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ン ノートとしてまとめる予定に くりのスケジュールに合意するこ させ パリ協定が発効するという なっています 今回のAPAセッ とでした 流れが想定されていました とこ ションで決定文書案としてCOPに もともとパリ協定は2020年か ろがパリ協定が記録的短期間で発 送られたのは 議題番号8 b で

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Transcription:

COP 21 合意と今後の課題 COP 21 でパリ協定採択 環境委員会調査室安部慶三 1. はじめに 2015 年 11 月 30 日からフランス パリで開催されていた国連気候変動枠組条約 (UN FCCC) 第 21 回締約国会議 (COP 21) 1 は 2 週間の厳しい交渉の末 12 月 12 日夜 ( 日本時間 12 月 13 日未明 ) 京都議定書に代わる 2020 年以降の温室効果ガス (GH G) 排出削減のための新たな国際枠組みであるパリ協定を採択した 同協定は 気温上昇抑制の2 目標の達成に向け 途上国を含む全ての国がGHG 排出削減に取り組む初めての枠組みとなっており 国際的な気候変動対策にとって歴史的な合意となった 本稿では GHG 削減目標の扱いを中心に COP 21 に至る経緯をたどった上で パリ協定の概要等と今後の課題について見ていくこととしたい 2.COP 21 に至る経緯 (1) 国連気候変動枠組条約国連気候変動枠組条約 ( 以下 条約 という ) は 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) が 1990 年に公表した第 1 次評価報告書を受けて 1992 年 5 月に採択され 1994 年 3 月に発効した ( 締約国数 :195 か国 1 地域 ) 条約では 大気中の GHGの濃度を 気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において安定化させることを究極的な目的とし 共通だが差異のある責任 の原則の下で 条約の附属書 Ⅰ 国 ( 先進国及び市場経済移行国 ) が率先してGHGの排出削減に取り組むことを求めており GHG 排出量を 2000 年までに 1990 年の水準に戻すとの削減目標に言及している また 附属書 Ⅱ 国 ( 先進国 ) に対して 非附属書 Ⅰ 国 ( 途上国 ) に気候変動に関する資金援助や技術移転などを実施することを求めている (2) 京都議定書条約の附属書 Ⅰ 国のGHG 削減目標は削減義務ではなく努力目標であったことから 2000 年以降の附属書 Ⅰ 国の義務の強化を図るため 1997 年 12 月 COP3( 京都 ) で京都議定書が採択された 同議定書では 附属書 Ⅰ 国に対しGHG 排出量を 1990 年比で 2008 ~ 2012 年の5 年間で一定数値削減することを義務付けた ( 日本 -6% 米国-7% EU-8% など ) 京都議定書は 先進国に対し法的拘束力のある削減目標を初めて設定した画期的な合意 1 同時に京都議定書 (UNFCCC-KP) 第 11 回締約国会合 (CMP 11) 等が開催された 立法と調査 2016.1 No. 373( 参議院事務局企画調整室編集 発行 ) 127

であったが その後の急速な経済成長によりGHG 排出量が増加することとなる中国やインド等の途上国に対しては削減義務が課せられなかった 2001 年 3 月に米国が自国経済への悪影響などを理由に京都議定書からの離脱を表明したものの 同議定書は 2005 年 2 月に発効し ( 締約国数 191 か国 1 地域 ) 2012 年に第一約束期間が終了した (3) ポスト京都議定書交渉ア 2013 年以降の枠組み交渉ポスト京都議定書 すなわち 2013 年以降の新たな国際枠組みに関する交渉は 2007 年末のCOP 13( インドネシア バリ ) から開始された 最大の焦点は 米国や 中国 インド等のGHG 大排出国が参加する枠組みをどう構築するかであった 交渉期限とされた 2009 年末のCOP 15( デンマーク コペンハーゲン ) では 米国 中国 E U 日本等の首脳級も参加して交渉が行われたが 新たな枠組みに合意することはできず コペンハーゲン合意 ( 表 1 参照 ) に留意することを決定するにとどまった 表 1 コペンハーゲン合意の概要 削減目標 行動 長期目標 IPCC 報告書等の科学に基づき 産業化以前からの気温上昇を2 以内に抑えるため 地球全体の排出量の大幅削減の必要性に合意 中期目標等 先進国は削減目標 途上国は削減行動を条約事務局に 2010 年 1 月末までに提出 途上国の削減行動は 先進国の支援を受ける部分は国際的なMRV( 測定 報告 検証可能な仕組み ) を導入 それ以外の部分も国内でMRVを確保し 2 年ごとに報告 国際的に協議 途上国支援 短期資金 先進国は 2010 ~ 2012 年の期間に 300 億ドルの新規で追加的な公的資金の拠出を約束 長期資金 先進国は 2020 年までに 1,000 億ドルを拠出する目標を約束 その後 コペンハーゲン合意に従って各国が提出した 2013 ~ 2020 年の削減目標 行動は 2010 年末のCOP 16( メキシコ カンクン ) でカンクン合意として採択されたものの それは法的拘束力を持つものではなく各国が自主目標を掲げる枠組みにとどまった 我が国は 2010 年 1 月に 前提条件付きで 1990 年比 25 % 削減 との目標を提出したが ( 鳩山内閣 ) 2011 年 3 月の東京電力福島第一原発事故を経て 2013 年 11 月に 原発によるCO2 削減効果を含まない 2005 年度比 3.8 % 削減 との暫定的な目標に登録し直している ( 第二次安倍内閣 ) また カンクン合意と並行して 京都議定書の第二約束期間についての議論も行われ 2011 年末のCOP 17( 南アフリカ ダーバン ) では 2013 年以降の京都議定書第二約束期間設定に関する合意がなされた 2012 年末のCOP 18( カタール ドーハ ) では 128

