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日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

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図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

政策課題分析シリーズ16(付注)

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市報2016年3月号-10

2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

2019年度はマクロ経済スライド実施見込み

- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ


自動的に反映させないのは133 社 ( 支払原資を社内で準備している189 社の70.4%) で そのうち算定基礎は賃金改定とは連動しないのが123 社 (133 社の92.5%) となっている 製造業では 改定結果を算定基礎に自動的に反映させるのは26 社 ( 支払原資を社内で準備している103

①公表資料本文【ワード軽量化版】11月8日手直し版【1025部長レク⑤後】平成30年61本文(元データあり・数値1004版)

みずほインサイト 日本経済 2017 年 1 月 17 日 中小企業における賃金上昇の背景労働需給のひっ迫で上昇するも持続性には課題 経済調査部エコノミスト 上里啓 大企業の賃金上昇率が伸び悩む一方 2016 年入

資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

第 Ⅰ 部本調査研究の背景と目的 第 1 節雇用確保措置の義務化と定着 1. 雇用確保措置の義務化 1990 年代後半になると 少子高齢化などを背景として 希望者全員が その意欲 能力に応じて65 歳まで働くことができる制度を普及することが 政策目標として掲げられた 高年齢者雇用安定法もこの動きを受

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26公表用 栃木局版(グラフあり)(最終版)

厚生年金の適用拡大を進めよ|第一生命経済研究所|星野卓也

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平成 27 年改正の概要 ( サマリー ) 一般労働者派遣事業 ( 許可制 ) 特定労働者派遣事業 ( 届出制 ) 26 業務 期間制限なし 26 業務以外 原則 1 年 意見聴取により最長 3 年まで 規定なし 規定なし 1. 許可制への統一 2. 派遣契約の期間制限について すべての労働者派遣事

社会保険料の賃金への影響について

みずほインサイト 政策 2013 年 2 月 20 日 希望者全員を 65 歳まで雇用義務化高齢者が活躍できる職場の創設と人材育成が課題 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 年 4 月 1 日に高年齢者雇用安

【No

親と同居の未婚者の最近の状況(2016 年)

2018年度の雇用動向に関する道内企業の意識調査

製造業の雇用削減が本格化し 失業率は5.4% に上昇 雇用情勢の悪化が足元で鮮明になっている 急激な減産局面に突入した昨年 11 月あたりから 派遣切り と言われるような非正規労働者を中心とした解雇に注目が集まったが 実際には今年 2 月まで雇用者数はほぼ横ばいで推移しており (2008 年平均は前

別紙2

佐藤委員提出資料

JILPT 高齢者の雇用 採用に関する調査結果 (2008) の概要 高齢者の雇用 採用に関する調査 (2008 年 8-9 月実施 ) 高年齢者雇用関連の法制度が整備される中で 企業の高齢者の雇用や採用に関する最近の取組等を把握 全国の常用雇用 50 人以上の民営企業 社を対象 有効回

2018年夏のボーナス見通し

労働市場分析レポート第 43 号平成 26 年 10 月 31 日 マッチング指標を用いたマッチング状況の分析 労働市場における労働力需給調整を評価するための指標として 就職率や充足率があるが 求人倍率が上昇する時には 就職率が上昇し充足率が低下するなどの動きがみられ それぞれ単独の利用には注意が必

3. 無期労働契約への転換後の労働条件無期労働契約に転換した後の職務 勤務地 賃金 労働時間等の労働条件は 労働協約 就業規則または個々の労働契約等に別段の定めがない限り 直前の有期労働契約と同一になるとされており 無期転換に当たって職務の内容などが変更されないにもかかわらず 無期転換後の労働条件を

1 なぜ 同一労働同一賃金 が導入されるのか? 総務省統計局労働力調査 ( 詳細集計 ) 平成 30 年 (2018 年 )7~9 月期平均 ( 速報 ) によると 非正規労働者数は 2,118 万人 ( 前年同期比 68 万人増加 ) 正規労働者数は 3,500 万人となっています 役員を除く雇用

