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異文化能力の概念化と応用 : 批判的再考 ケンパー マティアス 08VT008S 要旨 本研究の目的は1) 既存の異文化能力論の批判的再考 2) 文化的差異の共有 を中心とする異文化能力の概念化及び3) 提唱された異文化能力モデルの応用についての考察である 本稿は4 章の構造からなる 第 1 章において異文化コミュニケーション能力の概念化に必要な理論的条件と概論としての問題点を考察し 続く第 2 章において既存の異文化コミュニケーション能力の諸定義とモデルの批判的再考を行った 第 3 章において新たな異文化能力を概念化と定義し その具体的な応用については第 4 章にて言及した 本研究の文献調査を経て 現代の異文化能力論には理論上及び応用上の難点が多数であると明らかになった 故に 異文化能力論の国際理解教育への貢献は乏しいとの結論に至った 教育及び実践に有効な異文化能力の概念化を果たすためには その理論的条件を明確にする必要がある 理論上妥当でありかつ応用可能な異文化能力モデルの理論的存在条件として 文化一般性 独立性 能力 パフォーマンスの区分 及び 文脈 目的の明瞭性 の四条件を第 1 章の考察から導き出した 概念の存在条件の提示に続いて 異文化コミュニケーションにおける成功または失敗の指標として 適切性 と 効果性 を考察した 無論 文化によって 適切 効果的であるとされる言動や行動は異なるものの 適切かつ効果的なコミュニケーションによって結果として得られるものは普遍的に文化間に共通していると想定する つまり 適切なコミュニケーションの結果は例として友好な人間関係であるのに対し 効果的なコミュニケーションは当事者の目標達成または課題解決につながると考える 効果性がもたらす結果の例として 国際ビジネスにおける成約件数や売り上げ目標の達成等が挙げられる I

第 2 章の既存の異文化能力モデルと定義の考察に続いて 第 3 章にて異文化能力の概念化を行った しかし 異文化コミュニケーションの成功には無数の要因が関わるため 本稿は 独立性 の存在条件を満たすために複数の要因 ( 外国語運用能力 感情調整能力等々 ) から成る総合体をまず 異文化コミュニケーションの能力 とし そこから Byram(1997) に倣って 異文化能力 を分別した この 異文化能力 が異文化における対人関係の構築を可能とする決定的能力であると考えている 一方 対人関係の構築を阻む要因として 文化的差異によって 引き起こされる当事者の正常感の喪失を想定する 逆に言えば 異文化接触に おける不安や不確実性を解消する能力が 即ち異文化能力となるのである 尚 本稿は異文化能力論における実証主義的なアプローチをとらない 関連して異文化理解の可能性を完全否定しなくとも 本稿はその現実性と応用性を疑問視する つまり 客観的な深層にわたる異文化理解が実際にほぼ不可能であると想定すれば 客観的な手法を用いた異文化能力の測定も不可能になる 即ち 実証主義の立場から異文化能力を論じることは その検証と実証が不可能であるがために 異文化能力の概念としての存在を否定することになると考える 一方 国際社会においては 長期にわたる異文化適応のみならず 短期の異文化接触に頻繁に遭遇する法人 個人も応用可能かつ有効な異文化能力モデルを求める この需要に応えるため そして理論的な妥当性を得るために 本稿は現象学的解釈学に基づいた 地平線の融合 (Gadamer, 1960) というドイツ哲学の思想を礎にしており 文化機能論における文化の結束性 (Rathje, 2006) を枠組みに 差異共有 の概念を異文化能力の定義に用いる ほかにGudykunst による AUM 理論を参考にしながら 異文化能力を 他文化に属する相手との文化的差異を認知し そしてそれらの相違点を コミュニケーションを通じて正常感を生み出すように共有化する能力 ( 差異共有能力 ) として定義した II

