松本ほか : 肥満と精神神経薬剤処方数の関連 評価に資することを目的に平成 21 年度分より電子レセプトならびに特定健診の匿名化後のデータ収集を開始し 図 1のような流れで25 年 4 月より本格運用されている レセプト情報が約 80 億 5,000 件 特定健診等情報が約 1 億 2,000 件

Similar documents
Microsoft PowerPoint - 2.医療費プロファイル 平成25年度(長野県・・

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

PowerPoint プレゼンテーション

-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

平成 30 年 8 月 10 日 リポバス錠 5, 10, 20 アトーゼット配合錠 LD, MSD 株式会社 HD 競合品目 1 クレストール錠 クレストールOD 錠 アストラゼネカ 競合品目 2 リピトール錠 アステラス製薬 競合品目 3 リバロ錠 リバロOD 錠 興和 自社製品を除いた同効品で

死亡率 我が国における疾病構造 生活習慣病は死亡割合の約 6 割を占めている 我が国の疾病構造は感染症から生活習慣病へと変化 死因別死亡割合 ( 平成 24 年 ) 生活習

Microsoft PowerPoint - 100826上西説明PPT.ppt

山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

,995,972 6,992,875 1,158 4,383,372 4,380,511 2,612,600 2,612, ,433,188 3,330, ,880,573 2,779, , ,

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

宗像市国保医療課 御中

Microsoft Word _nakata_prev_med.doc

[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

平成 27 年 10 月 6 日第 2 回健康増進 予防サービス プラットフォーム資料 協会けんぽ広島支部の取り組み ~ ヘルスケア通信簿について ~ 平成 27 年 10 月全国健康保険協会広島支部 協会けんぽ 支部長向井一誠

結果の概要

データを正しく 活用していただくために 今回は 平成 23 年度に市町村国保で実施した特定健診結果のみ集計しています 今後 協会けんぽ沖縄支部の結果とあわせて 改めてデータ集を発行する予定です 1. 集計対象者 今回の集計対象者は 平成 23 年度に特定健康診査を受診した者 ( 市町村国保分のみ )

<4D F736F F D CB48D655F94928D95445F90488E9690DB8EE68AEE8F802E646F63>

<4D F736F F D F82A482C C B835E B83588CA48B C668DDA95B68F912E646F6378>

<4D F736F F D D294C795AA92538CA48B8695F18D908F A18E52816A E646F6378>

Microsoft Word 疑義照会事例(デパス)

ジェネリック2013.6(事務用).xls

す しかし 日本での検討はいまだに少なく 比較的小規模の参加者での検討や 個別の要因との関連を報告したものが殆どでした 本研究では うつ病患者と対照者を含む 1 万人以上の日本人を対象とした大規模ウェブ調査で うつ病と体格 メタボリック症候群 生活習慣の関連について総合的に検討しました 研究の内容

(別紙様式1)

表紙.indd

事象 :2 健診項目の中で特定健診必須項目に未受診の項目が存在する 返戻事由健診結果データ異常備考検査項目エラー返戻コード 03 特定健診で必須となっている健診項目に実施されていない項目が存在します 別表: 特定健診項目存在チェックシート を参考に健診結果を入力してください 事象 :3 生活機能評価

政策課題分析シリーズ13(本文5)

抗精神病薬の併用数 単剤化率 主として統合失調症の治療薬である抗精神病薬について 1 処方中の併用数を見たものです 当院の定義 計算方法調査期間内の全ての入院患者さんが服用した抗精神病薬処方について 各処方中における抗精神病薬の併用数を調査しました 調査期間内にある患者さんの処方が複数あった場合 そ


51 エパデールカプセル300 イコサペント酸エチルカプセル300mg 日医工 院外 52 エビスタ錠 60mg ラロキシフェン塩酸塩錠 60mg サワイ 共通 53 塩酸バンコマイシン散 0.5g バンコマイシン塩酸塩散 0.5g MEEK 共通 54 オキシコンチン錠 10mg オキシコドン徐放

