マスコミへの訃報送信における注意事項

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マスコミへの訃報送信における注意事項

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

る現象 ( 注 4) が確認されています しかし グラフェンでは本質的に電子間の電気 磁気的 な相互作用自体が弱く このため ディラック物質における電子社会の多様性については 実 験的にまだ十分に理解が進んでいないのが現状です 今回 仏グルノーブル国立科学研究センターの平田倫啓博士 ( 日本学術振興

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論文の内容の要旨

4. 発表内容 : 超伝導とは 低温で電子がクーパー対と呼ばれる対状態を形成することで金属の電気抵抗がゼロになる現象です これを室温で実現することができれば エネルギー損失のない送電や蓄電が可能になる等 工業的な応用の観点からも重要視され これまで盛んに研究されてきました 超伝導発現のメカニズム す

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スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

マスコミへの訃報送信における注意事項

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

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4. 発表内容 : 1 研究の背景と経緯 電子は一つ一つが スピン角運動量と軌道角運動量の二つの成分からなる小さな磁石 ( 磁 気モーメント ) としての性質をもちます 物質中に無数に含まれる磁気モーメントが秩序だって整列すると物質全体が磁石としての性質を帯び モーターやハードディスクなど様々な用途

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

5. 磁性イオン間の相互作用

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

Microsoft Word - note02.doc

機器分析化学 3.核磁気共鳴(NMR)法(1)

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有機4-有機分析03回配布用

非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功

Microsoft PowerPoint - 第2回半導体工学

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特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

Microsoft PowerPoint - 熱力学Ⅱ2FreeEnergy2012HP.ppt [互換モード]

論文の内容の要旨 論文題目 Spectroscopic studies of Free Radicals with Internal Rotation of a Methyl Group ( メチル基の内部回転運動を持つラジカルの分光学的研究 ) 氏名 加藤かおる 序 フリーラジカルは 化学反応の過

Microsoft Word - Web掲載用 CEMS-KentaroUEDA_他機関確認用_工学部【広報課確認】 - コピー.docx

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

平成22年11月15日

SE法の基礎

スライド 1

1 背景 物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ 通常反粒子が別の粒子として存在します 例えば 電 子の反粒子は陽電子であり 異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます 一方で 粒子と反 粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が 素粒子の一つとして 1937 年に予言

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

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銅酸化物高温超伝導体の フェルミ面を二分する性質と 超伝導に対する上純物効果

論文の内容の要旨 論文題目 複数の物性が共存するシアノ架橋型磁性金属錯体の合成と新奇現象の探索 氏名高坂亘 1. 緒言分子磁性体は, 金属や金属酸化物からなる従来の磁性体と比較して, 結晶構造に柔軟性があり分子や磁気特性の設計が容易である. この長所を利用して, 当研究室では機能性を付与した分子磁性


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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

TOKYO UNIVERSITY OF SCIENCE 1-3 KAGURAZAKA, SHINJUKU-KU, TOKYO , JAPAN Phone: 報道関係各位 2018 年 4 月 24 日 擬 2 次元空間に閉じ込められた水に二つの新たな状

光で絶縁体を未知の金属相へと相転移させることに成功

Chap. 1 NMR

Microsoft PowerPoint - 多核NMRへの応用_提出版.pptx

Microsoft PowerPoint - hiei_MasterThesis

Microsoft PowerPoint - meta_tomita.ppt


トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研


平成**年*月**日

マスコミへの訃報送信における注意事項

本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

熱電変換の紹介とその応用について.ppt

 

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

             論文の内容の要旨

4. 発表内容研究の背景熱力学は物理学の基礎理論の一つであり その応用は熱機関や化学反応など多岐にわたっています 熱力学においてとりわけ重要なのは 第二法則です 熱力学第二法則とはエントロピー増大則に他ならず 断熱された系のエントロピーが減ることはない と表されます 熱力学第二法則は不可逆な変化に関

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

予定 (川口担当分)

