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平成 27 年関東 東北水害鬼怒川氾濫による常総市周辺の浸水深分布調査 ( 速報 ) 平成 27 年 9 月 25 日京都大学防災研究所佐山敬洋 1. 本報の目的平成 27 年 9 月 9 日 10 時過ぎに愛知県知多半島に上陸した台風 18 号と その後の温帯低気圧の影響で 関東地方と東北地方を中心に断続的に記録的大雨が降った 鬼怒川上流域の日光市今市地点では 9 月 7 日から 10 日までの総雨量が 647 mm に達し 9 月 10 日午前 6 時過ぎに鬼怒川左岸 25.35 k 付近 ( 茨城県常総市若宮戸 ) で越水が発生 同日 12 時 50 分に鬼怒川左岸 21k 付近 ( 茨城県常総市三坂町 ) で堤防が決壊した その結果 鬼怒川と小貝川に囲まれた常総市の約 40 km 2 の範囲で大規模な浸水被害が発生した この災害を受け 筆者は 9 月 12 日に現地の状況を視察し 15 日から 16 日に高性能 GPS を用いた浸水痕跡の標高を 35 地点で計測した またピーク時の浸水位を空間的に内挿し 国土地理院の数値標高モデルから得られる標高を差し引くことによって 最大浸水深の空間分布を推定した 本報は 常総市周辺の浸水状況を把握し 今後の浸水解析等の検証に資する情報を提供することを目的として 計測データと浸水深分布の想定結果を速報的に報告するものである 2. 計測方法浸水痕跡の標高 ( 以下 浸水位 ) は GPS で各地点の路盤高を計測し そこから浸水痕跡までの比高を巻尺で直接計測することによって計測した 本調査では TOPCON 社の HiPerV(GGDM 型 )2 周波 GNSS( 全世界的衛星測位システム ) 受信機 1) を使用しており 受信機単独で水平 垂直方向ともに約数 cm の精度注 1) で計測が可能となる 現地計測は 9 月 15 日から 16 日の二日間で実施した まず浸水域の境界に沿って 20 地点で浸水位を計測したうえで 市街域で浸水深の大きい水海道地区や 破堤 越水が発生した三坂町 若宮戸地区など全 35 地点で浸水位を計測した 3. 浸水深分布の推定方法浸水位の計測結果から浸水域及び浸水深の空間分布を推定する手順を以下に示す 本解析には ArcGIS ver10.2.2 を用いて 平面直角座標系 (9 系 ) でデータを整理した (1) 国土地理院が提供する航空レーザ測量による数値標高モデル (5 m 空間分解能 ) をダウンロードし 図 1(a) に示す地域を切り出す 注 1) 公称精度 : 水平方向 :(10 mm + 1.0 ppm D) m.s.e., 垂直方向 :(15 mm + 1.0 ppm D) m.s.e., D: 測定距離 1

(a) (b) (c) (d) 図 1 浸水深分布の推定手順 :(a) 5m 空間分解能の数値標高モデル (b) 35 地点の計測浸水位とその空 間内挿 (c) 浸水位 - 標高 ( 単位はいずれも [m]) (d) 本解析の対象領域マスク この数値標高モデルは 航空機に搭載したレーザスキャナから計測して得られた高精度のメッシュ標高情報であり 高さの精度は 標準偏差で 0.3 m 以内である 1) 35 地点で計測したピーク浸水痕跡の標高値 ( 浸水位 ) を空間内挿する ( 図 1(b)) 本報では ArcGIS に搭載される IDW(Inverse Distance Weighted) による空間内挿を採用し 内挿のためのパラメータ値はデフォルトの値を用いた 2) 図 1(b) の浸水位の空間分布から図 1(a) の標高を差し引いて浸水深の空間分布を求める ( 図 1(c)) この段階では 浸水していない地域は負の値となり また鬼怒川右岸のように今回の計測対象外で かつ実際には浸水していない地域でも正の値となっているので注意が必要である 3) 鬼怒川と小貝川に囲まれた本解析の対象領域を示すマスク ( 図 1(d)) を作成し 図 1(c) で対象領域外及び対象領域内で値が負の場所を除去し 最大浸水深の空間分布を得る 4. 浸水深分布の推定結果 図 2に浸水深分布の推定結果を示す 全体的な傾向として 常総市の南東部 平町周辺の水田地帯の浸水深が大きく 深いところでは約 3.8 m に達する また鬼怒川 小貝川側沿いは 自然堤防上に立地する集落が多く その背後にある水田地帯に比べて相対的に浸水深が小さいことが分かる ただし 水海道の市街地などでも 1~2 m 程度の浸水域が広がっている 以下 南部から順に浸水深分布の拡大図を図 3から図 6に示す 2

