頭頸部 95 原発部および画像的リンパ節転移陽性部には根治線量を加えるCTV1とする 術後照射では組織学的残存部 GTVが頭蓋底や上縦隔リンパ節領域に進展している場合には, 緩和医療としての照射になるので, 患者状態ごとに患者負担が大きくなり過ぎないように症状に合わせてCTVを設定する PTV: 上

Similar documents
頭頚部がん1部[ ].indd

Microsoft PowerPoint - 印刷用 DR.松浦寛 K-net配布資料.ppt [互換モード]

<4D F736F F F696E74202D2088F38DFC B2D6E FA8ECB90FC8EA197C C93E0292E B8CDD8AB B83685D>

スライド 1

114 頭頸部 Ⅹ. 舌癌 1. 放射線療法の目的 意義舌癌は口腔領域 ( 舌, 口腔底, 頬粘膜, 歯肉 歯槽, 硬口蓋 ) に発生する癌のうち 約 50% を占める 舌は構音 摂食 嚥下と深く関わる臓器であり, 機能 形態の温存に優れる放射線治療のよい適応領域である 幸い舌組織は粘膜下が筋組織で

外来在宅化学療法の実際

頭頸部.indd

Microsoft Word - 頭頸部.docx

170 消 化 器 2. 病 期 分 類 による 放 射 線 療 法 の 適 応 2 cm 以 下 でリンパ 節 転 移 や 遠 隔 転 移 のない 腫 瘍 (T1N0M0)は 放 射 線 治 療 単 独 で 治 療 する 2 cmを 超 える 腫 瘍 については5 FUとマイトマイシンCの 化 学

untitled

268 皮膚癌 手術では大きな欠損を生じる腫瘤径の大きな悪性黒子型黒色腫に対して放射線治療が行われることがある 1) リンパ節に対する予防照射や術後照射は適応に関して議論のあるところであるが,MDACCでは病期 Ⅱ,Ⅲ に対して施行している 2) 骨転移や脳転移に対しては姑息的照射が一般的に行われて

81 画像で詳細に検討した結果の T1,T2 病変では下垂体を遮蔽した照射野でも腫瘍制御の差は認めず, また神経内分泌障害を認めなかったとして, 縮小照射野を推奨しているランダム化比較試験の報告もある 3) 40 50Gy 以降原発腫瘍と腫大リンパ節を含んで皮膚面上で重ねる GTV(=CTV) とす

1)表紙14年v0

頭頸部扁平上皮がん術後再発高危険症例における術後化学放射線同時併用療法の検討

教育講演 放射線治療における位置的不確かさの影響 ずれるとどうなる 都島放射線科クリニック / 大阪大学塩見浩也 放射線治療を確実に施行するためには, 安全なマージンの設定が不可欠である. ターゲットの設定は,ICRU report 50, 62 3) で規定されている肉眼的腫瘍体積 (GTV; g

胸部 131 対側肺門および転移のない鎖骨上リンパ節はCTVには含まない PTV X 線透視などで症例ごとに呼吸性移動を観察し CTVからITVを設定し さら に0.5 程度のセットアップマージンをつける 2 放射線治療計画 かつてLD SCLCには 原発腫瘍から 2 のマージンをとり 両側肺門 気

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

1_2.eps

Microsoft Word - 肺癌【編集用】

☆☆学位論文内容の要約(図表入り) (日本語版)

70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

スライド 1

158 消化器 タにて呼吸性移動を確認することが望ましい PETCTもGTV 決定に有用であり, 可能であれば併用する GTV 原発巣 : 食道バリウム造影,CT, 食道表在癌の場合には色素内視鏡によりGTVを決定する 多発病変あるいはスキップ病変のある場合はこれもGTVに含める 画像的に病変を描出

スライド 1

H + e - X (

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

学位論文の要約 Efficacy of fluoro-2-deoxy-d-glucose positron emission tomography to evaluate response to concurrent chemoradiotherapy for head and neck squam

9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

喉頭がん(治療研究会

Microsoft Word - 学位論文の要約(最終版)Table修正後.docx

が 6 例 頸部後発転移を認めたものが 1 例であった (Table 2) 60 分値の DUR 値から同様に治療後の経過をみると 腫瘍消失と判定した症例の再発 転移ともに認めないものの DUR 値は 2.86 原発巣再発を認めたものは 3.00 頸部後発転移を認めたものは 3.48 であった 腫瘍