A9R284E

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

< F2D8E ED28CA48F C8E862E6A7464>

PowerPoint プレゼンテーション

carwarning

PowerPoint プレゼンテーション

特定健康診査及び特定保健指導に係る自己負担額の医療費控除の取扱いの一部変更について(厚生労働省健康局長、保険局長:H )

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

3 データ指向の時代 National Insurance Claim and Health Check-up DB (NDB) Mid-Netプロジェクト (PMDA & MHLW) KDB 介護認定データベース 全国がん登録 心臓カテーテルDB 心不全症例 DB National Clinica

2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc

第三期特定健康診査等実施計画 ニチアス健康保険組合 最終更新日 : 平成 30 年 02 月 20 日

<4D F736F F D208CA792CA926D814093C192E88C928D4E90668DB88B7982D193C192E895DB8C928E7793B1>

別紙様式 (Ⅱ) 商品名 : 伝統にんにく卵黄 (31 粒入り 62 粒入り ) 食経験の評価 1 喫食実績による食経験の評価 安全性評価シート 喫食実績の有無 : あり なし ( あり の場合に実績に基づく安全性の評価を記載) 本製品 伝統にんにく卵黄 と同等の製品は 1993 年 11 月より日

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF C B68A888F4B8AB CE8DF48E9197BF88C42E707074>

1 新規採用医薬品 薬事委員会の決定による医薬品採用の開始 プレセデックス静注液 00μg/50mL シリンジ ファイザー 一般名デクスメデトミジン塩酸塩 薬効等 α 作動性鎮静剤 開始日平成 0 年 11 月 日 ( 金 ) エンブレル皮下注 5mg ペン 0.5mL エタネルセプト ( 遺伝子組

hanrei.xls

[] 1

平成23年度国保連合会

クロザリル 錠 25mg クロザピン 錠 25mg コンビビル 配 合 錠 ジドブジン ラミブジン 錠 ザーコリカプセル200mg クリゾチニブカプセル 200mg1カプセル ザーコリカプセル250mg クリゾチニブカプセル 250mg1カプセル サムスカ 錠 15mg トルバプタン 錠 15mg

次世代ヘルスケア産業協議会第 17 回健康投資 WG 資料 6 職場における食生活改善の質の向上に向けて 武見ゆかり第 6 期食育推進評価専門委員会委員 ( 女子栄養大学教授, 日本栄養改善学会理事長 )


わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン



博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

1 分析の主旨 ビタミン剤 うがい薬 湿布薬 保湿剤に関しては 医療費適正化の観点か ら 診療報酬改定で様々な対応を行ってきている 本分析は 2012 年度から2016 年度 ( 平成 24 年度から平成 28 年度 ) の調剤レセプトのデータを用いて これらの医薬品の薬剤料 数量等の推移を示したも

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

平成22年度インフルエンザ予防接種費用補助実施要綱

< E188CA8C9F8FD88A65955C2E786C73>

内臓脂肪評価目的による 腹部CT法における 再構成フィルタ関数の影響

PowerPoint プレゼンテーション

大阪府医師国民健康保険組合 特定健康診査等実施第 2 期計画 ( 平成 25 年 7 月 1 日 ) 1. 計画策定の背景昭和 36 年の国民皆保険の成立により わが国の平均寿命は飛躍的に伸び 今や世界一の長寿国となった しかし 世界に冠たるこの国民皆保険制度は 平均寿命の伸びによる高齢化の急激な進

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

<4D F736F F F696E74202D20939C D28F E B93C782DD8EE682E890EA97705D>

2

<4D F736F F D DC58F49817A91E F18C9F93A288CF88F589EF8E9197BF81698C A D096CA81698EC08E7B8FF38BB5816A B315D2E646F6378>

麻薬の

Microsoft Word - 個別指導主な指摘事項一覧(薬局)(26年度実施)

