平成20年度 調査報告書

Similar documents
がん検診 受診率

H19年度

将来都市計画道路ネットワークの検証結果

胃がん検診要精検率 ( 平成 25 年度, 男女計 ) 東京都 区部 千代田区 中央区 港区 新宿区 文京区 台東区 墨田区 江東区 品川区 目黒区 大田区 世田谷区 渋谷区 中野区 杉並区 豊島区 北区 荒川区 板橋区 練馬区 足立区 葛飾区 江戸川区 0% 10% 20% 30% 40% 2.5


歳出 八王子市 ( 単位 : 千円 %) 区 分 平成 19 年度平成 20 年度平成 21 年度平成 22 年度平成 23 年度決算額構成比決算額構成比決算額構成比決算額構成比決算額構成比 義 人件費 32,494, ,612, ,662,

PRESS RELEASE (2017/1/18) 染井吉野 など サクラ種間雑種の親種の組み合わせによる正しい学名を確立 ポイント 4 つの種間雑種の学名を エドヒガン等の親種の組み合わせで整理しました Cerasus yedoensis という学名は エドヒガンとオオシマザクラの種間雑種名として

10 年間における 26 市の軽自動車税の状況です 各自治体における決算額をはじめ, 増減率, 市税全体に占める割合をみることができます (2)10 か年の状況 市名 年度 単位 : 百万円 1 八王子市 町 田 市

10 年間における 26 市の軽自動車税の状況です 各自治体における決算額をはじめ, 増減率, 市税全体に占める割合をみることができます (2) 10 か年の状況 市名 年度 単位 : 百万円 1 八王子市 町 田

推計方法


-106-

地域別の一般世帯数における平成 22 年から平成 までの今後 25 年間の増減率をみると 区部では北区を除くすべての地域で増加となり 多摩 島しょにおいては 八王子市をはじめとする 18 地域で増加し 青梅市や福生市などその他の地域では減少することが見込まれる ( 図 1-2) 図 1-2 地域別一

図 1 昼間人口 島 奥多摩町 檜原村 青梅市清瀬市瑞穂町板橋区足立区東村山市北区羽村市武蔵村山市東久留米市葛飾区日の出町東大和市練馬区荒川区福生市西東京市豊島区あきる野市小平市文京区墨田区立川市中野区台東区昭島市国分寺市武蔵野市小金井市杉並区新宿区千代田区江戸川区国立市三鷹市渋谷区府中市中央区八王

平成 23 年度普通会計 2 市順位比較 1 ( 人口一人当たり等 ) ( 速報のため未確定値 ) 項目人口密度歳入額歳出額市税額歳入中の市税割合市税の徴収率市民税個人分順位 ( 人 /km2) ( 千円 ) ( 千円 ) ( 千円 ) (%) (%) ( 円 ) 順位 1 12,7 武蔵野 442

[ 第 2 部健康づくりのための取組の実践状況等 ] ー 59 ー

平成 28 年 7 月 10 日執行 平成 28 年 7 月 11 日 8 時 50 分確定 たかぎ 鈴木 田中 よこぼり 増山 いわさか トクマ 三宅 マタヨシ 山添 さや まりこ 康夫 喜久 れな ゆきお 洋平 光雄 拓 新党改革 参議院 ( 東京都選出

平成17年国勢調査による

研究成果報告書(一部基金分)

<4D F736F F D20826F82718E9197BF E31308C8E947A957A94C5816A8C8892E894C52E646F63>

別紙2

<4D F736F F D B95B6817A31362D30395F97D196D888E78EED835A E815B95698EED8A4A94AD8EC08E7B977697CC815B89D495B28FC791CE8DF495698EED>

★前付.indd

<95BD90AC E937894C C8E86816A2E786C73>

[ 決勝リーグ戦 ] 会場市陸上競技場 ( 南 )( 北 ) 当日雨天順延の場合は 2 月 9 日 ( 日 ): くじら運動公園少年サッカー場責任者 : 西村道夫 ( 事務局 ) 平成 30 年 2 月 8 日 ( 土 ) Lブロック 位 Mブロック 位 Nブロック 位 Oブロック 位 東京 NOB

86 86 用語解説 普通会計地方公共団体における地方公営事業会計以外の会計で 一般会計のほか 特別会計のうち地方公営事業会計に係るもの以外のものの純計額 実質収支当該年度に属すべき収入と支出との実質的な差額を見るもの 単年度収支実質収支は前年度以前からの収支の累積であるので その影響を控除した単年

86 用語解説 普通会計地方財政状況調査における 会計及び統計処理上の概念で 地方公共団体における地方公営事業会計以外の会計を指す 実質収支当該年度に属すべき収入と支出との実質的な差額を見るもの 単年度収支実質収支は前年度以前からの収支の累積であるので その影響を控除した単年度の収支のこと 実質単年

Microsoft Word 報告書.doc

東京都立高校入試 偏差値・内申 相関図 2017 平成29年度

雇用関係の確認 常用雇用している給水装置工事主任技術者について 次の1~5のいずれかの書類の写しを持参してください 1 健康保険被保険者証の写し 2 国民健康保険被保険者証の写し ( 会社名の記載のないものは不可 ) 3 登記事項証明書の役員名簿欄 ( 発行 3か月以内のもの 会社役員等の場合 )

6.houkokukai2018.xdw

13【東京都再修正版】平成28年度第2回精神障害者の地域移行担当者等会議【事前課題】シート290222

1 総人口の動き

Microsoft Word 結果の概要(30)2.20.doc

2015 年度都内の区市町村における予防接種助成状況 年 7 月 ~8 月時点の状況を調査したものであり その後 自治体で内容を変更している可能性もある 東京保険医協会 地域医療部調べ 凡例 1. 対象者 助成額に関わらず自治体として助成を行っているものを と表記した なお 回答が得

6 禁止事項 : (1) クロスバンドによる交信 (2) 2 波以上の電波 ( バンドの異なる場合も含む ) の同時発射 (3) コンテスト中の運用場所変更 7 得点及びマルチプライヤー : (1) アマチェア局 : 1 得点 = 完全な交信で相手局が 都内局 の場合は 2 点 都外局 の場合は 1

日野市 東村山市

Q & A Q1. 障害者雇用納付金の取り扱いはどうなるのでしょうか? A1. 新しい法定雇用率で算定していただくことになります 平成 31 年 4 月 1 日から同年 5 月 15 日までの間に申告していただく分から ( 申告対象期間が 平成 30 年 4 月から平 成 31 年 3 月までの分か