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平均賃金を支払わなければならない この予告日数は平均賃金を支払った日数分短縮される ( 労基法 20 条 ) 3 試用期間中の労働者であっても 14 日を超えて雇用された場合は 上記 2の予告の手続きが必要である ( 労基法 21 条 ) 4 例外として 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の

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短時間 有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針 について ( 同一労働同一賃金ガイドライン ) 厚生労働省雇用環境 均等局有期 短時間労働課職業安定局需給調整事業課

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労働法制の動向

規定例 ( 育児 介護休業制度 ) 株式会社 と 労働組合は 育児 介護休業制度に関し 次 のとおり協定する ( 対象者 ) 育児休業の対象者は 生後満 歳に達しない子を養育するすべての従業員とする 2 介護休業の対象者は 介護を必要とする家族を持つすべての従業員とする 介護の対象となる家族の範囲は

2. 女性の労働力率の上昇要因 М 字カーブがほぼ解消しつつあるものの 3 歳代の女性の労働力率が上昇した主な要因は非正規雇用の増加である 217 年の女性の年齢階級別の労働力率の内訳をみると の労働力率 ( 年齢階級別の人口に占めるの割合 ) は25~29 歳をピークに低下しており 4 歳代以降は

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

事業活動の縮小に伴い雇用調整を行った事業主の方への給付金

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5. 退職一時金に係る就業規則のとりまとめ 退職一時金に係る就業規則の提供があった企業について 退職一時金制度の状況をとりまとめた なお 提供された就業規則を分析し 単純に集計したものであり 母集団に復元するなどの統計的な処理は行っていない 退職一時金の支給要件における勤続年数 退職一時金を支給する

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労働力調査(詳細集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の概要

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

160 パネリスト講演 1 労働市場における男女格差の現状と政策課題 川口章 同志社大学の川口です どうぞよろしくお願いします 日本の男女平等ランキング世界経済フォーラムの 世界ジェンダー ギャップレポート によると, 経済分野における日本の男女平等度は, 世界 142 か国のうち 102 位です

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

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定していました 平成 25 年 4 月 1 日施行の 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 では, 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが, 平成 25 年 4 月 1 日の改正法施行の際, 既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準につい

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2017年夏のボーナス見通し

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目次 問 1 労使合意による適用拡大とはどのようなものか 問 2 労使合意に必要となる働いている方々の 2 分の 1 以上の同意とは具体的にどのようなものか 問 3 事業主の合意は必要か 問 4 短時間労働者が 1 名でも社会保険の加入を希望した場合 合意に向けての労使の協議は必ず行う必要があるのか

毎月勤労統計調査 地方調査結果速報 平成30年11月分

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1. 調査の目的 物価モニター調査の概要 原油価格や為替レートなどの動向が生活関連物資等の価格に及ぼす影響 物価動向についての意識等を正確 迅速に把握し 消費者等へタイムリーな情報提供を行う ( 参考 )URL:

エコノミスト便り

被用者保険の被保険者の配偶者の位置付け 被用者保険の被保険者の配偶者が社会保険制度上どのような位置付けになるかは 1 まず 通常の労働者のおおむね 4 分の 3 以上就労している場合は 自ら被用者保険の被保険者となり 2 1 に該当しない年収 130 万円未満の者で 1 に扶養される配偶者が被用者保

2013 年 9 月 5 日一般財団法人南西地域産業活性化センター 沖縄県の最近の雇用情勢 沖縄県の労働力調査によると 2013 年 6 月の完全失業率は 4.9%( 原数値 ) で 前年同月と比べて 1.7% ポイント改善し 1995 年 6 月の 4.9% 以来 18 年ぶりに4% 台に低下した

RTE月次レポート企画

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

共通事項 1 キャリアアップ 管理者情報 ( 氏名 ): 役職 ( 配置日 ): 年月日 2 キャリアアップ管理者 の業務内容 ( 事業所情報欄 ) 3 事業主名 印 4 事業所住所 ( - ) 5 電話番号 ( ) - 6 担当者 7 奨励金対象労働者数 ( 全労働者数 ) 9 企業規模 ( 該当

