B 農場は乳用牛 45 頭 ( 成牛 34 頭 育成牛 7 頭 子牛 4 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 例年 BCoV 病ワクチンを接種していたが 発生前年度から接種を中止していた 自家産牛の一部で育成預託を実施しており 農場全体の半数以上の牛で移動歴があった B 農場

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A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

Taro-H23.08


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Taro-19増田

Taro-H28.11

参考1中酪(H23.11)

12 牛白血病対策のため考案したアブ防除ジャケットの実用化試験 東青地域県民局地域農林水産部青森家畜保健衛生所 菅原健 田中慎一 齋藤豪 相馬亜耶 水島亮 林敏展 太田智恵子 森山泰穂 渡部巌 小笠原和弘 1 概要わが国では近年 牛白血病の発生が増加しているが その原因である牛白血病ウイルス (BL

Taro-H26-01○【差替】 (佐藤)

第 3 節水田放牧時の牛白血病ウイルス対策 1. はじめに水田放牧のリスクの一つとして, 感染症があります 放牧場で広がりやすい牛の感染症の中でも, 牛白血病は近年わが国で非常に問題となっています この節では, 牛白血病の概要説明とともに, 水田放牧を行う際に取るべき牛白血病対策について紹介します

Taro-H23.10

2 被検材料逆転写反応は AI ウイルス陽性 RNA(H3 H5 H7eu H7am) を鋳型とし 酵素に M-MuLV Reverse Transcriptase プライマーに Random 6 mers を使用し相補鎖 DNA( 以下 cdna) を合成した 反応条件は 37 で 15 分 85

地域における継続した総合的酪農支援 中島博美 小松浩 太田俊明 ( 伊那家畜保健衛生所 ) はじめに管内は 大きく諏訪地域と上伊那地域に分けられる 畜産は 両地域とも乳用牛のウエイトが最も大きく県下有数の酪農地帯である ( 表 1) 近年の酪農経営は 急激な円安や安全 安心ニーズの高まりや猛暑などの

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 宮崎FMDマニュアル⑦ 指針別紙(評価)

る 飼料は市販の配合飼料を使用している 発生場所である肥育豚舎エリアの見取り図を図 1に示した 今回死亡豚が発生したのは肥育舎 Aと肥育舎 Dで 他の豚舎では発生していないとの事であった 今回病性鑑定した豚は黒く塗りつぶした豚房で飼育されていた なお この時点では死亡例は本場産の豚のみで発生しており

られる 3) 北海道での事例報告から 100 頭を超える搾乳規模での発生が多かった (33 例 82.5%) 冬から春にかけての発生がやや多い傾向 2006 年は 9 例 2007 年は 6 例が発生 全道的にも増加していると推察された 発生規模は 5~20% と一定で 搾乳規模に相関しなかった 発

スライド 1

マイコプラズマについて

成 21~22 年にかけて農林水産省の委託事業において動物衛生研究所 ( 現農業 食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門 ) が中心となり, 約 30 年ぶりに BLV 浸潤状況に関する全国調査を実施した. 本調査では, 移行抗体が消失する 6ヶ月齢以上の乳用牛 11,113 頭, 肉用牛 9,7


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★1-8

最近の動物インフルエンザの発生状況と検疫対応

表 症例 の投薬歴 牛 8/4 9 月上旬 9/4 9/5 9/6 9/7 9/8 9/9 3 Flu Mel TMS Flu Mel Flu Mel Flu 体温 :39.0 体温 :38.8 : エンロフロキサシン Flu: フルニキシンメグルミン Mel: メロキシカム : ビタミン剤 TMS

黒毛和種の受動免疫による呼吸器病ワクチネーション効果と飼養管理 現場では時間的 労力的な制約から十分実施されることは少なく断続的に発生する呼吸器病の対応に苦慮する事例が多い また 黒毛和種は乳用種に比べ幼齢期の免疫能が劣る [5] のに加え ロボットでは運動量増に伴う栄養要求量の増加 闘争によるスト