196 泌尿器 Ⅱ. 前立腺癌 外部照射 1. 放射線療法の目的 意義前立腺癌の放射線治療は大きな進歩をとげ, 前立腺に線量を集中し, その周囲への被曝を低減する種々の技術が開発された 我が国でも三次元原体放射線治療, 強度変調放射線治療, 小線源療法などが用いられるようになり, 副作用を少なく,

がん登録実務について

肺癌の放射線治療

膵臓癌について

untitled

橡

4DCTを用いたITV(internal target volume)の検討

第03章-放射線治療計画ガイドライン.indd

130724放射線治療説明書.pptx

日本内科学会雑誌第96巻第4号

59 2. 病期分類による放射線療法の適応腫瘍の切除範囲を定義した Simpson grade 分類とその再発率を表 2 に示す 1) 術後照 射では, 残存腫瘍や未処置におわった硬膜付着部に対しての照射が考慮される 通常分割外照射による術後照射は, 腫瘍増殖の抑制に有効であり, 生存期間の延長をも

32 中枢神経 中枢神経 Ⅰ. 悪性神経膠腫 1. 放射線療法の目的 意義悪性神経膠腫の治療の主体は手術であり, 可及的に摘出量を多くすることが予後に寄与するという意見も多い ただし, 浸潤性格の強い腫瘍のため, 腫瘍が残存することは避けられず, この制御を目的として放射線療法や化学療法が行われる

Microsoft Word - 01_巻頭言.docx

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

口腔がん はじめに 口腔がんとは 口の中とくちびるにできる がん のことです 口腔がんには舌や歯肉や頬のように口の中の表面を覆っている粘膜に発生するものと口の中に唾液を分泌している唾液腺 ( 耳下腺を除く ) に発生するものが含まれます いずれの場合でも口の中に できもの や しばらく治らない傷や荒

本文


原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

胸部 147 Ⅴ. 乳癌 Ⅰ 乳房温存療法 1. 放射線療法の目的 意義乳房温存手術後の放射線治療の目的は, 温存手術後の乳房内に存在する顕微鏡的な残存腫瘍を根絶することである 放射線治療の必要性について, これまで 7 つのランダム化比較試験が行われた結果, すべてのトライアルにおいて有意な乳房内

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

<303491E592B BC92B08AE02E786C73>

婦人科 217 婦人科 Ⅰ. 子宮頸癌 1. 放射線療法の目的 意義放射線治療は手術と並ぶ根治的治療法である 従来本邦では手術が優先されてきたが, 欧米から放射線治療の有効性を示す質の高いエビデンスが続々発信され, 本邦の婦人科腫瘍医の意識は変化しつつある それを受けて, 現在日本婦人科腫瘍学会で作

「             」  説明および同意書

NCCN2010.xls

untitled

食道がん化学放射線療法後のsalvage手術

05_学術.indd

8. 本カリキュラムに基づいて 一年毎に研修者による研修成果の自己評価 指導体制の 評価 および指導医から見た研修者の評価を行うことが求められる 別途に定めた評 価用紙を使用することを推奨する 頭頸部がん専門医研修カリキュラム 1. 頭頸部がんの診断と進行期の決定一般目標頭頸部がんの診断と病期につい

スライド 1

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

278 小児 小 児 Ⅰ. ウイルムス腫瘍 1. 放射線療法の目的 意義ウイルムス腫瘍は, 年間約 50 例が小児がん全国登録に報告されている この腫瘍は National Wilms Tumor Study Group(NWTSG) のランダム化比較試験により, 現在では治癒可能な疾患となった 化

咽 AE 頭 AE A がん 各種がん でんし冊子 ちゅう いん とう 中 E E E 受診から診断 治療 経過観察への流れ 患者さんとご家族の明日のために 目次 基礎知識 1. 中咽頭について 中咽頭がんとは 症状 患者数 ( がん統計

i 日本頭頸部癌学会診療ガイドライン作成委員会 委員長 丹生 健一 神戸大学耳鼻咽喉 頭頸部外科教授 作成委員 朝蔭 孝宏 東京医科歯科大学頭頸部外科教授 尾尻 博也 東京慈恵会医科大学放射線科教授 木澤 義之 神戸大学緩和支持治療科教授 亀井 讓 名古屋大学形成外科教授 清田 尚臣 神戸大学腫瘍セ

