観点これまで今後経営の前提雇用人員過剰人手不足人件費 前回は 定年後再雇用者の取り扱いについて 世の中の変化を整理しながら今後の方針を探りました 図表 1 のように 雇用環境が バブル崩壊後の 人員過剰 人件費抑制 から 人手不足 処遇改善 に大きく変化していることを踏まえることがポイントでしたね これまでは コスト削減手法の一つとし て賃金を抑え 評価も簡略化することが主流でしたが 今後は高齢者も貴重な戦力であると位置づけ 仕事に応じて適切な賃金を支給し 評価を行って報酬に反映する方針が浮かび上がりました 今回から この方針にそって処遇を組み立てる方法を考えていきたいと思います 図表 1: 定年後再雇用に対する基本的な考え方 会社利益を圧縮するコストなので 人件費を抑制する 付加価値を産む人材への投資であるとともに 消費者の購買力を高めるために 処遇を改善する 定年後再雇用に対する方針 法的な雇用義務を最低限満たしつつ 非正規化によるコスト削減の一つに位置づける 公的給付を含めた収入額や世間動向を見ながら 公序良俗に反しない範囲で報酬を抑制する 評価はせず ( 又は略式で行い ) 報酬改定もしない 貴重な戦力と位置づけ 本人の事情に応じて活躍してもらうために納得度の高い処遇を行う 職務の内容や人材活用の仕組みに応じて 正社員とバランスのとれた報酬を支払う 正社員と同じように評価して報酬に反映する 42 先見労務管理 2017.7.25
1 定年後再雇用者の取り扱いに必要なルール具体論に入る前に 検討 整備が必要な項目を整理しておきます ( ア ) 報酬の基準賃金や賞与を決める基準ですが 今回は最も重要な基本給に絞って考えます 正社員の基本給表が軸になりますが 定年後再雇用 という状況を踏まえた賃金表を設計していきます ( イ ) 基本給の改定基準評価に応じて基本給を改定する方法です 定年後再雇用者向けの賃金表に適した手法を紹介します ( ウ ) 再雇用時賃金の決定ルール 定年後再雇用は 一旦 退職した人を改めて雇い入れるわけですので 新たに再雇用時賃金を決めなければなりません そのためのルールを 正社員や他の就労形態との整合性を保ちながら決めていきます では ( ア )( イ )( ウ ) の順で詳しく見ていきましょう なおここからは 話を具体的にするために 前々回 ( 連載第 23 回 ) まで見てきた X 社を想定して進めていきます 図表 2 は これまで確認してきた X 社の概要です 図表 2:X 社の概要正社員 ( 無期契約 ), 契約社員 ( 有期契約 ), パートタイマー ( 有期契約 ) 就労形態 正社員には 全国社員と勤務地限定社員がある 正社員:Ⅰ 等級 ( 一般 ),Ⅱ 等級 ( 担当 ),Ⅲ 等級 ( 主任 ),Ⅳ 等級 ( 課長 ), Ⅴ 等級 ( 部長 ) 勤務地限定社員はⅠ 等級からⅢ 等級に限る役割責任 契約社員:K1 等級,K2 等級 それぞれ 正社員のⅠ 等級 Ⅱ 等級と同じ パートタイマー:P1 等級 ( アシスタント ),P2 等級 P2 等級は正社員のⅠ 等級と同じ 人材活用上の制約賃金の支払い方残業の有無 勤務地限定社員: 勤務地限定 契約社員 パートタイマー: 勤務地限定, 職種限定 正社員 契約社員: 月給制 パートタイマー: 時給制いずれの就労形態も 業務の繁忙に応じて残業をさせることがある 有期契約社員契約社員 パートタイマーは 無期転換後はそれぞれ 職種 勤務地限定社員の無期契約転 ( フルタイム ) 職種 勤務地限定社員( パートタイム ) として取り扱う換後の扱い 基本給の仕組み 基本給は 全ての就労形態をカバーする ランク型賃金表 ( 1) で定めている ランク型賃金表は 17 ランク 136 号という構造で 役割責任と人材活用上の制約に応じて適用ランクを定めている 基本給改定は 賃金ランクと評価レートの組み合わせで改定号数を決める 段階接近法 ( 2) で行っている 1: ランク型賃金表 は株式会社プライムコンサルタントの登録商標です 2: 段階接近法 は株式会社プライムコンサルタントの登録商標です 2017.7.25 先見労務管理 43
