4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

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平成19年度学校保健統計調査結果

平成19年度学校保健統計調査結果

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(2) 体重 平成 25 年度の幼稚園 小学校 中学校及び高等学校における幼児 児童及び生徒の体重 ( 県平均値 以下同じ ) については次のとおりである 1 前年度との比較 ( 表 2) 男子の体重は 6 歳 11 歳 13~17 歳で 前年度の同年齢より.2~2. kg増加しており 最 も増加し

(3) 生活習慣を改善するために

発育状態調査 身長 身長 ( 平均値 ) は 前年度と比較すると 男子は 12~15 歳で前年度を上回り 女子は 5,6,8,9,14,16 歳で前年度を上回っている (13 年齢区分中 男子は増加 4 減少 6 女子は増加 6 減少 5) との比較では 男子は全ての年齢で 女子は 5,9 歳を除い

2) エネルギー 栄養素の各食事からの摂取割合 (%) 学年 性別ごとに 平日 休日の各食事からのエネルギー 栄養素の摂取割合を記述した 休日は 平日よりも昼食からのエネルギー摂取割合が下がり (28~31% 程度 ) 朝食 夕食 間食からのエネルギー摂取割合が上昇した 特に間食からのエネルギー摂取

発育状態調査 身長 身長 ( 平均値 ) を前年度と比較すると 男子は 5~8,10,11,16 歳で 女子は 7~12,15,17 歳で前年度を上回っている (13 年齢区分中 男子は増加 7 減少 4 女子は増加 8 減少 3) 全国平均と比較すると 男子は全ての年齢で 女子は 9~11 歳を除

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平成 27 年度全国体力 運動能力 運動習慣等調査愛媛県の結果概要 ( 公立学校 ) 調査期間 : 調査対象 : 平成 27 年 4 月 ~7 月小学校第 5 学年 ( 悉皆 ) 中学校第 2 学年 ( 悉皆 ) 男子 5,909 人男子 5,922 人 女子 5,808 人女子 5,763 人 本

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

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初めて親となった年齢別に見た 就労状況 ( 問 33 問 8) 図 97. 初めて親となった年齢別に見た 就労状況 10 代で出産する人では 正規群 の割合が低く 非正規群 無業 の割合が高く それぞれ 22.7% 5.7% であった 初めて親となった年齢別に見た 体や気持ちで気になること ( 問

フトを用いて 質問項目間の相関関係に着目し 分析することにした 2 研究目的 全国学力 学習状況調査結果の分析を通して 本県の児童生徒の国語及び算数 数学の学習 に対する関心 意欲の傾向を考察する 3 研究方法平成 25 年度全国学力 学習状況調査の児童生徒質問紙のうち 国語及び算数 数学の学習に対

[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

宗像市国保医療課 御中

(3) 摂取する上での注意事項 ( 該当するものがあれば記載 ) 機能性関与成分と医薬品との相互作用に関する情報を国立健康 栄養研究所 健康食品 有効性 安全性データベース 城西大学食品 医薬品相互作用データベース CiNii Articles で検索しました その結果 検索した範囲内では 相互作用


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3 調査結果 1 平成 30 年度大分県学力定着状況調査 学年 小学校 5 年生 教科 国語 算数 理科 項目 知識 活用 知識 活用 知識 活用 大分県平均正答率 大分県偏差値

平成 26 年度 全国体力 運動能力 運動習慣等調査の概要 平成 27 年 1 月 四條畷市教育委員会

結果の概要

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

初めて親となった年齢別に見た 母親の最終学歴 ( 問 33 問 8- 母 ) 図 95. 初めて親となった年齢別に見た 母親の最終学歴 ( 母親 ) 初めて親となった年齢 を基準に 10 代で初めて親となった 10 代群 平均出産年齢以下の年齢で初めて親となった平均以下群 (20~30 歳 ) 平均

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困窮度別に見た はじめて親となった年齢 ( 問 33) 図 94. 困窮度別に見た はじめて親となった年齢 中央値以上群と比べて 困窮度 Ⅰ 群 困窮度 Ⅱ 群 困窮度 Ⅲ 群では 10 代 20~23 歳で親となった割 合が増える傾向にあった 困窮度 Ⅰ 群で 10 代で親となった割合は 0% 2

平成 27 年度 ICT とくしま創造戦略 重点戦略の推進に向けた調査 研究事業 アクティブラーニングを支援する ユーザインターフェースシステムの開発 ( 報告書 ) 平成 28 年 1 月 国立高等専門学校機構阿南工業高等専門学校

,995,972 6,992,875 1,158 4,383,372 4,380,511 2,612,600 2,612, ,433,188 3,330, ,880,573 2,779, , ,

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平成 27 年度 全国体力 運動能力 運動習慣等調査の概要 平成 28 年 3 月 四條畷市教育委員会

