表 1. 農業用殺菌剤の作用機構による分類 1 FRAC コードリストより日本国既登録殺菌剤を抜粋 改変 作用機構作用点とコードグループ名化学グループ有効成分名耐性リスク FRAC A: 核酸合成 B: 有糸核分裂と細胞分裂 C: 呼吸 D: アミノ酸および蛋白質合成 E: シグナル伝達 A1:RN

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等 ) ジカルボキシイミド ( イプロジオン プロシミドン ) 等 上市後数年間で耐性菌が発生 防除効果が大幅に低下した事例のある殺菌剤を高リスクとしている DMI( トリアゾール等 ) アニリノピリミジン ( シプロジニル メパニピリム ) のように 一部の条件で防除効果が低下 または限定的に防除

平成9年 月 日

平成9年 月 日

平成9年 月 日

平成9年 月 日

平成9年 月 日

190号.indb

2. 小麦 ( 試料数 :46 検体 ) 分析試料 濃度範囲 アゾキシストロビン イミダクロプリド エトフェンプロックス クレソキシムメチル ジフルフェニカン

リンゴ黒星病、うどんこ病防除にサルバトーレME、フルーツセイバーが有効である

2. しゅんぎく ( 試料数 :60 検体 ) 分析試料 以上の結果 濃度範囲 基準値を越える アセタミプリド ~ アゾキシストロビン ~ イソキサチオン エマメクチン安息香

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P7-15(金子)

殺虫剤 殺菌剤 上段 : 又は 下段 : 10 倍値 ) ベンスルタップ 0.9 ホサロン ミルベメクチン 0.7 メタアルデヒド 8 メタフルミゾン 3.1 メトキシフェノジド 2.6 ヨウ化メチル ルフェヌロン レピメクチン 3 D-D(1,3-ジクロロプロペン ) 6

53_13

既登録農薬の再評価に係る優先度 (2018 年 12 月 1 日現在 ) 優先度 優先度 A (126) 有効成分名 1,3-ジクロロプロペン (D-D) 2,4-Dイソプロピルアミン塩 (2,4-PAイソプロピルアミン塩) 2,4-Dエチル (2,4-PAエチル) 2,4-Dジメチルアミン (2,

( ア ) 殺菌剤 を付した病害虫は 薬剤耐性もしくは抵抗性個体群が出現している ( 詳細は 24~ ページを参照 ) ( 小麦 : 殺菌 ) 毒魚処理濃度 量新性毒 ( ) は分類名 等性 眼紋病 赤さび病 褐色雪腐病 規 改訂 茎葉散布劇 A 他合成 ヘ ンソ イミタ ソ ール 1

表 1 種類及び品目数 分類検体数品目数内訳 ( カッコ内は検体数 ) 野菜 果実 生鮮 冷凍 計 214 生鮮 冷凍 乾燥 11 7 アーティチョーク (1) アスパラガス(17) インゲン(1) エダマメ(1) エンダイブ (3) オクラ(10

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

日本植物病理学会殺菌剤耐性菌研究会 2008 年 4 月 29 日公表 2014 年 6 月 18 日改訂 イネいもち病防除における QoI 剤及び MBI-D 剤耐性菌対策ガイドライン (1) QoI 剤及び MBI-D 剤の使用は最大で年 1 回とする また それぞれの薬剤の使用前あるいは使用後

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**************************************** 2017 年 4 月 29 日 日本植物病理学会殺菌剤耐性菌研究会 耐性菌対策のための DMI 剤使用ガイドライン 一般的な耐性菌対策 1. 薬剤防除だけに頼るのではなく 圃場や施設内を発病しにくい環境条件にする 1)

<4D F736F F D204E6F2E342D F28DDC91CF90AB8BDB82C982C282A282C482CC C668DDA94C5816A F315F372E646F63>

分析結果証明書 依頼 2016/04/07 25 エトフェンプロックス ND G14 26 エトフメセート ND G14 27 エトプロホス ND G14 28 エトベンザニド ND G14 29 エトリジアゾール ND G1

分析結果証明書依頼 2015/03/16 28 エトベンザニド ND G14 29 エトリジアゾール ND G14 30 エトリムホス ND G14 31 オキサジアゾン ND G14 32 オキサジキシル ND

分析結果証明書依頼 2015/09/16 28 エトベンザニド ND G14 29 エトリジアゾール ND G14 30 エトリムホス ND G14 31 オキサジアゾン ND G14 32

