Microsoft PowerPoint - logic.pptx

Similar documents
Microsoft PowerPoint - HITproplogic.ppt

知識工学 II ( 第 2 回 ) 二宮崇 ( ) 論理的エージェント (7 章 ) 論理による推論 命題論理 述語論理 ブール関数 ( 論理回路 )+ 推論 ブール関数 +( 述語 限量子 ( ) 変数 関数 定数 等号 )+ 推論 7.1 知識

Microsoft PowerPoint - fol.ppt

Microsoft PowerPoint - logic ppt [互換モード]

論理学補足文書 7. 恒真命題 恒偽命題 1. 恒真 恒偽 偶然的 それ以上分割できない命題が 要素命題, 要素命題から 否定 連言 選言 条件文 双 条件文 の論理演算で作られた命題が 複合命題 である 複合命題は, 命題記号と論理記号を 使って, 論理式で表現できる 複合命題の真偽は, 要素命題

Microsoft PowerPoint - 10.pptx

Microsoft PowerPoint - 5.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - 2.ppt [互換モード]

次は三段論法の例である.1 6 は妥当な推論であり,7, 8 は不妥当な推論である. [1] すべての犬は哺乳動物である. すべてのチワワは犬である. すべてのチワワは哺乳動物である. [3] いかなる喫煙者も声楽家ではない. ある喫煙者は女性である. ある女性は声楽家ではない. [5] ある学生は

PowerPoint プレゼンテーション

文法と言語 ー文脈自由文法とLR構文解析2ー

融合規則 ( もっとも簡単な形, 選言的三段論法 ) ll mm ll mm これについては (ll mm) mmが推論の前提部になり mmであるから mmは常に偽となることがわかり ll mmはllと等しくなることがわかる 機械的には 分配則より (ll mm) mm (ll mm) 0 ll m

Microsoft PowerPoint - 3.ppt [互換モード]

オートマトンと言語

プログラミング基礎

切片 ( 定数項 ) ダミー 以下の単回帰モデルを考えよう これは賃金と就業年数の関係を分析している : ( 賃金関数 ) ここで Y i = α + β X i + u i, i =1,, n, u i ~ i.i.d. N(0, σ 2 ) Y i : 賃金の対数値, X i : 就業年数. (

Microsoft Word - VBA基礎(3).docx

2014 年度 SCCP s 古河智弥 目的 論理型プログラミング言語 Prolog の学習 宣言型言語であり 探索などに利用することができるプログラミング言語 Prolog の基本を習得し 機械学習の研究への応用および データベースの問い合せ言語として Prolog を記述する方法を

kantan_C_1_iro3.indd

オートマトン 形式言語及び演習 1. 有限オートマトンとは 酒井正彦 形式言語 言語とは : 文字列の集合例 : 偶数個の 1 の後に 0 を持つ列からなる集合 {0, 110, 11110,

マウス操作だけで本格プログラミングを - 世界のナベアツをコンピュータで - プログラムというと普通は英語みたいな言葉で作ることになりますが 今回はマウスの操作だけで作ってみます Baltie, SGP System 操作説明ビデオなどは 高校 情

コンピュータ工学講義プリント (7 月 17 日 ) 今回の講義では フローチャートについて学ぶ フローチャートとはフローチャートは コンピュータプログラムの処理の流れを視覚的に表し 処理の全体像を把握しやすくするために書く図である 日本語では流れ図という 図 1 は ユーザーに 0 以上の整数 n

Microsoft PowerPoint Java基本技術PrintOut.ppt [互換モード]

数学の世界

オートマトン 形式言語及び演習 3. 正規表現 酒井正彦 正規表現とは 正規表現 ( 正則表現, Regular Expression) オートマトン : 言語を定義する機械正規表現 : 言語

今回のプログラミングの課題 ( 前回の課題で取り上げた )data.txt の要素をソートして sorted.txt というファイルに書出す ソート (sort) とは : 数の場合 小さいものから大きなもの ( 昇順 ) もしくは 大きなものから小さなもの ( 降順 ) になるよう 並び替えること

