産業組織 B 講義資料 (8) (8) 企業戦略 (ⅰ)- 価格差別 - 産業組織 A では主に寡占市場の構造について学びました ここからは企業の利潤最大化行動を詳しく分析していきましょう まず 価格差別 について学びます 映画館で映画を観るとき 大学生である皆さんは学生証を提示し 大学生料金 を支払いますよね? いわゆる 学割 というもので 普通の大人料金よりも安く映画を観ることが出来るわけです 学割は映画だけではありません 遊園地や美容院 携帯電話の基本料金など 様々な場面で目にします さて この様に企業は同じ財 ( サービス ) でも消費者によって料金設定を変化させることがあります しかし 全ての財に学割があるわけではありません では 企業はどのようなときに学割を設定するのでしょうか? ここでは企業の価格戦略について見ていきましょう (ⅰ) 第 種価格差別 これまで企業の利潤最大化条件は限界収入と限界費用を一致させることであると学びました それは図 で表されます しかし 実はここには大きな前提がありました それは 企業は全ての消費者に同じ価格で財を販売する ということです つまり A さんには 00 円で B さんには 50 円で売る! なんてことはしない ( あるいは 出来ない ) ことが前提だったのです 価格 a p* b e d c 限界費用曲線 0 限界収入曲線需要曲線 q* 図. 企業の利潤最大化 数量
では もし企業が消費者によって異なった価格を提示できるとすれば どのような価格設定を行えば利潤が最大になるでしょうか その答えは 企業が消費者一人一人の留保価格に等しい価格を提示する です 留保価格とは消費者がその財に支払っても良いと考える最も高い価格で それはまさに需要曲線で表されています 再び図 を見て下さい 一つの価格しか付けられない時 限界収入と限界費用が一致する p* が均衡価格になります そのとき 生産者余剰は p*bde で表されます これに対し 一人一人の消費者に異なった価格を付けることが出来るのであれば 企業は需要曲線に沿って a~e の価格を設定します つまり 消費者余剰を全て吸い上げてしまい 生産者余剰は ace になります したがって 一つの価格しか付けられない場合より 遥かに大きな利潤を得ることが出来るのです このような価格設定を第 種価格差別と呼びます もちろん 第 種価格差別を実際に実行するのはほぼ不可能でしょう しかし これに近い仕組みがダッチオークションにあります ダッチオークションとは始めに高い価格を提示し 徐々に価格が繰り下がっていくオークションのことです オークションに参加している人は自分が買っても良いと思った価格まで下がった時に手を挙げます 日本ではかきいち大阪の 鶴見花卉市 などで見られるオークション方式です (ⅱ) 第 種価格差別 月々の携帯電話の料金は 基本料金 + 通話料 となっていることが多いと思います また 遊園地などでは 入園料 + 乗り物料金 を支払うことがあります つまり 固定料金 + 使った分 という料金体系が敷かれているわけです このような料金体系を二部料金制と呼びます 実はこの二部料金制も価格差別の一つと考えることが出来ます 図 は二部料金制を表しています F の固定料金に加え 利用した数量に応じて 料金が増加していきます ここでポイントは 消費者にとってはたくさん購入するほど平均費用が安くなるということです 企業としては 二部料金制を採用することで たくさん購入してくれる人に対し 自動で割引を実施できるわけです つまり 消費者の購買行動がそのまま価格差別に結びつきます この様な価格差別を第 種価格差別と呼びます これは小売店が発行する ポイントカード やショットバーなどで見られる チャージ ( 席料 ) などでも同様です 例えば チャージが 000 円の店で 000 円のカクテルを一杯だけ飲んで帰れば カクテル一杯の実質的な価格は 000 円です しかし 二杯飲めば実質的な一杯の価格は 500 円 三杯飲めば約 333 円とどんどん安くなります ここで 差別 というのは 単に 異なっている という意味であり ( 人種差別や男女差別といった ) 道徳的な意味合いは一切含みません これに対し 安い価格から始まり 徐々に価格が釣り上がっていく通常のオークションは イングリッシュオークション と呼ばれます