第二約束期間を 2013 ~ 2020 年の8 年間とし 第二約束期間に参加する予定の国の削減目標を定める京都議定書改正案が正式に採択された しかし 日本は あくまでも米国や中国を含む全ての主要国が参加する公平かつ実効的な新たな国際枠組みの構築を目指すべきとの立場をとり ロシアなどとともに第二約束期間には参加しないこととした イ 2020 年以降の枠組み交渉 2011 年末のCOP 17 では 京都議定書第二約束期間の実施と併せて 将来の枠組みに関しては 法的文書を作成するための新しいプロセスである 強化された行動のためのダーバン プラットフォーム特別作業部会 (ADP) を立ち上げ 可能な限り早く 遅くとも 2015 年中に作業を終えて 議定書 法的文書又は法的効力を有する合意成果を 2020 年から発効させ 実施に移すとの道筋に合意した この合意を受けて 2020 年以降の新たな国際枠組みについて 2015 年末のCOP 21 で合意することを目指し交渉が開始された 2013 年末のCOP 19( ポーランド ワルシャワ ) では 2020 年以降の枠組みについて 締約国会議 (COP) は 全ての国に対し COP 21 に十分先立ち ( 準備ができる国は 2015 年第 1 四半期までに ) 自国の約束草案を示すことを招請すること等を決定した また 2014 年末のCOP 20( ペルー リマ ) では 2020 年以降の枠組みについて 約束草案を提出する際に示す情報 ( 事前情報 ) 等を定める気候行動のためのリマ声明が採択された この間 2014 年 11 月には 米中両国の首脳が会談し 2020 年以降の削減目標について合意するなど GHGの二大排出国が協調して積極姿勢を示したことにより COP 21 の成功への期待が高まることとなった 3. パリ協定の概要等 (1) 各国の約束草案と交渉の論点 COP 21 の成功に向けて 2020 年以降の枠組みについては 全ての国の参加を確保するため 各国が国情に応じて自主的に目標を設定する方式となることが固まっていった COP 19 決定に従って 2015 年 10 月までに主要各国の約束草案 (GHG 削減目標案 ) が出揃っている ( 表 2 参照 ) 我が国は 2015 年 7 月に 同月に決定した 2030 年のエネルギーミックス ( 電源構成 ) との整合性をとって 2030 年度に 2013 年度比 26 % 削減 (2005 年度比 25.4 % 削減 ) との約束草案を提出している 表 2 主要各国の約束草案の提出状況 (2015 年 10 月 1 日時点 ) 締約国約束草案 (GHG 削減目標案 ) 提出時期 先進国等 ( 附属書 Ⅰ 国 ) 米国 2025 年に- 26 ~- 28 %(2005 年比 ) 28 % 削減に向けて最大限 3 月 31 日 取り組む EU 2030 年に少なくとも - 40 %(1990 年比 ) 3 月 6 日 ロシア 2030 年に - 25 ~- 30 %(1990 年比 ) が長期目標となり得る 4 月 1 日 日本 2030 年度に 2013 年度比 - 26.0 %(2005 年度比 - 25.4 %) 7 月 17 日 129