主な内容 腸管出血性大腸菌とは 2 肉用牛農場における全国的な保有状況調査 3 継続的な保有状況調査 4 乳用牛農場における STEC O7 及び O26 保有状況調査 5 消化管内容物 肝臓 胆汁調査 2

13 プール法 県北 藤井

Taro [県・動検版] Schmall

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

家畜衛生ニュース-中央

埼玉県調査研究成績報告書 ( 家畜保健衛生業績発表集録 ) 第 57 報 ( 平成 27 年度 ) 9 牛白血病ウイルス感染が生産性に及ぼす影響 中央家畜保健衛生所 畠中優唯 Ⅰ はじめに牛白血病は散発性と地方病性 ( 成牛型 ) の2つに分類される 牛白血病ウイルス (BLV) 感染を原因とする地

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★家畜衛生だより第124号 原稿 30.8.3(写真等修正).docx

Microsoft Word 表紙

H28年度 業績発表会抄録

Title 日本における牛白血病ウイルスの浸潤状況と伝播に関する疫学的研究 ( 本文 (Fulltext) ) Author(s) 小林, 創太 Report No.(Doctoral Degree) 博士 ( 獣医学 ) 乙第 139 号 Issue Date Type 博士

Ⅰ 本ガイドラインの目的及び位置付け牛白血病のうち牛白血病ウイルス (bovine leukemia virus 以下 BLV という ) により引き起こされる地方病性牛白血病 ( 以下 本病 という ) は 近年 我が国での発生が増加しており 生産現場での被害も増加傾向にある このガイドラインは

演題番号3_土合理美_修正

ウルグアイからの生鮮牛肉の輸入に係るリスク評価報告書 ( 案 ) 概要 平成 30 年 3 月 22 日消費 安全局動物衛生課 Ⅰ 経緯 1. ウルグアイは かつては口蹄疫非接種清浄国として OIE に認定されていたが 2000 年の口蹄疫の発生を受け ワクチン接種による防疫手法に切り替え 2003

(Microsoft Word -

はじめに 家畜保健衛生所が実施する事業 検査 調査等の業績は 各都道府県及びブロックで毎年度開催される家畜保健衛生業績発表会で発表 討議されている この全国家畜保健衛生業績抄録は 各都道府県の平成 24 年度の発表会の抄録を編集したものであり 発表された全ての演題が収載されている 抄録の配列は家畜別

Microsoft Word - 20消石灰(下痢症)

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豚繁殖 呼吸障害症候群生ワクチン ( シード ) 平成 24 年 3 月 13 日 ( 告示第 675 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した弱毒豚繁殖 呼吸障害症候群ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を凍結乾燥したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株

2. マイコフ ラス マ性中耳炎子牛の中耳炎原因の 70% 以上は マイコフ ラス マ ホ ヒ スである 3 から 6 週令に発症が多く 3 ヶ月令以上には少ない 中耳炎発症の疫学として 殺菌不十分な廃棄乳の利用 バケツによる がぶ飲み哺乳 による誤嚥 ( 食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと

スライド 1

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

はじめに 家畜保健衛生所が実施する事業 検査 調査等の業績は 各都道府県並びにブロックで毎年度に開催される家畜保健衛生業績発表会で発表 討議されている この全国家畜保健衛生業績抄録は 各都道府県の平成二十三年度の発表会の抄録を編集したものであり 発表された全ての演題が収載されている 抄録の配列は家畜

両面印刷推奨 <4 種ウイルス疾患 ( 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ) フローチャート> 医療機関の記録または母子手帳でワクチンを接種したことが A B C 2 回確認できる 1 回確認できる 全く確認できない D または E のどちらかを選ぶ D E 前回接種より少なくとも 1 ヶ月以上あけ

第 7 回トキ飼育繁殖小委員会資料 2 ファウンダー死亡時の対応について ( 案 ) 1 トキのファウンダー死亡時の細胞 組織の保存について ( 基本方針 ) トキのファウンダーの細胞 組織の保存は ( 独 ) 国立環境研究所 ( 以下 国環研 ) が行う 国環研へは環境省から文書