差異共有能力としての異文化能力は異文化理解を前提条件とせずに 発信型 の異文化コミュニケーションへのパラダイムシフトを促進すると期待する つまり 一方的な適応や文化的知識の学習と理解ではなく 文化的価値観や特徴の開示 ( 相手への発信 ) と逆に相手から文化的価値観等を聞き出すコミュニケーションこそが文化的差異の共有をもたらすと考える 発信においては文化的差異そのものが解消されていないが 差異の実存が受け止められることによって 相互作用における意外性 即ち不安や不確実性が減少し 結果的に 正常感 が創出される そして正常感の創出によって文化の結束性が機能し 対人関係の構築と維持が個人間の差異にもかかわらず可能になると想定する 無論 文化的差異の共有プロセスの実践においては 発信や傾聴の仕方によって異文化能力の発揮とその結果が左右されようが 異文化能力の応用上の問題及びその可能性については本稿の第 4 章にて考察した その前には 提唱した異文化能力モデルの有効性を確かめるために理論的検証及び小規模な質的調査を行った 理論的検証において 第 1 章にて導き出された理論的存在条件を異文化能力の定義に当てはめたが 全ての条件が満たされた 質的調査においても 異文化能力の有効性が次のように示唆された 異文化能力が高いと想定される協力者は そうでないインフォーマントと異なり 自らの考え方を明確かつ積極的に相手に発信し そして相手と共にメタコミュニケーションを意図的に行う傾向が共通点として確認された つまり 発信 と メタコミュニケーション の実施によって文化的差異が共有化され 結果的に協力者が適切かつ効果的な異文化コミュニケーションを果たしていると窺える よって 本稿が提唱する差異共有能力としての異文化能力の妥当性が 得られたデータから窺えるのである 尚 本稿の異文化能力の有効性を実証するためには更なる調査が必要であるが その実施を今後の課題とする III

目次 序章... 3 はじめに... 4 論文の構造... 6 研究の意義... 6 研究の目的... 7 方法論... 7 用語について... 8 第 1 章異文化コミュニケーション能力の総論... 10 1.1 異文化能力論に対する批判... 11 1.2 異文化コミュニケーション能力の存在条件... 17 1.3 異文化コミュニケーションにおける 成功 と 失敗... 20 1.4 異文化コミュニケーション能力と対人コミュニケーション能力の関係... 24 1.5 現代の異文化能力論におけるパラダイムシフト... 26 1.5.1 国際理解 異文化理解の限界... 26 1.5.2 現象学へのパラダイムシフト... 27 1.5.3 発信型異文化コミュニケーションへのパラダイムシフト... 28 1.6 異文化能力論の必要性... 31 第 2 章既存の異文化能力理論の批判的考察... 33 2.1 先行研究における異文化コミュニケーション能力の諸概念と用語... 34 2.2 先行研究における異文化コミュニケーション能力の諸定義... 36 2.2.1 適切性または効果性に重点をおく定義... 36 2.2.2 相互作用の相手について言及する定義... 40 2.2.3 異文化コミュニケーションの過程に言及する定義... 45 2.2.4 精神面に言及する定義... 49 2.2.5 異文化コミュニケーション能力の創造性に言及する定義... 51 2.3 先行研究における異文化コミュニケーション能力に関わる性質... 52 2.4 先行研究における主流の異文化コミュニケーション能力モデル... 57 2.4.1 Ruben による異文化コミュニケーション能力の 7 次元... 57 2.4.2 Deardorff による異文化コミュニケーション能力の 4 次元... 59 2.4.3 Gudykunst による不安 不確実性管理理論 (AUM)... 61 2.4.4 Cupach & Imahori によるアイデンティティ管理理論 (IMT)... 63 2.4.5 Ting Toomey によるアイデンティティ交渉理論 (INT)... 66 2.4.6 Kim による異文化 ( ホスト ) コミュニケーション能力モデル... 68 2.4.7 Byram による異文化コミュニケーション能力モデル... 71 1

2.5 異文化能力論における派閥とモデルの種類... 73 2.6 異文化コミュニケーション能力の測定... 75 2.7 異文化能力論に対する批判... 77 第 3 章異文化能力モデルの提示... 81 3.1 メタモデルの提示... 82 3.1.1 異文化接触のメタモデル... 82 3.1.2 異文化コミュニケーション能力クラスターの解体... 84 3.1.3 異文化能力モデルの文脈と目的... 84 3.2 対人関係構築能力としての異文化能力... 85 3.2.1 文化機能論における文化の結束性... 86 3.3 差異共有能力モデルとしての異文化能力の概念化... 94 3.3.1 差異共有能力モデルとしての異文化能力の定義... 94 3.3.2 地平線の融合 の異文化能力における意味... 97 3.4 差異共有能力モデルの検証... 102 3.4.1 理論的検証... 102 3.4.2 質的検証... 105 a) 調査方法... 105 b) 調査期間 場所 使用言語... 105 c) 対象者の選考方法... 106 d) インタビューの中心的質問... 107 e) インタビュー調査の結果... 108 f) インタビュー調査のまとめ... 112 第 4 章 差異共有能力 モデルの応用... 113 4.1 差異共有能力の実践的応用... 114 4.1.1 差異の発見... 114 4.1.2 差異の共有... 118 4.2 差異共有能力の育成とトレーニング... 124 4.2.1 学校教育における異文化能力モデルの応用... 124 4.2.2 企業における異文化能力モデルの応用... 127 おわりに... 129 参考文献... 132 付録 A 英語 ドイツ語の用語の日本語訳について... 141 付録 B インタビュー調査の協力者について... 142 2