心療内科・精神の薬|講演スライド

1. 背景ながはまコホート事業は 京都大学と滋賀県長浜市が共同して行っている 市民の健康づくりと最先端の医学研究を目的として実施されている事業です 5 年ごとに一般の特定健診項目に加えて 遺伝子解析を含む血液検査や睡眠検査などの様々な検査が行われています 私たちはこのコホート事業において 睡眠呼吸障

目次 1. 目的 2 2. 人工透析患者の年齢等の分析 3 性別 被保険者 被扶養者 3. 人工透析患者の傷病等の分析 8 腎臓病 併存傷病 平成 23 年度新規導入患者 4. 人工透析 健診結果 医療費の地域分析 13 二次医療圏別 1

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

本資料は 厚生労働省保険局が運用している 診療報酬情報提供サービス 及び 社会保険診療報酬支払基金 で案内されている情報をもとに作成しています お知らせ ( 薬 )0 1 7 平成 26 年 12 月 11 日 医薬品マスターの改定について 今般 平成 26 年 12 月 11 日付け厚生労働省告示

4 職業から考える治療法 ( 運動不足 肉体労働 不規則な生活など ) 4 Keyword 肥満 1 度 病態をどうとらえるか parameter を読み解く 海外出張頻繁 アマリール 服用中 通院が不定期 肥満と家族歴の存在, およびこれまでの治療経過から 2 型糖尿病と考 罹病期間約 5 年 え

(5) 食事指導食事指導は 高血圧の改善 耐糖能障害の改善 代謝異常の改善について 各自の栄養状況 意欲などに応じて目標をたて これを達成できるよう支援する形で行った 開始時点で 食事分析を行い 3ヶ月ごとに 2 回進捗状況を確認する面接を行った 1 年後に終了時点の食事分析を行った 各項目の値の増

Microsoft Word - cjs63B9_ docx

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

PowerPoint プレゼンテーション

特定健康診査等実施計画 ( 第 3 期 ) ベルシステム 24 健康保険組合 平成 30 年 3 月 1 日 ( 最終更新日 : 平成 30 年 7 月 27 日 )

Microsoft Word - 光風病院調剤内規(抜粋版)

もくじ特定健診 保健指導とは 1 生活習慣病を 本気 で防ぐ! 生活習慣病を 根こそぎ 防ぐ! 2 生活習慣をチェック 改善する絶好のチャンス! 4 特定健診について Q 特定健診を受けるのはどんな人? Q どんな検査を受けるの? Q その検査でなにがわかるの? 8 Q 結果はどのように判断されるの

2011年度版アンチエイジング01.ppt

53 オパルモン 錠 5μg リマプロストアルファデクス 錠 5μg F 共 通 54 ガスター 散 10% ファモチジン 散 10% 日 医 工 共 通 55 ガスターD 錠 10mg ファモチジンD 錠 10mg EMEC 共 通 ガスターD 錠 10mg: 院 外 採 用 56 ガスターD 錠

対象疾患名及び ICD-10 コード等 対象疾患名 ( 診療行為 ) ICD-10 等 1 糖尿病 2 脳血管障害 3 虚血性心疾患 4 動脈閉塞 5 高血圧症 6 高尿酸血症 7 高脂血症 8 肝機能障害 9 高血圧性腎臓障害 10 人工透析 E11~E14 I61 I639 I64 I209 I

厚生労働科学研究費補助金 (地域健康危機管理研究事業)

厚生労働省のメタボ政策について

51 オダイン錠 125mg フルタミド錠 125 KN 共通 52 オノンカプセル112.5mg プランルカストカプセル112.5mg サワイ 共通 53 オパルモン錠 5μg リマプロストアルファデクス錠 5μg F 共通 54 オルメテックOD 錠 10mg オルメサルタンOD 錠 10mg

untitled


<4D F736F F F696E74202D2090B68A888F4B8AB CE8DF482CC918D8D C C982C282A282C E93AE92C789C1816A2E707074>

肥満症の認知状況関する アンケート調査 ~速報~


骨粗しょう症調査

特定健康診査等実施計画 ( 第 2 期 ) ベルシステム 24 健康保険組合 平成 25 年 3 月 1 日

PowerPoint プレゼンテーション

Transcription:

実践報告 成人肥満と精神神経薬剤処方数は関連する - レセプト情報 特定健診等情報データベース ( 第 1 回 NDB オープンデータ ) から - 松本淳子 1 平野好幸 2 須藤千尋 3 清水栄司 3 1 横手幸太郎 Relationship between the Number of Adult Obesity and Neuropsychiatric Prescription Drugs Junko Matsumoto 1, Yoshiyuki Hirano 2, Chihiro Suto 3, Eiji Shimizu 3, Koutaro Yokote 1 目的 医療分野のビッグデータとして 厚生労働省が平成 21 年度より構築しているレセプト情報 特定健診等情報データベース ( 通称 :NDB) のうち 28 年 10 月に公表された第 1 回 NDBデータ (25 年度分特定健診及び26 年度分レセプト情報データ ) を基に 全国の成人肥満者 (40~74 歳の男女 BMI 25kg/m 2 ) 数と生活習慣病との関係 それらの治療薬剤処方数 および精神神経薬剤処方数と肥満との関連性を明らかにする 方法 都道府県別に全国の成人肥満者数の10 万人比を算出し 次に肥満者比率と糖尿病 高血圧症 脂質異常症との関連を調べ それらの治療薬および精神神経薬剤の処方数との関連を検討した 結果 肥満者比率と 糖尿病 高血圧 脂質異常症の それぞれ指標となるヘモグロビンA1c 収縮期 拡張期血圧 中性脂肪 LDLコレステロールの値と有意に相関関係が認められた また 肥満者比率と糖尿病薬剤処方数 降圧剤処方数 精神神経薬剤処方数との間にも有意に相関関係が認められた 結論 肥満は 精神的な不調と関連があることが示唆された ( 調査研究ジャーナル2018;7(1):14-20) キーワード : 肥満 精神神経薬剤 NDB 1. はじめに 肥満度の判定に用いられる国際的な標準指標 BMI (Body Mass Index) は 重要な栄養学的パラメータ である 1) わが国では BMI 25kg/m 2 が肥満と定 義されている 肥満によりさまざまな健康障害が起こりやすく その代表的なものとして 2 型糖尿病 高血圧 脂質異常症が挙げられる 一方で 慢性のうつを抱えている人や不安障害のある人では体重が増加し 肥満になる比率が高いという報告があり 2) さらに肥満とそれら精神疾患における病態機序の関 1 千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学 2 千葉大学子どものこころの発達教育研究センター 3 千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学連絡先 : 260-8670 千葉市中央区亥鼻 1-8-1 千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学松本淳子 (E-mail: matsujun@chiba-u.jp) (Received 15 Dec 2017 / Accepted 2 Mar 2018) 連性も指摘されている 3) 健康障害やその治療薬 あるいは精神神経薬などについて 実際にわが国において国民の医療動向を詳らかにすることは困難であり その種の報告は未だなされていない そこで本研究では 医療分野のビッグデータとして厚生労働省が整備してきた電子レセプトのアーカイブであるナショナルデータベース ( 以下 NDB) のうち 公表された第 1 回 NDBデータ ( 平成 25 年度分特定健診及び26 年度分レセプト情報データ ) を基に 全国の成人肥満者 (40~74 歳の男女 BMI 25kg/m 2 ) 数と生活習慣病との関係 それらの治療薬剤処方数 および精神神経薬剤処方数が肥満と関連しているかについて検討したので報告する 2. 調査方法 2-1. NDBとは厚生労働省は医療費適正化計画の作成 実施及び 14