問題の背景 高齢者を取り巻く状況の変化 少子高齢化の急速な進展 2015 年までの労働力人口の減少 厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げ 少なくとも 年金開始年齢までは働くことのできる 社会 制度づくり ( 企業への負担 ) 会社にとっての問題点 そしてベストな対策対策が必要に!! 2

拡大する企業収益景気回復に伴い 企業の経常利益は大幅に改善している 経常利益の増加を受け 当期純利益も増加が続き その分配先である内部留保 ( フロー ) が大きく増 双方の税 社会保険料の負担が増加傾向にあることを踏まえた上で 継続的な賃金上昇によって 可処分所得の増加を実現させて消費を喚起し 成

個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入状況

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( 様式第 1 号 ( 共通 )) 共通事項 1 キャリアアップ管理者 情報 ( 氏名 ): 役職 ( 配置日 ): 年月日 2 キャリアアップ管理者 の業務内容 ( 事業所情報欄 ) 3 事業主名 印 4 事業所住所 ( - ) 5 電話番号 ( ) - 6 担当者 7 企業全体で常時雇用する労働

事業所規模 5 人以上 (1 表 ) 月間現金給与額 産 業 ( 単位 : 円 %) 現金給与総額 きまって支給する給与 所定内給与 特別に支払われた給与 対前月増減差 対前年同月増減差 全国 ( 調査産業計 確報値 ) 262, , ,075

事業所規模 5 人以上 (1 表 ) 月間現金給与額 産 業 ( 単位 : 円 %) 現金給与総額 きまって支給する給与 所定内給与 特別に支払われた給与 対前月増減差 対前年同月増減差 全国 ( 調査産業計 確報値 ) 278, , ,036

経済見通し

タイトル

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

シラバス-マクロ経済学-

と思えばよい ) と短時間労働者 2) の区別に加えて, 職場での呼称別の設問を追加した いわゆる 正社員 ( 正式には事業所において正社員 正職員とする者 ) と 正社員 正職員以外 ( 正式には常用労働者のうち 正社員 正職員 以外の者 ) である 興味深いのは, それだけでなく雇用期間の定めの

目次 1. 被保険者資格の取得要件 ( 総論 ) 問 1 被用者保険の適用拡大の実施により 厚生年金保険 健康保険の被保険者資格の取得要件はどのようになるのか 問 2 施行日以降は 4 分の 3 基準をどのように判断するのか 問 2 の 2 就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間又は所定労働

ヒューマンタッチ総研 Monthly Report 平成 27 年 11 月 ヒューマンタッチ総研 Monthly Report 平成 27 年 11 月 ヒューマンタッチ総研レポートでは 建設業に特化して人材関連の様々な情報 最新の雇用関連データを月に 1 回のペー スで発信していきます ご愛読い

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<本調査研究の要旨>

第 50 号 2016 年 10 月 4 日 企業年金業務室 短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大及び厚生年金の標準報酬月額の下限拡大に伴う厚生年金基金への影響について 平成 28 年 9 月 30 日付で厚生労働省年金局から発出された通知 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

Transcription:

<No.> 人手不足にもかかわらず賃金の上昇ペースが鈍いのはなぜか 6 年 月 7 日調査部遠藤裕基 TL --7 -mail: y-endo@yokohama-ri.co.jp 要約 人手不足の状況が続いている割に労働者の基本給の上昇ペースは鈍い これは 相対的に賃金の低い非正規雇用が増加しているためであるが 加えて正社員の賃金が伸びにくくなっていることも一因として挙げられる この背景には 高齢化に伴う雇用延長 ( 延長 継続雇用など ) の影響などがあると考えられる 年齢とともに賃金が上昇していく年功賃金の下で高齢者の雇用延長が行われると 企業の人件費負担が重くなる このため 企業は年齢と賃金の連動性を緩める ( 年齢が上がってもかつてほど賃金を上昇させない ) ことで これに対応していると考えられる 少子高齢化が進み 社会保障の持続可能性が問われる中で この先も高齢者の雇用延長の動きがさらに拡大する (7 までの雇用延長の義務化など ) 公算が大きい 今後も正社員の賃金上昇のテンポは鈍いものとなろう. 伸び悩む正社員の基本給近年 人手不足の状況が続いている割に 基本給を示す所定内給与の上昇ペースは鈍い 年の有効求人倍率は. 倍と 年ぶりの高水準となっている ( 図表 ) その一方で 同年の所定内給与は前年比 +.% とゼロ % 台前半の伸びにとどまっている 年前の 99 年の所定内給与の伸び率が同 +.% であったことを踏まえると いかに足元で賃金が伸び悩んでいるかがわかる また 年 前年比 % - - 所定内給与 ( 左目盛 ) 図表 有効求人倍率と所定内給与前年比 有効求人倍率 ( 右目盛 ) 倍 季調済..8.6....8.6-99 年 99 999 7 ( 厚生労働省 一般職業紹介状況 毎月勤労統計 ).

