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< 被害認定フロー ( 地震による被害木造 プレハブ > 第 次調査 ( 外観による判定 一見して住家全部が倒壊 一見して住家の一部の階が全部倒壊 地盤の液状化等により基礎のいずれかの辺が全部破壊 いずれかに いずれにも ( 傾斜による判定 全壊 外壁又は柱の傾斜が/ 以上 ( % 以上 ( 部位

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3.地震の揺れによる人間の行動と負傷の関係

/ / M. km km. m 図 1 CMT Hi-net CMT F-net CMT 図 1 PGV K-NET KiK-net 2. 地震および地震動の概要 / M JMA. / M JMA. 図 1 CMT PGV

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耐震等級 ( 構造躯体の倒壊等防止 ) について 改正の方向性を検討する 現在の評価方法基準では 1 仕様規定 2 構造計算 3 耐震診断のいずれの基準にも適合することを要件としていること また現況や図書による仕様確認が難しいことから 評価が難しい場合が多い なお 評価方法基準には上記のほか 耐震等

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いても示すこととした 極めて大きな地震動が作用し 多数かつ甚大な建築物被害が生じた益城町及びその周辺地域に着目して被害調査と分析等の検討を進めることとした 規模の大きな鉄骨造や鉄筋コンクリート造 鉄骨鉄筋コンクリート造( 以下 鉄筋コンクリート造等 という ) の建築物については 熊本市内などの地域

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1. 地震情報発生日時 :2018 年 6 月 18 日午前 7 時 58 分震源地 : 大阪府北部 ( 北緯 34.8 度 東経 度 ) 震源深さ: 約 13km 地震の規模 ( マグニチュード ):6.1 震度 6 弱の地域 :* 印は気象庁以外の震度観測点についての情報 大阪府震度

した 気象庁は その報告を受け 今後は余震確率の公表方法を改めることとしたという 2. 被害状況 被害要因等の分析 (1) 調査方針本委員会は 以下の調査方針で 被害調査と要因分析を行っている 1 極めて大きな地震動が作用し 多数かつ甚大な建築物被害が生じた益城町及びその周辺地域に着目して検討を進め

写真 1~12に堀之内エリアでの地表地震断層や建物被害の状況を示す 写真 1と2は堀之内エリア西側の道路 ( 南側の県道と北側の農道 ) に現れた地表地震断層の痕跡である ( 文献 2)) いずれも上盤側となる東を向き 堀之内エリアを望む写真である 写真 3は堀之内南側の県道での液状化の痕跡であり

検討の背景 10Hz を超える地震動成分の扱いに関する日 - 米の相違 米国 OBE (SSE ) EXCEEDANCE CRITERIA 観測された地震動が設計基準地震動を超えたか否かの判定振動数範囲 : 1Hz - 10Hz (10Hz 以上は評価対象外 ) 地震ハザードのスクリーニング (Ne

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目次 ページ 1. はじめに 1 2. 現地調査 調査概要 調査地域の地震動特性 建築物の被害調査結果 各種構造物の被害調査結果 課題とまとめ 14 参考文献 15

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地震の概要 検知時刻 : 1 月 3 日 18 時分 10 発生時刻 : 1 月 3 日 18 時 10 分 マグニチュード: 5.1( 暫定値 ; 速報値 5.0から更新 ) 場所および深さ: 熊本県熊本地方 深さ10km( 暫定値 ) 発震機構 : 南北方向に張力軸を持つ横ずれ断層型 ( 速報

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(1) 2

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2 被害量と対策効果 < 死者 負傷者 > 過去の地震を考慮した最大クラス あらゆる可能性を考慮した最大クラス 対策前 対策後 対策前 対策後 死者数約 1,400 人約 100 人約 6,700 人約 1,500 人 重傷者数約 600 人約 400 人約 3,000 人約 1,400 人 軽傷者

LOL ONNRION RRISIS OF RQUK RSPONS OF KO ROUN akashi kiyoshi, ept. o ivil ngrg., Kumamoto Univ., Kunihiko Fuchida, ept.

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2.1-震度分布からの震源域推定_

合構造である ( 図 2) 基礎形式は直接基礎である 躯体は EXP.J で全 65 ブロックに分割され 池内に耐震壁が設置されておらず 構造偏心を有した形状である N 管廊 EXP.J 導流壁隔壁 5 号 1 号 6 号 2 号 7 号 3 号 8 号 4 号 号 9 号 3 号 4 号 9 号

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津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

Ⅱ 被害調査及び要因分析の結果 1) 地震及び地震動熊本地震の特徴は 内陸の活断層の活動に因ること 震源の近くでは強い揺れに何度も襲われた地区がある ( 最大震度 7が複数回あるいは複数地点で観測された ) こと 地表に地震断層が出現したこと 誘発された地震を含めた余震の活動域が九州をほぼ横断する長

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大震災の時のような大都市ではなかったことが大きいと考えられる 地震発生時刻は夕食の準備をしている可能性の高い時間帯であったが 比較的火災も少なく済んでいる この地震でクローズアップされたのは震災関連死 というものであった 内閣府の防災情報に掲載されている死者の死因を見てみると 地震による家屋の倒壊な

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熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 について 熊本地震における建築物被害の原因を分析するため 国土交通省は建築研究所と連携して 熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 を設置 国土技術政策総合研究所 建築構造基準委員会 ( 委員長 : 久保哲夫東京大学名誉教授 ) と建築研究