2 報酬の基準 ( 基本給表 ) ⑴ 定年後再雇用者の働き方を整理する報酬の基準を決めるには 定年後再雇用者 ( 以下 再雇用者 と略します ) にどのような働き方をしてもらうかを把握する必要があります そこでまず X 社の再雇用者について 今後のあり方をイメージしながら整理してみます 1 役割責任は S1 等級から S3 等級とするいろいろな等級の正社員が定年を迎えるわけですが ( 3) X 社では組織の新陳代謝や本人の体力 気力を考慮して 再雇用後は管理職を任せないようにすることとしました ( 4) そうすると役割責任はⅠ 等級からⅢ 等級となりますが 正社員と区別して S1 等級から S3 等級と呼ぶことにします 3: 無期契約転換後の契約社員 パートタイマーの定年後再雇用もありますが 話を単純化するために ここでは正社員に絞って解説します 本解説を応用すれば 無期転換社員についても無理のない取り扱いができます 4: もし 余人をもって代えがたい ような幹部人材に引き続き管理職を任せたいという場合は 勤務延長 ( 退職扱いせずに正社員としての雇用を続ける ) で対応すればよいでしょう 2 人材活用上の制約は 職種 勤務地限定とする再雇用者の雇用期間は65 歳までの5 年間ですので X 社では職種や勤務地の変更はせずに 再雇用時の仕事に専念してもらうことにしました ( 注 : 再雇用者についても職種を柔軟に変更したい場合は 以下の記述を勤務地限定社員に準じて読み換えてください ) 3 勤務時間は フルタイム 残業あり とし 月給制で支払う再雇用者も貴重な戦力ですので 正社員と同じように働いてもらうために 原則として フルタイム勤務 月給制で残業もありとするのが良いでしょう なお 本人が希望すれば短時間勤務も選べるようにしておくことも大切です この場合の賃金は時間割りで支払えばよいでしょう さて 賃金を決める際の拠り所は 職務の内容 と 人材活用の仕組み でした それぞれに対応するのは前述の1と2ですので これらを他の就労形態とともに一覧にすると 図表 3 のようになります この図から 再雇用者の役割責任の範囲は 勤務地限定社員 と同じであり 人材活用の仕組みは契約社員などと同じであることがわかります 再雇用者の役割責任を整理するにあたって 正社員の等級定義を準用することが重要なポイントです もし 再雇用者の仕事の定義を全く別次元で作ってしまうと 他の就労形態との比較が煩雑になり 処遇のバランスが説明しにくくなりますので注意して下さい ⑵ 定年後再雇用者の適用ランクと評価レートを定めるこれで基本給表を設定する準備が整いました もうお察しの通り 新たに賃金表を作るのではなく 既存のランク型賃金表の上で基本給を決めると他の就労形態とも比較しやすくなります そのためには 役割責任と人材活用の仕 44 先見労務管理 2017.7.25
階層等級役割責任 [ 職位 ( 例 )] 就労形態管理階定年後再雇用社員社員(フルタイム)Ⅰ 職種 勤務地限定務地限定社員契約社員実務階パート社ートタイム)P1 補助職 [ アシスタント ] 限定社員(パ職種 勤務地組みに応じて適用ランクを決めければなりません 再雇用者は 勤務地限定社員に 職種限定 という制約が加わった形ですので 勤務地限定社員よりも 1 ランクずつ下げればよいことになります これに伴って 再雇用者の評価レートは 勤務地限定社員より 1 点ずつ低くします 図表 4 は 再雇用者の適用ランクと評価レートを 他の就労形態とともに一覧にしたものです 再雇用者について確認すると S1 等級は 3 ランクから 7 ランク ( 評価レートは D 3 点から S 7 点 ) S2 は 5 ランク 9 ランク (D 5 点 S 9 点 ) S3 は 7 ランク 11 ランク (D 7 点 S 11 点 ) となり 勤務地限定社員よりも 1 つずつ低くなっていますね ⑶ 定年後再雇用者に適した基本給表を設定する先ほど 既存のランク型賃金表に基づいて基本給を決めると言いましたが 実際の賃金表は再雇用者向けに一工夫したものを 用意します 図表 5 が今回の