北陸地方整備局 ( 砂防部局 ) の火山噴火対策の現状 廣瀬昌宏 1 山路広明 2 秩父宏太郎 3 1 河川部河川計画課土砂災害警戒避難対策係長 ( 950-8801 新潟市中央区美咲町 1-1-1) 2 河川部建設専門官 ( 950-8801 新潟市中央区美咲町 1-1-1) 3 河川部河川計画課長 ( 950-8801 新潟市中央区美咲町 1-1-1) 多数の死者 負傷者を出した 2014 年御嶽山噴火の教訓等を踏まえて警戒避難体制等の活火山対策の強化を図るため 活動火山対策特別措置法が 2015 年に改正され 火山防災協議会の設置が義務づけられるとともに 地方整備局等 ( 砂防部局 ) が必須構成員として位置づけられた また 大規模な土砂災害が急迫している状況において 市町村が適切に住民の避難指示の判断等を行えるよう国又は都道府県が被害の想定される区域 時期の情報を提供することが 2011 年の土砂災害防止法改正により明確化されている 以上のような法律改正等を踏まえた北陸地方整備局 ( 砂防部局 ) における火山噴火対策の現状を報告する キーワード火山 活火山法 緊急調査 土砂法 1. はじめに 現在日本には 110 の活火山があり 火山噴火に伴う土砂災害がこれまで多く発生している 近年も 2011 年霧島新燃岳 2014 年御嶽山 2016 年阿蘇山が噴火しており 今後も同様の火山災害の発生が懸念されているところである ( 図 1) 北陸地方整備局管内には 15 の活火山 ( 概ね過去 1 万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山 ) 11 の常時観測火山 ( 火山防災のために監視 観測体制の充実等が必要な火山 ) がある ( 図 2) これらの火山噴火に伴う土砂災害の防止 軽減を図るため 砂防設備の整備等のハード対策と警戒避難体制の整備等のソフト対策をあわせた火山砂防に係る取組みが都道府県及び国の砂防部局により実施されているところである 本論文では 活動火山対策特別措置法と土砂災害防止法のポイントについて整理するとともに それらを踏まえた北陸地方整備局 ( 砂防部局 ) の火山噴火対策の現状について整理する 図 1 2011 年霧島新燃岳噴火 撮影 : 九州地方整備局 2. 活動火山対策特別措置法について 1) 活動火山対策特別措置法について活動火山対策特別措置法 ( 以下 活火山法 という ) は 1973 年に相次ぐ桜島の噴火により 噴石や降灰対策 図 2 北陸地方整備局管内の火山 (11 火山 )
が急務であったこと等を背景に制定された 活火山法は基本的に噴火により被害が生じている事態に直接対応する避難施設等の整備のハード対策を重視した法律として制定 改正され 噴火が発生した地域で限定的に運用されてきた 2014 年には御嶽山において噴火が発生し 多数の死者 負傷者が出るなど甚大な被害が発生したが この噴火災害からは噴火の兆候となる火山現象の変化をいち早く捉え 伝達することが重要であること 住民のみならず 登山者も対象とした警戒避難体制の整備が必要であり このためには専門的知見を取り入れた火山ごとの検討が必要不可欠であることなどが改めて認識された これを踏まえて 2015 年に活火山法が改正され 従来講じられていた避難施設の整備等のハード対策に加え 警戒避難体制の整備等のソフト対策の充実が図られ より総合的に活動火山対策を進める仕組みとなった この改正では 警戒避難体制の整備を特に推進する地域として 新たに 火山災害警戒地域 を指定し それぞれの火山毎に 火山防災協議会 の設置が義務化された また 火山防災協議会構成員として 都道府県や市町村 気象台 陸上自衛隊 警察 消防 火山専門家等とともに 地方整備局等 ( 砂防部局 ) が必須構成員として位置付けられた ( 図 3) 3) 火山防災協議会の構成員と役割火山防災協議会は 