松本ほか : 肥満と精神神経薬剤処方数の関連 評価に資することを目的に平成 21 年度分より電子レセプトならびに特定健診の匿名化後のデータ収集を開始し 図 1のような流れで25 年 4 月より本格運用されている レセプト情報が約 80 億 5,000 件 特定健診等情報が約 1 億 2,000 件 (26 年 8 月現在 ) のデータが利用できる LDLコレステロールを また厚生労働省が推進してきた医薬分業の観点から 今回は 薬剤 データの 内服 外来( 院外 ) 都道府県別薬効分類別数量 (26 年度分 ) から換算した処方数( 数量の単位は薬価収載の基準単位 ) を分析の対象とした ( 薬効分類は 資料 1 を参照) 2-2. 方法 2-2-1. 対象データおよび項目平成 25 年度実施分の 特定健診集計結果 のうち BMI 腹囲 空腹時血糖 ヘモグロビンA1c (HbA1c) 収縮期血圧 拡張期血圧 中性脂肪 2-2-2. 統計解析都道府県別成人肥満者数の10 万人比を算出し 次に肥満者比率と 対象項目の基準範囲外の者との関連を調べ さらに肥満者比率とそれらの治療薬および精神神経薬剤の10 万人あたりの処方数との相関分 図 1 レセプト情報等の収集 活用の流れ ( 厚生労働省資料より ) 資料 1 薬効分類 ( 厚生労働省資料より ) < 糖尿病薬剤 > < 高脂血症薬剤 > < 降圧剤 > < 催眠 抗不安剤 > < 精神神経剤 > メトグルコ錠 250mg クレストール錠 2.5mg オルメテック錠 20mg ソラナックス 0.4mg 錠 デパス錠 0.5mg エクア錠 50mg ゼチーア錠 10mg ミカルディス錠 40mg マイスリー錠 5mg リーゼ錠 5mg ジャヌビア錠 50mg リピトール錠 10mg ブロプレス錠 4 4mg ハルシオン 0.25mg 錠 サインバルタカプセル 20mg セイブル錠 50mg クレストール錠 5mg ブロプレス錠 8 8mg レンドルミン D 錠 0.25mg ジェイゾロフト錠 25mg アマリール 1mg 錠 リピトール錠 5mg アーチスト錠 2.5mg マイスリー錠 10mg エチゾラム錠 0.5mg トーワ メトグルコ錠 500mg リピディル錠 80mg ディオバン錠 80mg レンドルミン錠 0.25mg エチゾラム錠 0.5mg SW グラクティブ錠 50mg リバロ錠 1mg ミカルディス錠 20mg ワイパックス錠 0.5 0.5mg デパス錠 1mg ネシーナ錠 25mg メバロチン錠 10 10mg エックスフォージ配合錠 2mg セルシン錠 リフレックス錠 15mg トラゼンタ錠 5mg ベザフィブラート SR 錠 200mg サワイ オルメテック錠 10mg メイラックス錠 1mg リーマス錠 200 200mg メデット錠 250mg アトルバスタチン錠 10mg サワイ アジルバ錠 20mg ロラゼパム錠 0.5mg サワイ セロクエル 25mg 錠 ベイスン OD 錠 0.3 0.3mg アトルバスタチン錠 5mg サワイ ミカムロ配合錠 AP コンスタン 0.4mg 錠 デゾラム錠 0.5mg グルファスト錠 10mg ベザトール SR 錠 200mg アーチスト錠 10mg グッドミン錠 0.25mg レクサプロ錠 10mg テネリア錠 20mg リバロ錠 2mg ユニシア配合錠 HD レキソタン錠 2 2mg パキシル錠 10mg ベイスン OD 錠 0.2 0.2mg メバロチン錠 5 5mg アテレック錠 10 10mg ロヒプノール錠 1 1mg エビリファイ錠 3mg ボグリボース OD 錠 0.3mg サワイ アトルバスタチン錠 10mg EE ディオバン錠 40mg グランダキシン錠 50 50mg トリプタノール錠 10 10mg アクトス錠 15 15mg EPL カプセル 250mg レザルタス配合錠 HD アモバン錠 7.5 7.5mg ジェイゾロフト錠 50mg アマリール 0.5mg 錠 プラバスタチン Na 錠 10mg サワイ プレミネント配合錠 LD フルニトラゼパム錠 1mg アメル エビリファイ錠 6mg グルベス配合錠 アトルバスタチン錠 5mg EE シルニジピン錠 10mg サワイ ベンザリン錠 5 5mg エチゾラム錠 0.5mg アメル ボグリボース OD 錠 0.2mg サワイ ベザフィブラート SR 錠 200mg 日医工 エブランチルカプセル 15mg ロヒプノール錠 2 2mg アモキサンカプセル 25mg スイニー錠 100mg プラバスタチンナトリウム錠 10mg 日医工 ナトリックス錠 1 1mg フルニトラゼパム錠 2mg アメル デプロメール錠 25 25mg ジャヌビア錠 25mg ロトリガ粒状カプセル 2g アバプロ錠 100mg フェノバール錠 30mg ルボックス錠 25 25mg グリメピリド錠 1mg 三和 リバロ OD 錠 2mg ニューロタン錠 50mg アルプラゾラム錠 0.4mg トーワ エチゾラム錠 0.5mg EMEC グリメピリド錠 1mg 日医工 リバロ OD 錠 1mg アジルバ錠 40mg ユーロジン 2mg 錠 パキシル CR 錠 12.5mg セイブル錠 75mg リポバス錠 5 5mg カルブロック錠 16mg ブロチゾラム OD 錠 0.25mg サワイ リスパダール錠 1mg アマリール 3mg 錠 アトルバスタチン錠 10mg トーワ カルベジロール錠 10mg サワイ メデポリン錠 0.4 0.4mg テトラミド錠 10mg グリコラン錠 250mg プラバスタチン Na 錠 5mg サワイ エカード配合錠 HD セパゾン錠 1 1mg サインバルタカプセル 30mg リオベル配合錠 LD ローコール錠 20mg アイミクス配合錠 HD アルプラゾラム錠 0.4mg サワイ ジプレキサ錠 2.5mg ネルビス錠 250mg リピディル錠 53.3mg イルベタン錠 100mg セニラン錠 2mg セロクエル 100mg ベイスン錠 0.2 0.2mg トライコア錠 80mg タナトリル錠 5 5mg エバミール錠 1.0 1mg アタラックス-P カプセル 25mg グリメピリド錠 1mg NP プラバスタチンナトリウム錠 5mg 日医工 ブロプレス錠 2 2mg ブロチゾラム OD 錠 0.25mg タイヨー レボトミン錠 5mg 15