X 社における事例です 図表 5-1が基本給表ですが 金額が全部で 9 種類しかない 非常にシンプルな形をしています 実はこれらの金額は 元のランク型賃金表の3ランクから11ランクのトップ金額 (3T 4T 11T) だけを抜き出したものです この表で 号数を 24 号 32 号のように飛び飛びの値とし ランクを T と表示しているのは 元の賃金表との対応が分かるようにするためです なお 図表 4 の左側の基本給表の中に 月額 ( 定年後再雇用 ) の列を追記しました これで 元の基本給表との関係がはっきり分かると思います 図表 5-2は 等級ごとの評価の SABCD と適用ランク 評価レートの対応を示していますが これは図表 4 と同じ内容になっています 1と2から分かるように 再雇用者の基本給は 評価と金額が 1 対 1 で対応するように工夫しました 例えば S2 等級の C 評価は 20 万 7760 円 (6T) B は 22 万 5410 図表 3:X 社の役割等級と人事活用の仕組み ( 定年後再雇用社員を含めて一覧にした例 ) 1 役割等級 2 人材活用の仕組み Ⅴ 部門経営責任職 [ 部長 ] 層全国勤社員層Ⅳ 業務管理責任職業務統括専門職 業務管理 [ 課長 ] スタッフ [ スペシャリスト ] Ⅲ/S3 推進 指導職 [ 主任 ] Ⅱ /K2 担当職 [ 担当 ] /S2 /K1 一般職 [ 一般 ] /S1/P2 員勤務地の変更の有無 職種の変更の有無 2017.7.25 先見労務管理 45
図表 4:X 社の基本給表の全体構成 ( 全国社員 勤務地限定社員 契約社員 パート社員 定年後再雇用の適用ランクの設定例 ) 号数ランク 136 基本給表 月額 17 526,270 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 1 165,000 130,760 月額 ( 定年後時給再雇用 ) 役割責任 P1 等級 P2 等級 K1 等級 K2 等級 S1 等級 S2 等級 S3 等級 [ アシスタント ] [ 一般 ] [ 一般 ] [ 担当 ] [ 一般 ] [ 担当 ] [ 主任 ] パート社員契約社員定年後再雇用社員 / 職種 勤務地限定 / 職種 勤務地限定 / 職種 勤務地限定社員 ( フル社員 ( パートタイム ) 社員 ( フルタイム ) タイム ) Ⅰ 等級 [ 一般 ] Ⅱ 等級 [ 担当 ] 正社員 Ⅲ 等級 [ 主任 ] Ⅳ 等級 Ⅴ 等級 [ 課長 ] [ 部長 ] S=17 点 A=16 点 S=15 点 B=15 点 A=14 点 C=14 点 S=13 点 B=13 点 D=13 点 S=12 点 A=12 点 C=12 点 314,510 1,966 S=11 点 S=11 点 A=11 点 B=11 点 D=11 点 289,110 A=10 点 S=10 点 A=10 点 B=10 点 C=10 点 265,920 S=9 点 S=9 点 B=9 点 S=9 点 A=9 点 B=9 点 C=9 点 D=9 点 244,720 A=8 点 A=8 点 C=8 点 S=8 点 A=8 点 B=8 点 C=8 点 D=8 点 225,410 S=7 点 S=7 点 B=7 点 S=7 点 B=7 点 D=7 点 A=7 点 B=7 点 C=7 点 D=7 点 207,760 A=6 点 A=6 点 C=6 点 A=6 点 C=6 点 B=6 点 C=6 点 D=6 点 191,620 S=5 点 B=5 点 B=5 点 D=5 点 B=5 点 D=5 点 C=5 点 D=5 点 176,900 A=4 点 C=4 点 C=4 点 C=4 点 D=4 点全国社員 1,032 163,440 818 B=3 点 D=3 点 D=3 点 D=3 点 C=2 点 D=1 点 勤務地限定社員 ( 注 ) 表中の点数 (1 点 17 点 ) は対応する評価レートを表す Ⅰ 等級 Ⅴ 等級のランクは 全国社員にはグレーの範囲 勤務地限定社員には白地の範囲を適用する パート社員 契約社員の欄の 職種 