日本語「~ておく」の用法について

Java Scriptプログラミング入門 3.6~ 茨城大学工学部情報工学科 08T4018Y 小幡智裕

書式に示すように表示したい文字列をダブルクォーテーション (") の間に書けば良い ダブルクォーテーションで囲まれた文字列は 文字列リテラル と呼ばれる プログラム中では以下のように用いる プログラム例 1 printf(" 情報処理基礎 "); printf("c 言語の練習 "); printf

JavaプログラミングⅠ

Microsoft PowerPoint - exp2-02_intro.ppt [互換モード]

構造化プログラミングと データ抽象

構造化プログラミングと データ抽象

Microsoft Word - no11.docx

喨微勃挹稉弑

Microsoft PowerPoint - logic ppt [互換モード]

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word ã‡»ã…«ã‡ªã…¼ã…‹ã…žã…‹ã…³ã†¨åłºæœ›å•¤(佒芤喋çfl�)

nlp1-05.key

微分方程式による現象記述と解きかた

プログラミング実習I

             論文の内容の要旨

計算機アーキテクチャ

Microsoft Word - 11 進化ゲーム

様々なミクロ計量モデル†

数学の学び方のヒント

プログラミングA

Microsoft PowerPoint - 08LR-conflicts.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - mp11-02.pptx

補足 中学で学習したフレミング左手の法則 ( 電 磁 力 ) と関連付けると覚えやすい 電磁力は電流と磁界の外積で表される 力 F 磁 電磁力 F li 右ねじの回転の向き電 li ( l は導線の長さ ) 補足 有向線分とベクトル有向線分 : 矢印の位

Sort-of-List-Map(A)

Microsoft Word - VBA基礎(6).docx

C プログラミング演習 1( 再 ) 2 講義では C プログラミングの基本を学び 演習では やや実践的なプログラミングを通して学ぶ

紀要_第8号-表紙

Microsoft Word - intl_finance_09_lecturenote

Microsoft Word - 佐々木和彦_A-050(校了)

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)のポイント

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D208CA48B868FD089EE288FDA82B582A294C5292E B8CDD8AB B83685D>

JAPLA研究会資料 2010/9/ Excel_

<4D F736F F F696E74202D B835E8AEE91622D566F6C322D B A C682CD2E >

nlp1-04a.key

始めに, 最下位共通先祖を求めるための関数 LcaDFS( int v ) の処理を記述する. この関数は値を返さない再帰的な void 関数で, 点 v を根とする木 T の部分木を深さ優先探索する. 整数の引数 v は, 木 T の点を示す点番号で, 配列 NodeSpace[ ] へのカーソル

プログラミングA

040402.ユニットテスト

2-1 / 語問題 項書換え系 4.0. 準備 (3.1. 項 代入 等価性 ) 定義 3.1.1: - シグネチャ (signature): 関数記号の集合 (Σ と書く ) - それぞれの関数記号は アリティ (arity) と呼ばれる自然数が定められている - Σ (n) : アリ

Microsoft Word - thesis.doc

オートマトン 形式言語及び演習 4. 正規言語の性質 酒井正彦 正規言語の性質 反復補題正規言語が満たす性質 ある与えられた言語が正規言語でないことを証明するために その言語が正規言語であると

1 ICT Foundation 命題論理の基礎 Copyright 2010, IT Gatekeeper Project Ohiw a Lab. All rights reserved.

nlp1-12.key

COMET II のプログラミング ここでは機械語レベルプログラミングを学びます 1

ポインタ変数

行列、ベクトル

ic3_cf_p1-70_1018.indd

2011年度 東京大・文系数学

3-4 switch 文 switch 文は 単一の式の値によって実行する内容を決める ( 変える ) 時に用いる 例えば if 文を使って次のようなプログラムを作ったとする /* 3 で割った余りを求める */ #include <stdio.h> main() { int a, b; } pri


プログラミング入門1

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

Java講座

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

Microsoft Word ws03Munchhausen2.doc

"éı”ç·ıå½¢ 微勃挹稉弑

Microsoft PowerPoint - 3.pptx

Microsoft PowerPoint - mp11-06.pptx

DVIOUT-SS_Ma

学習指導要領

JavaプログラミングⅠ

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

コンピュータ応用・演習 情報処理システム

講義の進め方 第 1 回イントロダクション ( 第 1 章 ) 第 2 ~ 7 回第 2 章 ~ 第 5 章 第 8 回中間ミニテスト (11 月 15 日 ) 第 9 回第 6 章 ~ 第 回ローム記念館 2Fの実習室で UML によるロボット制御実習 定期試験 2