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1.1 阪神 淡路大震災環境省は 阪神 淡路大震災 ( 平成 7 年 1 月 17 日発生 ) の際に兵庫県及び神戸市の協力を得て 大気中の石綿濃度のモニタリング調査を実施した 当時の被災地における一般環境大気中 (17 地点 ) の石綿濃度の調査結果を表 R2.1 に 解体工事現場の敷地境界付近に

これだけは知っておきたい地震保険

2. 調査手法 Google 3. 調査結果 3. 1 概要.. 表 1 表 1 / / / /

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令和元年6月 地震・火山月報(防災編)

2015/11/ ( 公財 ) 建築技術教育センター平成 27 年度普及事業第 4 回勉強会於 : 大垣ガスほんのりプラザ 近似応答計算の要点 (1 質点系の応答 ) 齋藤建築構造研究室齋藤幸雄 現行の耐震規定 ( 耐震性能評価法 ) 超高層建築物等を除いて 静的計算 (

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Transcription:

日本地震工学会論文集第 7 巻 第 3 号 2007 2004 年新潟県中越地震における川口町川口震度計周辺の 建物被害の分析と強震記録の対応 大月俊典 1) 境有紀 2) 小杉慎司 3) 1) 学生会員筑波大学大学院システム情報工学研究科 大学院生 e-mail : e011269@edu.esys.tsukuba.ac.jp 2) 正会員筑波大学大学院システム情報工学研究科 助教授 工博 e-mail : sakai@kz.tsukuba.ac.jp 3) 学生会員筑波大学大学院システム情報工学研究科 大学院生 e-mail : e011291@edu.esys.tsukuba.ac.jp 要約 2004 年 10 月 23 日に発生した新潟県中越地震では 川口町川口において 1996 年の計測震度導入以来 初めて震度 7 が記録された 震度計周辺の建物被害調査を行ったところ 古い木造住宅を中心に多くの建物で甚大な被害が見られ 全壊 大破率は 18% 程度に達していた そこで 川口町川口震度計周辺の建物全数被害調査を行い 様々なデータを収集し 被害レベルと構造種別 建物用途 建築年代 高床式構造 瓦屋根の有無との関係 および 応急危険度との対応関係などについての被害調査結果の分析を行った また 強震記録における建物に大きな被害をもたらす 1-2 秒応答は 1995 年兵庫県南部地震の震度 7 を記録した地点に匹敵するレベルであり 実際の被害との対応が確認された キーワード : 2004 年新潟県中越地震 地震動 震度 建物被害 強震観測点 1. はじめに 2004 年 10 月 23 日に発生した新潟県中越地震では多くの観測点で震度 6 弱以上を記録した 1) その 中でも川口町川口では 1996 年の計測震度導入以来 初めて震度 7 が記録され 多くの建物被害が発 - 40 -

生した 筆者らは 10 月 31 日 ~11 月 1 日に川口町川口震度計周辺の建物全数被害調査を行った ここでは その結果を報告および分析し 観測された強震動の性質と被害の対応性について 2004 年新潟県中越地震の他の強震記録 1995 年兵庫県南部地震などの過去に発生した被害地震の強震記録と比較を行った 2. 被害調査概要 被害調査は震度計を中心とした半径 200m の内側にある車庫 プレハブを除いた全ての建物について行い 地盤被害 基礎の被害を除いた強震動による上部構造の被害を対象とした 同様の調査としては 既に日本建築学会による報告書 2) が刊行されているが 本報告では地震動と被害の関係の検討を行うために 震度 7を記録し 強震記録も回収された強震観測点周辺に絞って詳細な調査を行っている 調査対象を観測点から半径 200m 以内にしたのは 観測点と同程度の揺れと見なすためにできるだけ観測点近傍に限定することと 被害率を算出するだけの充分な数の建物が存在すること という相反する2つの条件のバランスから決定した なお 対象エリアはほぼ平坦で大きな地形の変化はない 外部から 1 棟ずつ 被害レベル 構造種別 建物用途 建築年代 階数 瓦屋根の有無 応急危険度判定結果の調査を行った 被害レベルは木造建物については文献 3) を 非木造建物については文献 4) を参考に判定した 1 階部分のみ店舗として使用している建物の建物用途は店舗とした 建築年代は 外観から分かる範囲での建物の外壁や屋根の材料の劣化具合 建築様式から 非常に古い 古い やや古い 新しい と分類した 新しい は築 10 年以内 古い は築 30 年以上を目安としたが 外観から目視で判断したものであるため あくまで参考的なものであることに注意されたい 階数については 1 階部分が鉄筋コンクリート造 ( 以下 RC 造 ) になっている高床式構造 ( 以下 高床 ) は 2+1 (1 階部分が RC 造で 2 階 3 階部分が木造 ) という表記とした 被害レベル ( 木造建物 ) 建築年代 高床建物について分類例を写真 1 2 3 に示す 表 1 建物の調査項目と分類 被害レベル ( 木造家屋 ) 全壊 半壊 一部損壊無被害 被害レベル ( 非木造建物 ) 崩壊 大破 中破 小破 被害軽微無被害 構造種別 木造 1 RC 造 2 S 造 建物用途 住宅 店舗 その他 建築年代 非常に古い 古い やや古い 新しい 3 階数 4 3 2+1 2 1+1 1 瓦屋根 有 無 応急危険度 危険 要注意 調査済 不明 1 RC 造 : 鉄筋コンクリート造 2 S 造 : 鉄骨造 3 2+1:1 階部分がRC 造で2 3 階部分が木造 1+1:1 階部分がRC 造で2 階部分が木造 - 41 -