女子高校生の生活習慣や健康に対する意識調査と発育状況 10 年前との比較検討 cm 160 a) 身長当校 全国平均 cm +1.5cm kg 54 b) 体重 当校 全国平均 kg -1.3kg 51

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3 睡眠時間について 平日の就寝時刻は学年が進むほど午後 1 時以降が多くなっていた ( 図 5) 中学生で は寝る時刻が遅くなり 睡眠時間が 7 時間未満の生徒が.7 であった ( 図 7) 図 5 平日の就寝時刻 ( 平成 1 年度 ) 図 中学生の就寝時刻の推移 図 7 1 日の睡眠時間 親子

学校給食摂取基準の活用 学校給食摂取基準は全国平均を示したものであるから その考え方を踏まえた上で 各学校の実態に応じた摂取基準 ( 給与栄養目標量 ) 作成する必要がある EER 算出シートに数字を打ち込めば EER( 推定エネルギー必要量 ) は算出できるが 専門職 ( 管理栄養士 栄養士 )

Taro-① 平成30年度全国学力・学習状況調査の結果の概要について

赤色ボタン 1) データ保存 : ボタンをクリックすれば 保存データ シートに データが保存 2) 入力データクリア : ボタンをクリックすれば 入力されたデータが消去されます 水色ボタン ( 画面移動用 ) 保存データシートへ 成長曲線 6 歳以上 肥満度曲線 成長速度 成長曲線 0~6 歳 BM

協会けんぽ加入者における ICT を用いた特定保健指導による体重減少に及ぼす効果に関する研究広島支部保健グループ山田啓介保健グループ大和昌代企画総務グループ今井信孝 会津宏幸広島大学大学院医歯薬保健学研究院疫学 疾病制御学教授田中純子 概要 背景 目的 全国健康保険協会広島支部 ( 以下 広島支部

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

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特定健康診査等実施計画 ( 第二期 ) 三重交通健康保険組合 平成 25 年 7 月



C1988 日 本 児 童 文 学 学 会

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1. 調査結果の概況 (1) の児童 ( 小学校 ) の状況 < 国語 A> 今年度より, ( 公立 ) と市町村立の平均正答率は整数値で表示となりました < 国語 B> 4 国語 A 平均正答率 5 国語 B 平均正答率 ( 公立 ) 74.8 ( 公立 ) 57.5 ( 公立 ) 74 ( 公立

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平成 28 年度全国体力 運動能力 運動習慣等調査愛媛県の結果概要 ( 公立学校 ) 調査期間 : 調査対象 : ( 悉皆 ) 平成 28 年 4 月 ~7 月 小学校第 5 学年 中学校第 2 学年 男子 5,688 人 女子 5,493 人 男子 5,852 人 女子 5,531 人 本調査は

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秋植え花壇の楽しみ方



p.1~2◇◇Ⅰ調査の概要、Ⅱ公表について、Ⅲ_1教科に対する調査の結果_0821_2改訂

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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文


1. はじめに本研究の代表研究者が所属する岡山県南部健康づくりセンターは 県民の健康づくりを支援することを目的に岡山県により開設された健康増進施設である 公の施設として 種々の障害をもつ方の利用も積極的に受け入れており 知的障害 発達障害のある人についても利用していただいている 今回の研究の主題とし

(2) 学習指導要領の領域別の平均正答率 1 小学校国語 A (%) 学習指導要領の領域 領 域 話すこと 聞くこと 66.6(69.2) 77.0(79.2) 書くこと 61.8(60.6) 69.3(72.8) 読むこと 69.9(70.2) 77.4(78.5) 伝統的な言語文化等 78.3(

(2) 国語 B 算数数学 B 知識 技能等を実生活の様々な場面に活用する力や 様々な課題解決のための構想を立て実践し 評価 改善する力などに関わる主として 活用 に関する問題です (3) 児童生徒質問紙児童生徒の生活習慣や意識等に関する調査です 3 平成 20 年度全国学力 学習状況調査の結果 (

p 札幌市小学校).xls

Ⅲ 調査対象および回答数 調査対象 学校数 有効回答数児童生徒保護者 (4~6 年 ) 12 校 1, 校 1, 校 1,621 1,238 合計 41 校 3,917 ( 有効回答率 96.3%) 3,098 ( 有効回答率 77.7%) Ⅳ 調査の実施時期

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本年度の調査結果を更に詳しく分析するため 本道の課題となっている質問紙の項目について 継続して成果を上げている福井県 秋田県 広島県と比較した結果を示しています ( 全国を 100 とした場合の全道及び他県の状況をレーダーチャートで示したもの ) 1 福井県との比較 (~P51) 継続的に成果を上げ

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Taro-自立活動とは

山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

参考1中酪(H23.11)

