と精神医療を繋ぐ 双方向の対話 10:00 11:00 特別講演 3 司会 尾崎 紀夫 JSL3 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野 AMED のミッション 情報共有と分散統合 末松 誠 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 11:10 12:10 特別講

A9R284E

Microsoft PowerPoint - 【4 山本先生】地域包括ケア時代のMC協議会のあり方

医薬品安全性情報の入手・伝達・活用状況等に関する調査

スライド 1

3 電子情報処理組織の使用による請求又は光ディスク等を用いた請求により療養の給付費等の請求を行うこと ( 以下 レセプト電子請求 という ) が義務付けられた保険医療機関 ( 正当な理由を有する400 床未満の病院及び診療所を除く なお 400 床未満の病院にあっては 平成 27 年度末までに限る

PowerPoint プレゼンテーション

本事業の意義 実効性 ( 見直しの必要性 ) 医療情報データベース基盤整備事業 ( 平成 23 年度 ~ 10 協力医療機関 ) 日本再興戦略 ( 平成 25 年 6 月 14 日 ) 医療 介護情報の電子化の促進 医薬品の副作用データベースシステムについて データ収集の拠点となる病院の拡充や地域連

薬学生に対する実践型倫理教育の有効性の検証 Inspection of the validity of the practice type education of ethics to cy student

Transcription:

高齢者の医薬品適正使用に関する検討課題と今後の進め方について 平成 29 年 8 月 23 日 高齢者医薬品適正使用検討会 1. 高齢者の薬物療法の現状と分析 高齢者の薬物療法の安全性を確保する観点から これまでに得られている調査研 究の範囲の中で薬物療法の現状を整理すると 次のような傾向が見られている 高齢者が服用する薬剤数は 60 歳前後を境に低年齢層に比較して増大する 傾向があり 75 歳以上でより多い傾向があること 多剤服用 ( ポリファーマシー ) の患者は 複数の疾患を有しているために複 数医療機関の受診傾向があること 通常成人の用法用量においても 高齢者では注意が必要となる副作用が存在 すること また 高齢者の生理的な機能や状態に基づく薬物動態により 増 強される作用 副作用があること 服用薬剤の種類が多くなることにより 特に 6 剤以上で 薬剤関連の有害事 象の頻度が高くなる傾向があること 今後 さらに高齢者の医薬品適正使用を推進するための対策を検討するにあたり その基礎となる十分なエビデンスを以下の点に留意して収集 分析する必要がある (1) 高齢者向けの用法 用量が設定されている内服薬剤は限定的である 特に 糖尿病 高血圧 催眠鎮静に関する薬剤において せん妄等による二次的な安全性の問題を回避し 高齢者に対する適切な用法 用量の情報提供を充実させるため 薬剤学的なエビデンスを収集する必要がある (2) 高齢者の内服薬の多剤服用と副作用の増加等との直接的な関係を示すデータ等は 国内では 限定的である 今後 2(2)1の薬効群も考慮し 多剤服用の実態や組合せの傾向等と副作用に関する分析 評価をより大規模に行う必要がある (3) 多剤服用のアウトカムをレセプト情報 特定健診等情報データベース (NDB) 等の医療関係データベースから調査 分析することも一案であり 行政において調査 分析を積極的に支援する必要がある (4) 同時に 病院 施設内 在宅 診療所等のそれぞれの医療現場において 内服薬の処方種類の増減が生じやすい患者 治療環境の事例 副作用の低減等

に効果のあった医療機関及び薬局での事例 ( 学会ガイドライン STOPP クラ イテリア プレアボイド等 ) の収集と分析を行う必要がある 2. 高齢者の多剤服用 ( ポリファーマシー ) 対策のためのガイドライン等 高齢者の薬物動態等を踏まえた投与量の調整 ( 止めどき 減らしどき ) や薬物相互作用による多剤服用時の副作用の発生による問題を防止するため 医薬関係者 ( 医師 薬剤師 看護師等 ) がそれぞれの立場で参照できる医薬品の適正使用情報を充実すべきである (1) 各専門領域の学会等と協働し 関連する領域毎の診療ガイドライン等の各学会の取組みを包含した国レベルでの包括的な高齢者の内服薬の多剤服用に関する適正使用ガイドラインを作成する必要がある (2) ガイドラインを作成する際には 次の点に留意するべきである 1 検討が必要な薬剤の薬効群を考慮 : 経口血糖降下剤 循環器用薬 ( 高血圧治療剤 高脂血症治療剤 経口抗凝固剤 抗血小板剤 ) 認知症治療剤 睡眠導入剤 抗不安薬等 ( 重複処方に共通する問題 ) 抗菌剤 2 薬剤数調整の適切な対応の基本的な考え方 ( 画一的にあてはめるガイドライン等の困難さを考慮する ) 3 患者が置かれたさまざまな医療現場に応じた対応を整理 急性期 回復期 入院 外来 在宅などの各医療現場の特徴に応じた薬剤数調整 / 処方変更の考え方 院内の病棟間における薬剤数調整の考え方 ( 医師 医師 薬剤師 薬剤師 ) 複数医療機関間 薬局での薬剤数調整の考え方 4 OTC 医薬品や栄養補助食品等 ( 検討対象範囲を要検討 ) も含めた安全対策 (3) 上記 1に掲げるエビデンスが収集 分析される毎に それに基づき 総論的なものから段階的にガイドラインを増補し 改訂する必要がある (4) さらに 作成されたガイドラインが医療現場で活用されるよう普及に努める 3. 多様な医療現場の多職種連携の下での情報収集 管理及び共有 高齢の患者は その疾病等の状況に応じて 急性期 回復期 入院 外来 在宅などの多様な医療現場にまたがり 治療を受けることが想定される このため 高齢者に対する薬剤の適正使用を促すには 多様な現場 多様な職種間での患者の服薬情報等の共有が円滑に行われる必要がある このため 医療機関間 医療機関 薬局間 医師 医師間 医師 他職種間 薬剤師 薬剤師間等のそれぞれの立場で 2