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

システムの構築過程は図 1 に示すとおりで 衛生管理方針及び目標を決定後 HAC CP システムの構築から着手し その後マネジメントシステムに関わる内容を整備した 1 HACCP システムの構築本農場の衛生管理方針は 農場 HACC P の推進により 高い安全性と信頼を構築し 従業員と一体となって

地方病性牛白血病

H27年度 業績発表会抄録

新たに定期接種ワクチンとされたことから 本邦における HPV ワクチンによる免疫獲得状況を把握 して 将来の子宮頸癌予防計画に役立つ基盤データを蓄積することを目的に 14 年度から本事業にて HPV16 抗体価の測定調査を実施することとなった 2. 感受性調査 (1) 調査目的ヒトの HPV16 に


安全な畜産物の生産と生産性の向上適正な飼養管理家畜の健康の維持 家畜のアニマルウェルフェア (Animal Welfare) とは 国際獣疫事務局 (OIE) のアニマルウェルフェアに関する勧告の序論では アニマルウェルフェアとは 動物が生活及び死亡する環境と関連する動物の身体的及び心理的状態をいう

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

現在 乳房炎治療においては 図 3に示す多くの系統の抗菌剤が使用されている 治療では最も適正と思われる薬剤を選択して処方しても 菌種によっては耐性を示したり 一度治癒してもすぐに再発することがある 特に環境性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌の場合はその傾向があり 完治しない場合は盲乳処置や牛を廃用にせざるを

陽転率別の清浄化へのシミュレーションを実施 今後は農家に対し具体的な対策を提案し 地域ぐるみで清浄化を推進していく所存 6. 春季に酪農場で発生した牛コロナウイルス病 : 青森県十和田家保富山美奈子 小笠原清高平成 26 年 4 月末 酪農家で集団下痢 乳量低下が発生し搾乳牛 1 頭が死亡 死亡牛の

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Microsoft Word - H19_13.doc

狂注調査依頼文書

ビタミン過剰が原因と疑われる牛の異常産について

乳牛の繁殖技術と生産性向上

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

Microsoft Word - 届出基準

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

会計 10 一般会計所管課健康推進課款 4 衛生費事業名インフルエンザ予防接種費項 1 保健衛生費目 2 予防費補助単独の別単独 前年度 要求段階 財政課長内示 総務部長 市長査定 最終調整 予算計上 増減 1 当初要求 2 追加要求等 3 4( 増減額 ) 5( 増減額 ) 6=

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検査項目情報 EBウイルスVCA 抗体 IgM [EIA] Epstein-Barr virus. viral capsid antigen, viral antibody IgM 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLA

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6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

3-2 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値流行状況の年次推移を 全国的な状況と比較するため 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値について解析した ( 図 2) 全国的には 調査期間の定点あたり患者報告数の年平均値は その年次推移にやや増減があるものの大きな変動は認められなかった 札

背景 消費者の食品の安全性に対する関心 要求は 平成 7 年の腸管出血性大腸菌 O157による食中毒事件を機に一気に高まり 消費者は 安心して食べられる安全な食品 を強く求めています このような消費者の要望に応えるため 食品業界では食品の安全性の確保のため世界的に有効な衛生管理手法として認められてい


引取り 負傷動物として収容した動物の中で 返還に至った経緯 ( 平成 26 年度 犬 ) 引き取り頭数内訳 (N=13113) 所有者明示の内訳

報告風しん

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

記 1. 牛 豚等の飼養農場における飼養衛生管理の確認及び指導の徹底について家畜防疫員は 法第 51 条の規定に基づき 家畜 ( 牛 水牛 鹿 めん羊 山羊 豚及びいのししをいう 以下同じ ) の大規模所有者 ( 家畜伝染病予防法施行規則 ( 昭和 26 年農林省令第 35 号 ) 第 21 条の2