領域代表者 : 金井求 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 研究期間 :2017 年 7 月 ~2023 年 3 月上記研究課題では 独立した機能を持つ複数の触媒の働きを重奏的に活かしたハイブリッド触媒系を創製し 実現すれば大きなインパクトを持つものの従来は不可能であった 極めて効率の高い有機合

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

( 全体 ) 年 1 月 8 日,2017/1/8 戸田昭彦 ( 参考 1G) 温度計の種類 1 次温度計 : 熱力学温度そのものの測定が可能な温度計 どれも熱エネルギー k B T を

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(Microsoft PowerPoint _4_25.ppt [\214\335\212\267\203\202\201[\203h])

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Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

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架橋点が自由に動ける架橋剤を開発〜従来利用されてきた多くの高分子ゲルに柔軟な力学物性をもたらすことが可能に〜

物理学 II( 熱力学 ) 期末試験問題 (2) 問 (2) : 以下のカルノーサイクルの p V 線図に関して以下の問題に答えなさい. (a) "! (a) p V 線図の各過程 ( ) の名称とそのと (& きの仕事 W の面積を図示せよ. # " %&! (' $! #! " $ %'!!!

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

研究の背景 強い光の照射によって 物質が元の光とは異なる色で光ったり 弱い光が増幅されたりする現象は 非線形光学効果と呼ばれます 第二高調波発生などの波長変換 ( 図 1a) やレーザーの原理として知られる誘導放出 ( 図 1b) はその代表的例です 近年のレーザー技術の進歩は アト秒 (1 アト秒

 

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

しかし これまでの研究では物質と光電場共に 1 次元的に取り扱っており 3 次元の自由度 を有する試料と 2 次元の偏光状態を有する光電場の相互作用を記述するには不十分でした < 研究内容 > 物性研の板谷研究室で開発した波長が 5 ミクロンの高強度中赤外レーザーを セレン化ガ リウム結晶に集光する

基礎化学 Ⅰ 第 5 講原子量とモル数 第 5 講原子量とモル数 1 原子量 (1) 相対質量 まず, 大きさの復習から 原子 ピンポン玉 原子の直径は, 約 1 億分の 1cm ( 第 1 講 ) 原子とピンポン玉の関係は, ピンポン玉と地球の関係と同じくらいの大きさです 地球 では, 原子 1

< 研究の背景 内容 > 金属は電気を伝える媒体として利用されますが その過程で電気抵抗によりエネルギー損失が起こります 超伝導体は電気抵抗を持たないためエネルギー損失なく電気を運ぶことが可能で そのためできるだけ高い温度で超伝導になる物質の開発が急務とされています 多くの超伝導体は原子を構成単位と

2. 分子の形

Transcription:

磁性体が乱れによって量子スピン液体に生まれ変わる 1. 発表者 : 古川哲也 ( 東京理科大学理学部第一部応用物理学科助教 / 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻学術支援専門職員 : 研究当時 ) 宮川和也 ( 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻助教 ) 伊藤哲明 ( 東京理科大学理学部第一部応用物理学科准教授 ) 伊藤美穂 ( 埼玉大学大学院理工学研究科物質科学部門大学院生 : 研究当時 ) 谷口弘三 ( 埼玉大学大学院理工学研究科物質科学部門准教授 ) 斉藤みく ( 東北大学金属材料研究所大学院生 : 研究当時 ) 井口敏 ( 東北大学金属材料研究所准教授 ) 佐々木孝彦 ( 東北大学金属材料研究所教授 ) 鹿野田一司 ( 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授 ) 2. 発表のポイント : 分子性結晶 ( 注 1) に X 線を照射すると 電子スピン ( 注 2) が規則的に整列している磁性体が量子スピン液体 ( 注 3) に変わることを発見した 強く相互作用する電子集団に乱れを導入することによって量子スピン液体を発現させることに初めて成功した 新規量子相を乱れによって発現させるというこれまでにない物質相の探索方法を提示した 3. 発表概要 : 結晶中の電子やスピンは高温では熱的なゆらぎにより無秩序状態を示しますが 低温にな ると磁気秩序 超伝導などさまざまな秩序化現象を示すことが広く知られています このよう な秩序化現象に対して 結晶中の欠陥などに起因する乱れの効果は秩序化を曖昧なものにする 場合が多く 電子状態の研究においては邪魔な存在だと多くの場合考えられてきました 一方 で 電子同士が強く相互作用する電子集団においては 乱れの効果がどのような形で現れるか はよくわかっていませんでした 今回 東京大学大学院工学系研究科の古川哲也学術支援専門職員 ( 研究当時 ) 宮川和也 助教 鹿野田一司教授 東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦教授らを中心とする研究チームは 分子性結晶の磁性体に X 線を照射することによって乱れを導入した結果 結晶がもともと示していた反強磁性磁気秩序 ( 注 4) が絶対零度 ( 注 5) に近い 340 mk という極低温まで消失していることを核磁気共鳴 ( 注 6) 実験により明らかにしました この結果は 強く相互作用する電子集団に乱れを導入することで 量子スピン液体状態を生み出すことに初めて成功したことを意味します 本研究は 現在世界中で盛んに研究されている量子物質や量子液体相を乱れによって発現させるという これまでにない物質相の探索方法を提示するものです 本研究は 東京大学 東京理科大学 埼玉大学 東北大学の共同研究として行われ 米国科学誌 Physical Review Letters ( オンライン版 2015 年 8 月 10 日付 雑誌版 8 月 14 日付 ) に掲載される予定です