分析結果証明書依頼 2016/07/27 24 エトキシキン ND G14 25 エトフェンプロックス ND G14 26 エトフメセート ND G14 27 エトプロホス ND G14 28 エトベンザニド ND

合物の検査も行いましたが 全て不検出でした オ食品の苦情等 食品の苦情 5 件について 8 検体 242 項目の検査を実施しました 苦情の内容は 表 17 に示します (2) 家庭用品及び器具 容器包装の検査繊維製品に防しわ性 防縮性などの目的で ホルムアルデヒドを含む樹脂による加工が行われています

2 ブドウの病害虫

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表 1 検査対象 144 農薬 ( 平成 26 年度 ) GC 項目 :103 LC 項目 :41 EPN ジフェノコナゾール ビフェントリン フルミクロラックペンチル アゾキシストロビン テブチウロン アクリナトリン シフルトリン ピラクロホス プロシミドン イマザリル テブフェノジド アジンホス

CAA (カルボン酸アミド)系薬剤

一太郎 10/9/8 文書

0501●成分分類表

ml 水質管理目標設定項目 ( 農薬類 ) 目標 15 農薬類 混合内部標準液 コード No. 品 名 規格 容量 希望納入価格 ( 円 ) 種混合内部標準液 ( 各 100μg/mL ジクロロメタン溶液 ) 水質試験用 2mL 5A 14,000 混合成分 アントラセン-d

チャレンシ<3099>生こ<3099>みタ<3099>イエット2013.indd

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5-10 平成26年度に設定あるいは改正された農薬等残留基準について

Microsoft PowerPoint - 〇0331【残農】1 アンケート、対象食品

うどんこ病 黒星病 黒斑病 赤星病 胴枯病 白紋羽病 輪紋病 炭疽病 疫病 腐らん病 枝枯細菌病 心ニ腐セれナ症(シサ胴ビ枯ダ病ニ菌)使用倍率 使用量 ステロール生合成阻害 3 フェンブコナゾール水和剤 22% 5000~10000 倍,200~700リッ ト 5000~12000 倍,200~70

2 エクロメゾール ISO 名 菌 エトキシスルフロン ISO 名 草 エトフェンプロックス ISO 名 虫 エマメクチン安息香酸塩 ISO 名 虫 エトリジアゾール サンヤード ( 水 ) エトキシスルフロン グラッチェ ( 顆 水 ) 混 サンアタック( 水 ) エトフェンプロックス サニーフィ

キンセット水和剤 80 銅 20.0% F:M01(M) 無機 有機銅 60.0% F:M01(M) 有機銅 クプラビットホルテ 銅 73.5% F:M01(M) 無機 クプロシールド 銅 26.9% F:M01(M) 無機 クリーンカップ 銅 50.0% F:M01(M) 無機 ハ チルスス フ

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水質分布表

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Microsoft Word - 別紙2_H4課長通知改正新旧 _1645rev0522_1600_REV1739池_rev0611_1340佐

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

表 1 測定対象農薬 GC-MS 農薬測定項目 179 農薬 LC-MS 農薬測定項目 72 農薬 1 BHC 73 チフルザミド 145 プロピコナゾール 1 アジンホスメチル 2 DDT 74 テクナゼン 146 プロピザミド 2 アゾキシストロビン 3 EPN 75 テトラコナゾール 147

抵抗性遺伝子によりつくられた蛋白質が 細胞内に留まる例も知られています その場 合 細胞内の抵抗性遺伝子産物と細胞膜を貫通する植物因子が結合した状態で存在し 細胞膜貫通因子で病原菌のavr 蛋白質を認識します Avr 蛋白質が認識されると 抵抗性遺伝子産物と細胞膜貫通因子は解離し 遊離した抵抗性遺伝

細胞の構造

参考 < これまでの合同会合における検討経緯 > 1 第 1 回合同会合 ( 平成 15 年 1 月 21 日 ) 了承事項 1 平成 14 年末に都道府県及びインターネットを通じて行った調査で情報提供のあった資材のうち 食酢 重曹 及び 天敵 ( 使用される場所の周辺で採取されたもの ) の 3

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1 編 / 生物の特徴 1 章 / 生物の共通性 1 生物の共通性 教科書 p.8 ~ 11 1 生物の特徴 (p.8 ~ 9) 1 地球上のすべての生物には, 次のような共通の特徴がある 生物は,a( 生物は,b( 生物は,c( ) で囲まれた細胞からなっている ) を遺伝情報として用いている )