3,, となって欲しいのだが 実際の出力結果を確認すると両方の配列とも 10, 2, 3,, となってしまっている この結果は代入後の配列 a と b は同じものになっていることを示している つまり 代入演算子 = によるの代入は全要素のコピーではなく 先をコピーする ため 代入後の a と b は

Microsoft PowerPoint - OS12.pptx

<4D F736F F D208CF68BA48C6F8DCF8A C30342C CFA90B68C6F8DCF8A7782CC8AEE967B92E8979D32288F4390B394C529332E646F63>

ファイナンスのための数学基礎 第1回 オリエンテーション、ベクトル

Microsoft Word _VBAProg1.docx

T_BJPG_ _Chapter3

Microsoft Word - Stattext12.doc

Microsoft Word - NumericalComputation.docx

初めてのプログラミング

Transcription:

今回からは 知識と推論 と題し, エージェントがタスクをこなすために必要な実世界に関する知識をコンピュータ内で知識ベースとして表現し, それらの知識を連携させる推論技術によって新しい知識を導き出し, エージェントの問題解決や意志決定に役立てる技術を学ぶ. 特に今回の授業では 論理 による知識の表現方法と推論方式について学ぶ. まず, 人工知能と論理の関係を理解した後, いろいろな論理と推論方式があることを見る. また, 論理を取り扱う際の学術的な枠組みとして, 構文論, 意味論, および推論システムを明確に定義する必要があることを理解する. つぎに, 論理の具体的かつ最も簡単な例として命題論理を取り上げ, その構文論, 意味論, および推論システムを学び, 例題として, 簡単なゲームの世界を見ておく. 1

これまで学んできた 探索 による問題解決手法では, 問題を初期状態オペレータ ( 行為 ) ゴール検査経路コストの4つの情報で規定し, おもに探索アルゴリズムの性能を議論してきた. しかし, ここでは, 状態 や 行為の結果( 状態遷移 ) をどのように記述したら良いか, という問題が置き去りにされている. 探索アルゴリズムにおいては, 状態とは抽象的なものであり, たとえば, 整数によって表現された一連番号であってもかまわないし, また, それ以上のことを必要ともしていない. しかし, 複雑な問題領域においては, 探索アルゴリズム以前の問題として, 解決すべき問題を探索問題として定式化すること自体が困難である. すなわち, 状態 をコンピュータで扱うためにどのように表現すれば良いのだろうか? また, 行為の結果 をどのように計算 ( あるいは推論 ) したら良いのだろうか? 明らかに, それらを適切に記述するための一般的な方法が必要である. その基盤となるのが, 論理 の一般的な考え方とそれを扱う技術である. 2

人工知能における 論理 の役割を説明しておく. 一般に, 人間がコンピュータに情報を与える 言語 といえば, すぐプログラミング言語が思いつく. それはコンピュータへの命令の列すなわちプログラムを具体的に記述したものである. しかし, そもそもAIの究極的な目的の1つは, そのようにいちいち命令しなくても, ふつうの言葉で意図を伝えれば, 自動的に適切な命令を組み立てて実行してくれる知的な情報システムを目指しているのである. そのようなAIシステムでは, コンピュータと人間が日本語や英語などの自然言語で対話することを理想としている. その言語は必ずしもコンピュータへの命令を表したものではなく,AIシステムに何らかの知識を与えたり, 解いて欲しい問題を与えたり, 質問したりするために使われる.AIシステムは獲得した知識を知識ベースと呼ばれる一種のデータベースに蓄える. ただ, 残念ながら, コンピュータが自然言語を理解するという技術はまだ開発途上にあり, 現状ではそれをじゅうぶんに利用することはできない. そこで何らかの人工的な言語で, 知識を与えたり, 問題を記述したり, 質問したりするための知識表現言語と呼ばれる類の言語が必要となる. そのようなものの一つが, 論理に基づく言語なのである. つまり, ここでは論理とは言語のことである. したがって, それを理解するには, 他のいろいろな言語を理解するのと同様に, 正しい文を生成するための文法規則 ( 構文論 ) や与えられた文を解釈する規則 ( 意味論 ) を理解する必要がある. つまり, 知識や問題を表現するという静的な側面が,AIにおける論理の第一の役割である. AIにおける論理の第二の役割は動的なものである.AIシステムは, 与えられた知識ベース内の複数の知識を使って, 新しい知識を動的に生成する機能が求められる. その機能を推論という. コンピュータに推論を行わせるアルゴリズムは, 論理的な推論規則に基づく推論システムとして定義される. したがって, ここでは論理とは推論アルゴリズムという計算手順を作り出すものとして働くことになる. 3

