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独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構 果樹研究所編 2013 年改訂版白紋羽病温水治療マニュアル 温水を使って安全 簡単に白紋羽病を防ぐ 目 次 1. 温水治療とは (1) はじめに... 1 (2) 温水治療の概要... 1 2. 温水治療の処理手順 (1) 点滴器具の準備と設置... 3 (2) 点滴器具の被覆... 3 (3) 温水の送水と地温の確認... 4 (4) 処理の終了... 4 3. 温水治療の留意点 (1) 利用可能な樹種... 6 (2) 処理時期... 6 (3) 処理にかかる時間と水量... 6 (4) 利用可能な土壌条件... 6 (5) 利用可能な土地 栽培条件... 6 (6) 点滴器具の形状... 6 (7) 傾斜地での処理の留意点と対策... 7 (8) 高温障害の回避... 8 (9) 処理対象樹... 8 (10) 処理後の再発に対する対応... 8 4. 温水治療の試験データ (1) 白紋羽病菌が温水中でするまでの時間... 9 (2) ナシ樹 リンゴ樹 ブドウ樹の高温耐性... 9 (3)50 の温水点滴処理による地温推移... 10 (4) 温水点滴処理による白紋羽病罹病樹の治療効果... 11 目次 1

5. 温水治療を成功させるために 5-1 白紋羽病を正しく診断する (1) 地上部の症状... 12 (2) 地下部の症状... 12 (3) 白紋羽病と見間違えやすい病気 ならたけ病... 13 (4) 留意点... 13 5-2 白紋羽病を早期に診断する (1) 方法... 14 (2) 留意点... 14 5-3 処理の対象となる樹を適切に選ぶ (1) 処理対象樹の目安... 15 (2) 罹病樹の周辺の樹における判定... 16 (3) 処理対象樹の判定イメージ... 16 6. 温水治療の関連事例 (1) 温水処理による生育促進効果... 17 (2) 熱水処理による白紋羽病発病跡地の消毒... 18 (3) 温水処理による白紋羽病菌に対する拮抗菌の増加... 20 7. 備考と参考文献 (1) 温水点滴処理による白紋羽病治療技術 ( 温水治療 ) に関して... 21 (2) 白紋羽病の診断に関して... 22 目次 2

おん 1. 温 すい水 ち りょうとは 治療 (1) はじめに白紋羽病は 糸状菌 ( かび ) が病原菌となって ナシやリンゴなど多くの果樹類の根を腐らせて枯らしてしまう恐ろしい病気です ( 図 1) 白紋羽病の防除には 化学合成農薬の使用が有効ですが 十分な対策とは言えません 特に 化学合成農薬を使用した場合には大量の薬液を土壌に潅注するために環境への影響が心配されます ( 図 2) また 根部を掘り上げて薬液を潅注する場合では大きな労力が必要となります そこで 環境に与える影響が小さい温水 ( お湯 ) を用いて ナシ リンゴおよびブドウで白紋りびょうじゅ羽病にかかっている樹 ( 以下 白紋羽病罹病樹 という ) を治療するための新たな方法を開発しました 本マニュアルでは 温水を用いた白紋羽病罹病樹の治療方法 ( 以下 温水治療 という ) の手順と注意点を紹介します 図 1 白紋羽病で枯れたナシ樹 図 2 罹病したリンゴ樹に対する農薬潅注処理 - 1 -

(2) 温水治療の概要白紋羽病の病原菌 ( 白紋羽病菌 ) が熱に弱いことを利用して 白紋羽病罹病樹の周辺土壌表面から50 の温水を点滴することにより 地温を35~45 に維持し 樹体に影響を与えずにおんすいてんてきしょり病原菌を殺菌することができます つまり この温水点滴処理によってナシ リンゴおよびブドウの白紋羽病罹病樹を治療できるというわけです この温水治療の大きな特徴として 1) 環境に対する影響が小さい 2) 大きな労力を必要としない といったことが挙げられます 白紋羽病の温水治療のイメージ図 - 2 -