代半ば以降 有効求人倍率の高さの割に 賃金が上昇しにくくなっていることも観察できる ( 注ここで所定内給与の前年比伸び率を 一般労働者 ( いわゆる正社員 ) ) の賃金変動要因 パ ( 注ートタイム労働者の賃金変動要因 パートタイム比率の変動要因 ) に分けてみると 99 年台前半と比べて現在は の押し上げが弱く が押し下げ要因として働いていることが確認できる ( 図表 ) 本稿では 特にに焦点をあてて議論を進めていくことにする ( 注 ) ( 注 ) 毎月勤労統計調査では 一般労働者をパートタイム労働者以外の労働者と定義している パートタイム労働者とは 日の所定労働時間が一般の労働者 ( 調査票の記入要領では いわゆる 正規従業員 正社員 としている ) よりも短い又は 日の所定労働時間が一般の労働者と同じでも 週間の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない労働者を指す ( 注 ) 相対的に賃金水準の低いパートタイム労働者の増加は 平均としての 人あたり賃金にマイナスの影響を及ぼす ( 注 ) の背景分析については 経済のサービス化や女性の労働供給の増加など大きいテーマにもかかわるため 別稿に譲ることとしたい 前年比 % % ポイント 図表 所定内給与の寄与度分解 一般労働者の賃金変動寄与 パートタイム労働者の賃金変動寄与 パートタイム比率の変動寄与所定内給与前年比 - - 9 年 9 9 9 9 96 97 98 99 6 7 8 9 ( 注 ) パートタイム労働者の構成比変化の寄与がマイナスとなっている場合 パートタイム労働者比率の上昇が所定内給与の低下につながったことを示す 99 年以前の一般労働者とパートタイム労働者のデータは公表されていないため 99 年以前の寄与度を計算していない ( 厚生労働省 毎月勤労統計 より当社作成 ). 高齢化に伴う雇用延長の影響で賃金カーブがフラット ( 平坦 ) 化まず 正社員の基本給が 99 年以降どのように変化したのかをみていくことにする 賃金構造基 ( 注本統計調査の一般労働者 ) の賃金カーブをみると 年以降 賃金カーブのフラット ( 平坦 ) 化が進んでいることがわかる ( 図表 ) 賃金カーブとは 年齢( または勤続年数 ) とともに賃金がどのように上昇していくかを示した曲線である 日本は諸外国に比べ 賃金と年齢 ( または勤続年数 ) の連動性が高く こうした関係は年功賃金と表現されてきた この賃金の年功的な性格が薄まることを 賃金カーブのフラット化という 年代以降 年齢と賃金の連動性が徐々に緩やかとなり 年齢が上昇してもかつてほど賃金が上昇しない状況が広がりつつある こうした背景のつとして 高齢者の雇用延長 ( 延長 再雇用制度 ) の影響があると考えられる ( 注 ) 日本企業にとって は重要な概念である 通常 経済学では 企業の利潤最大化行動のもとで 賃金と生産性 ( 労働者の成果 ) は一致するとされている しかし 日本企業では ある一時点の賃金と生産性を取り出してもこうした関係が成り立っていないことが多い 図表 は 日本企業の賃金カーブと生産性の関係を示した概念図である ( 注 6) Bはある労働者の生産性 は賃金カーブを示している 若年期 ( 賃金カーブのCの期間 ) は 職業訓練期間であり 生産性が賃金を下回っているが 訓練後 ( 賃金カーブのCの期間 ) は生産性が賃金を上回るようになる そして