単に論理や推論といっても,AIではさまざまなものが考えられている. まず, 数学の試験問題を解くときのように, 問題を解決するための知識が正確ですべてそろっているとき, それは完全な知識であるという. そういう場合には, ギリシャ時代から発展してきて現在でも多くの科学で使われている標準的で数学的な論理と推論の方法がある. もっとも単純なのは, 命題の真偽を1つの記号で表現する命題論理 (propositional logic) である. それをやや複雑にしたものとして, 命題を, 主語や目的語を表現する名詞 ( オブジェクト ) とそれらの間の関係を表現する動詞 ( 述語 ) などに分解して, 複数の記号で1つの命題を構造的に表現する述語論理 (predicate logic) がある. そのほかにも, 英語の助動詞 must が表す必然性や can, may が表す可能性を扱うことができる様相論理 (modal logic) が研究されている. また, 時間の概念を論理的に表現し,always( いつも~である ) とか eventually( いつか必ず~となる ) のような表現を可能とする時相論理 (temporal logic) は, ハードウェアやソフトウェアの設計や検証にも用いられつつある. 4

実際の応用システムでは, 数学と異なり, すべての知識が正確であるとは限らない. そのような不確実な知識を扱うための推論手法として, ファジィ推論 (fuzzy reasoning) や確率推論 (probabilistic reasoning) がある. また, 知識が欠けているときの推論手法として, 帰納推論 (inductive reasoning) や仮説推論 (hypothetical reasoning) などがある. 特に, 帰納推論は,AI における知識獲得 (knowledge acquisition) や機械学習 (machine learning) の分野と密接に関係している. 5

このように, 一言で 論理 と言っても, 様々なものがある. それらの論理を規定する ( 区別する ) ものは, 構文論, 意味論, 推論システム である. 構文論 (syntax) は, その論理の定める 論理式 と呼ばれるものが, 記号をどのように並べたものなのかを定める規則である. すなわち, 記号の列が与えられたとき, それが 論理式 か否かを判定する規則( いわゆる 文法 ) である. 意味論 (semantics) は, 論理式の意味を理解するための規則である. 論理では, 興味のある 意味 とは 真か偽か ということなので, 意味論は, 与えられた論理式の真偽を判定する規則となる. 推論システム (inference system) は,( 一般に複数の ) 論理式が与えられたとき, それを 前提 として, 結論 として言える論理式を導く( 推論する ) ための規則である. コンピュータを使って推論をさせるので, その規則は, 人間が介在しなくても実行可能な 機械的 なものでなければならない. 6

命題論理の構文論, 意味論, 推論システムについて学ぶ. また, 例題として, 簡単なゲームの世界を見ておく. 7

命題論理の構文論 ( 文法 ) は, 論理式を作るための正しい規則からなっている. まず, 論理式を作るための素材ともいえる構文要素を覚えてほしい. これは, 論理定数, 命題記号, 論理記号の3つに分類される. その説明はこのスライドに書かれているとおりである. 8