(a) 全壊 (b) 全壊 (c) 半壊 写真 1 木造建物の被害レベルの分類例 (d) 一部損壊 (a) 非常に古い (b) 古い - 42 -

(c) やや古い 写真 2 建築年代の分類例 (d) 新しい (a) 高床木造住宅 写真 3 高床木造の建物例 (b) 高床木造店舗 3. 被害概要 震度計は川口町役場建物 ( 写真 4 被害軽微) のすぐ南に設置されていた ( 写真 5) 震度計周辺では古い住宅 店舗が集まっている地域を中心に多くの建物に甚大な被害が生じており 建物以外にも地盤の被害も大きく 道路にもひび割れが生じていた ( 写真 6-11) その一方で比較的新しい住宅が集まっている地域では建物にも地盤にもあまり被害が生じていなかった ( 写真 12 13) また 古い住宅では瓦屋根のものが多く 被害も生じており 一方 新しい住宅の多くは 1 階部分が RC 造の高床式構造になっていて 被害は少なかった - 43 -

写真 4 川口町役場 写真 5 震度計の設置状況 写真 6 被害が多い地域の様子 写真 7 被害が多い地域の様子 写真 8 被害が多い地域の様子 写真 9 被害が多い地域の様子 - 44 -

写真 10 被害が多い地域の様子 写真 11 被害が多い地域の様子 写真 12 被害が少ない地域の様子 写真 13 被害が少ない地域の様子 4. 被害調査結果データと分析 4.1 調査結果および被害レベル震度計から半径 200mの円内には計 225 棟の建物があり 車庫 プレハブ 地盤や基礎による被害を受けた建物を除くと 150 棟になる 表 1 に従って分類した全ての建物の調査結果を表 2 に示す また 被害レベルごとに色分けした分布を図 1 に 被害レベルの割合を表したものを図 2 に示す なお 木造 非木造を合わせた被害レベルの区分は 建物全体の分析のために便宜的に行ったものである 全 150 棟中 崩壊 大破 全壊レベルの建物は 27 棟であるので全壊 大破率は約 18% となった - 45 -

