法学概論第 1 1 回生活の中の法について ( 1 ) 講義資料 民法 = 日常生活の基本原則 民法とは 日常生活の私的な生活全般を対象とする最も基本的な法律である 具体的には 土地や契約などの財産関係と 家族や相続等の問題を規律している 商法や労働法 消費者契約法など さまざまな法律の基礎として位置づけられている ただ 民法は 日常生活の多岐にわたる人間関係をフォローする法律であるため 条文数も多く 全体像をつかむことが非常に難しい * 民法は何度も改正されているが 最近の大きな改正は 2 0 1 7 年の法改正 ( 2 0 2 0 年 4 月施行予定 ) と 2 0 1 8 年の成人年齢引き下げ ( 2 0 2 2 年 4 月施行予定 ) である この点は適宜説明する 1. 民法の基本原理とその修正 教科書 2 5 4 ~ 2 5 7 ページ ( 1 ) 所有権絶対の原則 ( 教科書 2 5 4 ページ ) 所有権は 国や他人からの干渉を受けることなく あらゆる他人に対して主張することのできる完全な支配権である 所有者は所有物を自由に使用 収益 処分する権利を有している ( 民法 2 0 6 条 ) ( 2 ) 契約自由の原則 ( 教科書 2 5 5 ページ ) 近代市民社会において 市民の自由は最大限に保障されるべきであると考えられている 人は 自分の生活関係を自分の自由な意思によって規律することができる とする法理念でもある この理念のことを ( 1 ) の原則と呼ぶ ( 教科書 1 0 0 ページ ) これを契約の場面に適用した原則が契約自由の原則である ( 2 0 1 7 年改正で 民法 5 2 1 条 5 2 2 条 として明文化 ) ( 3 ) 過失責任の原則 ( 教科書 2 5 5 ページ ) 故意や過失によって他人の権利や利益を侵害した場合は 損害賠償の責任を負う ( 民法 7 0 9 条など ) ( 4 ) 基本原理の修正 公序良俗 信義則 権利濫用 などの一般条項 基本原理を修正する様々な特別法 ( 具体例は次回 ) 2. 物の概念 ( 教科書 2 7 4 ~ 2 7 6 ページ ) 物 = 有体物 = 固体 液体 気体のすべて 動産と不動産 ( 民法 8 6 条 ) 不動産 = 土地 ( 建物 ) およびその定着物土地と建物とは別個独立の不動産 動産 = 不動産以外のもの 3. 民法における二種類の権利 教科書 2 7 6 ~ 2 7 8 ページ ( 2 ) ( 3 ) 物 に対する直接の支配権特定の他人に対して特定の行為を要求する権利 ( に対応する相手方の義務のことをと呼ぶ ) 誰に対しても主張できる 特定の相手に対してしか主張できない ( 物権の絶対性 ) ( の相対性 ) 法律で内容が定まっている 当事者同士で自由に内容を決定できる ( 物権法定主義 ) ( 私的自治の原則 契約自由の原則 ) - 1 -
( 問 1 ) X 劇場に出演する契約をしている歌手 S が 同日の同時刻に Y 劇場にも出演する契約は可能だろうか? ( 問 2 ) A 氏は ある土地とその上の建物を所有していたが これらを B 氏に売る契約を した ( 契約に定められた期日に B は代金を支払い A は土地 建物を引き渡す ことになる ) また B はこれらの購入資金を C 銀行から借り その際 この土地 と建物に抵当権が設定された ( B は C 銀行に対し 借金の返済をしていくことに なる ) このとき 次の各々の権利は物権とのどちらか ( ア ) 土地と建物の所有権 ( ) ( イ ) A が B から土地 建物の代金の支払を受ける権利 ( ) ( ウ ) B が A から土地 建物を引き渡しを受ける権利 ( ) ( エ ) C 銀行が B から借金の返済を受ける権利 ( ) ( オ ) C 銀行の持つ抵当権 ( ) 4. 権利能力 意思能力 行為能力 教科書 2 6 0 ~ 2 6 3 ページ ( 1 )( 4 ) 権利を持ったり 義務を負ったりすることのできる法的資格 人間 = 自然人であれば 誰でも 生まれてから 死ぬまでこの資格を有している 人間以外の場合 法人 ( 株式会社など 教科書 2 6 5 ~ 2 6 6 ページ ) ( 2 )( 5 ) 自分の行為の法的な意味 ( 権利 義務が生じること ) を理解して判断できる力 = 理解力 判断力のこと ( 3 )( 6 ) 一人で自由に法律上の行為をすることのできる法的資格 ( 問 3 ) お父さんが居酒屋で泥酔してしまいました その時 お店の人に この店のお酒全部俺が買った と叫びました お父さんは本当にお酒を全部買わないといけないでしょうか? 民法は 人は自由な意思を行使することのできる判断能力を有していることを大前提としている よって 例えば 幼児や泥酔した人間は 人が普通に有していると考えられる判断能力 = ( 5 ) を有していないことになるので ( 5 ) のない人間が たとえば契約を結んだとしても そうした契約は ( 7 ) である ( 2 0 1 7 年改正で 民法 3 条の 2 として明文化 ) ( 問 4 ) 1 0 歳の子供が親に無断で 家電製品店で 1 0 0 万円もする AV 機器を分割払いで購入する契約を結んだとします この契約は守らないといけないでしょうか? また この子供が自分のおこづかい ( 親からは自由に使っていいと言われている ) で親に無断で 5 0 0 0 円のゲームソフトを購入することはできるでしょうか? ( 8 ) 取引の損得を判断する能力 ( 取引能力 ) を持っていない者は 契約などの際に ずる賢い人に食い物にされ財産を失うおそれがあるので その者を保護するために その者の ( 6 ) を制限する制度 具体的には未成年者 ( 現在は 2 0 歳未満 ) と 成年後見制度に基づき ( 8 ) と指定された者のことである 制限行為能力者が契約などを結ぶ際には 代理人 ( 例えば 未成年者の場合なら親権者 ) の同意が必要となる - 2 -
