第 23 回全国カトリック学校校長 教頭合同研修会 ( 分科会 ) 神経発達症 ( 発達障害 ) の特性をもつ児童 生徒を活かす関わり 2014 年 6 月 27 日 黒沢幸子 目白大学 /KIDS カウンセリング システム 1
第 23 回全国カトリック学校校長 教頭合同研修会 ( 分科会 ) 総論 神経発達症 ( 発達障害 ) 2
発達障害から神経発達症へ DSM-5(2013):19 年ぶりの改定 DSM-Ⅳ-TR(2000) DSM-Ⅳ(1994) 精神障害の診断 統計マニュアル 第 5 版 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) ( アメリカ精神医学会 : APA) DSM-5 病名 用語翻訳ガイドライン ( 初版 ) 日本精神神経学会ほか (2014.5.29) 3
神経発達症 ( 発達障害 ) とは? 先天的な脳機能の障害 ( 生まれながらの脳の特性 ) により 何らかの発達の遅れが認められるもの 生育環境による発達の遅れではない 一時期発達の遅れは認められるが 発達しない障害なのではない 神経発達症は 適切なかかわりによって より良く発達する! 4
神経発達症 ( 発達障害 ) 知的能力障害群精神遅滞 (IQ70 以下 ) 限局性学習症 (SLD) (/ 限局性学習障害 ) 自閉スペクトラム症 (ASD) (/ 自閉症スペクトラム障害 ) 学習障害 (LD) 広汎性発達障害 (PDD) アスペルガー症候群 高機能自閉症 注意欠如 多動症 (AD/HD) 注意欠陥多動性障害 (/ 注意欠如 多動性障害 ) その他 : 吃音 発達性協調運動症 チック症等
軽度発達障害の割合 図知的発達に遅れはないが 学習面 行動面の各領域で著しい困難を示すと担当教師が回答した児童生徒の割合 ( 文部科学省 2002) 6.3% A : 聞く 話す 読む 書く 計算 推論 に著しい困難を示す B : 不注意 多動性- 衝動性 の問題を著しく示す C : 対人関係やこだわり等 の問題を著しく示す 6
基本的な留意点 個性はそれぞれだが その子どもごとに活用できる能力がある 長所を伸ばし 特性に応じた対応 が指導の基本! 適切な配慮のもとでは 充分に就労し社会的な自立を成し遂げられる 7
困ったときの対処方法 子どもの個性 障害を理解する 子どもの苦手な刺激や状況を避け 分かりやすい環境を作る 問題が起きた場合 状況を原因から順序だてて把握し 迅速に対応する パニックが起きた場合 まず興奮を下げ 落ち着かせる その後 本人とどうすれば落ち着くのかを 話し合う 8
保護者への対応の原則 信頼関係を築く 保護者の気持ちを受け止める 本人を伸ばす対応をともに考える 9
第 23 回全国カトリック学校校長 教頭合同研修会 ( 分科会 ) LD 神経発達症 ( 発達障害 ) 10
わが国における LD 学習障害 Learning Disorders:LD とは? 全般的な知的発達に遅れはない 聞く 話す 読む 書く 計算 / 推論する能力のうち 特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態 LD の原因として 中枢神経系に何らかの機能障害があると推定される 視覚 聴覚 知的 情緒などの障害や 環境的な要因が直接の原因となるものではない ( 文部科学省協力者会議,1999) 11
LD の特徴 知的障害には該当せず (IQ70~75 以上 ) 全般的な知的面での遅れはないものの 1 つ ~2 つ以上の特定の分野において 特異な困難を持っている < 例 > 読字障害 : 聴いて理解できるのに 教科書や板書の字を読んで理解することは困難 LD は症候群 ( いろいろな原因でいくつかの症状が集まり ある特徴的な病像が作られる ) で あり 個々の LD 児たちが抱える困難は多様である 13
困難の合併 中核症状ではないとの考えで 定義からはずれたものの LDは 他に下記の様な困難を併せ持つことが多いとされる (1) 社会性の困難 (2) 運動の困難 (3) 注意集中 多動による困難 14
LD 理解のために LD とは 通常 Learning Disabilities の略 LD という言葉は 限定的に使われるべき 文部科学省の定義がめやす 行動 対人関係 情緒の問題まで含めない LD 指導 は 学習支援 あるいは 言語療法 個別の学習プログラムが必要 LDの予後は 発達障害のなかで 最も良い 15
LD 対応の基本 まずは 視覚障害や聴覚障害の存在を 除外しておくこと 急激な焦点距離移行の困難は見逃されやすい 学習のつまずきの大元がどこにあるのか を確定する その部分を乗り越えるための工夫を施す
LD 児への教育的対応 気づき : 子どもは何に困っているのか? 教師自身は何に困っているのか? 具体的な取組み : 担任 同僚教師 管理職 特別支援教育担当教師 外部専門家などが チームとなる 相談し合いながら 個別支援計画 を作る 学校全体で支えていく 17