PowerPoint プレゼンテーション


Microsoft Word - JCOG9906総括報告書081215_m KN【福田加筆】

Microsoft Word - 02細野.doc

がん化学(放射線)療法レジメン申請書

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

3. バイナリーコリメータを用いた方法 4. ロボット型治療装置を用いた方法 IMRT 施行に際する施設 人的要件 IMRT の施行に際しては 厚生労働省保険局医療課長通知 ( 保医発第 号平成 20 年 3 月 5 日 ) に記載の施設基準を満たすことが必要である また 上記に加え

表紙69-5,6_v10.eps

PROGNOSTIC FACTORS OF LATERAL WALL OROPHARYNGEAL SQUAMOUS CELL CARCINOMA TOMOHIKO NIGAURI, M.D., SHIN ETSU KAMATA, M.D., KAZUYOSHI KAWABATA, M.D. MUNE

第71巻5・6号(12月号)/投稿規定・目次・表2・奥付・背

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

untitled

294 小児 図1 stepped field ヘルメット型 Yoshio Arai, MD University of Pittsburgh Physicians 提供 図2 矩形照射野 両目尻にマーキングし 同部で水平ビームになることを確認 蓋内くも膜下腔 尾側は第 2 頚椎下縁までを含む範囲と

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

スライド 1

2. 肺がんについて肺がんは1998 年以来日本人のがん死亡の第 1 位である 男性に多いがんであるが 近年女性の肺がん罹患数 死亡数とも増加しており 組織型では腺がんの比率が上昇している 禁煙指導などによる予防 検診の普及による早期発見や 治療法の進歩などの一方で なかなか死亡数の減少につながらな

この二つの特徴によって 従来のリニアックでは困難であった再照射にも対応が可能となってきている 本稿では 当施設で再照射を行った症例を呈示 検討しつつ 再照射における の有用性と問題点を検討する 2. 方法当施設では 2010 年 10 月より を導入し 2014 年 3 月までに約 1000 例の照

50-3ガイド10ポ.indd

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

核医学画像診断 第36号

Microsoft PowerPoint - Ppt ppt[読み取り専用]

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

PowerPoint プレゼンテーション

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

PowerPoint プレゼンテーション

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

PowerPoint プレゼンテーション

スライド タイトルなし

<4D F736F F D CC8E528CA797A788E391E E968CCC31382E362E A6D92E8816A2E646F63>

Transcription:

94 頭頸部 Ⅵ. 下咽頭癌 1. 放射線療法の目的 意義輪状後部, 梨状陥凹, 咽頭後壁の 3 亜部位からなる 本疾患の放射線治療あるいは 化学放射線治療による根治性は中咽頭や上咽頭よりも劣り, 全体で 5 年生存率が約 30% の疾患である 1, 2) T1~2 では局所に関して根治を望める疾患であり, 治癒した 場合の発声と嚥下機能温存の意義は大きい 2. 病期分類による放射線療法の適応 T1~2N0では, 根治的放射線治療あるいは根治的化学放射線療法が第一選択になる T1~2で進行した頸部リンパ節転移がある場合には, 原発部と傍咽頭リンパ節への根治的放射線治療後に頸部リンパ節の手術的摘出術を行うことを頭頸部外科医とあらかじめ計画しておく 亜部位別では梨状陥凹原発のT1~2は後壁や輪状後部原発にくらべ照射への反応が比較的良好であり, 根治照射の適応となりやすい 後壁や輪状後部原発 T2では脊椎前筋群や喉頭浸潤が初診時すでに起きていることが多く, 根治線量照射後の救済手術も困難なため, 手術的摘出時期をいたずらに遅らせない注意も必要である これ以上進行した症例では, 手術的摘出術を常に念頭に入れながら化学療法あるいは化学放射線療法 ( シスプラチン+5 FU) を先行する治療方針が, 最初から手術を行うことよりも機能温存で優れ, 生存率で劣らないことが梨状陥凹と披裂軟骨喉頭蓋ひだの下咽頭面原発癌の第 Ⅲ 相試験にて示唆された 3) 化学放射線療法を先行し40Gy 程度の時期に, 効果が良い場合には根治照射線量を投与し, 効果が思わしくない場合には手術的摘出をする施設も多い 判断根拠はCT 画像 内視鏡所見などでPR 以上の場合に放射線治療を続行する 進行したT4で化学放射線療法が成功しても気管孔造設が必至な症例では, 手術を先行して術後照射をすることが勧められるが, その境界はあいまいである 2) 3. 放射線治療 1) 標的体積 GTV: ファイバースコープ,CT,MRI 等で確認できる原発腫瘍および転移リンパ節 ファイバースコープでの観察範囲では腫瘍を把握し切れない 術後照射では肉眼的残存部 CTV: 頭蓋底から頸部食道縦隔入口部までの咽頭粘膜, および咽頭後リンパ節 ( ルビエールリンパ節 ), 上中下内深頸リンパ節, 鎖骨上リンパ節 治療前のリンパ節転移の病期がN2cでは副神経リンパ節, 顎下リンパ節を加える 根治治療の場合, リンパ節領域に関してはN0 症例では予防的線量のみを与えるCTV2とし,