析を行った ( 図 2) 3. 結果 3-1.10 万人あたりの BMI 25kg/m 2 の肥満者数お よび対象項目指標全国 10 万人あたりのBMI 25kg/m 2 の肥満者数およびその指標となる対象項目の基準範囲外の HbA1c 収縮期 拡張期血圧 中性脂肪 LDLコレ 肥満者 (BMI25kg/m2 ) 腹囲 :90cm 空腹時血糖 :100mg/dL HbA1c:6.5% 収縮期血圧 :90mmHg 拡張期血圧 :140mmHg 中性脂肪 :150mg/dL LDL コレステロール :140mg/dL 糖尿病薬剤処方数 高脂血症剤処方数 降圧剤処方数 催眠 抗不安剤処方数 精神神経薬剤処方数 図 2 対象項目および分析方法 表 1 全国の 10 万人あたりの BMI25kg/m 2 の肥満者数及び関連疾患指標項目と千葉県の比較 BMI25kg/m 2 腹囲 90cm 血糖値 100mg/dL HbA1c 6.5% 収縮期血圧 90mmHg 拡張期血圧 140mmHg 中性脂肪 150mg/dL LDL140mg/dL 全国の 10 万人比数 ( 人 ) 4,937(4,333-5,255) 3,836(3,514-4,112) 4,499(4,101-4,928) 804(918-1,092) 3,384(3,058-3,665) 2,165(1,942-2,412) 3,921(3,502-4,400) 5,400(5,089-5,779) 千葉県の 10 万人比数 ( 人 ) 5,158 4,112 4,282 1,136 3,310 2,241 4,088 5,778 中央値 ( 四分位範囲 ) 16 図 3 都道府県別人口 10 万人あたりの BMI25kg/m 2 の肥満者数

