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皮膚硬化第 113 回日本内科学会講演会 結実する内科学の挑戦 ~ 今, そしてこれから ~ 腎クリーゼ心筋障害 ( 主に収縮能 ) 間質性肺疾患消化管病変 早期 中間期 lcssc dcssc 晩期 肺動脈肺高血圧症, 消化管病変心筋障害 ( 主に拡張能 ) 0 5 10 発症からの期間 ( 年 ) 図 SSc の病型による皮膚硬化の自然経過と臓器障害の出現時期 dcssc: びまん皮膚硬化型 SSc,lcSSc: 限局皮膚硬化型 SSc でも発症早期には皮膚硬化が肘や膝を越えない. したがって, 皮膚硬化が肘や膝を越えない症例ではlcSSc,dcSSc 萎縮期,dcSSc 早期の場合があり, 診療ではその鑑別が極めて重要である. dcsscとlcsscの分類により, 臓器障害の出現様式や予後の予測が可能である.dcSSc では, 頻度は少ないながらも皮膚硬化の進行期に腎クリーゼ, 心筋障害によるうっ血性心不全 ( 主に収縮機能障害 ) を来たす. 消化管や肺の線維化は緩徐に進行し, 皮膚硬化がピークに達する頃に機能障害が顕性化することが多い. 一方, lcsscでは10 年以上の長い罹病期間を経て肺動脈性肺高血圧症 (pulmonary arterial hypertension:pah), 消化管機能障害, 心筋病変 ( 主に拡張機能障害 ) が顕性化する. 2) 自己抗体による分類病型分類に役立つもう1つの指標は自己抗体である.SScの95% 以上で抗核抗体が陽性となり, これまでに少なくとも10の特異自己抗体が同定されている. 日本の保険診療で測定可能な SSc 関連自己抗体は抗トポイソメラーゼI/Scl-70 抗体, 抗 RNAポリメラーゼIII 抗体, 抗セントロメア抗体, 抗 U1RNP 抗体の4 種類のみだが, こ れら自己抗体でSSc 患者の80% 程度をカバーできる.SSc 関連自己抗体は診断の補助としてだけでなく, 病型分類, 将来起こる臓器障害や生命予後の予測にも有用である ( 表 1). 皮膚硬化範囲による病型分類に自己抗体を組み合わせると, さらに詳細な分類が可能になる. 例えば,dcSScで抗トポイソメラーゼI 抗体陽性であれば間質性肺疾患 (interstitial lung disease:ild) を高率に伴うが, 抗 RNAポリメラーゼIII 抗体陽性ならばILDの頻度が低く, むしろ腎クリーゼや悪性腫瘍の併存に注意する. 抗セントロメア抗体陽性例のほとんどはlcSScで, 発症早期に重篤な臓器障害を来たすことは稀である. ただし,10 年以上の経過を経てPAHや心筋拡張障害が顕性化することがある. 抗 U1RNP 抗体も主にlcSScでみられるが, 全身性エリテマトーデスや多発性筋炎 / 皮膚筋炎など他の膠原病の症状を併せもつことが多く, その場合, 混合性結合組織病と診断される. 抗 U1RNP 抗体陽性例は, 抗セントロメア抗体陽性例と同様に PAHのリスクを有するが, 抗セントロメア抗体陽性例と異なり, 発症 5 年以内にみられる場合が多い. 日本内科学会雑誌 105 巻 9 号 1865

教育講演 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 表 1 SSc 関連自己抗体の陽性頻度と関連する病型 自己抗体日本人における陽性頻度関連する病型関連する臓器障害 抗 Scl-70 抗体 ( 抗トポイソメラーゼ Ⅰ 抗体 ) 25% dcssc 抗 RNA ポリメラーゼ Ⅲ 抗体 5~10% dcssc 抗セントロメア抗体 25% lcssc 抗 U1RNP 抗体 15% lcssc MCTD:mixed connective tissue disease 間質性肺疾患手指潰瘍 壊疽急速に進行する皮膚硬化腎クリーゼ悪性腫瘍肺動脈性肺高血圧症原発性胆汁性肝硬変 Sjögren 症候群の合併肺動脈性肺高血圧症他の膠原病の症状 (MCTD) 2. 臨床経過と病態皮膚硬化は真皮に蓄積したコラーゲンなどの細胞外マトリックス量と相関し,SSc の病態をよく反映する.dcSSc における皮膚硬化は, 血管周囲の炎症性細胞浸潤を伴う浮腫期から始まり, 線維化が主体の硬化期, さらに真皮の細胞外マトリックスが疎となって皮膚硬化が改善する萎縮期へと経時的に変化する. 構造が単純で再生能力の高い皮膚では, 病態の進行が止まると, 生理的なターンオーバーにより細胞外マトリックスが徐々に減少して皮膚が柔らかくなる. 