高年期 ( 賃金カーブの の期間 ) には 再び賃金が生産性を上回り 時にを受け取り労働者は退職することになる ここで重要なことは 一時点の賃金と生産性を取り出しても両者は一致していないものの 入社からまでの長期では 賃金と生産性が一致しているということである すなわち 賃金と生産性の関係は以下の式のようになる R 賃金 + = 生産性 R ( ただし Rは年齢 ) 企業は 賃金カーブのCの期間に生産性より低い賃金を払い 後年 生産性に見合う残りの部分の賃金 ( 含む ) を労働者に後払いする こうした雇用制度の元で 解雇されたり 転職したりすると 労働者は後払い分の賃金の一部を獲得できなくなってしまう このため 労働者は解雇されないようにまじめに職務に取り組むとともに 極力転職をしないようにすることが最適な行動となる を含む後払い賃金制度を導入することで 企業は労働者の不正や職務怠慢 転職を防ぐことができるというメリットがある こうした賃金体系に起因する長期の勤続が日本型雇用慣行 ( 終身雇用 年功賃金 ) の背景にある 図表 賃金カーブのフラット化が進む 図表 賃金と生産性の概念図 ~ = 所定内給与 ( 一般労働者 ) 8 6 ~ ~9 ~ ~9 ( 厚生労働省 賃金構造基本調査 ) ~ ~9 ~ 99 年 年 年 年 ~9 C B 6 年齢 日本型雇用慣行を前提として 6 への延長 後の再雇用 のいずれかの選択が義務化された場合 どのようなことが起こるだろうか まず のケースを考える この状況を図示したのが図表 である のように が 6 から 6 に延長されると 賃金カーブの終点はから に移動する 企業はを延長した期間だけ 生産性を上回る賃金を支払うことになる ( 前述の式では左辺 > 右辺 ) この結果 長期でみた場合の 賃金 = 生産性 が崩れ 企業の人件費負担が増すことになる これを調整するには賃金カーブをフラット化 ( ) し 前述の式の左辺と右辺が再びイコールになるように調整すればよい 次に 6 でいったんとし その後再雇用という形を考える この際 再雇用期間の賃金と生産性をリンクさせれば 前述の式の等号は崩れない つまり 企業が賃金カーブを図表 6の