指導上の配慮事項 自信や意欲を失わないように できないことをできるようにする / できないことと共存する 指導の基本と実際 (1) 実態の把握 (2) 指導の実施 場と人での 役割分担による援助 学級内 : 子どもができること 得意な部分を活用して学習に参加できるようにする 保護者と学校との協力 意見 情報交換を重ね よい人間関係を築く 18
第 23 回全国カトリック学校校長 教頭合同研修会 ( 分科会 ) 自閉スペクトラム症 神経発達症 ( 発達障害 ) 19
自閉スペクトラム症 :ASD 先天性脳機能障害のより 自閉的特徴 を呈する 自閉的特徴とは A. 社会的コミュニケーションまたは社会的 相互作用の欠陥 ( 基準 A) B. 行動 興味 または活動の限局的 反復 的様式 ( 基準 B) DSM-5 で 小児期崩壊性障害 アスペルガー障害などの下位分類が廃止 ASD と注意欠如 多動症 (ADHD) の併発を認める
基準 A(DSM-5) A. 社会的コミュニケーション および社会的 相互作用の欠陥 ( 文脈に関わらず持続的に存在 )(3 つすべて ) 1. 社会 - 情緒的相互性の欠陥 < 例 > 異常な社会的近づき方 会話の普通のやり取りの失敗 ~ 興味 情緒 感情を共有の欠乏 社会的相互作用の開始や反応の欠如 2. 社会的相互作用での非言語的コミュニケーションの欠陥 < 例 > 言語と非言語的コミュニケーションの統合の貧困 ~ アイコンタクトやボディランゲージの異常 身振りの理解と使用の欠陥 完全な欠如 3. 対人関係の発達 維持 理解の欠陥 < 例 > 様々な社会的文脈に見合う行動調整の困難 ~ 想像的遊びの共有や友達を作ることの困難 仲間への関心の欠如 重症度を レベル 1 ( 要支援 )~ レベル 3 ( 要大量支援 ) で評価
基準 B(DSM-5) B. 行動 興味 活動の限局的 反復的様式 (2 項目以上 ) 1. 常同的 反復的な動き 物の使用 会話 < 例 > 単純な常同運動 玩具を並べたり物をはじく 反響言語 特異な言い回し 2. 同じ繰り返しへの強い主張 手順への柔軟性のないこだわり 言語 非言的行動の儀式化様式 < 例 > 小さな変化への過剰な不快感 移行の困難 頑なな思考様式 儀式的挨拶 同じ道順をたどったり毎日同じ食物を食べる 3. きわめて限定的で 固定化された関心 その強度 焦点において異常 < 例 > 物に対する普通でない強い愛着 没頭 過剰に制限された 固執的な関心 4. 感覚刺激に対する過剰または乏しい反応性 環境の感覚的側面への普通でない関心 < 例 > 痛み / 温度に対する明らかな無関心 特定の音または肌触りに対する逆反応 過剰に物を嗅いだり触わる 光や動きへの魅了 重症度を レベル 1 ( 要支援 )~ レベル 3 ( 要大量支援 ) で評価
ASD の有病率と性差 近年増加傾向 各国の報告では ASDの有病率は1% に達する 増加の理由については詳細は不明 男女比は 4:1
ASD の併発症 ASD の約 70% は 1 つの他の精神障害を併発 ASD の 40% は 2 つ以上の他の精神障害を併発 ADHD と ASD の基準を共に満たす場合 重複診断 発達性協調運動症 不安症 抑うつ障害 他との併発 限局性学習困難 ( 文字および数字 ) と発達性協調運動症はよく併発 よく認められる他の状態 : てんかん 睡眠問題 便秘 偏食
高機能とは? 知的障害を伴わないもの (IQ>70) 自閉度が軽いという意味ではない 近年 高機能の存在が多く発見されるようになり 自閉症のうち6 割は高機能であるとする報告もある
アスペルガー障害 ( 症候群 )(DSN-Ⅳ) A. 対人的相互反応の質的な障害 B. 行動 興味および活動の 限定的 反復的常同的な様式 C. 社会的 職業的 その他の重要な領域における機能の障害 D. 著しい言語の遅れがない E. 認知の発達 年齢相応の自己管理能力 ( 対人関係以外の ) 適応能力 および小児期における環境への好奇心について明らかな遅れがない アスペルガー障害は 定義上すべて高機能 ( 知的障害を伴わないもの ;IQ>70) 28
自閉症スペクトラムの認知特性 注意や関心の向けられる範囲が極端に狭い ( スポットライト / サーチライト認知 ) 人 や 状況 に注意が向けられることは少なく 注意は主に 物 に向けられる 感覚モニター能力が低い きわめてパターン化されている 変化 や 新しいもの に対応できない 楽しめない デジタル思考で アナログ思考ができない 道具的相互作用 はできるが 体験共有的相互作用 ができない 絶対的 ( 固定的 ) 思考であり 相対的 ( 文脈的 ) 思考が 29 できない 健常児にも一般化!?