団地別利用可能方式一覧 ( 都都下 ) 八王子市多摩ニュータウン南大沢学園二番街 N K 多摩ニュータウン蓮生寺公園通り二八王子市番街多摩ニュータウン長池公園せせらぎ八王子市通り南 N N K N K 八王子市多摩ニュータウン南大沢学園四番街 N K 八王子市グリーンヒル八王子南 N K 八王子みな

Taro-08緊急間伐最終.jtd

第 1 号第 1 号 3 平成 26 年度決算の状況を お知らせいたします 平成 2 6 年 1 月からの家庭廃棄物有料化に 伴う は1 億 6,227 万円となっております 収入した手数料の使途は 次のとおりです 右の図は 平成 26 年度のお金の流れです 額と使いみち 1 億 6,227 万円

団地別利用可能方式一覧 ( 都都下 ) 八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市 多摩ニュータウンブランニュー別所 8 N K トワコート西八王子 N K 多摩ニュータウン長池公園せせらぎ通り北 N K 多摩ニュータウン

目次 Ⅰ. 調査概要 調査の前提... 1 (1)Winny (2)Share EX (3)Gnutella データの抽出... 2 (1) フィルタリング... 2 (2) 権利の対象性算出方法... 2 Ⅱ. 調査結果 Win

司法過疎の定義 2. 調査対象地域 , % , % HP (18 ) 3 HP

Microsoft Word - 【セット版】別添資料2)環境省レッドリストカテゴリー(2012)

<4D F736F F D20FA412D B68A888BF38AD495AA96EC C8E D36385F2E646F63>

平成11年東京都におけるスギ・ヒノキ科花粉飛散状況

< AFA926E88E68F5A91EE8C7689E AE94F58C7689E6816A E786C73>

きらりたちかわ27H.indd

Microsoft Word - 桜の知識.doc

目 次 1 地価下落地域における評価額の修正について 1 2 全国指定市の基準宅地の状況について 4 3 各市町村及び特別区の基準宅地の鑑定評価価格 ( 時点修正率 ) について 6 4 参考 : 東京都基準地価格関係資料 ( 抜粋 ) 15 5 その他 20 (1) 東京都土地評価協議会設置要綱

団地別利用可能方式一覧 ( 都都下 ) 八王子市 多摩ニュータウンライブ長池ビューコート別所 K N 八王子市ビュータワー八王子 K N 立川市 けやき台 N 8 号棟 N 立川市 立川幸町 N 21 号棟 K N N 立川市 立川若葉町 号 N 棟 N

第 6 条日額旅費にかかる申請及び報告の様式及び記載事項は 別紙様式によるものとする 2 日額旅費の対象となる旅行については 旅費規程第 5 条第 1 項の規定にかかわらず 旅行終了後に別紙様式により旅行命令者の確認を受けるものとする ( 雑則 ) 第 7 条この細則の実施のため必要な事項は 別に定

<8B CF695BD88CF88F589EF8BA493AF90DD92752E786477>

Microsoft Word - ‘C”mŸ_Ł¶−TŠv[“Å‘IflÅ].doc

団地別利用可能方式一覧 ( 都都下 ) 八王子市 八王子みなみ野シティヴェルディールふれあい通り K N 八王子市多摩ニュータウングランピア南大沢 K N 八王子市 多摩ニュータウンライブ長池ビューコート別所 K N 八王子市ビュータワー八王子 K N 立川市けやき台 立川市立川幸町 立川市立川若葉

001 of 東京都歯科保健目標「いい歯東京」達成度調査報告書1

c7b

秋季東京都大会は 春の選抜高校野球大会への出場権をかけた重要な大会です 東京都の頂点を決める高校球児たちの熱い戦いを ぜひご覧ください J:COM では試合当日の夜に試合結果のダイジェストを生放送! ダイジェスト番組 準決勝 決勝戦を地域情報アプリ ど ろーかる でライブ & アーカイブ配信も実施

資料調査結果 ( 栗野岳地区 ) 64

<91E589EF895E8963>

平成 30 年度全試合結果 2019/3/30 更新 学年 日付 曜日 大会名 会場 対戦相手 得点失点勝敗 3 3/30 土 練習試合 雨間グランド バリオーレ /30 土 練習試合 雨間グランド バリオーレ /30 土 練習試合 雨間グランド バリオーレ

セカンドライフに関するアンケート調査結果

はじめに 日本のサクラは 10 種の野生のサクラのほか 長い歴史的年月をかけて美しい花を咲かせる多数の栽培品種が育成されてきました 最も盛んに育成されたのは江戸時代ですが 栽培化はそれよりもずっと古い時代から始められていたようです サクラの栽培品種は主として接ぎ木という方法によって 同じクローンが何

山梨県世界遺産富士山景観評価等技術指針 ( 平成二十八年山梨県告示第九十九号 ) 山梨県世界遺産富士山景観評価等技術指針を次のとおり定める 平成二十八年三月二十四日 山梨県知事 後 藤 斎 山梨県世界遺産富士山景観評価等技術指針 ( 趣旨 ) 第一条 この技術指針は 山梨県世界遺産富士山の保全に係る

図 Ⅳ-1 コマドリ調査ルート 100m 100m 100m コマドリ調査ルート 図 Ⅳ-2 スズタケ調査メッシュ設定イメージ 17

3 募金充当事業の実績 Ⅰ 花と緑のおもてなし 平成 29 年度は 市街地に新たに 花と緑 を創出する 花の都プロジェクト として 葛飾区及び台東区に補助を行いました 花の都プロジェクト は 東京 2020 オリンピック パラリンピック競技大会の開催に向け 街を花と緑で彩る取組を推進するため 区市町

泉自然公園のカエデ類

東京都地域住宅計画

転学・編入学募集 学校別一覧(定時制課程・通信制課程)

<4D F736F F D F8D5C91A289BB B835E B90BB956990E096BE8F A6D92E8817A>

ア税率 個市民税の均等割の税率は 3,5 円注 1 です 個市民税の所得割の税率は平成 18 まで課税標準額に応じて 3% 8% 1% の 3 段階になっていましたが 三位一体 改革による国から地方への税源移譲に伴い 平成 19 からは課税標準額にかかわらず 6% 注 2 となっています 注 1 個

スライド 0

ア土地に対する評価 課税のしくみ ( ア ) 評価のしくみ土地は評価基準に基づき 地目別に定められた評価方法により評価します 評価基準に規定されている地目は土地を利用面から分類した名称です 宅地 田 畑 ( 田と併せて 農地 といいます ) 鉱泉地 池沼 山林 牧場 原野および雑種地をいいます なお