Iのように変更するということである ただ 実際には 処遇 役割の変化に起因するモチベーションの低下や 体力的な問題により 生産性は低下し 賃金も大幅に下がることになる これは 6 以降の賃金と生産性がJKへと下方シフトすることを示している ただ 年金の支給開始年齢が 6 へと引き上げられる中で この賃金水準では生活が成り立たなくなる恐れがあり 企業は高齢労働者の生活への配慮から ある程度生産性を上回る賃金を支払わざるを得なくなる (JK LM) これにより 高齢労働者は生産性を上回る賃金を受け取ることになるため 企業は 6 以下の労働者の賃金カーブをフラット化させることで その原資を捻出することが合理的な選択となる 結果として 新たな賃金カーブは赤線 ( LM) として示されることになる こうした企業の行動は賃金と生産性を対応させるという意味で合理的な行動なのだが 図らずも賃金カーブに下押し圧力をかけ 賃金の上昇テンポを抑える ( 賃金の上方硬直性を生み出す ) ことになる なお こうした賃金体系の変更は中長期の人件費に大きな影響を及ぼすため 短期的な業績変動の影響をほとんど受けないと考えられる ( 注 7) アベノミクス開始以降の大幅な円安で企業業績が急回復したにも関わらず 正社員の賃金の上昇テンポが相変わらず鈍い背景にはこうした雇用延長の影響があると推察される 図表 賃金と生産性の概念図 図表 6 賃金と生産性の概念図 C B 延長のケース B C 再雇用のケース I L M J K 6 6 年齢 6 6 年齢 ( 注 ) は6 時点で支給される ( 注 ) 賃金構造基本調査における労働者は常用労働者と臨時労働者に分けられる ( 両労働者の具体的な定義については賃金構造基本調査の 調査の概要 を参照されたい ) 常用労働者はさらに一般労働者と短時間労働者 ( 日の所定労働時間が一般の労働者よりも短い又は 日の所定労働時間が一般の労働者と同じでも 週の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない労働者 ) に区分され 一般労働者には 正社員 正職員と正社員 正職員以外の両方が含まれている 年以降の賃金構造基本統計調査では正社員 正職員 ( 一般労働者の正社員 正職員 + 短時間労働者の正社員 正職員 ) のデータが公表されているが それより前は正社員 正職員 ( 一般労働者の正社員 正職員 + 短時間労働者の正社員 正職員 ) のデータが公表されていない ( 年より前は短時間労働者の正社員 正職員も含んだ正社員 正職員のデータが存在しない ) 本稿では 99 年台以降の正社員の賃金の動向を分析するため 一般労働者の賃金が正社員の賃金動向を反映していると仮定して分析を進めることにする なお 年時点で 民営事業所の一般労働者のうち 約 8% が正社員 正職員である ( 注 ) 及び継続雇用に関わる法律を簡単に振り返ると 986 年に 高齢者等の雇用の安定等に関する法律 ( 高年齢者雇用安定法 6 が努力義務 ) が成立し 99 年の改正で 6 が義務化 ( 施行は 998 年 ) された そして 年の改正では 6 までの雇用確保措置 ( 具体的には 年齢の 6 への引き上げ 継続雇用制度の導入 廃止のいずれかの実施 ) が努力義務化され 年の改正では 6 までの雇用確保措置が段階的

に義務化された さらに 年改正では 6 までの希望者全員の継続雇用を実施することが義務付けられた ( 労使の合意で継続雇用対象者を限定することを禁止 年 月施行 年まで段階的に実施 ) ( 注 6) ラジアーの後払い賃金仮説を説明した図表である 本文での説明は清家篤 () 労働経済学 東洋経済新報社に依っている ( 注 7) 図表 6 において 仮に賃金カーブを下方シフトさせなかったとすると 以降の 賃金 > 生産性 の部分は この賃金体系が存在する限り 企業の負担として残り続けることになる 国内外で激しい競争を行っている企業が 賃金 > 生産性 を中長期で放置するとは考えにくい. 高齢化が進む中で今後も賃金の上昇テンポは鈍いものに厚生労働省 高年齢者の雇用状況 をみると 改正高年齢者雇用安定法 ( 年 ) が施行された 年に希望者全員が 6 以上まで働ける企業の割合が大きく上昇し 年には約 7 割に達している ( 図表 7) 多くの企業で継続雇用制度( 後再雇用 ) を中心に雇用延長の動きが拡大しており こうした点が賃金の上昇テンポを抑えている可能性が指摘できる 少子高齢化が進み 社会保障の持続可能性が問われる中で 先行き雇用延長の動きがさらに拡大する (7 までの雇用延長の義務化など ) 可能性が高い こうした中では 賃金カーブに下押し圧力がかかりやすい状況が続くとみられ 今後も正社員の賃金の上昇テンポは鈍いものにとどまる恐れがある点には注意が必要であろう 図表 7 改正高年齢者雇用安定法 ( 年 ) を受けて企業の雇用確保措置が拡大 % % ポイント 8 7 希望者全員 6 以上の継続雇用制度 6 8.8% 希望者全員が 6 以上まで働ける企業の割合 66.% 7.% 7.% 6 以上 の廃止 年 ( 注 ) 各年の6 月 日の数値 ~は 希望者全員が6 以上まで働ける企業 が実施した雇用確保措置 ( 厚生労働省 高年齢者の雇用状況 ) 本レポートの目的は情報の提供であり 売買の勧誘ではありません 本レポートに記載されている情報は 浜銀総合研究所 調査部が信頼できると考える情報源に基づいたものですが その正確性 完全性を保証するものではありません