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農産物中の残留農薬一斉試験法の妥当性評価について 大藤升美濱田幸子中西理恵棟久美佐子藤永祐介樋口泰則小林哲大脇成義辻真里奈茶谷祐行 ValidationonaSimultaneousDeterminationofPesticideResiduesinAgriculturalProducts MasumiOHFUJI SachikoHAMADA RieNAKANISHI MisakoMUNEHISA YusukeFUJINAGA YasunoriHIGUCHI SatoruKOBAYASHI ShigeyoshiOWAKI MarinaTSUJI YoshiyukiCHATANI 厚生労働省通知の GC/MSによる農薬等の一斉試験法 ( 農産物 ) 及び LC/MSによる農薬等の一斉試験法 Ⅰ( 農産物 ) に準じた試験法について 厚生労働省の 食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン に基づき GC-MS/MSで測定する農薬 222 化合物及びLC-MS/MSで測定する農薬 68 化合物について玄米 黒大豆 みず菜 キャベツ 枝豆 ばれいしょ オレンジ 日本なし 茶の9 種類の農産物について妥当性評価試験を行った 茶以外の農産物では204~250 化合物が目標値に適合し 抹茶では153 化合物 抹茶以外の茶では125 化合物が適合した キーワード : 妥当性評価試験 農産物 残留農薬 一斉分析法 ガスクロマトグラフタンデム型質量分析計 タンデム型質量分析計付高速液体クロマトグラフ keywords:validationstudy,agriculturalproducts,pesticideresidue,multi-residuemethod,gc-ms/ms,lc-ms/ms はじめに 食品衛生法に定められている規格基準への適合について判断を行う試験に用いる分析法については 厚生労働省から通知された 食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン *1 ( 以下 ガイドライン という ) により 試験法の妥当性評価を実施するよう求められている 当所では農産物中の残留農薬及び畜水産物中の動物用医薬品等の検査を行っており 残留農薬等の試験法にかかる妥当性評価を順次実施しているところである 今回 農産物中の残留農薬試験法について9 種類の農産物を対象に ガイドラインに則った評価を行ったので報告する 材料と方法 1. 試料ガイドラインでは 添加を行う食品 ( 農産物 ) の種類としてすべての食品が対象になるが 現実的に困難であるので 成分特性 抽出法の違いを考慮して 穀類 豆類 種実類 野菜 ( 葉緑素を多く含むもの イオウ化合物を含むもの デンプンを多く含むもの ) 果実( オレンジ りんご等 ) 茶 ホップ スパイス等を選択するとしている そこで当所では京都府の食品等の収去検査計画において対象となる検体から玄米 黒大豆 みず菜 キャベツ 枝豆 ばれいしょ オレンジ 日本なし 茶を選定した 野菜の場合は約 1kg 穀類 豆類は約 500g 茶は約 100g の試料を均 ( 平成 26 年 6 月 10 日受理 ) 一化し 凍結及び融解を繰り返さないように1 回の試験に必要な量ずつ分けて冷凍保存した 枝豆は野菜に分類されるが 他の野菜とは試験液の調製方法が違うので対象に加えた 茶は 農薬によっては 抹茶 と 抹茶以外の茶 では試験法が異なる 抹茶以外の茶 では本試験法の対象とならない化合物もあるため 各々分けて精査した 2. 測定対象農薬 和光純薬工業 ( 株 ) 製農薬混合標準液に含まれる農薬を基本に過去の京都府内産農産物の使用履歴 過去に検出された農薬 農薬の出荷量を考慮して選定し GC-MS/MSの測定対象農薬は表 3に示す222 化合物とし LC-MS/MSの測定対象農薬は68 化合物とした ( 表 1) 3. 試験方法 3-1. 試薬 標準液を自家調製した農薬類は和光純薬工業 ( 株 ) 製の標準品を使用し 農薬混合標準溶液は和光純薬工業 ( 株 ) 製農薬混合標準液を使用した クロロタロニルは 当所で調製した20 詐 g/mlヘキサン溶液 フルジオキソニルは同様に調製したアセトン溶液 その他の 1) 農薬は農薬混合標準液を用い 既報のとおりGC-MS/MS 測定用標準溶液を調製した LC-MS/MS 測定用標準溶液は 当所で調製したエマメクチン安息香酸塩 トリフルミゾール及びトリフルミゾール代謝物 ミルベメクチン 3A 及びミルベメクチン4A メタミドホスの各 20 詐 g/mlアセトニトリル溶液 和 *1 厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知. 平成 22 年 12 月 24 日. 食安発 1224 第 1 号 (2010). -23-