2. 温水治療の処理手順 (1) 点滴器具の準備と設置 1 点滴器具の準備 図 3 4のような形状の点滴器具を使用します ( この器具を用いて約 1.5m 四方の範囲に点滴します ) 点滴器具は 市販の潅水用点滴チューブ( 圧力補正付 ドリッパー間隔 20cm 1ドリッパーにつき 吐出量が1 時間あたり2.3リットルタイプのもの ) とそのチューブ専用のコネクター ( チューブを接続する器具 ) を用いて組み立てます チューブは約 18m 必要です 器具の形状については 本マニュアルの3.(6) 項も参照してください 図 3 点滴器具図 4 製作した点滴器具 2 点滴器具の設置 処理樹を中心とし 点滴器具を両側から挟み込むように設置します ( 図 5) 設置する際には 地表面がなるべく平坦になるように 凹凸をならす あるいは下草を刈り取るなどしてください 図 5 点滴器具の設置の仕方 (2) 点滴器具の被覆 点滴器具配置後に全面を農業用マルチフィルム等で被覆します ( 図 6) 風などでめくれないように シート押さえ用器具や重しなどを利用して固定します 図 6 透明マルチフィルムを点滴器具の半面に被覆したところ - 3 -

(3) 温水の送水と地温の確認 50 の温水を点滴チューブに送水します チューブの点滴穴より温水が滴下されることを確認します 送水中は ペン型温度計( 図 7) などを使用して 地下 10cmと地下 30cmの所の地温を3ヶ所ずつ ( 計 6カ所 ) 確認します 地温の測定場所は 樹幹から30cm~50cm の範囲にある点滴チューブの中間とし 測定場所ができるだけ等間隔になるように配置します ( 図 8) 点滴穴のすぐ近くの場所で行わないよう注意してください 地温の確認は 他の作業を行いながら随時行う程度で構いません 図 7 市販のペン型温度計 ( 防滴仕様 ) 図 8 地温の測定場所 (3ヶ所) 一例を黄色丸で示した (4) 処理の終了 以下の2つの温度条件を目安とし どちらかの条件に達したら温水の送水を停止し 処理を終了します 地下 30cmの地温が 3ヵ所全てで35 を超えたら処理を終了します 地下 10cmの地温が 1ヵ所でも45 を超えたら処理を終了します - 4 -

温水の確保について 温水治療に関する試験には エムケー精工( 株 ) が試作した温水処理機 ( 図 10 11 12) を用いました 50 の温水が安定して得られることを条件として 既存の熱水処理機などを利用することができます 使用する水は 機械( ボイラー ) に応じた適正な水質のものを準備してください 図 10 試作された温水処理機 図 11 試作された温水処理機 ( 温水処理機本体 ) ( 燃料タンク等 ) 図 12 試作された温水治療器を利用して温水治療の試験を行っている様子 - 5 -

3. 温水治療の留意点 (1) 利用可能な樹種 ナシ樹 リンゴ樹およびブドウ樹に対する治療効果と安全性を確認しています 他の樹種にお ける治療効果と安全性については調査していません (2) 処理時期 地温が比較的高い6 月 ~10 月に処理すると効率良く行うことができます 地温の低い冬期( 休眠期 ) に処理を行っても高温による障害などは起きませんが 効果が得られる地温に上昇するまでに多くの時間と水量を要します (3) 処理にかかる時間と水量 約 4~6 時間 (1 樹あたり水量 800~1000リットル ) を要します (6 月 ~10 月に処理した場合のおおよその値です ) 土質や気温など栽培条件や環境条件等によって異なります (4) 利用可能な土壌条件 果樹園土壌が黒ボク土や褐色森林土である場合の治療効果を確認しています 水はけの良い砂土や水はけの悪い粘土では 地温の維持や温水の浸透が十分に確保されず治療効果が劣る可能性があります また 地下水位の高い場所あるいは固く締まった土壌などでは 温水の浸透が十分に確保されず治療効果が劣る可能性があります (5) 利用可能な土地 栽培条件 平坦地での露地栽培 施設栽培樹において治療効果を確認しています 傾斜地では温水の浸透が十分に確保されず 治療効果が劣る場合があります 傾斜地での留意点と対策は7ページを参照してください (6) 点滴器具の形状 樹の大きさなど使用条件にあわせて 市販の潅水用点滴チューブを用いて点滴器具の形状を変更することも可能です ただし 変更する場合には 治療効果が得られることを確認してから使用してください - 6 -