料金 F 0 a b 数量 図. 二部料金制 (ⅲ) 第 3 種価格差別 では 冒頭の例で挙げた 学割 について考えましょう 映画館は 遊園地は 携帯ショップはなぜ学割を行うのでしょうか? 企業に割引を行わせる最大の要因は割り引いた際に大きく需要が伸びることです もし割引を行っても需要が増えないのであれば 割り引いただけお店は損をします 映画館の学割を考えましょう 一般論として 学生は時間に余裕がある一方で 金銭的には余裕がありません したがって 映画館は学生料金を安くすることで より大きな需要の拡大が見込めるのです この理屈が遊園地や携帯電話にもあてはまることは容易に分かるでしょう 学割の他にも旅行会社や交通機関で見られる シニア割引 や タクシーの 深夜割増 も同様に説明できます この様に性別 年代 時間などで市場を分け それぞれの市場に別の価格を付けることを第 3 種価格差別と呼びます 図 3 は市場 ( 例えば社会人 ) と市場 ( 例えば学生 ) それぞれの市場における利潤最大化を表しています 両市場で限界費用は同じですが 限界収入が異なるため 異なった価格を付けることが企業にとって最適となるのです もう少し詳しく第 3 種価格差別について見ていきましょう ある独占企業が市場 と市場 で同じ財を販売しているとします 市場 の需要関数は q 00 p 市場 の需要関数は q 80 p で表され 限界費用は一定で 0 とします もし何らかの事情により両市場で同じ価格をつけなければならない ( つまり 価格差別が出来ない ) とすると この企業の利潤関数は 3
価格 p** p* 限界費用曲線 市場 需要曲線 需要曲線限界収入曲線限界収入曲線 q** 0 q* 図 3. 第 3 種価格差別 市場 pq q 0q q p 0q q p 080 p で表されます ここで p は統一価格を表しています 利潤最大化の 階の条件より d 00 4 p 0 dp p 50 が得られます よって 両市場で 50 の価格を付けることが最適になります 他方 二つの市場で別々の価格を付けることが出来るとすると 利潤関数は pq pq 0q q p 000 p p 080 p と表されます 利潤最大化の 階の条件より 0 p 0 p p 55 90 p 0 p p 45 が得られます すなわち市場 で 55 市場 で 45 の価格を付けることが最適になります ここから分かることは価格差別により 市場 では価格が上昇し 市場 では下落する ということです では 企業はどのような市場に高い価格を付け どのような市場に低い 4
価格を付けるのでしょうか? 学割の例で見たように割引をする際には どれだけ需要が増 加するかが重要なのでした 価格が上昇した際 どれだけ需要が減少するか? これを需 要の価格弾力性と呼びます つまり 需要の価格弾力性が大きい市場 ( 価格を下げると 大きく需要が増える市場 ) では価格を安く 需要の価格弾力性が小さい市場 ( 価格を下げ てもあまり需要が増えない市場 ) では価格を高くすることになります 先ほどの市場 と市場 の例で見てみましょう 需要の価格弾力性は 需要の変化率 価格の変化率 で求められます 変化率は 変化量 元の量 で求められます 需要の価格弾力性 (ε) を式で表すと q q p p となります ここで q は需要の変化量 q は需要量 p は価格の変化量 p は価格です 頭にマイナスが付いているのは ε を正の数字で表現するためです すると 統一価格の下 で価格が 上昇した際の市場 の需要の価格弾力性は 50 50 となります 他方 市場 の需要の価格弾力は 30 50 5 3 となります つまり であり 価格差別によって需要の価格弾力性が大きい市場の 価格が低下したことが分かります さて この第 3 種価格差別により 市場厚生はどのように変化するでしょうか? まず確 実に言えることは 独占企業は価格差別を行うことで利潤が増加する ( 少なくとも減少し ない ) ということです 企業は価格を差別化したくなければしなくても良いわけで 利潤 が高まるからこそ 価格差別を行うのです 次に 価格が低下する市場では消費者余剰は 増加 価格が上昇する市場では消費者余剰は低下します 他方 総消費者余剰が増えるか 減るかは一概には言えません さらに社会的余剰が増えるか減るかも一概には言えません 5