cstage,, CQ1-5 cstage a CQ2-1,9 CQ4-1 cstage b CQ5-1 CQ4-2~6 CQ5-2~4 CQ2-2~9 CQ3-1~4 CQ6-1~4 CQ4-7 cstage JPS 6 図 2 膵癌治療アルゴリズム 表 1 勧告の強さの分類 A B C1 C2

Similar documents
虎ノ門医学セミナー

1)表紙14年v0

がん登録実務について

4 月 20 日 2 胃癌の内視鏡診断と治療 GIO: 胃癌の内視鏡診断と内視鏡治療について理解する SBO: 1. 胃癌の肉眼的分類を列記できる 2. 胃癌の内視鏡的診断を説明できる 3. 内視鏡治療の適応基準とその根拠を理解する 4. 内視鏡治療の方法 合併症を理解する 4 月 27 日 1 胃

膵臓癌について

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

ス島という膵内に散在する組織集団がインスリン グルカゴン ソマトスタチンというホルモンを血中に放出し血糖を調節します 外分泌機能とは 膵腺房から炭水化物の消化酵素のアミラーゼや 蛋白質の分解酵素のトリプシン キモトリプシンの非活性型のトリプシノーゲン キモトリプシノーゲンが さらに脂肪分解酵素のリパ

外来在宅化学療法の実際

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

<303491E592B BC92B08AE02E786C73>

頭頚部がん1部[ ].indd

<924A814092BC8EF72E656339>

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

スライド 1

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第


資料 1 1 当院にて膵粘液性嚢胞腫瘍 (MCN) の治療をうけた方 研究課題 膵粘液性嚢胞腫瘍 (MCN) の検証 - 多施設共同後ろ向き研究 審査番号 研究機関名及び本学の研究責任者氏名 この研究が行われる研究機関と研究責任者は次に示すとおりです 研究機関東京大学大学院医学系研究科消化器内科学研

パネルディスカッション 2 Q 専門領域について選択してください 1. 消化器内科 2. 消化器外科 3. 放射線科 1% 4% 3% 21% 4. その他の医師 5. その他 ( 医師以外 ) 71%

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準]

大腸ESD/EMRガイドライン 第56巻04号1598頁

<955C8E862E657073>

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定

Yonago Medical Center Magazine ARCUS #20 May 2018

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

Title

130 中井陽介 4. 膵嚢胞性腫瘍の診療ガイドライン膵嚢胞性腫瘍に対するガイドラインとしては,IPMN/ MCNの国際診療ガイドラインとして 2006 年にいわゆる Sendai Guideline 12) が, さらに 2012 年にはFukuoka Guideline 1) として改訂が行われ

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

<4D F736F F F696E74202D2088F38DFC B2D6E FA8ECB90FC8EA197C C93E0292E B8CDD8AB B83685D>

<4D F736F F D F90D290918D64968C93E08EEEE1872E646F63>

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

2.IPMN はどうして重要なの? いわゆる 通常の膵臓がん は先に説明したように 非常に悪性度が高く治療成績が悪いとされており 発見時すでに進行癌ということが多い疾患です それに比べて同じ膵臓の腫瘍といっても IPMN では 良性の段階 ( 過形成や腺種と呼びます ) から悪性の段階 ( 通常型の

Microsoft Word - 胆嚢.doc

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

検討結果は 参考資料 3-3 Ⅱ 本検討会での検討事項等 MOCA の特殊健康診断に関し 下記の事項について検討等を行う 特殊健康診断の項目について 1 業務従事者健診の項目 2 配転後健診の項目 1 現行の特化則で規定されている MOCA の健診項目には 膀胱がんに関する項 目が含まれておらず ま

臨床の実際 - 消化器内科編 - 本年度 ( 平成 28 年度 ) は当科の体制にも変更があり 個人的な感想としてはスクランブル体制といった感じで始まりました 近隣の先生方にはご心配ご不便をお掛けしたこととと思いまして 本年度の当科 ( 胆膵 消化管診療 ) の治療成績を一部まとめてみました ERC


<4D F736F F F696E74202D2082B182EA82A982E782CCE458919F8AE0815B8A4F89C88EA197C3815B2E >

IgG4 関連疾患 IgG4 関連疾患診断基準 IgG4 関連疾患 厚生労働省 IgG4 関連疾患に関する調査研究 班 ポケットブック版にてご覧いただけます. お問い合わせフォーム IgG4 関連疾患の診断は基本的には,