点滴器具の変更例処理樹を中心とした1.5m~2m 四方の範囲にくし ( 櫛 ) 状 ( 図 11 左 ) あるいは半径 1mの範囲にらせん ( 螺旋 ) 状 ( 図 11 右 ) に 20cm 間隔で点滴チューブを設置して使用できます 図 11 他の点滴器具と設置の仕方 ( 黒丸は処理樹の位置 ) (7) 傾斜地での処理の留意点と対策 斜度 10 度を超えるような傾斜地での処理では 滴下された温水が地表面を流れ落ちる あるいは点滴チューブを伝って流れ落ちるなどの理由により 傾斜上部での地温上昇が不十分になる場合があります 傾斜地の処理では 次の対策を行います 1 点滴チューブが地表面に直に密着するように できるだけ地表面の凸凹をならす あるいは下草を刈り取ります 2 傾斜上部でも十分な地温の上昇が得られるように 大型の点滴器具を用いる ( 図 9 図 10) あるいは目的とする範囲より広い範囲に点滴チューブを設置します 3 点滴器具を使用する際 温水が点滴チューブを伝って流れ落ちることを防ぐため 図 10のような向きで設置します 図 9 大型の点滴器具 ( 左 ) と通常の点滴器具 ( 右 ) の各片側部分 図 10 大型の点滴器具と傾斜地における設置の仕方 - 7 -

(8) 高温障害の回避 地下 10cmでの地温測定を必ず実施してください 同時に 目安となる温度を超えるような長時間の処理を行わないようにします これまでのナシ樹とリンゴ樹に対する処理事例のうち まれに高温障害の発生が認められる場合があり それらは夏季の高温乾燥と温水による地温上昇の不均一などに伴う長時間処理が原因と推測しています したがって 地下 10cmの地温測定を適正に実施することにより高温障害を防止できます 目安となる温度条件を超えて処理を継続することがないように 自動で温水の送水を停止できる装置 ( 監視装置 ) も試作されています ( 図 12 エムケー精工 ( 株 ) 試作 ) 図 12 試作された監視装置 (9) 処理対象樹 衰弱が著しい白紋羽病罹病樹では 殺菌はできても樹勢回復に至らず枯死する場合が多くなります 枝挿入法 ( 本マニュアル5-2 項 ) などを利用して早期に診断するように心がけてください 衰弱が著しい白紋羽病罹病樹には改植を基本対策とし 症状が軽い樹あるいは外見的に症状が出ていない樹を処理対象とします ( 処理対象樹の判定については本マニュアル5-3 項を参照してください ) (10) 処理後の再発に対する対応 処理後は病気の再発に注意を払い 温水点滴処理の追加や他の防除手段を併用するようにします 温水点滴処理は 処理範囲外の病原菌を殺菌できないため 地下深部や処理範囲外からの再感染が予想されます 処理樹に対しては処理翌年から 枝挿入法 ( 本マニュアル5-2 項 ) などを利用した診断を実施して 早期の対応を心がけてください - 8 -

4. 温水治療の試験データ (1) 白紋羽病菌が温水中でするまでの時間 白紋羽病菌は 35 の温水中では 2 日間でほぼ 3 日間で完全にします ( 表 1) * 枝に培養した白紋羽病菌を用いて室内で調査した結果です 表 1 白紋羽病菌のに必要な温度と時間 温度 1 分 5 分 処理した時間 30 分 3 時間 5 時間 1 日 2 日 3 日 35 しない ほぼ 40 しない ほぼ ~ 45 しない 若干 ~ ほぼ 50 ほぼ (2) ナシ樹 リンゴ樹 ブドウ樹の高温耐性ナシ樹は地温 45 までは長時間耐えることができ リンゴ樹では地温 45 が4 時間以上続くと障害が発生すると考えられます ブドウ樹は地温 45 では6 時間まで 50 では3 時間まで耐えることができます ( 表 2) * 鉢植え樹を用いて調査した結果です 表 2 ナシ樹 リンゴ樹 ブドウ樹に対する温水処理と高温障害の発生 ( 一例 ) ナシ樹 ( ホクシマメナシ マメナシ台木 ) リンゴ樹 (M9 わい性台木 ) 地温 時間 障害発生程度 地温 時間 障害発生程度 42.5 4 時間 障害なし 37 4 時間 障害なし 42.5 8 時間 障害なし 38 8 時間 障害なし 47.5 4 時間 葉の変色 42 4 時間 一部で落葉 47.5 8 時間 枯死 47 4 時間 枯死 - 9 -