4. 発表内容 : ( 背景 ) 現代の物質科学 物性物理学においては 物質中の新しい量子状態の発見とその理解 応用が大きな目的の一つとなっています 物質中の量子状態を考える上で 結晶が持つ不完全性 ( 不純物 欠陥等 ) に起因する乱れの効果が古くから研究されてきました 一般に 結晶中の 電子やスピンは高温では熱的なゆらぎにより無秩序状態を示しますが 低温になると磁気秩序 超伝導など様々な秩序化現象を示すことが広く知られています このような秩序化現象に対して 乱れの効果は秩序化を曖昧なものにしてしまう場合が多く 秩序化した電子状態の研究 あるいは新しい量子状態の探索においては 邪魔な存在だと多くの場合考えられてきました 一方で 電子同士が互いに強く相互作用する電子集団においては 相互作用とかけ合わさった乱れには この負の効果を超える効果が期待されます ( 図 1) それは 乱れという電子に対する局所的な効果が 電子同士の相互作用によって広く伝播し 系全体として質的に異なる状態を生む可能性があるからです ( 研究内容と成果 ) 今回 研究チームは 分子性結晶 κ (ET)2Cu[N(CN)2]Cl(ET: ビス ( エチレンジチオ ) テトラチアフルバレンの略 Cu: 銅 C: 炭素 N: 窒素 Cl: 塩素 ) と呼ばれる 低温で反強磁性磁気秩序を示す磁性体 ( 反強磁性モット絶縁体 ) に注目しました この物質はわずかな圧力を加えることで金属化することが知られており 結晶中の強く相互作用する電子が 金属になる寸前のところで絶縁体になっているのが特徴です 本研究ではまず この物質に対し X 線を 500 時間照射し 結晶中に乱れを導入しました そしてこの結晶の磁性を絶対零度に近い 340 mk という極低温まで 核磁気共鳴実験によって測定したところ 核磁気共鳴スペクトルが温度を下げても変化しないことを観測できました ( 図 2) これは X 線照射前の結晶が示していた反強磁性磁気秩序が 乱れによって完全に消失したことを示しています 一方 電子スピンは秩序化しないものの激しくゆらいでいることも核磁気共鳴実験でわかりました これらの結果は現在世界中で探索が行われている量子スピン液体状態が実現していることを示唆すものであり 本来であれば互いに強く相互作用して秩序状態となる電子スピンが乱れによって量子スピン液体という新たな相に生まれ変わったことを意味します ( 本研究の意義 今後の展望 ) 本研究は 強く相互作用する電子の環境を乱すという 一見負の効果をもたらすと考えられる外部操作が 意外にも新しい量子相を発現させるという 新規な物質相の探索における逆説的で新しい方法を提示しています 本研究は 東京大学 東京理科大学 埼玉大学 東北大学の共同研究として行われ 米国科学誌 Physical Review Letters ( オンライン版 2015 年 8 月 10 日付 雑誌版 8 月 14 日付 ) に掲載される予定です 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Physical Review Letters ( オンライン版 2015 年 8 月 10 日付 雑誌版 8 月 14 日付 ) 論文タイトル :Quantum Spin Liquid Emerging from Antiferromagnetic Order by Introducing Disorder