NCCN2010.xls


第71巻5・6号(12月号)/投稿規定・目次・表2・奥付・背

Minds_3章.indd

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

9章 その他のまれな腫瘍

地域公開講演会 2007.3.24

BMP7MS08_693.pdf

< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

博士学位申請論文内容の要旨

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

日産婦誌61巻4号研修コーナー


事業評価のためのチェックリスト ( 単位 : %) (2) 平成 27 年度の原発がんに対する早期がん割合を把握しましたか 肺がんでは臨床病期 Ⅰ 期がん割合 乳がんでは臨床病期 Ⅰ 期までのがん割合を指す (2-1)

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

Microsoft PowerPoint - komatsu 2

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

乳癌かな?!と思ったら

<4D F736F F D208FC189BB8AED93E089C85F B CF8AB E646F63>

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

Microsoft PowerPoint - 印刷用 DR.松浦寛 K-net配布資料.ppt [互換モード]

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

2009年8月17日

スライド 1

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

indd

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

消化器がんの術式と栄養管理の実践講座_膵臓がん_第5回

2

70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

6学年まとめ講義 肝胆膵画像診断

情報提供の例

医療連携ガイドライン改

_00A-本扉.indd

らに本検査により 術中に腹膜再発リスク患者の高感度判定が可能となったため 現在 2017 年 4 月より 大阪市立大学医学部附属病院において 胃癌手術中の判定に基づいて術中に腹膜再発予防的治療を行う臨 床試験を開始しています 図 1. 胃癌の腹膜転移経路と手術中診断法 胃粘膜上皮で発生した癌細胞が胃

心房細動1章[ ].indd

医科_第20次(追加)審査情報提供(広報用)

<4D F736F F D208CE38AFA97D58FB08CA48F438C7689E681698CE088E397C3835A E815B816A2E646F63>

が 6 例 頸部後発転移を認めたものが 1 例であった (Table 2) 60 分値の DUR 値から同様に治療後の経過をみると 腫瘍消失と判定した症例の再発 転移ともに認めないものの DUR 値は 2.86 原発巣再発を認めたものは 3.00 頸部後発転移を認めたものは 3.48 であった 腫瘍

Taro-01 胃がん内視鏡検診手引き

Microsoft PowerPoint - 【資料3】届出マニュアル改訂について

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

Microsoft Word - 膵臓癌ホームページ用.doc

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

がん検診ガイドライン総論 Ⅰ. はじめにがんはわが国の死因の 3 分の 1 を占める疾患であり 進行した段階では治療自体困難であることも多く 早期発見 早期治療が重要であるとされてきました 一般に 早期のがん とは 神経や血管などに到達していないものであり 痛みや出血などの症状はありません したがっ

背部痛などがあげられる 詳細な問診が大切で 臨床症状を確認し 高い確率で病気を診断できる 一方 全く症状を伴わない無症候性血尿では 無症候性顕微鏡的血尿は 放置しても問題のないことが多いが 無症候性肉眼的血尿では 重大な病気である可能性がある 特に 50 歳以上の方の場合は 膀胱がんの可能性があり

PowerPoint プレゼンテーション

胃がんの内視鏡的治療 ( 切除 ) とは胃カメラを使ってがんを切除する方法です. 消化器内科 胃がん 治癒 胃がん切除

平成 29 年度九段坂病院病院指標 年齢階級別退院患者数 年代 10 代未満 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代以上 総計 平成 29 年度 ,034 平成 28 年度 -

Transcription:

