03 平野孝行.indd

Similar documents
理学療法学43_supplement 1

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

標準偏差 ( ) 1.66± ±0.60 n.s. 254 楠幹江 NEC; 三栄株式会社製 ) で撮影した カメラの設置は人体から150cmの位置とした また, 解析部位は下肢 ( 膝頭から足先まで ) の領域とし, 最高温度, 最低温度, 平均温度を求めた 4) 統計処理冷え性の

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

Microsoft PowerPoint - 【逸脱半月板】HP募集開始150701 1930 2108 修正反映.pptx

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

選考会実施種目 強化指定標準記録 ( 女子 / 肢体不自由 視覚障がい ) 選考会実施種目 ( 選考会参加標準記録あり ) トラック 100m 200m 400m 800m 1500m T T T T33/34 24

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

旗影会H29年度研究報告概要集.indb

要旨一般的に脚長差が3cm 以下であれば 著明な跛行は呈しにくいと考えられているが客観的な根拠を示すような報告は非常に少ない 本研究の目的は 脚長差が体幹加速度の変動性に与える影響を 加速度センサーを用いて定量化することである 対象者は 健常若年成人男性 12 名とした 腰部に加速度センサーを装着し

本研究の目的は, 方形回内筋の浅頭と深頭の形態と両頭への前骨間神経の神経支配のパターンを明らかにすることである < 対象と方法 > 本研究には東京医科歯科大学解剖実習体 26 体 46 側 ( 男性 7 名, 女性 19 名, 平均年齢 76.7 歳 ) を使用した 観察には実体顕微鏡を用いた 方形

018_整形外科学系

札幌鉄道病院 地域医療連携室だより           (1)

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

3T MRI導入に伴う 安全規程の変更について

秋植え花壇の楽しみ方


<82D282A982C1746F95F18D908F57967B95B E696E6464>


10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

ヒアルロン酸ナトリウム架橋体製剤 特定使用成績調査

(1) (2) (3) (4) (5) 2.1 ( ) 2

医療法人原土井病院治験審査委員会


Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

5 月 22 日 2 手関節の疾患と外傷 GIO: 手関節の疾患と外傷について学ぶ SBO: 1. 手関節の診察法を説明できる 手関節の機能解剖を説明できる 前腕遠位部骨折について説明できる 4. 手根管症候群について説明できる 5 月 29 日 2 肘関節の疾患と外傷 GIO: 肘関節の構成と外側

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

DRAFT#9 2011

テイカ製薬株式会社 社内資料

ランニング ( 床反力 ) m / 分足足部にかかる負担部にかかる負担膝にかかる負担 運動不足解消に 久しぶりにランニングしたら膝が痛くなった そんな人にも脚全体の負担が軽い自転車で 筋力が向上するのかを調査してみました ロコモティブシンドローム という言葉をご存知ですか? 筋肉の衰えや

<817388F38DFC BD82DF82B582C4834B E8AD C906C81498E8082C98E8A82E98D9892C982AA82A082C182BD82C682CD >

07.報文_及川ら-二校目.indd

審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

31608 要旨 ルミノール発光 3513 後藤唯花 3612 熊﨑なつみ 3617 新野彩乃 3619 鈴木梨那 私たちは ルミノール反応で起こる化学発光が強い光で長時間続く条件について興味をもち 研究を行った まず触媒の濃度に着目し 1~9% の値で実験を行ったところ触媒濃度が低いほど強い光で長

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

バイバルコロナリーステント 2015 年 1 月作成第 1 版本ステントは 非臨床試験において 条件付きで MRI 検査の危険性がない MR Conditional に該当することが立証されている 下記条件にて留置直後から MRI 検査を安全に施行することができる 静磁場強度 3 テスラ以下 空間勾

<4D F736F F D F8D9892C595CF90AB82B782D782E88FC781458D9892C595AA97A382B782D782E88FC75F8D9892C58CC592E88F705F2E646F63>

000-はじめに.indd

rihabili_1213.pdf


サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

地震防災ハンドブック 第2章

H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

針刺し切創発生時の対応

資料 GHz 以上の人体のばく露評価について 平田晃正 名古屋工業大学 生体電磁環境に関する検討会報告書 ( 案 ) 先進的な無線システムに関する電波防護について 解説資料からの抜粋

1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

Microsoft Word - 01.doc

表紙.indd

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

2 4 診断推論講座 各論 腹痛 1 腹痛の主な原因 表 1 症例 70 2 numeric rating scale NRS mmHg X 2 重篤な血管性疾患 表

