第16回日本臨床腫瘍学会学術集会 共催セミナー報告集

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B. 医療関係者の皆様へ 1. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) の診断基準 TLS の診断は 2010 年に発表された TLS panel consensus に基づいている 具体的には高尿酸血症 高カリウム血症もしくは高リン血症の 3 つのうち 2 つ以上の異常が化学療法開始 3 日前から開始後 7

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査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

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葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

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がん登録実務について

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D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

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7. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : グループ指定により対応しているがん : 診療を実施していないがん 別紙 に入力したが反映されています 治療の実施 ( : 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 集学的治療 標準的治療の提供体制 : : グループ指定により対応 ( 地域がん診療病

医科_第20次(追加)審査情報提供(広報用)

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要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

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福島県のがん死亡の年次推移 福島県におけるがん死亡数は 女とも増加傾向にある ( 表 12) 一方 は 女とも減少傾向にあり 全国とほとんど同じ傾向にある 2012 年の全のを全国と比較すると 性では高く 女性では低くなっている 別にみると 性では膵臓 女性では大腸 膵臓 子宮でわずかな増加がみられ

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1)表紙14年v0

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審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

用法・用量DB

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

検査項目情報 6475 ヒト TARC 一次サンプル採取マニュアル 5. 免疫学的検査 >> 5J. サイトカイン >> 5J228. ヒトTARC Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital Ver.6 thymus a

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1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

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日本内科学会雑誌第98巻第12号

負荷試験 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 検体ラベル ( 単項目オーダー時 )

301128_課_薬生薬審発1128第1号_ニボルマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインの一部改正について

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094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml DNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 JAK2/CALR. 外 N60 氷 採取容器について

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がんの治療

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg タペンタ 錠 100mg に係る 販売名 タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg 医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 有効成分 タペンタ 錠 100mg 製造販売業者 ヤンセンファーマ株式会社 薬効分類 821 提出年月 平成 30 年

News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

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本マニュアルの作成に当たっては 学術論文 各種ガイドライン 厚生労働科学研究事業報告書 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の保健福祉事業報告書等を参考に 厚生労働省の委託により 関係学会においてマニュアル作成委員会を組織し 一般社団法人日本病院薬剤師会とともに議論を重ねて作成されたマニュアル案をもと

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

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検査項目情報 6154 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4E. 副腎髄質ホルモン >> 4E016. カテコールアミン3 分画 カテコールアミン3 分画 [ 随時尿 ] catecholamines 3 fractionation 連絡先 : 3764 基本情報 4E016

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

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A 2010 年山梨県がん罹患数 ( 全体 )( 件 ) ( 上皮内がんを除く ) 罹患数 ( 全部位 ) 5,6 6 男性 :3,339 女性 :2,327 * 祖父江班モニタリング集計表から作成 * 集計による主ながんを表示

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

検査項目情報 LDH アイソザイム ( 乳酸脱水素酵素アイソザイム ) Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital 一次サンプル採取マニュアル 生化学的検査 >> 3B. 酵素および関連物質 >> 3B05

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

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第 16 回日本臨床腫瘍学会学術集会 報告集 モーニングセミナー 12 日時 :2018 年 7 月 21 日 ( 土 ) 会場 : 神戸国際会議場 腫瘍崩壊症候群のリスクマネジメント 司会 演者 山形大学医学部内科学第三講座主任教授 石澤賢一 埼玉医科大学総合医療センター血液内科教授 2018 年 9 月作成