の患者の薬剤 服薬 疾病等の状況に関する基本情報を管理し 共有するシステムを構築し 情報を有効活用し 薬剤の適性使用の取り組みを促進するための検討が必要である (1) 共有される情報の内容 患者の状況 ( 薬剤管理の方法 転倒 睡眠 体調などの状況を含む ) 状況変化に応じた患者情報 処方情報 服薬アドヒアランスの状況 入院中に確認されたアレルギー歴 副作用歴 薬剤増減 中止歴 継続的な投薬が必要と考えているもの 将来的に投薬中止も考えられるもの ( 止めどき 減らしどき等を含め ) に係る処方医師の認識 腎クリアランス値等の処方量の適切性の評価に資する診断情報 (2) 情報共有の方向性 急性期病院から診療所 / 在宅への処方情報の提供 ( 急性期病院の医師 薬剤師から診療所 / 在宅の医師 薬剤師 看護師 他の医療職等 ) 診療所 / 在宅から急性期病院への処方情報の提供 ( 診療所 / 在宅の医師 薬剤師から急性期病院の医師 薬剤師 看護師 他の医療職等 ) (3) 院内や在宅等の現場での複数専門領域を調整する医師を含めた多職種による横断的かつ一元的な高齢者薬物療法適正化チームの形成を支援する仕組み (4) 電子版お薬手帳等を活用した処方 調剤情報の一元的 継続的な把握 患者の服薬アドヒアランスの状況について 多職種を含めた情報共有を支援する仕組み (5) 医療機関や薬局の機能に応じて 保険者等と連携し 多剤服用情報をフィードバックする等の適正化の取組み 4. 高齢者の薬剤使用に関する医薬関係者及び高齢者自身の理解 意識の向上 (1) 現役の医薬関係者 ( 医師 薬剤師 看護師等 ) だけでなく 医学生や医療職の学生等にも 教育段階からの高齢者の多剤服用に対する意識付けが必要である 多職種連携して 安全対策に取組むには 従来の医師及び薬剤師のみならず 看護師も含む高齢者の薬物療法を理解する人材の育成や確保が課題である (2) 医薬関係者は 医学薬学的に適切な情報に基づき 薬剤を減らすことの意義など その伝え方も含め 患者の視点からの選択に資するよう 患者 家族にわかりやすい情報の提供に努めなければならない 逆に 患者が自己判断で服薬をやめないように患者に啓発する機会を確保することも検討課題である 3

(3) その際 服薬の実態や認識 高齢者の生活状況等を把握するなど 家族構成の変化等に伴う高齢者を取り巻く環境の変化も考慮し 高齢者の医薬品適正使用と実効性のある服薬指導等に取り組む必要がある (4) 高齢者自身も服薬に関する意識を持てるようにすることも含め 高齢者の医薬品適正使用に関しては国民的な啓発も必要である 5. 今後の進め方について (1) 上記の検討課題のうち 1 及び2については ガイドライン作成に必要なデータ収集の範囲の設定 内容の集中的な検討が必要となるため 検討会の下に ワーキンググループを組織し 検討を行う (2) 検討課題のうち 3 及び4については 引き続き 本検討会で各構成員の所属する組織における取組みの実例等も研究しながら 議論を深める 4

高齢者医薬品適正使用検討会 構成員 平成 29 年 6 月時点 氏名秋下雅弘荒井美由紀池端幸彦 所属 一般社団法人日本老年医学会副理事長 ( 東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授 ) 日本製薬団体連合会安全委員会委員長 一般社団法人日本慢性期医療協会副会長 印南一路慶應義塾大学総合政策学部教授 大井一弥 勝又浜子 一般社団法人日本老年薬学会理事 ( 鈴鹿医療科学大学薬学部教授 ) 公益社団法人日本看護協会常任理事 北澤京子斎藤嘉朗島田光明林昌洋伴信太郎樋口恵子平井みどり松本純一水上勝義溝神文博美原盤三宅智山中崇 京都薬科大学客員教授 国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部長 公益社団法人日本薬剤師会常務理事 一般社団法人日本病院薬剤師会副会長 一般社団法人日本プライマリ ケア連合学会理事 NPO 法人高齢社会をよくする女性の会理事長 神戸大学名誉教授 公益社団法人日本医師会常任理事 公益社団法人日本精神神経学会 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター薬剤部 公益社団法人全日本病院協会副会長 特定非営利活動法人日本緩和医療学会 ( 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 ) 一般社団法人日本在宅医学会理事 座長 座長代理 ( 五十音順 敬称略 ) 5