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

サルモネラ食中毒とは? 症状は? 食後 6~48 時間で おう吐 腹痛 下痢 発熱など 乳幼児や高齢者は 症状が重くなることもある 原因になりやすい食品は? 加熱不足の卵 肉などが原因になりやすい 生の肉に使った包丁で切った調理済みの食品も原因に 害虫やペットが 菌を食品に付けてしまうことも ( 農

耐性菌届出基準

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であった また 当該農場においては過去に EBL 発症例はなく BLV 検査は未実施で浸潤状況は不明であった 2 発症経過と病性鑑定実施経過平成 26 年 7 月末より 6 歳齢繁殖雌牛 1 頭 ( 発症牛 ) が 2 週間に及ぶ黄色水様性下痢を呈し 食欲低下と顕著な削痩が認められた 治療の効果がみ

<4 種ウイルス疾患 ( 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ) フローチャート> 医療機関の記録または母子手帳でワクチンを接種したことが A B C 2 回確認できる 1 回確認できる全く確認できない D E 前回接種より少なくとも 1 ヶ月以上あけて さらに 1 回ワクチン接種を受ける 抗体検査を

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

28年版 こくほのしおり.indd

Transcription:

牛コロナウイルス病の発生状況調査 県央家畜保健衛生所 髙山環 井澤清 後藤裕克 吉田昌司 緒言 牛コロナウイルス病はコロナウイルス科 βコロナウイルス属牛コロナウイルス (Coronaviridae Betacoronavirus,Betacoronavirus-1,Bovine coronavirus: BCoV ) を原因とし 成牛 新生子牛に水様下痢や血便 ( 冬季赤痢 ) 呼吸器症状を引き起こす 予後は良好であるが 他の病原体との混合感染例も多く 重症例の新生子牛では死亡例も認める 発生した場合には牛群内で急速に蔓延し 特に搾乳牛では乳量減少による経済的被害が大きい 1)2)3)4)9) BCoV は農場に常在化し同一農場で発生を繰り返すとされており この要因として 常にウイルスを排泄し続ける BCoV の持続感染牛の存在が疑われているが 確証には至っていない 4)6)8) 今後の発生予防対策の一助とするため 平成 27 年度に BCoV ウイルス病が発生した 2 農場 (A B 農場 ) を対象に 1 農場を汚染する持続感染牛の摘発検査 2ウイルスの動態を確認するための抗体保有状況調査を実施したので報告する 調査農場の概要 A 農場は乳用牛 47 頭 ( 成牛 35 頭 育成牛 9 頭 子牛 3 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 過去に BCoV 病ワクチンの接種歴はない 自家産牛の一部で育成預託を実施しているが 実施頭数は減少傾向にあり 農場全体における移動歴のある牛の割合も年々低下していた A 農場では 成牛舎の隅で子牛を飼養し 自家育成を別棟の育成舎で行なっている 自家育成牛は育成預託からの下牧牛と成牛舎内で群編成される ( 図 1 左 ) 平成 27 年 11 月上旬 成牛舎の搾乳牛で泥状下痢 ~ 血便を認め 下痢症状は牛舎全体に拡大し 乳量は通常の 6 割まで減少した 成牛舎内で飼養されていた子牛や育成舎にいた自家育成牛に異常はなかった

B 農場は乳用牛 45 頭 ( 成牛 34 頭 育成牛 7 頭 子牛 4 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 例年 BCoV 病ワクチンを接種していたが 発生前年度から接種を中止していた 自家産牛の一部で育成預託を実施しており 農場全体の半数以上の牛で移動歴があった B 農場では 成牛舎と同じ建屋内に子牛の飼養場所があり 自家育成を外のパドックで行なっている 自家育成牛は育成預託からの下牧牛と成牛舎内で群編成される ( 図 1 右 ) 平成 28 年 3 月上旬 子牛数頭で呼吸器症状を認め うち 1 頭は死亡した 成牛舎内の搾乳牛やパドックにいた自家育成牛に異常はなかった 図 1. 調査農場の概要 材料と方法 1 供試材料 (1) BCoV 持続感染牛の摘発検査 A 農場飼養牛の糞便 47 検体 ( 採材日 : 平成 28 年 7 月 7 日 ) 及び B 農場飼養牛の糞便 45 検体 ( 採材日 : 平成 28 年 8 月 30 日 ) の計 92 検体を 3~4 検体ずつプールし 供試した (2) 抗体保有状況調査 A 農場飼養牛の血清 163 検体 ( 採材日 : 平成 25 年 7 月 7 日 平成 27 年 6 月 16 日 平成 28 年 7 月 7 日 ) 及び B 農場飼養牛の血清 134 検体 ( 採材日 : 平成 26 年 7 月 15 日 平成 28 年 6 月 24 日 平成 28 年 8 月 30 日 ) の計 297 検体を供試した