都道府県及び市町村がその設置主体となって中心的な役割を担い その他 気象庁や地方整備局等 ( 砂防部局 ) 陸上自衛隊 警察 消防 火山専門家に加え 観光関係団体等その他都道府県及び市町村が必要と認める者で構成される 各必須構成員の具体的な役割は以下の通りである 1 都道府県知事及び市町村長火山防災協議会の設置主体 火山防災協議会では 火山災害警戒地域の 噴火シナリオ や 火山ハザードマップ これらを踏まえた 噴火警戒レベル や 避難計画 等 一連の警戒避難体制について検討する 2 気象台過去の噴火履歴を踏まえた 噴火シナリオ や 火山ハザードマップ の検討や 火山現象に関する情報や噴火警報を発表する立場から情報収集 伝達体制の検討を行うとともに 都道府県及び市町村と協力し 噴火警戒レベル の設定について検討を行う 3 地方整備局等 ( 砂防部局 ) 噴火に伴う土砂災害 ( 火山泥流 土石流等 ) の観点から火山ハザードマップ ( 以下 火山砂防ハザードマップ という ) の検討を行うと共に一連の警戒避難体制の検討に参画する ( 図 5) 2) 火山防災協議会における協議事項前項のとおり火山災害警戒地域をその区域に含む都道府県及び市町村は 想定される火山現象の状況に応じた警戒避難体制を整備するため 火山防災協議会を共同で組織することとなった 火山防災協議会では警戒避難体制の整備に必要な事項 ( 噴火シナリオ 火山ハザードマップ 噴火警戒レベル 避難計画 ) について協議を行う ( 図 4) 図 4 火山防災協議会における構成員と協議事項 図 3 活火山法改正の概要 出典 : 磐梯山火山噴火緊急減災対策砂防計画 1) 図 5 火山砂防ハザードマップの例 ( 磐梯山 )
4 陸上自衛隊 警察 消防噴火時において救助活動や避難誘導などを行う立場から検討に参画する 5 火山専門家警戒避難体制の検討全般にわたり どのような火山現象が想定されるかなど専門的見地から助言を行う 3. 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対 策の推進に関する法律について 1) 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律について土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律 ( 以下 土砂災害防止法 という ) は土砂災害の恐れのある区域について 危険の周知 警戒避難体制の整備 一定の開発行為の制限等のソフト対策を推進する目的で 2000 年に制定された その後 2004 年の新潟県中越地震 2008 年の岩手 宮城内陸地震等の経験から 大規模な土砂災害が急迫している場合には 広範囲に多大な被害が及ぶ恐れがあるため時々刻々と変化するリスクの把握が重要であることや 住民に避難指示する権限は市町村にあるが 大規模な土砂災害の経験が少なく 避難指示の判断等の根拠となる情報を自ら入手することが困難であるといった課題が認識された それらを踏まえ 2011 年に河道閉塞 火山噴火に起因する土石流 地すべり等に起因する大規模な土砂災害が急迫している状況において 市町村が適切に住民の避難指示の判断等を行えるよう国又は都道府県が被害の想定される区域 時期の情報を提供する緊急調査が法改正により位置付けられた ( 図 6) 2) 緊急調査について土砂災害防止法第 28 条 第 29 条に基づく緊急調査は一定の要件をもとに重大な土砂災害の発生の恐れがある際に実施されるものであり ( 図 7) 噴火による降灰や 火砕流として流下した火山灰等が堆積し その後降雨に伴い発生する土石流により 重大な土砂災害の発生が想定されるか否かを判断するものである 具体的には過去の災害履歴から 火山灰等が 1cm 以上の厚さで堆積した場合雨水がしみ込みにくくなり表面流が多量に発生するようになることがわかっており ( 図 8) その厚さの範囲が河川勾配 10 度以上ある渓流で 5 割以上を占める場合に 土石流の発生が想定されることから これを土石流現象の規模要件としている また 土石流の氾濫範囲におおむね 10 戸以上の居室を有する建築物があることを被災対象の規模案件としている 図 7 緊急調査実施要件 図 6 改正土砂法 (2011 年 ) の概要 図 8 噴火に伴う土石流発生の仕組み ( 土木研究所資料 )
