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計算化学のすすめ第 4 回一点計算によってわかること 2 京都府立大学人間環境学部講師リントゥルオト正美 分子モデリングソフトウェア Spartan ( スパルタン ) のご紹介 (4) グラフィックス ( その 1) 5 米国法人 Wavefunction,Inc. 日本支店長内田典孝 分子集合体のシミュレーション 6 北九州市立大学国際環境工学部教授上江洲一也 emd 2 ( エムディースクエア ) で始める分子動力学シミュレーション (4)MD 計算後の解析 8 株式会社インフォグラムシステム開発部田上享

計算化学のすすめ 第 4 回一点計算によってわかること 京都府立大学人間環境学部講師リントゥルオト正美 構造の最適化によって最安定構造が得られれば そこから何がわかるのかについて考えてみよう 最安定構造がわかっている場合など 既知の構造について物性や反応特性などの計算を行うことを一点計算という では 一点計算で何がわかるのか 例えば 双極子モーメント 電子密度図 静電ポテンシャルマップから電荷の空間的片寄りがわかり 化合物の特性や反応特性を知ることができる 1. 電子分布解析と双極子モーメント一点計算によって波動関数がわかると空間中の電子密度分布を知ることができる しかし 空間中の電子密度分布では系の反応性や物性などの評価を直感的に行うことは難しいことから 電子分布を原子や原子間の結合に振り分ける方法 電子分布解析の方法がいくつか考案されている 最も一般的な方法として Mulliken のポピュレーション解析がある 水 エタノール アセトアルデヒドについて構造最適化を行った結果を図 1 に示す この軌道の電子密度はで表される ここで重なり積分をと定義すると と表せる このカッコ内のを分子軌道 φ i の電子密度に対する原子軌道 χ r の寄与分と考える Mulliken の考えでは 2CrCsSrs で表される量をχ r とχ s それぞれに等分に振り分ける しかし χ r とχ s の大きさが全く異なる場合など等分にわけることが不適当なこともあり これがこの解析法の限界ともいえる 分子軌道 φ i に電子が2つずつ入っている場合はこの軌道 に対する原子軌道 χr の寄与分は である す べての分子軌道に対する原子軌道 χ r の寄与分の和をとると となる ここで n occ は占有軌道の数である ある原子 A を 図 1 水 エタノール アセトアルデヒドの 6-31G(d,p)/HF による計算結果 数値は Mulliken ポピュレーションによる電荷を表し 青い矢印は双極子モーメントを表す (Gaussian 98 および Gopenmol を使用した ) Mulliken のポピュレーション解析は分子軌道の2 乗である電子密度を原子と原子間領域 ( 結合領域 ) に分割するという考えに基づいている 計算により得られた分子軌道は原子軌道 χ r とその係数 C r で次式のように表される 考えたとき この原子に属する全ての原子軌道について q r を求め 和をとれば 原子 A 上の電子密度となる 原子 A の中性の電子数を Z A とすると その原子上の電荷 Q A はQ A =P A -Z A で表され これを net atomic charge という この原子上の電荷を図 1 に示した 図 1 から原子上の電荷分布がよくわかり 非常に便利な解析方法であることがわかる しかし この電荷分布は基底関数系への依存が大きく 定量的なものではない 定性的な取り扱いにとどめておくことが大切である 原子上の電荷分布と同様に化合物内の極性を表す物理化 2 Wako Infomatic World No.6

学的な性質の一つとして 電気双極子モーメントがある 電気双極子モーメントは荷電の偏りを表すものであるから 分子軌道法で荷電分布を計算すれば 電気双極子モーメントが理論的に求められる 電気双極子モーメントは大きさと向きをもつ量であるが この向きの定義が教科書によって異なるようである 物理化学などの教科書を見ると負電荷から正電荷の方に向かうと定義されるが 有機化学の教科書ではその反対の向きをさすと定義されているので注意が必要である 負電荷から正電荷の方を向くと定義した場合の水 メタノール アセトンについての計算結果を図 1 に示す ここで位置 r 1 における電子分布をρ(r 1 ) とし 原子 A の核の位置を R A 電荷を Z A とする ある位置 r s において 引き合う相互作用である場合 すなわち負電荷が集中している場合静電ポテンシャルは負に 反発する場合 すなわち正の電荷が集中している場合は静電ポテンシャルは正になる 図 3 に静電ポテンシャルが -10 kcal の点をつないで表した静電ポテンシャル面を分子モデルに重ねた図 ( 静電ポテンシャル表面 ) を表す 水 アンモニアでは孤立電子対の分布がよく表れている この孤立電子対によって水では屈曲した構造 アンモニアで 2. 