1 第1 章第 1 章 理解しておきたい! 膵疾患に関するガイドライン 診断基準 1. 膵癌診療ガイドライン 1. 膵癌診療ガイドライン 東京女子医科大学消化器内科 清水京子 ❶ 家族歴 併存疾患 膵癌 危険因子 複数有 場合 慎重 精査, 画像所見 膵癌 疑 間接所見 見落. ❷ 切除可能症例 必要 応 術前補助療法, 術後補助療法 検討. ❸ 切除不能進行膵癌 化学療法 現在 S 1 単独, 単独, + 推奨. 診断外科的治療補助療法化学療法放射線療法ステント療法膵癌診療ガイドラインは膵癌診療に従事する臨床医を対象として, 膵癌診療を標準化する目的で作成されたものである.2006 年に第 1 版が出版され 1),2009 年の第 2 版 2) に引き続き, 第 3 版を 2013 年秋頃に出版予定である. 膵癌診療ガイドライン改訂委員会では 3 回の公聴会を経て, 改訂案を日本膵臓学会のホームページに公開し, パブリックコメントを検討したのち出版予定である. 本稿の内容は公聴会にて公開されたガイドライン改訂案に基づいたものであるので, 最終版までには多少の変更が予想されるが, 今回の改訂の主なポイントについて解説する. 1 今回の改訂の概要 アルゴリズムの改訂診断のアルゴリズム ( 図 1) は前回と大きな変更はない. 治療アルゴリズム ( 図 2) は第 2 版まで cstage Ⅳa 以上を切除可能膵癌と切除不能膵癌に分類したが, 改訂版では切除不能膵癌を局所進行膵癌と再発 遠隔転移膵癌に分けてそれぞれのクリニカルクエスチョン (CQ) を立てた. また, 緩和ケアやステント療法, バイパス療法, 放射線療法はどの stage でも適応があれば行うことを明記している.CQ は診断法, 化学療法, 放射線療法, 外科的治療法, 補助療法の 5 つの分野に加えて, 今回新規にステント療法が追加され,6 個の CQ となる.CQ に対して推奨される内容 CQ1-1 / / US は前回と同様に科学的根拠の高い論文のレ CQ1-2 ベルによって A,B,C1,C2,D までの CT and/or MRI MRCP 5 つのグレードに分けられている ( 表 1). CQ1-3 エビデンスレベルの高い論文でなくても臨 EUS and/or ERCP and/or PET 床上重要で, 今後の発展に繋がりそうな内 CQ1-4 容は 明日への提言 としてコメントされ / ERP EUS US CT ている. 2 CQ1 診断法 診断部門では膵癌のリスクファクター, 膵癌発見から確定診断までの経緯, 病期分図 1 CQ1-5~7 膵癌診療アルゴリズム

cstage,, CQ1-5 cstage a CQ2-1,9 CQ4-1 cstage b CQ5-1 CQ4-2~6 CQ5-2~4 CQ2-2~9 CQ3-1~4 CQ6-1~4 CQ4-7 cstage JPS 6 図 2 膵癌治療アルゴリズム 表 1 勧告の強さの分類 A B C1 C2 D 類のほか, 新たに borderline resectable 膵癌と, 長期予後が期待できる早期膵癌の診断についての CQ が追加される. その背景には, 新規の CQ に対するエビデンスレベルの高い論文は少なく, 多くが後ろ向き試験であるが, 実際の臨床で重要な意味をもつ内容であることから, 今回の改訂で採用することとした. CQ1 1 膵癌のリスクファクターとは何か? 1. 膵癌のリスクファクターとして下記のものがある. 家族歴 : 膵癌, 遺伝性膵癌症候群合併疾患 : 糖尿病, 慢性膵炎, 遺伝性膵炎, 膵管内乳頭粘液性腫瘍, 膵囊胞, 肥満嗜好 : 喫煙, 大量飲酒 2. 家族歴, 合併疾患, 嗜好などの危険因子を複数有する場合には, 膵癌の高リスク群として検査 を行うことが勧められる ( グレード B). 3. 膵管内乳頭粘液性腫瘍 (intraductal papillary mucinous neoplasm: IPMN) と膵囊胞は膵 癌の前癌病変として慎重な経過観察が勧められる ( グレード B). 飲酒と膵癌の関連性については議論のあるところではあるが, 今回の改訂で, エタノール換算として 1 日 37.5 g 以上の大量飲酒が膵癌のリスクファクターとして追加された. これらのリスクファクターを複数有する場合には, 膵癌発生の高リスク群として慎重な経過観察が勧められるが, その検診の方法については確立されたものはない. 2 498 14214