表 2 調査結果一覧 番号構造種別建物用途建築年代階数瓦屋根被害レベル応急危険度 1 RC 造 その他 やや古い 2 - 無被害 不明 2 RC 造 その他 古い 3 - 被害軽微 不明 3 木造 住宅 新しい 2+1 - 一部損壊 要注意 4 RC 造 その他 新しい 1 - 無被害 不明 5 木造 住宅 新しい 3 - 無被害 不明 6 木造 住宅 古い 2 - 一部損壊 要注意 7 木造 住宅 古い 2 - 一部損壊 要注意 8 木造 住宅 古い 3 - 無被害 不明 9 木造 住宅 新しい 2 - 無被害 要注意 10 木造 その他 非常に古い 2 〇 全壊 危険 11 木造 住宅 新しい 3+1 - 無被害 不明 12 RC 造 その他 新しい 4 - 無被害 不明 13 木造 住宅 新しい 2+1 - 一部損壊 要注意 14 木造 住宅 非常に古い 2 - 全壊 不明 15 木造 住宅 新しい 2+1 - 半壊 不明 16 木造 住宅 古い 2+1 - 半壊 不明 17 木造 住宅 非常に古い 2 - 全壊 危険 18 木造 住宅 古い 2+1 - 一部損壊 要注意 19 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 不明 20 木造 住宅 古い 2 - 一部損壊 不明 21 木造 住宅 非常に古い 2 - 半壊 要注意 22 木造 住宅 新しい 2 - 無被害 調査済 23 S 造 店舗 古い 2 - 中破 要注意 24 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 25 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 26 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 27 木造 住宅 非常に古い 2 - 全壊 危険 28 木造 住宅 非常に古い 3 - 全壊 危険 29 木造 住宅 古い 2+1 - 無被害 調査済 30 RC 造 住宅 古い 2 - 被害軽微 不明 31 木造 住宅 やや古い 2+1 - 半壊 危険 32 木造 店舗 非常に古い 2 - 全壊 危険 33 木造 住宅 新しい 2 - 無被害 要注意 34 木造 住宅 非常に古い 2 〇 全壊 危険 35 木造 住宅 古い 2 - 半壊 不明 36 木造 住宅 やや古い 2+1 - 一部損壊 危険 37 木造 住宅 やや古い 2 - 一部損壊 不明 38 木造 住宅 非常に古い 2 〇 全壊 危険 39 木造 住宅 非常に古い 2 〇 全壊 危険 40 木造 住宅 古い 2 - 無被害 要注意 41 木造 店舗 古い 2 - 全壊 危険 42 木造 住宅 やや古い 2+1 - 一部損壊 要注意 43 RC 造 住宅 古い 4 - 被害軽微 不明 44 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 45 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 不明 46 RC 造 住宅 新しい 3 - 無被害 調査済 47 木造 住宅 古い 2 - 一部損壊 危険 48 木造 住宅 非常に古い 2 - 全壊 危険 49 木造 住宅 古い 3 - 半壊 不明 50 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 不明 51 木造 住宅 古い 2 - 無被害 調査済 52 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 53 木造 店舗 古い 2 - 半壊 要注意 54 RC 造 その他 やや古い 1 - 無被害 不明 55 木造 住宅 新しい 2+1 - 半壊 要注意 56 木造 住宅 やや古い 2 - 一部損壊 不明 57 木造 店舗 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 58 RC 造 その他 やや古い 1 - 被害軽微 調査済 59 木造 住宅 非常に古い 2 - 全壊 危険 60 木造 住宅 古い 2 - 無被害 調査済 61 木造 住宅 やや古い 2+1 - 一部損壊 要注意 62 木造 住宅 非常に古い 2 〇 全壊 危険 63 木造 住宅 古い 2 - 半壊 不明 64 木造 住宅 非常に古い 2 - 全壊 危険 65 木造 住宅 非常に古い 2 〇 全壊 危険 66 木造 住宅 非常に古い 2 〇 半壊 不明 67 木造 店舗 非常に古い 2 - 半壊 要注意 68 木造 住宅 新しい 2+1 - 一部損壊 調査済 69 木造 店舗 新しい 2 - 無被害 不明 70 RC 造 店舗 新しい 3 - 無被害 不明 71 S 造 店舗 古い 1 - 大破 危険 72 木造 住宅 やや古い 2 - 一部損壊 危険 73 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 74 木造 店舗 古い 2 - 半壊 要注意 75 木造 店舗 古い 2 - 一部損壊 要注意 番号構造種別建物用途建築年代階数瓦屋根被害レベル応急危険度 76 木造 住宅 古い 1+1 - 無被害 調査済 77 S 造 店舗 古い 2 - 大破 危険 78 RC 造 店舗 古い 2 - 中破 危険 79 S 造 店舗 古い 2 - 中破 危険 80 木造 店舗 やや古い 2 - 一部損壊 危険 81 木造 店舗 非常に古い 2 - 全壊 危険 82 木造 住宅 非常に古い 2 - 全壊 危険 83 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 84 木造 住宅 新しい 2+1 - 一部損壊 不明 85 木造 住宅 古い 2 - 全壊 危険 86 木造 住宅 新しい 2 - 一部損壊 不明 87 S 造 店舗 古い 3 - 被害軽微 要注意 88 木造 住宅 やや古い 2 - 一部損壊 要注意 89 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 90 S 造 店舗 やや古い 3 - 中破 危険 91 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 不明 92 RC 造 店舗 やや古い 3 - 中破 不明 93 木造 店舗 古い 2 - 全壊 危険 94 木造 店舗 非常に古い 2 - 半壊 危険 95 木造 住宅 非常に古い 2 〇 全壊 危険 96 木造 店舗 非常に古い 2 〇 全壊 危険 97 木造 住宅 古い 2 - 半壊 要注意 98 木造 住宅 非常に古い 2 - 半壊 要注意 99 木造 住宅 非常に古い 2 〇 一部損壊 不明 100 木造 住宅 古い 2 〇 全壊 危険 101 木造 住宅 やや古い 2+1 - 一部損壊 不明 102 木造 住宅 やや古い 2 - 一部損壊 不明 103 木造 住宅 やや古い 2 - 一部損壊 不明 104 木造 住宅 やや古い 2+1 - 一部損壊 不明 105 S 造 その他 新しい 2 - 小破 要注意 106 木造 住宅 古い 2 〇 半壊 危険 107 木造 住宅 古い 3 〇 一部損壊 危険 108 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 不明 109 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 110 木造 住宅 新しい 2 - 一部損壊 調査済 111 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 112 木造 住宅 古い 2 〇 全壊 危険 113 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 114 木造 住宅 やや古い 2+1 - 一部損壊 要注意 115 木造 住宅 古い 2+1 - 一部損壊 要注意 116 木造 住宅 やや古い 2+1 - 一部損壊 不明 117 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 不明 118 木造 住宅 非常に古い 2 - 半壊 不明 119 木造 住宅 古い 2 〇 一部損壊 要注意 120 木造 住宅 やや古い 2 - 半壊 不明 121 木造 住宅 古い 2 〇 半壊 危険 122 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 123 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 124 木造 店舗 古い 2 - 一部損壊 要注意 125 木造 住宅 新しい 2+1 - 無被害 調査済 126 木造 住宅 古い 2 - 半壊 要注意 127 木造 住宅 やや古い 2 - 一部損壊 危険 128 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 129 木造 店舗 やや古い 2 - 一部損壊 不明 130 木造 住宅 やや古い 2+1 - 全壊 危険 131 木造 住宅 やや古い 2 - 半壊 不明 132 S 造 住宅 やや古い 3 - 無被害 不明 133 木造 住宅 古い 2 〇 一部損壊 不明 134 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 不明 135 木造 住宅 古い 2 - 無被害 調査済 136 木造 住宅 古い 2+1 - 一部損壊 要注意 137 RC 造 その他 古い 2 - 被害軽微 不明 138 木造 住宅 古い 2 - 無被害 危険 139 木造 住宅 古い 2 〇 一部損壊 不明 140 木造 住宅 やや古い 2+1 〇 一部損壊 危険 141 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 142 木造 住宅 古い 2 - 一部損壊 不明 143 木造 住宅 古い 2+1 - 無被害 危険 144 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 調査済 145 木造 住宅 やや古い 2 〇 全壊 危険 146 木造 住宅 やや古い 2+1 - 無被害 要注意 147 RC 造 その他 古い 3 - 被害軽微 不明 148 RC 造 その他 非常に古い 2 - 被害軽微 調査済 149 RC 造 その他 古い 3 - 被害軽微 不明 150 木造 住宅 古い 2 〇 半壊 要注意 階数の +1 は高床建物を示し 2+1 は 1 階部分が RC 造で 2 3 階が木造 1+1 は 1 階部分が RC 造で 2 階が木造ということを表す 瓦屋根は 〇 が有り - が無しを表す - 46 -