これらの構文要素を適切な規則にしたがって並べた記号列が文法的に正しい論理式である. その規則はこのスライドに書かれた 4 つである. 9

つぎに, 文法的に正しい論理式が与えられたとして, それが何を意味するのかを決める意味論を見ていこう. ここでいう 意味 とは, 命題論理の場合, その論理式が表している命題が 真 なのか 偽 なのかということである. その基礎となる概念は, 論理式を真偽に対応付けるための解釈 (interpretation) というものである. スライドの図のように, 論理式の集合 ( 構文領域と呼ぶ ) と真偽値の集合 ( 意味領域と呼ぶ ) を考える. 解釈とは, 構文領域に含まれる論理式の1つ1つを意味領域に含まれる真偽値に対応付けるもの ( 写像 ) である. そのような対応は組合せに応じてたくさんあるので, 解釈というものもたくさんあることになる. しかし, つぎのような条件によって, 実際には, 命題変数にのみ対応 ( 意味 ) を決めることにして, それ以外の論理式に対する対応 ( 意味 ) は自動的に決まるようにする. その仕組みは, つぎの2つの条件を満たすように解釈を定めることである. 1つめの条件は,true という論理式にはT( 真 ) を対応付け,falseという論理式には F( 偽 ) を対応付けるということである. この条件は,true, falseの常識的な意味付けを要求している. 2つめの条件は,not, and, or,, の5つの論理記号を用いて作られた論理式の意味は, その中に含まれる命題変数の意味に基づいて, 計算によって自動的に求めるということである. このスライドの例の場合,p にT( 真 ) を対応付けているので, 計算規則により,not p は必ずF( 偽 ) に対応付けられる. その計算規則は, つぎのスライドで. 10

このスライドがその計算規則である. これを使うと, どんな複雑な論理式の値も命題変数の値に基づいて計算することができる. 11

これは論理式の意味 ( 真偽値 ) の計算例である. 12

論理式 P1,P2,...,Pnのすべてを真とするような任意の解釈のもとで論理式 Qが真となるとき,QはP1,P2,...,Pnの論理的帰結(logical consequence) であるといい, このスライドのような表記をする. 論理的帰結かどうかを判断する一般的な方法は, その定義にしたがって, つぎのようなものとなる. まず, P1,P2,...,Pnのすべてを真とする解釈をすべて求める. これは命題変数に真偽値を与えるすべての組合せについて, 論理式の値を計算することによってできる. つぎに, それらの解釈ごとにQが真かどうかを計算する. どの解釈に対してもQが真ならば, 定義によって,QはP1,P2,...,Pnの論理的帰結である. そうでなければ,Qは論理的帰結ではない. しかし, この方法は, 組合せ的 ( 指数関数的 ) な数 (2の m 乗 : mは命題変数の数 ) のすべての解釈について論理式の真偽を計算するので多くの手間が必要である. これから学ぶ推論システムを用いればそのような手間を軽減して結論を導くことができる場合がある. 13

最後に, 命題論理の推論システムについて見ていこう. 推論システムは, 推論規則の集まりからなっている. 推論規則は, スライドのように, 一見, 分数のように見える形式で表現される. 横線の上にある論理式を前提, 横線の下にある論理式を結論という. いま いろいろな知識が論理式の形式で知識ベース (KB) に格納されているとしよう 推論規則の意味は, 前提がすべて KB に入っていたら, 結論を KB に追加してよい ということである. これにより,KB の状態が遷移することになる. 14

実際には, 推論規則内に書かれている変数は,KB 内の論理式 ( 命題 ) そのものではなく, それらを値としてとる変数 ( 命題変数 ) を表している. たとえば, スライドに書かれている モーダス ポネンス という推論規則は, KB 内に知識 P および知識 P Q が含まれていれば, 知識 Q を KB に追加してよい という意味だが, 実際には, このスライドにあるように, 知識 Glitter と知識 Glitter Gold から知識 Gold を推論するために使うことができる. 15

推論規則は, その結論が前提の論理的帰結であるとき, 健全 (sound) であるという. すなわち, その前提がすべて真であるときに, 結論もまた必ず ( いかなる解釈によっても ) 真であるということである. 16