したがって 噴火の際にはこの要件に該当するかを確認する必要がある しかし噴火直後の時点で 火山灰等が1cm 以上の厚さで堆積している範囲の面積を計測することは困難であるため 明瞭な火山灰等の堆積範囲をもって火山灰等が 1cm 以上堆積している範囲とみなすことを基本とする ( 図 9) 火山灰等の堆積範囲調査はヘリコプターによる調査が基本となるが 火山活動や悪天候によりヘリ調査が実施できない場合は地上踏査や UAV 等の他調査方法を実施し 降灰状況を把握する ( 図 10) 火山噴火により火山灰が堆積し 緊急調査の着手が決定した場合は火山灰等の堆積に起因する土石流により被害の生じるおそれのある区域の解析を行う 解析は 想定氾濫開始点より上流域の分布型流出計算 ( ハイドログラフ推定 ) 想定氾濫開始点より下流の 2 次元氾濫計算撮影 : 九州地方整備局 ( 土石流氾濫計算 ) を組み合わせた手法により行うことが基本とされる ( 図 11) 3) 土砂災害緊急情報緊急調査を実施し 火山灰等の堆積に起因する土石流により被害が生じるおそれのある区域及び時期が特定された場合 土砂災害防止法第 31 条に基づく土砂災害緊急情報 ( 以下 緊急情報 という ) を都道府県知事及び市町村の長に通知するとともに一般に周知する ( 図 12) 緊急情報は一度通知すれば終わりでなく 精度向上のための調査及び解析を行い 火山灰等の堆積に起因する土石流により被害が生じるおそれのある区域若しくは時期が明らかに変化した場合等に随時通知する 緊急情報は市町村長による避難勧告等により関係住民の円滑な避難に結びつくことが重要である このため 緊急情報の内容が的確に理解されるよう図表等を含めてわかりやすい補足資料の提供 説明などを行う必要がある また 関係住民等の避難に要する時間 土砂災害が想定される時期の解析にあたっての前提条件 制約条件 不確実性等についても できるだけわかりやすく説明する必要がある 図 9 明瞭な火山灰等の堆積範囲 撮影 : 九州地方整備局 図 11 土石流氾濫計算イメージ ( 土木研究所資料 ) 図 10 降灰状況調査結果 ( 九州地整の例 ) 図 12 土砂災害緊急情報のイメージ
4. 北陸地方整備局 ( 砂防部局 ) の火山噴火対策 について 1) 活火山法に基づく対応状況について北陸地方整備局管内の常時観測火山のうち 北陸地方整備局 ( 砂防部局 ) が火山防災協議会の構成員となっている火山は 磐梯山 新潟焼山 焼岳 白山 乗鞍岳 弥陀ヶ原 の 6 火山である この 6 火山については協議会が設置済であり 各協議会において警戒避難体制の整備に至る協議を進めているが ( 図 14) 火山ハザードマップ整備や噴火警戒レベル導入が未了の火山がある等 協議会により協議の進捗に差が生じている 例えば 弥陀ヶ原 は 2014 年の火山噴火予知連絡会のもとに設置された 火山観測体制等に関する検討会 においてとりまとめられた 御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する緊急提言 により新規で追加された全国 3 火山の 1 つであり これまで火山観測装置の整備も進んでいなかったが 2016 年 12 月 1 日に各種火山観測装置の整備が完了したことから常時観測火山に追加となったところである 本年度は火山噴火シナリオを検討し 地方整備局等 ( 砂防部局 ) が検討する土砂移動シナリオ等とともに 