頭頸部 95 原発部および画像的リンパ節転移陽性部には根治線量を加えるCTV1とする 術後照射では組織学的残存部 GTVが頭蓋底や上縦隔リンパ節領域に進展している場合には, 緩和医療としての照射になるので, 患者状態ごとに患者負担が大きくなり過ぎないように症状に合わせてCTVを設定する PTV: 上記 CTVに0.5 1 cm程度のマージンをつける 2) 放射線治療計画二次元治療計画原発巣と上中頸部までは左右対向二門で, また下頸部および鎖骨上窩は前方一門あるいは前後対向二門にて照射する 図 1a bに標準的な照射野を示す 照射野設定の解剖学的なメルクマールとして, 上縁は第一頸椎を十分含み, 後縁は棘突起, 下縁は輪状軟骨を十分含む ( 梨状陥凹の先端部を十分含む ) このためにはシミュレーション時の体位は下顎をなるべく挙上するように注意する そうしないと原発巣を十分に対向二門の照射野に含むことが出来ず, 下前方一門とのつなぎ目に原発巣が位置し線量の不確定要素を生む ビームの広がりによるつなぎ目での低線量域の出現を予防するため, ハーフフィールド法やマルチリーフを用いたそれに近い照射法がある いずれの場合にも過線量, 低線量域の出現を予防するため照射野のつなぎ目を途中で移動するべきである ( 図 1) 図 1a. 原発巣 上中頸部に対する照射野 図 1b. 下頸部 鎖骨上窩に対する照射野 三次元治療計画基本的に二次元と同様であるが, 再発部位を画像上で詳細に検討した報告によると, 表 1のようにCTVを再発のリスクに応じて分類し, それぞれにより適した線量を照射する試みもみられる 4)

96 頭頸部 表1 病期およびリスク別CTVによる線量配分 標的体積 病期 CTV1 CTV2 T1 2N0 P IN CN Ⅱ Ⅳ T3 4N P IN Ⅱ Ⅳ RPLN N2c P IN CN Ⅰ Ⅴ RPLN 線量 週 5 回 66 70Gy 2 Gy/fr 70 75Gy 1.8Gy/fr CN Ⅱ Ⅳ 50Gy 2 Gy/fr P primary tumor IN ipsilateral neck node CN contralateral neck node RPLN retropharyngeal neck node N+ N2c以外の N1 3 ローマ数字はSomらによって紹介されたCTによる詳細なリンパ節の区域分類5 とほぼ同義で Iは頤 顎下 Ⅱ Ⅳは頭蓋底から鎖骨までで胸鎖乳突筋の後縁ま でを含むリンパ領域である N2cでもI領域は入れない場合もある 三次元治療計 画装置をもちいレベル別 ルビエール にリンパ節領域の輪郭を囲った治療計画 の 1 例を図2 に示す 図2 赤 原発巣 水色 46 50Gy以降の縮小フィールドのCTV 薄紫 ルビエール 下 顎骨に近接する白 IB オレンジ ⅡおよびⅢ 薄緑 Ⅳ 紫 V 原発巣に近接 する白 甲状軟骨および輪状軟骨 3 照射法 照射には 4 6MV X線を用いる 患者の頸部はシェルで固定して治療する 線量 分割法は週 5 回通常線量分割が基本である 根治照射 術前照射では 1 回線量1.8 2Gyにて40 46Gyをリンパ節領域を含めて照射する 根治照射の場合40 46Gy後 GTVに少なくとも上下 2 のマージンをつけ脊髄をはずした照射野にて66 70Gyま