自閉症スペクトラムへの対応 個別対応の時間をたっぷりとる 視覚的サインを用いる こだわり行動に対して すぐにやめさせようとはせず 少しずつ変えていく 空間の構造化 時間の構造化 ( スケジューリング ) リハーサル 行為を完成させてから 言葉を与える 32
対人的相互反応における質的な 障害に対応するためには 1 非言語的コミュニケーションを発達させること 2 人と一緒にいて何かすることを 楽しい と感じられるようになること 3 周囲の人々の様子を観察 察知 ( 参照 ) できるようになること 4 周囲の人々の様子を参照して それに合わせられるようになること 5 変化を楽しめるようになること 6 グレーゾーン を認められるようになること 7 相対的 / 文脈的評価ができるようになること 33
第 23 回全国カトリック学校校長 教頭合同研修会 ( 分科会 ) AD/HD 神経発達症 ( 発達障害 ) 34
注意欠如 / 多動症 Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder(AD/HD) 不注意 多動性 および 衝動性 を顕著に示す 何らかの中枢神経系の機能障害をもつ先天的障害 12 歳以前からその傾向が認められる 複数の状況において障害が存在する 有病率は 子ども :5% 成人 :2.5% 性比は 子どもで男 : 女 =2:1 成人で 1.6:1 女性においては不注意優性型が目立つ 35
AD/HD 不注意 注意を一点に持続的に向けることが困難 様々なところに注意が転導する ( 以下 6 項目以上 ) (17 歳以降は 5 項目 ) (a) 活動においてしばしば不注意な間違いをする (b) 課題または遊びで注意を集中し続けることが困難 (c) 話しかけられたとき しばしば聞いていないように見える (d) しばしば指示に従えず 活動をやり遂げられない (e) 課題や活動を順序立てることが困難 (f) 努力の持続を要する課題を避ける 嫌う (g) しばしば物をなくす (h) 外からの刺激によって すぐに気が散る (i) しばしば日々の活動を忘れてしまう 36
AD/HD 多動性- 衝動性 多動性 a. 手足をそわそわする 椅子の上でもじもじする b. しばしば席を離れる c. しばしば走り回ったり 高い所に登ったりする d. 静かに遊ぶことができない e. じっとしていない f. しばしばしゃべりすぎる 衝動性 g. 質問が終わる前に出し抜けに答え始める h. 順番を待つことが難しい i. 会話やゲーム中などで他人の妨害 邪魔をする (6 項目以上 17 歳以降は5 項目 )
ADHD の認知特性 周囲からの刺激に対し 次々と反応する ( 注意の転導性の亢進 ) 特に身体的刺激 対人的刺激に敏感 手順を考えて動くことが苦手 パターン化されにくい 物よりも 人に対する関心が強い 目立つのが好き
AD/HD への対応 薬物療法 ( 中枢刺激薬 ; コンサータ ) AD/HDの認知的特徴に合わせた対応 行動療法的対応 自尊感情 自己効力感を高める関わり リソース ( 資源 資質 得意なところ ) 例外 ( 問題が起こらないですんだ時 ) 成功の責任追及 * 問題の 外在化 例 ) イライラ虫 そわそわ君 健全なコミュニティの中で過ごさせる AD/HDの うつ に注意 39
AD/HD の認知的特徴に 合わせた対応 刺激の絶対量を減らす 席を最前列へ 教室前壁にはなるべく物や掲示は控える 場合によっては取り出しも 口頭での指示はしばしば無効 視覚に訴える 落ち着かせる触感をもったものを探す 目立ちたがり 傾向を活用する 40