火山ハザードマップの策定を目指しており 引き続き取組を推進する予定である 北陸地方整備局 ( 砂防部局 ) が協議会の構成員となっている常時観測火山 図 14 北陸地方整備局管内の火山噴火対策状況 図 15 降灰量調査のための資機材の例 2) 緊急調査のための平常時における準備火山噴火の際に緊急調査を適切かつ迅速に実施するには平常時から準備を進めておくことが重要である そのため 下記の点を中心に準備を進めているところである 緊急調査では自治体との調整や会議等が多数必要となるため 事前に組織内での役割分担を明確にしておく 噴火活動は長引くことが多いため 調査体制を確保しておく 噴火時に緊急調査が必要となる渓流の抽出を迅速に行うため 火口周辺の渓流を事前に調査 シミュレーションを行う 緊急調査時に必要となる資機材 ( 降灰量調査 浸透能調査 ) の準備しておく ( 図 15 16) 図 16 浸透能調査のための資機材の例
北陸地方整備局 ( 砂防部局 ) では上記の準備を推進することに加え 実践時の初動体制強化及び緊急調査の精度向上を図るため 緊急調査実務者訓練を実施している 2016 年の緊急調査実務者訓練では緊急調査の実施経験のある九州地方整備局より講師を招き 緊急調査の基礎知識から各調査実習及び緊急調査実施にあたっての対応等 一連の流れについて学んだところであり 今年度も実施予定である ( 図 17) 緊急調査実務者訓練の参加人数は限られているが 訓練に参加した職員には各事務所内でも同様の訓練の開催を依頼し 訓練内容がより多くの職員に伝わるよう体制作りを進めている 参考文献 1) 磐梯山火山噴火緊急減災対策砂防計画 (H27 福島県土木部砂防課 国土交通省北陸地方整備局河川部 阿賀川河川事務所 阿賀野川河川事務所 ) 2) 火山噴火緊急減災対策砂防計画策定ガイドライン (H19 国土交通省砂防部 ) 3) 火山噴火緊急減災対策砂防計画について活火山法や土砂法に基づく火山対策を進めている一方 砂防堰堤等の整備の現状を踏まえると 火山噴火による溶岩流 火山泥流 土石流等の被害を皆無にすることは困難であることから いつどこで発生するか予測が難しい火山噴火に伴い発生する土砂災害に対して 緊急対策を迅速かつ効果的に実施し 被害をできる限り軽減 ( 減災 ) するため 国土交通省では 2007 年に 火山噴火緊急減災対策砂防計画策定ガイドライン を作成し国及び都道府県の砂防部局による 火山噴火緊急減災対策砂防計画 の策定を進めている ( 図 18) 火山噴火緊急減災対策砂防計画 ( 以下 計画 という ) の策定対象の火山は当初 19 火山であったが 活火山法改正により火山災害警戒地域が指定された 49 火山に拡大された 白山 乗鞍岳 弥陀ヶ原 の 3 火山は 49 火山に拡大された際に加わった火山であり 計画の策定が未了である そのため 早期の策定を目指しているところである 一方 磐梯山 新潟焼山 焼岳 の 3 火山は既に計画が策定されており それに基づく取組みを進めているところである 6. おわりに 火山は風光明媚な景観を呈するとともに 周辺には多くの温泉が湧出し 山麓地域は地下水や優良な農地に恵まれることが多く 我々の生活を豊かなものにしている 平穏な時はその美しい姿から人々を魅了するが ひとたび噴火すると甚大な被害をもたらすことがある 火山は複数の市町村や都道府県の境界に存在することも多く 火山災害は広域にわたり影響を及ぼすことが想定されるため 噴火時等においては関係する機関が十分に連携しながら対応をとる必要がある そのためには平常時から関係者が 顔の見える関係 を築くことが重要であり 火山防災協議会 の枠組み等を通じて 引き続き火山防災対策に取り組んで参りたい 図 17 緊急調査実務者訓練実施報告 出典 : 火山噴火緊急減災対策砂防計画ガイドライン 2) 図 18 火山噴火緊急減災対策砂防計画のイメージ