一方, 肺, 消化管, 心筋, 血管など多くの臓器では, 細胞外マトリックスが一度蓄積すると正常構造が改変してしまうため, 病態の進行が止まっても機能回復は限定的である. むしろ, 機能低下に伴う二次的要因がさらなる障害を助長する. 例えば, 肺では低酸素による血管攣縮や酸化ストレスが肺構造の破壊を促進する. このように, 基礎病態は共通していても, 組織構造や再生能力により臓器病変ごとに自然歴は異なる. 3. 新たな治療概念近年, 薬物療法の進歩により治療成績が格段に向上した関節リウマチでも, 関節破壊が進ん だ例での薬物療法の効果は限定的で, 膝や股関節など大関節の高度の障害に対しては人工関節置換が最も効果的である. 線維化が機能障害を来たす代表的疾患のウイルス性肝炎でも, 肝硬変に至ると肝移植でしか機能的回復は望めない. 正常構造が破壊, 改変されてしまった状態では, 移植や再生医療を行わない限り機能の回復は望めないことは明白である. 従来のSScの治療は, 他の多くの疾患と同じで, 症状が出現した時点で治療介入することに主眼が置かれてきた. しかし, たとえ薬物療法で線維化の進行を阻止できたとしても, 構造改変した臓器の機能改善を得ることは難しいのが現実である. 関節リウマチやウイルス性肝炎の治療概念が大きく変貌を遂げている. 当然ながら有効性の高い抗サイトカイン薬や抗ウイルス薬など分子標的療法の導入が起爆剤となったが, それらを早期から積極的に使用する治療概念の変革が果たした役割も極めて大きい. 同様に,SSc でも病変に可逆性が残されている発症早期から的確な治療介入をすることで病変の進行を未然に防ぐ治療概念が重要性である. ただし, 早期治療介入を実践するためには, 早期診断が必要不可欠である. 1866 日本内科学会雑誌 105 巻 9 号

第 113 回日本内科学会講演会 結実する内科学の挑戦 ~ 今, そしてこれから ~ 4. 現状における早期診断における問題点我々の専門施設で2005~2012 年にSScと診断された172 例を対象にした調査では,SSc に基づく初発症状の出現から診断までに要した期間は3.4±2.2 年, それまでに受診した医療機関数は3.5±1.2にのぼる. 残念ながら, 現状で早期診断されるSSc 患者は少ない.SSc 患者では皮膚硬化が明らかとなる数カ月 ~ 数年前からRay- naud 現象が先行することが多い. 典型的な Raynaud 現象は手指に境界明瞭な白 紫 赤の 3 段階の変化を呈するが, 診療では2 相以上の色調変化があればRaynaud 現象とみなす. 可逆性であることが特徴で, 寒冷曝露や精神的緊張などの誘因により発作的に誘発される.SSc の好発年齢は40~50 歳代の中年女性で,Raynaud 現象に伴う手指の冷感を更年期症状と混同されてしまうことがある. また, 手指の腫脹, こわばり, 違和感を伴うことが多いため, 関節リウマチや変形性関節症などが疑われる場合もある. また, 食道蠕動能低下による胃食道逆流症, 健診で指摘されたILDなどのために通院していても SScの存在に気づかないケースもある. このように, 医療機関を受診しても早期診断のタイミングを逃しているSSc 患者が多いのが現状である. 一方, 専門医側にも問題点がある.SSc の分類基準として1980 年に米国リウマチ学会 (American College of Rheumatology:ACR) の委員会が提唱した予備基準が長く用いられてきた 1). この基準では,Raynaud 現象に加えて手指腫脹や手指硬化を有するものの, 臓器障害や高度の末梢循環障害のない早期例や軽症例の多くをとらえることができない. 実際に専門施設でSScと臨床的に診断されている例のうち,20~30% が ACR 予備基準を満たさないことが知られてきた.Raynaud 現象出現からACR 予備基準を満足するまでの期間がlcSScで平均 4.8 年,dcSScで平均 1.9 年と報告されている 2). 本基準は研究における対象症例の均一化を目的に作成された 分類 基準 である. そのため, 原則として診断に用いない前提にもかかわらず, 日本では誤用されてきた経緯がある. 5. 早期診断の実践 2013 年にACRと欧州リウマチ学会 (European League Against Rheumatism:EULAR) が共同で作成した新しい分類基準が発表された ( 表 2) 3). この基準の作成過程では,ACR 予備基準で取り込めなかった早期例, 軽症例を可能な範囲で取り込むことに主眼が置かれた. 