ア土地に対する評価 課税のしくみ ( ア ) 評価のしくみ土地は評価基準に基づき 地目別に定められた評価方法により評価します 評価基準に規定されている地目は土地を利用面から分類した名称です 宅地 田 畑 ( 田と併せて 農地 といいます ) 鉱泉地 池沼 山林 牧場 原野および雑種地をいいます なお

(Microsoft Word - \201\2403-1\223y\222n\227\230\227p\201i\215\317\201j.doc)

S_東京国体-9月号_p1-12

平成 0 年度全試合結果 4 10/27 土 練習試合 (15 分 1 本 ) 雨間グランド 若草 FC /27 土 練習試合 (15 分 1 本 ) 雨間グランド 若草 FC /21 土 練習試合 雨間グランド ラックボーン /21 土 練習試合 雨

<4D F736F F D D382AD82A2837D836A B2E646F63>

<4D F736F F D E E9197BF30395F E82CC A97F B28DB88C8B89CA8A E646F6378>

1

<4D F736F F F696E74202D E E096BE8E9197BF B998488AC28BAB89DB2E B8CDD8AB B83685D>

第 1 章環境監視調査の項目及び調査の手法 1.1 調査項目及び調査時期 平成 28 年度に実施した事後調査の調査項目及び調査時期を表 に 調査 工程を表 に示します だみ 大気質 表 平成 28 年度に実施した環境監視調査の調査項目

1 自然に対する関心 (1) 自然に対する関心 平成 24 年 6 月 平成 26 年 7 月 関心がある( 小計 ) 90.4% 89.1% 非常に関心がある 29.5% 21.9%( 減 ) ある程度関心がある 60.9% 67.2%( 増 ) 関心がない( 小計 ) 8.8% 10.5% あま

(4) 対象区域 基本方針の対象区域は市街化調整区域全体とし 都市計画マスタープランにおいて田園都市ゾーン及び公園 緑地ゾーンとして位置付けられている区域を基本とします 対象区域図 市街化調整区域 2 資料 : 八潮市都市計画マスタープラン 土地利用方針図

<4D F736F F F696E74202D208D958AE28E73907D8F918AD B8CDD8AB B83685D>

(11) 主要機器 計測及びデータ作成に使用した機器は下表のとおりである 表 Ⅱ-5-(11)-1 主要機器一覧 作業工程 名称 数量 計測 撮影用固定翼機レーザ測距装置 GPS/IMU 装置 セスナ社製 208 型 LeicaGeosystems 社 ALS70 LeicaGeosystems 社

地盤調査データ_東村山市

兵庫のカブトクワガタ配布資料.indd

アマミノクロウサギ保護増殖事業計画 平成 27 年 4 月 21 日 文部科学省 農林水産省 環境省

untitled

Microsoft Word - 1-統計集-第5回-表紙 doc

(1) 市税 1 個人市民税 12,, 12, 1,, 1, 8,, 8, 6,, 6, 4,, 4, 2,, 2, 4,425,177 4,542,579 4,451,591 4,548,613 4,83,99 5,245,539 6,124,689 6,342,477 6,436,251 6,1

<4D F736F F D2091E E8FDB C588ECE926E816A2E646F63>

Microsoft Word - meti-report

東京外かく環状道路 都市高速道路外郭環状線(世田谷区宇奈根~練馬区大泉町間)都市計画案及び環境影響評価準備書のあらまし

第82期業務のご報告

「教育資金贈与信託」、資産の世代間移行を後押し

第 2 章 将来都市計画道路ネットワークの検証 Chapter2 第 2 章 20

精華大-紀要35号.indb

Transcription:

20 20 10

多摩川流域のサクラの実態調査 平成 20 年度報告書 目次 1. はじめに p 2 2. 調査対象と方法 2-1. 調査対象 p 2 2-2. サクラの名所候補地の現地調査方法 p 3 2-3. サクラの野生個体の現地調査方法 p 6 3. 結果と考察 3-1. サクラの名所候補地 p 6 3-2. 野生のサクラ p 13 4. まとめ p 21 添付資料サクラの名所 2008 年度撮影写真一覧 市町村推薦箇所 サクラの名所 2008 年度撮影写真一覧 野生のサクラ 確認された野生のサクラ水平分布図確認された野生のサクラ垂直分布図 - 1 -

1. はじめにサクラはもともと日本の山野に自生する植物であるが 現在では重要な観光資源でもある ここでは多摩川流域における野生および植栽されたサクラについて 将来的に観光資源となりうる可能性を考慮して現況を調査することとした 多摩地域全体の将来の姿を見据えた地域づくりに取り組むため 平成 19 年に設立された 美しい多摩川フォーラム では 夢のシンボルプランのひとつとして 多摩川夢の桜街道 プランを計画している この調査は平成 19 年度から平成 21 年度までおこなう予定とし 平成 19 年度は予備調査として フォーラム会員となっている各市町村に対してアンケート調査をおこない 基礎的な情報を明らかにするとともに 文献から得られた多摩川流域の野生のサクラについて調査した 平成 20 年度は こうして得られた基礎資料をもとに 実際にサクラが開花する時期に現地で調査をおこない 現地の実態を把握することとした 本調査は 美しい多摩川フォーラム から助成を受け 独立行政法人森林総合研究所多摩森林科学園がおこなった とりまとめは森林総合研究所多摩森林科学園教育的資源研究グループ岩本宏二郎主任研究員 および森林総合研究所森林植生研究領域群落動態研究室勝木俊雄主任研究員がおこなった 2. 調査対象と方法 2-1. 調査対象調査エリアは 可能な限り広く多摩川流域を網羅することを目的とし 以下の区市町村を対象とした 東京都では 多摩地区のすべての市町村 ( 昭島市 あきる野市 稲城市 青梅市 奥多摩町 清瀬市 国立市 小金井市 国分寺市 小平市 狛江市 立川市 多摩市 調布市 西東京市 八王子市 羽村市 東久留米市 東村山市 東大和市 日野市 日の出町 檜原村 府中市 福生市 町田市 瑞穂町 三鷹市 武蔵野市 武蔵村山市 ) および多摩川に面している大田区と世田谷区の合計 32 区市町村 神奈川県では川崎市の 6 区 ( 麻生区 川崎区 幸区 高津区 多摩区 中原区 宮前区 ) 山梨県では甲州市 小菅村 丹波山村の 3 市村を対象とした ( 図 -1) なお 甲州市の大部分は富士川流域で占められているため 甲州市の調査対象は多摩川流域部分に限定した なお 町田市など調査対象エリアの一部分は厳密な地理的には多摩川流域となってい - 2 -