光純薬工業 ( 株 ) 製農薬混合標準液 ( 製品番号 PL-3-2 9-2 10-1 各 20 詐 g/mlアセトン溶液 7-2 14-2 15-1 各アセトニトリル溶液 ) を混合し さらにメタノールで希釈して 0.0005~0.1 詐 g/ml 濃度のLC-MS/MS 測定用標準溶液を調製した また 添加用混合標準溶液 (1 詐 g/ml) はPL-1-1 2-1 3-2 4-2 5-1 6-3 7-2 9-2 10-1 11-2 14-2 15-1 クロロタロニル フルジオキソニル エマメクチン安息香酸塩 トリフルミゾール及びトリフルミゾール代謝物 ミルベメクチン 3A 及びミルベメクチン4A メタミドホスの各 20 詐 g/ml 標準溶液を混合しアセトニトリルで調製した 添加用混合標準溶液 (0.1 詐 g/ml) は同標準溶液 (1 詐 g/ml) をアセトニトリルで希釈して作成した 精製用カラムはグラファイトカーボン /NH2(500/500mg) (ENVI-Carb/LC-NH2,SIGMA-ALDRICH 社製 ) オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム (1,000mg)(BondElutC18 (1g/6mL),AgilentTechnologies 社製 ) シリカカラム(Sep- Pak シリカ Vac(12cc(2g)),Waters 社製 ) を使用した 3-2. 装置及び測定条件 GC-MS/MSは AgilentTechnologies 社製 Agilent7000B トリプ 1) ル四重極 GC-MSシステムを用い 測定条件は既報によった LC-MS/MSは HPLC はAgilentTechnologies 社製 1100series MS/MSは Applied Biosystems 社製 API3000 を用いて測定条件は表 2に 測定イオンは表 1に示した 表 1. LC-MS/MS 測定対象農薬と測定イオン -24-

表 2. LC-MS/MS 測定条件 3-3. 試験液の調製 *2 果実 野菜 茶の場合は 厚生労働省通知の GC/MSによる農薬等の一斉試験法 ( 農産物 ) 及び LC/MSによる農薬等の一斉試験法 Ⅰ( 農産物 ) ( 以下 通知法 という ) に準 1) じ 既報によりGC-MS/MS 用試験溶液 2mLを調製した その1mLを採取し 窒素気流で溶媒を除去した後 メタノール 2mLに溶解しLC-MS/MS 用試験溶液とした 穀類 豆類は通知法に準じた すなわち 試料 10.0g に水 20mLを加え15 分間放置 これにアセトニトリル 50mLを加え ホモジナイズした後 吸引ろ過した ろ紙上の残留物にアセトニトリル20mLを加え ホモジナイズした後 吸引ろ過し 得られたろ液を合わせ アセトニトリルを加えて100 mlに定容した 抽出液 20mLを採り 塩化ナトリウム10g 及び0.5mol/L リン酸緩衝液 (ph7.0)20mlを加え 10 分間振とうした 静置した後 アセトニトリル層をBondElutC18(1g) に注入し さらに アセトニトリル 2mLを注入して 全溶出液を採り 無水硫酸ナトリウムを加えて脱水 ガラスろ過器でろ過後 40 以下で濃縮 窒素気流で溶媒を除去した 残留物にアセトニトリル及びトルエン (3:1) 混液 2mLを加え 1) て溶かし 以降は既報のほうれんそうの前処理と同様に行い GC-MS/MS 用試験溶液 2mLを調製した その1mLを採取し 窒素気流で溶媒を除去した後 メタノール2mLに溶解しLC- MS/MS 用試験溶液とした 枝豆は 試料 20.0g を取り アセトニトリル50mLを加えホモジナイズし 以降 穀類 豆類と同様に処理した 3-4. 