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 長谷川智之 論文審査担当者 主査丸光惠副査星治 齋藤やよい 論文題目 Relationship between weight of rescuer and quality of chest compression during cardiopulmonary r

P001~017 1-1.indd

ストレッチング指導理論_本文.indb

Microsoft Word - 統合短冊0209-2.docx


「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

インスリン局所注射部の 表在超音波検査について

Microsoft Word - cjs63B9_ docx

( 参考 ) 国民年金法施行令別表 厚生年金保険法施行令別表第 及び第

(Microsoft PowerPoint - \214\222\215N\203Z\203~\203i2013\(\216\221\227\277\201j.ppt [\214\335\212\267\203\202\201[\203h])

2011ver.γ2.0

表紙69-5,6_v10.eps

手首が痛い! 使いすぎなのか!? 仕事でパソコンを頻繁に使う 美容師や理容師ではさみを頻繁に使う 料理で包丁を頻繁に使う 演奏 裁縫 趣味など 手先を使う仕事やスポーツを行い 手首が痛い と訴えるほとんどの患者さんは 普通の人より手先を使うこが多いため 腱鞘炎は 使いすぎ によるといわれています 確

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

運動負荷試験としての 6 分間歩行試験の特徴 和賀大 坂本はるか < 要約 > 6 分間歩行試験 (6-minute walk test; 6MWT) は,COPD 患者において, 一定の速度で歩く定量負荷試験であり, この歩行試験の負荷量は最大負荷量の約 90% に相当すると報告されている. そこ

バクスターインフューザー インターメイトは 合成ゴムから作られたバルーン式薬液リザーバーと 流量を制御する管から出来た携帯型ディスポ ザブル注入ポンプです 携帯性に優れ 電源や点滴ポールを使わずに持続注入が可能です 術後鎮痛などの急性疼痛管理 癌性疼痛管理 また その携帯性を生かして抗癌剤の持続注入

ポプスカイン0.75% 注シリンジ 75mg /10 院 Popscaine 75mg /10 院 / 筒 丸石 薬価 円 / 筒 効 硬膜外麻酔 用 ( 注 )1 回 150mg ( 本剤として20 院 ) までを硬膜外腔に投与 禁 大量出血やショック状態, 注射部位またはその周辺に

Microsoft Word - 資料2-3 先進医療Bの総括報告書に関する評価表(B027_鹿児島大病院)一色大門.doc

新事業分野提案資料 AED(自動体外式除細動器) 提案書

10035 I-O1-6 一般 1 体外衝撃波 2 月 8 日 ( 金 ) 09:00 ~ 09:49 第 2 会場 I-M1-7 主題 1 基礎 (fresh cadaver を用いた肘関節の教育と研究 ) 2 月 8 日 ( 金 ) 9:00 ~ 10:12 第 1 会場 10037

血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ

円筒型 SPCP オゾナイザー技術資料 T ( 株 ) 増田研究所 1. 構造株式会社増田研究所は 独自に開発したセラミックの表面に発生させる沿面放電によるプラズマ生成技術を Surface Discharge Induced Plasma Chemical P

【1

医療法人原土井病院治験審査委員会

アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(慢性重症虚血肢(閉塞

平均皮温・体内温予測モデルを用いた暑熱環境の評価−予測モデルの検証実験−

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 5. 免疫学的検査 >> 5G. 自己免疫関連検査 >> 5G010. 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク

通常の単純化学物質による薬剤の約 2 倍の分子量をもちます. 当初, 移植時の拒絶反応抑制薬として認可され, 後にアトピー性皮膚炎, 重症筋無力症, 関節リウマチ, ループス腎炎へも適用が拡大しました. タクロリムスの効果機序は, 当初,T 細胞のサイトカイン産生を抑制するということで説明されました

平成 29 年 8 月 4 日 マウス関節軟骨における Hyaluronidase-2 の発現抑制は変形性関節症を進行させる 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 : 門松健治 ) 整形外科学 ( 担当教授石黒直樹 ) の樋口善俊 ( ひぐちよしとし ) 医員 西田佳弘 ( にしだよしひろ )

My DIARY ベンリスタをご使用の患者さんへ

saisyuu2-1

日本皮膚科学会雑誌第117巻第14号

ⅱ カフェイン カテキン混合溶液投与実験方法 1 マウスを茶抽出液 2g 3g 4g 相当分の3つの実験群と対照群にわける 各群のマウスは 6 匹ずつとし 合計 24 匹を使用 2 実験前 8 時間絶食させる 3 各マウスの血糖値の初期値を計測する 4 それぞれ茶抽出液 2g 3g 4g 分のカフェ