本基準は経験豊富な専門医の使用が前提で作成され, 皮膚硬化を有するが手指に皮膚硬化がない例や臨床所見を説明できる他疾患の除外が条件となっている. 好酸球性筋膜炎や腎性全身性線維症などの SSc 類似疾患を除外するためである. ポイント制を採用しており,9 ポイント以上あればSScと分類する.ACR 予備基準の大基準に相当する手指硬化が中手指節間関節を越えて近位まで存在する近位皮膚硬化は9ポイントで単独で基準を満たす. 早期例を取り込むため, 新たに手指腫脹, Raynaud 現象,SSc 関連自己抗体に加えて爪郭毛細血管異常が加えられた. 健常者では爪郭の先端で毛細血管が折り返すループ構造が規則正しく並んでいるのに対し,SSc では毛細血管が拡張し, ループが蛇行, 巨大化する. さらに, 毛細血管が減少し, 全く血管のない無血管領域が出現する. また, 分枝や吻合した異常血管の新生も伴う. これら所見は毛細血管顕微鏡を用いなくてもデルマトスコープで観察可能である. ACR/EULAR 基準は感度 95%, 特異度 93% と ACR 予備基準に比べて格段に向上している 3). 特に,ACR 予備基準を満たさなかった早期例, 軽症例をとらえることができ, 例えば手指硬化のみでもRaynaud 現象と抗セントロメア抗体陽性があれば10ポイントとなる. 今後はACR/EULAR 基準を活用することで早期診断が容易になることが期待される. ただし, 本基準は専門医の使 日本内科学会雑誌 105 巻 9 号 1867

教育講演 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 表 2 ACR/EULAR による SSc 分類基準 ( 文献 3 より改変 ) ドメイン基準項目ポイント手指硬化が MCP 関節を越えて近位まで存在 ( 近位皮膚硬化 ) 9 手指の皮膚硬化 ( ポイントの高い方を採用 ) 指尖部所見 ( ポイントの高い方を採用 ) 手指腫脹 (puffy fingers) MCP 関節より遠位に限局した皮膚硬化 手指潰瘍指尖陥凹性瘢痕 爪郭毛細血管異常 2 毛細血管拡張 2 肺病変 肺動脈性肺高血圧症 2 ( いずれか陽性 ) 間質性肺疾患 Raynaud 現象 3 SSc 関連自己抗体 ( いずれか陽性 ) 抗セントロメア抗体抗 Scl-70/ トポイソメラーゼ Ⅰ 抗体抗 RNA ポリメラーゼ Ⅲ 抗体 上記のスコアリングに当てはめ, 合計 9 以上であれば SSc に分類する. * 皮膚硬化を有するが手指に皮膚硬化がない例, 臨床所見を説明できる他疾患を有する例には本基準を適用しない. 2 4 2 3 3 用を前提とした 分類基準 であるため, 専門医への早期のタイミングでの紹介が重要なことはいうまでもない. ACR/EULAR 基準で早期例の取り込みが可能になるが, 皮膚硬化または手指腫脹の存在がその前提となる. そこで, 皮膚硬化が出現する以前からSScをとらえようとする試みが検討されている.Raynaud 現象はあるが皮膚硬化を認めない784 例を前向きに追跡したコホートでは, 爪郭毛細血管異常またはSSc 関連自己抗体が陽性であった場合, その後 4 年以内に47% が98% の特異度でSScに進展した 4). そこで, 皮膚硬化がなくても,Raynaud 現象があり,SScに特徴的な爪郭毛細血管異常,SSc 関連自己抗体, 手指腫脹のいずれかがあれば, 超早期 SSc(very early diagnosis of systemic sclerosis:vedoss) と呼ぶことが提唱されている 2). 現在, この概念の有用性が複数の前向きコホートにおいて検証中である. 6. 早期治療介入の重要性病変の可逆性を考慮すると,SSc に対する治療は早く開始すればするほど, より高い効果が得られるはずである. 早期 SScやVEDOSSに対する治療介入が理想的であるが, 現状ではこれら病型の自然歴に関する報告はほとんどない. そこで, 特に線維化が急速に進行するdcSSc 発症早期例を対象として, できる限り早期にとらえて治療介入をする治療方針が現実的な対応となる. これまでステロイド,D ペニシラミン, 免疫抑制薬 ( メトトレキサート, シクロホスファミド, アザチオプリン, シクロスポリン, タクロリムスなど ), イマチニブ, リラキシンなどがdcSSc に対する治療薬として検討されたが, 有用性に関する高いエビデンスを有する治療薬はない 5). 近年,SScにおける細胞 分子レベルでの病態解析から様々な細胞, 液性因子, 細胞内シグナルが密接に関わる病態が明らかにされ, 数多くの分子 細胞標的が同定された 6). 現在, それらに対する治療薬のグローバル臨床試験が複数進行中で, 日本も多くの試験に参画してい 1868 日本内科学会雑誌 105 巻 9 号