ない地域も含まれているが 行政的な意味も含めた広い意味で 多摩地域 の現況を把握することを目的としているので 調査対象としている これらのエリアの中から 平成 19 年度にアンケート調査で得られた 67 ヶ所を 区市町村推薦地 として 可能な限り サクラの名所候補地 現地調査の対象とした ( 表 -1) また この 67 ヶ所以外でも文献などから得られた場所 あるいは現地で情報を得た場所なども 参考調査地 として 現地調査の対象とした ただし 参考調査地は得られている情報に不備が多いことに加え 所有者 管理者などの確認を得ていない場所も含まれているため 今年度の報告では参考資料として扱い 原則的には区市町村推薦地を分析の対象とした また 野生個体調査については上記のアンケートとは関係なく 調査エリアを可能な限り網羅するよう調査地域を設定した 2-2. サクラの名所候補地の現地調査方法調査は 区市町村推薦地 67 ヶ所および参考調査地において 可能な限りサクラが実際に開花している満開の時期に赴き 以下の 4 項目について調査票に記録するとともに 記録写真を撮影することでおこなった また サクラの名所候補地が広大である場合 複数箇所で現地調査をおこない 実際に 花見 をおこなう立場からサクラがどのような状況なのかを把握することに務めた 調査地 : 現地で確認された調査地の名称 所在地を調査票に記入するとともに 実際に調査をおこなった地点を地図 (1/5000 相当 ) に記入した 調査地の位置はフリーウェアの簡易 GIS ソフト ( カシミール ; http://www.kashmir3d.com/) を用いて緯度経度と標高を求めた 緯度経度については本来であれば国際基準である WGS84 測地系を用いるべきであるが 国内ではまだ一般的ではなく対照が困難になることが予想されるため 国内で一般的な Tokyo 測地系を用いた また 調査地の名称 所在地について 現地で不明であった場合はその後地図や文献などから得た サクラ : サクラの名所候補地を代表すると思われる 1 点で直接目視できる程度の範囲 ( 半径数十 m) のサクラについて サクラの種類 本数 胸高直径 開花状況 健全度 腐朽 病害虫の有無などを記録した 調査対象が広大な場合 調査は多くのサクラの見物客が訪れると思われる数点で調査をおこなった なお サクラの種類については同定が困難である場合が予想されたので 可能な限り写真を撮影して 後日照会した - 3 -

N35 50 N35 40 N35 30 E138 45 E139 00 E139 15 E139 30 E139 45 10km - 4 -

表 -1. 区市町村推薦のサクラ名所候補地の名称と所在 ( 網掛部は平成 20 年度に調査をおこなわなかった場所 ) 票 ID 区市町村 名称 旧名称 S001 稲城市 三沢川側道 S002 稲城市 稲城多摩川桜堤 S003 羽村市 羽村市動物公園 S004 羽村市 日野自動車羽村工場 S005 羽村市 羽村堰と玉川上水 S006 羽村市 桜づつみ公園 S007 国立市 大学通り緑地帯 S008 国立市 国立さくら通り さくら通り S009 小菅村 三ツ子山 S010 小菅村 田元 小菅国道 139 号沿線 S011 狛江市 根川さくら通り S012 狛江市 西河原公園 S013 昭島市 多摩川左岸堤防 S014 府中市 是政緑地 堤政緑地 S015 府中市 四谷さくら公園 S016 府中市 府中さくらの広場 S017 府中市 府中桜通り 桜通り S018 府中市 多磨霊園南参道 S019 府中市 府中多摩川通り 多摩川通り S020 府中市 スタジアム通り スタジアム通り外 4 路線 S021 青梅市 釜の淵公園 青梅市釜の淵公園 S022 八王子市 滝山自然公園 都立滝山公園 S023 八王子市 浅川の桜並木 S024 八王子市 円通寺 S025 八王子市 広園寺 S026 八王子市 多摩森林科学園 森林総合研究所多摩森林科学園 S027 八王子市 浄福寺 S028 八王子市 高尾山一丁平 S029 八王子市 富士森公園 S030 八王子市 片倉城跡公園 S031 八王子市 高楽寺 S032 福生市 福生堤防 多摩川堤防沿い桜 S033 あきる野市 光巌寺 S034 あきる野市 秋留台公園 都立秋留台公園 S035 あきる野市 小峰公園 都立小峰公園 S036 あきる野市 あきる野総合グラウンド S037 あきる野市 二宮公民館 二宮公民館周辺 S038 大田区 馬込桜並木 S039 大田区 池上本門寺 本門寺公園及び池上本門寺周辺 S040 大田区 多摩川台公園 S041 大田区 桜坂 S042 大田区 洗足池公園 S043 大田区 ガス橋緑地 ガス橋緑地付近 S044 大田区 東糀谷第一公園 S045 昭島市 昭和公園 昭島公園 S046 日野市 コニカミノルタ工場 コニカミノルタ工場桜並木 S047 日野市 京王平山緑地 S048 日野市 黒川清流公園 S049 日野市 旭が丘中央公園 S050 日野市 旭が丘グリーンベルト S051 日野市 日野中央公園 日野中央公園 ~ 日野市役所 S052 日野市 平山堤 平山堤桜並木 S053 日野市 日野橋南詰 多摩川日野橋南詰桜並木 S054 日野市 根川沿いの桜 S055 奥多摩町 奥多摩湖の桜 S056 多摩市 川井家のシダレザクラ S057 調布市 神代植物公園 都立神代植物公園 S058 調布市 桜堤通り 桜堤通りの桜 S059 調布市 ハリウッドの桜 S060 調布市 深大寺通り S061 調布市 神代植物公園通り S062 調布市 榎橋 榎橋周辺 S063 多摩市 乞田川 乞田川沿い S064 多摩市 富士見通り S065 多摩市 多摩中央公園 S066 立川市 立川公園 S067 立川市 柴西公園 - 5 -