図 1 被害レベルの分布 48 (32%) 47 (31%) 27 (18%) 28 (19%) 崩壊 大破 全壊被害軽微 一部損壊 中破 小破 半壊無被害 図 2 被害レベルの割合 - 47 -

4.2 構造種別と被害レベルの関係構造種別の割合 および 構造種別ごとの被害レベルの割合を図 3 に示す 構造種別の割合は木造が 80% 以上を占め その 20% が全壊しており 半数以上が何らかの被害を受けていることがわかる こ 2) れは 日本建築学会による災害調査報告内の川口町大字川口地区での悉皆調査結果の木造全壊率 15% とおよそ対応している また RC 造建物では大破以上の被害を受けたものはなく 2 棟が非構造壁に大きな被害を受けており 中破 ( 写真 14 15) と判定した S 造建物は 25% が崩壊 大破レベルであり 大きな被害の割合は木造建物以上であるが S 造建物の総数が 8 棟であるため比較するのに十分な棟数とはいえない 13% 13% 50% 25% 16 (11%) 8 (5%) 33% 30% 20% 17% 38% 13% 50% 126 (84%) 崩壊 大破 全壊 被害軽微 一部損壊 中破 小破 半壊 無被害 木造 RC 造 S 造 図 3 構造種別の割合および構造種別ごとの被害レベルの割合 4.3 建物用途と被害レベルの関係建物用途の割合 および 建物用途ごとの被害レベルの割合を図 4 に示す 建物用途の割合は 76% を占めている住宅が最も高く 続いて店舗 その他という順である 用途ごとの被害レベルの割合を見てみると 住宅の 18% に対して店舗の 29% が崩壊 大破 全壊レベルであり 1 階の剛性が極端に弱くなっている店舗の耐震性の低さが表れている 全壊 大破した店舗建物を写真 16-18 に 中破レベルの店舗建物を写真 19 20 に示す 33% 8% 8% 12 35% 32% 17% 16% 51% 24 (8%) (16% 114 21% 13% 37% 29% (76%) 崩壊 大破 全壊 被害軽微 一部損壊 中破 小破 半壊 無被害 住宅店舗その他 図 4 建物用途の割合および建物用途ごとの被害レベルの割合 - 48 -

4.4 建築年代と被害レベルの関係建築年代の割合 および 建築年代ごとの被害レベルの割合を図 5 に示す 建築年代の割合には大きな偏りはないが 若干古い建物が多い 建築年代ごとの被害レベルの割合をみてみると 非常に古い建物のほとんどが崩壊 全壊 大破または半壊 中破 小破しており 年代が新しくなるに従って被害が軽くなっていることがわかる 非常に古い建物の全壊例を写真 21-25 に示す 73% 9% 18% 34 (23%) 26 (17%) 23% 8% 69% 36% 5% 46% 13% 39 (26%) 51 (34%) 18% 41% 14% 27% 崩壊 大破 全壊 中破 小破 半壊 非常に古いやや古い 古い新しい 被害軽微 一部損壊 無被害 図 5 建築年代の割合および建築年代ごとの被害レベルの割合 写真 14 中破の被害を受けた RC 造店舗 (78) 写真 15 中破の被害を受けた RC 造店舗 (92) 括弧内の番号は表 2 の建物番号と対応 ( 以下 同じ ) - 49 -

写真 16 全壊した木造店舗 (32) 写真 17 全壊した木造店舗 (41) 写真 18 大破した S 造店舗 (77) 写真 19 中破の被害を受けた S 造店舗 (23) 写真 20 中破の被害を受けた S 造店舗 (90) 写真 21 全壊した木造建物 (10) - 50 -

写真 22 全壊した木造住宅 (39) 写真 23 全壊した木造住宅 (62) 写真 24 全壊した木造住宅 (64) 写真 25 全壊した木造住宅 (27) 4.5 木造高床 木造瓦屋根と建物被害の関係性震度計周辺では 1 階部分が RC 造で上層部が木造であるという高床式になっている住宅や店舗が数多く見られた 高床の有無と被害レベルとの関連性を探るため 高床式の木造建物 ( 以下 高床木造建物 ) と高床式でない木造建物 ( 以下 非高床木造建物 ) の被害レベルの割合を図 6 に示す 両者を比較すると 高床木造建物は非高床木造建物に比べて全壊 半壊の割合が低いことがわかる しかし 高床木造建物は比較的新しい建物が多かったことから 建築年代との関係も検討するため 高床木造建物 非高床木造建物について建築年代ごとの被害レベルの割合を求めて図 7 8 に示し 年代ごとの全半壊部分をオレンジで囲ってある - 51 -

(2%) 1 4 (8%) 11 (14%) 24 (32%) 30 (60%) 15 (30%) 23 (30%) 18 (24%) 全壊一部損壊 半壊無被害 全壊一部損壊 半壊無被害 (a) 高床木造建物 図 6 被害レベルの割合 (b) 非高床木造建物 73% 9% 18% 7 5% 5% 52% 38% 22 (46%) (14%) 21 (42%) 43% 14% 43% オレンジ色で囲っている部分は全半壊率を表す 非常に古いやや古い 古い新しい 全壊一部損壊 半壊無被害 図 7 高床木造建物の建築年代の割合および建築年代ごとの被害レベルの割合 71% 29% 12 (16%) 7 (9%) 25 (33%) 24% 4% 72% 75% 8% 17% 32 (42%) 34% 19% 16% 31% オレンジ色で囲っている部分は全半壊率を表す 非常に古いやや古い 古い新しい 全壊一部損壊 半壊無被害 図 8 非高床木造建物の建築年代の割合および建築年代ごとの被害レベルの割合 - 52 -