電子密度図と静電ポテンシャルマップ空間中の電子密度分布を分子モデル上に重ね合わせて 電子密度図が得られる ある一定値の電子密度を 3 次元的につないだ等電子密度表面を表した図のことである 図 2 に水 図 3 水 アンモニア ベンゼンの - 10 kcal の等静電ポテンシャル表面 Spartan によって 6-31G(d)/HF 計算を行った は傘のような構造になることがわかり ベンゼンでは分子面の上下にパイ電子軌道があることがわかる 図 2 水 酢酸 ベンゼンの電子密度図 Spartan によって 6-31G(d)/HF 計算を行った 0.002 electron/a.u. 3 の等電子密度表面の表示 酢酸およびベンゼンの電子密度図を示す この電子密度図によって分子の大きさ 電子密度の空間的な広がり 片寄りがわかる 電子密度図だけでも十分に重要な情報が得られるが 化学者にとってはより直接的な電荷の片寄りが知りたい 静電ポテンシャルはこの情報を与えてくれる重要な量である 静電ポテンシャルとは単位電気量を持つ正の点電荷と分子の電子分布とが及ぼしあう相互作用エネルギーで定義される 位置 r s における静電ポテンシャルは次式で表される Wako Infomatic World No.6 3

このように電子密度図 静電ポテンシャル表面ともに有用であるがより直感的に様々な化学的性質について理解できるマップがある 分子の空間的広がりを表す電子密度図に静電ポテンシャルの値を重ね 静電ポテンシャルの一定値ごとに色分けしたものを静電ポテンシャルマップという 図 4に水 酢酸 ベンゼンの静電ポテンシャルマップを示す 静電ポテンシャルが正の場合は青で示され 負の場合は赤で表されている ベンゼンではパイ電子の存在する面内が赤くなっており より負電荷が集まっていることがわかる また 酢酸ではカルボキシル基の酸素により負電荷が 水素により正電荷が集中しており 酢酸の 2 量体の構造をよく説明する結果となっている 図 4 水 酢酸 ベンゼンの静電ポテンシャルマップ Spartan によって 6-31G(d)/HF 計算を行った 0.002 electron/a.u. 3 の等電子密度表面上に静電ポテンシャルを表示 参考文献全般について 1. ザボ N.S. オストランド 新しい量子化学 ( 上 ) 東京化学出版 1990 年 2. 村橋俊一 戸嶋直樹 安保正一編集 分子の物理化学 朝倉書店 2006 年 3. 櫻井実 猪飼篤編 計算機化学入門 丸善株式会社 1999 年 Gaussian 98 について 4.Frisch, M. J. ; Trucks, G.W. ; Schlegel, H.B. ; Scuseria, G.E. ; Robb, M.A. ; Cheeseman, J.R. ; Strain, M.C. ; Burant, J.C. ; Stratmann, R.E. ; Dapprich,S. ; Kudin, K.N. ; Millam, J.M. ; Daniels, A.D. ; Petersson, G.A. ; Montgomery, J.A. ; Zakrzewski, V.G. ; Raghavachari, K. ; Ayala, P.Y. ; Cui, Q. ; Morokuma, K. ; Foresman, J.B. ; Cioslowski, J. ; Ortiz, J.V. ; Barone, V. ; Stefanov, B.B. ; Liu, G. ; Liashenko, A. ; Piskorz, P. ; Chen, W. ; Wong, M.W. ; Andres, J.L. ; Replogle, E.S. ; Gomperts, R. ; Martin, R.L. ; Fox, D.J. ; Keith, T. ; AlLaham, M.A. ; Nanayakkara, A. ; Challacombe, M. ; Peng, C.Y. ; Stewart, J.P. ; Gonzalez, C. ; Head-Gordon,M. ; Gill, P.M.W. ; Johnson, B.G. ; Pople, J.A. Gaussian98 ; GaussianInc. : Pittsburgh, PA, 1998. GopenMol について 5.L.Laaksonen : A graphics program for the analysis and display of molecular dynamics trajectories.j.mol.graphics 10(1992) 33 6.D.L.Bergman, L.Laaksonen and A.Laaksonen : Visualization of Solvation Structures in Liquid Mixtures.J.Mol.Graphics & Modelling 15(1997)301 Spartan について 7.Spartan'06, Spartan Student Edition, Wavefunction, Inc. Irvine, CA USA 8.A Guide to Molecular Mechanics and Quantum Chemical Calculatons, W.J. Hehre, Wavefunction, Inc. 2003 emd 2 -Empowered Molecular Design/Dynamics- emd2( エムディースクエア ) は 分子動力学シミュレーション (MD) 計算と分子操作をリアルタイムに連携させた新しいタイプの分子モデリングソフトです ユーザーフレンドリーなインターフェイスを通じ 通常のデスクトップコンピューター上で 分子間相互作用を実感しながら 動く分子を使った分子モデリング が可能となりました よりリアルに よりパワフルに そして直感的に これが我々の目指す 分子モデリングソフトの新しいカタチです コード No. 品 名 容量 希望納入価格 ( 円 ) 303-17151 ( 株 ) インフォグラム (MD-AC1Std)eMD 2 スタンダードアカデミック版 1セット 500,000 300-17161 ( 株 ) インフォグラム (MD-AC1Std)eMD 2 スタンダードコーポレート版 1セット 1,500,000 634-08061 ( 有 ) 高速計算機研究所 MDGRAPE-3 PCl-X アカデミック版 1 枚 1,200,000 - ( 有 ) 高速計算機研究所 MDGRAPE-3 PCl-X コーポレート版 1 枚 照 会 4 Wako Infomatic World No.6

分子モデリングソフトウェア Spartan ( スパルタン ) のご紹介 (4) グラフィックス ( その 1) 米国法人 Wavefunction,Inc. 日本支店長内田典孝 今回は分子モデルの表示や Spartan の結果の可視化についてご紹介します Spartan では全電子密度や静電ポテンシャルなどのプロパティを使って可視化されたオブジェクトを生成します オブジェクトには大きく分けて 等値面または等値面の上に別のプロパティのコンターマップを作成した Surface と断面を与えて断面上のプロパティのコンターを描画する Slice の 2 種類があります 1) 分子モデル表示作成された分子模型はさまざまなモードで表示することができます 図 1 はベンゼンのさまざまなモデル表示 Wire, Ball&Wire, Tube, Ball&Spoke, CPK, Line でそれぞれ表示したものです 分子モデルは Surface や Slice とは独立に表示のモードを変えたり表示を消すこともできます デルとして扱えます 分子モデルでいえば Tube や Ball& Spoke モードに対応します 面 3 はさらに大きな数値を IsoValue として作成したものです 炭素原子の周囲に局所化しているのが確認できます 実はよく見ると水素原子の近傍にもごく小さな局所化が認められます X 線構造解析の結果では水素原子の位置が不正確であっ図 2 たり 時に省略されているものを散見しますが X 線は電子密度をみているため このような小さな局所化の位置の決定が困難であるからと考えられます 図 1 2) 全電子密度面図 2 は ベンゼンについて HF/6-31G* で作成した全電子密度面です 作画作成に使用されたプロパティ ( この場合は電子密度 ) の数値は IsoValue と表示され ユーザーが変更することができます ここではメッシュ表示された面 1 Isovalue=0.002 の面 ( 単位は electron/a.u. 3 以下同じ ) 半透明表示された 面 2 IsoValue=0.08 の面 ソリッド表示された面 3 Isovalue=0.35 の面 の 3 枚のグラフィックスを重ねて表示しています 面 1は分子の大きさ形を提示するのに適したモデルであると考えられます そもそもこのときの IsoValue は CPK 分子模型に最適にフィットするように選択された数値です 面 2 は原子間の結合を表現できるモ 3) 静電ポテンシャルマップ全電子密度面の上に静電ポテンシャルによる等高線で色分けをしたものが静電ポテンシャルマップです 図 3を参図 3 照してください 左はソリッド表示にした全電子密度面とメッシュ表示した静電ポテンシャルの等値面 (IsoValue =-10kcal) を同時に表示したものです 電子密度面上における静電ポテンシャルの値の範囲を包括する色分けをしたものが右の静電ポテンシャルです ここでは最大値 ( 正 ) を青 最小値 ( 負 ) を赤で色分けしています 4) 双極子モーメント Spartan では有機化学で教えられるように双極子モーメントのベクトルの向きは正から負になっています 図 4は水 メタノール アセトアルデヒドとそれぞれの双極子モーメントのベク図 4 トル表示です Wako Infomatic World No.6 5

分子集合体のシミュレーション 北九州市立大学国際環境工学部教授上江洲一也 前回までは, 分子力学法, 分子軌道法, 密度汎関数法を用を選択した (Fig.1) いた分子構造解析について解説した それらの計算で得られる結果は, 基本的に熱振動のない条件 ( 絶対零度 ) での最安定構造を示すものである 分子の構造を議論する際に, 溶媒や熱振動の影響を考慮する必要がある場合も多い その際には, 別の方法を考えなければならない その手法の一つとして, 温度, 圧力, 時間を条件設定できる分子動力学法 (Molecular Dynamics Simulation, MD) がある 実験を行 Fig.1 Surfactant structure っている環境に近い条件下で計算ができるので, 実験研究者にとって非常に魅力的な手法である 数万原子程度の大きさの系で 1 ナノ (10-9 ) 秒 (1ステップの時間刻みを 1 フェム今回の計算では,AOT と DOLPA には AMBER, 有機溶媒イソオト (10-15 ) 秒としたとき, 百万ステップ ) 程度は計算する必クタンには OPLS, 水分子には SPC/E ポテンシャルパラメータ要があるので, 計算速度がはやい分子力学的モデルを用いるを用いた DOLPA 分子内のリン酸基に関するポテンシャルパラのが一般的である しかし, このモデルでは化学反応を伴うメータは既存の AMBER パラメータセット内に存在しなかった分子シミュレーションはできないので, 近年は量子力学的モので,Aeon Technology 社の Direct Force Field を用いてそデルを取り入れても高速に計算可能な分子動力学法の研究のポテンシャルパラメータを作成した また,MD 計算を行うが盛んに行われている 上で, 原子の電荷も重要なパラメータの一つである AOT と今回は, 分子集合体の構造解析を分子動力学法を用いて行 DOLPA の電荷については,Gaussian98 を用いて B3LYP/6-31G * った研究例を紹介したい イソオクタン中の逆ミセル構造をレベルで構造最適化した後,ESP 電荷を計算した 明らかにするために行った研究である この研究は, 文部科 AOT あるいは DOLPA 分子と水分子を, イソオクタン分子で学省科学研究費特定領域研究 (B) 液液界面ナノ領域の化学 満たされた空間にランダムに配置して MD 計算を行い, それ (2001~2003 年, 研究代表者 : 大阪大学 渡會仁教授 ) にぞれの分子が自己組織化することによって逆ミセルを形成おいて九州大学 後藤雅宏教授の下で行った させたいところである しかし, それには気の遠くなるようある種の両親媒性分子 ( 界面活性剤 ) は, 有機溶媒中でナな膨大な時間が必要だと予想されたので, 逆ミセル1 個を人ノスケールの分子集合体 逆ミセル を形成し, 微小な水滴為的に作成することにした その際に, 実験的に求められて核 (water pool) を安定に分散させることができる この逆いる逆ミセル構造パラメータ 5) ( サイズおよび界面活性剤とミセルが提供するナノオーダーの water pool が, タンパク水のモル比 (W 0 )) を参考にして,AOT の場合 (W 