は慣用名 70 エマメクチン安息香酸塩 71 塩化第二鉄 8.0E+3 8, オクタノール 75 カドミウム及びその化合物 76 ε-カプロラクタム 79 2,6-キシレノール 80 キシレン 9.9E+4 3.7E+5 1.0E+5 6.4E+4 82 銀及びその水溶性化合物

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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ドリル No.6 Class No. Name 6.1 タンパク質と核酸を構成するおもな元素について述べ, 比較しなさい 6.2 糖質と脂質を構成するおもな元素について, 比較しなさい 6.3 リン (P) の生体内での役割について述べなさい 6.4 生物には, 表 1 に記した微量元素の他に, ど

セーレングループ環境データ集 2018

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) 第八条第一項第三号の規定に基づき法第二条第二項各号又は第三項各号のいずれにも該当しな いと認められる化学物質その他の同条第五項に規定する評価を行うことが必要と認められないものとして厚生労働大臣経済産業大臣及び環境大臣が指定する化学物質は次の表の左欄に掲げる化学物 質の分類ごとにそれぞれ同表の右欄

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

3 農薬類検査 本項は 管理目標設定項目のうち農薬類の詳細について示すものです (1) 検査期日 年 2 回 ( 散布時期に合わせた 6 月及び 9 月 ) (2) 検査項目と方法 各農薬類 109 項目 : 水質基準に関する省令の制定及び水道法施行規則の一部改正等並びに水道水質管理における留意事項

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社団法人日本果汁協会 認定業務規程

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保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

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(4) 薬剤耐性菌の特性解析に関する研究薬剤耐性菌の特性解析に関する知見を収集するため 以下の研究を実施する 1 家畜への抗菌性物質の使用と耐性菌の出現に明確な関連性がない家畜集団における薬剤耐性菌の出現又はこれが維持されるメカニズムについての研究 2 食品中における薬剤耐性菌の生残性や増殖性等の生

ヘ ンチオヒ ラト 50.0% ( ハ ーミュータ ク ラス ) ( ヘ ント ク ラス ) テ ット スホ ット病 ガイア顆粒水和剤 ( イエローハ ッチ ) イミノクタシ ン酢酸塩 5.0% 芝 ( ハ ーミュータ ク ラス ) ネクロティックリンク スホ ット病 カシマン液剤 芝 ヘルミントス

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84 グリオキサール 85 グルタルアルデヒド クレゾール 0 87 クロム及び3 価クロム化合物 88 6 価クロム化合物 0 89 クロロアニリン 90 アトラジン シアナジン 92 トルフェンピラド 93 メトラクロール 塩化ビニル 95 フルアジ

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3-クロロ-N-(3-クロロ -5-トリフルオロメチル-2-ピリジ 第一種 ル )-アルファ, アルファ, アルファ -トリフルオロ 2,6-ジニ トロ -パラートルイジン( 別名フルアジナム ) 第一種 第一種


Transcription:

FRAC による農業用殺菌剤の国際分類 Japan FRAC 代表田辺憲太郎 Kentaro Tanabe 1. はじめに 殺菌剤耐性菌の発生に備える事前対策として 同 系統薬剤を偏って使用しないようにすること 異な る系統の薬剤を輪番使用すること 異なる系統の薬 剤を配合している混合剤を使用することが有用であ る そのためには 作用機構と交差耐性による信頼 の高い殺菌剤の系統分類が不可欠である 欧州の 農業化学品製造会社の殺菌剤研究員 専門家を中 心に構成する組織 Fungicide Resistance Action Committee (FRAC) は 耐性リスクのある殺菌剤 の効果持続と耐性菌による作物被害軽減を目的とし て 殺菌剤耐性管理ガイドラインを提供している FRAC の活動の主体は 複数の製造会社が高耐性 リスクの同系統薬剤を保有する場合に耐性リスク分 析 共通使用ガイドラインの作成を目的として設置 される作業部会活動である 2012 年現在 アニリノ ピリミジン アザナフタレン バナナ カルボン酸 アミド ステロール生合成阻害剤 (DMI) コハク 酸脱水素酵素阻害剤 (SDHI) Qo 阻害剤の 7 部会 において 感受性モニタリング結果を共有 結果の 概要を公表 推薦使用方法を作成 改訂している 2.FRAC コードリストにおける殺菌剤の分類 FRAC は 世界の主要殺菌剤を網羅した FRAC コードリストを作成 配布している 分類は作用機 構別となっており 原則として交差耐性のある薬剤 系統ごとに固有のFRAC コードを指定している 作用点が明確になっているグループには市場導入順に1 ~ 46の番号 抵抗性誘導剤にはP 未分類剤にはNC 多作用点接触剤にはM1 ~ 9を割り当て ている 作用点が不明な薬剤には U 番号を一旦割り当て 作用点または交差耐性関係が判明した後に新しいFRAC コードが確定する 一度使用したU 番号は混乱を避けるためその後重複使用しない FRACの日本支部である Japan FRACが作成した日本国内登録殺菌剤を抜粋したコードリストが表 1である 最新版は Japan FRAC ホームページ (http:// www.jfrac.com/) 国際版は FRAC ホームページ (http://www.frac.info/frac/index.htm) において入手可能である 3. 殺菌剤の耐性リスク FRAC は過去の耐性菌発生事例を基に 殺菌剤の耐性リスクを表 2の基準に従って低 ~ 高に分類 FRAC コードリストにもそれを掲載している 高リスク薬剤としては作用機構が単一であるものが多いのに対して 低リスク薬剤には多作用点阻害剤が多い 耐性菌発生リスク低減のためには 高リスク薬剤の使用を減らして 有効な低リスク薬剤を多く使用したほうがよい しかし 高リスク薬剤の中には近年開発されたものが多く含まれており 防除効果 製剤の物理性等使用者が直感できる利点だけでなく 人畜 環境毒性等に対する負荷が低減している等の有用性もあるので 選定にあたってはバランスを考慮する必要がある FRAC のガイドラインにおいては 殺菌剤を多数回散布する作物における 1 作期あたりの同系統薬剤の使用回数について 殺菌剤総使用回数の 33 50% 以内にとどめるように推奨しているケースが多い もちろんこの制限一杯の使用を推奨しているわけではないので なるべく多くの系統の薬剤を選抜するべきである 7 農薬時代第 194 号 (2013)

表 1. 農業用殺菌剤の作用機構による分類 1 FRAC コードリストより日本国既登録殺菌剤を抜粋 改変 作用機構作用点とコードグループ名化学グループ有効成分名耐性リスク FRAC A: 核酸合成 B: 有糸核分裂と細胞分裂 C: 呼吸 D: アミノ酸および蛋白質合成 E: シグナル伝達 A1:RNA ポリメラーゼ Ⅰ PA 殺菌剤 ( フェニルアミド ) アシルアラニン A3:DNA / RNA 生合成 ( 提案中 ) メタラキシル メタラキシル M 高 4 芳香族ヘテロ環イソキサゾールヒドロキシイソキサゾール耐性菌未発生 32 A4:DNA トポイソメラーゼタイプ Ⅱ カルボン酸カルボン酸オキソリニック酸不明 31 ( ジャイレース ) B1:ß- チューブリン重合阻害 MBC 殺菌剤 ( メチルベンゾイミダゾールカーバメート ) ベンゾイミダゾールベノミルチオファネートメチル 高 1 B2:ß- チューブリン重合阻害 N - フェニルカーバメート N - フェニルカーバメートジエトフェンカルブ高 10 B4: 細胞分裂 ( 提案中 ) フェニルウレアフェニルウレアペンシクロン耐性菌未発生 20 B5: スペクトリン様蛋白質の非局在化ベンズアミドピリジニルメチルベンズアミドフルオピコリド耐性菌未発生 43 C1: 複合体 Ⅰ NADH 酸化還元酵素 C2: 複合体 Ⅱ コハク酸脱水素酵素 ピリミジンアミンピリミジンアミドジフルメトリム耐性菌未発生 ピラゾールカルボキサミドピラゾールカルボキサミドトルフェンピラド耐性菌未発生 SDHI ( コハク酸脱水素酵素阻害剤 ) C3: 複合体 Ⅲ QoI- 殺菌剤 (Qo 阻害剤 ) ユビキノール還元酵素 Qo 部位 C4: 複合体 Ⅲ ユビキノール還元酵素 Qi 部位 QiI- 殺菌剤 (Qi 阻害剤 ) フェニルベンズアミド フルトラニル メプロニル チアゾールカルボキサミドチフルザミド ピラゾールカルボキサミドフラメトピル ピリジンカルボキサミド メトキシアクリレート オキシイミノ酢酸 オキシイミノアセトアミド オキサゾリジン - ジオン イミダゾリノン ベンジルカーバメート シアノイミダゾール ペンチオピラド ボスカリド アゾキシストロビン ピラクロストロビン クレソキシムメチル トリフロキシストロビン メトミノストロビン オリサストロビン ファモキサドン フェンアミドン ピリベンカルブ シアゾファミド スルファモイルトリアゾールアミスルブロム 39 中 ~ 高 7 高 11 中 ~ 高と推定 21 C5: 酸化的リン酸化の脱共役 2,6- ジニトロアニリンフルアジナム低 29 D1: メチオニン生合成 ( 提案中 ) AP 殺菌剤 ( アニリノピリミジン ) アニリノピリミジン シプロジニル メパニピリム 中 9 D3: 蛋白質合成へキソピラノシル抗生物質へキソピラノシル抗生物質カスガマイシン中 24 D4: 蛋白質合成グルコピラノシル抗生物質グルコピラノシル抗生物質ストレプトマイシン高 25 D5: 蛋白質合成テトラサイクリン抗生物質テトラサイクリン抗生物質オキシテトラサイクリン高 41 E2: 浸透圧シグナル伝達における MAP ヒスチジンキナーゼ (os-2, HOG1) E3: 浸透圧シグナル伝達における MAP ヒスチジンキナーゼ (os-1, Daf1) PP 殺菌剤 ( フェニルピロール ) フェニルピロールフルジオキソニル低 ~ 中 12 ジカルボキシイミド ジカルボキシイミド イプロジオン プロシミドン 中 ~ 高 2 8