勤務地限定社員 は 労働契約法第 18 条に基づく無期転換ルールの適用後を示す 図表 5:X 社の定年後再雇用社員の基本給表 ( 再雇用者向けの短期決済型賃金表の設定例 ) 1 基本給表 2 適用ランク 3 金額差 号数 ランク 月額 時給 S1 等級 S2 等級 S3 等級 一つ下のランクとの差額 24 3T 163,440 1,022 D=3 点 月額 時給 32 4T 176,900 1,106 C=4 点 13,460 84 40 5T 191,620 1,198 B=5 点 D=5 点 14,720 92 48 6T 207,760 1,299 A=6 点 C=6 点 16,140 101 56 7T 225,410 1,409 S=7 点 B=7 点 D=7 点 17,650 110 64 8T 244,720 1,530 A=8 点 C=8 点 19,310 121 72 9T 265,920 1,662 S=9 点 B=9 点 21,200 132 80 10T 289,110 1,807 A=10 点 23,190 145 88 11T 314,510 1,966 S=11 点 25,400 159 ( 注 )1の号数 ランクは 正社員の基本給表の号数 ランクと一致している 2の点数は 対応する評価レートを示す 46 先見労務管理 2017.7.25
円 (7T) A は 24 万 4720 円 (8T) というような具合です したがって 元の長い賃金表のように 同じ B 評価でも 6 ランクや 8 ランクなどさまざまなランクに位置づいているということはありません 再雇用者の基本給をこのように決めるのは 5 年間の雇用期間の中で評価に応じた金額を実現するためです もし 元の賃金表と同じように たくさんの号俸の中で段階的に決めていくやり方をしていては 評価に応じた金額に達する前に雇用期間満了ということになってしまい 働く人の張り合いが限定的になってしまいます 3 基本給の改定基準基本給の改定は極めて簡単です 毎年 評価レートと同じランクのトップ金額に合わせる いわゆる 洗い替え方式 を使います そうすると 例えば S2 等級の再雇用者の基本給は 再雇用時には 20 万 7760 円 (6T) だったとしても 翌年 B 評価を取って 22 万 5410 円 (7T) に上がり 2 年後は A 評価で 24 万 4720 円 (8T) に上がり さらに 3 年後は B 評価で再び 22 万 5410 円 (7T) に下がるというように 評価結果に応じて大きく変化します 図表 5-3は 隣り合うランクの金額差の一覧です これを先の例に当てはめると 翌年 Bで1 万 7650 円 2 年後はAで1 万 9310 円昇給し 3 年後は B で 1 万 9310 円ダウンするというようになります 60 歳までの正社員には緩やかな号俸改定 ( 中期決済 ) を行うこととは対照的に 評価に応じたメリハリがつく短期決済型の改定方法なのです このようにすることで 雇用期間が限られた再雇用者にも良い評価を取ろうという動機が生まれ 適度な緊張感を持って働いてもらうことができます また 再雇用時の賃金が定年時より大きく下がった人でも 頑張り次第で大きく挽回できる可能性があり 張り合いを感じてもらえるでしょう ここまで再雇用者用の基本給表と改定基準を具体的に見てきました 次の課題は 実際に再雇用時賃金をどのように決めるかですが これについては次回 詳しく解説します 次回はさらに これまで確認してきた多様な就労形態に対する基本給の決め方をおさらいしたいと思います たなか ひろし 1966 年生まれ 広島大学理学部卒業後 東ソー にて研究開発 技術営業に従事 英語教育業を経て 2006 年 プライムコンサルタントに入社 幅広い業種で会社と社員の良い絆づくりを目指したコンサルティングを展開する 中小企業診断士 日本人材マネジメント協会会員 ゴールドラット スクール認定トレーナー (TOC Management Tools Basic) TOC-ICO 認定 Jonah 2017.7.25 先見労務管理 47