管理状況 : 剪定や支柱 保護の有無や表土の露出部分のパーセンテージ 表土の状態や立地を記録した なお サクラの管理については 土壌条件に問題がある場合が多いため 可能な限り根元付近の様子を写真で撮影した 利用状況 : サクラを見るためにかかる利用料や一般利用者が使用できる駐車場の有無 公共交通機関を利用したアクセス方法と時間 花見 のためのイベントなどについて記録した またその他に 花見 に関して気がついた点があれば記録した これらの実測記録から 多摩川流域におけるサクラの名所候補地の簡単な分析を試み その特徴を明らかにした 2-3. サクラの野生個体の現地調査方法野生個体の調査では 可能な限りサクラ類が開花している時期に 徒歩あるいは車で調査対象エリアを踏査し 実際に咲いているサクラの種類 開花状態などを記録した また位置については GPS を用いて測定し 簡易 GIS ソフトを用いて緯度 経度 標高を特定した なお 種類についてはその場で同定が困難である場合もあるため 可能な限り花の拡大写真を撮影した こうして得られたデータを用い サクラ類の各種類について 観察された水平位置 標高 開花状況のデータから どのような範囲に分布し どのような時期に開花するのか 分析した 3. 結果と考察 3-1. サクラの名所候補地平成 19 年度の調査で得られた 67 ヶ所のうち 平成 20 年度は 4 ヶ所を除く 63 ヶ所 135 地点で現地調査をおこなった ( 表 -1) なお 羽村市の羽村市動物公園と府中市の府中さくらの広場 八王子市の多摩森林科学園 日野市のコニカミノルタ工場では諸事情から調査をおこなうことができなかった また この他にも参考調査地と して 54 ヶ所 114 地点で現地調査をお こなった 写真 -1. 浮島町公園の 染井吉野 - 6 -

N35 50 N35 40 N35 30 E138 45 E139 00 E139 15 E139 30 E139 45 10km - 7 -

位置 : すでに昨年度の報告でも指摘されているように 区市町村推薦の 67 ヶ所は小菅村と奥多摩町の 3 ヶ所を除くと中 下流域に集中している ( 図 -2) しかしながら この他にも参考調査地としては多くの場所が上流域にも確認されたことから 今後はさらに上流域での調査が求められると考える また アンケート調査をおこなっていない世田谷区や川崎市などの区市町村を含めて総合的に多摩地域のサクラの名所を選定するべきであると考える なお 今回の調査において最も下流で 染井吉野 が確認された場所は川崎区の 写真 -2. 一ノ瀬高原の 染井吉野 公園 ( 標高 3m 写真 -1) であり 上流では甲州市の一ノ瀬高原 ( 標高 1252m 写真 -2) であった この間の直線距離は約 94km であり およそ 100km が多摩地域のサクラの名所の範囲として認識すればよいと考えられた サクラの種類 : 今回現地調査をおこなった 135 地点のうち およそ 2/3 の 89 地点のサクラが 染井吉野 であった 他には 枝垂桜 や 八重紅枝垂 アメリカ 関山 御衣黄 小彼岸 大寒桜 普賢象 などの栽培品種やオオシマザクラやヤマザクラが植栽されている例があった ほか 小菅村の三ッ子山では自生のエドヒガンやマメザクラなどが見られることが特徴的であった なお 本数でみると 記録されている 5251 本中およそ 92% の 4855 本が 染井吉野 であり 改めて多摩地域のサクラの名所において 染井吉野 が圧倒的に多いことが示された サクラの本数 : 今回の現地調査では 写真 -3. 秋留台公園の 染井吉野 の並木写真 -4. 光厳寺のヤマザクラ - 8 -

1 点から見える範囲でサクラの本数を測定するという手法を用いたため 最大でも 100 本程度と名所内の最大本数 10,000 本と比較すると少なくなっている ただし本数が多い場所の多くは並木あるいは公園などにまとめて植栽された 染井吉野 であった ( 写真 -3) 一方八王子市の高楽寺の 枝垂桜 やあきる野市の 光厳寺のヤマザクラ ( 写真 -4) 多摩市の 川井家のシダレザクラ ( 写真 -5) のように 1 本あるいは 少数であっても 花見 の対象となるような鑑賞価値の高い木もあった サクラのサイズ : サクラのサイズにおいて最大であったものはあきる野市の 光厳寺のヤマザクラ ( 写真 - 4) の胸高直径約 170cm であった 次に大きなサイズは多摩市の 川井家のシダレザクラ ( 写真 -5) の胸高直径約 110cm であるので 光厳寺のヤマザクラ の大きさは際だっている その他 環境省の定める巨樹の基準で 写真 -5. 川井家のシダレザクラ ある胸高周囲長 300cm を超えるような個体は 調査対象エリアからやや外れる甲州市の 雲峰寺のサクラ のエドヒガンの直径約 160cm のみであった しかしながら 目測で 80cm ほどの個体として あきる野市の小峰公園 染井吉野 や日野市の旭が丘グリーンベルトの 染井吉野 調布市の神代植物公園の 染井吉野 などが記録されており 今後は 巨樹 クラスの 染井吉野 が多く出現することも予想される サクラの開花日 : 開花時期の概要を把握するために 各調査地点における 染井吉野 の開花状況から満開日 ( 木全体のおよそ 8 割が開花した日 ) を推定し 調査地点の標高との関係を示した ( 図 -3) 2008 年の場合 もっとも早い満開日は狛江市の根川さくら通りなどの 3 月 26 日であり もっとも遅い満開日は甲州市一ノ瀬高原の 5 月 3 日であった 多くの調査地において満開日と標高との間には強い相関が見られた 一部の低標高域に合致しないデータが見られるものの これは慣れていない調査員によるデータの観測精度の問題と考えられた この結果 多摩川流域においては高標高域まで含めると およそ 40 日間にわたって 染井吉野 が鑑賞できることが示された 染井吉野 より早咲きの 寒桜 や 小彼岸 遅咲きの 関山 や 普賢象 などを含めると 3 月 - 9 -

上旬から 5 月下旬までなんらかのサクラが開花していることになる ただし 標高 600m を超える高標高域ではサクラの植栽地は数が少ない 1400 1200 1000 m ) ( W 800 600 400 200 0 2008/3/23 2008/3/28 2008/4/2 2008/4/7 2008/4/12 2008/4/17 2008/4/22 2008/4/27 2008/5/2 2008/5/7 推定満開日 図 -3. 染井吉野 の推定満開日と標高の関係 病虫害 : サクラに対する病虫害とし て てんぐ巣病が 13 地点から報告さ れた ( 写真 -6) いずれも 染井吉 野 に罹病していた てんぐ巣病が発 生する地点の特徴として空中湿度が 高いことが指摘されている 今回の調 査結果からも 標高 120m 以下の中 下流域の 染井吉野 では 64 地点中 2 地点しかてんぐ巣病は確認できなか ったが 標高 120m 以上の山間部では 27 地点中 11 地点の高い頻度でてんぐ巣病が確認された 高標高域では管理が なされていない場合が多いことも考えられるが てんぐ巣病が発生しやすい環 境条件であることが示されていると考えられる また 10 地点で幹の腐朽が見 られた このうち 9 地点は 染井吉野 であり 残る 1 地点はヤマザクラであ った 写真 -6. 奥多摩湖の 染井吉野 にみられたてんぐ巣病 - 10 -