松本ほか : 肥満と精神神経薬剤処方数の関連 ステロールの中央値ならびに四分位範囲を表 1に示した 次に それらのスコアと千葉県のスコアを比較した結果 BMI 25kg/m 2 腹囲 90cm 基準範囲外のHbA1c 中性脂肪 LDLコレステロール の中央値が全国の中央値を大幅に上回っていた ( 表 1) BMI25kg/m 2 * P <0.05 ** P <0.01 BMI 25kg/m 2 表 2 肥満者と基準範囲外の対象項目及び薬剤処方数との相関 HbA1c 6.5% 腹囲 90cm 血糖値 100mg/dL 中性脂肪 150mg/dL 催眠抗不安剤 精神神経薬剤 認知行動療法 糖尿病薬剤 高脂血症剤 降圧剤 痛風剤 収縮 140mmHg 拡張 90mmHg LDL 140mg/dL Pearson の相関係数 1.549 **.931 **.395 **.766 **.177.296 * -.209.385 **.155.321 *.239.627 **.631 **.508 ** 有意確率 ( 両側 ).000.000.006.000.235.043.159.007.298.028.105.000.000.000 N 47 47 47 47 47 47 47 47 47 47 47 47 47 47 47 図 4 都道府県別 BMI25kg/m 2 者数と HbA1c6.5% 者数との関連 図 5 都道府県別 BMI25 kg/m 2 者数と中性脂肪 150mg/dL 者数との関連 17

図 6 都道府県別 BMI25kg/m 2 者数と降圧剤処方数との関連 図 7 都道府県別 BMI25kg/m 2 者数と精神神経薬剤処方数との関連 18 図 8 都道府県別人口 10 万人あたりの精神神経薬剤処方数