JSEPTIC CE教材シリーズ 対象:レベル1 ICUで働く新人CE(1~3年目程度)

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D2082A8926D82E782B995B68F E834E838D838A E3132>

cover

Microsoft Word - FMB_Text(PCR) _ver3.doc

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

...S.....\1_4.ai

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

Transcription:

名古屋学院大学論集人文 自然科学篇第 47 巻第 1 号 (2010 年 7 月 ) 寒冷療法の膝と腰部への効果 体表面および深部温度からの検討 平 野 孝 行 赤 木 充 宏 伊 東 佑 太 青 木 一 治 要約膝と腰部に対して寒冷療法の効果をみるため, 健常成人 11 名に氷と食塩を混合した冷凍療法と極低温療法の2 種類の寒冷療法を実施し, 体表温と膝関節包内および腰部深部温度から検討した 体表面温度では, 膝にて冷凍療法によって反応性の温度上昇がみられたが, 極低温療法および腰部の冷凍療法 極低温療法ではみられなかった 膝関節包内温度は, 冷凍療法 極低温療法によっても著明な温度変化はなかった 腰部深部温度は冷凍療法 極低温療法による温度低下がみられた はじめに寒冷療法は保存的療法の一手段として古くから行われており, 特に極低温ガス発生装置の開発以来, 慢性関節リウマチを中心として, 有痛性筋スパズムや腰痛疾患等にも積極的に用いられてきた 寒冷療法の生理的作用は局所温の低下であり, その生理的効果は二次的な血管拡張による血流改善, 温度上昇, 浮腫の軽減, 鎮痛, 消炎, 痙性抑制などである 寒冷療法による四肢の局所温度変化の測定は, 多く報告されているが体幹のそれは少ない それ故我々は, 軟部組織構造の異なる, 膝と腰部に寒冷療法を施行し, その影響を検討したので報告する 対象と方法健常男子 9 名, 女子 2 名計 11 名を対象とした 年齢は21~30 歳で平均 24.4 歳であり, 身長は148~173cm, 平均 167.2cm, 体重 43~ 91kg, 平均 62.2kgであった 膝 腰部表面温 度測定は8 名に行い, 膝関節包内 腰部深部温度測定は4 名に行った 被検者を室温 25, 湿度 60% に調節した恒温恒湿室に約 30 分間安静臥床にて馴化させた後に施行した 寒冷療法としては, 極低温ガス発生装置を用いた極低温療法あるいは, 氷嚢に氷 500gと食塩 250gを混ぜ合わせた冷凍療法を3 分間行った ( 図 1,2) 施行部位は右膝と下位腰椎の左傍脊柱筋部とし時間をおいて施行した 温度の測定は施行中, 施行後ともに1 分毎に行い, 原則として施行後 40 分まで測定した インフラアイ150サーモグラフィ装置により膝 腰部全体の体表面温度の変化を測定し, デジタル温度計熱電対で局所体表面温度を測定した 深部温度については, サーミスター針状プローブで膝関節包内および腰部の深部温度を測定した 測定部位として, 膝表面温度は内側関節裂隙部で行い, 関節包内温度は一般に外側関節穿刺を行う部位からプローブ針を刺入して行った ( 図 3 5) 腰部は表面 深部温度測定をL4 棘突起 31

名古屋学院大学論集 図 4 サーミスター針状プローブの関節刺入 図 1 極低温療法装置 図 2 腰部への冷凍療法 図 3 サーミスター針状プローブ 外側 3cmの傍脊柱筋部で行い, 深部温はそれぞれに刺入の深さを変えて測定した 医学研究としての倫理については, 本研究は現行の倫理規定への対応を求められる以前に実施したもので, 学術資料として価値を鑑み投稿することを理解願いたい 図 5 寒冷療法直後のサーモグラム結果膝 腰部表面温度測安静時の温度変化をみるため,3 名を用い安静をとらせた後,30 分間膝と腰部の温度変化を測定した 膝表面温度は0.5, 腰部表面温度 0.4 以内の変化であった 膝関節包内 腰部深部温度では, ともに 32