カナダ 2030 年に - 30 %(2005 年比 ) 5 月 15 日 オーストラリア 2030 年までに - 30 %(2005 年比 ) 8 月 11 日 スイス 2030 年に - 50 %(1990 年比 ) 2 月 27 日 ノルウェー 2030 年に少なくとも - 40 %(1990 年比 ) 3 月 27 日 ニュージーランド 2030 年に - 30 %(2005 年比 ) 7 月 7 日 途上国 ( 非附属書 Ⅰ 国 ) 中国 2030 年までにGDP 当たりCO2 排出量 - 60 ~- 65 %(2005 年 6 月 30 日 比 ) 2030 年前後にCO2 排出量のピーク インド 2030 年までに GDP 当たり排出量 - 33 ~- 35 %(2005 年比 ) 10 月 1 日 インドネシア 2030 年までに - 29 %(BAU( 対策なしケース ) 比 ) 9 月 24 日 ブラジル 2025 年までに- 37 %(2005 年比 )(2030 年までに- 43 %(2005 9 月 28 日 年比 )) 韓国 2030 年までに - 37 %(BAU 比 ) 6 月 30 日 南アフリカ 2020 年から 2025 年にピークを迎え 10 年程度横ばいの後 減 9 月 25 日 少に向かう排出経路を辿る 2025 年及び 2030 年に 398 ~ 614 百万 t(co2 換算 )( 参考 : 2010 年排出量は 487 百万 t(iea 推計 )) これら約束草案について COP 20 決定に基づき 条約事務局が 2015 年 10 月 1 日までに提出された各国の約束草案を総計した効果に関する統合報告書を作成し 10 月 30 日に発表している それによると 世界全体のGHG 排出量は 2030 年に 567 億 tとなるが 2 目標の達成には 151 億 t 超過しているなどと分析している ( 表 3 参照 ) なお 10 月 1 日までに 147 か国 地域から 119 の約束草案が提出済みとなっており これは締約国の 75 % 2010 年の全世界の排出量の 86 % に相当する国をカバーするものという 表 3 各国の約束草案の効果の総計 世界全体のGHG 排出量は 2025 年には 552 億 t(520 ~ 569 億 t) 2030 年には 567 億 t(531 ~ 586 億 t) になる 約束草案により 2010 ~ 2030 年の排出量の増加率はその前の 20 年間と比べ約 3 割 (10 ~ 57 %) 低減 また 約束草案がない場合と比べ 2030 年に約 36 億 tの削減効果がある 2025 年及び 2030 年の排出量は 2 目標を最小コストで達成するシナリオ (IPCC 第 5 次評価報告書 ) の排出量からそれぞれ 87 億 t 151 億 t 超過しており 同シナリオの経路に乗っていない 2030 年以降の一層の削減努力により2 目標の達成の可能性は残っている その場合は 2030 ~ 2050 年に年平均約 3.3 % の削減が必要 これは最小コストで達成するシナリオと比べ2 倍の削減率に相当 COP 21 の合意に向け 交渉の論点となったのは 約束草案に関しては 先進国と途上国の排出削減義務の差異化 長期目標 (2 目標など ) の内容と位置付け 長期的な野心の向上のための仕組み 排出削減目標の法的拘束力 各国の排出削減対策の実施を担保するための仕組み 途上国の排出削減に対する支援 排出削減における市場メカニズムの 130

扱いなどであった (2) パリ協定の概要 COP 21 は 11 月 30 日の首脳会合でスタートし 事務レベルの交渉を経て 12 月 6 日以降閣僚間で更に協議を重ねた 会議では 先進国と途上国が 共通だが差異のある責任 や途上国支援の扱いをめぐって厳しく対立したが 最終的には会期を一日延長して 12 月 12 日に新たな法的枠組みであるパリ協定 ( 表 4 参照 ) が採択されるに至った パリ協定では 削減目標に関し まず 世界共通の長期目標として 今世紀末の平均気温上昇を産業革命前から2 より十分低く保つとの2 目標に加え 気候変動の影響を受けやすい島嶼国等に配慮して 1.5 以下に抑えるよう努力することを明記した また世界全体のGHG 削減量の目標数値を盛り込むことは見送られたが 代わりに 世界全体の排出のピークをできるだけ早期に達成し 今世紀後半にGHGの排出と吸収のバランスを達成することを目指すこととした 前述のとおり 既に提出された各国の約束草案 ( 削減目標案 ) を総計しても2 目標の達成には不十分な状況にある このため 途上国を含む全ての国が削減目標を5 年ごとに提出 更新し 更新した目標は従来よりも前進することを求めている 一方 米国の国内事情等に配慮して 各国が掲げる削減目標の達成自体は義務化されなかったが その実施状況の報告 点検を受けることを求め 5 年ごとに協定の全体実施状況を確認することとしている また 我が国が提案する二国間クレジット制度 (JCM) を含めた市場メカニズムの活用が位置付けられた 我が国の約束草案では GHG 削減目標積み上げの基礎とはしていないが 日本として獲得した排出削減 吸収量を我が国の削減として適切にカウントすることとしている 表 4 パリ協定の概要 目的 平均気温上昇を産業革命前から2 より十分低く保つ 1.5 以下に抑える努力を追求 緩和 今世紀後半にGHGの排出と吸収のバランスを達成するため 世界排出ピークを ( 排出削減 ) できるだけ早期に 各国は 緩和約束( 目標 ) を作成 提出 維持 約束の目的を達成するための国内対策を実施する義務 約束を5 年ごとに提出 約束は従来よりも前進を示す 先進国は経済全体の絶対量目標で主導 途上国は経済全体目標への移行を奨励 全ての国が長期のGHG 低排出開発戦略を策定 提出するよう努める 市場メカニズム適応ロス & ダメージ資金 国際的に移転される緩和成果を目標達成へ活用する( 市場メカニズム ) 場合 持続可能な開発の促進 環境十全性 透明性の確保 強固な計算方法の適用 適応能力を拡充し 強靭性を強化し 脆弱性を低減させる世界的な目標を設定 各国は適応計画プロセス 行動を実施 適応報告書を提出 定期的に更新 ロス& ダメージ ( 損失と損害 ) に関し ワルシャワ国際メカニズムも含め 理解 行動 支援 先進国は 既存義務の継続として途上国を支援 他国の自主的支援を奨励 131