モーニングセミナー 12 腫瘍崩壊症候群のリスクマネジメント 司会 山形大学医学部内科学第三講座主任教授石澤賢一 演者 埼玉医科大学総合医療センター血液内科教授 腫瘍崩壊症候群 (TLS) とは 腫瘍崩壊症候群 (TLS) とは 腫瘍が壊れることで腫瘍細胞内から核酸やリン カリウム サイトカインなどが血中に大量に放出されることにより引き起こされる代謝異常の総称で 腎機能低下や突然死などをきたすことがある ( 図 1) 例として 高尿酸血症 低カルシウム血症といった電解質異常に起因する腎機能障害などが挙げられる TLSには Laboratory TLS(LTLS) とClinical TLS(CTLS) がある LTLSは 高尿酸血症 高カリウム血症 高リン血症のうち 2 項目以上が治療開始 3 日前 ~ 開始 7 日後に基準値上限を超えるいわゆる臨床検査値上のTLS CTLSは LTLSに加えて腎機能が正常上限の1.5 倍以上 不整脈 / 突然死 痙攣のいずれか1 つを伴った臨床症状を伴う TLSである TLS のリスクとその評価 我々にとって重要なのは目の前の患者が TLS を起こしやす いのか それとも起こしにくいのか そのリスクを知ることである TLSのリスクは はじめに LTLSの有無を確認し LTLS がある場合は更にCTLSの有無でそのリスクを評価する LTLSがなければ疾患別のリスク評価を行い 腎機能によるリスク調整を経てそのリスクを評価する TLSリスクを評価した後も常に経過を追いながら定期的にリスクを再評価することが推奨されている 1) 疾患別 TLS 発症リスク これまでの報告から血液腫瘍ではTLSを発症する頻度が高いことが知られている 例えば急性リンパ性白血病 (ALL) の場合 小児では63% 成人では19% 非ホジキンリンパ腫の場合 小児では18% 成人では28% に発症したとの報告がある ( 表 1) 2) 一方 多発性骨髄腫(MM) では全体で 1.4% 固形がんでは全体で3.6% と発症頻度は低い 2) TLSを起こしやすい腫瘍には 化学療法に対して感受性が高い 腫瘍量が多い 腫瘍の増殖速度が速いといった特徴 図 1 腫瘍崩壊症候群の病態 核 細胞質 膜 治療 デオキシリボ核酸 高リン血症 高カリウム血症 高サイトカイン血症 アデノシンイノシン 低カルシウム血症尿酸結晶形成 血圧低下 ヒポキサンチン リン酸カルシウム結晶形成 炎症 キサンチンオキシダーゼアラントイン キサンチン尿酸 腎機能低下不整脈または突然死痙攣 監修 : 埼玉医科大学総合医療センター血液内科教授

がある 近年 分子標的治療薬などが使用されるようになり 治療成績の向上に寄与している その一方で 従来 TLS が起きにくいとされてきた疾患において TLSの発症リスクが高まっている 固形がんは従来発症リスクが低いとされてきたが 2013 年までの報告をまとめてみると 各種固形がんでTLSが発症している 肝細胞がんでは14 日後に発症するなど 予期せぬタイミングで発症するケースもある また 死亡例が多く 化学療法や放射線治療だけでなく 突然 (spontaneous) 起きることもあるため ( 表 2) 1) 今後は固形がんにおいても TLSが起こる可能性を考慮して治療にあたる必要がある TLS の予防と治療 TLSは TLSを発症させない もしくは LTLSをCTLSへと移行させないことが大切である LTLSとCTLSの治療に違いは なく 各リスクに応じてモニタリング 輸液 ( カリウムフリー ) による予防 治療を行う 高尿酸血症の対応には 尿酸生成阻害薬やラスブリカーゼで尿酸をコントロールする 尿酸生成阻害薬は尿酸の合成に必要なキサンチンオキシダーゼを阻害するが 既に生成された尿酸には作用しない 一方 尿酸分解酵素薬であるラスブリカーゼは 尿酸を分解してアラントインへ変換する ( 図 1) 高カリウム血症 高リン血症 低カルシウム血症に対しては それぞれ適切に対処する ( 表 3) ラスブリカーゼの使用時の注意点 尿酸をコントロールするために ラスブリカーゼはいつからどれくらいの期間使えばよいのか ラスブリカーゼの場合 投与期間は最大 7 日間である しかし何日間投与すればよいのかを判断する明確な基準はない 個々の症例に応じて適切な期間を見極め そのデータや経験を蓄積していくこ 表 1 腫瘍崩壊症候群発症例の疾患別割合 小児 (n=682) 成人 (n=387) 合計 (n=1,069) 例数 % 例数 % 例数 % 急性リンパ性白血病 433 63 73 19 506 47 急性骨髄性白血病 74 11 104 27 178 17 慢性リンパ性白血病 0 0 37 10 37 3.5 慢性骨髄性白血病 6 0.9 36 9 42 4 非ホジキンリンパ腫 122 18 109 28 231 22 ホジキン病 8 1.2 6 1.6 14 1.3 多発性骨髄腫 0 0 15 3.9 15 1.4 その他の血液がん 5 0.7 3 0.7 8 0.7 固形がん 34 5 4 1 38 3.6 Reprinted with permission. 2008 American Society of Clinical Oncology. All rights reserved. Coiffier B et al:j Clin Oncol. 26(16), 2008:2767-2778. 表 2 固形がんにおける TLS の報告 疾患 n TLS 発現日 1 週死亡 生存 / 死亡化学療法新規薬剤放射線突然手術 肝細胞がん 15 4 (1-14 ) 2 8/7 4 2 1 8 乳がん 11 1.6 (1-4 ) 2 4/7 9 1 1 小細胞肺がん 10 3.4 (1-7 ) 3 4/6 9 1 胚細胞腫瘍 10 1.7 (1-3 ) 1 7/3 7 3 大腸がん 6 3 (1-7 ) 1/5 3 2 1 1 悪性黒色腫 7 1.6 (1-3 ) 1 4/3 4 1 2 非小細胞肺がん 6 5.5 (2-13 ) 3 2/4 2 1 2 1 前立腺がん 5 3.5 (1-6 ) 1 0/5 3 1 1 抗癌剤動注 PSL ゾレドロン酸 日本臨床腫瘍学会編. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) 診療ガイダンス, 金原出版, 東京, 2013 より改変