学力向上のための取り組み

学校体育と幼児期運動指針の概要について

Ⅱ 調査結果の概要

13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

Ⅰ 調査の概要

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生活福祉研レポートの雛形

平成11年度学校保健統計調査結果(愛知県分)

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

Transcription:

ダウン症児童生徒の肥満予防に関する基礎的検討 ~ 身体活動量の測定をとおして ~ 学校教育専攻学校教育専修修教 09-003 伊藤由紀子 Ⅰ 研究の目的近年, 生活習慣の変化に伴い小児肥満も増加傾向を示し, 小児肥満の 70~80% は成人期に移行するとされ, 肥満は生活習慣病を引き起こす要因のひとつであるとされている したがって, 早期からの肥満予防支援の必要性が強く求められており, 現在では幼児期からの取り組みが有効であると認識されてきている ( 岡田,2009) これらのことは障害児においても同様であるが, 知的障害児の肥満の出現率に関しては健常児よりも高いという指摘がある この原因として考えられることとして, 知的能力, 社会適応, 行動運動機能の不十分さから活動へ参加する機会が制約されることがあげられている このため, 摂取エネルギー量と消費エネルギー量のバランスが悪くなり, 健常児以上に肥満になるのではないかということが示唆されている ( 石井,2001) 知的障害児のなかでも, とくにダウン症児 童生徒に関しては年齢が進むにつれて肥満傾向が認められるとされ,12 歳以上の肥満が顕著だという報告もある ( 海老子,2008) 実際の学校現場でも, ダウン症児童生徒をもつ保護者らから, 肥満を心配する声が多く聞かれる しかし, 学校での肥満予防支援が十分であるとは言い難いのが現状である 肥満の予防策として, 日常の身体活動量を増加させるとともに, 運動により身体活動量を高めることが有効であることは広く知られている しかし, ダウン症児童の身体活動量を測定した報告は少ない そこで, 本研究では, 近年普及してきた加速度計式歩数計を使用し, ダウン症児童生徒の身体活動量を実際に測定し, 肥満予防支援の可能性について検討することとした Ⅱ 研究の対象と方法 1 対象 秋田県内の公立小学校 2 校に在籍するダウン症児童生徒 6 名と特別支援学校 3 校に在籍する小学部 8 名, 中学部 8 名, 高等部 10 名, 計 32 名を対象とした なお, 対象者の保護者には研究の趣旨を文書にて説明し, 研究協力に同意を得た 2 身体活動量の測定方法対象者には, タニタ社製の活動量計 カロリズム ( 以下, カロリズム ) を装着してもらい, 休日を含む連続した 7 日間の身体活動量を測定した 装着時間は, 午前 7 時から午後 7 時までとし, 水泳や入浴時は除くこととした 3 肥満の判定 4 月に計測した身長と体重を用いて, 個人別に肥満度を求めた 肥満度を求める際の標準体重は, 平成 12 年度文部科学省学校保健調査報告 (2001) を用いた 肥満度は, 次の式より算出し, 肥満度 20% 以上を 肥満 とした ( 日本肥満学会,2004) 肥満度 (%)=( 実測体重 標準体重 ) 標準体重 100

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った 5 統計処理得られたデータは平均値 ± 標準偏差で示した 結果の比較は,χ 2 検定と t 検定をおよび, ピアソンの積率相関を用い, 有意水準を 5% に未満に設定した Ⅲ 結果 1 肥満と非肥満の割合と性差今回調査したダウン症児童生徒 32 名のうち肥満の児童生徒は 20 名で, 全体の 62.5% であった また, 男女別では, 男子 12 名中 7 名が, また女子では 20 名中 13 名が肥満であった 男女間に有意差は認められなかった 2 対象者の身体特性表 1 に, 対象者の年齢, 身長, 体重, 肥満度, 体脂肪率の結果を示した 身長では肥 満群と非肥満群に差は認められなかったが, 体重では肥満群の方が有意に高かった また肥満群の方が, 肥満度だけでなく体脂肪率が有意に高かった 3 肥満度と体脂肪率の関係図 1 に肥満度と体脂肪率の関係を示した 肥満度の高いダウン症児童生徒では体脂肪率も高く, 両者には有意な相関が認められた (r=0.58) 4 7 日間の平均身体活動量表 2 に 7 日間の平均身体活動量を示した 総エネルギー消費量は肥満群で有意に高かった 活動エネルギー量と歩数では両者に差は認められなかった エクササイズ量では肥満群の方が有意に低かった 5 平日と土日の身体活動量図 2 に平日と土日別の活動エネルギー量を示した 学校に通っている平日では差が認められなかったが, 学校が休みの土日では差が認められ, 肥満群の方の活動エネルギー 量が有意に低かった 表 1 対象者の身体特性 全体 n=32 肥満 n=20 非肥満 n=12 p 値 年齢 ( 歳 ) 13.3±3.3 13.3±2.9 13.2±3.9 ns 身長 (cm) 137.8±12.6 139.3±10.0 135.6±15.9 ns 体重 (kg) 45.5±14.0 51.1±11.4 37.4±13.8 p<0.01 肥満度 (%) 28.6±24.7 43.6±20.1 6.6±9.6 p<0.01 体脂肪率 (%) 27.9±9.9 31.3±10.1 23.1±7.6 p<0.05 ns:not significant