AD/HD 理解の基本姿勢 AD/HD の特徴を理解し それによるハンディキャップ ( 日常生活での支障 ) を軽減することで AD/HD 的症状は ひとつの個性になる 一つのことに集中できない 多くのことに興味を持てる 同時にいくつもの仕事をこなせる 衝動的とは 実行力と行動力があると言える * 大切なことは 周囲の理解ある言葉かけによる本人の自信喪失の防止 41
学校での対応 落ち着きの無さはあって当然という前提で対応 (1) 刺激を少なくすること * 教示は簡潔に 視覚化 一貫したルール (2) 時間を統制する (3) 多動性の統制 (4) 自尊心の向上 維持 (5) 注意 叱責の工夫 * 回数は少なく 簡潔に叱る このやり方はよくなかった 今度はこうすればよい と伝える 42
AD/HD への行動療法的対応 家族 園 学校職員間における 一貫した対応 方針 指導の方向性を共有しておくこと 個別対応における 一貫した対応 絶対許されない行動 断固たる対応 減らしたい行動 無視 増やしたい行動 肯定的注目を与える ほめる 悪いことをした 本人が損をする 良いことをした 本人が得をする 43
制限の設定 効果的な5 段階のアプローチ ( 米国 CPIプログラムより ) 1どの行為が不適切であるかを説明する 2なぜその行為が不適切なのかを説明する 3 結果を伴う理に適った選択肢を与える 4 時間を与える 5 設定した結果を実行する 44
前頭葉の機能とは 人間の前頭前野には 1. 思考する 2. 行動を抑制する 3. コミュニケーションする 4. 意思決定する 5. 情動の制御をする 6. 記憶のコントロールをする 7. 意識 注意を集中する 8. 注意を分散するなどの働きがある
AD/HD の薬物療法 1 精神刺激薬メチルフェニデート ( コンサータ ) アンフェタミン ( 覚醒剤 ) の誘導体 子どもの AD/HD に対するメチルフェニデートは 比較的安全な薬物である ( 依存形成が起こりにくい ) 薬物療法はためらわれるべきではない コンサータの作用時間は 12 時間程度朝食後 1 回の服用 副作用不眠 ( 夜は飲ませない ), 食欲減退 ( 長期休み中は中止 ), いらいら, 不安, チック 中止
メチルフェニデート
AD/HD の薬物療法 2 その他の精神刺激薬 モダフィニル ( モディオダール ) ヒスタミン H1 受容体刺激 メチルフェニデートに比べ 効果は持続性で軽い 依存性が少ない アトモキセチン ( ストラテラ ) ノルアドレナリン再取り込み阻害 効果は弱いが 依存性がほとんどないため 使用登録が必要ない 薬物療法は AD/HD の根本療法ではない 生活療法の併用
50
リソース ( 資源 資質 ) を見出す リソース : 既にそこに有るもの 無からは何もつくれない 内的リソース ( 能力 / 特技 / 興味 / 関心 / 売り / 容姿 ) 外的リソース ( 友人 / 先生 / 家族親戚 / 宝物 / ペット ) が 問題 できる 能力 問題 の周辺に 能力 がある リソース 51
例外 < 第 1 ステップ > 例外 への注目 1 問題が起こらないですんだとき 2ほんの少しでもうまくいっていること やれたこと ましなこと 3 既に起こっている良い状態 ( 解決 ) の一部 52
< 第 2 ステップ > 成功 ( 例外 ) の責任追及 どうやって それをやったの? どうしてそれができたの? すごいね それはあなたのどんな力が役に立ったの? = 本人の 手柄 にする肯定的なサインを送る 53
< 第 3 ステップ > 肯定的なサインを送る ほめる 賞賛する 労をねぎらう 励ます 親 ( 専門家 ) の立場からできていることを評価する = リソースを肯定的に伝え示す 54
良い目標作りの 3 条件 大きなものではなく 小さなもの 抽象的なものではなく 具体的なもの 否定形ではなく 肯定形で語られる行動 成功体験 55