著者 :T. Furukawa, K. Miyagawa, T. Itou, M. Ito, H. Taniguchi, M. Saito, S. Iguchi, T. Sasaki, and K. Kanoda DOI 番号 : アブストラクト URL:http://www. 6. 問い合わせ先 : 東京理科大学理学部第一部応用物理学科助教古川哲也 ( ふるかわてつや ) 電話 : 03-5876-1717( 代表 ) 内線 1767 e-mail: tetsuya.furukawa@rs.tus.ac.jp 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授鹿野田一司 ( かのだかずし ) 電話 : 03-5841-6830 Fax: 03-5841-8808 e-mail: kanoda@ap.t.u-tokyo.ac.jp 東北大学金属材料研究所低温電子物性学研究部門教授佐々木孝彦 ( ささきたかひこ ) 電話 : 022-215-2025 Fax: 022-215-2026 e-mail: takahiko@imr.tohoku.ac.jp 7. 用語解説 : ( 注 1) 分子性結晶 : ダイヤモンドなどの原子を構成単位とする結晶と異なり 分子を構成単位とする結晶 分子同士は共有結合などに比べて弱い分子間力によって結合するため 結晶が圧力変化などの外部環境の変化に応答しやすい特徴を持つ ( 注 2) スピン : 電子の自転運動とみなせるような 角運動量を伴う電子の内部自由度 スピン磁気モーメントと呼ばれる磁石の最小構成単位と対応している ( 注 3) 量子スピン液体 : 電子のスピン磁気モーメントが互いに強く相互作用しているものの 絶対零度においても磁気秩序を起こさない状態 高温において熱ゆらぎによってスピン磁気モーメントが無秩序に動いている状態を スピンの気体 磁気秩序によってスピン磁気モーメントが整列し止まっている状態を スピンの固体 とみなすとき スピン同士の向きの相関が強いが無秩序の状態を ( 短距離的な位置の相関があるにもかかわらず無秩序状態にある液体状態を模して ) 量子スピン液体と呼ぶ ( 注 4) 反強磁性磁気秩序 : 物質中の結晶格子に局在している電子が持つスピン磁気モーメントと呼ばれるミクロな磁石が 隣同士向きを逆にして自発的に整列している状態 および その秩序のこと

( 注 5) 絶対零度 : 熱力学における温度の下限値 絶対零度では 系に熱ゆらぎがまったく存 在しない ( 注 6) 核磁気共鳴 : 結晶内部のミクロな磁性を知ることができる実験手法 物質を静磁場中に置くことで 物質中の核スピン磁気モーメントを歳差運動させ その運動周期に等しい周波数を持つ電磁波を核スピンに加える事で 核スピンの周囲に存在する電子スピンの情報を得ることができる 8. 添付資料 : 図 1 強く相互作用する電子系に対する乱れの効果をあらわす概念図 電子間に相互作用がない系では乱れの効果は限定的である場合が多い 一方で 電子間に相互作用が強い系では乱れの効果と相互作用の効果がかけあわさって 系全体が質的に変化する可能性がある

図 2 κ-(et)2cu[n(cn)2]cl の核磁気共鳴スペクトル (a) X 線未照射試料と 500 時間照射された試料における核磁気共鳴スペクトルの温度依存性 500 時間 X 線を照射され 乱れを導入した試料では反強磁性磁気秩序によるスペクトルの分 裂が消失している (b) 極低温領域における 500 時間照射された試料の核磁気共鳴スペクトル スペクトルの形状が変化しておらず 反強磁性磁気秩序やその他の磁気秩序が絶対零度付近の極低温に至っても生じていないことを示している