頭頸部 97 で治療を行う 術後照射は術前照射同様の照射野で40~50Gyを同様の照射野に対して行い, 手術標本断端陽性の場合はその部位に60Gy 程度まで照射野を縮小して治療する 気管切開孔は再発の頻度の高い部位でありここを十分照射野に含むように注意する 全身状態の良くない症例では, 手術所見を参考に原発巣および皮膜外浸潤があったリンパ節領域周辺および摘出が困難なルビエールリンパ節領域, 気切孔等の再発危険性の高い部位にのみ照射を行うのが現実的と思われる 術前照射で病変の進行を抑えたり,T3~4 症例では手術先行を是とする施設も多いが, 喉頭温存を断念するこれらの方針の基準はあいまいでエビデンスは乏しい 頭頸部癌では, 照射分割法の工夫が近年試みられつつある RTOGは, 下咽頭癌が 13% 含まれた1073 名の 4 群ランダム化比較試験で, 過分割照射法と同時ブースト加速過分割照射法 (accelerated fractionation with boost) により通常分割法よりも 5 年局所制御率で約 8 % の向上が認められたが, 生存率には差がなかったと報告した 6) 4) 化学療法との併用下咽頭癌を含んだ頭頸部扁平上皮癌を対象としたメタアナリシスで同時化学放射線療法は生存率を若干上昇させることが示された 7) しかし最適な薬剤およびスケジュールは決まっていない 一方,EORTCのランダム化比較試験は,A 群 : 手術先行治療よりも,B 群 : 放射線治療と化学療法を加えた治療方針のほうが優れていることを示した ( 表 2) 3) 3 年生存率,3 年無病生存率,3 年無遠隔転移率, 平均生存期間は, A 群 :B 群それぞれ43%:57%,31%:43%,60%:73%,25ヵ月 :44ヵ月であった また,B 群の 3 年喉頭温存率は, 全 100 例を母数とすると28%(95% 信頼範囲 17~ 37%), 他因死を除くと42%(31~53%) であった 表 2.EORTCのランダム化比較試験の概略 A 群 : 手術先行群 B 群 : 化学療法先行群 94 例登録し,92 名が手術を受け 89 名が術後照射 ( 平均 60Gy) を受けた 100 例登録し,97 名が化学療法を受け,34 例が手術 ( うち 33 例術後照射 ),60 例が放射線治療 ( うち 4 例が計画された頸部郭清, 8 例が照射後再発への手術 ) シスプラチンと 5 FU による導入化学療法を 1 クール行い PD 症例では手術, それ以外には 2 クール目を行い PD,NC 症例では手術,PR の時は 3 クール目を施行, 2 クール目で CR の場合 3 クール目を行わず放射線治療 線量分割は 70Gy/35 回 4. 標準的な治療成績日本放射線腫瘍学会第 11 回学術大会でのワークショップにて多施設での根治照射の総合治療成績がまとめられた それによると本疾患全体での根治照射の 5 年生存率は 35%,StageⅡ,Ⅲ,Ⅳにおいての同生存率は75%,40%,17% であった 8) Fuによる総説の中でT 分類別の局所制御率は,T1:79%,T2:71%,T3:17%,T4:8%