表 2 ナシ樹 リンゴ樹 ブドウ樹に対する温水処理と高温障害の発生 ( 続き ) ( 一例 ) ブドウ樹 ( ハイブリッド フラン テレキ 5BB 台木 ) 地温 時間 障害発生程度 45 45 50 50 6 時間 9 時間 3 時間 6 時間 障害なし葉の変色 落葉障害なし葉の変色 落葉 (3)50 の温水点滴処理による地温推移 50 の温水を地表面から点滴処理し 目安となる温度条件に到達した時点で処理を終了すると 長時間にわたって地温が35~45 に維持されます ( 図 13) ただし ただし 1 樹の周辺でも場所によっては地温の推移の仕方が異なる場合があります 地温 50 45 40 35 30 25 20 15 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 時間 地下 10cm 地下 30cm 処理開始処理終了 経過時間 図 13 温水点滴処理による地温推移 ( 一例 ) - 10 -

(4) 温水点滴処理による白紋羽病罹病樹の治療効果温水点滴処理によって 白紋羽病罹病樹に付着していた病原菌が消失あるいは減少します ( 図 14) ( 図 11で示した らせん状配置の点滴器具を使用して得られた結果です ) ただし 白紋羽病菌の消失が確認された樹でも 処理翌年から菌糸の付着が見られる場合や衰弱の著しい白紋羽病罹病樹では樹勢回復に至らずに枯死する場合があります 図 14 温水点滴処理による白紋羽病罹病樹の治療結果 ( 一例 ) - 11 -

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5-2 白紋羽病を早期に診断する白紋羽病罹病樹を早期に発見するための方法の1つに 枝挿入法 があります 対象とする樹の株元に樹木枝を挿入し そのまま放置した後に 枝を引き抜いて病原菌が付着しているかどうかを観察して判定します (1) 方法 1 枝の準備 直径 1~2cmで真っ直ぐなクワ カキ モモ ナシあるいはリンゴ枝を長さ30cm 程度に切断し 一端を鋭角に切ります ( 図 21) 枝は休眠枝 緑枝のいずれでも良いですが 雑菌の繁殖を防ぐため 使用するまで乾燥を避けて冷蔵保存してください 2 枝の挿入 5~10 月に 樹幹から10cm 以内の位置に 塩化ビニル管のT 型ソケットや金鎚などを利用して地下 25cmまで挿入します ( 図 21) 1 樹あたりの設置本数は12 本以上とし 幹直径が15cm 以下の樹では6 本程度とします 枝と枝との間隔が10cm 以内となることを目安としてください 図 21 枝挿入の仕方 3 調査方法 枝挿入から20 日 ~30 日後に抜き取り 白紋羽病菌の菌糸の付着を確認します ( 図 22) 図 22 挿入枝に付着した白紋羽病菌 (2) 留意点 設置期間の途中で枝を抜かないでください 夏季の高温乾燥時をなるべく避けて実施するようにしてください 診断に用いた枝は焼却するなど適切に処分し また 枝の抜き忘れに注意してください - 14 -

5-3 処理の対象となる樹を適切に選ぶ できるだけ早期に できるだけ効率よく白紋羽病罹病樹を発見することが重要です 同時に 新たに白紋羽病に罹病する可能性をあらかじめ予想しておくことも大切です (1) 処理対象樹の目安 枝挿入法( 本マニュアル5-2 項 ) を用いて白紋羽病の罹病が疑われる樹の早期診断を行い 罹病が確認された樹を処理の対象とします 枝挿入法を用いることによって 外見上は白紋羽病に罹病していないように見える樹でも 地下部で白紋羽病に罹病していることが判定できます また 腐朽病害などによって樹勢の弱った樹との判別もできます 罹病が疑われる樹の外見上の特徴 地下部での病状が進むと地上部にも衰弱症状が現れますので 下記に列挙した特徴をもとに判定します 春季の発芽が遅れる 新梢伸長が悪い 葉色はやや淡くなる 果実は小玉傾向となる 花芽の数が多くなる 秋季の紅葉 落葉が早い ただし これらの特徴が一見して分かる場合には治療は困難な場合が多いので 園内を見回して他の樹と比較して分かるような段階の樹を処理対象とします 一見して衰弱していることが分かるような罹病樹においては 改植することを基本とし 次項の周辺樹での対策を実施してください また このように衰弱している樹では 枝挿入法を用いても思うような判定結果が得られない場合があります - 15 -