定量 1) GC-MS/MS 測定対象農薬は既報に従い検量線用混合標準溶液及び試験溶液を装置に注入し 内部標準物質としてアントラセンd10 を用い 内部標準法により定量した LC-MS/MS 測定対象農薬は検量線用混合標準溶液及び試験溶液を装置に注入し 得られたクロマトグラムのピーク面積から絶対検量線法により定量した なお 添加濃度 0.1 詐 g/g の試験溶液は検量線の範囲に入るようにメタノールで2 倍希釈して測定を行った 3-5. 妥当性評価 ガイドラインに従い作成した 京都府保健環境研究所残留 *2 厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知. 平成 17 年 1 月 24 日. 食安発第 0124001 号 (2005). 農薬等試験法の妥当性評価試験実施要領 に従って実施した すなわち 試料に 各農薬等の基準値に近い一定の濃度 (0.1 詐 g/g) 及び 一律基準濃度 (0.01 詐 g/g) の2 濃度となるよう混合標準溶液を添加し それぞれ試行回数 2とする試験を検査者 1 名で5 日間実施した ただし オレンジについては0.05 詐 g/g 0.01 詐 g/g の各濃度で添加回収試験を行った なお アジンホスメチル テトラクロルビンホス デルタメトリン及びトラロメトリン フルリドン メタラキシル アゾキシストロビン アルジカルブ イマザリル カルバリル カルボフラン チアベンダゾール ピリミカルブ ベンダイオカルブは添加用混合標準溶液 (1 詐 g/ml) 中に 2 詐 g/ml 濃度含まれることから それぞれ 0.2 詐 g/g 0.02 詐 g/g 濃度の添加回収試験となっている 得られた測定値より真度 ( 回収率 ) 併行精度 室内精度を算出し 要領の目標値を満たすかどうかについての評価を行った ガイドラインに示された目標値は 真度が70~120% であり 0.1 詐 g/g 添加回収試験においては併行精度が15% 未満 (0.2 詐 g/g の場合は10% 未満 ) 室内精度が20% 未満 (0.2 詐 g/g の場合は15% 未満 ) 0.01 詐 g/g 添加回収試験においては併行精度が25% 未満 (0.02 詐 g/g の場合は15% 未満 ) 室内精度が30% 未満 (0.02 詐 g/g の場合は20% 未満 ) となっている また 定量限界は 真度 併行精度 室内精度の目標値を満足し 基準値が定量限界と一致している場合あるいは農薬等の残留基準告示において 不検出 とされる場合には クロマトグラフィーによる測定では定量限界濃度に対応するピークはS/N 比 10 であることとされている 定量限界の確認は 添加試料のS/N 値を求めて行った また 試料の選択性は 無添加試料について試験法に従い試験を行い 妨害ピークの面積が定量限界濃度に相当するピーク面積の1/3 未満であるかどうかを確認し評価した また これを満足しないときは基準値濃度に相当するピークの1/10 未満であるかどうかを確認し評価した 結果と考察 1. 妥当性評価 1-1. 選択性測定試料のクロマトグラムから妨害ピークの面積を確認し 選択性の可否を見た 選択性が不適合であったのは GC- MS/MS 対象農薬においては 玄米ではクロロネブ シハロトリン (λ) ゾキサミド トリアジメノールⅠ ビテルタノール フェノトリン Ⅰ プロヒドロジャスモン ヘプタクロル EA ペルメトリン 黒大豆ではXMC クロロネブ ヘプタクロルEA みず菜ではクロロネブ ジメピペレート ヘプタクロルEA キャベツではクロロネブ ヘプタクロルEA 枝豆ではエトフェンプロックス クロロネブ ジフェノコナゾール ばれいしょではクロロネブ ヘプタクロル EA オレンジではクロロネブ ターバシル ヘプタクロル EA 日本なしでは クレソキシムメチル クロロネブ ヘプタクロル EA 茶ではクロロネブ ジメピペレート スピロキサミン トリアジメノール プロヒドロジャスモン ヘプタクロル EA( 表 3-25-

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表 4. LC-MS/MS 対象農薬の結果 ( 続き ) -39-

表 4. LC-MS/MS 対象農薬の結果 ( 続き ) -40-