60 % 脂肪率350 300 250 200 150 100 50 0 図 2 平日と土日の活動エネルギー量体50 40 30 20 10 0-20 0 20 40 60 80 100 表 2 肥満度 7 日間の平均身体活動量 y=0.2243x+21.38 r=0.58 全体 n=32 肥満 n=20 非肥満 n=12 p 値 総エネルギー消費量 (kcal) 1753.3±359.6 1937.8±276.9 1483.5±293.9 p<0.01 活動エネルギー量 (kcal) 251.6±92.5 232.8±83.8 279.9±100.5 ns 歩数 (steps/day) 4594.4±1454.9 4181.8±1271.6 5197.5±1542.6 ns エクササイズ量 (EX) 2.0±1.4 1.6±0.9 2.6±1.8 p<0.05 kcal 平日 土日 肥満 非肥満 %

Ⅴ 考察 1 対象者の身体特性ダウン症児童生徒は, 低身長で肥満傾向であることから肥満予防に向けての取り組みは不可欠であるといえる 小学校の時期に肥満でない児童生徒であっても, 将来的には肥満になる可能性があると予測される したがって, 長期にわたって継続的に身長や体重およ び肥満度の推移を観察していくことが求められている また, 肥満度と体脂肪率には有意な相関が認められたことから, 深山 (2004) の指摘にもあるように肥満傾向にある場合は, 体脂肪率も注意深く観察していく必要性があると考えられた したがって, 養護教諭と連携し定期的に身体計測を行うことで本人や保護者の肥満予防にたいする意識を高めていくことが重要であると考えられた 2 肥満群, 非肥満群の身体活動量の比較 7 日間平均の総エネルギー消費量や活動エネルギー量および歩数に関しては, 肥満群と非肥満群では差が認められなかったことから, 肥満の児童生徒であっても学校生活の中ではある程度の運動量が確保さていると推察された 一方, 土日の活動エネルギー量と歩数では, 非肥満群に比べて肥満群が有意に低かったことから, 肥満群の土日の生活を見直していく必要性が示唆された そのための支援として, 本人や保護者の運動をしようとする 意識を高めることが重要であり, 休日でもダウン症児童生徒が進んで取り組んでいくことのできる運動プログラムの提供やダウン症児童生徒が楽しんで行うことのできるダンスなどを取り入れ, 習慣化させていくための工夫を図るとともに地域での運動の場の確保や機会の提供が望まれる 3 エクササイズ量を考慮した運動への取り組み厚生労働省で策定された 健康づくりのための運動指針 2006( エクササイズガイド 2006) によれば, 身体活動量の目標を 1 週間に 23EX 以上の活発な身体活動が望ましいとされている さらに, 成人の 1 日の目安として 3.3EX 以上が目標とされている しかし, わが国では子どもに関しての運動基準は策定されていない 諸外国の報告によれば, 子どもでは成人の基準より高めに設定することが身体組生に強く関連するといわれている このことから, 今回調査したダウン症児童生徒のエクササイズ量は低い傾向にあると考えられ, 肥満 群では, さらに低いことが推察された したがって, 肥満を予防するために, ダウン症児童生徒の身体活動量の質的な面も考慮していくことが求められていると考える とくに, エクササイズ量の高い運動を取り入れていく必要があり, 鬼ごっこなどの遊びやダウン症児童生徒が好んで行うダンスをとおして, 楽しみながら運動強度を高めることが望ましいと考える 他にもリズム体操や縄跳び, マラソンなどへの取り組みは効果的であるという報告があるので, 学校生活の中でどのように実践し肥満予防効果をあげていくかが今後の課題である また, 日常の生活において活動的なライフスタイルを身につけさせていくための支援が大切であると思われる 雑巾がけや階段昇降など, 強度のある活動を意識的に組み込むことで, 活発な動きへとつながっていくと思われる 文献海老子里美 : ダウン症における肥満度の推移 ( 予備的研究 )(2008) 岡田知雄 : 小児肥満 メタボリックシンドロームの現状 (2009) 深山知子 : 小児における体脂肪判定図の作成 (2004) 石井好二郎 : 知的障害児 者の体脂肪率 (2001) 厚生労働省 : 健康づくりのための運動指針 (2006)