98 頭頸部 であった 1) 放射線治療と手術の両方による治療の下咽頭癌全体の 5 年生存率は21~ 40% とされている 早期癌について日本の多施設からの115 例の治療結果をまとめた中村らの解析によると,5 yr disease specific survivalはt1で95.8%,t2で70.1% と良好な値が報告されている 9) 一方で二次癌の発生を56.5%( 特に食道癌 ) に認め overall survivalを低下させる原因と指摘している 5. 合併症治療中の副作用としては, 照射野が上咽頭から頸部食道まで粘膜が広く照射されることから粘膜炎は必発であり, 対症的療法, 食事内容の調整が必要となる 化学療法併用の場合は粘膜炎が早期に出現する場合があり ( 特にドセタキセル併用時 ), 毎日少なくとも肉眼で見える範囲での中咽頭の観察は欠かせない 晩期障害として以下のものがある 喉頭浮腫 ( 中程度 15~25%, 重度 1.5~4.6%), 喉頭咽頭壊死は0.5~1.8% に生じる 1) その他, 放射線による晩期障害としては食道咽頭の狭窄, 手術が加わった場合の創傷治癒遅延, 瘻孔形成である 予防照射域に少なくとも40Gyの照射が行われるため, 標準的照射野にほぼ全体積が含まれる耳下腺機能の低下は必発し 10), それに伴う口腔乾燥が生ずる これらの障害を減らすために, T1~2N0では小さな照射野での治療を行う方針の施設もあり, 適応選択を慎重に行えば優れた機能温存を示す 11) 本邦においても早期下咽頭の放射線治療に関するアンケート調査結果報告によると,59 施設中 3 施設においては梨状陥凹原発腫瘍に対しては原発巣のみを照射野に含めていた 12) 近年, 食道がんスクリーニングに際して偶然, 下咽頭に粘膜病変を発見される機会が増え, エビデンスはないものの, そのような粘膜表層にとどまっている腫瘍に対しては, 原発巣のみの照射がQOLの観点から選択肢の一つに考慮されてもよいのかもしれない 6. 参考文献 1)Moss' Radiation Oncology. 7th ed. ed. by Cox JD ; Chapter 9. The Endolarynx and Hypopharynx by Fu KK, p214-245. 2)Hinerman RW, Amdur RJ, Mendenhall WM, et al. Hypopharyngeal carcinoma. Curr Treat Options Oncol 3 : 41-49, 2002. 3)Lefebvre JL, Chevalier D, Luboinski B. et al. Larynx preservation in pyriform sinus cancer : preliminary results of a European Organization for Research and Treatment of Cancer phase Ⅲ trial. EORTC Head and Neck Cancer Cooperative Group. J Natl Cancer Inst 88 : 890-899, 1996. 4)Chao KS, Wippold FJ, Ozyigit G, et al. Determination and delineation of nodal target volumes for head-and-neck cancer based on patterns of failure in patients receiving definitive and postoperative IMRT. Int J Radiat Oncol Biol Phys

頭頸部 99 53 : 1174-1184, 2002. 5)Som PM, Curtin HD, Mancuso AA. Imaging-based nodal classification for evaluation of neck metastatic adenopathy. AJR Am J Roentgenol 174 : 837-844, 2000. 6)Fu KK, Pajak TF, Trotti A, et al. A Radiation Therapy Oncology Group (RTOG) phase Ⅲ randomized study to compare hyperfractionation and two variants of accelerated fractionation to standard fractionation radiotherapy for head and neck squamous cell carcinomas : first report of RTOG 9003. Int J Radiat Oncol Biol Phys 48 : 7-16, 2000. 7)Pignon JP, Bourhis J, Domenge C, et al. Chemotherapy added to locoregional treatment for head and neck squamous-cell carcinoma : three meta-analyses of updated individual data. MACH-NC Collaborative Group. Meta-Analysis of Chemotherapy on Head and Neck Cancer. Lancet 355(9208): 949-955, 2000. 8) 三橋紀夫, 秋元哲夫, 早川和重, 他. 頭頚部癌の放射線治療 - 総説 -. NIPPON ACTA RADIOLOGICA 61 : 10-16, 2001. 9)Nakamura K, Shioyama Y, Karasawa M, et al. Multi-Institutional Analysis of Early Squamous Cell Carcinoma of the Hypopharynx Treated with Radical Radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys 65 : 1045-1050, 2006. 10)Kaneko M, Shirato H, Nishioka T, et al. Scintigraphic evaluation of long-term salivary function after bilateral whole parotid gland irradiation in radiotherapy for head and neck tumour. Oral Oncol 34 : 140-146, 1998. 11)Cooper RA, Slevin NJ, Carrington BM, et al. Radiotherapy for carcinoma of the posterior pharyngeal wall. Int J Oncol 16 : 611-615, 2000. 12) 中村和正, 晴山雅人, 塩山善之, 他. 早期下咽頭癌の放射線治療に関するアンケート調査結果報告. 日放腫会誌 17 : 41-47, 2005. ( 北海道大学医学部保健学科放射線技術科学専攻西岡健 )