管理状況 : 今回の調査では概観から管理状況 を推測したため 下草刈りや防虫剤 施肥など についてのデータは得られなかったが 剪定作 業については 123 地点中およそ 3/4 の 93 地点で おこなわれていることが確認された ただし 支柱を用いているのは 123 地点中 19 地点 な んらかの外科的保全処理は 122 地点中 5 地点で あり またそれ以外の積極的な管理はあまり確 認できなかった なお 外科的保全処理がおこ なわれていた場所は あきる野市の光厳寺 大 田区の馬込桜並木と池上本門寺 ( 写真 -7) 洗 足池公園などであった また 表土の状態をみ ると 公園では 50 地点中踏み固めら れた不健全な土壌である場合がおよ そ 1/3 の 16 地点あったうえに 表土 自体が 70% ほどしか露出しておらず 劣悪な生育環境であることが示され た さらには道路脇の並木においては 28 地点中およそ半分の 12 地点で踏み 固められた不健全な土壌である上に 露出している表土は 30% 程しかない ことが示された ( 写真 -8) 堤防に おいても露出している表土は 50% ほ どであり 記録がなされた 122 地点の うち 100 地点と 8 割を占める公園 道路脇 堤防の植栽環境が劣悪である ことは 今後の大きな問題であると考 えられる 利用状況 : 駐車場については記録さ れていた 122 地点中およそ 1/3 の 39 地点では駐車場があったが 残りの 写真 -7. 池上本門寺の 染井吉野 にみられた外科的保全処理のあと 写真 -8. 三沢川側道のオオシマザクラの根元 写真 -9. 滝山自然公園における花見イベント 83 地点では駐車場がない もしくはあっても使えない状況であり 花見 客 - 11 -

にとって公共の交通機関が重要であることが示された また サクラまつり などなんらかの 花見 に関するイベントをおこなっていた場所は 101 件中 およそ 1/4 の 27 件しかなかった 調布市の神代植物公園や八王子市の滝山自然公園 大田区の洗足池公園などのような公園のほか 羽村市の羽村堰と玉川上水や福生市の福生堤防のように堤防をもちいたイベントが確認された 立地環境 : 立地環境を大別すると 122 点の調査点のうち 22 点が堤防 28 点が道路 59 点が公園 10 点が寺社などであり これらは以下の 4 タイプにまとめられた 堤防の 染井吉野 並木羽村市の羽村堤と多摩川上水や稲城市の三沢川側道など 多摩川や多摩川に流れ込む河川 あるいは多摩川から流れる水道沿などの堤防に植栽されたサクラの並木が 多摩川流域において他地域と比較してもっとも特徴がある名所だと考えられる 古くは小金井市の多摩川上水などヤマザクラなども植栽されていた例も見られるが 現在ではその多くは 染井吉野 が列状に植栽されている ただし堤防は車道や歩道としても利用されており サクラの生育環境としては適切な環境が保たれていないケースが大部分であった また 大田区の馬込桜並木のように現在では街路の並木になっているものも 植栽当時は小川沿いであったものがその後の暗渠化によって変化したケースもある 実際に樹齢が 100 年を超えるようなサクラの個体は数少なく 今後はどのような管理をおこなってサクラに好適な環境を維持していくのかが大きな問題であると考えられる 街路の 染井吉野 並木国立市の大学通り緑地帯や府中市のスタジアム通りなど街路樹として植栽されたサクラの並木のタイプである 上記の堤防に平行している道路沿いの並木も場合によっては街路の並木としても良いかもしれない 街路の並木タイプはふつうに日本全国で見られるもので 際だった特徴を持つものではないが 身近に見られるサクラとしての価値はある 堤防タイプと同様に 染井吉野 が植栽される場合が多い 車道沿いであることが原則なので 植栽環境としては堤防よりも悪いケースが多く 管理上の問題点も多数ある 戦前から維持されている国立市の大学通り緑地帯は例外的な存在であり 大部分の道路沿いの並木は 大田区の馬込桜並木やガス橋緑地のように 衰退して枯死する個体が増加することが予想される - 12 -

公園のサクラ八王子市の滝山自然公園や調布市の神代植物公園のように 公園あるいは公共の施設内に多数のサクラを植えるタイプである 堤防や道路の並木とは異なり サクラの下は自由に利用できる空間となっている場合が多く 花見 として利用されるケースはこのタイプが多いと考えられる しかしその反面 土壌が踏み固められて劣悪になっているケースが多いことが観察されており 将来は衰退して枯死ずる個体が増加することも考えられ 土壌の管理が今後の大きな問題になると考えられる 染井吉野 が植栽されている場合が最も多いが ヤマザクラやオオシマザクラ あるいは 八重紅枝垂 や 普賢象 などの栽培品種など様々な種類のサクラが植栽されることも多い 名木あきる野市の光厳寺や多摩市の 川井家のシダレザクラ などサクラの老木 大木などのタイプである 植栽された 染井吉野 がこうして注目されるケースはなく 寺院や神社のエドヒガンやヤマザクラの老大木であるケースが大部分である 全国的には集客力がある観光資源としてサクラが取り上げられる場合 この名木タイプであることが多い しかしながら多摩川流域における今回の調査では 6 ヶ所のみであった ただし 参考調査地として他にも数カ所確認されており 今後の調査によってはこうした名木タイプの名所が増加する可能性は残されている 3-2. 野生のサクラ野生のサクラについては 3 月 31 日より 5 月 22 日までの間 調査をおこなった 調査はおもに町田市 八王子市 あきる野市 日の出町 青梅市 檜原村 奥多摩町 小菅村 丹波山村 甲州市でおこなった ( 図 -4) この結果 調査エリアから野生のヤマザクラ カスミザクラ オオヤマザクラ エドヒガン チョウジザクラ ミヤマザクラ マメザクラ タカネザクラの合計 8 種が確認された 参考資料に確認された各種の水平分布位置と 経度と標高位置の関係図を示した 以下 各種の分布と開花期の特徴について記述する ヤマザクラ Cerasus jamasakura (Siebold ex Koidz.) H.Ohba var. jamasakura ヤマザクラは出現した種のうち 町田市から甲州市のもっとも広い範囲で確認された 標高で見るとおよそ 100~900m の間に出現しており 多摩川流域の丘陵部から山地ではふつうに見られる種であると考えられる コナラ林などの - 13 -