寒冷療法の膝と腰部への効果 図 7 寒冷療法施行時の表面温度の変化 図 6 安静時の温度変化 0.3 以内の変化であった ( 図 6) 寒冷療法施行時の体表面温度の変化では, 温度低下の様子は膝と腰部, 冷凍療法と極低温療法ともに同様の傾向を示した 施行前温度は, 膝では平均 32.5, 腰部では平均 33.1 であったものが, 寒冷療法 3 分後には十分な冷却が得られていた ( 図 7) 冷凍療法において, 膝表面温度は施行直後平均 30.7 低下し, ほとんどが施行後 15 分で施行前温度に回復し, それ以後では1 名を除いて反応性温度上昇がみられた 反応性温度上昇は,0.8~2.8 の内で, 施行後 30 分では平均 1.4 の上昇であった 反応性温度上昇の起こらなかった1 名は, 施行後 35 分では-0.1 であり, ほぼ施行前温度に回復した ( 図 8) 腰部表面温度は,1 名に反応性温度上昇がみられただけであり,40 分以内に施行前温度に回復したものも2 名にすぎなかった ( 図 9) 膝関節包内温度および腰部の深部温度につ 図 8 冷凍療法施行後の膝表面温度の変化図 9 冷凍療法施行後の腰部表面温度の変化いては, 関節包内温度は全対象で0.3 以内の変化であり, コントロールの安静時温度変化との差異はみられなかた ( 図 10) 腰部の深部温度では,-4.6~-0.8 の変化であり, 皮下 3.5cmでもその変化は少ないものの影響を受けていることが分かった ( 図 11) 極低温療法による膝表面温度の変化は, 施行直後平均 -31.8 の低下であり, 施行後 40 分でも全例において施行前温度に回復しなかっ 33

名古屋学院大学論集 図 10 冷凍療法後の膝関節包内温度の変化 図 13 極低温療法施行後の腰部表面温度の変化 図 11 冷凍療法施行後の腰部深部温度の変化図 14 極低温療法施行後の膝関節包内温度の変化 図 12 極低温療法施行後の膝表面温度の変化 図 15 極低温療法施行後の腰部深部温度の変化 た ( 図 12) 腰部表面温度では施行直後平均- 30.3 低下し,1 名を除いて40 分でも元の温度に回復しなかった 1 名は25 分後に回復し, わずかであるが反応性温度上昇がみられた ( 図 13) 膝関節包内温度と腰部深部温度において, 関節包内温度は1 名に-1.2 の低下がみられたが他 3 名はコントロール群と差はなかった ( 図 14) 腰部深部温度は,-2.0~-0.9 の変化で深層ほど温度低下が少なく, 影響を受 け難い傾向であった ( 図 15) 冷凍療法 極低温療法について, 膝と腰部における表面温度の変化の概要をみるため平均値で表した 施行直後の温度には差はないが, 冷凍療法の膝でのみ反応性温度上昇がみられ, 1.2 の上昇が維持された ( 図 16) 同様に関節包内および腰部深部温度の変化を平均値で示した 腰部深部温度に比べ関節包内温度は変化がみられなかった ( 図 17) 34

寒冷療法の膝と腰部への効果 の四肢遠位の関節が多く, 今回対象とした腰部についての報告は極めて少ない 寒冷療法は熱の伝導形態により, 伝導冷却, 気化冷却, 対流冷却に大別され, 今回の冷却方法は伝導冷却の代表例として氷嚢を用いたアイスパックによる冷凍療法, 気化冷却として極低温療法を選択した 図 17 考察 図 16 寒冷療法施行後の表面温度の変化 寒冷療法後の関節包内 腰部深部温度の変化 1. 寒冷療法の方法寒冷療法は筋スパズムの軽減や外傷直後の応急処置として最も適用され, 冷却と運動療法を併用する寒冷運動療法も行われてきた 慢性関節リウマチの寒冷療法の効果については, 本邦で開発された極低温療法を用いることで積極的な運動療法も展開されてきた 寒冷療法の方法にはアイスマッサージ, クリッカー, アイスパック, コールドパック, 冷水浴, コールドスプレー, 持続的冷却装置, 携帯用急冷パック, 極低温療法などが挙げられるが各種寒冷療法の効果比較や最適な寒冷療法の選択指針などには十分な科学的根拠が得られていないのが実情である 寒冷療法の臨床効果の研究については, そのほとんどが膝関節や足関節および手部など 2. 寒冷療法の体表面温度への効果一般に冷却方法を決める際には, 身体部位と冷却剤での熱移動速度が速くかつ安全な温度変化が求められる 今回実施の冷凍療法および極低温療法は,3 分間の施行にて膝と腰部の体表面温度は平均 30 をこえる温度低下を示し, 十分な冷却効果を得ることができた 延永, 山内らは慢性関節リウマチ患者への寒冷療法において, 冷刺激温度が低いほど効果的であることを指摘しており, 一般的な氷のみを使用したアイスパックやアイスマッサージ, クリッカーなどでは十分な冷却効果が得られないと報告した 1) 坂本らによれば, アイスパック, コールドパック, 持続的冷却装置の3 種の方法による体表面温変化では,30 分の冷却にて最も低下したアイスパック施行でも18.3 までの低下にとどまっている 2) 本研究での施行後の温度変化については, 冷凍療法と極低温療法の施行直後では差はないが, その後には冷凍療法では膝に反応性温度上昇がみられた これは, 血管の第一次収縮に続いて二次的な血管拡張反応が生じたことによる血行促進として理解される 慢性関節リウマチの寒冷療法治療においては, この反応性温度上昇が筋力や歩行能力, 痛みやROM 改善などと同様に, 治療効果の指標としても考えられてきた 3,4) 一方, 急性炎症を抑えるための寒冷療法で 35