若宮戸越水区間 原宿 三坂町破堤地点 推定浸水深 [m] 鬼怒川 小貝川 平町 常総市役所 ( 水海道地区 ) 2 km 図 2 最大浸水深分布の推定結果 3

(a) (b) (c*) (d) 測点 24 図 3 最大浸水深分布の推定結果 ( 南部 : 水海道周辺 )( 凡例は図 2 と同じ ) (a): 新八間堀川 (b) 水海道本町 (c*) 平町 (d) 小貝川堤防大和橋付近より ( 写真は 9 月 12 日の調査時に撮影 * の写真は 9 月 15 もしくは 16 日の計測時に撮影 ) 4

東町 国道 294 (a) (b) 図 4 最大浸水深分布の推定結果 ( 中南部 )( 凡例は図 2 と同じ ) (a) (b): 水海道有料道路の関東鉄道常総線高架橋から南方を撮影 (9 月 12 日 ) 図 3に示す水海道周辺では 水海道本町の商店街 ( 図 3(b)) などで浸水深が約 1.8~2 m に達するなど市街地の被害が大きい 水海道地区には東西方向に新八間堀川 ( 図 3(a)) が流れており 12 日の調査時点では 国交省によるポンプ排水も含めて この河川が氾濫水を 5

(a) 測点 14 三坂町破堤地点 測点 33 (b) (c*) 図 5 最大浸水深分布の推定結果 ( 中北部 : 三坂町周辺 )( 凡例は図 2 と同じ ) (a) (b) 破堤地点周辺 (c*) 測点 33 周辺 ( 写真は 9 月 12 日の調査時に撮影 * の写真は 9 月 15 もしくは 16 日の計測時に撮影 ) 6

(a*) 1 m 測点 12 図 6 最大浸水深分布の推定結果 ( 北部 : 若宮戸 原宿周辺 )( 凡例は図 2 と同じ ) (a*) 測点の店舗浸水 (* の写真は 9 月 15 もしくは 16 日の計測時に撮影 ) 鬼怒川に排水する役割を果たしていた また図中東側でみられるように 今回の浸水では 小貝川の堤防付近まで浸水が発生しており 図 3(d) に示す大和橋付近の集落でも浸水深は 1.6 m 程度と推定された なお 浸水域の南限は つくばみらい市の北部であり 測点 24 の周辺と想定される 図 3より北側の図 4の範囲では 小貝川沿いの東町の浸水深分布が特徴的である この地区の西側には 小貝川旧河道の自然堤防と思しき微高地があり この地形が鬼怒川からの氾濫水の大量流入を防いだものと考えられる 図 1(b) に示した浸水位の空間分布をみても この地域の浸水位は周囲より低くなっていることが分かる その他 図 4の範囲の国 7