(2) 罹病樹の周辺の樹における判定 病原菌は罹病樹の根やその周辺の土壌中を伸展して その周辺の樹に感染します ( 図 23) したがって 白紋羽病が発生したら その周辺の樹に対しても 枝挿入法 による早期診断を行ってください 図 23 連続して枯れたナシ樹 (3) 処理対象樹の判定イメージ 以下の 枝挿入法 を用いた判定イメージに従って 温水点滴処理の対象となる症状の軽い罹病樹の早期発見を目指します 罹病樹に対しては速やかに温水処理を行い その後も 罹病樹が確認されたら その都度温水処理を行います 白紋羽病罹病樹を確認した場合 1 2 3 4 罹病樹の判定 罹病樹の周辺樹に枝挿入する 罹病樹と健全樹が判定される 新たに判定された罹病樹の周辺樹に枝挿入する 白紋羽病の罹病が疑わしい樹がある場合 1 2 3 4 罹病樹の判定 罹病が疑わしい樹枝挿入する に 罹病樹と健全樹が判定される 判定された罹病樹の周辺樹に枝挿入する - 16 -

6. 温水治療の関連事例 温水あるいは熱水を使用して 白紋羽病に対する治療効果以外の効果が得られることが試験的に分かっています ここでは その事例をいくつか紹介します ただし ここで示した処理については まだ十分な試験データが得られていません 実際に行うことは可能ですが 期待された結果が得られない可能性があります (1) 温水処理による生育促進効果 白紋羽病の温水治療と同じ条件で健全な果樹に対して温水点滴処理を行うことによって 生育促進効果を得ることができました 温水点滴処理によるナシ樹の生育促進効果事例 白紋羽病の温水治療と同じ条件で健全なナシ樹に対して温水点滴処理を行った結果 処理 1 年後において 幼木では新梢の伸びが長く 新梢の本数が多くなる傾向が認められました ( 図 2 4) * 成木への効果は分かりませんでした なお 健全なリンゴ樹やブドウ樹に対する温水点滴処理による生育促進効果は確認していません 図 24 温水点滴処理によるナシ樹の生育への影響 ( 一例 ) - 17 -

(2) 熱水処理による白紋羽病発病跡地の消毒 50 温水や それより高い温度の熱水を利用することによって 白紋羽病が原因で罹病 枯 死した果樹を抜根した後の跡地 ( 発病跡地 ) を消毒することができました 温水 熱水点滴処理によるナシ白紋羽病発病跡地の消毒事例 1 白紋羽病菌のに必要な地温と時間白紋羽病菌は 地温 45 では約 2 時間でしました ( 表 3) * 枝に培養した白紋羽病菌を土壌に埋めて室内で調査した結果です 表 3 白紋羽病菌のに必要な地温と時間 地温 1 分 5 分 25 分 処理した時間 2 時間 10 時間 21 時間 42 時間 35 しない しない しない 45 しない しない 55 しない 65 2 温水 熱水点滴処理による罹病根における白紋羽病菌の罹病根片を土壌に埋め込んだ後に温水あるいは熱水を点滴処理した結果 直径 8cmの根片でも白紋羽病菌はしました ( 表 4) *50~80 の温水 熱水で6 時間 30 分処理した結果です いずれの処理でも 地下 30 cmの場所で地温 45 が2 時間以上維持されました 表 4 温水点滴処理後の罹病根片における白紋羽病菌の 用いた罹病根 直径 個数 50 処理水温 60 80 無処理 7~8cm 1~2 個 していない 5~7cm 3~8 個 ほとんどしていない 3~5cm 5~12 個 多くはしていない 2~3cm 22~26 個 半数はしていない 無処理の場合でも白紋羽病菌は根組織の分解に伴ってすることがあります - 18 -

3 鎮圧作業による熱水点滴処理への影響罹病樹を抜根した後の鎮圧作業 ( 油圧ショベル使用 ) によって地温が上がりにくくなることが分かりました ( 図 25) 特に 耕うん( ロータリで深さ20cmを耕起 ) した後に鎮圧作業を加えると熱水の浸透が大きく妨げられました (11 月に60 熱水を処理した結果です ) 図 25 鎮圧作業による熱水点滴処理時の地温上昇への影響 4 発病跡地における熱水点滴処理による消毒効果の確認発病跡地に75 熱水を8 時間点滴処理し その後 1 年生苗木を植え付けた結果 白紋羽病は少なくとも1 年半以上発病しませんでした ( 図 26) (1 月 ~3 月に処理を行い 同年 3 月に苗を植え付けた後の結果です ) 図 26 白紋羽病発病跡地の熱水点滴処理による消毒効果 - 19 -