N35 50 N35 40 N35 30 E138 45 E139 00 E139 15 E139 30 E139 45 10km - 14 -

二次林を構成する種のひとつでもあり 生育可能な環境は山地ではきわめて広い ただし 都市部では天然生の二次林は大きく失われており ヤマザクラの分布地も分断されている もっとも下流で見られる野生のヤマザクラは川崎市の丘陵部の二次林に存在すると考えられるが 実際に現地を調 査して確認する必要がある 町田市で 写真 -10. ヤマザクラの花 は 4 月 2 日頃 奥多摩町では 4 月 24 日頃が満開なので およそ 20 日間程度はヤマザクラの花見を楽しむことが可能である なお 奈良県の吉野山のように野生のヤマザクラを鑑賞対象とする場合もあるが 多摩川流域では野生のヤマザクラの林分を観賞用に整備している例は確認されなかった ただし 公園などでは植栽されているヤマザクラは数多く観察されており 今後は野生のヤマザクラについて 花見 目的に管理する可能性は高いと考えられる カスミザクラ Cerasus leveilleana (Koehne) H.Ohba カスミザクラは丘陵部ではほとんど見られず 八王子市以西の山地で確認された 標高では 200~1400m に出現しており 山地では一般的な二次林構成種であると考えられる 分布地の大部分ではヤマザクラと同所的に出現するため 混同されることも多いが ヤマザクラと比較して花期が遅いこ と 若芽が緑褐色であることなどから 写真 -11. カスミザクラの花 遠目でも明瞭に区別することが可能である 八王子市では 4 月 16 日頃 檜原村では 5 月 4 日頃が満開であるので ヤマザクラと同様におよそ 20 日間程度花見を楽しむことが可能である なお カスミザクラは花期が遅いことから他の地域でもほとんど 花見 の対象とされていないが 多摩川流域でも観賞用に整備している例は確認されなかった ただし 花自体は鑑賞価値が低いものではないことから 将来的には他のヤマザクラなどと組み合わせたサクラの名所の素材として利用が期待される - 15 -

オオヤマザクラ Cerasus sargentii (Rehder) H.Ohba var. sargentii オオヤマザクラは檜原村 奥多摩町 甲州市などの山地の一部でだけ確認された 標高では 800~1800m に出現しており ヤマザクラとはほとんど分布域が重なっていない カスミザクラとは同所的に出現する場合も多いため 混同されることもあると考えられる 分布域が狭いものの出現する標 高域が広いため 満開の期間は 4 月 写真 -12. オオヤマザクラの花 20 日頃から 5 月 20 日頃とほぼ 1 月の間花見を楽しむことが可能である オオヤマザクラは北海道や東北ではヤマザクラあるいは 染井吉野 に替わる 花見 の対象とされる場合があるが 多摩川流域でももっとも標高が高い甲州市の一ノ瀬の集落周辺では明らかにオオヤマザクラを植栽しており 観賞用に利用されていた また 奥多摩湖など本来の生育地より低標高地でも植栽されていたことは オオヤマザクラが 花見 の対象樹種として広く使われていることを示すものである 今後も高標高域における素材としては利用が進むものと考えられる エドヒガン Cerasus spachiana (Lavallée ex H.Otto) H.Otto 写真 -13. エドヒガンの花写真 -14. 小菅村の 牛会桜 エドヒガンはカスミザクラと同様に 丘陵部ではほとんど見られず 八王子市以西の山地で確認された 標高では 200~1000m に出現しており この点でもカスミザクラとほぼ一致している ただし 山地の典型的な二次林であるコナラやミズナラなどの二次林よりも より自然度が高い天然林で多く出現する - 16 -

傾向があるように思われた 開花期は 4 月 1 日頃から 5 月 1 日頃までで ほぼ 1 月の間花見を楽しむことが可能である エドヒガンの栽培品種の 枝垂桜 は多くの寺社や公園に植栽されており 花見 の対象として用いられているが 野生のエドヒガンが 花見 の対象として整備されている例はほとんど無かった 唯一 小菅村の 牛会桜 と名付けられているエドヒガンの巨木 ( 直径およそ 70cm) が観光資源として活用されていた なお 牛会桜の看板には ヤマザクラ牛会桜 と表記されているが 修正したほうが良い このようにエドヒガンは 花見 の資源としてきわめて貴重な存在であることから 今後は野生個体のさらなる活用が望まれる チョウジザクラ Cerasus apetala (Siebold & Zucc.) H.Ohba var. apetala チョウジザクラはカスミザクラやエドヒガンよりもさらに西部の山地で確認された 標高では 500~1000m に出現しており この点でもカスミザクラなどとは分布域がややずれている 観察された開花期は 4 月 10 日頃から 4 月 20 日頃までで ほぼ 10 日間と短かったが 実際にはもっと長いと 思われる チョウジザクラは花弁の直径が約 1cm と小さいことに加え 花と同時に葉芽も展開するため 開花しても花はまったく目立たない また大きくなってもせいぜい樹高は 4m 程度なので 花見 の対象とはならない 今回の調査でもチョウジザクラを 花見 の対象としている例は全くなかった しかしながら チョウジザクラは種間雑種を多く形成しており 今回の 写真 -15. チョウジザクラの花写真 -16. 満開のチョウジザクラ エドヒガン 調査でもヤマザクラ エドヒガン マメザクラなどとの種間雑種が確認された その中には明らかに 花見 目的で残されている個体も確認されており 将来はこうした種間雑種の素材として 花見 に栽培品種などが利用されることが期待される - 17 -

ミヤマザクラ Cerasus maximowiczii (Rupr.) Kom. ミヤマザクラは今回の調査では 西部の山地の三頭山および笠取山でのみ確認された 標高では 1100 ~ 1800m に出現しており ヤマザクラやエドヒガンの出現する標高より明らかに高い 今回の調査ではこうした高標高域の調査が不充分であったため ミヤマザクラは 2 ヶ所でしか確認さ れなかったが 八ヶ岳などでの観察では標高 1200~2400m の亜高山域まで広く確認されていることから 多摩川流域でもこうした高標高域には広く分布していると考えられる 開花期については今回残念ながら開花している個体のデータが少なかったので示すことが出来ないが およそ 5 月中旬から 6 月中旬ごろまで開花していると考えられる ミヤマザクラの花は開 写真 -17. ミヤマザクラの蕾写真 -18. ミヤマザクラの花 ( 八ヶ岳撮影 ) 花期が遅いことに加え 葉が展開したあとに開花することから 花見 の観賞用に用いられることはない また チョウジザクラのように種間雑種を形成することも少ないので サクラの仲間ではあるが 花見 のサクラとしては外してよいと考えられる マメザクラ Cerasus incisa (Thunb. ex Murray) Loisel. var. incisa 今回の調査では 野生のマメザクラは小菅村と甲州市で確認された 標高では 500~1100m に出現している しかしながら 今回確認された個体の多くは人里近い場所で確認されており 人為的な影響が疑わしく 本来の自生分布域であるのか判断するには 今後のより詳細な検討が必要と考えられ 写真 -19. マメザクラの花 - 18 -