第 113 回日本内科学会講演会 結実する内科学の挑戦 ~ 今, そしてこれから ~ る. 早期の適切なタイミングで分子標的療法を実践することで, これまで難治性病態であった SScに対する有効な治療法が近い将来に実現するかもしれない.SSc 診療が新たなステージに入ったことは間違いない. おわりに ACR/EULAR 分類基準やVEDOSSの概念が定着することでSScの早期診断が広く普及し, さらに 分子標的薬による早期介入が実現すれば治療成績の飛躍的な向上が期待できる. そのためには, 実地医家によるRaynaud 現象や手指腫脹を有する例の速やかな専門施設への紹介が必要不可欠である. 著者の COI(conflicts of interest) 開示 : 桑名正隆 ; 講演料 ( アクテリオンファーマシューティカルズジャパン, 小野薬品工業, ファイザー ), 研究費 助成金 ( アステラス製薬, 小野薬品工業 ), 寄附金 ( アクテリオンファーマシューティカルズジャパン, 小野薬品工業, 第一三共, 田辺三菱製薬, ファイザー ) 文献 1 ) Subcommittee for scleroderma criteria of the American Rheumatism Association Diagnostic and Therapeutic Criteria Committee : Preliminary criteria for the classification of systemic sclerosis(scleroderma). Arthritis Rheum 23 : 581 590, 1980. 2 ) Matucci-Cerinic M, et al : The challenge of early systemic sclerosis for the EULAR Scleroderma Trial and Research group(eustar)community. It is time to cut the Gordian knot and develop a prevention or rescue strategy. Ann Rheum Dis 68 : 1377 1380, 2009. 3 ) van den Hoogan F, et al : 2013 classification criteria for systemic sclerosis : an American College of Rheumatology/European League against Rheumatism collaborative initiative. Arthritis Rheum 65 : 2737 2747, 2013. 4 ) Koenig M, et al : Autoantibodies and microvascular damage are independent predictive factors for the progression of Raynaud s phenomenon to systemic sclerosis : a twenty-year prospective study of 586 patients, with validation of proposed criteria for early systemic sclerosis. Arthritis Rheum 58 : 3902 3912, 2008. 5 ) Khanna D, Denton CP : Evidence-based management of rapidly progressing systemic sclerosis. Best Pract Res Clin Rheumatol 24 : 387 400, 2010. 6 ) 桑名正隆 : 強皮症における分子標的治療の可能性. リウマチ科 55 : 292 297, 2016. 日本内科学会雑誌 105 巻 9 号 1869