図 7 8 より 高床式になっている建物は比較的新しいものが多く 逆に高床式でないものは古いものが多いことがわかる 建物年代別に被害を見ると 建築年代が非常に古い非高床木造建物の全半壊率は 96% と非常に高く 古い やや古い木造建物での高床 非高床の全半壊率を比較しても非高床の方の全半壊率が高い しかし 新しい木造建物については逆に高床の方が全半壊率は高くなっているため 高床であることと被害との関連性は薄いと考えられる 以上のことから 高床であるから耐震性が高いと一概には言えず 高床建物の被害が少なかったのは 新しい建物が多かったからであると考えるべきであろう 次に瓦屋根の有無と被害レベルの関係を探るため 瓦屋根である木造建物 ( 以下 瓦屋根木造建物 ) と瓦屋根でない木造建物 ( 以下 非瓦屋根木造建物 ) の被害レベルの割合を図 9 に示す 両者を比較すると 瓦屋根建物の 52% が全壊 19% が半壊であり 非瓦屋根木造建物に比べて大きな被害の割合が高いことがわかる 瓦屋根についても建築年代との関係を探るため 瓦屋根木造建物での建築年代ごとの被害レベル割合を図 10 に 非瓦屋根木造建物での建築年代ごとの被害レベル割合を図 11 に示し 年代ごとの全半壊部分をオレンジで囲ってある 14 6 (29%) 11 (52%) 41 (39%) (13%) 18 (17%) 4 (19%) 32 (30%) 全壊一部損壊 半壊無被害 全壊一部損壊 半壊無被害 (a) 瓦屋根木造建物 図 9 被害レベルの割合 (b) 非瓦屋根木造建物 - 53 -

2 (9%) 10% 10% 80% 50% 50% 9 (43%) 10 (48%) 45% 22% 33% 全壊一部損壊 半壊無被害 オレンジ色で囲っている部分は全半壊率を表す 非常に古いやや古い 古い新しい 図 10 瓦屋根木造建物の建築年代ごとの被害レベルの割合 72% 7% 21% 29 (27%) 15 (14%) 33% 67% 35% 3% 10% 52% 31 (30%) 30 (29%) 30% 33% 10% 27% オレンジ色で囲っている部分は全半壊率を表す 非常に古いやや古い 古い新しい 全壊一部損壊 半壊無被害 図 11 非瓦屋根木造建物の建築年代ごとの被害レベルの割合 図 10 図 11 から瓦屋根木造建物のほとんどは 非常に古い 古いものだといえる 逆に非瓦屋根木造建物は 非常に古い を除く各年代で棟数がほぼ均等にある また 非常に古い木造建物は瓦屋根の有無に関係なく全半壊率が高く 古い やや古い木造建物に関しても瓦屋根建物の方が全半壊率が高いことがわかる しかし やや古い瓦屋根木造建物に該当するものは 2 棟しかなく 検討するにあたって十分な棟数とはいえない ただ 瓦屋根木造建物で無被害のものは 1 棟もなかったことから 瓦屋根の重量が要因となって非瓦屋根木造建物よりは何らかの被害を受けやすくなっているということは言えるだろう 5. 建物被害レベルと応急危険度の対応性 被害調査の際には 大部分の建物に応急危険度判定のステッカーが貼られていた 応急危険度判定とは 危険 要注意 調査済 の 3 段階で危険度が表されるものである 5) 応急危険度判定の分布図を図 12 に示す ただし ステッカーが確認されなかったものの中で明らかに全壊しているものは 危険 とし その他については不明とした - 54 -

図 12 応急危険度の分布 応急危険度判定結果と構造的な被害を対象としている被害レベルの対応性を検討するため 応急危険度の割合 および 応急危険度ごとの被害レベルの割合を図 13(a) に示す また 応急危険度と被害レベルの対応関係を表 3(a) に示す 応急危険度 危険 に対応する被害レベルを 崩壊 大破 全壊 要注意 に対応するのを 中破 小破 半壊 一部損壊 被害軽微 調査済 に対応するのを 無被害 とすると ( 図 13(a) でオレンジで囲んだ部分 表 3(a) でオレンジで塗った部分 ) 要注意 の対応率は 87%(37+50) 調査済 の対応率は 86% とかなり対応が良いといえるが 危険 の対応率は 62% と低くなっている その原因としては応急危険度判定の定義が 破壊が人命に危険を及ぼす度合い であることから 危険 と判定される要因として 隣接建築物 周辺地盤に関する危険度や 屋根瓦などの落下危険物 転倒危険物に関する危険度なども含まれることが考えられる そこで 構造的な被害以外の要因で 危険 と判定されているものは 要注意 と修正した応急危険度の割合 および 応急危険度ごとの被害レベルの割合を図 13(b) に示す また 応急危険度と被害レベルの対応関係を表 3(b) に示す その結果 危険 の対応率は 90% となり 応急危険度判定と被害レベルは構造的な被害に対して十分対応していることがわかる よって 応急危険度判定は 構造的な被害以外の要因で 危険 と判定されているものを 要注意 と修正すれば 危険 は 崩壊 大破 全壊 - 55 -