(3) 温水処理による白紋羽病菌に対する拮抗菌の増加罹病根の周辺には白紋羽病菌に対する拮抗菌が生息しており 温水点滴処理後に拮抗菌の増殖が観察されます 温水治療の効果には この拮抗菌が関与している可能性があります なお 拮抗菌とは 特定の菌の増殖や活動を抑制する微生物のことをいいます 温水処理による白紋羽病菌に対する拮抗菌の増加事例 1 白紋羽病菌を培養した枝片における拮抗菌の増加土壌に埋めておいた白紋羽病菌を培養したナシ枝片を45 温水で30 分処理した結果 掘り出した時には認められなかった拮抗菌が枝片の表面で増殖してきました ( 図 27) 図 27 白紋羽病菌を培養した枝片と温水処理後の状況 2ナシ白紋羽病罹病根周辺における拮抗菌の増加白紋羽病罹病樹を50 温水で処理した結果 罹病根周辺に拮抗菌が大量に増殖しました ( 図 28 この写真は温水を潅注した時のものです ) 図 28 ナシ白紋羽病罹病樹と温水処理後の状況 - 20 -

7. 備考と参考文献 (1) 温水点滴処理による白紋羽病治療技術 ( 温水治療 ) に関して 本技術は 長野県とエムケー精工株式会社が開発した 白紋羽罹病樹の治療方法( 特許第 4641929 号 ) を利用しています 本技術は 新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業 により実用化されました 1 研究課題 : 温水処理と微生物資材を併用した果樹類白紋羽病の治療法 実施期間 : 平成 18 年度 ~ 平成 20 年度 中核機関 : ( 独 ) 農研機構果樹研究所 参画機関 : エムケー精工 ( 株 ) 長野県果樹試験場 長野県南信農業試験場 茨城県農業総合センター園芸研究所 2 研究課題 : 環境負荷低減を実現する果樹類白紋羽病の温水治療法の確立 実施期間 : 平成 22 年度 ~ 平成 24 年度 中核機関 : ( 独 ) 農研機構果樹研究所 参画機関 : エムケー精工 ( 株 ) 長野県果樹試験場 長野県南信農業試験場 茨城県農業総合センター園芸研究所 千葉県農林総合研究センター 岡山県農林水産総合センター農業研究所 ( 学 ) 広島大学 参考文献 Naoki Eguchi, Hirofumi Tokutake, Naho Yamagishi(2008)Hot water treatment of Japanese pear trees is effective against white root rot caused by Rosellinia necatrix Prillieux. Journal of Plant Pathology 74: 382-389. - 21 -

(2) 白紋羽病の診断に関して 本マニュアルでは 一般的な内容を簡潔に記載しています 本マニュアルの内容のみで白紋羽病の診断を正確に行うことは難しい場合がありますので 判断が難しい場合などには 各地域の公設機関などに相談してください 参考文献 Naoki Eguchi, Ken-ichi Kondo, Naho Yamagishi(2009)Bait twig method for soil detection of Rosellinia necatrix, causal agent of white root rot of Japanese pear and apple, at an early stage of tree infection. Journal of Plant Pathology 75: 325 330. 中村仁 (2003) 土壌病害の見分け方 (3) 紋羽病菌による病害. 植物防疫 57: 123-126. 中村仁 (2009) 微生物遺伝資源利用マニュアル (27) 紫紋羽病菌 白紋羽病菌.( 独 ) 農業生物資源研究所.URL: http://www.gene.affrc.go.jp/pdf/manual/micro-27.pdf 中村仁 (2012) 土壌病害の見分け方 : ナシ リンゴ. 植物防疫特別増刊号 No.15 55-61. - 22 -

白紋羽病の温水治療に関する情報は 果樹研究所のホームページにも掲載しています 本マニュアルの著作権は著作者に帰属します 私的使用 又は 引用 など著作権法上認められた場合を除き 著作者に無断で転載 複製 放送 販売などの利用をすることはできません 2013 年改訂版白紋羽病温水治療マニュアル 2010 年 ( 平成 22 年 )7 月 16 日 初版発行 2013 年 ( 平成 25 年 )6 月 21 日 改訂版発行 編集 発行 / 独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構果樹研究所 305-8605 茨城県つくば市藤本 2-1 TEL :029-838-6454 FAX :029-838-6437 E-Mail:faq-fruit@ml.affrc.go.jp ホームページ :http://www.naro.affrc.go.jp/fruit/

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