0 =8.3) は, 質の分離 1), 変性タンパク質のリフォルディング 2), 酵素の AOT 分子 36, 水分子 300, カリウムイオン 36 とし,DOLPA 3) 4) 新規機能発現, 遺伝子変異の検出の 場 として利用での場合 (W 0 =10) は,DOLPA 分子 30, 水分子 300, カリウムきることが明らかとなっている それぞれの 場 の特徴は, イオン 30 とした この条件で作成した,AOT 逆ミセルと逆ミセルを形成する両親媒性分子の油水界面での挙動で決 DOLPA 逆ミセルの初期構造を Fig.2 に示した 逆ミセルの大定されている その 場 を制御するためには, 両親媒性分きさは 3 ナノメートル程度である この構造の作成は, 非常子の分子構造の違いによって, 逆ミセルの構造がどのように変化するかを理解することが重要であると考えた そこで, 分子動力学法を用いて分子構造の異なる 2 つの両親媒性分子が形成する逆ミセル構造について検討した 両親媒性分子としては, 逆ミセル形成剤として広く使用されているジ (2-エチルヘキシル) スルホコハク酸ナトリウム ( 通称 AOT) と, その AOT よりも少量で逆ミセルを形成する能力をもつジオレイルリン酸 (DOLPA) Fig.2 Snapshots of the Starting Configurations of the (a) AOT and (b) DOLPA Reverse Micelles 6 Wako Infomatic World No.6

に大変な作業であった 水分子の周りに精密に両親媒性分子を配置しないと,MD 計算中に水分子が逆ミセル内から何十個も飛び出てしまったり, 分子間距離が近すぎて非常に大きな力が発生して計算が破綻したりしたため, 逆ミセル構造の作成を何度も繰り返すことになった せっかく計算のアイディアがあっても, こんなことに時間を費やすのは馬鹿げていると感じたことが,MD 計算をしながら分子に力を加えて適切な配置に動かすことができるソフトウェア emd 2 (Empowered Molecular Design/Dynamics) の開発に取り組む契機となった 1 辺が 14 ナノメートルの立方体セル内に 4000 分子のイソオクタンをランダムに配置して, その中心付近に作成した逆ミセル1 個を挿入した その逆ミセルと空間配置が重なったイソオクタン分子を除去した後,1 atm,303k,ntp アンサンブル ( 分子数 N, 温度 T, 圧力 P が一定 ) で 3 次元周期境界条件下でMD 計算を行った 両逆ミセルともに,1200 ps (1.2 ns) 経過後も逆ミセルの形態を保持しており, 逆ミセル全体の形態は初期構造と同様に球状であった (Fig.3) 逆ミセルの両親媒性分子を取り除いた内部の水滴核 (Fig.4) を観察してみると, 初期構造では水滴核内にランダムに配置していたカリウムイオンが両親媒性分子とイオン対となるように水滴核表面に移動している また, その形状に関しては,AOT の場合球状であるのに対し,DOLPA の場合は楕円状になっている 楕円率 ( 真球の場合 1.0) の時間平均を算出したところ,AOT 逆ミセルで 0.75,DOLPA 逆ミセルで 0.35 となるので, 明らかに逆ミセル内の水滴核の形状が異なっている この要因について検討するために, 積算配位数の解析を行い, その結果を Table 1 に示した この解析は, ある原子に近接している原子の個数を示す Table 1 Coordination Numbers of Potassium ものであるが, こ Ions-Surfactants Interactions れらの情報から両親媒性分子とカリウムイオンとの配置として,Fig.5 に示した構造が得られた AOT のスルホン酸は配位点が 3 Fig.5 Possible Structures Formed by Potassium Ions and the (a) AOT or (b) DOLPA Fig.3 Snapshots of the (a) AOT and (b) DOLPA Reverse Micelle Configuration at 1200 ps 点あるので, スルホン酸とカリウムイオンは 2 次元網目構造をとっているのに対し,DOLPA のリン酸は配位点が 2 つしかないので, カリウムイオンとリン酸が 1 次元的に並んでいる Fig.4 において, カリウムイオンの配置に着目すると,AOT 逆ミセルではカリウムイオンがランダムに並んでいるのに対し,DOLPA 逆ミセルではカリウムイオンが 1 直線上に並んでいる したがって, 両親媒性分子構造の違いによりカウンターカチオンであるカリウムイオンの配置が変化し, 逆ミセル内の水滴核の形状に影響を与えることが明らかとなった Fig.4 Snapshots of the (a) AOT and (b) DOLPA Reverse Micelle Interior at 1200 ps 参考文献 1.T.Ono, M.Goto, M.Nakashio and T.A.Hatton, Biotechnol. Prog., 12, 793-800(1996). 