作用機構作用点とコードグループ名化学グループ有効成分名耐性リスク FRAC F: 脂質および細胞膜合成 F2: りん脂質生合成 メチルトランス - フェラーゼ阻害 F3: 脂質の過酸化 ( 提案中 ) ホスホロチオレート系 ホスホロチオレート系 EDDP ( エディフェンホス ) IBP( イプロベンホス ) ジチオランジチオランイソプロチオラン AH 殺菌剤 ( 芳香族炭化水素 ) 芳香族炭化水素 クロロネブ トルクロホスメチル 複素芳香族 1,2,4- チアジアゾールエクロメゾール 低 ~ 中 6 低 ~ 中 14 F4: 細胞膜透過性 脂肪酸 ( 提案中 ) カーバメートカーバメートプロパモカルブ塩酸塩低 ~ 中 28 F6: 病原菌細胞膜の微生物撹乱微生物 (Bacillus sp.) Bacillus subtilis G1 : ステロール生合成における C14 位の脱メチル化阻害 DMI 殺菌剤 ( 脱メチル化阻害剤 ) (SBI : クラス Ⅰ) ピペラジン ピリミジン イミダゾール バチルス ズブチリス QST713 株 トリホリン フェナリモル オキスポコナゾールフマル酸塩 ペフラゾエート プロクロラズ トリフルミゾール ビテルタノール シプロコナゾール ジフェノコナゾール フェンブコナゾール 低 44 中 3 ヘキサコナゾール G : 細胞膜のステ ロール生合成 イミベンコナゾール イプコナゾール トリアゾール メトコナゾール ミクロブタニル プロピコナゾール シメコナゾール テブコナゾール テトラコナゾール トリアジメホン G3: ステロール生合成系のC4 位脱 メチル化における 3-ケト還元酵素 ヒドロキシアニリド (SBI : クラス Ⅲ ) ヒドロキシアニリド フェンヘキサミド 低 中 17 G4 : ステロール生合成系のスクワレ SBI クラス Ⅳ ンエポキシダーゼ チオカーバメート ピリブチカルブ 耐性菌未発生 18 H3: トレハロース イノシトール生合成グルコピラノシル抗生物質 グルコピラノシル抗生物質バリダマイシン 耐性菌未発生 26 H4 : キチン合成酵素 ポリオキシン ペプチジルピリジンヌクレオシドポリオキシン 中 19 H : 細胞壁生合成 桂皮酸アミド ジメトモルフ H5 : セルロース合成酵素 CAA 殺菌剤 ( カルボン酸アミド ) バリンアミドカーバメートベンチアバリカルブイ ソプロピル 低 中 40 I : 細胞壁の メラニン合成 I1 : メラニン生合成の還元酵素 I2 : メラニン生合成の脱水酵素 MBI-R MBI-D マンデル酸アミド マンジプロパミド イソベンゾフラノン フサライド ピロロキノリノン ピロキロン トリアゾロベンゾチアゾールトリシクラゾール シクロプロパン -カルボキサミドカルプロパミド カルボキサミド ジクロシメット プロピオンアミド フェノキサニル 耐性菌未発生 16.1 中 16.2 9 農薬時代第 194 号 (2013)