3 第1 章 1. 膵癌診療ガイドライン CQ1 2 膵癌の発見はどのようにしたらよいか. 1. 腹痛, 腰背部痛, 黄疸, 体重減少では膵癌を疑い検査を行う ( グレード B). 糖尿病新発症や悪化では, 膵癌合併を疑い, 検査を行う ( グレード B ). 2. 血中膵酵素測定は膵癌に特異的ではないが, 早期診断に有用性が認められている ( グレード B ). 3. 腫瘍マーカー測定は膵癌診断やフォローアップに勧められる ( グレード B) が, 早期診断には有用ではない ( グレード C1). 4. US は膵癌のスクリーニングに勧められる ( グレード B) が腫瘍検出率は低い ( グレード C1). 主膵管の拡張や囊胞が膵癌の間接所見として重要である ( グレード B). このような所見が認められた場合は, すみやかに次のステップに進む. 膵癌の発見のきっかけとして, 腹痛や背部痛などの自覚症状, 血中膵酵素上昇, 膵腫瘍マーカー高値のほか, スクリーニングとして腹部超音波検査 (US) は有用であるが, 早期の段階での膵癌の発見は難しい.US で主膵管拡張や狭窄, 囊胞は膵癌の間接所見として重要である. これらの検査で異常所見が認められた場合には, 次の段階の精査を行うようにする. CQ1 3 膵癌を疑った場合, 次に行うべき検査は何か? 1. 膵癌を診断するためには CT( 造影が望ましい ) や MRI(MRCP)( 造影および 3 テスラ以上が望ましい ) を行うことが強く勧められる ( グレード A). 2. 上記検査で異常所見があっても膵癌の確定診断に至らない場合には, 次のステップにより確定診断することが望ましい ( グレード B ). 自覚症状, 臨床検査, 腹部 US で膵癌を疑う場合には造影 CT,MRI(MRCP) を行う.Multipledetector row CT(MDCT) は膵癌の存在診断や膵周囲の血管浸潤について詳細な情報が得られる. MRI では MRCP と dynamic MRI のほか, 拡散強調像の正診率も良好である. 体外式 US を用いた造影 US は保険未収載であるが, 造影 CT や MRI が施行できない場合に有用である. CQ1 4 膵癌の診断を確定するための次のステップはどうするか. 1. CT あるいは MRI(MRCP) で確定診断が得られない場合には,EUS,ERCP のいずれか一つあるいは組み合わせ, 必要に応じて PET を組み合わせる ( グレード B). 超音波内視鏡は腹部超音波検査や CT などで腫瘤を捉えることが困難な病変に対しても有用である ( グレード C1). 2. 各種の画像検査により膵腫瘤の確定診断がつかない症例では細胞診もしくは組織診による確定診断が望ましい ( グレード B). 3. 切除不能膵癌と診断され化学 ( 放射線 ) 療法を開始する際には, 細胞診 組織診による病理診断が勧められる ( グレード B). 4. 遺伝子検索は細胞診 組織診の補助的診断として有用である ( グレード C1). 5. 上記検査で異常所見が認められるも膵癌の確定診断に至らない場合には, 以後の定期的な検査と慎重な経過観察が勧められる ( グレード B ). CT や MRI で確定診断が得られない場合には EUS や ERCP を行い, また必要に応じて PET を施行する. 膵癌の確定診断として可能な限り細胞診や組織診による病理診断を行うようにする. 病理診断の方法として,EUS FNA( 超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診 ) と体外式 FNA との比較では診断能に差はないが,EUS FNA で腹膜播種の頻度が低いので,EUS FNA が第一選択となる. 病理診断は良悪性の診断, 膵腫瘍に対する適切な化学療法の選択のために重要な検査である.

CQ1 5 膵癌の病期診断はどのように決定するか? 膵癌の病期診断 (TNM 因子 ) には MDCT や EUS が勧められる ( グレード B). 膵癌の正確な病期診断は困難であるが, 現時点では MDCT と EUS が勧められる. 遠隔転移診断では FDG PET/CT や審査腹腔鏡も有用である.MDCT と EUS を中心として他の画像診断と組み合わせて判断する. CQ1 6 Borderline resectable 膵癌の診断 : 本邦における Borderline resectable とは? 1. NCCN Guideline の Borderline resectable 膵癌の定義は米国では広く用いられているが, NCCN Guideline は門脈浸潤例の取り扱いなどの本邦の実情とは異なることが問題であり, 本邦独自の Borderline resectable 膵癌の定義が必要である. 2. Borderline resectable 膵癌の診断は,MDCT を用いて, 単純撮影だけでなく, 動脈相 膵実質相 門脈相の 3 相でかつ 3 mm 以下の thin slice での撮影を行うことが望ましい ( グレードB). NCCN Guidelines Version 2.2012 における Tumors considered borderline resectable の定義 1 ) 遠隔転移がない 2 )上腸間膜静脈(SMV) および門脈 (PV) に接し内腔が圧迫により狭くなっている,SMV/ PV に浸潤しているが, 近接する動脈への浸潤がない, 静脈が閉塞しているが安全に門脈再建が可能である 3 )胃十二指腸動脈への浸潤があるが, 総肝動脈 固有肝動脈への短い浸潤または癌による圧迫を認めるもの. ただし, 腹腔動脈幹への進展例は除く 4 ) 上腸間膜動脈に 180 度以下で接しているもの Borderline resectable 膵癌とは, 腹腔動脈や上腸間膜動脈などの局所進行のために手術あるいは手術不能として化学放射線療法, 化学療法とするか治療方針決定が難しい症例である 1).NCCN Guideline では Borderline resectable は上記のように定義されているが, 本邦とは門脈浸潤の取り扱いが異なるため, 本邦独自の定義が必要である. 日常臨床において癌が上腸間膜動脈に密に接していても encasement がない場合は, 膵癌取扱い規約の Asm,PL+にあたるが, 膵癌取扱い規約で画像診断としての Asm,PL+の定義がない. 術前画像診断の上腸間膜動脈浸潤の有無に関する精度にも問題があり, 今後の検討課題である. CQ1 7 長期予後が期待できる早期の膵癌を診断するにはどうするか? 1. 主膵管の拡張, 囊胞が間接所見として重要であり,US,CT で腫瘍の直接描出が困難な場合でも,MRCP,EUS を行うことが勧められる ( グレード C1). 2. 上記の画像診断で限局的な膵管狭窄が認められた場合は,ERCP を施行し, 膵液細胞診を繰り返し施行することが勧められる ( グレード C1). 4 膵癌には早期膵癌の概念がないが, 可能な限り早期の段階で膵癌が発見されることで予後の改善が期待できる. そのためには膵癌による間接所見を見逃さないことである.US や CT で腫瘍が描出されなくても主膵管拡張や囊胞といった間接所見を認める場合には, 積極的に MRCP や EUS を行うことが望ましい. 腫瘍描出率は EUS が最も良好で,MRCP では限局性膵管狭窄が重要な間接所見である. 限局性膵管狭窄は膵癌を疑う所見として ERCP 下膵液細胞診を繰り返し施行することが勧められる. 早期の膵癌の診断方法に関する前向き試験は少なく, 今後の検討が必要な分野である. 498 14214