名古屋学院大学論集 は, 炎症性発熱を低下させ血管収縮と血流減少, 毛細管透過性低下を生じ炎症による発赤や浮腫などを減少させ, 痛覚を伝えるAδ 線維活動の低下により痛みへも直接的に作用する これらの目的を考えると, 上記の反応性温度上昇による血管拡張や循環増加は逆に防ぐべき反応と考えられ, 症例に応じて冷却の程度を考慮する必要がある 3. 寒冷療法の関節包内 深部温度への効果関節内温度についての諸家の研究では, 寒冷により低下する報告と上昇する報告が混在し一定の結果が示されていない 1,5 8) 最近では, 運動負荷による関節内温度の変化も報告され外気温にも左右されている 9) 炎症関節への寒冷効果として, コラゲナーゼやエラスターゼなどの軟骨分解酵素の活性は関節温度の低下により抑制され, 関節温度が 30 以下になるとほとんどが止まると報告されており, 炎症性関節疾患である変形性関節症や慢性関節リウマチでのコラーゲン破壊の予防と抑制が期待される 本研究結果では, 冷凍療法と極低温療法において1 名を除いて関節包内温度は変化しなかった 今回のような冷却媒体を用いる際には, 治療時間の延長や治療面積の拡大など実施方法を考慮すべきである 軟部組織の深部温度への効果については, 一般的に筋スパズムや痛みの改善が期待される 今回の結果では, 腰部深部温度は冷凍療法 極低温療法ともに低下を示しかつ長く持続していた 深部温度変化は体表面の温度変化とは異なり, 体表面温度が寒冷施行後すぐに温度回復に向かうのに比べ, 深部温度は施行後しばらく経ても低下傾向を示し, 寒冷療法の十分な効果が期待できると考えた 謝辞本研究にご指導ご協力いただきましたNTT 西日本東海病院鈴木信治名誉院長に深謝いたします 本研究の一部は,2010 年度名古屋学院大学研究奨励金による研究成果である 文献 1 ) 山内寿馬, 他 : 神経 筋疾患のリハビリテーションに関する研究. 昭和 51 年度実績報告書 68 77,1976 2 ) 坂本雅昭, 渡辺純, 増永正幸, 小西啓子, 斉藤明義 : 寒冷療法と皮膚温の変化. 理学療法科学 14(1):25 28,1999 3 ) 山内寿馬, 他 : 神経 筋疾患のリハビリテーションに関する研究. 昭和 52 年度実績報告書 120 136,1977 4 ) 坂本隆弘, 藤木秀男, 西川博文, 川村次郎, 辻本正記 : 局所超低温療法. 理学療法 作業療法 18(2):122 126,1984 5 )Horvath SM, Hollander JL: Intra-articular temperature as a measure of joint reaction. J Clin Invest 28: 469 473, 1949 6 ) 木村貞次 : 理学療法士のための物理療法臨床判断ガイドブック. 文光堂 :pp362 364,2007 7 )Young-Ho Kim, Seung-sug Baek, Ki-Sub Choi, Sang-Gun Lee, Si-Bog Park: The Effect of Cold Air Application on Intra-Articular and Skin Temperatures in the Knee. Yonsei Med J 43(5): 621 626, 2002 8 )F. G. J. Oosterveld, J. J. Ransker, J. W. G. Jacobs, H. J. A. Overmars: The Effect of Local Heat and Cold Therapy on the Intraarticular and Skin Surface Temperatures of the Knee. Arthritis and Rheumatism 35(2): 146 151, 1992 9 )Christoph Becher, Jan Springer, Sven Feil, 36

寒冷療法の膝と腰部への効果 Guiliano Cerulli, Hans H Paessler: Intraarticular temperatures of the knee in sports- An in-vivo study of jogging and alpine skiing. BMC Musculoskeletal Disorders 2008, 9: 46 37