先進国は広範な資金手段を通じ資金動員を主導 従来より前進を示す COP 決定で 先進国は 2025 年を通じて既存の全体動員目標量を続けることを意図すること 2025 年に先立ち 1,000 億ドルを下限として新しい定量全体目標を設定することを決定 技術能力開発透明性全体進捗確認その他 技術開発 移転の行動を強化するための技術枠組みを構築 協定の実施を支援する条約下の組織的措置により 能力開発の取組を拡充 行動と支援を対象とし 強化され 柔軟性が組み込まれた透明性枠組みを構築 各国は共通の方法で情報を提供し 専門家の検討( レビュー ) 等を受ける 協定の目的 長期目標のために5 年ごとに協定の全体実施状況を確認 ( ストックテーク ) 実施促進 遵守推進のメカニズムを構築 発効要件:55 か国以上かつ世界排出量の 55 % 以上の排出量の国の締結 4. 今後の課題 (1) パリ協定の実効性確保パリ協定により 2 目標の達成に向け 全ての国が参加してGHG 排出削減に取り組むこととなる しかし 2013 ~ 2014 年に公表されたIPCC 第 5 次評価報告書によれば 世界の平均気温は 産業革命以降の約 130 年間で既に約 0.85 上昇している すなわち 2 目標とは 現時点を基準にすると 1.15 目標 ということになる IPCC 第 5 次報告書はまた 最大限の気候変動対策をとったとしても今世紀末には 0.3 ~ 1.7 上昇すると予測しており 2 目標はかなりハードルが高い目標であると言える パリ協定では 全ての国の参加を優先したため 各国が掲げる削減目標の達成が義務化されていないなど実効性に課題が残る したがって 今後 協定の実施ルール交渉が進められようが 5 年ごとの削減目標の提出 更新 削減目標の実施状況の報告 点検 協定の全体実施状況の確認などのルールづくりにおいて 協定の実効性の確保に取り組むことが重要である (2) パリ協定採択を受けた我が国の対応パリ協定の採択を受けて 丸川環境大臣は 今後 地球温暖化対策推進法に基づく地球温暖化対策計画をできるだけ早期に策定し 我が国の約束草案に盛り込まれた排出削減の取組を着実に実施していく 2 と述べた なお 地球温暖化対策計画の策定は 2013 年 ( 平成 25 年 ) に地球温暖化対策推進法が改正されてから初めてのことになる 2030 年以降のGHG 削減に向けた我が国の約束草案について 政府は 2030 年のエネルギーミックス ( 総発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率 22 ~ 24 % 原子力の比率 22 ~ 20 % など ) と整合的なものとなるよう 技術的制約 コスト面の課題などを十分 2 第 189 回国会衆議院環境委員会議録第 14 号 ( 閉会中審査 )( 平 27.12.18) 参議院環境委員会 ( 第 189 回国会閉会後 ) 会議録第 1 号 ( 平 27.12.18) 132

に考慮した裏付けのある対策 施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として 2030 年度に 2013 年度比 26 % 削減 (2005 年度比 25.4 % 削減 ) にしたとしている その上で IPCC 第 5 次評価報告書で示された 2 目標達成のための 2050 年までの長期的なGHG 排出削減に向けた排出経路や 我が国が掲げる 2050 年世界半減 先進国全体 80 % 減 との目標に整合的なものであるとしているが 地球温暖化対策計画の策定に当たっては より十分な説明が必要であろう 参考文献 国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議 (COP 21)/ 京都議定書第 11 回締約国会合 (CMP 11) 等 ( 概要と評価 ) ( 平成 27.12.13 日本政府代表団 ) COP 21 に向けた国際交渉の状況について ( 平成 27.11.18 外務省 経済産業省 環境省 ) ( あべけいぞう ) 133