作用機構作用点とコードグループ名化学グループ有効成分名耐性リスク FRAC P : 宿主植物の 抵抗性誘導 U: 不明 P2 ベンゾイソチアゾールベンゾイソチアゾールプロベナゾール P3 チアジアゾールカルボキサミドチアジアゾールカルボキサミドチアジニル イソチアニル 耐性菌未発生 不明シアノアセトアミド - オキシムシアノアセトアミド - オキシムシモキサニル低 中 27 不明ホスホナートエチルホスホナートホセチル低 33 不明ベンゼン - スルホン酸ベンゼン - スルホン酸フルスルファミド耐性菌未発生 36 不明フェニルアセトアミドフェニルアセトアミドシフルフェナミド うどんこ病耐性菌発生 耐性菌対策が必要 不明ピリミジノンヒドラゾンピリミジノンヒドラゾンフェリムゾン耐性菌未発生 U14 未分類不明種々種々 M : 多作用点 接触活性 多作用点接触活性 無機化合物無機化合物銅 マシン油 有機油 炭酸水素ナトリウム天然物起源 耐性菌未発生 無機化合物無機化合物硫黄 M2 ジチオカーバメート ジチオカーバメート マンゼブ マンネブ プロピネブ チウラム ジラム低フタルイミドフタルイミドキャプタン M4 クロロニトリル ( フタロニトリル ) グアニジン クロロニトリル ( フタロニトリル ) グアニジン TPN イミノクタジン酢酸塩 イミノクタジンアルベシル酸塩 キノン ( アントラキノン ) キノン ( アントラキノン ) ジチアノン M9 詳細については http://www.frac.info/frac/index.htm の 'Publications' 内 'FRAC Code List' を参照してください 本リストの最新版は Japan FRAC ホームページ (http://www.jfrac.com/) に掲載しています P U6 NC M1 M3 M5 M7 表 2. 殺菌剤の耐性リスクと系統例 耐性リスク定義系統 有効成分 ( 例 ) 高 上市後数年で 一定の地域において 1 以上の病原菌に対する耐性が広範囲に発生 防除効果が大幅に低下した ベンゾイミダゾール ジカルボキシイミド フェミニルアミド Qo 阻害剤 中 一部の条件で防除効果が低下した または 限定的に防除効果が低下した または 圃場から耐性菌を分離した事例がある アニリノピリミジン カルボン酸アミド DMI アザナフタレン 低 FRAC Monoqraph 2 より要約 長期間の使用において 耐性菌が発生していない または極めてまれにしか出現しない TPN 銅 ジチオカーバメート ホセチル ピロキロン プロベナゾール 硫黄 トリシクラゾール 10

4. 国内における系統別殺菌剤出荷状況 FRACコードにより国内殺菌剤の出荷金額 ( 農薬要覧 2011 参照 ) を系統別に分類 出荷率を図 1に示した 最大のグループはストロビルリンを含む Qo 阻害剤であり トリアゾール系を主とするDMI が第 2 位となっており 両者で22% を占める 一方 2009 年の世界の系統別販売は DMI が第 1 位 (32%) Qo 阻害剤が第 2 位 (22%) となっており この 2 系 統で約 54% と占有率が高い (Kuck) これはこの 2 系統が 国際的な主要作物である麦類 ブドウ等に広く使用されているためと推定している 日本においてはイネいもち病防除剤として普及している抵抗性誘導剤 MBI R( メラニン生合成の還元酵素阻害剤 ) が上位となっているのが特徴である ジチオカーバメート 銅 その他に含まれる多作用点阻害剤の出荷率は合計すると約 20% となり 多様な系統の殺菌剤を含んではいるが最大のグループとなる 5. おわりに以上のとおりFRAC コードリストは体系防除における殺菌剤の選抜検討にあたり有用である ただし 同系統であっても 各薬剤の耐性度 防除効果に大差がある場合もある 特定の系統に属する薬剤で耐性菌が発生 防除効果が低減しても その系統に属する他の薬剤が有効な場合もあるので 詳細については製造 販売会社に確認頂きたい 参考文献 Kuck, K., Leadbeater, A., and Gisi, U. (2012) FRAC Mode of Action Classification and Resistance Risk of Fungicides. Modern Crop Protection Compounds, Second Edition. FRAC ホームページ 農薬要覧 2011 11 農薬時代第 194 号 (2013)