2 検査方法 (1) BCoV 持続感染牛の摘発検査 BCoV のスパイク蛋白 (S) 遺伝子を標的とした RT-PCR 検査を行なった 10) (2) 抗体保有状況調査鶏血球と BCoV 掛川株を用いた赤血球凝集抑制 (HI) 試験による抗体検査を行なった 結果及び考察 1 BCoV 持続感染牛の摘発検査 A B 農場共に糞便から BCoV 特異遺伝子は検出されず 2 農場共に持続感染を疑う牛は存在し なかった 2 抗体保有状況調査 (1) 各年度別抗体保有状況 A B 農場における各年度の抗体価 GM 値及び抗体保有率を表 1a 1b に示した A 農場の各年度における抗体価 GM 値は ワクチン非接種農場の GM 値 30~250 2) と同程度であったが 発生半年前の平成 27 年 6 月に GM 値は 76.2 へ低下し 抗体保有率は 62.8% に減少し 感染防御能がない 7) とされる抗体価 320 倍未満の牛が全体の 7 割を占めていた 発生前に高い抗体価を持つ牛が減少していたため 牛舎全体に拡がる発生に至ったと推察された また 調査期間内に農場にいた牛の抗体価から 過去にも農場で複数回の感染があったことが確認された B 農場の抗体価 GM 値及び抗体保有率は各年度を通して高く維持されていたが 発生前年の平成 27 年にワクチン接種を中止した影響により 平成 28 年度はやや低下していた 感染防御能がない牛は全体の 2 割程度で その殆どは子牛 ~ 育成牛であった 発生時 成牛では高い抗体価を持つ牛が多い一方 子牛には感染防御能がなかったため B 農場は子牛でのみで発生したと推察された

表 1a. 抗体保有状況 (A 農場 ) 表 1b. 抗体保有状況 (B 農場 ) (2) 移動歴の有無による抗体価の比較 A B 農場における移動歴の有無による抗体価の比較を図 2 に示した B 農場の平成 28 年 8 月を除き 2 農場共に移動歴のある牛の抗体価 GM 値がない牛に対し 有意に高くなった また 移動歴のある牛は全頭抗体を保有していた B 農場の平成 28 年 8 月に移動歴のない牛の抗体価 GM 値が高くなった原因としては 平成 28 年 6 月から 8 月の期間に成牛 12 頭で抗体価が上昇しており また 畜主への聞き取り調査でもこの期間に一部の成牛で下痢症状を認めたとのことから 成牛でウイルスの動きがあったことが影響したと考えられた

図 2. 移動歴の有無による抗体価の比較 (T 検定 ) (3) 月齢別抗体価 A B 農場毎の月齢別抗体価を図 3 に示した A 農場では発生前の平成 25 年 27 年において 24 ヶ月齢以下の抗体価が低く 25 ヶ月齢以上では全体的に高くなった これは 子牛の時期は成牛舎の隅で飼養しているが移行抗体により感染は防御され 育成期には隔離飼育により感染がないために 24 ヶ月齢以下の抗体価が低く推移するものと考えられた その後 育成預託からの下牧牛と自家育成牛が群編成される約 25 ヶ月齢以降になると 自家育成牛も感染し 個体毎の抗体価がばらつくものと考えられた 平成 28 年の発生後には 25 ヶ月齢以上の牛に低い抗体価の個体は認められず 全体的にまとまって高くなった B 農場では発生前年の平成 26 年において 24 ヶ月齢以下の抗体価がばらつき 感染防御能のない抗体価 320 倍未満の個体も認めたが 25 ヶ月齢以上では全ての成牛で高い抗体価を保有していた しかし 発生前年の平成 27 年にワクチン接種を中止した影響により全体的に抗体価がばらつき 牛群の免疫が不安定になった結果 抗体を持たない子牛で発生したと考えられた 発生後には 24 ヶ月齢以下でもやや高い抗体価となる一方 6~8 月の期間に一部の成牛でウイルスの動きがあったため 高い抗体価を保有する個体も認められた