表 4) であった すべての農産物でクロロネブに妨害ピークが検出された このピークの保持時間はクロロネブのピークと若干ずれているが 添加試料のクロロネブのピークと分離できないこともあるので選択性は不適とした 1-2. 真度 併行精度 室内精度及び定量限界食品の種類ごとに各農薬の真度 併行精度 室内精度 定量限界 評価を表 3 表 4に示した ここで定量限界は真度 精度の結果によらず S/N 10 を満たしているかのみを掲げ 玄米 黒大豆 茶以外は0.01 詐 g/g の添加回収試験ピークにより評価した また 添加用混合標準溶液濃度が0.02 詐 g/mlの化合物についてはs/n 20 を満たしているかを確認した 抹茶以外の茶で本試験法が適用となる化合物には該当欄に 印を記入した 両濃度の添加回収試験における選択性 真度 併行精度 室内精度と定量限界のすべてにおいて目標値を満足したものを A とした しかし 玄米 黒大豆 茶では 0.01 詐 g/g の添加濃度ではいずれかの目標値を満足できない化合物が多かったため 基準値が0.1ppm 以上の場合は0.1 詐 g/g 添加回収試験の結果のみを評価し 目標値を満足したものを B とした 対象農薬のうち124 化合物が 茶を除くすべての試料において目標値を満足していた 試料ごとにみると 203~250 化合物の評価が A で目標値に適合した 玄米 黒大豆は評価 B を加えてそれぞれ224 化合物 239 化合物が目標値を満足した また 茶を除くすべての試料において目標値に適合しなかったのはGC-MS/MS 対象農薬ではクロロネブ ヘプタクロルEA LC-MS/MS 対象農薬ではエマメクチン安息香酸塩であった ヘプタクロルEA は 通知法ではヘプタクロルエポキシドで適用可能とされていたが 今回の結果では複数の試料に対して妥当性が確認できなかった これはヘプタクロルEA の測定イオン ( プリカーサーイオン183 プロダクトイオン 155) のノイズが大きく定量限界が満足できなかったためである 選択性を満足できない農産物も多く 測定イオンの再考が必要と思われる エマメクチン安息香酸塩は通知法の対象となっていない農薬である 茶は 評価 A と B をあわせて 抹茶 では153 化合物 抹茶以外の茶 では122 化合物が適合していた 妥当性評価ガイドラインに適合した化合物については当所で行う残留農薬検査の当該農産物及びこの農産物に類似の農産物において報告対象農薬とした たとえば 葉緑素を多く含む野菜であるみず菜の結果は 同様の性質を持つほうれんそうやしゅんぎくの検査時に適用する 評価 B については 0.01 詐 g/g の濃度では目標値に達していなくても 基準値が0.1 詐 g/g 以上である場合は適合していると判断した キャベツや みず菜等については 前述のとおり類似の農産物が多く他の農産物に適用する場合もあるが 大豆については他の豆類の残留農薬検査の実績はない また茶については基準値の異なる類似の食品がないので この2 品目は基準値が異なる場合を考慮する必要はないため 当面はこの結果をもとに検査を実施することとした 今後の基準値の改正に対しては 0.01 詐 g/g の濃度での目標値を満足できるよう再度妥当性評価が必要と考える 更に 玄米については 他に穀類として小麦粉 とうもろこしの試験を行った実績がある 玄米で B 評価を行った化合物の中にはこの3 種の穀類で基準値濃度が異なる農薬もあるので 早期に個別に妥当性評価をしていく必要があると考える 2. 今後の課題個別の農産物については オレンジでは防かび剤でもあるアゾキシストロビン イマザリル チアベンダゾールが適合しなかった これらの農薬については検出率が高いものがあり 基準値濃度も高いので添加用標準溶液の濃度を上げて添加し 測定時に希釈するなど 個別に再評価していく必要があると考えられた また 茶については LC-MS/MS 対象農薬の多くが茶由来のマトリックスにより感度が低下し適合しなかったため 試験溶液を希釈して再測定する予定である 今後 妥当性評価の対応については 今回実施した以外の農産物を対象とした妥当性評価の実施や試験方法を変える場合の対応等を検討していく必要があると考える 引用文献 1) 濱田幸子, 大脇成義, 土田貴正, 松本洋亘, 鳥居南豊, 野澤真里奈, 茶谷祐行.2012.GC/MS/MSを用いた農産物中の残留農薬検査法の評価. 京都府保健環境研究所年報,57, 64-68. -41-