5 第1 章 1. 膵癌診療ガイドライン 3 CQ2 外科手術 膵癌 疑 所見, 可能 限 病理学的診断 行, 手術適応 決定 化学療法, 化学放射線療法 適切 行 重要. 推奨 治療 第一選択, 個々 患者 年齢, 併存疾患, 全身状態 総合的 判断 決定. 今回の改訂では,CQ2 2 腹腔洗浄細胞診陽性症例の切除意義,CQ2 7 膵癌に対する内視鏡的切除の意義,CQ2 9 Borderline resectable 膵癌の治療の 3 つの CQ が追加された. これらはエビデンスの高い論文が少なく, 結論を得られるだけの根拠がまだ乏しいが, 日常臨床において遭遇する重要な問題で, 今後のさらなる検討を必要とする課題である. CQ2 1 Stage Ⅳa 膵癌に対する手術的切除療法の意義はあるか? Stage Ⅳa までの膵癌 ( 注 ) には根治を目指した手術切除療法を行うことが推奨される ( グレード B). ( 注 ) 膵癌取扱い規約 第 6 版の Stage Ⅳa で上腸間膜動脈 (SMA) もしくは腹腔動脈幹 (CA) に浸潤のないものが対象. 上腸間膜動脈, 腹腔動脈幹に浸潤のない膵癌の外科切除は化学放射線治療に比べて治療成績がよく,R0 を目指して積極的な手術が勧められる. 術前の進展度診断が開腹時の所見と異なることがあり, 治療法の決定は開腹診断が重要である. また, 腹膜播種や肝転移の診断に診断的腹腔鏡が有用である.Borderline resectable 膵癌に対しては後述の CQ2 9 に独立して記載された. CQ2 2 腹腔洗浄細胞診陽性症例の切除の意義はあるか? 腹腔洗浄細胞診陽性の膵癌に対しての膵切除を行うべきか, 否かは明らかではない. 今後, 臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきである ( グレード C1). 腹腔洗浄細胞診陽性例に関する報告では前向き試験や RCT がなく, 結論は出ていない. 非切除膵癌については腹腔洗浄細胞診陽性例は陰性例に比べて予後不良であるという報告が多い. 一方, 切除例を対象とした検討では両者に予後の差がないとする報告も複数あり, 腹腔洗浄細胞陽性例に対する切除術の是非について結論は得られていない. CQ2 3 膵頭部癌に対しての膵頭十二指腸切除において胃 ( 全胃あるいは亜全胃 ) を温存する意義はあるか? 膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除において胃 ( 全胃あるいは亜全胃 ) 温存によって手術時間は短縮され, 出血量は少なく, また生存率低下はない ( グレード C1). 一方で, 胃 ( 全胃あるいは亜全胃 ) 温存によるによる術後合併症の低下,QOL, 術後膵機能, 栄養状態の改善については明らかではない ( グレード C1). 胃の 2/3 切除を伴う膵頭十二指腸切除 (PD) と幽門輪とともに胃を温存する幽門輪温存膵頭十二指腸切除 (PPPD) の比較について, 対象を膵頭部癌に限ったものではないが RCT やメタアナリシスが複数行われている.PPPD のほうが PD に比べて手術時間が短く, 出血量も少なく, 両者で合併症や手術死亡は有意差がないとする報告が多い.