要注意 は 中破 小破 半壊 一部損壊 被害軽微 に 調査済 は 無被害 にほぼ対応し 建物被害レベルを判定するのに十分な参考になる資料となることがわかる 86% 14% 49 (33%) 42 (28%) 17% 17% 4% 62% 崩壊 大破 全壊 被害軽微 一部損壊 中破 小破 半壊 無被害 29 (19%) 30 (20%) 50% 13% 37% 危険 要注意 調査済 不明 (a) 修正前 14% 49 (33%) 29 (19%) 10% 90% 86% 29 43 (29%) 51% 14% 35% 崩壊 大破 全壊 中破 小破 半壊 (19%) 被害軽微 一部損壊 無被害 危険要注意調査済不明 (b) 修正後図 13 応急危険度の割合および応急危険度ごとの被害レベルの割合 オレンジ色で囲っている箇所は応急危険度と被害レベルが対応している部分 (a) 修正前 表 3 応急危険度ごとの被害レベルの割合 (b) 修正後 崩壊 大破中破 小破一部損壊 全壊 半壊 被害軽微 無被害 危険 62 17 17 4 要注意 0 37 50 13 調査済 0 0 14 86 ( 単位 %) 崩壊 大破中破 小破一部損壊 全壊 半壊 被害軽微 無被害 危険 90 10 0 0 要注意 0 35 51 14 調査済 0 0 14 86 ( 単位 %) オレンジ色の箇所は応急危険度と被害レベルが対応している部分 - 56 -

6. 建物被害と強震記録との対応性 建物被害と強震記録との対応性を検討するため 川口町震度計に加え 2004 年新潟県中越地震においおいて被害調査を行った 6) 他の観測点での計測震度などの地震動強さ指標 被害状況を表 4 に示す 被害レベルは観測点周辺の被害調査結果を基に 文献 7) の木造建物全壊率 半壊率による震度の被害関数 および一部損壊については文献 3) の震度の被害関数を参考にして判断した 弾性加速度応答スペクトル ( 減衰定数 5% 水平 2 方向ベクトル合成 ) を図 14 に示す 図 14(a) には調査を行った全ての観測点でのスペクトルを示すが 川口町のスペクトルは他の観測点と比べて 1 秒以下の値はさほど大きくなく 建物に大きな被害をもたらす 1-2 秒 7) に大きなパワーを持っていて他のものと破壊力が全く異なることがわかる さらに 図 14(b) には過去に発生した被害地震での強震記録のスペクトルを示すが 川口町震度計の 1-2 秒応答は 1995 年兵庫県南部地震の JR 鷹取や葺合のそれとほぼ同等のレベルであることがわかる 表 4 には提案する算定法による震度 7) も示す これは 震度の大きさによって変化する対象に応じて 震度算出の基になる地震動の周期帯を変化させたものであり 例えば 震度 6 弱以上の高震度では式 (1) に示すように 1-2 秒の周期帯を基にして算出される I 1 2 = 2.171* log( V1 2) + 1.002 (1) I 1-2 : 1-2 秒震度 V 1-2 : 1~2 秒の平均弾性速度応答 ( 減衰定数 5%, 水平 2 成分ベクトル和,cm/s) 表 4 を見ると提案震度は他の指標と比べて実際の被害との対応が良いことがわかる また 川口町震 度計周辺の木造建物の全壊率は 20% であり それを震度 7 が設定された福井地震当時の倒壊率に換算 するとほぼ 30% に対応しており 8) 被害レベルは震度 7 相当だといえる 表 4 調査を行った観測点での地震動強さ指標と被害状況 観測点 地震動強さ指標 被害 木造建物 計測震度 PGA PGV 提案震度レベル 被害状況 川口町震度計 6.51 1667.9 144.7 6.61 7 家屋の20% 程度が全壊 K-NET 小千谷 6.73 1500.7 133.4 6.29 6 弱 全壊建物数棟 JMA 小千谷 6.33 973.3 93.6 6.03 6 弱 全壊建物数棟 K-NET 十日町 6.19 1746.5 65.6 5.24 5 強 軽微な被害数棟 K-NET 長岡支所 6.10 912.0 71.4 5.75 6 弱 軽微な被害多数 KiK-net 加茂 5.65 412.0 28.8 5.32 5 強 軽微な被害数棟 K-NET 小出 5.54 639.3 39.7 5.02 5 強 軽微な被害数棟 JMA 長岡 5.49 424.6 38.3 4.93 5 強 軽微な被害数棟 K-NET 長岡 5.50 542.7 51.0 4.93 5 強 軽微な被害数棟 JMA 六日町 5.44 153.0 27.8 4.97 5 強 軽微な被害数棟 十日町市震度計 5.92 1339.7 58.3 5.39 6 弱 軽微な被害多数 中里村震度計 5.96 768.8 71.9 5.65 5 強 軽微な被害数棟 栃尾市震度計 5.49 1012.3 34.2 5.25 5 強 軽微な被害やや多い 小出市震度計 5.20 371.7 27.3 5.04 5 強 軽微な被害数棟 PGA: 地動最大加速度 (cm/s 2 ),PGV: 地動最大速度 (cm/s) - 57 -