2.M.Goto, Y.Hashimoto, T.Fujita, T.Ono and S.Furusaki, Biotechnol. Prog., 16, 724-728(2000). 3.T.Ono, K.Kawakami, M.Goto and S.Furusaki, J.Mol.Catal. B : Enzymatic, 11, 955-959(2001). 4.T.Maruyama, L.C.Park, T.Shinohara and M.Goto, Biomacromolecules, 5, 49-53(2004). 5.G.Nonaka, M.Harada, A.Shioi, M.Goto and F.Nakashio, J.Colloid and Interface Sci., 176, 1-6(1995). Wako Infomatic World No.6 7

emd 2 で始める分子動力学シミュレーション (4)MD 計算後の解析 株式会社インフォグラムシステム開発部田上享 今回は 前回行った MD 計算後の解析について解説いたします MD 計算結果の解析にはさまざまなものがありますが 今回は二体相関関数についてご説明します 二体相関関数は ある元素に対する任意の元素 ( たとえば 水溶液中の水分子の酸素と水分子の酸素 ) が距離 r においてどの程度の確率で存在するのかを表します この結果から 計算対象である分子群の特徴を知ることができます 25 の水中における任意の水分子と その他の水分子全体の O-O 間の二体相関関数を解析すると 約 2.8A あたりに第 1 ピークが出現します これは 隣り合った水分子が大体 2.8A 離れたところに存在することを意味しています また O-H 間の二体相関関数を解析すると 約 2A あたりに第 1 ピークが出現します これは 水分子同士の水素結合の距離が約 2A であることを意味しています 水の場合 氷の状態で最も規則正しい構造を持つので そのときの二体相関関数を基準にすることにより 水分子群の結晶構造からのずれを理解することもできます このように 二体相関関数を解析することによって任意の元素周辺の構造的情報を得ることができます 図 1 原子選択画面 (1 では酢酸のアシル基の酸素を 2 では全水分子の酸素を選択 ) PC に Excel がインストールされていれば そのまま自動的に Excel を起動してグラフを表示することも出来ます 下のグラフは 水中の酢酸分子の MD を 110ps 行ったうちの最後の 10ps 分のデータをもとに 酢酸分子のアシル基の O と全水分子の O( 緑色のグラフ ) 及び 酢酸分子の水酸基の O と水分子全体の O( 青色のグラフ ) の二体相関関数を計算したものです それでは 具体例として酢酸のアシル基 ( 炭素と二重結合している ) の O と 周りの全水分子の二体相関関数を emd 2 で計算する手順をご説明します 1 ログを開く emd 2 の解析メニューの 二体相関関数 をクリックすると二体相関関数ダイアログが開きますので 参照 ボタンを押して拡張子が.stp のログファイルを開きます また 計算結果は CSV 形式で出力されますので CSV ファイルの保存先を決定し 次へ をクリックします 2 原子の選択ログを開くと左に分子ツリーが 右には分子が表示されますので 左の分子ツリーより 2 つの原子を選択し 次へ をクリックします 3 計算の実行 Execute ボタンを押すと計算が実行され CSV ファイルが作成されます 図 2 二体相関関数グラフ このグラフにより アシル基の酸素と水酸基の酸素では その周りにある水分子の状況が異なることがわかります emd 2 の体験版及び今回の連載記事の Web 版を以下の URL よりご覧いただけます http://www.emd2.jp/ こちらも 是非ご覧下さい 071101 学 01K