代理人の同意なしに契約が結ばれた場合 契約は ( 9 ) ことができる ただし代理人が自由に使うことを許可した財産 ( 例えば おこづかい ) や 日用品などの購入については同意はなくてもよいとされる * 2 0 2 2 年より成人年齢は 1 8 歳 ( 1 8 歳未満が未成年者 ) となる これにあわせて消費者保護の観点から 消費者契約法も改正される この点は次回 5. 契約の成立と意思表示の問題 教科書 2 9 2 ~ 3 1 0 ページ 契約の成立 申込みと承諾教科書 2 9 4 ページ 有効な意思表示と 意思表示の規制 ( 問 5 ) A さんが B さんに パソコンを売ろう と言ったとします 次の場合 この契約は有効に成立しているでしょうか 1. A さんが冗談で売ると言った場合 2. A さんと B さんが相談して 売ったフリをして 本当は売っていない場合 3. A さんが 2 台のパソコンを持っていて 旧型の方を売るつもりだったのに 新型の方を B さんにみせていたことに気づいていなかった場合 一見正しく意思表示をしているように見えても じつは真意とは異なる意思表示になっ ている場合があります 契約を結ぶつもりがないのに契約を結ぶと言う ( 10 ) 契約を結んでいないのに結んだフリをする ( 11 ) 誤解や勘違いで契約を結んでしまう ( 12 ) 基本的に ( 10 ) の場合は契約は有効ですが ( 11 ) の場合は契約は無効 * ( 12 ) の場合は 現在は無効だが 2 0 1 7 年改正により 2 0 2 0 年より契約を 取り消すことができる となる ( ただし A さんに重大な落ち度がないかどうかが 問われる ) ( 問 6 ) B さんが A さんに パソコンを買います と言ったとします 次の場合 この契約は有効に成立しているでしょうか 1. A さんが B さんを脅して無理矢理買わせた場合 2. A さんが中古品を新品の限定特価品とだまして売っていた場合 おどされたり ( 13 ) だまされたり ( 14 ) して契約を結ばされてしまった場合 その契約はあとから取り消すことができます この場合に 何も知らない第三者が登場して 例えば B さんの詐欺により A さんがだまされて自分の土地を売ってしまい B さんが その何も知らない第三者に土地を売ったというような場合 A さんは土地を取り戻すことができなくなります ( おどされた場合は取り戻すことができる ) 無効と取消し 教科書 3 0 6 ~ 3 0 7 ページを参照 3. 契約をめぐる様々な問題 ( 問 7 ) A が B にパソコンを売るという契約を結んだ B は一週間後に納入するよう依頼し A は承諾した ところが A が納期を忘れたため パソコンを引き渡せなかった ( 教科書 3 1 6 ページ図 ) ( 15 ) 契約違反のように なすべき義務が負っているのにその義務を果たさない / 果たせない状態のこと 義務の履行が遅れている ( 履行遅滞 ) 履行できない ( 履行不能 ) 義務を完全に履行していない ( 不完全履行 ) がある - 3 -
この場合 B は A に引き渡すよう強制する ( 履行強制 ) か 損害賠償を請求するか あるいは契約そのものを ( 16 ) することもできる ( 問 8 )( 問 7 ) で A が納入できなかったのは 大地震でそれどころではなかったとか隣の家の火事に巻き込まれて家ごとパソコンが燃えてしまったとかいう場合はどうであろうか? A のミスが原因でないようなことが理由で A が契約を履行できなかった場合 どうなるのかという問題がある まず この場合 引き渡しが遅れたからといって不履行の責任を負うことはない 過失責任主義 教科書 3 1 7 ページただ 後で引き渡すか パソコンが燃えた場合には 代わりのパソコンを用意して引き渡すことになる * ( 問 8 ) の例で もし代わりのものがないようなもの ( 例えば 有名な絵画のように世界に一つしかないもの ) が燃えてしまったとしたら どうする? この場合は 契約を解除することができる また B 側は代金の支払いを拒むことができるし 仮にすでに払っていたとしてもお金の返済を求めることができる ( 民法改正前と改正後で若干異なるのですが 改正後はこうなります ) - 4 -
物権と A は 自分の土地と建物を B に売るという契約を結んだ 土地と建物の売却代金の支払いを受ける権利 代金を支払う義務 代金の支払 A B 土地と建物の引渡し 土地と建物を引き渡す義務 土地と建物の引渡しを受ける権利 土地と建物の所有権は A から B に移転 B は 自分の土地と建物を担保に C 銀行からお金を借りた 借金を返済する義務 借金の返済を受ける権利 お金を借りる B 土地と建物を担保に提供 C 銀行 所有権 抵当権の設定 借金が返済されなかったときに 土地と建物を競売にかけて売却し その利益のうち 優先的に借金分のお金を回収する権利 土地と建物に対して設定される権利なので 抵当権は物権である