図 3. 月齢別抗体価 まとめ 糞便の遺伝子検査では BCoV 特異遺伝子は検出されず 2 農場共に BCoV の持続感染牛は確認されなかった そのため 農場内の牛を要因とした発生リスクはなかったと考えられた 2 農場共に 育成預託や導入等 移動歴のある牛は全頭抗体を保有しており 移動歴のある牛はない牛に対して抗体価が有意に高かったこと 発生以前にも自家育成牛が抗体を保有していたことから 育成預託や導入等の牛の移動や その他の人為的要因によりウイルスが農場外部から侵入しているものと推察された A 農場では 移行抗体と自家育成時の隔離飼育により若齢牛が BCoV に感染するリスクが低い一方 成牛では育成預託頭数の減少に伴い感染防御能のない個体が増え その結果 成牛舎全体での発

生に至ったと考えられた B 農場では発生前年にワクチン接種を中止したため成牛全体の抗体価がばらつき 牛群の免疫が不安定になった結果 感染防御能のない新生子牛で発生し その後も 成牛の抗体価の低下に伴い 成牛の一部で感染が認められた BCoV 病は全国的に発生があり 成牛の殆どは抗体を保有している 5)6)8) このことは ウイルスが広く蔓延し 牛群内で常在的に維持されていることを示す 今回の調査では 移動歴のある牛により外部から農場にウイルスが侵入していることが疑え 自家育成牛の抗体価の動きから複数回の侵入があったことが示唆された 導入牛や育成預託からの下牧牛は ウイルスを排泄中である可能性があり 移動先の農場へ容易にウイルスを持ちこむと考えられる 移動先の農場が 牛群全体の抗体価が高い状態であれば 農場内にウイルスが持ちこまれても不顕性感染または症状が軽く 感染が起きていても認識されていないかも知れない しかし 何らかの要因で牛群の抗体価が低下したり 免疫を持たない若い自家育成牛に感染した場合には ウイルスが農場内に一斉に蔓延し 乳量低下や子牛の死亡といった経済的被害が拡大する恐れがある よって 疾病の侵入を防御するためには 移動牛の一時隔離について再徹底することが重要である 更に それでも万が一ウイルスの侵入を受けた場合の被害拡大を予防するためには 免疫が低い又は免疫がない自家育成牛へワクチンを接種し 農場内でウイルスを増幅させないための対策を講じることが有効であると考えられた 引用文献 1) 病性鑑定指針平成 27 年 3 月 13 日付消安第 4686 号農林水産省消費安全局通知,109-111 2) 後藤敬一 : 日本獣医師会雑誌第 60 号,715-717(2007) 3) 角輝夫 : 日本獣医師会雑誌 ( 学会号 ) 第 32 号,151-154(1978) 4) 菅野徹 : 動衛研研究報告,117,19-25(2011) 5) 児玉英樹 : 岩手県獣医師会会報第 37 号,177-180(2011) 6) 首藤洋三 : 大分県家畜保健衛生並びに畜産関係業績発表会集録第 60 号, 30-34(2011) 7) 高村恵三 : 日本獣医師会雑誌第 53 号,664-667(2000) 8) 谷口佐富 : 日本獣医師会雑誌第 39 号,298-302(1986) 9)Toru Kanno:J.Gen.Virol,88,1218-1224(2007) 10)Kannno:J.Vet.Med.Sci,71,83-86(2009)