とが大切である また ラスブリカーゼ投与中の尿酸値の測定には 注意が必要である ラスブリカーゼ投与中に採取した血液検体を室温に放置すると ラスブリカーゼによる尿酸の分解が進むため 見かけ上の尿酸値が低くなる ラスブリカーゼ投与中に採取した血液検体は必ず氷冷することが肝要である TLS を発症させないためには TLSは 誰にでも起こる可能性がある そのことを念頭に置き 我々は臨床経過を追いつつ リスクを評価して 予 防 治療にあたらなければならない また リスクは一定ではなく変化することを意識し 各薬剤の投与量や投与期間は柔軟に考えて対処していくことが大切である ( 図 2) がん治療においては チーム医療の重要性がますます高まってきている TLSの予防 治療においても 医師だけでなく 看護師 薬剤師によるダブルチェック トリプルチェックを行うなど 患者さんの状態を見ながら メンバー同士が話し合うような素地を作り チーム医療でTLSの臓器障害を防いでいくことが求められている 1) 日本臨床腫瘍学会編. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) 診療ガイダンス, 金原出版, 2013 2)Coiffier B, et al. J Clin Oncol 26(16):2767-2778, 2008 表 3 腫瘍崩壊症候群の予防 治療 モニタリング 化学療法前より開始 4 24 時間毎のバイタル 輸液 カリウムフリー製剤 1,000mL 3,000mL/m( 2 状況で増減 ) フェブキソスタット 10 60mg/ 日の予防投与 高尿酸血症 ラスブリカーゼ 0.1 0.2mg/kg/ 回 ポリスチレンスルホン酸ナトリウム 30g/ 日 ( 経口 注腸 ) グルコン酸カルシウム 1 5g/ 日 ( 経口 ) 高カリウム血症 GI 療法 レギュラーインスリン (0.1U/kg)+25% ブドウ糖 (2mL/kg) 静注 重炭酸ナトリウム 1 2mEq/kg 静注 リン酸結合剤 水酸化アルミニウム 炭酸カルシウムなど 高リン血症 重炭酸ナトリウム 1 2mEq/kg 静注 腎機能代行療法 CAVH, CVVH, CAVHD, CVVHD 低カルシウム血症 グルコン酸カルシウム 50 100mg/kgを緩徐に静注 ( 心電図モニタリング ) フェブキソスタットの 用法 用量 1. 痛風 高尿酸血症通常 成人にはフェブキソスタットとして 1 日 10mg より開始し 1 日 1 回経口投与する その後は血中尿酸値を確認しながら必要に応じて徐々に増量する 維持量は通常 1 日 1 回 40mg で 患者の状態に応じて適宜増減するが 最大投与量は 1 日 1 回 60mg とする 2. がん化学療法に伴う高尿酸血症通常 成人にはフェブキソスタットとして 60mg を 1 日 1 回経口投与する ラスブリカーゼの 用法及び用量 通常 ラスブリカーゼとして 0.2mg/kg を 1 日 1 回 30 分以上かけて点滴静注する なお 投与期間は最大 7 日間とする 監修 : 埼玉医科大学総合医療センター血液内科教授 図 2 TLS 管理のポイント 経過 リスク分類を含め予測を行い 適切な治療方法にて 臓器障害を回避することが大切 尿酸による腎障害の予防 / 治療はフェブキソスタットおよびラスブリカーゼを投与 リスク分類を目安に 腎機能 尿酸値 リン酸値 カリウム値により随時リスク補正を行うことが重要 投与量 投与期間は状態によって柔軟に考える ラスブリカーゼの適正使用は リスク別を基本に細かな観察の上 個々の症例で判断することが重要 監修 : 埼玉医科大学総合医療センター血液内科教授

SAJP.RAS.18.08.2146