7. まとめ 川口町震度計周辺半径 200m 内の建物のうち地盤被害 基礎の被害を除いた強震動による上部構造の被害を対象として調査を行った その結果 以下のことがわかった 18% の建物が全壊あるいは大破しており 木造建物に限定すると 20% が全壊という被害を生じていた これは 福井地震当時の倒壊率に換算するとほぼ 30% に対応しており 被害レベルは震度 7 相当といえる 全壊した建物のほとんどは非常に古い住宅や 1 階の剛性が低い店舗などであった 被害レベルと高床式木造建物 木造建物における瓦屋根の有無の関係性を分析した結果 瓦屋根の有無は被害と関係があるといえるが 高床の有無と被害との関係があるとは一概に言えない 応急危険度判定については 構造的な被害以外の要因で 危険 と判定されているものを 要注意 と修正すれば 危険 は 崩壊 大破 全壊 要注意 は 中破 小破 半壊 一部損壊 被害軽微 に 調査済 は 無被害 にほぼ対応し 建物被害レベルを判定するのに参考となる資料になることがわかった 川口町震度計で観測された地震動は 他の観測点に比べて建物の大きな被害を引き起こす 1-2 秒にパワーをもっており そのレベルは 1995 年兵庫県南部地震の JR 鷹取や葺合の強震記録に匹敵するものである 弾性加速度応答 (cm/s 2 ) 6000 5000 4000 3000 2000 1000 K-NET 十日町 K-NET 小千谷 JMA 小千谷川口町震度計 震度 7 震度 6 強震度 6 弱震度 5 強 弾性加速度応答 (cm/s 2 ) 6000 5000 4000 3000 2000 1000 K-NET 十日町三陸南 JMA 大船渡 JMA 小千谷兵庫県南部葺合川口町震度計兵庫県南部 JR 鷹取 0 0 1 2 3 4 5 周期 ( 秒 ) (a) 調査した観測点全て 0 0 1 2 3 4 5 周期 ( 秒 ) (b) 既往の強震記録との比較 図 14 弾性加速度応答スペクトル ( 減衰定数 5% 水平 2 方向ベクトル合成 ) 謝辞強震記録は防災科学技術研究所 JR 総合技術研究所 大阪ガス 気象庁より提供していただきました 被害調査の際 現地の方々には被災されていたにもかかわらず 様々なご協力をいただきました 気象庁計測震度を求めるプログラムは 参考文献 9) の巻末のリストを基に早稲田大学山田真氏 中村操氏らがコーディングし東京電力植村富一氏が修正したものに手を加えて使わせていただきました 参考文献 1) 気象庁ホームページ http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/kyoshin/jishin/041023_niigata/1756/nigata_main.htm - 58 -

2) 2004 年 10 月 23 日新潟県中越地震災害調査報告 日本建築学会 2006 年 8 月 pp.23. 3) 岡田成幸 高井伸雄 : 地震被害調査のための建物分類と破壊パターン 日本建築学会構造系論文集 No.524 1999 年 10 月 pp.65~72. 4) 1978 年宮城県沖地震災害調査報告 日本建築学会 1980 年 2 月 pp.142. 5) 全国被災建築物応急危険度判定協議会ホームページ ( 財 ) 日本建築防災協会 http://www.kenchiku-bosai.or.jp/jimukyoku/oukyu/oukyu.htm. 6) 境有紀 小杉慎司 大月俊典 中村友紀子 : 強震動と建物被害 平成 16 年新潟県中越地震被害調査報告会梗概集 日本地震工学会 2004 年 12 月 pp.27~34. 7) 境有紀 神野達夫 纐纈一起 : 震度の高低によって地震動の周期帯を変化させた震度算定法の提案 日本建築学会構造系論文集 第 585 号 2004 年 pp.71~76. 8) 諸井孝文 武村雅之 :1995 年兵庫県南部地震による気象庁震度と住家全壊率の関係 地震 2 第 52 巻 1999 年 pp.11~24. 9) 気象庁 : 震度を知る基礎知識とその活用 ぎょうせい 1996. ( 受理 :2006 年 6 月 13 日 ) ( 掲載決定 :2007 年 3 月 29 日 ) Analysis of Damage to Buildings around Seismic Intensity Meter at Kawaguchi, Kawaguchi-machi in the 2004 Niigataken-Chuetsu Earthquake and Correspondence of Structural Damage to Strong Motion Records OTSUKI Toshinori 1),SAKAI Yuki 2) and KOSUGI Shinji 3) 1) Student Member, Graduate Student, Graduate School of Systems and Information Eng., Univ. of Tsukuba 2) Member, Assoc. Prof., Graduate School of Systems and Information Eng., Univ. of Tsukuba, Dr Eng 3) Student Member, Graduate Student, Graduate School of Systems and Information Eng., Univ. of Tsukuba ABSTRACT In the 2004 Niigataken-Chuetsu Earthquake which occurred on October 23, 2004, the seismic intensity scale 7 was recorded at Kawaguchi, Kawaguchi-machi for the first time since the introduction of seismic intensity meters in 1996. We investigated damage to buildings around the seismic intensity meter. We found many heavily damaged buildings, especially for old wooden houses. Heavily damage rate of the buildings was approximately 18%. We analyzed relationship between damage levels of buildings and structure types, usage of buildings, age of buildings, raised floors or not, tiled roofs or not and post-earthquake quick inspection, using the results of our investigation. Elastic response in the period range of 1-2 sec. which closely related to heavy building damage from the recorded strong ground motion was very large. Therefore, we confirmed correspondence of elastic response in the range of 1-2 sec. to the actual building damage. Key Words: The 2004 Niigataken-Chuetsu Earthquake, Strong ground motions, JMA Seismic intensity scale, Damage to Building, Strong ground motion observation point - 59 -