松本ほか : 肥満と精神神経薬剤処方数の関連 3-2. 都道府県別人口 10 万人あたりの肥満者数比較都道府県別人口 10 万人あたりのBMI 25kg/m 2 の肥満者数は沖縄県が最も多く (6,464 人 ) 次いで宮城県 (6,425 人 ) 山形県(6,195 人 ) で 奈良県 (3,742 人 ) が最も少なかった 千葉県 (5,158 人 ) は17 番目であった ( 図 3) 3-3. 都道府県別肥満者比率と関連疾患の関連肥満者比率と 糖尿病 高血圧 脂質異常症の 指標となるHbA1c 収縮期 拡張期血圧 中性脂肪 LDLコレステロールの基準範囲外の人数比率との間に有意な正の相関が認められた ( 表 2 図 4 図 5) 3-4. 都道府県別肥満者比率と10 万人あたりの薬剤処方数および精神神経薬剤処方数との関連肥満者比率と生活習慣病の薬剤処方数を分析した結果 ( 表 2) 糖尿病薬剤処方数 降圧剤処方数 ( 図 6) との間に有意な正の相関が認められた しかし 高脂血症剤処方数との間には関連は見られなかった 注目すべき点は 肥満者比率と精神神経薬剤処方数との間に有意な正の相関が認められたことである ( 図 7) 都道府県別人口 10 万人あたりの精神神経薬剤処方数は秋田県が最も多く 次いで新潟県 福島県であった ( 図 8) 4. 考察全国 10 万人あたりと千葉県との比較 ( 表 1) で BMI 25kg/m 2 腹囲 90cm HbA1c 中性脂肪 LDLコレステロールのそれぞれで中央値に比べ 千葉県が基準範囲を上回っていた項目は いつでもどこでも食物が手に入る都市部の便利さに加え 食習慣や運動不足などの要因が推測される 肥満は生活習慣と密接に関連しており 肥満率が最も高い沖縄県では 20~50 代の男女共に週に3~4 回 夕食後に飲食している人が3 割を超えている 就寝前の飲食習慣がエネルギーの過剰摂取につながり 若い世代から肥満の要因となっていることが考えられる 4) また揚げ物や炒め物を摂取することが多く 摂取エネルギーに占める脂肪エネルギー の比率が高いという沖縄県特有の食文化が影響していると推察される 肥満は糖尿病 糖 脂質代謝異常 高血圧等の疾患に関与していることが知られており 5) 肥満症とは肥満に起因 関連する健康障害を有するか そうした健康障害が予測される内臓脂肪が過剰に蓄積する疾患である 6) 肥満者比率と糖尿病 高血圧 脂質異常症の 指標となるHbA1c 収縮期 拡張期血圧 中性脂肪 LDLコレステロールの それぞれ基準範囲外の人数比率との間に有意な正の相関が認められたことは先の研究と一致した また肥満者比率と糖尿病薬剤処方数 降圧剤処方数との間に有意な正の相関が認められたことも今回の結果を裏付けるものと考えられる ただし 高脂血症剤処方数との間に関連が見られなかったのは 脂質異常症は肥満症に限らず 家族性高コレステロール血症や女性ホルモンの影響による場合もあるためと推察される 注目すべき点として 肥満者比率と精神神経薬剤処方数との間に有意な正の相関が認められたことが挙げられる 肥満とうつの関連については うつの人はそうでない人に比べて体重増加が見られ 7) またうつの評価尺度におけるスコアはBMIと正の相関を示す 8) との報告と 我々の今回の結果は間接的ではあるが一致した また 最近の研究で 肥満に関連する21 種類の遺伝子の中のある変異が うつ病のリスクを高めるという報告 9) もあり 両者の関連性が指摘されている このように 肥満が精神的な不調と関連していることから 通常の治療に加え 積極的な心理的アプローチを行う必要がある 5. 今後の課題今後さらにNDBの膨大かつ詳細なデータを利用 分析し より精緻に実態を明らかにしていくことを課題とし その際 食欲増進作用や体重増加との関連が指摘されている抗精神病薬に焦点を当て分析するとともに それらの知見を基に 将来 肥満予防や治療に役立てていきたいと考える 6. 利益相反開示すべき利益相反はない 19

本研究は 平成 28 年度ちば県民保健予防基金事業助成を受け行われたものである 文献 1) Bailey KV, Ferro-Luzzi A. Use of body mass index of adults in assessing individual and community nutritional status. Bull. World Health Organ 1995;73,: 673 80. 2) Luppino FS, de Wit LM, Bouvy PF, et al. Overweight, obesity, and depression: a systematic review and meta analysis of longitudinal studies. Arch Gen Psychiatry 2010;67(3):220-9. 3) Nousen EK, Franco JG, Sullivan EL. Unraveling the mech anisms responsible for the comorbidity between metabolic syndrome and mental health disorders. Neuroendocrinology 2013;98, 254 66. 4) 沖縄県 : 県民健康 栄養調査 / 健康おきなわ21 沖縄県の保健医療の現状 <http://www.pref.okinawa.jp/imu_kokuho/iryotaisaku/hoke nniryoukeikaku/ver2.pdf> (2017/12/12アクセス) 5) Pi-Sunyer X. The medical risks of obesity. Postgrad Med 2009;121(6):21-33. 6) 日本肥満症予防協会 : 肥満症とは <http://himan.jp/column/what/>(2017/12/12 アクセス ) 7) Atlantis E, Goldney RD, Wittert GA. Obesity and depres sion or anxiety. BMJ 2009;339:b3868. 8) McLean RC, Morrison DS, Shearer R, et al. Attrition and weight loss outcomes for patients with complex obesity, anxiety and depression attending a weight management programme with targeted psychological treatment. Clin Obes. 2016;6(2):133-42. 9) Samaan Z, Lee YK, Gerstein HC, et al. Obesity genes and risk of major depressive disorder in multiethnic population: a cross-sectional study. J of Clin Psychiatry 2015;76 (12):1611-8. 20