る また ブコウマメザクラ Cerasus incisa var. bukosanensis (Honda) H. Ohba は残念ながら今回の調査では確認することは出来なかった これまでの報告からは多摩川源流部の石灰岩地にブコウマメザクラがあるとされている 踏査調査が不充分であったことから確認されなかったものと考えられるが あったとしてもきわめて分布域が狭く 個体数が少ないと考えられる ブコウマメザクラは国が指定する絶滅危惧植物でもあることから 次年度には重点的に調査をおこなう必要があると考えられる マメザクラの開花期は 4 月 10 日頃から 5 月 1 日頃のおよそ 20 日間であった 一方 マメザクラと他種との種間雑種は町田市から甲州市まで広い範囲で観察された エドヒガンとの種間雑種と考えられるヤブザクラ Cerasus hisauchiana (Koidz. ex Hisauti) H.Ohba とホシザクラ Cerasus tama-clivorum (Oohara, Seriz. & Wakab.) H.Ohba の他にもヤマザクラやチョウジザクラとの種間雑種と考えられる個体が確認された こうした個体の中でもヤブザクラとホシザクラは開花期が 染井吉野 よりも数日早いことに加え 花付きがよく 花弁の色も淡紅色であり 鑑賞価値が高い また 管理も比較的容易であること 挿し木で容易に増えることなどの性質を考えると 公園などに 花見 目的で用いる樹種としてはきわめて価値が高い さらに ヤブザクラとホシザクラは一部相模川流域にも分布しているが 多摩川流域が分布の中心地である 郷土樹種としての価値もあることから 今後はこれらの利用を積極的に考えるべきである 写真 -20. 公園に残されていたヤブザクラの木 写真 -21. ホシザクラの花 - 19 -

タカネザクラ Cerasus nipponica (Matsum.) H.Ohba var. nipponica タカネザクラは今回の調査では笠取山でのみ観察された 出現した標高は 1600~1900m であった この標高域ではオオヤマザクラも同所的に分布しており 種間雑種を形成している可能性も考えられるので 注意して同定する必要がある なお タカネザクラはこうした山地 帯上部から亜高山帯域には広く分 写真 -22. タカネザクラの花 布することが知られており 多摩川流域でも笠取山だけではなく 雲取山などに広く分布していることが予想される 次年度にはこうした地域についてもさらに調査を進める必要がある 開花期は 5 月 10 日頃から 5 月 20 日頃と観察されたが 実際にはもっと高標高域ではさらに遅くまで開花していると考えられる なお タカネザクラの花自体はマメザクラなどと同様に鑑賞に堪えうる性質をもっているが 花と同時に葉芽が展開する個体が多い 低標高域では育成が困難であることなどから 花見 の観賞用に用いられることは少ない 変種のチシマザクラが北海道の一部で 花見 に用いられていることが数少ない例である しかし タカネザクラはオオヤマザクラよりも高標高域に分布しており 今後はこうした地域における素材としてより有効に用いることが考えられる その他のサクラ多摩川流域に本来自生しているサクラ類はすでに述べた 8 種のみであるが それ以外に栽培されていた個体から逸出したサクラ類が確認されている オオシマザクラ Cerasus speciosa (Koidz.) H.Ohba は本来伊豆半島や伊豆諸島に分布する種であるが 関東南部では江戸時代以前より薪炭林に植栽されてきた歴史がある 今回の調査でもこうした薪炭林由来と考えられるオオシマザクラが町田市において確認された また 近年では 花見 の観賞用に公園などにオオシマザクラが植栽されることも多く こうしたオオシマザクラ由来と考えられる個体も八王子市で確認された また 多摩川流域でもっとも数多く植栽されている 染井吉野 についても近くのオオシマザクラやヤマザクラと交雑したと考えられる個体が生じていることが確認されており こうした 遺伝子汚 - 20 -

染 が問題となっている 染井吉野 は比較的繁殖力が弱いため大規模に 染井吉野 由来の個体が増殖することはないと考えられるが あまりにも多くの 染井吉野 が植栽されており 今後は 遺伝子汚染 について注意していく必要がある したがって 遺伝子汚染 に配慮すると 野生のサクラが分布する地域において 花見 のサクラを整備する場合 今後は安易に 染井吉野 やオオシマザクラを植栽するのではなく 可能な限り自生のサクラを増殖することが望まれる 4. まとめ平成 19 年度のアンケート調査をもとに 63 ヶ所のサクラの名所候補地について現地調査をおこなったところ 大きく 4 タイプに区分された 堤防の 染井吉野 並木 はもっとも多摩川流域を特徴づけるタイプであるが 今後は管理が大きな問題となることが予測される 街路の 染井吉野 並木 は身近にサクラと接するタイプであるが 短い期間で衰退することが予想される 公園のサクラ は 染井吉野 以外のサクラも含まれ お花見の場としても重要なタイプであるが やはり今後の管理が大きな問題となることが予測される 名木 は観光資源として貴重なタイプであるが 多摩川流域では数が少ない 平成 21 年度には今年度調査できなかった地域を含め より網羅的に現地調査をおこなうことで 多摩川流域におけるサクラの名所候補地の全体像をまとめる予定である 一方 野生のサクラの調査では 8 種のサクラの分布状況の概要が把握され 各種の特徴が明らかとなった なかでも分布が確認されたエドヒガンとオオヤマザクラ ヤブザクラ ホシザクラについては鑑賞価値が高く今後の活用が考えられた しかしながら 最も希少なブコウマメザクラについてはまったく確認することが出来なかった また 丘陵部から山地帯下部に出現する種についての概要はほぼ確認できたが 山地帯上部から亜高山帯に出現する種については 調査が不充分であった 次年度はこうしたブコウマメザクラや高標高域の調査を重点的におこなう必要がある - 21 -