道 294 上では 北部の浸水深が 1.0~1.2 m 程度 南部が 1.6~1.8 m 程度と推定された 図 5は三坂町の破堤地点を含む領域の想定浸水深分布である 破堤周辺の浸水状況については 測点 14 や 33 の計測が周囲の状況を概ね代表していると考えられ その地域の浸水深は 0.3~0.8 m 程度と推定される ただし 図 5(a) や図 5(b) に示すような破堤地点近傍の浸水深については 復旧工事などの影響で今回は計測を実施できていないため 局所的にはそれ以上に浸水深が大きい場所もあると考えられる 破堤直近で浸水なしと判読されているのも同じ理由による また三坂町の破堤地点周囲は図 1(a) からも明らかなように周囲に比べてやや標高が高い その結果 破堤近傍の局所的な現象を除き 浸水深は相対的に小さく 一方で早い流速がこの地域に甚大な被害をもたらしたものと考えられる 対象地域の最北部に位置する図 6の範囲では 若宮戸や原宿地区などで浸水深が大きく 例えば図 6(a*) に示す測点 12 の店舗でも 1 m の浸水が確認された 対象地域の北東部に位置する水田域は 本報の推定結果によれば 0.3~0.5 m 程度の浅い浸水域が広がっているものの この地域では明確な浸水痕跡は確認されなかった 国土地理院によるヘリコプター空撮による推定結果 2) でも この地域は浸水なしと判読されており 本解析の結果がこの地域の浸水域を過大に評価している可能性がある 5. まとめ本報は 平成 27 年 9 月の関東 東北水害のうち 鬼怒川の越流 破堤氾濫に伴う常総市周辺の被害に焦点を当て その浸水深分布を調査した内容を報告した 高性能 GPS で 35 地点の浸水痕跡の標高を計測し 数値標高モデルをもとに 浸水深の空間分布を推定した 本分析の結果 常総市の南東部に広がる水田地帯の浸水深が大きく 深いところでは約 3.8 m に達することが分かった また鬼怒川 小貝川側沿いは 自然堤防上に立地する集落も多く その背後にある水田地帯に比べて相対的に浸水深は小さくなっていた ただし 水海道の市街地などでも 1~2 m 程度の浸水域が広がるなど 広域かつ甚大な被害の様子が伺えた 今後 この計測結果から越流 破堤による氾濫量の推定を行う予定である また計測結果や浸水深分布の推定結果が 今回の水害の実態解明や 解析等の検証の一助になればと考え 速報値としてそのデータをホームページ等で公開予定である 末尾ですが 今回の災害で被害を受けた地域の早い復旧 復興を祈念します 参考 関連情報 1)TOPCON 社 :2 周波 GNSS 受信機 http://www.topcon.co.jp/positioning/products/product/gnss/2gnss_hiper_v.html 2) 国土地理院 : 平成 27 年 9 月関東 東北豪雨の情報 http://www.gsi.go.jp/bousai/h27.taihuu18gou.html 3) 土木学会水害対策小委員会 https://ja-jp.facebook.com/jscesuigai 4) 芳村ほか : 平成 27 年 9 月関東 東北豪雨による鬼怒川洪水に関する調査 8

表 1 浸水位計測結果 (9 系平面直角座標系 ) 単位 [m] ID 東方向位置 北方向位置 基準地盤高 痕跡水深 痕跡水位 注 2) 2 15415.177 2427.188 12.386 1.55 13.94 3 15489.513 2332.697 11.813 2.05 13.86 4 16618.534 3079.201 12.801 1.06 13.86 5 17222.318 4454.330 12.367 1.55 13.92 6 16485.177 5370.565 12.458 注 3) -0.10 12.36 7 14865.443 7137.552 14.356 0.00 14.36 8 14141.183 8556.435 12.442 2.10 14.54 9 13659.717 12157.112 15.496 0.00 15.50 10 13690.757 15010.631 16.123 0.00 16.12 11 11870.982 15478.210 17.564 1.07 18.63 12 11932.810 14555.147 17.624 1.00 18.62 13 12989.238 12445.285 15.399 0.78 16.18 14 12898.346 11361.144 15.327 0.55 15.88 15 13074.847 10538.849 14.399 0.74 15.14 16 14093.662 7539.778 13.006 1.31 14.32 17 13368.004 6777.943 14.019 0.45 14.47 18 14120.602 5106.026 13.731 0.53 14.26 19 14323.277 3956.365 13.152 1.05 14.20 20 14793.192 2329.529 13.111 0.70 13.81 21 13885.851 1775.488 11.086 1.22 12.31 22 13835.727 832.690 10.676 1.21 11.89 23 13574.989 171.420 11.627 0.00 11.63 24 13571.714-677.926 11.815 0.00 11.82 25 13116.622 0.459 11.334 0.54 11.87 26 13787.509 1886.190 10.982 1.40 12.38 27 14101.528 2522.054 13.682 0.20 13.88 28 14211.185 3084.543 12.741 1.50 14.24 29 16132.423 3336.467 11.247 2.60 13.85 30 17267.603 3931.546 11.680 2.23 13.91 31 16798.756 5410.412 12.330 0.00 12.33 32 14772.665 8425.263 14.384 0.00 14.38 33 12077.893 10289.591 15.203 0.48 15.68 34 12422.305 13019.200 16.608 0.30 16.91 35 11313.219 15861.210 17.918 1.00 18.92 36 11053.597 15274.423 18.318 0.98 19.30 注 2)ID は計測の都合上 2 から始まる 注 3)ID6 の痕跡水深 (-0.1 m) は 基準地盤高より 0.1 m 低い箇所で痕跡水位が確認されたことを意味する 9