すでに見たモーダス ポネンスは健全な推論規則である. それを確かめるには P, Q に与える4 通りの解釈 (P,Q) =(T,T),(T,F),(F,T),(F,F) のそれぞれについて 前提 P, P Q がTならば 結論 QもまたTであることを確認すればよい. 実際 前提 P, P Q がT である解釈は (P,Q) =(T,T) のみであり このとき確かにQ=Tとなる. 逆は真なり は健全な推論規則ではない.P=F, Q=T という解釈を考えると, 前提 P Q はTだが, 結論 Q PはFだからである. 17

この授業では, 健全な推論規則のみに興味がある. このスライドに示す 6 つの推論規則は, いずれも健全である. この他にも健全な推論規則は, たくさんある. 18

例題として, 図のような 魔宮の世界 を考えよう. 舞台はある洞窟をモデル化した4 4の格子からなっている.AIの研究では, このようなモデルが良く用いられることが多く, 一般に, 格子の世界 (grid world) と呼ばれている. 登場人物は, エージェント と モンスター. そして, 人物ではないが, 黄金 と 落とし穴 というオブジェクトが登場する. 19

エージェントがとることのできる行為 ( アクション ) はスライドに示されているとおりである. 基本的には, 上下左右のいずれかに1マス進むことを繰り返す. 黄金のあるマスまで来るとそれを拾う. その後, 出発地点まで戻り, 洞窟から脱出する. エージェントのタスク ( ゴール ) は, モンスターと落とし穴を避けながら黄金を拾って, 出発点に戻って脱出することである. 20

エージェントはつぎのような知覚能力 ( センサー ) によって, 自分の置かれている環境の情報の一部を知ることができる. (1) モンスターのいる部屋およびそれに隣接した部屋では異臭 (Stench) を感じる. (2) 穴のある部屋およびそれに隣接した部屋では風 (Breeze) を感じる. (3) 黄金のある部屋では黄金の光 (Glitter) を感じる. (4) この世界の周囲を囲んでいる壁にぶつかると衝撃 (Bump) を感じる. 21

では, エージェントがどのような判断のもとで行動したらよいか, 考えてみよう. まず,(1,1) には異臭も風もないので,(1,2),(2,1) はOKである. エージェントは, その事実を記憶する. スライドでは,OKを表すマークを図に記入して, エージェントの記憶の状態を表示している. 22

エージェントは (2,1) に進んだとしよう. そこで風を感知するので, (2,2) または (3,1) に落とし穴がある ということがわかる. エージェントはそれを記憶する. スライドでは, (2,2) および (3,1) のそれぞれに 落とし穴があるかもしれない ことを表すマークを記入している. 23

(2,2) と (3,1) は危険なので, エージェントは, 安全とわかっている (1,1) を経由して, (1,2) へ進む. 24

(1,2) で異臭を感知するので, (1,1)or(2,2)or(1,3) にモンスターがいるということがわかる. しかし, 実際には, (1,1) にはモンスターはいない (2,2) にはモンスターがいるはずはないということがわかる. なぜなら,(1,1) はさきほどまでいた場所であり, また,(2,2) にもしモンスターがいるなら, さきほど行った (2,1) で異臭を感じたはずだからである. ゆえに, (1,3) にモンスターがいるということがわかる. スライドには, そのマークを記入してある. 25

また,(1,2) に風がないことから, (2,2) には落とし穴がないということがわかる. ところで, すでに3 枚前のスライドで (2,2) または (3,1) に落とし穴があるということがわかっていた.(2,2) には落とし穴がないことがわかったので, (3,1) に落とし穴があるということがわかる. 26

その後, エージェントは安全が保証された (2,2) へ進み,( その後, いったん (3,2) へ進んでも, また (2,2) へ戻ってきて,) 安全とわかっている (2,3) へ進んで黄金を手に入れることになる. 27

この例題においては, - 異臭とモンスター, および風と落とし穴を結び付ける一般的な知識 ( 背景知識 ) - 現場でセンサー入力から得たその場限りの知識 ( 事実 ) を論理的に組み合わせて推論を行うことによって, エージェントは適切な行動を決定することができている. 命題論理を用いて, 背景知識と事実の一部を記述すると, このスライドのようになる. ( それぞれの命題記号の意味は説明しないが, 自明であろう.) 28

いま記述した 5 つの知識から,(1,2) が安全であることを, 推論システムを用いて, 機械的に導くことができる. 29